She is a albino girl  第3話
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「えーっ!京子ちゃん、それホントなの!?」

 

 

 昼休みもあと15分ほどとなり、つい10分前まで食事を求める生徒でごった返していた食堂も、今では椅子に座って談笑している生徒がちらほらいる程度まで空いていた。

 

 食堂に入った時点で50分ある昼休みのうち半分が既に過ぎていて、その頃には食券の券売機前に並ぶ生徒もほとんどおらず、私は人にもまれること無く悠々と食堂に入り、食堂中央辺りの二人席に陣取って弁当を広げていたチヨを見つけて合流した。

 

 そして、遅れてきた理由を頬を膨らませて聴いてくるチヨに先程あった出来事をサラッと説明している最中、「食事を一緒に〜」の下りでチヨが驚いたように身を乗り出してきた。

 

 その迫力にたじたじになりつつ、私は若干身を引きながら答える。

 

 

「う、うん、ホントだよ。断ったけど」

 

「なんで断るの!?」

 

「え?だって、男子と一緒に食事とか気まずいし」

 

 

 そう言うと、チヨはやれやれといった風に首を振ると、腕を胸の前で組んで顎を前に出し、人を見下すような冷たい目をして溜息を吐いた。

 

 

「ハァ〜。京子ちゃん、分かって無い。うん、全然だよ」

 

「何、分かって無いって。分かるように言ってくんない?」

 

「いいかぃ京子ちゃん?いやきょこたん!」

 

「何そのネーミング!?」

 

「確かに、きょこたんのいうことにも一理あるよ?そりゃ女の子2人の席に男子が混ざってくるのは気まずい。いやそれ以前に凄くうざい!それは認めるよ……でもね!」

 

 

 そこまで一気に言いきって、ビシィッ!っという効果音が聞こえてきそうなほどキレの良い動作で人差し指を吐きつけてくる。

 

 

「その相手が正臣くんと言うのなら話は別さぁ!正臣くんと一緒にご飯を食べるとか、正臣親衛隊(愛)会員としてはそれだけで幹部までのし上がれるくらいの功績なんだよ!?それをきょこたんは……きょこたんはぁっ!!」

 

「あ、卵焼き美味しい。今日は上手く焼けたわね」

 

 

 脳みその腐ったようなことを言っているチヨを華麗に無視して、綺麗な黄金色に焼けた卵焼きを口に運ぶ。

 うん、このトロッとした食感のあとに舌の上で甘く広がるこの感じは、まさしく美味の一言に尽きる。

 自分で弁当を作り始めてまだ1年くらいだけど、最初のころに比べればその出来栄えは雲泥の差だ。

 最初の頃はまさしく泥のような出来だったからな。よくぞここまで成長できたと自分で自分を褒めてやりたいくらいだ。

 この調子なら、今回は自身が無かったから冷凍食品で済ませたハンバーグも作ってみてもいいかもしれない――。

 

 

「ちょっと聞いてるのきょこたん!?私は怒ってるんだよきょこたん!?反省してるのきょこたん!?」

 

「はいはい反省してますよ、してますって。反省してるからそのきょこたんって呼び方を止めて」

 

「反省の色が見受けられないぞきょこたん!ちょっとそこに正座だきょこたん!今日こそはきょこたんにお説教と称してお子様には見せられないあんなことやこんなことを頭蓋骨が割れるくらいイダダダダッ!!?」

 

 

 ギブギブッ!とアイアンクローをする私の右手をパシパシ叩いて降参するチヨ。

 指を外すと、チヨは頭を押さえて机に突っ伏する。突っ伏するチヨのこめかみには赤いポッチが左右合計で5個ほど綺麗に残っていて、とても痛そうだった。が、全く同情してやる気にはなれない。

 

 

「ひぃ〜ん、頭がミシミシいってたよぉ〜。脳みそがキュッとしてドカーンされるかとおもったよぉ〜」

 

「毎度毎度私が許すと思わない方がいいわよって前にも何回か逝ったこと無かったっけ?」

 

「漢字が違うよ〜ぅきょこ…………ゲッホゴッホッ!京子ちゃ〜ん」

 

「よろしい。次は逝かせるわよ?」

 

「言葉はエロイのに寒気しか感じないよぅ……」

 

 

 ジロリと睨むと途端に顔を明後日の方向に向けて知らん顔するチヨ。ったく、この子は……。

 

 

「でも、意外だなぁ」

 

 

 改めて食事を再開した私に、ブリックパックの牛乳にストローを挿しつつチヨがそう言ってきた。

 

 

「なにが?」

 

 

 ハンバーグを箸で四等分に切り分けながら、私はまたチヨがバカなことを言ってきたときの為に準備をしてから聞き返す。

 今度は毒突きだな、と考え左手を指先を曲げた抜き手にして構えていると、不可解そうに眉根を寄せるチヨがストローに口を付けて聴いてきた。

 

 

「ぢゅりゅるりぃりゅぢゅ」

 

「いや、飲むのかしゃべるのかどっちかにしなよ!何言ってるのかさっぱりわっかんないんだけど!?」

 

「ぢゅ〜〜〜〜〜」

 

「飲むの優先!?」

 

「ぷはっ。えっと、何の話だっけ?」

 

「しかも忘れてるし!自分で聴いてきたことを忘れちゃだめでしょ!?」

 

「ああそうそう、昨日薄い本でロビンくんとスチュワートくんが互いの高ぶりをベッドで慰めてたって話だっけ?」

 

「どうでもいい!私はそっちには全く興味無いから!」

 

「失礼な、私だってそっちに興味があるわけじゃないよっ」

 

「あ、そうなの?ごめんね、勘違いして――」

 

「百合にだって興味あるもん!」

 

「余計酷くなったって自覚してる!?」

 

「嘘だって、覚えてるよ。京子ちゃんが意外だったって話でしょ?」

 

 

 突然真剣な声色になったチヨに少したじろぐが、チヨは一息で飲みきったパックからストローを抜き取って指先でいじりだす。

 

 

「京子ちゃん、いくら初対面の男子に抱きしめられたって言っても、それが助けられたっていうなら普段ならお礼を言ってその場からさっさと立ち去るタイプでしょ?」

 

「まあ、うん。そうだね」

 

「なのに、今回は自分からすぐに立ち去れない空気を作って、しかも初対面の相手に対して結構キッツイことも言ったんだよね?」

 

「…………うん」

 

「私の知ってる京子ちゃんなら、初対面の相手が男子だろうが女子だろうが、イケメンだろうがブサメンだろうが、恩人だろうが天敵だろうが、それこそ千差万別誰彼だろうと一切全く関係なく『相手の興味を引かないように』ふるまうはずだよね?それが今回は、無駄に相手に興味をもたれることになった。………………しかも正臣くんに名前を覚えてもらえるとか、羨ましいフラグ建てやがって(ボソッ)」

 

「何か言った?」

 

「ううん別にっ!兎に角、私はそこが意外だと思ったんだよ。普段から異常なくらい目立ち過ぎないように気を配る京子ちゃんが、今回に限ってここまで目立つような受け答えをしてしまったってことが、ね」

 

 

 そこまで言って、チヨはその垂れ眼気味の瞳で疑わしげに、サングラスの奥の私の目をジッと見つめてきた。

 その心の奥底を覗いているようなまなざしからそっと視線を外して、私は切り分けたハンバーグを一つ、チヨの口元まで運んであげる。

 

 

「はい、チヨ。あーん」

 

「あ〜〜〜んっ!う〜ん、おいしっ」

 

「冷凍食品だけどね」

 

 

 嬉しそうに相好を崩すチヨに私は微笑んで、残ったハンバーグを自分の口に放り込む。

 

 でも、そんなふうに話を逸らしても、先程チヨに言われたことが頭の中をぐるぐると廻り廻っていた。

 

 

(なんで今回に限って……か)

 

 

 それに対する最適解は、既に出ていた。

 でも、それに対する『何故』への答が、分からない。見つからない。

 

 強いて言えば、なんとなく、だ。

 なんとなくそう思い、なんとなくそう感じ、なんとなくそうなんだと分かった。

 

 けれど、その『なんとなく』に対する『何故』が、私がせっかくまとめた思考にハサミを入れてくる。

 

 

(でも……)

 

 

 それでも。

 最適解への証明がなかったとしても。

 

 

(私は……)

 

 

 あいつが。

 あの佐々木正臣と言う人間そのものが。

 

 

 心底苦手なのだ。

 

 

 

 

 私の思考を打ち切るように、チャイムが鳴り響く。

 

 その音は、自分自身に困惑する私に、何かの始まりを告げているようであった。

 

 

 

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その後の食堂にて
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