PEACE ENDS 第2話
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〜エピソードU〜:火の粒:

 

 「おはよう」

 その高く澄んだ声は今日も健在だった。

 

 朝起きるとそこに、メーシャとガンズさんの姿は無かった。テーブルに1人分の食事が用意されていたが…ひとまずそれを無視し、外に出てみることにする。玄関にあたるであろう扉を開くと、冷たい風がボクの頬をたたいた。

 「…すごい……」

 この村は山の上にあるようだ。小屋のすぐ目の前には崖があり、そこからは連なった山脈がこれでもかというほどよく見える。崖の下には海が広がり、世間でいうところの絶景というやつだった。標高が高いせいか、空に雲はなく澄み渡った青空が広がっている。雲は下に見えるのだ。この寒さは標高が高いせいだろう。

 ボクはひとまず大きく胸いっぱいに新鮮な空気を吸い、ゆっくりと吐き出した。肺が凍るかと思った。次からは気を付けよう…。と、いうところで横からメーシャに話しかけられたのだ。

すでに、あれから3日の時が流れていた。

 「おはよう」

 ボクは聞こえるだろう程度の大きさの返事を返した。

 「怪我はもう大丈夫なの?」

 ボクはかるく体を動かしてみる。3日前よりはずっと楽にはなったが、まだ痛みが残っている。メーシャと別れ、体を慣らすためにこの村…マズの村を探索してみることにした。

 この村は東西に長く山の斜面をそのままに、切り開いてつくられたようだ。おかげで坂が多く、しかも急だ。この体ではかなりつらい。しばらく歩くと、市場らしき場所に出た。まだ早朝のはずだが人が多く、賑わいをみせていた。市場に入ると聞き覚えのある声が市場中に響いていた。

 「さあ買ってけ買ってけ!今日も大量だからなっ!売れ残るとこっちも困るんだ!!さあ買った買ったぁ!」

 …まぁ、あの人しかいないだろう。予想するまでもない。

 「よう少年!もう起きて大丈夫なのか?」

 ボクは気付かれないよう気配を消していたのだが…、あっさりと見つかってしまった。

 「ど…どうも。」

 ボクは軽く会釈し、通り過ぎようとしたところ、

 「おい少年。ちょっとこっちに来い」

 ガンズさんは大きく手招きをしてきた。行くと、小さな布の袋を投げ渡された。予想以上にそれは重く、そして硬かった。中を見るといくつか銅の硬貨が入っていた。

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 「それは俺からの駄賃だな!この先をずっと下っていくと港に着く。そこなら大抵の生活に必要なものが買えるだろ。俺はまだ仕事が残っているから一緒には行けないが、それで好きなものを買うといい。」

 そういうと、ガンズは値引交渉をしてくる客の相手に戻っていった。特に行くあてのないボクは言われたとおり、港へと足を運ぶことにした。

 

 「…やっと着いた!?」

 ボクがやっとと言ったのは道が荒く、坂が急だったからなどではない。ここに来るまでに歩いた距離が予想以上に長かったからだ。4,5kmはあったはずだ。村から港まではゴンドラで行くこともできたのだが、リハビリも兼ねて徒歩で向かったのが間違いだった。太陽はすでに頭の上あたりまで登っており、気温も寒いと感じないくらいにまで上がっていた。ふと、今歩いてきた道に振り返ると、道はずっと上から続いており、遠くに米粒ほどの大きさのマズの村をみることができた。

 着いたそこは港とはいうものの、漁船は6隻。海岸に木を組み合わせた簡単な桟橋を架けただけの、簡単なものだった。港近くには建物が密集しているが、今は人が4、5人いるだけであった。雑貨屋、呉服屋、武器屋…その他いろいろな店があり、ガンズの言うとおり一通りは何でも揃いそうだった。

 ボクはその中の一軒に興味をそそられた。

「…見えざる店?」

 看板にはそう書かれていた。ちなみに店はバッチリ見えている。

 「営業中…」

 入口にそう書かれた札があり、中に入ってみることにした。

 

 木のきしむ音とともにドアが開いた。中に入ってみるが…明かりはついていない。

本当に営業中なのだろうか。窓には板が打ち付けられており、中は薄暗く自分の手元さえ見えない。突然、後ろでドアが閉まる音が聞こえた。だがボクが気になったことはドアが閉まったことじゃない。そのあとに聞こえた鍵が閉まる様な音だ。まさかとは思うが確かめない訳にはいかない…。

 

 …閉じ込められた。ドアノブをどんなに捻ろうが、押しても、引いても、横に開くこともなかった。ボクの頭にドアを蹴破ってしまおうかという考えがよぎったその時…

 「おやめなさい。」

 不意に後ろから声をかけられた。その声はかすかに震え、年代を感じさせる深い声だった。振り向くとそこに、一人の老人が姿を現した。質素な服を着こなし、顎には口が見えなくなるほどの髭を蓄え、長くぼさぼさの髪…それらはすべて白く染まっていた。70過ぎと思われる老人はさらに近づき、一言ささやいた。

 「やっと見つけましたぞ…王子。」

 おう…じ?ボクが?

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 明らかに老人はボクに話しかけた。そのはずだ。ここにはボクと老人の二人しかいない。老人は部屋の隅にあるスイッチを押すと、天井に釣り下がっている裸の電球が部屋を薄暗く照らし始めた。そのおかげで店内の様子が少しずつ分かるようになってきた。店内は一見すると骨董品屋のような店だった。だがどれも薄くほこりをかぶっている。

 「こちらです、王子。」

 「あの、王子って…ボクのことですか?」

 ボクが当然のようにそう質問すると、

 「何を言っているんですか王子。じいの顔を見忘れたのですか!?ささっ、つまらないこと言っていないでついてきてください!」

 当然のようにそう返された。ボクは頭を抱えながらも自らをじいと呼称した老人の後に続いた。店の奥には下へと続く階段があり、それを降りるとそこに大きな扉…というより門に近いものが壁に穴をあけていた。門の前には布のコートを羽織った男性が一人いた。老人はその男性に二言、三言告げると、男性がボクを一瞬見た。その目はまるでどこかの恋する乙女のように輝いていた。その後男性は勢いよく姿勢を正し、大きく敬礼。その姿にボクは一瞬あわててしまった。人に挨拶をされるのと、敬礼をされるのではずいぶんと違う。

 「ど、どうも…」

 そう返すのがやっとだった。そしてこれは、間違った返事の仕方だっただろう。が、そんなことを気にしている時間を老人はくれなかった。老人はその門の奥にボクを導いた。

 

 「これは…馬?」

 門をくぐってみるとそこには門の前にいた男性と同じような格好をした数人の人影がいた。暗くてよくは見えないが、どうやらボクに、これまた門の前の男性と同じような目を向けているのだとものすごく肌で感じた。さらにその奥には何やら動物が何頭かいるようだった。ボクはその動物に歩み寄り、手で触れてみたのだ。

 「その通りでございます。王子。その馬で皆のところに帰りますぞ。」

 「皆のところ?」

 「はい。皆、王子のお帰りをお待ちですぞ。」

 これは困った。このままでは拉致されかねない。そもそも自分の立場さえよくわかってはいないのだ。この状況をうまく飲み込めない。誰かわかる人がいるならば説明して欲しいものだ。

 …駄目もとで聞いてみるか…。

 「あの…おじいさん。ボクはいったい誰ですか?」

 こんな質問の仕方でよかったのだろうか…。

 「誰、と申されましても…我がクランクウォーム王国の次期国王ですが?何を今更お尋ねに。」

 「ボクは記憶をなくしていて自分の名前さえ憶えていないのです。」

 クランクウォーム王国…またも聞き覚えのない地名だ。そもそも何も覚えていないのだが。

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 「なんとっ!記憶が!?これは一大事ですぞ!」

 まぁ当然の反応だろう。

 「…さて王子。私めはもうその手には乗りませんぞ。さ、帰路につきましょう。」

 …前言撤回。

 ボクは老人に無理やり馬に乗せられた。この地下室には出口がもう一つあり、それは入ってきた門よりも一回りも二回りも大きい門だった。それが男性数人で開かれ、暗闇に慣れた目にはとてつもなく眩しい光が入ってきた。ようやく目が慣れると上に続く坂が見えた。その場にいる男性、それから老人がそれぞれ馬にまたがり、老人が出発の合図を出した。男性が乗った馬が先に飛び出し、老人に急かされながらボクもそのあとに続き坂を駆け上がった。

 

 真昼の太陽に向かってボクは飛び出した。が、その光は黒い煙によって遮られた。焦げ臭い…。太陽の光が届かなくともその場は明るかった。港が…燃えてる。男性達は港の状況に驚き、そしてボクの周りに集まった。仮にもボクは王子という立場のようだから警護のためだろう。

 「これはいったい…。」

 言葉を発したのは老人だった。いつの間にこんなことになっていたんだ。ボクも驚きを隠せなかった。地下にいたのはほんの十分程度のことだ。こんな短時間で港全体が火事になることはまずありえない。だが、その事実がボクを混乱させていた。その時ボクは気が付いた。

 「人が…いない。」

 そう、その場には老人と男性達、ボクを除いて誰もいなかったのだ。どこかに避難したのだろうか。ふと地面をみると、ところどころに血だまりができているのがわかった。いったいこの港はどうなってしまっているのだろうか…。

 「王子、先を急いだほうがよさそうですな。」

 老人が口を開き、進む進路を指さした。それはマズの村の方角だった。…ボクは、見ないほうが良かったのかも知れない。その指のさす方向に米粒ほどの大きさの燃え盛る小さな村の姿を…。

                           エピソードU END

説明
引き続き、お楽しみくださいw 素人作品ですが(汗) 第3話の投稿までしばらくかかります 表紙ができたので再投稿です。
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小説 一人称 チート主人公 SFファンタジー 

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