恋姫†無双 関羽千里行 第20-2話
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第20話 −拠点2-2−

 

○甘寧

 

愛紗「そっちはどうだ?!」

 

華雄「今のところ手応えなしだ。その物言いということは、そちらも何もなしか。」

 

愛紗「くぅ...私がついておきながら...雛里、頼む知恵を貸してくれ。」

 

雛里「あわわ!え、えーと、犯人はあれだけの重量を抱えて逃げるわけですから、そう遠くに行っているはずは...」

 

華雄「だが、この近辺はくまなく探したぞ?!」

 

雛里「...!愛紗さん、兵士さんたちに点呼をとってもらってください!」

 

愛紗「わかった!」 

 

そして...

 

愛紗「くっ!一人いなくなっていた。あたりを探したところ、縛られて草陰に放置されていたようだ。」

 

華雄「どういうことだ?」

 

雛里「その兵士さんはおそらく...」

 

愛紗「ああ、騎馬していたはずだったが、馬がいない...」

 

雛里「すぐに馬の足跡を追ってください!まだ昨日の雨で少し道がぬかるんでいますから、必ず足跡が残っているはずです!」

 

一同「応っ!」

 

華雄「おい、趙雲がいないぞ。」

 

愛紗「あんな奴放っておけ!行くぞ、華雄!」

 

華雄「お、おうっ!」

 

 

 

 

 そんなやり取りが行われている頃...

 

一刀「こ、これは反則じゃないのかな...」

 

思春「いえ、出された条件には何一つ反していませんので、反則にはなりません。」

 

一刀「そ、そうかもしれないけど...」

 

思春「大体、私に捕縛された時点であちらの負けのようなものです。そういった場合、その後のことを考えていなかったのは私の落ち度ではありません。」

 

 そう淡々と口にする思春は着ていたマントのような布を脱ぎ捨てていく。一方でその前の椅子に腰掛けている一刀は縄でぐるぐる巻にされていた。

 

今日は不測の事態に備える演習の一環として、近くの森で一刀を護衛して決められたゴールまで連れて行くという演習を行なっていた。その中で、愛紗や華雄たちは護衛役、思春の部隊が襲撃役という手はずになっていた。自信満々の愛紗たちであったが、今頃は慌てふためいているだろう。しかし、ただの襲撃演習のはずがなぜか縛られて連れて来られたという始末だ。

 

一刀「でも、あそこまでやるかなぁ。」

 

思春「実践的でなければ、訓練とは言えません。実際あの手の小細工など、そこら辺の野盗でもやっていることです。」

 

 思春がとったのは、見通しの悪い森の通りで、旅人を装った思春が護衛の部隊の前から現れ、すれ違う間護衛部隊が思春に注意している隙に両側面から部隊を使って襲うという手段だった。囮を使うというのは確かに単純な手段だったが、襲撃開始から混乱に乗じて俺を拘束し、そのまま脱出した手際の良さは見事という他ない。しかも追跡を阻止するために、襲った兵士から馬を奪い、そのまま部下に逆方向に走らせるという工作までしてみせたことには、一瞬思春がこの手のことに慣れているんではないかと疑ってしまうほどだった。

 

一刀「ところで、この縄はいつほどいてもらえるのかな...」

 

 猿轡までは外してもらったものの、まだ拘束は解かれていなかった。その点について思春にたずねてみると、

 

思春「...一刀様、その前に何か言うべきことがあるのではないのですか?」

 

 先程までの涼しげな表情から一転、少しドスのきいた声をこちらに投げかけてくる思春。全く覚えはないが、どうやら何か思春のご機嫌を損ねるようなことをしてしまったらしい。思い出すようにうーんと唸ってみせる。

 

思春「お分かりにならないのですか?」

 

 少し雰囲気が悪くなってくる。何か自分が思春の気に触ることをした覚えはないのだが...

 

一刀「...ごめん。教えてくれないかな。」

 

 それに思春は表情を引き締めると、

 

思春「一刀様、私に接近された時、抵抗らしい抵抗をされませんでしたね。接近された事自体、護衛の任を任されている者たちに責があるのはもちろんですが、それにしても自らに仇なそうという者に刃ひとつ向けないというのは、ご自身の立場に対する自覚が不足なさっているとしか言えません。」

 

 全くもってその通りだ。思春が言いたかったのは、もっと立場をわきまえて反省しろということなのだろう。

 

一刀「ごめん、前にいるのが思春だとわかったらつい安心しちゃってさ。でも演習だからってそんなんじゃだめだよな。これからはもっと気をつけるよ。」

 

思春「!わ、わかっていただければそれで良いのです。」

 

 何か取り繕うような素振りを見せた後、思春は縄を解いてくれた。

 

思春「さて、ここまで来たはいいですが、この後はどうしましょうか。」

 

一刀「うーん、一応まだ皆探してるんだよね...連絡しないのは悪いけど、反省と今後のためにも、皆が戻ってくるまで稽古をつけてもらおうかな。」

 

 その言葉に思春は柔らかに笑みを浮かべ、

 

思春「わかりました。お相...」

 

??「そういうことなら、私も力を貸しましょう。」

 

 そこへ、なぜか窓から半身を出し、部屋に入ってこようとする人影が現れた。

 

思春「星!?なぜお前がここにいる!?」

 

 思春は驚いた様子で星を見る。それは俺も同じだ。あれだけ念入りな工作をしていたのに、これほど早く見つけられるとは思わなかった。すました様子で、さっと室内に降り立つ星。

 

星「いや、何。こんなことではないかと思ってな。町の入口の警備を担当していたものにお前の格好を伝えて通ったかどうか尋ねたら、なんだか大きな袋を抱えて通っていったと答えたものでな。」

 

 自分たちの尊敬している人物が猿轡をかまされ、ぐるぐる巻にされた状態でいるところを見られたらさすがにまずいということで(実際のところは見られてもいつものことかと流されそうだが)、街を通る間は袋に入れて担がれていたのだった。 通った人の格好をいちいち覚えている警備担当もすごいと思うが、星の洞察力も中々のものだ。

 

星「主の鍛錬ももっともだが、折角だ。先程は遅れを取ったが、今度は正々堂々一対一でお相手願おうか。」

 

思春「いいだろう...覚悟するがいい。」

一刀「あはは...二人ともほどほどにね...」

 

 あからさまに不機嫌になった思春と、その思春の視線を楽しげに受け流す二人を連れ立って稽古場へと向かうのであった。

 

 

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○星

この世界で一刀が密かに楽しみにしているものがある。それは時にあちらの世界で暮らした日々を呼び起こしたり、或いはさらに古い幼少の記憶を蘇らせる。それは、この世界の職人の手によって完全再現された究極の…

 

星「おや、主ではありませんか。」

 

一刀「せ、星なんでここに?!

 

星「おや、不思議なことを尋ねられますな。商店に出向いているのですから、買い物以外にすることなどありますまい。」

 

星はそこまで言って何か合点がいったようにポンと手を打つと、

 

星「ああ、主ならば、店の見目麗しい女子と親しくなるためだけに来るということもありましょうな。いや、失敬。」

 

一刀「いや、そんなことはないけど...というか、そんな納得したような顔しないでよ!」

 

 ウンウンと唸っていた星は心底不思議そうな顔をしてからニヤリと笑うと、

 

星「どの口がそのようなことをおっしゃるのか。その証拠に主の周りには美しい女子しかおらぬではありませんか。」

 

一刀「それは否定出来ないけど...」

 

すると少し顔を赤らめたような様子で、

 

星「本人を前にして美しいなどと…こそばゆいことを言わないでくだされ。こちらが恥ずかしくなってくるではありませんか。」

 

一刀「言ったのは星だからね?大体、実際のところ恥ずかしがってないだろ。」

 

すると今度は、いたずらが発覚してしまった子供のように、

 

星「おや、ばれてしまいましたか。しかし、多少なりとも好意を抱いている異性に美しいと言われて何も思わない女などおりますまい?」

 

一刀「だから言ってないんだけど...全く。ところで星は何を買いに来たんだい?」

 

 飄々としながらもコロコロと表情を変える星といることで楽しい気分が湧いてくるが、ふとこの店に星がきている理由が気になった。

 

星「これです。」

 

そう言って一つの樽を指す。それには塩漬けにされた物体がぎっしりと詰まっていた。

 

一刀「これってもしかしてメン...」

 

星「そう!メンマです!」

 

 若干食い気味に答える星。どうやらメンマを前にしてテンションがだいぶ上がっているらしい。

 

星「いえ、最近ここの店主がメンマを作ると言うもので、こうして足繁く通ってはメンマの出来上がっていく様を日々観察しているのですよ。やはりメンマは国の宝。誰かしらがこうして見守っておらねばなりますまい。それに...」

 

一刀「う、うん...」

 

 一刀がいるのは最近できた漬物屋だった。呉の雪蓮が酒のお返しに塩を送ってくれたのだが、それで何かできないかと考えた結果が漬物の再現だった。もちろん、塩はまだまだ貴重なものなのでどちらかと言えば漬物は贅沢品と言えるのだが、富裕層を中心に人気が出始めているらしい。そういう一刀も少ない小遣いから度々仕入れては、酒のつまみに楽しんでいた。これで商売の匂いを嗅ぎつけた商人たちがもっと来てくれれば、塩も買い付けやすくなって保存食としても優秀なこれは庶民にも広まると思うのだが...

 

星「主、聞いているのですか。ここからが大事なところですぞ!」

 

一刀「あ、ああ、聞いてるよ。」

 

 そうして一刀は小一時間、星のメンマ談義に付き合わされたのであった。

 

 

 やっとこさメンバナ(メンマの話)から解放された一刀は、真剣に語る星に生返事を繰り返したため星の機嫌を損ね、今は近くの飯店で飯を奢らされていた。もちろん、目の前には山となった茶色い物体がそびえ立っている。さすがに今日はこれ以上メンマについてはお腹いっぱいだった一刀は、曲がりなりにもメンマの話にならないように細心の注意を払って世間話をしていた。

 

一刀「最近、ここも人が増えたよねぇ。」

 

星「ですな。活気があるというのは誠によろしい。だがこうなると、敵国の間諜などには入られ放題になるでしょうな。」

 

一刀「でも今のとこ知られて困るようなこともないし、いいんじゃないかな。今はどちらかと言うと活気をつけて、この国にもっと人が集まるようにした方がいいと思うし。」

 

星「それも一理ありますな。特に、我が軍は武将の有能さにおいてはあの曹操殿のところにも劣らないと思いますが、軍略や政略に長けた人物は少ないですからな。」

 

 それはこの勢力が抱える一万の問題でもある。曹操や孫策たちが今本気でここを潰そうと思ったら、と考えるとゾッとしないものがある。

 

一刀「そうだね...雛里にも最近街で起こる喧嘩なんかを止めるのにいい案がないか、相談しようともしてるんだけど、今でも十分忙しそうだし、こういう小さい案件は中々相談しづらいんだよなぁ。」

 

星「ほう?確かに人が集まれば、争いが生まれるといいますからな。小さないざこざは日常茶飯事といったことでしょうし、やりたいものにはやらせておけばよいではありませんか。度を過ぎた者には警邏の者を当てればよろしい。」

 

一刀「そうなんだけど、警邏も中々目が行き届かないところとかもあってさ。もっとこう、ズバーンというか、ビシッと解決する方法があるといいんだけどなぁ。」

 

星「ふむ。ズバーンで、ビシッとですか。」

 

一刀「うっ、なんか自分がすごく馬鹿みたいだ...」

 

 一人気持ちが沈んでいく一刀の前で、星はなんとなくその、ズバーンでビシッとについて考えていたが、ふと何かを思いつくと、

 

星「主、そのズバーンでビシッととやら、どうにかなるやもしれませぬぞ。」

 

一刀「えっ?」

 

 自分のアイディアにさも満足がいったかのように、満ち足りた様子でメンマを口にする星を見て、一刀はどこか既視感に似た不安を覚えるのであった。

 

 

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―あとがき―

 

れっど「新生活の季節ですね。実際には前回くらいだと思いますけど...お二人は何か新生活を迎えた皆さんに何か知っておいたほうが良いコトなどありますか?」

 

星「やはり、この時期はなんといっても筍が旬。ならば、皆今から筍を買い置き、各家庭でメンマを作っておくべきだということでしょう。今後はメンマの味が各家庭の味ということになりましょうな。」

 

れっど「確かに!温かい家庭には美味しいメンマというのが定番ですからね。(完全にメンマに毒されている)」

 

星「然り。」

 

思春「(何を言っているのだ、こいつらは...)」

 

れっど「思春さんはなにかありますか?」

 

思春「この時期は物騒な輩も活発だと聞く。新しい環境に面食らって、家の戸締りなどを忘れないようにな。」

 

れっど「そうですね!それではみなさん、新生活頑張って行きましょう!ついでくらいでいいのでこちらもよろしくお願いします。そういえば星さん、この前作った卵和えメンマがですね...」

 

星「それは興味深い。」

 

思春「...はぁ。」

 

説明
恋姫†無双の二次創作、関羽千里行の20話、拠点の2つ目です。
遠方の友人がわざわざ恋姫本の詰め合わせを送ってくれました。
天使か!
持つべきものは趣味を共有できる友人ですね。
それではよろしくお願いします。
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コメント
Alice.Magicさん あっ...(察し(Red-x)
星に名案・・・あっ・・(察し(Alice.Magic)
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