スカーレットナックル エピローグ Ver2.00
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 SPECIAL STAGE「VS 葵 道信」

 

 

 

 日が昇りかけてうっすらと明るくなる遊園地の敷地内で、ユウキとアツシはミキ達に見守られながら、袴に着替え戦おうとする自分達の師匠……道信と対峙する。

 

「一発俺に入れることが出来たら合格な。ハンデだハンデ」

「俺達を舐めないでください!」

「一発と言わず百発でも千発でもそのムカつくにやけ面に蹴り叩きこんでやるよ!!」

 

 ユウキ達の啖呵に道信はにぃや〜と笑うと、気合と共に体から辺りに強い衝撃波を放った。

 

「よぉーく言ったお前等! 流石俺が鍛えただけの事はある!!! 俺も本気でやらないとなあ!!」

 

 道信は全身で喜びを表すかの如く、正面に1,2と正拳突きを放つ。その度にゴウッとあたりの空気が揺れて木や電燈などが強めの地震が起こったかの如くグラグラと揺れた。

 

((さて、取り敢えず怒ってみたものの……))

 

 二人は対峙する道信が放つオーラを肌で感じ、怒りを一旦収めて、自分達と道信の戦力差を冷静に分析する。その結果……。

 

「「全然勝てる気がしない」」

 

 口を合わせてそう呟いた。

 

(あの人、突進してきた猪をチョップで叩き潰す程の人だしなあ)

(米軍基地の軍人の殆どを素手で刈り取っちゃう人だし……)

 

 しかしそんな弱気な心を振り払うが如く、二人は首をブンブンと横に振って構え直す。

 

「いや! 俺達も大分強くなった!」

「そうだ! 二人で掛かれば一発ぐらい……!」

 

 だが次の瞬間、突然道信の方から強い風が吹いたかと思うと目の前から道信が消えた。

 

「下顎ぉ!」

「げっ!?」

 

 次の瞬間、アツシの懐に潜り込んでいた道信は、彼の顎に立ち上がりながらの強烈な右掌打を当てて浮かした。そして体を回しながらの右肘、左膝、ワンツーパンチ、左アッパーカットと容赦ない攻撃をアツシを浮かせたまま叩きこんでいく。

 

「ぐぁっ……この!」

「アツシ!」

 

 アツシはなんとか反撃しようと試み、ユウキも慌てて彼を助けようと道信に襲い掛かる。

 

「ほい!」

「イテッ!?」

 

 しかし道信はアツシの方を見たまま、後ろから襲ってきたユウキの額に右の凸ピンを当てて吹き飛ばす。そしてアツシの反撃をことごとく避けながら攻撃を続けた。

 

「そらそらそらそらそらそらそらそら!!!」

「がああああああ!!」

 

 アツシは攻撃を受けながら必死に足技を繰り出す。しかしそのどれもが道信に捌かれ、そして避けられた。

 

「くぁ……!」

 

 満身創痍のアツシは最後っ屁と言わんばかりに道信の脇腹に向かって右足の蹴りを放つ。

 対して道信はアツシの腹部に強烈な右の掌打を当てた。アツシの体はそのまま横にまっすぐ吹き飛び、まるで水面を跳ねる平石のように何度も地面で跳ねた後、ドカンと近くにあった自販機に激突してようやく止まった。

 

「はい一匹目撃破!!」

「アツシィィィィ!!?」

 

 デコピン攻撃から起き上がったらいつの間にか相棒が倒されていて、ユウキは驚愕の声を上げる。するとアツシは自販機の残骸から手を出し、ユウキに向かってフリフリと振った。

 

「悪い……俺は……ここまでだ……」

 

 そしてぱたりと崩れ落ちる手。アツシ完全KOで戦線離脱である。

 それを見た道信は腰に手を立てて大笑いしていた。

 

「んだーっはっはっはっは!!! 俺はウサギどころか蟻にだって全力で戦っちゃうような男だぜ!!? 態々1対2の状況にしたままにするかよ!!」

「アツシィィィ!! やられるの早すぎいいいいいい!!!!」

「ひ、ひでぇぇ……」

 

 道信のあまりの容赦なさに、離れた場所で見ていたクロは少し引いていた。ユウキが絶叫するのも無理はない。彼らの今まで積み重ねてきた物が道信の前には全然通じないのだ。彼の今の心境は恐らく、この作品を書いている作者がPS3版アルカナハート3をプレイした際、「CPUで結構練習したしそろそろネット対戦に挑戦だー」と意気込んでプレイしたらランク偽っていた上級者相手に手も足も出せずボッコボッコにされ連敗を喫し、その同じ愚をKOF13やアクアパッツァでも繰り返しすっかりネット対戦がトラウマになった心境に似ている。似てないか。どうでもいい話でしたね。

 

一方隣にいたミキは生唾を飲み込みながらユウキ達の戦いを見守っていた。

 

(あの人……強い! それに……!)

 

そして道信は、心が折れ掛かっているユウキに狙いを定める。

 

「さーて残りはお前だユウキ、拳一つで勝負してこんかい!!!」

「くっ……!」

 

 ユウキは咄嗟に息を大きく吸い込んでそのまま呼吸を止め、歯をギュッと食いしばり、右拳をギュッと握り締め旋風の様なオーラを纏わせた。

 

(あれは……私を倒した技だ!)

「お? それ使っちゃう? なら俺もー」

 

 対して道信はユウキと同じ動作を取る。ただ一つ違っていたのは両腕に蒼い炎のようなオーラを纏っていたことだ。

 

「ゲエー!? お師匠さんも“神突”使えるんスか!?」

「一葉、ちょっと危ないから下がろう」

「はーい、お姉ちゃんは?」

 

 一葉は一歩も下がろうとしないミキに声を掛ける。一方のミキは集中しているのか、一葉に返事することなくユウキと道信の戦いを見守っていた。

 

「師匠……行きますよ!」

「おう来い! 死ぬんじゃねえぞ!」

 

 次の瞬間、両者腕に纏っていたオーラを互いに相手に向かって突き出した。オーラとオーラはそのままぶつかり合い、激しい衝撃を放つと共に消滅した。

 

「そ、相殺さ「次行くぞぉぉぉ!!」えっ!?」

 

 ユウキが驚く間もなく、道信は今度は両手両足に蒼い炎のようなオーラを纏わせた。そして……そのまま3m程高く飛び上がった。

 

「おらおらおらおらおらおらおら!!!」

 

道信は宙に浮いたまま突きや蹴りで炎のオーラを、まるで嵐の如く浴びせるようにユウキに向かって飛ばした。

 

「なああああああああ!!?」

 

 一発一発がプロ選手が全力で蹴ったサッカーボール並みの威力がある炎のオーラの威力に、ユウキは耐えるのが精一杯だった。

 

「何あのDB?」

「相変わらずのチートだなおい」

 

 道信の人の枠を外れた強さを目の当たりにしたクロと手塚は、半ば呆れ気味に言葉を漏らした。

 そして道信はそのまま地上に降り、両手を高々と上げて頭上に巨大な蒼い火の玉を作り出した。

 

「これで終わりだああああああ!!」

「うわーあの人元気玉まで使い出したッス」

「あのマンガ好きだからなーアイツ」

 

 一方ユウキはボロボロの体で立っているのがやっとであり、心が折れ掛かっていた。

 

(も、もう無理……)

 

 そして道信が腕を振り降ろして、蒼い炎の玉を発射した、ただし炎の玉はユウキから大きく外れた位置に飛んで行った。

 

「あ、やっばーい! ワイルドピッチ!」

「へ?」

「ほえっ!?」

 

 ワザとらしく言う道信。青い炎の玉はそのまま離れた位置で見ていたミキの元に飛んで行った。

 

「うわっ! ちょ……!」

 

 突然の事に逃げるのが遅れるミキ、その時……炎の玉と彼女の間にユウキが割って入った。

 

「だあああああ!!!」

 

 ユウキは風のオーラを纏った右拳で、飛んできた蒼い炎の玉を打ち消した。

 

「あ、ありがとうございます……」

「……」

 

 ユウキはお礼を言うミキにコクリと頷くと、へらへら笑っている道信に一歩二歩と近付いて行った。

 

「ごっめーん嬢ちゃん! 怪我してねえ!?」

「アンタは……」

「ん?」

 

 ユウキは静かに呟くと、両腕に再びオーラを纏わせると腰を右に捻り、両手で抱え込むように風のオーラを収束させていった。

 

「一体!!!」

 

そして左足を一歩前に出し、腰を左に回転させながら、両手を指の指節間関節をすべて垂直に折り曲げた状態で前に突き出した。

 

「何やってんだぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

突き出し腕を伸ばした瞬間、両手を少し反時計回りに回している。そしてその両手から放たれた風のオーラが巨大な銀色の狼の形になり、弾丸のように回転しながら高速で道信に向かって行った。

 

「お!? お!? おおおおおおおおおお!!!」

 

 銀色の狼はそのまま轟音と共に道信を飲み込んだ。

 

「あ、あれ? 今僕……?」

 

 技を放って一度冷静になったユウキは、先ほどの渾身の一撃が自分でも信じられず、自分の手をじっと見つめた。

 

(今、僕は師匠を本気で叩きのめすつもりで指に力が入ってこの形に……)

 

 その時、ユウキが放った気弾が起こした土煙の中から道信が出てくる、胴着の腹部部分は獣に食いちぎられたかのように破れていた。

 

「ふっふっふ……まさかお前が神突の真の形を自力で引き出すなんてな」

「神突の……真の形?」

 

 すると道信は突然、ゴウッと足元から凄まじい衝撃波を放った。

 

「よおおおおおおおおし!! お前は合格だ! 俺に教えることはもうねええええええ!」

「うえ!?」

 

 そして目にも止まらぬスピードでユウキとの距離を詰めた。

 

「これは俺からのおおおおおおお!!!」

 

 そしてユウキの全身に、拳と蹴りのコンビネーション、頭突き三連発、嵐のような連続回し蹴りなどを繰り返しながら万遍なく高速で叩きこんでいく。

 

「ぐがががががががが!!!?」

「卒業証書だああああああああ!!!」

 

 そして思いっきりユウキの腹部にアッパーを繰り出し、彼を3m程浮かせる。

 

「ぐほっ!?」

「受け取りやがれえええええええ!!!」

 

 そしてそのまま右手に蒼い炎のオーラを纏わせ、空中のユウキに向かって放った。

 

「うわああああああ!!!?」

 

ユウキはそのまま高く吹き飛ばされ、数秒滞空した後にアツシが倒れている場所に重なるように墜落した。

 

「ぐえ……! なんで俺の所に落ちてくるんだよ……」

「ごみぇん……」

 

 そして道信はものすごくご機嫌な様子で、鼻歌交じりでユウキとアツシの元に歩み寄って来た。

 

「よし! お前等二人共合格!!」

「「は、は〜い……」」

「二人……? あ!」

 

 その時近くで見ていたミキは、道信の胴着の脇腹部分が破れている事に初めて気付いた。恐らくアツシの反撃が当たっていたのだろう。

 

「俺が教えられることはもうねえ! 後は自分達で基礎訓練するなり喧嘩繰り返すなり自分なりに強くなれ! そして一年ぐらいたったらまた戦おうや!」

「「は〜い……」」

 

 満身創痍ながらも何とか返事を返すユウキとアツシ、ちなみに二人共右親指を下に向けた手を道信に向けて突き出している。それを見た道信はウンウンと満足そうに頷いた。

 

「以上! 俺の修業終了! とっとと帰って寝ろ!!!」

「「ありがとうございまし……た」」

 

 二人は一緒に道信に向けて右中指を立てながらお礼を言い、そのままぱたんと力尽きて意識を失った……。

 

 そして辺りは昇って来た太陽の光で照らされた。

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

「お師匠さん」

 

 その時、満足そうな顔をしている道信の元にミキが歩み寄って来た。

 

「お? なんだ嬢ちゃん? もしかしてさっきの戦いを見て俺に惚れちゃったか〜? いや参ったなおい!」

「い、いえ、そうじゃないんです、あの……」

 

 ミキは珍しく口籠りながら俯いてしまう。だがやがて……いつものように腰を落として戦闘態勢に入った。

 

「……私と戦ってもらえませんか?」

「おいミキ!?」

「……何故だ?」

 

 道信はいつになく真剣な表情でミキを見る。するとミキはポツリポツリと昔話を始めた。

 

「三年前……プロレスラーだったお父さんは仲間と共に、狐のお面を被った拳法着の男の人にボコボコにされて、再起不能にさせられました……貴方がさっきユウキさんに使った乱舞技……お父さんに止めを刺した技とそっくりなんです」

 

 その瞬間、道信の表情が険しくなる。一方ミキは人生で一番辛かった事を思い出してか、泣きそうに顔を歪める。しかしすぐに首を横にぶんぶん振って再び道信を見る。

 

「教えてください……貴方はあの時の狐のお面の人なんですか!!?」

「……だったらどうする?」

 

 道信の静かな口調の質問に対し、ミキは気合いと憤りを入れた声で叫んだ。

 

「戦います……! お父さんと皆の仇を討ちます!!!」

 

 すると道信は不敵な笑みを浮かべた。

 

「いいぜ……来な!! 拳で確かめてみろ!!」

「うおおおおお!!!」

 

 次の瞬間、ミキは大声を上げながら道信に向かって行く。そして彼の胸元目掛けて右肘を突き立てようとする。

そのエルボータックルを道信は右手一本で止めてしまった。

 

「嬢ちゃんすげーパワーだな! そんな小さな体のどこに隠していたんだよ!?」

「……!」

 

 道信の軽口に反応することなく、ミキは尚も打撃技で道信を攻める。しかし攻撃はことごとく避けられ、受けられ、そして捌かれていった。

 

「そらよっ!」

「きゃっ!?」

 

 道信はそのまま突き出されたミキの片腕を避けながら取り、彼女を一本背負いで投げ飛ばした。

 

「くっ……!!」

「そらそらそらそら!!!」

 

 立ち上がろうとするミキに対し、道信は容赦なく蒼い炎の気弾を両手から交互に何十発も放って追撃する。

 

「うっ……ぐっ……!」

「ミキ!」

「お姉ちゃん!!」

 

 先程のユウキ達とほぼ同じ状況に陥ったミキを見て、離れてみていためぐみ達は心配そうな声を上げる。

 だがその時、横から降る暴風雨のように襲い来る蒼い気弾を浴びながら、ミキは両腕で顔をガードしながら立ち上がり、ゆっくりと道信に向かって歩み始めた。

 

「お!? お!!?」

「負けるもんか……負けるもんか!!」

 

 ミキの気迫に驚愕する道信。そして最後の一発を放っても、ミキは倒れることなくボロボロの姿で大地に立っていた。

 

「へへへ……た、大したことないですね……!」

「やるなあ嬢ちゃん」

 

 不敵な笑みを浮かべて道信は、先程ユウキを屠り去った時と同じように、ゴウッと足元から凄まじい衝撃波を放った。

 

「来い! 全部受け切って見せます!!」

「上等!!」

 

 道信は疾風の様な速さでミキとの距離を詰める。そしてそのまま拳と蹴りのコンビネーションを彼女の体に叩きこんでいく。ミキはそれを身を屈めて、辛うじて急所は守りながら耐えた。

 

「あうううう……!」

 

「あ、あの兄さん、女相手でも容赦ねえッス」

「アイツは向かってくる相手がどんな奴であろうと全力を尽くすのが主義だからな」

 

 恐れおののくクロに対し、めぐみはただただ静かに二人の戦いを見守っていた。

 その時、ミキはとうとう耐え切れなくなったのか、その場でガクッと膝を付いてしまう。

 

「ううう……」

「とぉどめ!!!」

 

 そう言って道信は、自分の右掌をミキの目の前に突き出す……が、それは彼女の目の前で止まった。

 

「……どうした? 反撃しないのか?」

 

 道信の言葉に、ミキはハアハアと肩で息をしながら答える。

 

「……もしあなたが、あの人と同じように人差し指で私の胸を貫こうとしたら、ガッチリ捕まえて反撃しようと思いました。でも……こ……れは……」

 

 ミキはそのまま力尽きて地面に大の字で倒れる。すると道信はその場で胡坐をかいてミキに話し掛けた。

 

「……アンタの言っていたその狐面の男、多分俺らの流派から弾き出された奴だ」

「弾き……出された?」

「葵流古武術は守る為の拳であって、殺生を行うための拳じゃねえ、その弾き出された奴等は……その事を無視して葵流古武術を“葵流殺人術”として進化させた逸れ者なんだよ」

 

 数年間探し続けた父親の仇……その手がかりがようやく掴め、ミキは道信の話をじっと聞き続けた。

 

「風の噂じゃそいつら、色んな道場やジムを渡り歩いては技の実験台として数々の格闘家の命を奪っているって聞いた。本家のばあちゃんや親父達も血ナマコになってそいつらを根絶しているんだがな、成程……嬢ちゃんは被害者の家族だったか」

 

 そして道信はそのままミキに向かって謝罪の気持ちを込めた頭を下げた。

 

「すまなかった……あいつらの暴走を止められなかった俺達本家にも非がある。後日親父達に連絡して謝りに行かせるよ」

「そ、そんな……貴方達は悪くないです……」

 

 先程とは打って変わって神妙な雰囲気の道信に戸惑うミキ。すると道信はにやりと笑って話を続けた。

 

「それにしてもつええなプロレス……正直今の今まで、ちょっと下に見てたんだけどよ……嬢ちゃんと戦って考えを改めたわ。親父さんもアレだろ? 再起不能ってだけでまだ生きているんだろ?」

「え? あ、はい」

「あいつらの神砕を喰らうとな、普通の人間どころか鍛えている武闘家だって死に追いやっちまう究極の必殺技なのさ。でも生きているって事は……それだけ嬢ちゃんの親父さんが頑丈だったって事なんだろ。それ滅茶苦茶すげーことなんだぜ?」

 

 道信は胡坐をかいている足をポンと叩き、ミキに言い放った。

 

「色んな格闘家を見てきた俺が断言する……プロレスはショーとか八百長とかのまがい物じゃねえ、れっきとした“格闘技”だよ」

「あ、ありがとうございます……」

 

 ミキはこれまで自分の父が、そしてプロレスの強さが偽物なんかじゃないと証明するために戦い続けた。その努力が、道信の一言で報われた気がして嬉しくなっていた。

 しかし道信はキリッと表情を引き締めて、ミキにまるで叱るような口調で話し掛けた。

 

「だが嬢ちゃん、さっきの戦い方はよくねえな、アレだろ、ちょっと俺の事父親の仇だと思って力入れたろ? お陰で切れ悪くなってたぞ」

「あ、はい……」

「憎悪という感情は否定しねえ、でもそれだけで戦うのはよくねえよ。まあそういうのは、うちの弟子のメガネ掛けていない方がよく知っているとおもうぜ。そいつが起きたら色々聞いてみるといい」

 

 そして道信は立ち上がり、未だに気絶したままのユウキとアツシの元に歩み寄り、彼らを肩で抱えた。

 

「さてと、どっかでこいつ等寝かさねえとな」

「まったく手間を増やして……なら私の診療所に連れて行こう。ミキ、起きれるか?」

「はい……」

 

 ミキはめぐみに手を貸してもらいながらダメージが残る体を必死に起こす。そんな彼女に一葉が駆け寄って来た。

 

「お姉ちゃん、平気? どこも痛くない?」

「うん、大丈夫ですよー、でもカッコ悪い所見せちゃいましたね……」

「ううん、そんなことないよ! お姉ちゃんすごかったよ!」

 

 一葉の屈託のない笑顔に、ミキは少し体のダメージが抜けていく気がした。

 

「やっぱ応援してくれるファンがいると元気になりますねえ、私にはこういう戦いの方が向いていると思いますわ」

「ま、その辺は同意だ」

 

 そんな他愛のない会話をしながら、ミキ達はめぐみの診療所に向かって行った……。

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

「う、うーん……?」

「あ、目が覚めましたか?」

 

 あの戦いから数時間後、ユウキは手塚の診療所の診察室のベッドの上で目が覚めた。傍らには赤いジャージに黒いスパッツ。そして黄色いリボンを三つ編みにしているシアンの髪に結び目には牛乳の底のようなレンズのメガネを掛けたミキが座っていた。

 

「五十嵐さん……? ああそうか、俺師匠にボッコボコにされたんだっけ」

「お師匠さんすごく強かったですねえ、私ビックリしましたよ」

「うん……ん?」

 

 ユウキはふと、ミキの鼻の頭に絆創膏が貼ってある事に気付く、そしてよく見ると、手や足にはいくつものガーゼや絆創膏が貼ってある事にも気付いた。

 

(激しい戦いだったんだな……巻き込んじゃって悪い事しちゃったな……)

 

 ユウキはミキのボロボロな姿を見て罪悪感に苛まれた。まあその傷の殆どが自分の師匠が付けたものだという事には気付いていないが。

するとユウキの様子に感付いたミキが頭をブンブンと横に振った。

 

「あ、だ、大丈夫ですよ。私プロレスラーで体頑丈ですから!」

「そう……? 本当にごめんね、俺らのバカ師匠のせいでこんな事に巻き込まれて……」

「いいんですよ! 世の中にはすっごく強い人がいるんだって解ったし! 何よりユウキさん達と知り合えましたから!」

 

 屈託のない笑みを浮かべ本心を述べるミキを見て、ユウキの心から後ろめたさが消えた。

 

「あはは、五十嵐さんって本当に変わっているよね」

「それが私の取り柄ですから! それより……」

 

 ミキはバツが悪そうにしながら、ユウキから借りていたパーカーを畳んで彼に見せる。パーカーは激しい戦いでボロボロな上に所々汚れていた。

 

「す、すみません、お借りしていたパーカーボロボロにしちゃって……」

「あはは、仕方ないよ、これじゃ着れないしもう捨てちゃっても……」

「でも、こっちはいるんじゃないですか?」

 

 そう言ってミキはパーカーのポケットから、先程見つけたカードを見せる。カードは……ユウキの学生証だった。

 

「あ……」

「ポケットの中に入ったままでしたよ、それにしても……」

 

 ミキは学生証に張り付けられているユウキの顔写真を見る。

 その顔写真には、長い前髪で顔を隠した、ブクブクに太った少年が映っていた。

 

「これ本当にユウキさんですか? 随分今と雰囲気が違いますねえ」

「一年前ぐらいに撮った写真なんだ、お化けみたいだろ? その時の仇名が“ガマガエル”だからね」

 

 ユウキは自嘲気味に笑いながら、ミキから受け取った学生証の自分の昔の顔写真を見つめる。

 

「半年前に師匠に出会って、あの人に言われて今の髪型にしたけど……ホント今僕がこんな姿になったのが信じられないよ」

「相当努力したんですよね? すごいなー、尊敬しちゃいますよ!」

 

 目をキラキラさせて称賛するミキ、するとユウキはぐっと悲しそうな顔をしながら俯いてしまった。

 

「……そんなことないよ、僕はただ……僕を虐めた奴等に復讐がしたくてあの人の弟子になったんだ」

「え?」

 

 ユウキはそのまま、ミキに自分が格闘技を始めた経緯を話し始めた。

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

―――僕はね……小学生の頃に女の子を泣かしたのがきっかけでクラスの皆から差別されるようになって……どんどん暗い性格になっていったんだ。それでストレスでバクバク食べるようになってブクブク太っていって、それに拍車が掛かって……完璧ないじめられっこが完成した。―――

 

 

―――中学校に進学したらもっと酷くなったなあ、クラスの番長格の男が中心になって、カツアゲやら暴力やら万引きの罪の擦り付けやら……教室でみんなの前でパンツを脱がされた事もあったなあ。他のクラスメイトや先生ですら見て見ないフリ、親には心配かけたくなくて言えなかったし、誰も味方がいない状態だった。―――

 

 

―――だからあの頃の僕は……この世のすべてが憎くて仕方が無かった。―――

 

 

―――そして半年前、いつものように河川敷でアイツ等にボコボコにされていた時、たまたま通りかかったアツシが助けに来てくれたんだ。―――

 

 

―――アツシとはそれまでは時々見かける隣のクラスの人って関係だったんだけど、いつも僕が虐められているのを見て憤っていたんだって。―――

 

 

―――アイツ、師匠に会う前から色んな格闘技を習っていて、その頃からすごく強かったんだ。後から聞いたんだけど、アツシのお父さんは警察官だったらしいけど、ある日殉職したらしくて、それでお父さんの命を奪った犯人に復讐するために鍛えていたんだって。―――

 

 

―――結果はどうなったかだって? アツシのボロ負け、相手は大人数だったし、なにより番長格の奴、空手の全国大会に出る程強くて、一緒になってボコボコにされたよ。―――

 

 

―――そんな時助けてくれたのが、師匠だったんだ。師匠はいじめっ子達を軽く蹴散らした後、僕等に向かってこう言ったんだ。“格闘技じゃなく、喧嘩に強くなる方法を教えてやろうか?”って。―――

 

 

―――ちょうど夏休みに入るころだったから、僕等は一緒に山の中に入って師匠の修業を受けた、スタミナ増強、攻撃の出し方から立ち回りの方法、とにかくみっちり鍛えられたよ。元々格闘技習っていたアツシはともかく、体育が低レベルだった僕がよくついて行けたなあと思う。やっぱり……いじめっ子達に復讐したいって気持ちが強かったのかな。―――

 

 

―――そして夏休みが終わったころには、僕の体は今みたいにすっきりした物になって、髪も半ば強引に師匠に切られて、そのまま学校に行った。―――

 

 

―――そしたらまず僕を無視していた奴等が急に馴れ馴れしく話し掛けてきたんだ。“かっこよくなったね”とか“見間違えたよ”とか……助けてほしくても一緒になっていじめて来たくせにって思って無視したけど。―――

 

 

―――で、それが気に食わなかったのか、今度はいじめっ子達が絡んできた。僕は師匠に言われた通りの方法で、アイツらを傷付けないように攻撃を捌いてその場を凌いだんだ。―――

 

 

―――そしたらアイツ等、言いがかりを付けて先生にチクって、僕を停学させたんだよ。先生も酷いよね、僕の時は完全無視だったのに……番長格が地元で有名な空手道場の生徒で、問題になったらまずいと思ったのかな?―――

 

 

―――それだけなら良かったんだけどね……あいつら僕の停学開けたら今度は靴や教科書隠すわでやり方を陰険な方法に変えて来たんだ。まあ小学校の頃にも何度かやられたし、まだ耐えられた。―――

 

 

―――でもある日……移動教室から帰ったら、持ってきていた母さんの作ってくれたお弁当が、ゴミ箱に捨てられていた。―――

 

 

―――ちょっと離れた位置で、いじめっ子達がこっちを見てクスクスと笑っていた。―――

 

 

―――僕の中で、何かが弾けた。―――

 

 

―――気が付いたら僕は、番長格の男を血達磨にしていた。後から聞いたら彼、整形手術が必要なくらい顔が滅茶苦茶になっていたらしい。―――

 

 

―――そして取り巻きや止めに入った担任の先生もボコボコにして、誰も手が付けられなくなっていた。―――

 

 

―――そして正気に戻った時……目の前にボロボロになったアツシが居た、アイツは騒ぎを聞きつけて僕を止めてくれたんだ。お陰で僕は……少なくとも殺人犯にはならずに済んだ。正気になってふと見た鏡に映る自分の顔と、血まみれになった自分の手、あの二つはずっと忘れない……。―――

 

 

―――その後、刑務所に入れられる事も覚悟していたけど、アツシや他のクラスの人達が弁護してくれたんだ。“悪いのは番長格の奴等だ”“彼をここまで追い詰めた先生達に責任がある”って、アツシの話じゃあの番長格の奴、他にも何人か虐めていて相当の数の生徒達に恨まれていたらしいんだ。お陰で僕は罪には問われなかった。―――

 

 

―――でもそんな事、僕はどうでもよかった。アツシまでも傷付けて、すべて知った家族に“気付いてあげられなくてごめんね”って泣いて謝られて、もう自分の事が嫌いで、恐ろしくて、消えてしまいたくなっていた。僕は勝手に悲劇の主人公気取りになって、誰にも相談しようとせず、一番やっちゃいけない方法を使っちゃったんだ。―――

 

 

―――事件を起こした翌日に、僕は師匠の元に赴いて、自分を破門にしてくれって頼んだ。僕は怖くて仕方なかった。これ以上強くなろうとすれば、自分や相手だけじゃなく、周りの人達も傷付けちゃうと思ったから。―――

 

 

―――そしたら師匠は、すごく真面目な顔をしてこう言った。

 

“人を殴れば相手だけじゃなく自分や自分の大切な物も傷つく。そんなのは当たり前だ。だけど俺はお前の話を聞くまで気付かなかった。”

 

“俺の修業を辞めることは許さん、そして強さとは何なのか、その先には何があるのか、俺が見つけることが出来なかった物を、お前達が見つけろ”

 

……てね。―――

 

 

―――こうして僕は格闘技の修業を続けることになった。師匠が見つけられなかった物を、見つける為に……体だけでなく、心ももっともっと強くするために……。―――

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

 ユウキの話を真剣な表情で聞いていたミキは、ユウキの手に巻かれている血まみれのテーピングを見る。

 

「その手がそんな風なのも、何か理由があるんですか?」

「うん……流石に治療しないと壊死するから、血の付いたテーピングを捲いているだけだけど、もう二度とあんな事をしないように、人を殴れば自分も痛いんだって事を忘れないように、この手を見て思い出せるようあの時からずっとこのままなんだ」

 

 そしてユウキは俯きながら自分の手を見つめる。その目は悲哀を帯びていた。

 

「でも……僕はあの頃からずっと変われていないのかもしれない。今回の事だって、ただ立ち塞がってきた人達を片っ端から倒しただけだし……結局僕のこの拳は、人を傷付ける事しかできないんだ」

「……それは違うと思いますよ」

 

 するとミキは、ユウキの血まみれのテーピングが巻かれている手を優しく握った。

 

「さっきめぐみさんから聞きました。ユウキさん……地下闘技場での戦いで私が気を失っている時、私を襲おうとした人達から守ってくれたんですよね? それだけじゃない、私がお師匠さんの攻撃に巻き込まれた時も、本気で怒っていましたよね?」

「う、うん……やりすぎちゃったと思う……」

 

 ユウキはその時の行動を思い出し、バツが悪そうにミキから顔を背ける。しかしミキはそれでも話を続ける。

 

「確かにいじめっ子さん達をやっつけた時も、私の時も、ユウキさんはやりすぎたのかもしれません……でも大切な人や物を傷つけられて怒る事は決して間違っていないですよ。その手がそうなのも含めて、ユウキさんが優しい証拠です」

「え……?」

 

 ユウキはハッとなってミキの方を向く。ミキは屈託のない笑顔をユウキに見せながら、自分の考えを言葉にして伝えてくる。

 

「私のお父さんが言っていました。“暴力では本物の力は手に入らない。何かを守りたいという勇気と優しさにこそ本物の力が宿る”って」

「本当の……力……」

「だからユウキさんは強いんだと思います。ユウキさんのその力は暴力じゃないです。守る為に振るう優しい力です」

 

 ユウキはミキに握られている自分の手を見つめる。彼の心の内から、拳を振るう事に対する迷いがすうっと消えていった。それと同時に、彼の心にある思いが浮かんだ。

 

(師匠が見つけろと言った物……それはこの事なんだろうか? 暴力じゃなく、自分を高めて大切な物を守る力……僕の強さはその為にあるんだろうか?)

 

 ユウキの頭の中に、円が完全な形になって閉じられるイメージが浮かび上がる。

 

彼の心の中で何かが弾け、誕生した。

 

そしてふうっと息を吐き、ふふっと笑みを浮かべる。

 

「うん、その……ありがとう五十嵐さん、ちょっと自分の拳に自信が持てたかも」

「どういたしまして! 拳に迷いがあると次に私と再戦した時に差支えますからね!」

 

 ミキはそのまま目をメラメラと炎で揺らしながら、右拳をぎゅっと握りしめて答えた。

 

「お二人やお師匠さんの戦いを見て改めて思いました! 私ももっともっと強くなろうって!! 新しい必殺技も作らないと……その時が来たらまた戦ってくださいね!!」

「うん、約束」

 

 そう言ってユウキは右拳を、ミキは左拳を突き出して互いにコツンとぶつけ合い、いつかまた互いに強くなって再戦することを誓った。

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

「あの女……俺が言いたい事全部言いやがった」

 

 そのユウキ達がいるベッドの、カーテンを隔てた隣のベッドにアツシは寝転がっていた。傍らにはクロがおり、無論ユウキとミキの話はすべて聞いていた。

 

「いい雰囲気ッスねえ、あのお二人さん」

「まったく、こっちはあの野郎に散々な目に遭わされたってのに、気楽なもんだ」

 

 そう言いつつ、アツシは傍の棚の上に置いてあった自分のメガネを顔に掛け、両手を後頭部で組んで寝転がった。

 

「まあクソ真面目に悩むアイツには、ああいった能天気馬鹿がお似合いだろうな」

「あと、クールなツッコミ役も居たら完璧ッスよね」

「言ってろバーカ」

 

 その時、四人がいる病室に一葉が入って来た。

 

「おねーちゃん、お兄ちゃん起きたのー……ってあっ、メガネのお兄ちゃんも起きてるー」

「「えっ!?」」

 

 その時ユウキは初めて、カーテン越しの隣にアツシが寝ていた事に気が付いた。

 

「アツシ……居たの!? どっから聞いてた?」

「お前が起きてその女とイチャイチャし始めた時から」

 

 その瞬間、ユウキはゴンと前屈する形で額を自分の膝にぶつけた。

 するとクロがユウキの学生証を手に取って感嘆の声を上げる。

 

「うわー、これ本当に同一人物ッスか? よくここまで体絞ったッスね」

「後から聞いた話だと40キロ減らしたんだと、お前一人分消滅させたって事だ」

「あの! それあんまり見てほしくないんだけど!! 恥ずかしいから!!」

 

 ユウキは自分の学生証を奪い取ろうとするが、クロはひょいひょい避ける。

 

「いいじゃないッスか減るもんじゃないしー、ハイ一葉ちゃんパス」

 

 そう言って一葉に学生証を投げ渡すクロ。

 

「あー、なんかカエルさん映ってるー」

 

 学生証を見た一葉の幼いが故の残酷な感想に、ユウキはゴキっと自分の首を横に捻った。

 するとミキが慌ててフォローを入れる。

 

「い、一葉ちゃん! 本当のこと言ったらユウキさん傷ついちゃいますよ!」

 

 今度は反対方向にゴキっと首を捻るユウキ。フォローが完全にトドメになっていた。

 

「うわー……なんという見事な介錯」

「ちょっと引くわ」

「え? え?」

 

 そんな感じで、診療室には子供達の楽しそうな(?)笑い声が響いていた……。

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

 手塚診療所のあるビルの屋上、そこで道信は朝日市の街並みを眺めながら、ビールの蓋をあけて中身をゴクゴクと飲んでいた。周りにはすでに飲み干した空のビール缶が転がっている。

 

「ご機嫌だな道信」

 

 すると彼の元に手塚が現れ、彼の隣に座り、胸元のポケットに仕舞っていたタバコを取り出した。

 

「まああれだ、弟子の成長が嬉しくってよう……つかお前、タバコ吸ってんの?」

「一葉と患者の前じゃ吸わないよ。一本貰う」

 

 そう言って手塚は、道信の横に置いてあった蓋の開いていないビールを手に取った。

 

「しかしすげーなめぐみ、まさか独立して診療所作っちゃうなんてよー、旦那さんと共働き?」

「旦那? ああ別れた」

「ブホァ!!?」

 

 道信は口に含んでいたビールを空に向かって吹き出し、綺麗な虹を作った。

 

「マジ!? なんで!?」

「いやそれがさー、あいつ結婚した後に本性現しやがってさー、結婚して早々DVの嵐、おまけに“親同士が決めたことで俺が望んで結婚した訳じゃないし”とか言って不倫しまくるわでもう最悪。トドメに一億もの借金私に押し付けて不倫相手と海外に高飛びという、それはもう素敵な旦那様でしたわ」

「えええー……」

 

 凄まじい手塚の過去に、道信は思わず絶句した。手塚はそのままワザとらしい口調でしゃべりながら、タバコに火をつけて煙を吸い込んで、そのままぶふーっと吐き出した。

 

「あーあ、あの時誰かさんが“アイツは俺なんかより金持ちと結婚した方が幸せだ”とかほざいて身を引かなきゃこんな事にはならなかったのになー」

「……………………スミマセン」

 

 道信は体を一回り小さく縮めながら、小さな声で手塚に謝った。

 すると手塚はふふっと笑いながら、冷たい缶ビールを道信の頬にペタリと付けた。

 

「冗談だよ、半分は。今は一葉がいるし、借金もあのプロレスバカが何とかしてくれたし、クソみたいな過去でウジウジするより未来を良くすることに全力を尽くすさ」

「そ、そうか……」

 

 道信はバツが悪そうにビールをちびちび飲む。そして手塚はそんな彼に質問する。

 

「ところで……あんたみたいな決闘バカが、どうして弟子なんて取ったんだい? アンタんとこの奥義まで教えて……」

 

 すると道信は空になったビールの缶を握り潰し、白い雲がゆったりと流れる青空を見上げた。

 

「……俺って決闘バカじゃん?」

「ガキっぽいとズボラと性格悪いと常に汗臭いが抜けてるぞ」

「はい俺の心折れたー! ……まああれさ、俺の実家は本家から甘ちゃん扱いされて弾き出された宗家じゃん? 誰とも戦おうとせず、ただ己の技を磨く為だけに鍛える……昔の俺はそれが嫌で、実家飛び出して日本中や世界中を駆け巡って、強い奴等と何度もバカやってきた。そんで国内外誰も俺に敵う奴が居なくなったとき……俺の周りには誰も居ない事に気が付いたんだ」

 

 道信は瞳を閉じて、自分が過去歩んできた道のりを思い出していく。

 

「自分だけの為に振るう武っつうのは、自分自身を孤独にしちまうんだ……それに気付いた俺は絶望して抜け殻みたいになって、半分ホームレスみたいな生活しながらこの国をブラブラしていた。そんな時……バカ共にボコボコにされていたあの二人に出会って、何となくビビッと来て弟子にしたんだ」

「ビビッとかよ。随分適当だな」

「まーな、俺もなんでそうしたのかよく解らん、でも……アイツ等を鍛えながら過ごしていると、結構教えられる事が多い訳よ。俺もまだまだ未熟だわなー」

 

 道信の話を聞きながら、手塚はタバコの吸い殻を捨てると、持っていたビールの蓋をあけて中身をゴクゴクと飲み始めた。

 

「俺のご先祖様……葵清信は、家康公とその同志達と共に、自分達の様な悲しい子供が生まれない平和な国を作る為に……葵流古武術を創り出し、未来を守る為に己を鍛えながら戦い続けた。ユウキとアツシはご先祖様達が作りだし、俺達が忘れかけている葵流古武術の本質を体現してくれると思うんだ」

「……まああの子達なら出来るかもね、アンタの策略にまんまと引っかかって、この街の悪党一掃しちゃうぐらいだし」

「出来るさ、なんたってあいつらは俺の弟子だからな」

 

 そう言って道信はビール缶を手塚の前に差し出し、対して彼女は自分の持つビール缶を差し出しこつんとぶつけて乾杯する。

 

「さあて、今日は飲むとするか!」

「言っておくが私はこれ一本だけな、これから仕事だ」

 

 

 

 そして道信は再び青空を見上げた。

 

(強くなれよ二人共……俺が見ることが出来なかった物を、お前達は見つけるんだぜ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――こうして二人の若き闘士たちは役目を終え故郷に帰っていった。ただし彼らが強くなるための歩みを止めない限り、運命は再び彼らを命がけの戦いに導くだろう

 

―――それでも彼らは負けない。強さと優しさを宿し、生きている人間の証である熱くて赤い血が流れる紅の拳……“スカーレットナックル”を持つ限り……。

 

 

 

                       To be Continue?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

説明
隠しボス編とエピローグになります。

5/24 追加エピソード書き足ししました。
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スカーレットナックル オリジナル 格闘 

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