【寓話】魔剣 |
一級の剣士と一級の鍛冶屋が居た。
二人は仲が良く、
或る時、剣士が鍛冶屋に
「魂の篭った一振りを頼む」
と言うと、
鍛冶屋は快く引き受けた。
鍛冶屋は親友の為に命を削るように
剣を作った。
が、
鞘を作る前に死んでしまった。
剣士は親友の死を悼み、
「エクスカリバーよ、
吾はもう此処へは戻らぬ。
戦と共に生き、戦士として死ぬと決めた。
剣よ、主が名はエクスカリバー。
主が鞘に戻る時は吾の死だ」
と、剣に親友の名を刻んだ。
斯くして、剣士と名剣・エクスカリバーの伝説が幕を開ける。
剣士は数々の功績を打ち上げ、
やがて、国に平和を齎した。
英雄は、聖剣・エクスカリバーに問う。
「吾はもうこの国には必要ないようだ。
エクスカリバーよ、主なら何を望む?」
「鞘を」
ふいに、答える筈のない愛剣が応えた。
「私には帰る場所がありませぬ。」
剣士は驚いたが、不思議と違和感は湧かなかった。
「そうだな」
剣士は笑い、愛剣を自らの胸に突き刺した。
“主が鞘に戻る時は吾の死だ”
誰も知らない崖の上に
突き刺さった剣があった。
良く見るとその下には誰とも知れない躯があった。
やがて、躯は風に溶け込み、
其処には剣だけが取り残された。
英雄に憧れる少年は
或る時、何かに呼ばれるように其処へ向かった。
其処には剣があった。
崖に突き立てられた剣は少年に問う。
「英雄になりたいか?」
と。