真・恋姫†無双〜絆創公〜 小劇場其ノ九
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小劇場其ノ九

 

 俺、北郷一刀は考えた。

 

 人には何かしら取り得があると言われている。

 俺に取り得があるかと皆に訊いて回れば、十中八九“あるとすれば、胤とどーでもいい知識くらい”だと答えるだろう。

 

 ……自分で考えていたら何か空しくなってきた。

 あれ、おかしいな。俺、目から汗流すなんて器用なマネできたっけか?

 話を戻さなきゃ。

 もしも、今俺の視界にいる彼に取り得があるか、と訊かれたなら、俺はこう答える。

 

 “他人の逆鱗に触れる事”だと。

 

 

 目の前で繰り広げられる厄介事を、どうにか解消できないか。一刀はそれを必死に考えていた。

 

 リンダの挑発を受けた愛紗は、あれから鍛練場に移動していた。

 理由は当然、リンダに一矢報いる為だ。

 ルールは、どんな形でも良いので、愛紗がリンダに触れる事が出来れば愛紗の勝ちとなる。

 制限時間は日没まで。それまでリンダが逃げ切れば、彼の勝ちとなる。

 

 という、一風変わった一対一の勝負だった。

 しかし、いまやリンダの対戦相手は愛紗だけではなくなっていた。

 複数の人間の攻撃を、彼は回避し続けている。

 

 事の経緯はこうだ。

 愛紗と新たな客人との対戦を、暇潰しの見物程度に考えていた人間、主に女性陣が次々やってきた。

 その彼女らに対して、これまたリンダが次々と暴言を吐いていったのである。

 

 ある人には『精神にも負担を掛けがちな弓を使うから、精神的にもどんどん老けていくんですよ』

 

 またある人には『己の君主に忠義を誓うあまり、その君主の想い人に殺気を向けるのは、お門違いを通り越して只の無能です』

 

 さらには『あんなのは只の小さい筍でしょう?』

 

 というように、何故か自主的にどんどん敵を増やしていったのである。

 結果、リンダの申し出たルールは大幅変更となり、『誰でも、どんな形でも良いので、触れられたのなら勝ちとする』となった。

 そして現在、リンダ一人対複数の変則的対戦であるにもかかわらず、誰一人としてリンダに触れられていない。

 日没にはまだ少し時間があるが、女性陣の方には幾分焦りの色が見え始めている。

 対照的に、リンダの方はだいぶ余裕があるのか、涼しい顔で武将達の様子を伺っている。纏っていたコートは脱いでおり、黒のワイシャツと黒のスラックスで鉄扇を優雅に扇いでいる。

 その態度が、彼女らの焦りと怒りをますます増長させる事となる。

 女性陣は残る力を振り絞り、リンダとの間合いを詰めるべく、力一杯踏み込んだ。

 

 ラストスパートをかけた彼女らの様子を、外から見守っていた一刀達外野の人間は、全身が不安で満たされていた。

「ハァ……こんな事している場合じゃないのになぁ」

 戦っている彼女達以上に、珍しく現状に焦っていたアキラがその顔を歪めて呟いていた。その手には、戦う前に預かった、リンダが纏っていたコートが掛かっている。

「今更もう遅いよ。ああなったリンダっちは、もう誰にも止められないよ」

 呆れ顔で戦闘を見ているクルミもイラついているのか、片足で地面をパタパタと叩いている。

「そう決めるのはまだ早いぞ。関羽さま方がリンダさんを打ち負かすかもしれない……」

 切れ長の瞳に強い意志を宿したまま、アオイは戦いの結果を見届けようとしている。

「うーん。でも誰がどう見ても、リンダっちが優勢じゃないかなー……?」

「いや、私は信じている! 皆様がリンダさんの鼻っ柱を折ってくれると!!」

「……いくら大好きな関羽さんが馬鹿にされたからって、肩持ち過ぎじゃない?」

「お前だって、張飛さまに勝ってほしいと願っているだろう?」

「まあ、ねー……」

「それに張飛さまが今戦っている理由は、自分の主と姉者を愚弄したリンダさんを打ち負かす為だ! お前も真剣に応援するんだ!!」

「はーい……」

 生真面目なアオイにけしかけられるまま、しかし心の底では、尊敬する鈴々が参加する陣営の勝利を願い、クルミもしっかり行く末を見守る。

「アイツを止められそうな主任は、今局長に謝罪の電話をかけているし……北郷一刀さん、僕らどうすりゃ良いんですかね?」

「…………」

「リンダもリンダだよ。色々挑発して、あんなに敵を増やす事無いだろうに」

「…………」

「……どしたんすか、北郷一刀さん。黙り込んで」

 話しかけた相手の無反応さに少し心配になった男は、隣にいる無言の青年に顔を向ける。

 青年は口元に手を当てて眉間にしわを寄せ、いつになく真剣な眼差しで戦闘を見つめていた。

「もしかしたら……何とかなるかもしれない」

 口元の手を離して呟いたその言葉に、アキラは目を見張る。

「な、何か秘策でもあるんすか!?」

「まあ、巧くいくかは分からないけど。まずは今戦っている亞莎が、俺に気付いてくれるか、だな……」

 その視線は、確かに構えの体勢を崩そうとせずに攻撃の機会をうかがう亞莎に向けられている。

「いやー。気付かないんじゃないっすか? あんだけやる気まんまんな時に気を逸らすなんて……」

「あ、気付いてくれた」

「そんな、いくら何でも……」

「一刀様、如何なさいましたか?」

 気が付くと、構えの体勢で一刀に背を向けたまま、声を潜めて話しかけている亞莎が近くにいた。

 彼女の視線は、依然として対戦相手のリンダに向けられている。

「亞莎、俺なりに策を考えてみた。全員の協力が必要だから、皆にも伝えてくれるか?」

「手短にお願いします……」

「了解。取り敢えず全員で、リンダさんの注意を引きつけておいてくれ。それから…………」

 リンダに悟られないように、互いに声を潜めてのやり取りをする。

「…………一刀様、それは危険では?」

「だからこそ、皆の協力が必要なんだ。巧く注意を引きつけてくれ……頼めるかい?」

「……分かりました。一刀様を、信じます……!」

 そう答えた亞莎は、すぐさま一刀から離れて戦闘中の一団の中へと帰っていった。

 陣に戻った亞莎が、周りの女性達に何かを伝えているのを確認した一刀は、よしっ、と呟いた。

「じゃあ、俺も……ってアキラさん?」

 ふと見ると、ポカンとした顔で自分を眺めているアキラがいた。

「どうかしたの?」

「……いやぁ。これが愛の力なんだなぁって思いましてね……」

「……?? 何のことか解んないけど、とにかく俺はちょっと呼んでくるから……」

「呼んでくるから、って誰を呼ぶんすか?」

「心強い助っ人、さ」

 薄く微笑んで答えた一刀は、小走りで城内に戻っていった。

「……助っ人、って誰だろう?」

「なになに。どうかしたの、アキラ兄?」

「何やら北郷一刀さまが戻っていきましたが?」

 進展があったことを察したのか、クルミとアオイが近寄ってきた。

「北郷一刀さんが、なんか秘策を思いついたみたいだ……」

「秘策……?」

「リンダっちの弱点が解ったのかな?」

「リンダに弱点があるのか?」

「ううん、あたしは解んない」

「私も、聞いたことはありません。まあ、性格の面では少しは存じ上げていますが……」

「ああ、まあね……。でも、それは今は関係ないだろうし、それを北郷一刀さんが気付くってのは……」

「おそらく、無いでしょうね……」

「ないねー……」

 

「……これは一体どういう事だ?」

 

 会話の最中に後ろから聞こえてきた声に、三人は振り向いた。

 そこには、髪型の少し崩れた自分達の主任が、少しやつれた顔で立っていた。

「あっ、主任! 報告は終わったんすか?」

「ああ……。電話口で何度も頭を下げていたよ……。で、これはどういう状況だ?」

 またもや面倒が起こった事を察したのだろう、戦闘中の男を恨めしそうに見つめている。

「ヤナギ主任、実はリンダさんが皆様を挑発しまして……」

「それで、こーんな状況になっちゃったのさ!」

 一人は礼儀正しく頭を下げ、もう一人はどこか楽しそうに話す。

「ハァ……。アキラ、そのコートを貸してくれ」

「へ? 寒いんすか? でもこのコートはリンダので……」

「寒くはないし、リンダのコートである事も知っている。いいから貸してくれ……」

「はぁ…………?」

 ぶっきらぼうに差し出されたその手に、アキラは持っていたコートを手渡した。

 

 同時に、視界の端に城内から出てきた人影を確認した。

 

「おっ! 北郷一刀さんが出てきた…………って、あれが助っ人?」

 

 一刀の後ろからぞろぞろと出てきた人影に、アキラは首を傾げた。

 

 

 

 

 

−続く−

説明
投稿遅れて申し訳ございません。短めです。ご了承ください。
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コメント
漢女道の継承者さんたちを連れてきた……のか? その前にヤナギさんがなんかしでかしそうな気もしますけど……(神余 雛)
助っ人って誰だろ?ま・・・・まさか・・・化k「ぶるぁぁぁぁぁ!!!」ぎゃぁぁぁ!!(前原 悠)
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真・恋姫†無双 オリキャラ 北郷一刀 亞莎 

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