恋姫†無双 関羽千里行 第20-3話
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第20話 ―拠点2-3―

 

○祭

 

一刀「のどかだなぁ...」

 

 あまりに気持ちのよい天気と川のせせらぎに、座っているだけでもついつい眠気さえ襲ってくる。今日は少し気温も高いが、川岸にいるおかげで適度に涼しい風が吹き抜け、心地よさが増している。

 

祭「はっはっは。北郷、こんなところを敵国の刺客に狙われでもすればひとたまりもないの。」

 

 そう言って豪快に笑う祭に一言。

 

一刀「それは祭も同じなんじゃ...」

 

祭「儂を侮るなよ?こうしていても、そうじゃな。あの岩のあたりまでくらいの距離じゃったら、こちらに殺気を向けた途端にわかるぞ。」

 

 そう言って笑い、酒を喰らう祭の目先を捉えると、一刀の目からは小粒程度の灰色の物体が確認できた。さすがは弓兵の視力の高さと感知力いったところだ。これで剣も扱え体術の心得もあるというのだから、死角なんてないんじゃなかろうか。 

 

一刀は祭に半ば強引に連れられて、近くの川までやってきていた。川岸の岩場に座る二人の手には釣竿が握られているが、一人の手には常に猪口が握られていた。どう考えても誰にも邪魔されずに酒を呑む場所を確保したかっただけだろう。そしてまだ仕事の残っているからと述べる一刀の言葉を全部いいからいいからとバッサリ切り捨てたのも、共犯者を仕立てあげるためというわけだ。一刀も初めこそ後にあるであろう愛紗の説教に怖怖していたものの、この陽気、そして釣り糸を垂れつつのっけから美味しそうに酒を飲み続けているいつもの祭を見ていればすっかり諦めがついてしまった。

 

祭「そういえば、北郷。お主の隊の訓練の方はどうなっておるんじゃ?」

 

一刀「ああ、祭のおかげで何とかやれてるよ。最近は隊の人とも結構打ち解けてきたしね。」

 

祭「そうか。まあお主にはあれの方が合っておるんじゃろ。我らの君主も自らと同じく人であると感じることで守りの意識が高まるか。他の国ではありえんことじゃろうがな。」

 一刀はそこら辺のチンピラ程度なら遅れをとることはないが、超人ではない。その身体能力は一刀を支える武将たちとは比べ用もないほど、ある意味では一般人並とも言える。そんな一刀が将として隊の指揮をとろうとすれば、自分のできないことを他人に押し付けているようにも見えるかもしれない。そう考えた一刀は自分が号令をかけなければいけないものを除いて、あえて集まってきた兵と同じ訓練を自らにも課していた。それは時に己の非力さを露呈し、一部その威厳を損なうことにもなったと言えるが、一刀の姿勢は兵たちには概ね好意的に受け取られていた。

 

初め一刀の考えを聞いた時には難色を示していた祭も、自分で考えた結果ならばやってみればいいということで今やその点についてどうこう言うことはなくなった。むしろ、一刀でも兵と一緒にできる訓練などをあれこれ考えてくれた祭のおかげで、隊の結束力が高まってきているとあれば頭が上がらない。

 

祭「お!かかりよったぞ。今日はよう釣れるの。夜酒のつまみと思っておったが、これは霞や星も呼んでやらねば食いきれんな。」

 

 そう言って魚籠に釣った魚を放り込む。その中身はそろそろ一杯といったところだが、対する一刀の魚籠の中はというと寂しいものだった。というかまだ飲むつもりなのか。はぁと溜息をついた俺の様子に、祭は不思議そうにこちらから一刀の魚籠の中へと視線を移すと我が意を得たりと大きく笑った。

 

祭「なんじゃ、北郷。お主、魚も釣れんのか。そういえば策殿もあれで釣りだけはからっきしじゃったな...堅殿もなぜか釣りだけは誘っても来なかったことじゃし。なんじゃ、王の器のある者というのは魚が釣れないものなのか?」

 

一刀「そんなことはないと思うけどなぁ。ちょっと場所を変えたほうがいいのかも。」

 

祭「ふむ。隣で釣っている儂がこれほど釣れているのに、そこだけ釣れぬということはあるまい。どれ、ちとその竿を貸してみい。」

 

 そう言って俺から竿を受け取った祭は何か仕掛けを施したのかわからないが、すぐに竿を返してきた。

 

祭「それで釣ってみて、それでもダメならやはり儂の考えは正しいということじゃな。まあその時は器があると思って良しとすることじゃ。」

 

一刀「それはそれでなんだか複雑なんだけど...おっと、きたか?!」

 

 糸を垂れて早々に竿が引かれる感触を覚える。上げてみれば一五センチほどの立派な川魚がかかっていた。

 

一刀「祭、一体どんな手品を使ったのさ?」

 

 驚いて祭に問いかけるとちょうど祭もまた一匹釣り上げたところだった。

 

祭「知りたいか。いいじゃろ、特別に教えてやろう。これじゃ。」

 

 そう得意そうに祭が片手に掲げていたのは酒瓶だった。針から魚を外した祭は酒を注いでほんの少しだけ口に含むと、糸の先に括られた餌に向かってプゥーッと吹きつけた。そ

れをそのまま川の中に放り込む。そしてしばらくすると祭の手にはまた魚が戻ってきていた。唖然とする一刀の横で、

 

祭「やれやれ、ここらの魚は皆下戸ばかりのようじゃな。呉の魚の方がもっとしっかりしておるぞ。」

 

 少々もったいないがとぼやく祭の横で一刀はポカーンと開いた口がしばらくふさがらなかった。

 

祭「さて、そろそろ帰るとするか。ひとまずこの釣り勝負、儂の勝ちじゃな。約束通り酒は奢ってもらうぞ。」

 

一刀「ちょっ!勝負なんて聞いてないしそんな約束した覚えは...」

 

祭「はっはっは!男が細かいことを気にするでない!では行くぞ、北郷!」

 

一刀「ちょ、ちょっとぉ〜!」

 

 その後、街の酒屋で酒を買わされた一刀であったが、不幸はそれだけにとどまらなかった。二人が解放されて酒と文字通りサカナを待つ霞と星のところにたどり着いたのは、すっかり夜も更けた頃だったという。

 

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○張三姉妹

 

地和「全く、ちぃがなんで部屋の掃除なんてしないといけないのよ。これくらい自分でやりなさいよね。」

 

人和「とか言いながらちぃ姉さん、しっかり仕事覚えてたじゃない。文句ばっかり言ってると幸福が逃げていくって言うわよ。はい、そっちお願いね。」

 

地和「はいはい。全く、人和は真面目なんだから...」

 

 ブツブツ文句は言うが手は一切抜いていない。それはちい姉さんなりにしっかりと恩義を感じているからだろう。

 

天和「ああ〜、ご主人様の匂いがする〜♪」

 

人和「もう姉さんも!まじめに掃除してよ。」

 

天和「わかってる、わかってる〜♪」

 

 寝所の枕に顔を埋めながら天和姉さんが答える。本当にわかっているのだろうかと呆れながら、机に雑多に積み上げられた竹簡の山へと目を向ける。初めは何が書いてあるのか読めてもほとんど理解できなかったが、ここ最近は少しなら理解できるようになってきた。それもこうして日々仕事に精を出しているからなのだと思うと、ふと自分たちはいつ歌手に戻れるのだろうかと疑問に思うことがあった。

 

人和「私たち、いつ歌手に戻れるのかしらね...」

 

 思ったことがついそのまま口から漏れる。

 

地和「そうねぇ。ここの生活は悪くないけど、やっぱり人前で歌えないのってやっぱり味気がないわよねぇ。」

 

天和「あれ〜?ちぃちゃん、いっつも文句ばっかり言ってるけど、ここ結構気に入ってる?」

 

地和「そ、そんなわけないでしょっ!ただ、昔と違ってご飯は三食ちゃんと食べられるし、愛紗たちもみんなよくしてくれるし、ご、ご主人様もあれで結構優しいし...」

 

 それは人和も常々感じていることだった。何より、あの北郷一刀という男。あれは天性の女ったらしだ。最初は自分たちを助けるなんて何を考えているのかわからないところがあったが、こうして一緒に生活してみればそれも単なるお人好しから来ているのだとわかり、納得を通り越して呆れてしまうほどだ。

だが、その呆れるほどのお人好しぶりは、この時代にあって人を惹きつけるものがあった。人和は、あんな人物と接すれば、異性ならば誰でも好きになってしまってもしょうがないと考えていた。かく言う人和も、命を助けられたからというのではなく、日々の暮らしの中で自分にもその気持が芽生えつつあることは自覚していた。それはおそらく自分の姉たちもそうなのだろう。事実、ご主人様がいない間のちい姉さんはどこかいつもより元気がなかった気がするし、天和姉さんに関してはあからさまにしぼんでいた。

 

 そこへ、

 

一刀「みんな、お疲れ様〜。お茶もらってきたから皆で飲もうよ。」

 

 件の人物が茶器を手にふらっと戻ってきた。少し取り乱しつつ居住まいを正そうとする様子のちい姉さんに対して、ぱあっと顔を明るくして歓待する天和姉さん。今まで二人を冷静に分析していた私は今、どんな顔をしているのだろうか。

 

人和「あ、それは私たちがやりますから。ご主人様は椅子に掛けていてください。」

 

一刀「いいからいいから。お茶菓子もあることだし、俺がお茶を入れてる間に三人ともホコリを落としてきなよ。」

 

 そんないい顔でそんなことを言うのは幾分ずるいのではないだろうか。そう考えているうちにも既に茶を淹れようとしているご主人様の厚意に甘えてホコリを落としてくることにする。

 

 

 

 

 

四人でテーブルを囲み、

 

地和「ねぇ、私たちの歌手活動復帰の方はどうなってるのよ?」

 

人和「それは私も聞きたいです。」

 

天和「あ!私も聞きたいな〜。」

 

 先程までの話題ともなっていたので、その点が気がかりだった三人は出されたお茶にも構わず早速一刀に詰め寄る。

 

一刀「お、丁度それについても報告しようと思っていたんだよね。それじゃ...じゃーん!」

 

 そう言って一刀は一束の書類を取り出す。何か何かとそれに目を向ける三人に見えたものは、

 

地和「麗...舞...企画書?」

 

 なんのことかと疑問符を浮かべる三人に一刀が説明する。

 

一刀「これはね...なんと!君たちの記念すべき復活公演の企画書です!」

 

三人「!」

 

一刀「前に少しだけやったやつがあったろ。あれ以来、次はいつやるのかって皆にせっつかれてさ。見てない人にまで結構噂が広まってるらしいんだ。そこで、そろそろ大丈夫かなーということで、こんなものを作ってみたってわけなんだけど...どうかな?」

 

 と言う一刀の台詞もどこ吹く風、三人は食い入るように企画書に見入っていた。

 

人和「この会場だと...集客はこれくらいかしらね。あとは後ろの人にも見えるように台を...」

 

地和「最初はどれからいこうかしら?どうせなら最初にパァッと盛り上がるやつがいいわよね。それなら...」

 

天和「あとは、ここをこうして...」

 

一刀「全く、こっちの話はちっとも聞いてないみたいだ。」

 

 夢中になる三人を一刀はしばらく温かい目で見守っていた。

 

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―あとがき―

 

れっど「張三姉妹の皆さんは歌が得意だったりしますけど、祭さんはそういうの得意だったりします?」

 

祭「儂か?儂はそういうことはあまりしたことがないからのう。呉には戦場に出て歌うような酔狂な輩はおったがの。」

 

天和「へえ、その人はどんな歌歌ってたの?」

 

祭「どんなと言われてもな...あいつの歌というか叫びじゃな。あれはようわからん。なんだかやけに気合が入ってくるし、なぜか力もいつもよりみなぎるのじゃが、あいつが何を言っているのかはてんでわからん。ついでに言えばあいつが歌い出すと周りにいるやつも歌い出すんじゃがやはり意味不明じゃ。」

 

地和「ふーん。なんだか凄い人みたいね。」

 

人和「...(今度取材に行ってこようかしら。)」

 

れっど「大きい声出すと気合はいりますよね。それでは次回もお付き合いいただけるという方はよろしくお願いします。」

 

説明
恋姫†無双の二次創作、関羽千里行の第20話、拠点の3つ目です。
拠点に時間使うのもなにかと思ったので早めに上げてみました。
今回は祭さんと三姉妹ですが、三姉妹は人和さん寄りに書いてみました。
それではよろしくお願いします。

※最近前に自分が書いたものを見なおしたんですが...何やってんだ。
数カ所修正しましたが前から読んでいただけている方は違和感があったかもしれません、申し訳ないです。
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コメント
キャー、リューサーン(ロンギヌス)
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