真恋姫†夢想 弓史に一生 第七章 第十話 |
〜聖side〜
混乱は収束を見せ始め、桃香たちも落ち着きを取り戻した。
俺たちは至急軍議を開くため、両軍の主だった将を軍議用の机を置いた天幕へと呼び寄せたのだった。
「ふわぁ〜…………う〜……眠いのだ〜……。」
「こら鈴々、一将として恥ずかしいぞ。シャキッとせんか!!」
今にも瞼同士がくっついてしまいそうなほど薄くしか目が開いてない鈴々を、愛紗が横から揺すって起こす。
時刻は既に夜中。
天幕の入り口から見えるは、漆黒の夜空に対比するかの如く輝く月とその輝きに見える喧騒と対比する静寂。
相反するが心地の良い矛盾は、見ていると心が惹かれずっと見ていたくなるものだが、鈴々にとってはそれはおやすみのサインでしかないのかもしれない。
「愛紗、そう怒るな。人間誰だって眠いものは眠い。鈴々にはこの軍議で決まったことは明日朝に教えるとして、今日は休ませてやったらどうだ?」
流石に俺に決定権は無いので、桃香に提案という形で話を振る。
桃香は基本的に優しい娘だ。
俺の提案を受け入れると、鈴々にもう寝るように伝え、鈴々は自分の天幕へと戻っていった。
「ごめんね〜ひ〜ちゃん。遅くなっちゃった!!」
鈴々と入れ違いに天幕の入り口から雅が入ってくる。
これで両軍の主だった将全員が揃ったわけだ。
「遅かったな。既に寝てたか?」
「ううん。ちょっと身体を拭いてたら遅くなっちゃった。」
その言葉と共に雅の目つきが変わる。
その目は何か悪戯をしようとしている子供と同様で、背筋に嫌な汗をかく。
………まさか…………。
「汗も掻いたし、体中白いのでべたべたになっちゃったから拭いておかないと気持ち悪くて♪」
おおおおおおおおおぉぉぉぉいいいいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!!!!!!
今はそんな話をぶっちゃける場じゃないって〜!!!!!!!!!!!
「………へ〜……そうだったんですか。(棒読み)」
「……それは拭かないと気持ち悪いのです(棒読み)」
「…………………。」
「あ……あんちゃん、不潔ばい!!!!」
ほら見ろっ!! 橙里、麗紗、蛍から感情が抜け落ちて、音流から不潔扱いされてんじゃねぇか!!!!
良いか、触らぬ神に祟り無しと言う言葉があるようにな、これ以上ここに触れるのは―――。
「そうなの♪ もう足腰が立たなくなるくらい激しくされたから、身体を拭くのも一苦労で……。」
…………なんてこった。
雅のやつ、火に油どころかガソリンも加えて放り込んでいきやがった……。
「……………あははっ。(///▽///)」
「…………はわわっ……。( ///)」
「…………あわわっ……。( ///)」
「……何と……ふっ……ふしだらな………。( ///)」
桃香たちも反応に困ってんじゃねぇか!!!
もうこの話は止めさせよう。それで無ければ、俺の寿命が縮む。
「………先生?」
ビクッ!!!!!
ヤバイ………橙里の声が既に怖い……。
「……ははっ……どうしたのかな……??」
「後で詳しく教えて戴けるのですよね??」
「……ナンノコトデショウ?」
「……お兄ちゃん…。鞭で打たれるのと縄で縛り上げられるのどちらがお好みですか?」
ぐっ………麗紗のやつ、拷問にかけようと言うのか……。
「………すいませんでした。後でお話いたします。」
「………それで良い……。」
「後でしかーっと教えてもらうけんね!!」
綺麗な土下座をきめて四人から解放される俺。
んっ??惨めだって?
恥や外聞などとっくの昔に捨てたさ!!
その姿を端から見る一刀はある決意をする。
男の憧れであるハーレム。
だがしかし、聖を見ているとハーレムとはいかに大変であるか……。
俺は一人の女の子を好きになるようにしよう。
そう心に決めたのだった。
「………さらば俺の平穏、さらば俺の睡眠時間、そしてようこそ地獄の日々。」
「先生、何を言っているのですか……?」
「ナンデモアリマセン。」
「あの〜……そろそろ軍議を再開しませんか? ほらっ、お姉ちゃんもいい加減に……。」
「………まぁ、朱里が言うなら…。」
「ほっ……。朱里、助かったありがとう。後で頭ナデナデしてあげるな。」
「はわわっ!!!? けっ……結構でしゅ!!!」
驚くほど速いスピードで身を引かれると、流石に冗談で言ったにしても傷つくんだが……。
「………で? 聖殿、確か急用だとか言ってませんでしたか?」
何故か苛立ちが見える愛紗から、話の本筋を戻す一言が発せられる。
「あぁ。実は非情にまずいことになった。」
俺の態度の変化に気付いたのであろう。
皆の表情が硬く強張り、きつく目が据えられる。
場の雰囲気は先程までのおちゃらけたものとはうって変わり、ピリッとした息苦しいものになった。
「俺は今さっきまで黄巾賊の陣地に潜入していた。」
「えっ!!? まったく、先生はまた言いつけを守らずに!!!!!!」
「悪いな橙里。説教はまた後で聞くからとりあえず全てを話させてくれ。」
「………分かったのです…。」
「ありがとう。それで、数多くの天幕の中で見張りが付いている天幕が一つだけあった。そして、そこで俺は張角を見たんだ。」
一旦言葉を切って皆に心の準備をさせる。
次の言葉は、人によっては強い衝撃が襲うことになるだろうから…。
「………張角は、間違いなく俺の知っている人だった。」
俺の一言に橙里や麗紗は顔を俯かせる。
一刀にいたっては、その手に血が滲むほど強く拳を握っている。
それ程、彼には信じられなかったのだ。
少しとは言え一緒に旅をした仲間が、今となっては敵の総大将になっていることに……。
「…だが、少し訂正があるから聞いてくれ。確かに張角は俺の知っている人物であった。だが、あの軍の総大将はどうやら張角ではない……。」
頭の上にはてなを浮かべる一同。
それもそうだろう。あの軍の大将は張角だという報告を聞いているのだから……。
「これは俺の予想だが、張角という名前を前面に出して今回の騒動を起こし、もし失敗に終わりそうなら全責任を押し付けて逃げるつもりなんだろう……。つまり、黒幕は別にいるということだ。まったくもって、げすい野郎だ。」
「……で……では、聖さん。敵の本当の大将は誰だと言うんですか!?」
「……奴の名前は于吉……。素性の知れない危険な奴だ。」
于吉と言う言葉を頭の中で反芻させる。
奴に思うようにやられた俺が、もう一度やって勝てるかどうかは分からない……。
しかし、やらなければ天和たちが危ない……。
女の為に命を懸けて戦うのが男だ、とは良く言ったものだとつくづく思う……。
「敵の大将の名前も分かり、敵軍の情報もあるなら時間をかけて攻めれば必ず勝てます。」
「愛紗、確かにその通りなんだがな。事態は急を要している。」
「……と、言いますと?」
「……張角たちの命が危ないんだ。」
その一言は、場の空気をより重くするには十分だった。
「…ど…どういうこと、聖さん?」
「于吉は張角たちを監禁していた……。俺が見たところ碌に食事も与えられてないようだ…。あのままではもって二、三日って所だろう。」
「そんなっ!!!? あんまりなのです!!」
「……所詮、于吉にとっては張角たちはただの道具なんだろうな……。」
ダンッ!!!!
音のしたほうを見ると一刀が机に手をついている。
その顔は見たことも無いほど苦痛によって歪まれていた。
次の瞬間、顔を上げ一際鋭い視線を俺に向けたかと思うと、俺の目の前まで歩いてきて胸倉を掴みあげる。
「聖っ!!!!!! 何で……何でお前ほど強い奴が彼女たちを助けてこなかった!!!!! そんだけ弱ってるなら、直ぐにでも助け出すべきじゃないのか!!!!!」
「一刀さんっ!!!! 落ち着くのです!!!」
「一刀さん!!! お兄ちゃんを離してあげてください!!」
「なぁ!!!! 何とか言ってみろよ!!!!」
胸倉を掴む手に力が入り、一刀の顔がより近くなる。
その目には強い怒りが見て取れ、本気で心配をしているのだと思える。
「……手を離せよ、一刀。」
「何とか言えって言ってるだろ!!!」
尚も怒鳴り続ける一刀。
しかし、そんな一刀に思いがけない事態が起こる。
バチンッ!!!!!!!
乾いた音が辺りに響くと、一刀の頬が赤く染まりその前には雅がいた。
どうやら、一刀に平手打ちをかましたらしい…。
「なっ……!!!!!!」
「……謝りなさい。」
「何すんだよ!!!!!!」
「早くひ〜ちゃんに謝りなさい!!!! さもないと、もう一度ひっぱたくわよ!!!」
「何でさ!? ……そうか。そうやって聖ばっか守って、間違ったことをしてもそれで良いって考えかよ!!!」
「違う!!!! あんたは………あんたはひ〜ちゃんの事何にも分かってない!!!!!」
「分かってるさ!!!! 聖は助けを求めている人を見捨ててきた薄情な奴だってな!!!」
「違う違う違う!!!!!!」
雅は髪が振り乱れるのも気にせず顔を左右に激しく振った。
「………あんたには分からないの?? 私より長いことひ〜ちゃんと一緒にいるのに、ひ〜ちゃんが今苦しんでることが分からないの!!?」
雅は身体を震わせ、泣きながら一刀に怒鳴った。
その姿を見て、少し冷静になる一刀。
それを見て、俺も話を始める。
「……雅、ありがとう。でも良いんだ、一刀の言うとおり何としてでも助けるべきだった……。助けれなかったのは単純に俺が弱くて負けたのが悪いんだ……。」
「えっ……!!?」
一刀はその顔を驚きに染める。
「今……聖は負けたと言ったのか……??」
「……あぁ。」
「そ……そんなに……于吉って奴は強いのか……??」
「実際に負けてるわけだからそうなんじゃないか?」
「そんな………。じゃあ、どうすれば良いんだよ………。」
頭を抱えこみ膝立ちになる一刀。
その顔には深い絶望と……自分の力のなさを悔しがる表情が見え隠れする。
そうだな一刀………力が無いのは悔しいよな……。
でもな……だからと言って諦めるのはお門違いだぜ……??
「皆、聞いてくれ。俺はもう一度奴と戦ってくる。その為に、皆には正面から敵とぶつかり、本陣の敵をつり出して欲しい。」
「先生っ!!!! それは駄目なのです!!! 危険すぎるのです!!」
「そうです。橙里さんの言うとおりです、お兄ちゃん。次やれば、今度こそ無事には済まないかも知れません!!」
「…………大将が負ける………軍全体が負ける……これ一緒…。」
案の定皆は止めようとしてきたが……。
「そうだな。もしそうなりそうだったら、皆俺のことは忘れて逃げてくれ。そして、新たな人生を歩むんだ。」
「馬鹿なことを言うな聖!!! お前も生きろよ!!!」
「それは約束できない……。でも一刀、お前が俺に示してくれたんだ。彼女たちを助けるのは、強い俺だと……。」
「それは………。」
「この世はな……等価交換が成り立ってるよ…。何か大きなことを成し遂げたかったら、それに見合う対価を差し出せ……。彼女たちの命を助けたいなら、俺も自分の命をかけなきゃ等価ではないだろ?」
「…………。」
「覚悟は既に出来ていた。ただ、一歩踏み出せなかっただけなんだ。でもお前に背中を押してもらえて一歩進み出れた。なら、きっと上手くいく。」
「聖……。」
軍の大将って言うのは、仲間からすべきである事を言われたらそれをすべきなんだよ。
一刀……。お前は俺にすべきことを言った。なら、俺はそれをやるだけだ…。
大丈夫、きっと上手くいくさ。
天が俺をここで殺そうとしない限り、俺は大丈夫。
だから一刀、今から死地に向かう俺に一言だけかけてくれ。
帰ってこなかったら一生後悔しそうな……そんな言葉を一言かけてくれ…。
「…………聖。」
「ん……??」
「……俺はお前に教えられることが多い。武術も勉強も考え方も生き方さえも……。俺……まだまだ未熟でさ……しっかりとした先生がいないと駄目になっちゃうんだよ……。だから聖………俺が一人前になった時に『今まで教えてくれてありがとう』とお前に言わせてくれ。」
「………へっ………じゃあ死ぬ気で頑張ってくるか…。」
覚悟は出来た。
準備も出来た。
心に一本の槍を据え、何が何でも彼女たちを助け自分も生き残ることを決意する。
「良いか皆。黄巾賊との最終決戦の幕開けだ!!!!!!!」
渋々ではあったが、軍議に参加していた皆は頭を縦に振るのだった…。
弓史に一生 第七章 第十話 腹に据える一本の槍 END
後書きです。
第七章 第十話の投稿が終わりました。
愈々黄巾賊との最終決戦が始まるわけですが………なんとも聖さんたちらしい軍議の風景ですね……。
そして、一刀………。君は他の物語ではハーレムを形成して大変な目にあってるんだよ……。
さて、次話はまた日曜日に……。
それではお楽しみに〜!!!!!!
説明 | ||
どうも、作者のkikkomanです。 遂に今話から戦闘編です。 作者の戦闘描写が拙い分、上手く雰囲気が伝わらないかもしれませんが、感じ取っていただけると幸いです。 |
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コメント | ||
>arcgun000さん コメントありがとうございます。例えば野球などの球技において、エースが歯が立たないとなるとチーム全体に敗戦ムードが広がりますよね?そういう雰囲気に一刀は飲まれてるのだと思います。(kikkoman) ナンスカネェ…。それだけ聖の事を信用いやいや盲信してたんじゃないッスかねぇ…。(arcgun000) >nakuさん コメントありがとうございます。 私なりの考えですが、一刀を初めとする現代人の偽善者はこんなものだと思います。どこか客観的な意見ばかりで主観的に行動しない辺りはまさにそうかと…。(kikkoman) |
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