とある科学の超電磁砲 上条さん家のコタツでみかん
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上条さん家のコタツでみかん

 

「コタツでみかん……ねえ」

 俺の出したちょっとした質問に対してビリビリ中学生御坂は大きく首を捻った。

「やっぱり暴力しかないんじゃないの?」

 天板の上にあごを乗せてだらしない格好を取るお嬢さまはのほほんとした表情で返答した。

「暴力って何でそんな物騒な単語がコタツの暖かさに弛緩しきったその顔から出てくるんですかっ!? 上条さん的には御坂さんのその隠しきれない危険性にびっくりですよ!」

 せっかくみんなでほのぼのした気分を味わおうと『こたつでみかんと言えば、何を連想する?』というまったりお題を出したのに。最初の回答からいきなり殺伐としたものになってしまった。

 

「じゃあ、次。姫神。みんなの気分が盛り上がるのをお願いしますよ」

「分かった」

 いつものように表情の変化に乏しい姫神が頷く。

 だが姫神は上条さん家のコタツに入ってから微動だにしていない。コイツがコタツの魔力に嵌ってしまっていることは間違いなかった。

 今の姫神ならみんなをプラスの方向に導いてくれるはず!

「コタツでみかん………………私も暴力しかないと思う」

「って、御坂と同じ回答かよっ!!」

 無表情なまま姫神から紡ぎ出された一言は御坂と全く同じものだった。

「どうして暴力なんて野蛮な回答が出てくるんだよ!?」

「私たちは拳を通じてしか分かり合えない……不器用な存在だから」

 姫神は無表情のまま顔を俺から逸らした。

「姫神や御坂はいつから武闘家に転向したんだよ!? せっかく上条さんが、あり得ない幸運を得て家族用の大きなコタツを福引きでゲットしたんだぜ。もっとその幸せをみんなで分かち合おうよ!」

 上条さんは商店街の福引きで2等を当てるという人生史上初の快挙を成し遂げた。

以前一度イタリア旅行が当たったような気もした。が、あれは不幸な目に遭うだけで観光さえもできなかったので幸運には数えない。

 そもそも今の俺がイタリア行きを選択した上条さんかどうかも怪しいのでとにかく却下だ。

 とにかく俺は今回の福引きで家族4人で同時に入ってもまだ余裕がある大型コタツを手にしたのだった。

「……招待してくれたのが私だけだったら、私は幸せを堪能したわよ」

 御坂はやたら不満そうな細目を俺にぶつけてくれる。一体何故なんだ?

「……せっかく上条くんと自宅デートだと思ったのに。プンプン」

 姫神も無表情なのだけど、微かに眉をしかめて怒っている。だから一体何故なんだ?

 

「ええいっ! こうなったらインデクッス。お前がこの流れを変えてくれっ!」

 先ほどから話し合いには参加せずに黙々とみかんを食べ続けていたインデックスに話を振ってみる。

 ちなみに現在の俺達の配置図はこんな感じだ。

 

 

     美

  |─────|

 姫|  み  |イ

  |─────|

     当

 

 

「コタツでみかんと言えば、何を連想するっ!?」

 さあ、お得意の食いしん坊キャラ属性を発揮して上条さんの部屋に笑いを渦巻かせてくれっ!

「コタツでみかん……だよね? とうまも残酷な質問をするよね。ドSだよ。さすが趣味は逝かれた女を殴ることですと即答するだけのことはあるんだよ」

 インデックスが敵と対峙している時のような真剣な表情をしてみせた。そして俺を正面から見据えて言い放った。

「そんなの、暴力しかないに決まっているんだよ」

 暴力という言葉を発するインデックスはとても悔しそうに見えた。

「って、どうしてインデックスまで暴力という結論に陥るのだかまるで分からないのですが……?」

 どうして3人の少女は全く同じ結論に達するのだろう?

 まったくもって謎だった。

 

 

 

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「何でコタツでみかんから暴力なんて連想が3人ともできるんだよ!?」

 普段あまり接点がないはずの3人の少女から同じ危険な答えを得るという謎。

 その謎によって上条さんの部屋の空気はだいぶギスギスしてきた。

「アンタ、本当に分からないの?」

 御坂が瞳を細めて俺を馬鹿にする瞳で見る。

「分からないから聞いてるんだよ」

「高校生のくせにそんなことも分からないなんて。仕方ないわね。説明してあげるわよ」

 御坂は大きくため息を吐いた。完全に上から目線。先生と生徒だ。

「それで御坂先生、説明をお願いします」

 半分自棄になったように御坂を先生と呼んでみる。

「よろしい。じゃあ説明してあげるわ」

 大きく頷いてみせる御坂。中学生をこのように増長させては後々世界の為に良くないと思いながらグッと堪えて話を聞く。

 

「コタツの上のみかんって、中央部に積んであるわよね?」

「普通はそうだよな」

 目の前のコタツ上の状況を確認する。

 我が家のビッグイーターによりだいぶ食われた。が、それでもみかんは山をなして中央部に聳えている。ちなみにこのみかんは父さんが送ってきてくれたもの。まだ2箱も残っている。みかんを処理したかったのが御坂達を家に招いた一番の理由だったりする。

「みかんを取るには各自が手を伸ばすしかないわよね」

「そうなるよな」

 このコタツは大型なので対岸にいる人間に物を手渡しすることが難しい。となると、必然的に各自がみかんに手を伸ばすことになる。

「みかんを取ろうとするタイミングが重なったら手と手が重なり合うわよね」

「まあそういうこともあるよな」

 確かに今日は目の前の3人の少女と手が重なり合う偶然が1度ずつ起きた。

「年頃の男女の手が重なり合えば当然いい雰囲気になるわよね?」

「そうかあ?」

 3人と手が重なりあった時のことを思い出す。

 

『何、みかん取るふりをして私の手を握ろうとしているのよ、この変態っ! スケベっ!』

 御坂には思い切り罵倒された。

『上条くん。それは……セクハラ。許されざる行為』

 姫神にはセクハラ呼ばわりされた。

『グヌヌヌヌ。このみかんはとうまには絶対に渡さないんだよっ! とうまのみかんはわたしのもの。わたしのみかんはわたしのものなんだよ!』

 インデックスには食欲とジャイアニズムを発揮された。

 

「いい雰囲気どころか、俺がちっとも大事に扱われていないという事実ばかりを確認した気がするんだが?」

 少なくとも俺の前方3方向に分かれてコタツに浸っている少女たちには御坂の言い分は通じない。

「とにかく! 年頃の男女の手が偶然重なり合ったらいい雰囲気になるのよっ!」

 御坂は大声で自説を押し通してしまった。

「それでコタツがあるのって室内じゃない」

「まあ、普通コタツを使うのは室内だよな」

 たまに雪国のかまくらの中でコタツに入っている人が放映されたりもするが、基本は室内設置だろう。

「しかも、女の子はコタツにすっぽり嵌って抜け出せない状態。言い直せば動けない状態じゃない」

「いや、出れば良いだけの話だろう」

「いい雰囲気で調子に乗った男の子がキスを求めてきても、女の子は逃げられないからおぞましさに震えながら唇を受け入れるしかないじゃない」

「だからコタツから出れば済むだけの問題だろうが」

 無理やりキスされそうなのにコタツから出ないって、どんだけコタツにのめり込んでいるんだよ?

 

「キスに成功して有頂天になった男の子は更に調子に乗って胸とか腰とか触ってくるじゃない」

「そんな男は滅多にいないと思うぞ」

 御坂の中の男像ってどんだけエロいんだ?

 上条さんはこんなにもストイックだというのに。

「でも、どんなにいやらしい魔の手に触れられようとも女の子は逃げられないじゃない」

「だから出ろよ、コタツを!」

 そこまで頑なにコタツを出ない理由は何なんだ?

「女の子の熱っぽい吐息に興奮した男の子は最後には女の子を押し倒してくるじゃない」

「それはもう犯罪だっ!」

「でも、押し倒されても膝から下がコタツ布団に覆われた状態だから女の子は逃げられないじゃない」

「それはコタツという名の手錠か鎖か?」

 御坂の考える男の子と女の子が怖すぎる。

「それで、コタツのせいで抵抗できない女の子は服を無理やり脱がされて、最後には泣きながら天井の染みの数をかぞえることになるでしょ。それがコタツでみかんな日常で起きる悲劇でしょ」

「コタツに入りながらでも携帯で警察は呼べるよな?」

 御坂の思考様式に合わせて反論してみる。

「馬鹿ね。襲われている真っ最中に警察を呼ぶ余裕なんてあるわけがないでしょ。少しは常識でものを考えなさいよ」

 御坂の軽蔑の瞳が突き刺さる。

「コタツを性犯罪の温床と述べるお前に常識を説かれるとはな……」

 とても理不尽なものを感じた。

 

「とにかくコタツでみかんでは、手と手が偶然触れ合ってしまうが為に女の子は大切に守ってきた貞操を男の子に無理やり奪われてしまうのよ」

「あの、御坂さんのとんでも話は他の女の子的にはどうなんでしょうか?」

 インデックスと姫神の方へと顔を向ける。

「「うんうん」」

 2人は神妙な顔をしながら首を縦に何度も振っている。御坂先生のご解説に納得しているらしい。

 おかしいのは俺の方なのか?

 だが、御坂のとんでも話を受け入れられるからこそ3人の答えが一致したとも言える。

 その理由はおそらく……。

「つまり御坂は、女の子はコタツで男と手が触れ合ってしまうと貞操の危機に繋がりかねないから、先手必勝で男を殴ってしまえと言いたいわけだなっ!」

 謎は全て解けた。

 一点の疑問の余地もない完璧な推理だ。上条さんは探偵としてもやっていける!

 

「ハァ? アンタ、何を訳の分からない野蛮なことをほざいてんのよ?」

 御坂は馬鹿にしきった白目で俺を見ている。

「上条くん……話の腰を折っちゃ駄目」

「とうま。話は最後まで聞かないと駄目なんだよ」

 姫神とインデックスにまで軽蔑の視線を送られている。

 どうやら俺の完璧な推理には些細な綻びがあるらしい。

 いや、別に間違っていても上条さん的には何の支障もありません。

 ただ、このギスギスした俺を責める空気を何とかして欲しいです。

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 冷や汗が止まらない『コタツでみかん』談義は続いている。

「馬鹿高校生に邪魔されたけど、話を元に戻すと」

「御坂さんの中の俺にもう少しだけ尊厳を与えてやってください」

 御坂の中の俺の価値がその辺の小石より軽い気がしてならない。

「純潔を失った少女はしばらく経ってから気づくの。男の子の赤ちゃんをお腹に宿してしまったことに」

「それは……何ていうか生々しくて嫌な話だな」

 上条さんのような純情高校生には何とも答えようがない。そんな進むも引くも地獄のような環境に追い込まれた少女の話なんて……。

「女の子は当然産むことを選択するでしょ」

「何でそんなに軽く断言できるんだよっ!?」

 俺には御坂という少女がよく理解できません。

「でも、女の子は14歳の中学生ということもあって、出産にあたって色々と思い悩むことが生じるの」

「急に具体的な年齢が条件に加わったな」

 最初はコタツでみかんのごく一般的な事例として説明していたような気がしたのだが?

「ううん。妊娠するのは16歳の高校生少女」

「中学生ぐらいの年齢のシスター少女なんだよ、絶対」

 姫神とインデックスが初めて異議を唱えた。

 だが、反対を表明するのがやたら細かくてどうでも良い部分だ。コタツの一般論を語っているはずなのに。

「結婚式場をどうしようとか、お腹が目立つ前にウエディングドレスを着られるように式の時期を調整したりとか、式には誰を呼ぼうとか、新居はどこにしようとか、子供の名前はどうしようとか悩みは尽きないじゃないの」

 御坂は指を折りながら悩みの中身を説明した。

「その悩みのどこにも、中学生少女が望まぬ妊娠をしたという悲壮感が伝わって来ないんだが?」

「妊娠するのは高校生少女」

「赤ちゃんを産むのはシスター少女」

「俺にツッコミを返すなよ!? しかもまたそこか!?」

 上条さんはツッコミに疲れています。おかしいのは御坂の説明であるはずなのに。

 

「それで法律とか世間体とか色々な困難があったりするんだけど、女の子は最終的には権力と能力で男の子と合法的に夫婦となるのよね」

「権力と能力って、どんなポジションにいる中学生少女なんだよ?」

 政府を脅して中学生結婚を認めさせるなんて、レベル5クラスの力と影響力を持っていなけりゃ不可能だぞ。

「無事子供も生まれて、男の子と女の子は子供と一緒にずっと幸せに暮らすことになるのよ。これがコタツでみかんから起こり得るごく一般的な流れよね」

 御坂は胸を反らしながら偉そうに締めくくった。

「これだけ懇切丁寧に説明すれば、頭単細胞なアンタにだって理解できるでしょう?」

「まるで理解できません。ていうか、聞き始める前より理解度が落ちました」

「アンタって……本当に救いようのない馬鹿だったのね」

 御坂が哀れみの視線を俺に向けてくる。

「あんな支離滅裂な説明が理解できてたまるかっ!」

「シスター達は理解できたでしょ?」

 御坂は俺の質問には直接答えずにインデックス達に話を振った。

「男の子と結ばれるのはJCじゃなくてJKだという点を除けばごく一般的な話」

「男の子の赤ちゃんを産むのはシスター少女だという点を除けば間違いはどこにもないんだよ」

 姫神達は大きく頷いてみせた。

「ほらっ」

 どうだと言わんばかりに悪い笑みを浮かべる御坂。僕はもう、女の子というものがまるで分かりません。コイツらは一体、何の話をしているのでしょうか?

 

「じゃあ、じゃあだ!」

 必死になって声を張り上げる。3人が洗脳のようなものを受けているとしても、上条さんは負けずに論破してみせる。

「仮にコタツでみかんが、男女の手が触れ合うと子宝に恵まれてハッピーエンドになるとしてもだ」

 御坂の瞳を正面から見据える。

「ハッピーエンドを迎えられるのなら、どこにも暴力が介在する余地はねえじゃないか」

 3人は確かに『コタツでみかんと言えば?』との問いに『暴力』と答えた。

 だが、3人とも『ハッピーエンド』を認めている以上、そこに暴力が働く謂れはどこにもないのだ。

「アンタってどこまでも底なしの馬鹿なのね……」

「上条くん……高校生らしい知恵を身に付けて」

「とうまは……本当に馬鹿なんだよ……」

 3人に蔑んだ目で睨まれた挙句に俯かれてしまった。

「ええぇ〜〜っ!?」

 俺の何が間違っているというのか?

 もう、本気で分かりません。

 

「もう、途中で口を挟みませんから『コタツでみかん』が『暴力』になる訳を教えてください」

 上条さん的にはもう降参するしかなかった。

「小学生レベルの問題が解けないなんて、本当に情けないわね」

 御坂はまた大きくため息を吐いた。

「情けなくて良いので正解を教えてください」

 平身低頭答えを乞う。

「今言った例は、あくまでも年頃の男の子と女の子が室内で2人きりというシチュエーションに基づいたものでしょ」

「はあ」

 逆らわないでとにかく聞くことにする。ツッコミは心の中だけに留めておく。

「でも、コタツに入っているのが男の子1人、女の子3人だったら、さっき話したような状況にはならないでしょ」

「はい」

 2人きりでもならないと声を大にして言いたいがグッと我慢。上条さんは我慢の子です。

「だったら、女の子の人数が1人になるように調整しないといけないでしょ」

「…………はい」

 調整する必要がどこにもないだろと大声で叫びたいがグッと我慢。

 何故女の子が危険な道へと自ら歩もうとするのかまるで分からない。

「でも、3人とも赤ちゃん欲しがっているから誰も退かないでしょ。だってそれこそが正妻になる唯一の手段なのだから」

「……………………はい」

 段々どこからツッコミを入れれば良いのか脳内でも分からなくなってきた。

 ここは健全上条さん的に、退かないのはコタツの暖かさに惹かれてだろうと脳内ノリツッコミを入れておく。

「誰も退かない以上、他の2人の女の子を暴力で排除するしかないでしょ」

「………………………………はい」

 言いたいことは山ほどある。でも、口に出せない……。

「そんな訳で、『コタツでみかん』と言えば『暴力』という答えに至る訳なのよ。簡単でしょ?」

 御坂がドヤ顔で俺を見る。

 その顔は暗に俺のことを小学生扱いしていることを物語っている。

 インデックスと姫神を見る。2人とも俺を見ながら渋い表情をしている。表情に差はあるものの、2人とも御坂と同じことを考えているに違いない。

 なら、俺が言うべきことは一つ……。

「そんな連想ゲームが分かるはずがねえだろうがぁ〜〜っ!!」

 答えの理不尽さに大声でツッコミを入れることだった。

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「お前らが『コタツでみかん』を『暴力』に結び付けている脈絡は何となく理解した」

 理解できない箇所は多いが、とりあえず思考パターンは分かった。

「理解したのなら、アンタはそろそろ選ばないと駄目なんじゃないの?」

 御坂の凛とした声。

「決めるって何を?」

「見れば分かるでしょ? ここには女の子が3人もいるのよ!」

「それの何が問題なんだ?」

 御坂さんのお怒りの理由が分かりません。

「ええいっ! 本当に分からない男ねっ! コタツでみかんは男女2人きりでするものでしょうがっ!」

「そんな異世界の常識を上条さんは知りませんよ。コタツってのは、漫画やアニメのイメージだとみんなでぬくぬく入るもんだと思うのだが?」

「いいから、コタツでみかんをするたった1人の女の子を今すぐ決めなさいっての!」

 御坂は自分のことを人差し指でさしながら熱く吼えた。

「そうだよ、とうま。優しさは美徳だけど優柔不断は悪徳なんだよ。ここはビシッと特別なたった1人の女の子を選ぶ時なんだよ」

 インデックスは自分の胸を叩きながら熱く畳み掛けた。

「上条くんはその子のことを絶対に幸せにできるから。だから……自信を持って選んで」

 姫神は胸に手を置きながら爽やかに微笑んだ。

「あの、お三方が何を仰っているのか上条さんとしては分かりかねますが?」

 4人で今みたいにワイワイしていればそれで良いと思います。

 

「つまりアンタは、女の子同士で暴力を振るわせてたった1人を決めたい。そういうことなのね!」

 御坂は財布からコインを取り出して力強く握っている。

「上条くんは……女の子同士で血を流させようとしている鬼畜サディスト」

 姫神は人間を吸血鬼に変えることができるDIO様所有の弓矢を取り出した。

「とうまのドSっぷりは、神も見放してしまわないか心配になるぐらいなんだよ」

 インデックスの瞳の色が真っ赤に染まった。魔術行使もお手の物の迎撃モードだ。

「上条さんは男女平等に殴ったりもしますが、決して鬼畜でもドSでもありませんよ」

「「「はっ!」」」

 訴えてみるもののあっさりと無視される。それどころか3人の少女は互いに睨み合いを始めた。スキルアウトの連中が可愛くて仕方なく思えるほどの凶悪な目付きで。

「学園都市レベル5序列第3位のこの私にアンタ達如きが本気で勝てると思っているの?」

 御坂さんは何故そんなに喧嘩腰で全身を激しく放電させているのでしょうか?

「私はどんな吸血鬼でも触れただけで消し去ることができる。そしてこの弓矢は吸血鬼を自在に作り出すことができる。…………デンコちゃんと食いしん坊なんて脅威にならない」

 姫神さんは何故室内で矢の照準を人に向けているのでしょうか?

「所詮人間の浅知恵なんて、神の大いなる力の前には全くもって無力なんだよ。痛い目を見ない内に逃げ帰るのがお利口さんなんだよ」

 今のインデックスからは神に最も近いんじゃないかと思うぐらいに強大なコスモを感じる。乙女座のゴールドセイントだったらしい。

 

「いやあ。上条さん的には何が何やらさっぱりだなあ……」

 何とか3人の争いを未然に防がないと……俺が確実に死ぬ。

 家が壊れるとかそんなチャチイ予感は今更しない。バトルに巻き込まれた末の絶対的な死が俺の終着点だ。

 コタツをゲットさせてぬか喜びさせた上での回避不可能な死のトラップを用意するとは……神様って奴は本当に残酷だなあ。

「上条くんは誰とコタツでみかんをしたいの? 私たちの中で誰を選ぶの?」

「上条さんは全員でまったりとしたいのですが……」

 ハルマゲドンを回避する方法はどこかにないのか?

「そ、それじゃあ、とうまはここにいる3人全員とコタツでみかんをしたいの!?」

 インデックスが目を大きく見開いて驚いている。

「あっ、アンタ。そんなことが倫理的に許されると思ってるのっ!? 3人とだなんて……」

 御坂は両手で胸を隠しながら上半身を仰け反らした。彼女たちの中で俺の発言がどう解釈されているのかとても気になります。

 俺はただ、争わずにみんなで仲良くまったりしたいだけなんです。それだけなんです。

「上条くんはハーレム王……女性の敵」

 姫神が俺を見ながらドン引きしている。

 

「アンタ、もうちょっと現実的にものを考えなさいよ!」

「そうだよ、とうま。わたし達の誰かを選べないからって3人ともお嫁さんにするだなんて……」

「上条くんの経済力じゃ絶対に無理」

 3人の少女は顔を真っ赤にしている。怒っているのは明白だが、10%の照れが入っているようにも見える。もう、訳が分かりません。

「お願いですから日本語で喋ってください」

 頭を深々と下げる。

「鬼畜ハーレム王なアンタには倫理も法律も通用しないでしょ。だから分かり易くお金の話をすると、アンタの将来の稼ぎ能力じゃ奥さんを3人も養えないって言ってるのよ」

「子供が1人ずつできたらお嫁さん3人+子供3人の計6人。とうまには絶対無理なんだよ」

「もし子供が2人ずつだったら……妻3人+子供6人の計9人。上条くんはどんな犯罪に手を染めて生活費を得るつもりなの?」

「俺は、コタツでみかんを食べる話をしているだけですよね?」

 何故冬の風物詩をまったり行うと計9人の人生を背負うなんて話になるのでしょうか?

 

「つまりアンタは食べ散らかしても責任を取るつもりはないと。サイテー」

「みかんの話、ですよね?」

 御坂が袋からはみ出た生ゴミを見る目付きで俺を見ている。

「男ってのは、みんなそうなんだよ。衝動に駆られて行動するだけでその結果に責任を持とうとしない。そのせいで泣く子が出るなんて考えもしない」

「だからみかんの話ですよね?」

 インデックスは今にも泣き出しそうな辛そうな瞳で俺を見ている。

「上条くんにとっては食べ尽くしたら捨てれば良いだけの存在」

「もう全部みかんの話ってことにさせてください!」

 姫神が囚われていた時のような無表情になってしまっている。希望を捨て去ってしまっていたあの時のように。

 

「コイツがこんな最低クズ男である以上……やっぱり私達でたった1人の女の子を決めるしかない。それには暴力しかないのよ!」

「とうまが決断能力もその意思もない最悪スケコマシである以上……たった1人の女の子は入籍も子育ても自分で主導権を発揮するしかない。その為には暴力しかないんだよ!」

「女なんて星の数ほどいるのだからとっかえ引っ変えすれば良いと思い込んでいるゲス条くんを更生させるには……彼の周りに複数の女がいたら不可能。故に暴力しかない」

 そして再び戦闘態勢を取り始める3人。

「誰か俺の味方はいないのですかぁ〜〜っ!?」

 窓の外に向かって嘆いたその時だった。インターホンが鳴り響いた。

「そうだ! もう1人呼んでたんだ」

 目の前に急に光が差し込んだ思いがした。

 彼女ならきっと救いの女神になってくれる。

 このあまりにも絶望的な状況下で俺は微かな希望を抱いたのだった。

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「みなさん、どうも。佐天さんで〜す。暖かいコタツでヌクヌクできると聞いてひょこひょこやってきました〜♪」

 明るく笑顔を振り撒きながら佐天さんが室内へと入ってきた。

 彼女とは今日の昼間に偶然出会ったので御坂や姫神と同様に声を掛けていたのだ。俺は自分の機転の良さを誇る気持ちでいっぱいだった。

 いつも明るく元気な佐天さんがいればこの殺伐とした空気も和むに違いない。

 ようやくまったりとした『コタツでみかん』を楽しめる。

「佐天さん、本当によく来てくれた。さあ、どこでも好きな所に入ってくれ」

 佐天さんは御坂の友達。俺が彼女と知り合ったのも御坂を通じてだった。だから当然御坂の隣に座るものだと思った。ところが……。

「それじゃあお言葉に甘えまして♪」

 佐天さんは俺の右隣に足を潜り込ませた。

「えっ?」

 佐天さんの左腕が俺の右腕に触れる。服越しとはいえ、女の子の肌の感触が伝わってくる。

 それに髪の、シャンプーのとても良い匂いが上条さんの頭をクラクラさせる。

 隣にいる子が女の子なんだって凄く強く感じている。

 

「あ、あの、佐天さん? 何故わざわざ俺の隣に?」

 凄く緊張しながら問う。

「だってせっかくのコタツイベントなんですよ。男の子と合法的に密着できる絶好の機会なんだから、それを最大限に活かさなきゃ損ってもんですよ」

 佐天さんは頭を俺の肩にもたれかけさせた。

「役得役得〜♪」

 佐天さんはとても嬉しそうに俺に寄りかかっている。

「この場合、役得なのは佐天さんに密着されている俺の方だと思うぞ」

 実際俺はクラクラのドキドキが止まらない。これが、コタツの真の威力なのか?

 俺は今までコタツについて大いなる勘違いをしていたのか?

「異性と親密に過ごす機会をなかなか得られないのは男も女も変わりません。だから私もハッピー。上条さんもハッピーでいいじゃないですか♪」

「そ、そうだな」

 佐天さんにそう言われるとそれが正しく聞こえる。先ほどの3人の説明が謎と反感に満ちてばかりだったのとは対照的だ。

「上条さん。みかん食べますか?」

「あっ、ああ」

 佐天さんはみかんを1つ掴むと楽しそうに皮をむく。そしてひと房を持って俺の顔の前へと近づけた。

「上条さん。はいっ、あ〜ん♪」

「いや、それはさすがにちょっと恥ずかしいんだけど……」

「コタツでみかんの役得役得♪」

「わ、分かったよ……あ〜ん」

 佐天さんにみかんを食べさせてもらう。

 すげぇ恥ずかしい。でも、とっても嬉しい。青春って感じがする。

 『コタツでみかん』にはこんな甘酸っぱい経験も隠されていたなんて俺、知らなかった。

 3人に『暴力』について語られていた時とは雲泥の差だ。

 

「さっ、佐天さん。何でそんなに積極的な行動が取れるのよ……あ〜んだなんて私だって1度もしたことないのに」

「佐天は短髪の友達だけあって、淫乱に限りがないんだよ。淫乱・オブ・ザ・イヤーなんだよ」

「きっとあの子は…清純そうな顔をして…クラスの男子全員を食いまくっているビッチに違いない」

 3人の俺達を見る瞳がやたら険しくなった。

「あの〜佐天さん。食べさせてもらうのは嬉しいんですが、人目もありますし、ちょっと問題もあるのでは?」

「上条さんは私のこと……迷惑に思ってますか?」

 急に落ち込んだ表情を見せる佐天さん。その顔を見て俺は焦った。

「いやいやいや。そんなことは全然思ってませんよ。上条さんは佐天さんのこと大好きですし、その献身的な気遣いに涙が溢れるほど喜んでおりますよ」

「それじゃあ何の問題もないですね。はい、あ〜ん♪」

「あ〜ん♪ あれっ?」

 佐天さんのくれるみかんを頬張りながら何か丸め込まれた気分になる。

「佐天さんのこと大好きだなんて……私には好きなんて言ってくれたことないくせに……殺す!」

「本妻の寛容度にも限界ってものはあるんだよ。とうまには死しかないんだよ!」

「上条くんはロリコン。よって死刑」

 3人の俺達を見る瞳がより一層険しくなった。

 

 

      美(怒)

    |─────|

 姫(怒)|  み  |イ(怒)

    |─────|

      当佐(喜)

 

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「上条さんの家にはこんな大きなコタツがあっていいなぁ〜。一人用のコタツだとゴロンと寝転がると体はみ出しちゃうんですよねえ」

「そうなんだよなあ。上条さんはこのコタツを福引で当てたのだけど、それ以来冬ライフが遥かに快適になったよ」

 隣に座る佐天さんとの会話が弾んでいる。

「福引で当たったって、もしかして上条さんってくじ運いい方ですか?」

「いや、いつもティッシュばっかりだよ。今回はたまたまだな」

「コタツも当てて、こんな可愛い子とコタツで密着する機会を得ているんですから上条さんは強い幸運の持ち主ですよ♪」

 佐天さんが非常に話し易い女の子だということもある。彼女は聞き上手で要所要所でちゃんと俺を持ち上げてくれる。だから話していて凄く楽しい気分になれる。

 でも、それ以上の理由として……。

「「「殺スっ!」」」

 インデックス達の視線が怖すぎてアイツらと話せそうになかった。

 

「短髪、秋沙。このままじゃまずいんだよ。とうまを淫乱小娘に盗られてしまうんだよ」

「あのビッチ中坊はコタツでみかん段階をやすやすと乗り越えていった。油断はできない」

「強敵と認め、私達が協力して戦うしかないわね」

 御坂達の人を殺せる視線が俺達へと降りかかる。何を話しているのか聞こえないけれどマジ怖いっす。

「それで短髪、何か手はあるの?」

「クラッシャー召喚しかないわね」

「だけどそれじゃあ……」

「今日の所は佐天さんエンド突入を回避することに全力を傾けるべきでしょ」

「超電磁砲の言うことは間違ってない。つまらない我欲は身を滅ぼす」

 突然3人は息を合わせて首を盾に振った。

「そう言ってくれると思って、既にクラッシャーは手配しておいたわ。そろそろ現れるはず」

 御坂が悪い顔を俺に向けた次の瞬間。

「お呼びでしょうか、お姉さま?」

 白井が突如室内に現れた。テレポートして室内に転移してきたのだ。

 改めてプライバシーガン無視だな、コイツの能力は……。

 

「ごきげんよう、上条さん」

 ゆったりと丁寧に頭を下げる白井。家主に断りもなく無断で室内に侵入したという点を除けば、お嬢さまっぽく見える上品に見える振る舞い。

「そんな奴への挨拶なんてどうでもいいから、私の話を聞きなさい」

 そして常盤台中学のエース様はどこまでも礼儀がなかった。コイツは本当にお嬢さま学校に通っている生徒なのだろうか?

「それでご要件とは?」

「今、私達はコタツでみかんでぬくぬくしているの。黒子も混ざりなさい」

「あの、わたくしはお姉さまから緊急の用件とメールで知らせを受けたので、ジャッジメントの仕事を早退して慌てて来たのですが……」

 白井の頬が引き攣っている。

 まあ、白井の気持ちはよく分かる。プチ切れないでいるのを褒めてやりたいレベルだ。

「そんな訳で好きな所に座ってね。この室内に邪魔者がいれば、容赦なく吹き飛ばしていいわよ。いっそ殺しちゃえ」

 ……御坂は今、とても不穏当なことを言った。

 もしかしてアイツ、佐天さんと並んで座っている俺が目障りで排除しようとしているんじゃ?

 ニヤッと御坂が俺を見ながら笑った。排除する気満々だぁ〜っ!

 しかも後輩を使って俺を始末しようとはえげつねえ。性格悪いぞ、御坂。

「好きな所と言われましても……」

 キョロキョロと周囲を見回す白井。

 白井のことだから、当然御坂の隣を選択するだろう。

 いや、正面から御坂の顔を眺めたくて俺の側へと回るかも知れない。その為に障害となる俺を吹き飛ばして御坂の真正面に座りながら。……それが狙いかっ!

 

「では、失礼しますの」

 白井は俺の左隣に優雅に足を潜り込ませた。

「えっ?」

「なぁっ!?」

 白井の右腕が俺の左腕に触れる。また女の子の柔らかい感触が伝わってきた。

 そしてやっぱりシャンプーの良い匂いが上条さんの脳をクラクラさせる。

 白井が女の子なんだって強く感じる。

「し、白井っ? 何でわざわざ俺の隣にくるんだ?」

 心臓がバクバク言っている。コタツの同じ面に3人で入れば狭いに決まっている。だから必然的に俺は白井と佐天さんと凄く密着するしかない。

「だってここに座りませんとお姉さまの顔が正面から見られませんもの」

 白井は俺の左肩に頭をもたれて寄りかかった。

「白井さんも役得役得ですよね〜♪」

 右肩に体重を預けている佐天さんが鼻歌混じりにご機嫌な声を出す。

「佐天さんが何の話をされているのかは分かりません。ですが、わたくしは自分の望みを叶える最も合理的な選択を行なったまでですわ」

 白井は俺にもたれながら目を瞑った。

 

「だったら私の隣に座ればいいじゃないのよっ!」

 御坂は荒れながら俺を指差した。

「それではお姉さまのお顔がよく拝見できませんもの」

 白井は澄まし顔で返す。

「ソイツにそんなにもたれ掛からなくても良いでしょ!」

「狭いんですもの。仕方ありません」

「だったら、こっちに来ればいいでしょうが」

「わたくし、日々のジャッジメントのお仕事に少々疲れを感じておりますの。上条さんは丁度良い背もたれですわ」

 白井は俺の胸に頭を預けた。

「「「なぁ〜〜〜〜っ!?!?」」」

「ひゅ〜ひゅ〜♪」

 女の子達の視線が痛い。にも関わらず平然としていられる白井はすげえ。

 

「実はわたくし、長い間思い悩んだ末にようやく境地に至ることができましたの」

「あの、白井は何を言って?」

 白井が瞳を開けて俺を見上げた。

「わたくしは悟ったのです。敬愛するお姉さまを上条さんから永遠に引き離してその清らかなる御心と体を守る方法をです」

「いや、そんな熱心に思い悩む理由がないと思うんだが?」

 俺と御坂はただの喧嘩友達だというのに。

「その方法とは……」

 白井は俺のあごにそっと手を添えた。

「わたくしが上条さんの恋人となり生涯の伴侶となり、上条さんを永遠にわたくしの虜としてしまうことですわ」

 白井の唇が俺の唇へと近づいてくる。

 えっ?

「上条さん……わたくしを貴方の恋人にしてください……」

 えっ? ええっ!?

 コタツで密着しているせいで動けない……。

 上条さんはこのまま白井とキス……を…………。

 

「「「させるかぁ〜〜〜〜っ!!」」」

 

「ぐっはぁ〜〜〜〜っ!?!?」

 白井の唇が重なる直前、3つの方向から飛んできたみかんが俺の顔面にクリティカルヒットした。

「何でいきなり……ガクッ」

 みかんとはいえ、俺の脳を思い切り揺さぶったその凶器は俺の意識を刈り取るのに十分な威力を秘めていた。

 

 

      美(殺)

    |─────|

 姫(殺)|  み  |イ(殺)

    |─────|

    (喜)黒当佐(喜)

 

 

『黒子っ! アンタ一体何を考えてるのよ! いきなり、き、キスしようだなんて!』

『お姉さまを思えばこそ、この身を上条さんに捧げてお姉さまをお守りしようと』

『そんなこと頼んでないっての! 単にアンタがコイツを好きになっただけでしょうが』

『それは言い直せば、わたくしはお姉さまと男の趣味が同じだと。ますますお姉さまとの運命を感じますわ』

『まさかツインテールまでとうま狙いだったなんて。JCはみんなビッチなんだよ。秋紗もクラッシャーを呼ぶ際には気を付けて』

『大丈夫。私は友達が少ないから女子中学生に知り合いなんていない』

『さすがはぼっちに定評のある秋紗なんだよ。一部の隙もないんだよ』

『…………それはちょっと複雑』

『じゃあ、眠りに落ちてしまった王子さまはお姫さまのキスで目覚めるということで……私がキスしちゃいますね♪』

『『『『『それは駄目っ!!』』』』』

 

 少女達の賑やかな会話は続いている。

 けれど、気絶する上条さんには彼女達が何を騒いでいるのかまるで理解できなかった。

 

 

-7ページ-

 

「ハーレムの中心にいる男が幸せ者だって? フザケるなっ! それがお前の思い込みだって言うのなら……まずはそのフザけた幻想をぶち殺すっ!」

「上条さん♪ そろそろ起きてくださいね♪」

「ぶほぉっ!?!?」

 腹に強烈な衝撃を感じて目を覚ます。まるで、必殺のそげぶパンチを放とうとしたら、その直前に綺麗な一発を腹にもらってしまったかのような苦しさ。

「あれっ? 俺、ここは?」

 目の前には御坂の顔。その両脇に姫神とインデックス。そして俺に密着する佐天さんと白井。

 うん。気絶する前と何も変わらない構図。言い直すと、俺を不幸へと陥れる理不尽が継続中。

「頼む……誰でも良いからこの状況を打破してくれ〜〜っ!」

 天に向かって心の中で祈りを捧げたその時だった。

 ピンポ〜ンとインターホンが鳴り響く。

 念願の来客。

 もう、この際誰でも良かった。

 このギスギスした空気を破壊してくれるのなら。

 

「上条ちゃ〜ん。シスターちゃんにお呼ばれしたので勝手にお邪魔させてもらうのですよ」

「上条。秋紗に誘われたから来てやったぞ」

「おおっ! 小萌先生と吹寄かあ」

 入って来たのは小萌先生とクラスメイトの吹寄制理だった。

 来客が誰でも良いと願ったのは俺。

 だが、この2人が来ても状況は改善しない。むしろ悪化する。それを直感してしまう。

「よ、よく来たな。さあ、好きな所に座ってくれ……」

 声を震わせながら2人に着席を勧める。

「それじゃあ先生は特等席に座るのですよ。よいしょ♪」

 やたらおばさん臭い声を出しながら小萌先生は腰を下ろした。俺の膝の上へと……。

 

 

      美(殺)

    |─────|

 姫(殺)|  み  |イ(殺)

    |─────|

       萌(喜)

    (喜)黒当佐(喜)

 

 

「あの、小萌先生。このチョイスは一体どういうことなのでしょうか?」

 再び限りなく冷や汗を垂れ流しながら尋ねる。

「先生の身長ではこのコタツは大きすぎるのです。だから上条ちゃんの膝の上が丁度いいのですよ。えっへん」

 小萌先生は俺の胸にもたれ掛かりながらえばって答えてみせた。

「それに上条ちゃんにとってもこのシチュエーションは嬉しいはずなのです。何故なら、先生はすっぽりと上条ちゃんに包まれている状態なので、どんなイタズラをされても抵抗できないのです。げっへっへっへ」

 小萌先生が笑った瞬間に、御坂達の視線が一斉に鋭くなった。ヤバイ、殺される!?

「イタズラなんてしませんからね! 上条さんは紳士なんですから!」

 そうでなくても、見た目幼女の先生にイタズラってそれは人としてヤバ過ぎる。

「先生は大人なので男子高校生の性癖は手に取るように分かるのです。上条ちゃんの若いパトスがビンビンに先生のお尻に伝わってくるのですよ」

「人聞きの悪いことを言うなっ!」

 大声で反論する。佐天さんや白井にはドキッと女を感じてしまったが、小萌先生にはまるで感じません。ロリババアに反応する趣味は上条さんにはないんです!

「アンタ……そっちの人間だったの!?」

「そんな訳がねえだろっ!」

 何故御坂は簡単にそんなホラ話を信じるんだ?

「とうまってば、小学生は最高だぜ! だったんだね。幾ら待ってもわたしに手を出さないのは、わたしが大人の色気満載で熟れ過ぎていたからなんだね」

「16歳のナイスバディーな我が身が憎い」

「何で君たちは上条さんをそんなに犯罪者属性にしたがるのですか……それにインデックスも姫神もナイスバディーとは言えないだろうが」

 2人に聞こえないように小声で愚痴る。

「上条さんっ♪ 貸し1ですからね♪」

「わぁ〜い。佐天さんに聞かれちゃったよぉ……」

「上条さんは雉も鳴かずば撃たれまいという言葉を覚えるべきですわね」

「おっしゃる通りです……」

 これだけ密着されていると愚痴さえも零せません。勘弁してください。

「上条ちゃんは先生の大人のエロスにメロメロなのです♪」

 小萌先生の笑顔がひたすらに遠かった。

 

 左右に佐天さんと白井、そして前方に小萌先生と密着。その更に前方では御坂と姫神とインデックスが鬼の形相で俺を睨んでいる。

 この状況を打破するには全てをクラッシュしてくれる存在が必要だ。そしてその存在とはいまだコタツの中に入ってこない吹寄をおいて他ならなかった。

 健康に人一倍うるさく、おまけに惰弱なものを嫌っている吹寄のことだ。

 きっと『コタツなんて軟弱なものにいつまでも入っているんじゃない!』と俺を無理やりコタツから引っ張り出してくれるに違いない。

 この際だ。勿体無いが、吹寄の怠惰への怒りでコタツを破壊してくれても構わない。

 とにかく、俺を無理やりコタツから出してくれぇ〜〜っ!!

「さあ、吹寄。どこへなりとも好きに座ってくれっ!」

 吹寄が座らないで怒り出すことを期待しながら訴える。

 すると──

「うん。分かった」

 吹寄は俺と背中合わせの姿勢を取りながら床に腰を下ろした。

 

 

      美(殺)

    |─────|

 姫(殺)|  み  |イ(殺)

    |─────|

       萌(喜)

    (喜)黒当佐(喜)

       吹(安)

 

 

「ええと、吹寄さん。これは一体何の冗談でしょうか?」

 御坂達の視線がまた鋭くなったのを感じながら背中の吹寄に尋ねる。

「あたしは……コタツという暖房器具がどうも軟弱に思えて好きではないのだ」

 なら、大暴れして破壊しましょうよと心の中で呟く。

「だからあたしには…コタツの熱で温もった上条の体温ぐらいの暖房が良いのだ」

 なんか格好良さ気なことを言ってくれてます。でも、コタツで温まった上条さんを暖房器具にするのなら、最初からコタツを使えば良いと思います。

 少なくとも、上条さんの命が尽きようとしている現状においては。

「どうしてとうまの背中なの?」

 インデックスがある種当然の質問をした。

「あたしの体重を、全てを預けて落ち着けるのは男の背中しかない。この中で男と言えば上条しかいないだろう」

 吹寄は話し終えると俺により一層の体重を掛けて寄りかかってきた。

「やはり、あたしの全てを任せられるのは上条だけだな」

「そういう意味深に勘違いされそうな言葉を発すのは勘弁してください」

「勘違いとは限らないだろう?」

 吹寄との会話を打ち切る。

「フゥ〜」

 代わりに大きく息を吸い込む。

 御坂はレールガンを俺に向けて発射準備している。先生や佐天さんごと俺を消す気だ。

 姫神は人間を吸血鬼に変える弓矢を俺に構えている。吸血鬼になった瞬間に消される。

 インデックスは顎の限界を越えて大きく口を開いて目を光らせている。物理的に食われる。

 

「さて、今まで何度も死線を掻い潜ってきた上条さんは今回も生き延びてみせますよ」

 大きく深呼吸する。

「上条さんは普段は大変不幸ですが、命が懸かった時は信じられないぐらい幸運を引き寄せるんですよ」

 俺は命懸けに強い。なら、明らかに3人の少女に命を狙われている現状では無限の幸運を発揮できるはずなんだ。

 さあ、幸運よ。いつものように俺に勝利を導いてくれっ!!

 と、その時、俺の携帯が激しく自己主張を奏でた。

「ムッ! メールが来たっ!」

 早速逆転の狼煙を上げるメールが到来。

 勇ましくズボンのポケットから取り出して内容を確かめる。

「一方通行からかっ!」

 激しく闘志を高ぶらせながら本文をチェックする。

 

 From:一方通行

 Sub:俺は今最高に気分がァいいンだよォ

 本文:ひゃっひゃっひゃ。三下ァ〜。

   俺は今最高に気分がァいいンだよォ

   何たって新しい電気毛布を手に入れ

   たンだからよォ。

   オメェも温ったまるか?

 

「電気毛布〜〜っ!!」

 この状況を打破してくれる救世主の名を叫ぶ。

 やはり俺は戦闘時においては最高に幸運だ!

「ヤツはコタツの最強のライバルだ。その実力を推し量るべく俺は今すぐ一方通行の家に行って、電気毛布にくるまって一緒に寝てみないといけねえ!」

 コタツでみかんの強制終了を少女達に告げる。

 我ながらとても自然な終わらせ方だ。

「そんな訳で俺は今から一方通行の所に行ってくるっ!」

 情熱的に訴えかけながら立ち上がろうとする。

 だが、前後左右から引っ張られ体を起こすことができない。

「あ、あの……?」

「上条さん。こんなにも魅力的な女の子達に囲まれているのに男の人の所に行くのはなしだと思うんですよ♪」

 佐天さんは笑顔のまま俺の腕を引っ張り続けている。

「しかも、一緒に寝てみるというのはあまりにも不謹慎ですわ」

 目を閉じた白井が淡々と語りながら放してくれない。

「上条ちゃん。この状況で男に走っちゃダメなのですよ。死罪なのです♪」

「自分の全てを任せられる男が死罪とは……辛いな」

 小萌先生も吹寄も感慨深げに語りながらやたら体重を掛けてくるので1ミリも起き上がれない。

「あ、あの……みなさん?」

 全身が過去最大級に恐怖で震えている。

 選択肢を間違えた。それは嫌というほどよく分かった。でも、1度きりの人生にはリセットもロードも効かない。畜生っ!

「さあ、アンタ。お祈りの準備はできてるんでしょうね?」

 御坂がコタツから立ち上がって両手をバキバキ鳴らしている。全身から激しく放電しながら。

「とうまは幸せ者なんだよ。本物のシスターに最期を看取ってもらえるのだから」

 インデックスは爽やかに微笑むと俺を見ながら祈りを捧げ始めた。

「みっ、みんなっ。待て、落ち着くんだ! 話せば分かるんだぁっ!」

 必死に訴える。逃げる機会を伺う。

 けれど、4人の少女達に動きを封じられた状態で俺にできることはなかった。

 俺の死は既に確定事項になってしまっていたのだ。

「バイバイ……上条くん。私達の…………愛しい人」

 姫神がまぶたに浮かんだ涙を指で拭った直後……7人は俺に一斉に襲いかかってきた。

「ふっ、不幸だぁ〜〜〜〜っ!!」

 大地を離れ大空から学園都市を、そして彼女達を見守る存在へと変わっていきながら俺は悟った。

 美少女達とのコタツでみかんは死を招くものだと。

 

 了

 

 

説明
pixivでのこたつでみかんというお題に便乗したもの

過去作リンク集
http://www.tinami.com/view/543943


【宣伝】3月5日、新しく出帆した株式会社玄錐社(げんすいしゃ) http://gensuisha.co.jp/ 
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無料で楽しめる作品もありますのでアプリだけでもダウンしてくださいね。
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コメント
こたつでみかん=暴力 見事に正解だな。暴力を受けるのは上条だけどw(銀ユリヤ)
一方通行に吹いたw(;・ω・)(コキュートス)
これだけの女性に看取られて逝けるなら幸せなんじゃないっすかね…(tk)
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とある科学の超電磁砲

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