人類には早すぎた御使いが恋姫入り 五十三話
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華琳SIDE

 

そもそも覇道という言葉を語ったのは戦国の世にて理想的な政治国家を夢見た孔子が自分が思った理想の政治を『王道』とし、その時期軍事力を以って天下で争っていた秦や楚などの国々の政治を『覇道』と言ったことから始まる。

 

孔子は『覇道』を『邪道』と言い非難した。

実際に強大な力を以って手に入れた天下がひとつで居た時間は長くはなかった。

 

秦始皇はそれこそ強大は国を作った。

儒教の教えの代わりに法と軍事力、法家の教えに則って国を治めた。

その間歴史に置いて暴君と言われる蛮行を数々起こしたけど、それをさておいても、秦始皇が去った後の秦は長く続かず、結局漢が建った。

 

漢が立つ前に楚の覇王、項羽が居た。

項羽は武はあったけど知略には疎かった。

結果連戦連勝するもたった一回の負けで長江を渡らず自決した。

 

『覇』とは何かですって?

それはたった一人の人間が天下という大きな舞台を自分の遊び場のように暴れまわるもの。

天下とはこの私を称えるためにあるものだとそう信じて疑わず前に進むものだけが目指すことの出来る道が『覇道』。

そして、その道を歩もうとする者が『覇王』。

 

天下とはこの私のための存在する。

だからこそ欲しいものがあればなんでも手に入れたい。

それがモノでも、人でも。

 

そしてその中で今何よりも欲しいものが何か私に語らせれば、それは誰でもない北郷一刀、あなたよ。

 

だけど、

 

「その手には乗らないわよ」

 

違う。

こうではない。

 

「あなたと今ここで覇道を語ったりなんてしたらおしまいなのを私が見抜けないとでも思っているの?勝っても私は私の覇道を侮辱した貴方を切り落とす。負けたら負けたで貴方は付いてこない。そんな罠にひっかかるほど甘くないのよ。誰かさんのおかげでね」

「……」

 

彼は正しかった。

少なくとも、彼はもう覇道に興味がない。

それこそ突然見かけたどっかの弱小勢力の娘を最初から育てる方に余念なくしているほど、

 

『彼は私の覇道に興味がない』

 

私には一度機会があった。

それは虎牢関で袁紹の首を締める策を練った一刀の思惑を察した時だった。

私が彼の意見を尊重するとすれば、私は手を出すべきではなかった。

だけど私は張遼の欲しさに春蘭たちを出した。

 

その結果、彼は自分の身を敵陣に投じる苦肉の策を使わざるを得なかった。

そこにどんな思惑があったかは知らないけど、あの時凪に言われたように、あれは私のせい、『私の覇道』のせいだった。

 

この時点で私にとって『覇道』とは、私の目指す道である以前に彼を得ることにおいては『障害物』でしかない。

 

だからこの瞬間、この場で私の『覇道』はその姿を隠す。

覇者がその堂々とした姿を隠してなるものなのか、彼にそれほどの価値があるのかと言われたら……

 

『そんなの知ったことではない』

 

「手段と目的が逆なのよ」

「……?」

「確かに覇道というのはね。孤独な道よ。だからこそ崇高で、そのせいで誰とも分かち合えない。だけど、勘違いしていたわ。あなたも、そして私も」

「どういうことだ?」

「私は『覇道』を歩む者だから天下を得ようとしたわけではないわ。天下の全てが欲しかったから『覇道』という道を選んだのよ」

「……!!」

 

この差が判る人がどれぐらい居るかしら。

恐らくこの世には居ない。

 

だって、言ったことがない。

誰にも話したことがない。春蘭にも秋蘭にも桂花にも……。

 

覇王こそがたったひとつしかない天下という全てを得る者に相応しい名としよう。だけど覇王だからといって全てを得ることが出来るわけではない。有能な人材、従ってきた人、心より欲していた誰かまで、『犠牲』がなければ歩むことが出来ないのが覇道。

 

もちろん、私はワガママな子供ではない。得ようとするものがあるならそれなりの対価を払う。覇道とはもっと崇高な理想のために沢山のものを犠牲にしなければならない道だと判っていた。

 

だけどその一方、

 

踏み外せない場面がある。

その場に賭けてはならないものがある。

 

それは私はそうやって犠牲にしてまで得ようとしたまさにそれ。

私の目的は『覇道』を歩み切ることではない。

『覇道』目的のための『手段』に過ぎない。

だから天秤に賭けて譲れないソレがあるなら、覇道という手段は無視される。

 

覇道とは、私が目指す道であって、私が欲してるそのものではないから。

 

「…あまりにも多くのものを欲した故に、たった一つの手段を選んだ。……そうか、そういうことだったのか」

「…判るの?」

「判る…判るとも…ハハハ」

 

彼は力がこもってない笑い声を吐いていた。

こんな私に呆れているのか、それとも…。

 

「人間は強欲な生き物だ、華琳。故にその欲望は無限。だけどその無限の欲望を満たすために行く道もまた無限。だから人間は常に選択をしながら生きる。選ばれなかった道は消え去り、二度と歩めない。諦めた道の数だけ、その人が欲したものも犠牲にされる。なのにお前はその全ての道を束ねる一つの道を選んだとして、覇道を選んだわけだ」

「……あなたが言うほど万能な道ではないわ」

「判っている」

 

私は彼の声がいつもと一旦変わっていることに気づいた。

いつものように相手を嘲笑うかのような言い方ではなかった。

 

「俺にこう問う奴らが居た。それこそこの世界に来てからことごとく言われた言葉があった」

「…『何故あなたは自分の軍を作らない』」

「そうだ。その質問。俺は一度も、それに関してまともに答えたことがなかった。だけどお前にだけは話そう。俺がこの世界で天下を目指さなかった理由」

「『興味』がなかったから。そうでしょう?」

「……興味などどうでも良い」

「!!」

 

信じられなかった。

彼の口から興味なんてどうでも良いという言葉が出たことに私はどう反応すれば良いか分からなかった。

 

「俺は興味のために生きた。華琳。それは確かだ。それこそが俺の生き様だ。だけど俺にとって興味を満たすという行為はもう、『目標』ではなく『手段』でしかない」

「…何のためのよ」

「『誤魔化す』ためだ」

「誤魔化す?」

「そうだ。誤魔化すために。俺が本当に欲しがっていたものを永遠に失ってしまった悲しみを誤魔化すための手段」

 

そして彼は語りはじめた。

いつか聞いた彼の幼い頃の話。

そのつづきを……。

 

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一刀SIDE

 

天才と称され子供には耐えられない色んな圧迫を受け続けた俺はある日、高熱が死の境をさまよった。

そして奇跡的に生き残った俺には、もう昔のような才能は残っていなかった。

そのために俺は捨てられ、孤児院という施設に預けられた。

 

知っているか、華琳?

この施設は本来親のない子供のための施設だ。

そんな施設に親が子供を入れたことが何を意味するのか判るか?

 

だがそれはどうでも良かった。

少なくとも俺にとって、あの場所は捨てられた子犬の入った紙箱と一緒だった。

 

最初の頃は見知らぬ場所に置かされて何がなんだか分からなかった。

まだ病院から出て間もなかった。もしかしたら退院した直後だったのかもしれない。

俺が親に捨てられたことに悟るまでは時間がかかった。

 

施設は思い出という言葉が使えるほど良い場所ではなかった。

施設を運営する院長は利を得るための孤児院を運営する人間だった。

施設に支援される金を流用して使い、後援金を横領して自分の財布に入れることに躊躇のない人間だった。

 

その中に居る孤児たちの中には肉体的や精神的に欠けている子も多かった。

奴はどこかにそれを伝えることの出来ない娘たちに手を出したりもしていた。

他の子供たちはそんな奴の蛮行を知ってはいたが、誰もそれをどこかに訴えることはしなかった。

子供の証言で懲罰される可能性も低ければ、万が一相応の罰を受けるとしてもそうなった場合施設は閉鎖され、自分たちは居場所を失う

そう思った子供たちはただ奴にされるがままにされていた。

 

最初は俺も特に何もせず奴が何をしようと見ているだけだった。

ぶっちゃけその頃の俺はそんな光景を見てもどうとも思わなかった。興味がなかったのだろう。

奴は俺の親から多額の金をもらっていたらしく、俺に直接手を出すことはなかった。

 

そうやって数年が経った頃、施設に新しい少女が一人入ってきた。

彼女は言語障害、言葉というものを作り出すことが出来ない娘だった。

 

院長がいつものようにその少女に手を出していた時、事件は起きた。

俺はほんの偶然で自分の部屋で彼女を襲おうとする院長の姿を見てしまった。

いつもなら知らんふりをしただろう俺は、気がついた時には院長の顔に大きな傷を与えていた。

叫びながら孤児院から逃げていく院長を見て俺は考えた。

何が俺に火をつけたのか。

俺の頭は昔子供の頃のように高速に回転していた。

 

それからは簡単だった。

院長を脅迫し経営権を得て、孤児院の金で投資した会社を乗っ取り経営権を得てそこから事業を広げて……。

 

だけど、普通の人間にとってはどんな欲望でも叶えるほどの業績を為しても、俺には何の興味のないことだった。

俺にとって『興味』とは、俺の心に再びを火をつけてくれたその少女へのそれだった。

俺の外でやることは俺にとって一切意味をなさないものだった。

俺にはただ一つだけあれば、それで良かった。

 

だけど、世界は本当に残酷だったのだ。

俺には他のなにでも意味がなかった。

会社も孤児院も、その中の孤児たちさえも何の意味もない存在だった。

俺がこの世で興味があったのはたった一人の女だけだったのに、

 

世界は俺からその女を奪い去った。

 

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華琳SIDE

 

いつかそんな事があった。

初めて軍に来た凪たちに彼が酷い仕打ちをしたと知った私は彼に言った。

 

『あなた普段人に向かって興味深いとか言ってるの、なれない人が聞くとすごく機嫌損ねるのよ。だから、今度凪に興味深いと言う時に『興味深い』を『好き』と変えて言いなさい』

『……孟徳』

『別に意味の違いもないでしょ?』

 

……そう、あながち間違いでもなかったわけね。

 

「彼女は、どうなったの?」

「死んだ。とってもあっさりした事故で…誰かの陰謀があったわけでもなく、ただの偶然が起こした事故。全てを失った俺に与えられたたったひとつの興味が消え去った後、俺が得たものは何の意味もなさなくなった」

 

そんな才を持ちながら一度も天下なんてものを目指さなかった。

それも当然。

そこには彼が欲するものがなかったのだから。

 

「俺は彼女を失ってまた全てに置いて興味を失いそうになった。だけどそうなってしまってはならないと俺の中のどこかでささやいた。だから俺はありとあらゆることに手を付け始めた。条件は一つ、俺が少しでも興味を向けば良い。糸筋のように細い興味を掴みながら俺はこの世界で逃げ続けた」

「最初から私の覇道や劉備の理想は、あなたが欲しがっていたものの『代わり』でしかなかったわけね」

「………ああ」

 

私たちには共通点がある。

私は欲する全てのためにたったひとつを選んだ。

彼は欲するたったひとつのために全てを選んだ。

 

でも結局どっちも欲するものまでは手が届かない。

届かない何かを掴もうとすることほど、虚しいものもない。

ほんの一瞬でも後ろを振り向いてしまったら、全てを諦めてしまうかもしれない。

だからより深く『手段』に頼る。それこそ目標を失ってしまうほどに。

そうなってはならないのに。

そうなってしまっては元も子もないというのに。

 

彼がこんな所に転がっている理由が判った。

彼はつかれていた。自分が逃げ続けていたその道を振り向いてしまった。

その虚しさに気づいた瞬間、それに強く頼っていた分絶望も深まる。

 

「それで、このまま終わらせるつもりなの?その疲れきった、やり尽くしたかのような顔で。本当は何もやっていないくせに」

「……そういうお前はどうだ。目指していたものは…まだそこに残っているか」

「ええ、まだ今はね。私の目の前に残ってるわ」

 

それがとても遠くて儚いものに見えてしまうけれど……。

 

「私はあなたが必要よ」

「…お前の覇道のためにか?」

「どうでもいいわよ。そんなものなんて」

 

言ったはずよ。

『覇道』とは手段に過ぎない。

私が欲するものは、つまり私が求める全て。

私が欲する全てを得るために覇道を選んだ。

 

だから今私が求めるのは、ただあなた。それ以外には何にもあなたより上に置かれるものなんてない。

 

「私のところに来なさい、一刀」

「……」

「あなたに必要なのは感情を誤魔化すために走り回ることではないわ。新しい目標を見つけること。そして今、私はこう提案しているのよ

 

『その目標を私に定めなさい』と」

 

彼は自分が本当に興味を持ったのが自分の再び天才として覚醒させたその女しかないと言った。

だけど私はそれは違うと断言する。

その証拠に、彼は無意識的に自分の周りを人を集めた。

彼は常に自分の側に誰かが居る状況を求めた。

彼がそれを自分の悲しみを誤魔化すための手段だと言うけど、私にはその逆にも見える。

 

つまり、彼の本能は立ち直って前に進もうとしている。だから新しい人たちを新しい道を歩もうとする。だけど、彼が自分で意図的に何かをする時は、彼はいつも一人になり、側に居た人を捨てることで自ら一人になろうとしていた。

一人で言って苦しもうとしているのは彼の理性とやらの勝手なワガママでしかない。

 

「私はあなたが必要よ。そしてあなたにも私が必要。互いの理想がどうだか、興味がどうだが知ったことじゃないわよ。あなたに私の理想について語らせるつもりはないし、私もあなたの過去の恋話を汚すつもりはない。だけどね、あなたも私もここで立ち止まるわけには行かないのよ。振り向くわけにはいかないのよ。でも私はあなたが側に居ないとどうしても自分が正しかったのか振り向きたくなるのよ。だから私の側に居なさい。そしたら私もこれからあなたが昔のことを振り向きながら鬱病抜かす暇もないぐらいこき使ってやるから」

 

「…随分と荒れた告白だな」

「う、うるさいわね。で、どうなのよ。やるの?やらないの?ちなみにあなたに選択権なんてないわよ」

「…はっ」

 

彼は笑った。

笑ったと言ってもいつもの嘲笑ではなかった。

恐らく身体が悲鳴をあげてる彼にとって、それが精一杯の笑みだったのでしょうね。

でも、直ぐにその笑みは去った。

 

「華琳、伏せろ!」

「へっ…!」

 

その瞬間、私は自分の横を通る刃物の光に気づいた。

そして、それはもう『遅い』という傍証でもあった。

 

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一刀SIDE

 

赤い血が彼女の肩に流れる。

後ろから輝いた剣は、華琳のクルクルの髪と右の肩を斬った。

 

「ぁああああ!!!」

「おっほほほほ…アーハハハハハハ!!」

 

悲鳴。

 

そして、

 

「わたくしが言いましたわね、華琳さん。殺してやりますと、あなたも、その男も」

「袁本初……!!」

 

肥えた豚どもの傀儡が…!!

 

「うぅ…麗羽……どうして…」

「あなたを追って来たましたのよ。おかげで何度も死にかけましたけどね」

「こんな事をして…何の意味が…」

「意味なんてありませんわ。あなたが言った通り、私にはもう何も残っていませんもの。おかしくありませんの。このわたくし、袁本初が全てを失ったのに、あなたは全て得ようとしているのですわよ!こんな理不尽なことがあって我慢できると思いますの!」

 

袁本初…。

こんなことをする度胸なんてない人間だと思っていたが、追い詰めすぎたな……。

俺と華琳が互いの話に集中している時を狙うとは、普段のコイツに考えられることではない。

 

とは言え、状況は最悪だ。

 

「全てが私の思うどおりになるはずでしたのよ。洛陽に居座ったあの田舎娘をとっちめて私が洛陽を手に入れるという華麗な作戦が…あなたたちのおかげでここまで堕ちてしまいましたわ。例えこのまま帰れないとしても、あなたたちを道連れにしようではありませんの」

 

片腕…

片腕だけで良い。

今一度だけでも良い。

動いてくれ。

 

天よ。

俺を選んだか?

なら今一度だけ俺の願いを聞いてくれ。

ほんのすこしで良い。

 

「これでおしまいですわよ。華琳さん!そして天の御遣い!!!」

 

動け…!

 

 

 

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タン!

 

 

 

 

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華琳SIDE

 

斬られた肩を押さえつけながら麗羽が両手で握った剣が上がるのを見るしかなかった私の耳が壊れそうなぐらい大きな音がすると同時に、麗羽は剣を持ったまま後ろに倒れた。

 

「……へ?」

「…自分の手で殺したのは初めてだ。…正直な話、俺は感情は乾いた人間だからな。罪悪感はない。間接的に殺した人の数はこれでも結構あるからな」

 

一刀の方を見ると、右手に黒い機械を握っていた。

 

「何それ」

「小さい金属製のタマを高速で射出させて狙った相手の内蔵を千切る、俺の世界の弓と思えばいい。頭や心臓のあるところに命中すれば即死もありえる」

「あなた…どこからそんなものを…」

「俺のタイムマシンにあったものだ。お前が来なかったら…自殺用で使うものだったが、まさかこの世界に来て初めて自分の手で殺す人間がこんなどうしようもないバカになろうとは…」

 

そう言いながら彼は手に持っていた武器を落とした。

そして、自分が着ていた上着を脱いで片方の袖を力を入れて千切った。

 

「肩を見せろ」

「あなた…もう大丈夫なの」

「…身体が少し軽くなった。遅かったがな」

「っっ!!」

 

少し痛いほどに彼は千切った袖で肩を強く締めた。

 

「…麗羽は…死んだの?」

「……弾は一発だけだった。即死させなければお前が死んでいた」

 

私は倒れた麗羽の方を見た。

彼女の鼻溝あたりに穴が空いて、地面には彼女の血が溜を作っていた。

 

こんな醜い姿で死んでしまうとはね。

私があなたを追い詰め過ぎたわね。

仮にも昔は一緒に学んだ仲だったのに…。

 

「……ここから出るぞ」

「へ?」

 

そう言って彼はそれまでまったく動かないかのように力無く崩れ落ちていた身体を引き起こした。

 

「あなた、まさか今まで演技だったの?」

「ほざけ。この痛みが演技だったらお前に十分の一でも分けてあげたいぐらいだ」

 

…私に冗談を言っているの?

 

「ほら、立て。斬られたのは腕で脚じゃないだろ。俺もお前を担って歩けるほど丈夫な状態じゃない」

 

彼は立ち上がって、少し離れたところに置いてあった杖を拾い上げた。

 

「あなたの態度の変わり様はいつ見ても慣れないわね」

「強要はしない。だが控えるつもりもない」

「いいわよ、別に。そういうあなただから欲しかったんだもの」

 

私も斬られた肩を握りながら立ち上がった。

しかし、上はふさがっていて出られない。

 

「出られる目論見はあるの?」

「はて…どうだろう。皇帝の部屋からつながっている秘密部屋だ。ただの宝倉庫なだけだというには……」

 

彼はそう言いつつ杖で壁を叩きはじめた。

少しずつこっちに寄って来ながら壁を叩き続けた先に、中が空っぽのような音が聞こえた。偶然か、そこは彼が居座っていた場所の真上だった。

 

「あなたも相当間抜けなことしたわね」

「…黙れ」

 

彼はそう吐き捨てて壁のあっちこっちを調べた。

 

「……あった」

 

そう言った彼が壁のある部分を押すと、その部分が中に入りながら、壁が開き長い通路が現れた。

 

「どこに繋がってるかしらね?」

「希望としては近いところであって欲しいが、逃走用で作られたことを考えると恐らく洛陽城から相当離れているだろう。長く歩きそうだが、大丈夫か?」

「私が斬られたところは腕であって脚じゃないんじゃなかったの?」

「……そうだったな」

「あなたこそ、途中でまた倒れたりはしないんでしょうね」

「…保証はできない。もし倒れたら俺は構わず出てくれ」

「いやよ。地面に引きずってでも一緒に出てやるわ。もう二度と私の視線が届かないところに置かないわよ」

「……はぁ」

 

彼はため息をつきながら前に進んだ。

 

「ちょっと、今のため息どういう意味よ」

「……」

「ね」

「……」

「答えなさいよ。斬るわよ」

「喋る気力があったら脚を動かすことに使え。言っておくけど俺はお前が途中で倒れても助けたりしないからな」

「ああ、なんか疲れてきたわ。ちょっとおぶおぶってちょうだい」

「…うるさい」

 

・・・

 

・・

 

 

-7ページ-

 

 

桃香SIDE

 

ボタ

 

「…うん?」

 

祭壇に座って儀式を行なっている朱里ちゃんの横で、儀式なんて何をどうすれば全く判らないけど、それでも天に願う気持ちで祈祷をしていた私の手に冷たいなにかが落ちました。

 

目が開けてそらを仰向くと、今度は鼻のさきに水玉落ちました。

 

「雨……」

「はわわ!桃香さま、やりました」

 

朱里ちゃんが横で嬉しそうな顔でそう言いました。

 

「やった……やったよ、朱里ちゃん!」

「はわわ!」

 

私は朱里ちゃんを抱えてその場でぐるぐると何度か回りました。

 

「はわわ、桃香さま!やめてください!目が、目がまわ…」

「雨だ!雨降ってるよ、朱里ちゃん!」

「はわわ!!」

 

つぶつぶ降り始めた雨は、みるみるうちに洛陽を覆ったどしゃ降りの雨に変わりました。

 

天が私の祈祷に応えてくださったのでしょうか。

 

中にいる一刀さんと華琳さんは無事でしょうか。

早く助けないと…

 

天に願えることは終わりました。

後は私たちでなんとかしなければなりません。

 

 

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<解説>

 

今書き終えたばかりのものをあげています。

なんかもう…自分は賢者モードに近い何かに入っています。

解説なんて出来る状態ではありませんがこれだけは言わせてください。

 

ー袁紹殺す必要あった?

 

途中で助けることが出来たなら殺す必要もなかったでしょう。

でも途中で救済措置なんて全く作っていなかったので助けることができませんでした。

先に曹操に追いかけていたのを書かなかったのは入れるところを忘れ…たのではなく、そこで付いていったと言ってしまったらもう死亡フラグ丸出しだったので、最後に突然出しといてあっさり行かせちゃいました。

 

ー覇道とはなんだったのか?

 

そもそも華琳さんが願っていたのは本当に『覇道』だったのか?

 

それが私の中の問いでした。

 

華琳さんが本当に願うものって何?

覇道って何?

覇道を定義つけることができれば、華琳さんの目標も定義付けられるのか?

 

あいにく自分は天才でもなければ覇者でもないのです。

そんなの判りません。

だけど、これだけは言える。

華琳さんが本当に願うものが覇道ならこれから秋蘭や一刀だけでなくもっと多くの犠牲を出すことになる。

それでも華琳さんは泣かないでしょう。

『泣かない』だろうから、私は認めない。

華琳さんの覇者だなんて

 

絶対に、認めない。

 

 

 

 

 

説明
全ての終着。
色々言うことありそうですね?不満もありそうですね?
だが私は何も惜しく思わない。
今までで一番清々しい気分なのです!
書き直せ?
ハハッ!断る!

……袁紹、ごめん。本当に…ごめん。
お前が袁紹だったのが行けなかったんだ。
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コメント
麗羽め…2枚看板に見捨てられた時点で…こうなるのは目に見えていたが…本当にこうなったか…たわけ…(アーバックス)
覇道とは武を持って己に敵対するものを抑えつける道、覇者とはそれによって治めた地すべてを守るもの。故に董卓は覇王、覇者と呼ばれず魔王と呼ばれる。覇者は必ずしも独裁者である必要はなく、原作の通り三国が存続状態であっても何らおかしくはない。だが、ここに貴方が考え自身の答えを出したことに百万の敬意を(Night)
まぁ華琳は実際の所、覇道と口にはしていますが歩もうとしているのは王道、と言うより正道ですから、本当は覇道なんて言ってはいけない人だったりします。むしろ自分以外の全てを見下す気性を持つ袁紹の方が、覇道を歩んでいると言ってもいいかもしれませんね。(h995)
袁紹、散る・・・これもまた1つの結末なんでしょうね。これから一刀と華琳はどこへ出ることになるのでしょうか?(本郷 刃)
二人は欲したために選んだのに、それが手に入らない。袁紹もついに死んでしまった。二人にはこれから少しでも幸せになって欲しいですね。(山県阿波守景勝)
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真・恋姫†無双 恋姫 一刀 華琳 韓国人 

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