後の朝日を |
夢を見た
いつもの夢だ。
最後に見た夫の姿が、ずっと、ずっと遠くに行ってしまういつもの悪夢
どんなに手を伸ばしても、夫の名前を無き喚いても
決してあの姿が、近付いてくる事も 留まってくれる事も無い
何度も同じ夢を見て、夢だと知っていても尚
同じ行動をずっと繰り返すしか無い夢
繰り返さなければ、もうこの夢さえ見る事もできなくなってしまう
そんな恐怖感から抗う事すらできなくなってしまう 夢
夢 なのに、 そんな夢 だったのに。
今日は違った
縋る為に伸ばしていた手を掴まれた
耳元で誰かの声がした「大丈夫」驚いた
振り返ると、そこには「あ 貴……」
自分の喉が動く感覚と耳に届いた自らの声で目が覚めた
濡れた眦から泣きながら眠っていた頃ももう分かっている。
慣れた手つきで夢の余韻を引きちぎる
目覚めて最初に涙をぬぐう事ももう慣れた
だけど、こんな気持ちになったのは始めてだ
さっきまで見ていた夢を思い出す、想い、出そうとする。
途中まではいつもの悪夢、だけど 今回は
こんな終わりは初めてだ
落ち着こうと、頭を振ってから見ていた夢の事を考えた
子供の声、子供の声、誰かの顔
夢の残滓に、意識を強める
だが、強めようとしたその意思に夢の記憶は溶かされていく
儚く消えるその夢の記憶に夫を思い出して視界がじわりと滲む、慌てて思考を振り払おうともう一度頭を振った。 今度はさっきよりも強く
結われていない髪が流れて朝の空気に梳られた
夢はもう醒めたのに、強い確信が胸中を満たす
彼女は腹部に両手を宛てて、朝日の中で祈るように目を閉じた
床に落とされた涙の雫が、静かに朝日を映していた
これからの未来を示すように
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