網膜に映る追憶を |
思えば、若い時から何時も何かに愁いていたような気がする。
それともそれは後付された記憶なのだろうか
家柄という装飾に惑わされずに、お前だけが他の者達と変わらずに私と接していた。
そうしてお互い下らぬ色々な事を話した。
好みの娘の話に始まり、酒や煙草、互いの珈琲の拘りの相違、今年のカーニバルでは誰が踊るかという話もしたのだったか。
お互い贔屓のベースボールプレイヤーを認めなくて殴り合いの喧嘩にまで発展した事もあった
ルチャの興奮の覚めやらぬままに集団でプロレスに興じた時は流石に父”前当主”に勘当されかかったのも今となっては良い思い出だ。
それが、崩れてしまったのは何時の事だったのだろうか
彼の妻が無実の罪で投獄され、獄中死をしたのが直接の切欠だったのだろうか。
それとも、彼が元々FARCと秘密裏に関係を持っていたからなのだろうか
以来、彼は本格的に、革命活動に身を擲つ事になって行く
妻の残した幼い娘と共に。
その後で、何が起こりえたのかは知る術も無い
知り得た結果は、親友が国家造反罪者として銃弾に倒れたという事だけだった
そして、幼かった親友の娘が成長して感情を削ぎ落とされた人形の目をして自分の前に立っている。
―なぁ、お前は娘にこんな顔をさせるために戦ったのか?―
記憶の中の親友は最後に撮ったポートレートの表情のままに何も応える事は無い。
それでも、言葉は勝手に紡がれた
「客人を持成さずに帰られたとあってはラブレス家の名に傷が付く」
これが親友の残した願いとなるのなら応えぬ道理は無いだろう。
さぁこれから「猟犬」としての鎖など取り払ってしまおう
どうか君に平穏な人生を
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