〜〜黒の御遣い〜〜 其ノ弐 「新、孫呉の一員となる」
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其ノ弐 〜〜新、孫呉の将達と邂逅す〜〜

 

 

――◆――

 

 恐らく人生で、こんなに頭がパニックになる事は後にも先にも無いと思う。

 

 どうして自分がこんな状況になっているのか考えても、その思考を謎の方が余裕で追い越して行ってしまう。

 

 そのうち、何を考えていたのかを考えてしまいそうになる程に、頭が空周って、ついには絡まってしまいそうだ。

 

 けどその絡まりそうな思考を少しずつほどきながら、俺は今の状況を冷静に整理しようとする。

 

「どうした? 質問に答えろ」

 

「・・・・・・・」

 

 しかしその思考は、目の前の少女の一言で一度スッパリと立ち切られた。

 

 多分俺の目の前に突きつけられているこの剣も、物理的に俺をスッパリいけるような代物なんだろう。

 

 では、ここでもう一度状況整理といこう。

 

 俺は今、急に飛ばされてしまった見知らぬ荒野のど真ん中で、鎧を着たごつい男たちを率いている一人の見知らぬ少女に、どう見ても本物らしい剣を突き付けられている。

 

 そして少女が長い切れ目で俺を見据えながら言った一言は・・・・・

 

 ――――『貴様が、天の御遣いか?』―――――――

 

 だったわけだが・・・・・・

 

「まさか、言葉が分からないのか? おい、私の言っている事が分かるか?」

 

「え? あ、ああ・・・・大丈夫、分かるよ」

 

 少女の問いかけに、慌てて答えてはみるものの、戸惑いは隠せない。

 

 聞かれている事の意味が分からない訳じゃない。

 

 分からない訳じゃないが・・・・・

 

「ならさっさと答えろ! 貴様が天の御遣いか?」

 

「えっと・・・・・・」

 

 言葉が分かっていて無視されたのが気に喰わなかったのか、少女の切れ目がいっそう鋭くなった。

 

 さて、どうしたものか・・・・・。

 

「ちょっと聞きたいんだが、その天の御つかいって、もしかして管輅とかいう人の占い     

 に出てくる天の御遣いの事か?」

 

「なんだ、知っているのか。 ということは、やはり貴様は天の御遣いなのだな?」

 

「え? いや・・・・・」

 

 どうやら、彼女の言っている天の御遣いと、俺が知っている天の御遣いとは同じらしい。

 

 だが、それなら答えはやっぱりノーだ。

 

 というか、何でこの子は俺の事を天の御遣いだなんて思うんだ?

 

 中国の人間で、天の御遣いである北郷一刀の事を知らないなんてありえない。

 

 そもそも、彼はもう千年以上も前の人間なんだ。 この世にいるわけが無い。

 

 

 それにこの少女もそうだが、後ろに大勢いる男たちの服装も気になる。

 

 まるで、何百年も前の兵士の様な格好・・・・・・。

 

 こりゃ、少し確かめてみる必要があるな。

 

「なぁ、その前にもう一つ聞いて良いか?」

 

「なんだ?」

 

「あんたの名前は? 人に素性を聞く前に、まず自分から名乗るのが筋ってもんだろ?

それから、できれば俺の目の前にあるこの物騒なものも降ろしてくれないか?」

 

「・・・・・・いいだろう」

 

 少し考えたようだったが、少女はおとなしく刀を降ろした。

 

 刀に結ばれた鈴が、リンと小さく鳴った。

 

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「私は甘寧。 呉王、孫策さまの妹君、孫権さまに仕える将だ」

 

「甘寧・・・・・・?」

 

 少女の名を繰り返しながら、頭の中で解析する。

 

 甘寧、それに孫策と孫権・・・・・・・。 これって、確か三国志時代の人間の名前だ。

 

 それに、今呉王って言ったよな? てことは、やっぱり三国志時代の呉の事か?

 

 おいおい・・・・・まじかよ。

 

「じゃあもう一つだけ質問だ。 今の王朝は?」

 

「何を言っている? 漢王朝に決まっているだろう」

 

「あ、そう・・・・・」

 

 はい、確定。

 

 信じたくはないが、これだけ状況証拠があれば冗談って言う方が無理だ。

 

 どうやら俺がいるこの場所は、俺が居た時代から千年以上も前の三国志時代。

 

 それも、丁度天の御遣いが現れた頃の、だ。

 

 そう考えれば、この少女、甘寧が俺にした質問のつじつまも合う。

 

 というか、そう考えなければ今の状況は説明が付かない。

 

「さぁ、私は質問に答えたぞ。 次は貴様の番だ」

 

 しびれを切らした様子の甘寧が、声を荒げた。

 

 このまま黙ってたら、またさっきみたいに剣を突き付けられかねない。

 

 正直まだこの状況を本気で信じてる訳じゃないが・・・・・まぁ、ここはウソはつかない方がいいだろう。

 

「悪いが、俺はあんたの探してる天の御遣いじゃないよ」

 

「何・・・・? ならば貴様は何者だ? その妙な服装・・・・この辺りの人間ではあるまい?」

 

「ああ、まぁ話せば長くなるんだが・・・・・・実際のところ、俺もよく分かってないんだ」

 

「貴様・・・・・私をバカにしているのか!」

 

 “リン!”

 

「おい、待て待て! 落ちつけ! 別に馬鹿にしてるわけじゃない!」

 

 甘寧の奴がまた剣に手を伸ばしたので、俺は慌てて制止した。

 

 冗談じゃない。 今の、本当の殺気だったぞ・・・・・

 

 あやうく、俺も反応して剣を抜いちまうところだった。

 

「本当に、俺も今の自分の状況が良く分かってないんだ。

 詳しく説明するから、どこか落ちついて話せる場所は無いか?」

 

「・・・・・・・・・・・・・」

 

 俺の言葉を疑うように、ジッと睨みつける甘寧。

 

 だが少しして、少し呆れたように小さく息を吐いた。

 

「ふぅ・・・・まぁ良いだろう。 貴様が何者かは知らんが、ここに現れたものを連れて帰るのが私の使命だ。 貴様を城に連れて行く」

 

「城!?」

 

「何を驚いている? 私は孫家に仕える将だと言ったはずだ。

 我が主より、貴様を城に連れて来るようにと命を受けた」

 

 涼しげな顔をして甘寧は言う。

 

 頭で理解はしているが、いきなり城とか言われるとさすがに驚くぜ。

 

 だが、驚いている俺をよそに甘寧はさっさと歩きだし、無駄のない動きで自分の馬の背にまたがった。

 

「後ろに乗れ」

 

「あ、ああ」

 

 と、言われても、俺は馬なんか乗った事が無い。

 

 ・・・・・なんていう訳にもいかないので、大人しく甘寧の後ろにまたがった。

 

「日暮れ前には着ねばならん。 飛ばすぞ、掴まれ」

 

「えっと、こうか?」

 

 言われるがままに、甘寧の腰に手を回す。

 

 こうしてみると分かるが、見た目以上に細い、女性らしい身体だった。

 

 これで本当に将軍なのか? 

 

それに、なんだか女の子特有の甘い香りが・・・・・

 

「言っておくが、妙な気を起したら殺すぞ?」

 

「・・・・・はい」

 

 刺すような殺気を込めた声で言われた。

 

 前言撤回。 こいつは間違いなく将軍の器だ。

 

「戻るぞ、皆の者! 続け!!」

 

「はっ!!!」

 

 甘寧の号令に、後ろにいた兵士達が一斉に返事をし、馬が走り出す。

 

 すごい迫力だ。 こんなの、今まで見た事が無い。

 

 こんな風に動揺と少しの感動を覚えながらも、俺は呉の城へと連れて行かれることになった――――――――――――――――――――――

 

 

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――◆――

 

「うわぁ、すっげー!!」

 

「ここが孫呉の首都、建業だ」

 

 目の前に広がる光景に感動しながら、俺は子供の様に目を輝かせていた。

 

 荒野を出発してから数時間・・・・既に日が傾き始めた頃に、ようやく目的の街に到着したようだ。

 

 慣れない馬にずっと乗っていたものだからかなり尻が痛かったが、目の前に現れた街がすごすぎて痛みなど忘れてしまった。

 

 今まで草木一つ無かった荒野の景色からは一変し、門をくぐればそこはもう別世界。

 

 大通りには店らしき建物や屋台が立ち並び、そこかしこから漂う嗅いだ事もない様々な匂いがする。

 

 今まで人影すら見えなかったのがウソの様に、そこには人が溢れていて、通りを走る子供たちのはしゃぎ声や、店先で会話する人たちの声があちこちから聞こえてくる。

 

 この光景を見て、少し実感する。 俺は、本当に三国志の時代に来てしまったんだと。

 

「首都ってだけあって、さすがに賑わってるんだな。 

なぁ、甘寧。 それで、城ってのはどこにあるんだ?」

 

「何を言っている? さっきから目の前にあるではないか」

 

「へ・・・・・?」

 

 間抜けな声を出しながら、甘寧の言うように視線を真っ直ぐ前に向ける。

 

「前って・・・・・もしかして、あれが城か!!?」

 

「当たり前だ。 他に何に見えると言うのだ?」

 

 驚きまくってる俺とは正反対に、甘寧は涼しげな顔で言うが・・・・

 

「でっけーーーーっ!!!」

 

 恥ずかしげもなく、俺は大声を上げた。

 

 街を見た時の感動など、もうどこかへいってしまいそうだ。

 

 大通りの先には、確かに堂々とバカでかい城がそびえたっていた。

 

 正直、でかすぎて気づかなかった程だ。

 

 城なんて、今まで絵でしか見た事無かったからな・・・・・

 

「大きな声を出すな! 騒々しい」

 

「ああ、悪い」

 

 ・・・・・怒られた。

 

 っていうか、怒るたびにいちいち殺気を出すのはやめてほしんだが。

 

「あそこに、王様がいるのか?」

 

「そうだ。 この孫呉を収める王、孫策様がいらっしゃる」

 

「孫策か・・・・・」

 

 ・・・・・孫策伯符。

 

 確か、母親の孫堅の後を継いで二代目の王になった人物だったっけ。

 

 “江東の小覇王”と呼ばれ、王としての資質はかなりのものだったって、授業で聞いた気がするな。

 

 まさか、こんなところで歴史の授業が訳に立つとはね。

 

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「そろそろ着くぞ」

 

「! ああ・・・」

 

 そうこうしているうちに、城門のすぐ前まで来ていた。

 

 近くで見ると本当にでかい。

 

 門だけでも、街にある他の建物とは段違いだ。

 

「これは甘寧将軍! お疲れ様です!」

 

「ああ、ご苦労」

 

 城門の前に行くと、門番らしき兵士が甘寧に対してピシっと礼をした。

 

 その後、後ろに乗っている俺に視線を移したので、俺も軽く頭を下げる。

 

「甘寧将軍、その後ろのお方が例の・・・・?」

 

「まだなんとも言えんな。 とにかく、まずは雪蓮さまに会わせる。 通してもらうぞ」

 

「はっ! どうぞ!」

 

 そう言って、兵士はもう一度礼をしてから道を開けてくれた。

 

 ・・・・・ん? そいえば、今甘寧のやつが雪蓮さまとか言ってたな。

 

 会うのって孫策じゃないのか?

 

「なぁ、甘寧」

 

「今度は何だ?」

 

「今言ってた雪れ・・・・」

「その名を呼ぶなっ!!」

 

「っ!!?」

 

 俺が名前を口にしようと瞬間、甘寧が物すごい勢いで振り向きながら怒鳴った。

 

 発せられた殺気も、今までの比じゃない。

 

「・・・・なんなんだよいきなり」

 

「黙れ! その名は、貴様が呼んでいいものではない」

 

「名前を呼んじゃいけないって・・・・・・あ!」

 

 思い出した。 これも確か授業で習った事がある。

 

「もしかして、真名ってやつか?」

 

「知っているのか?」

 

「まぁ、一応。 今思い出したんだけど」

 

 真名とは、この時代の全ての人間が持っていたもう一つの名前の事だ。

 

 しかし真名は普通の名前とは違い、その人物の本質を表す命とも言える名前。

 

 よって、心からの信頼をよせる相手にしか呼ぶ事を許さず、許しの無いものはたとえ知っていても決して呼んではならない。

 

 もし許しもなく相手の真名を呼べば、殺されても文句は言えない程、大切なものらしい。

 

 もちろん、俺がいた時代では既に無くなった風習なので、俺に真名は無いが。

 

「知っているなら話は早い。 さっき私が呼んだのは、孫策様の真名だ。

 次に口にしたら、その場で貴様の首を飛ばすぞ」

 

「ああ、わかったよ」

 

 名前を呼んだだけで首が無くなったんじゃたまったもんじゃないからな。

 

 授業である程度の文化は勉強してるとは言え、まだまだ気を付けないといけない事は多そうだ。

 

 少しの不安を覚えながらも、俺たちは城の中に入っていった―――――――――――――

 

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――◆――

 

 馬舎で馬をつないだ後、俺は甘寧に連れられて城の奥へと通された。

 

 すると当然城の中をいくらか見る事ができたわけだが、はっきり言って驚きの連続だ。

 

 立派な石造りの壁に、あちらこちらに施された細やかな装飾。

 

 柱や廊下の柵なんかは鮮やかな朱色に着色され、なんとも高級感が漂っている。

 

 俺が居た時代の煉瓦造りの建物もなかなか立派だったと思うが、これはこれで違った趣があると思う。

 

 廊下を歩いているだけでもいくつもの部屋があって、それだけでも改めてこの城の広さを実感する。

 

「着いたぞ、ここだ」

 

 俺の前を歩いていた甘寧が、ひとつの部屋の前で足を止めた。

 

 扉の造りなんかは他の部屋と変わりないが、多分それぞれの部屋でちゃんと用途があるんだろう。

 

 甘寧が扉を開けて中へ入ったので、俺も後に続く。

 

「へぇー、結構広いんだな」

 

 部屋の中に入って、また驚いた。

 

 城の壁と同じ雰囲気の内装に、立派な棚や寝台まである。 広さも十分だ。

 

 間違いなく、俺の部屋よりは数段広いな。

 

「ここで待っていろ。 私は孫策さまたちを呼んでくる」

 

「ん? “たち”って、他にも誰か来るのか?」

 

 “バタン”

 

 俺の質問に答えないまま、甘寧の奴はドアを閉めてどこかへ行ってしまった。

 

 まったく、本当に無愛想な奴だ。 でも将軍なんて、あんなもんなのかもな。

 

「さてと・・・・・」

 

 “バフッ!”

 

 ただ突っ立っているのも間抜けなので、勢いよく寝台にダイブした。

 

 さすがに寝心地が良いとは言えないが、それでも横になれればいくらか楽だ。

 

 仰向けになって、天井を見上げた。

 

「本当に、三国志時代に来ちまったんだよな・・・・・」

 

 誰に言うでもなく、ひとりごとがこぼれた。

 

 不思議なことに、今俺はそれほど焦っちゃいない。

 

 というよりは、まだこの状況を本当に実感できていないのかもしれないが。

 

 ・・・・・そういえば、杏の奴は大丈夫かな?

 

 俺がこの世界にいる間、やっぱりあっちの世界で俺は居なくなってるだろうし、その間の時間の流れはどうなんだろうか?

 

 もし向こうに戻った時に、百年ぐらい経ってたらシャレにならないぞ。

 

 ・・・・・・って、何考えてんだ俺は。

 

 元の世界に戻れるかも分からないのに、戻った後の事なんか考えたって仕方ないだろ。

 

 今はとにかく、この先どうするかだ。

 

 それを決めるためにも、まずは孫策に会わなきゃならない。 

 

 いろいろ考えるのはそれからだ。

 

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「ふぁ〜・・・・・」

 

 いろいろと考えていたら、急に眠気が襲ってきた。

 

 ずっと座ってたとはいえ、慣れない馬に乗ったせいで疲れたしな。

 

 このまま少し眠っても・・・・・・

 

“ガチャ”

 

「ん?」

 

 瞼を閉じようとした時、扉が静かに開いた。

 

 甘寧の奴が戻ってきたのか?

 

「やっほー♪ 御遣いさん」

 

「・・・・・は?」

 

 甘寧じゃない。 入ってきたのは、なんか異常にテンションの高い姉ちゃんだった。

 

 桜色の髪に胸元全開の服を着ている。 なんなんだこいつ?

 

「ようこそ、孫呉の城へ。 ねぇねぇ、感想は?」

 

「いや・・・・・」

 

 何が何だか分からない。 甘寧のやつはまだ戻ってこないのか?

 

「雪蓮、いきなりそんな事を聞いても混乱するだろう。 少し落ちつけ」

 

「・・・・?」

 

 すると、ハイテンション姉ちゃんの後ろからもう一人誰か入ってきた。

 

 今度は対照的に、長い黒髪にメガネをかけた知的美人だ。

 

「ブー、いいじゃない別に!」

 

 ハイテンション姉ちゃんは知的美人に向かって頬を膨らませている。 子供か?

 

 だが知的美人の方はそれを無視して、俺の方に目を向けた。

 

「すまなかったな御遣い殿。 いや、正確には御遣い殿ではないのだったな」

 

「あ、ああ。 いや、いいけど・・・・あんたら、いったい誰だ?

 俺は孫策って人に会う為にここに連れて来られたんだが・・・・」

 

 俺が戸惑いがちにそう言うと、ハイテンション姉ちゃんは相変わらずハイテンションのまま、自信満々に自分を指さした。

 

「あら、間違ってないわよ? だって私がその孫伯符だもの♪」

 

「えぇっ!? あんたが孫策っ!?」

 

 ある意味、この世界に来てから一番の驚きだった。

 

 あやうく、寝台の上から転げ落ちるところだ。

 

 そいや、確かにさっき雪蓮って呼ばれてたな。

 

「そんなに驚かなくてもいいじゃない」

 

 孫策と名乗った姉ちゃんは、俺の態度が不満だったのか少し眉をひそめる。

 

 いや、驚くだろ! 

 

 “江東の小覇王”なんて呼ばれてるくらいだから、もっとこう・・・・いかつい感じの女を想像してたのに、それがまさかこんなイケイケの美女だったとは。

 

「あら、美女だなんて正直ね♪」

 

「言ってねーよ! ってか、人の心を読むな!」

 

「その辺にしておけ雪蓮。 話しが進まん」

 

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 俺と孫策が言い合っているのに呆れて、隣で見ていた知的美人が口をはさんだ。

 

 額に手を当てて、随分と困った表情だ。

 

「申し遅れた。 私は周瑜。 この孫伯符の・・・・まぁ、相談役の様なものだ」

 

「周瑜って・・・・あの周公瑾か!?」

 

「! ほう・・・・私の名を知っているのか?」

 

 俺が、名乗っていない字の部分を知っていたことに相当驚いた様子で、周瑜は俺を見る。

 

「まぁ、一応な。 呉の大督だった美周朗だろ? それくらいしかしらないけど」

 

「なるほど。 初めて会う私の名を知っているとは・・・あながち、お前が天の御遣いだというのも間違いではないかもしれんな」

 

「いや、だから俺は天の御遣いじゃ・・・・」

 

「まぁまぁ、その辺の話しは全員そろってからにしましょ。 もう少しで蓮華も来るはずだし」

 

 否定しようとした俺の言葉を遮って、孫策が言った。

 

 ん・・・・・? 蓮華?

 

「誰だ?それ」

 

「私の妹の孫権よ。 私に似て美人だから、期待していーわよ♪」

 

 自信満々にそう言う孫策。

 

 自分で美人とか・・・・・でも、実際美人だから質が悪いな。

 

 しかし、孫策に周瑜に孫権・・・・・授業で聞いただけのそうそうたる顔触れにこうも連続で会うことになるとは、驚きすぎて感覚がマヒしそうだな。

 

「姉様、ただ今参りました」

 

「ん?」

 

 扉の向こうから、凛とした声が聞こえた。

 

 姉様・・・・・ということは、多分この声の主が噂の孫権なんだろう。

 

「あら、噂をすればね。 入っていいわよ」

 

“ガチャ”

 

「失礼します」

 

 挨拶と共に扉を開けて、一人の少女が入ってきた。

 

 だが、その顔は・・・・・

 

「杏っ!!?」

 

「えっ!?」

 

 少女の顔を見た瞬間、俺は寝台から立ち上がり大声を挙げてしまった。

 

 だがそれも仕方ない。 

 

 だって孫権らしきその少女の顔は、幼馴染の杏と瓜二つだ。

 

 もちろん髪型や服装なんかは全然違うが、それでも本人と間違えてしまう程だ。

 

「あ、ああ・・・すまない。 ちょっと知り合いに似てたもんだから」

 

 孫権の顔をじっと見つめた後、冷静になる。

 

 落ちつけ、俺。 こんなところに杏のやつがいるわけないだろ。

 

「貴様・・・・いきなり蓮華さまに近づくとは、無礼な」

 

 “リン”

 

「うぉっ、いたのか甘寧っ!?」

 

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 どうやら孫権と一緒に部屋に入って来たらしい甘丁寧が、いつの間にやら俺の首元に剣を突き付けていた。

 

「よせ、思春! 私は別に気にしていない」

 

「・・・・・はっ」

 

 孫権がたしなめると、甘寧のやつはしぶしぶと言った様子で剣を収めた。

 

 助かった。 甘寧の奴がいる前で下手な動きはできないな。

 

「うん、とりあえずこれでそろったわね。 まぁ今いない子たちには後で説明するとして、話しを始めましょーか」

 

 “パン”と手を叩いて、孫策が笑って提案した。

 

 ってか、今の甘寧の行動にはノータッチなわけね。

 

「そうだな。 では、今からお前にいくつか質問をするが、答えられない者に関してはそれで構

わない。 いいな?」

 

 周瑜が腕を組みながらそう言った。

 

 場の空気が、和やかなものから少しピリっとしたものに変わる。

 

「ああ。 そのかわり、俺もいくつか質問させてもらうぜ?」

 

「いいだろう。 では、まずひとつ。 お前の名前を聞かせてもらおうか」

 

「関 新。 あんたたちみたいな字や真名はない。 

それから、姓と名前の考え方も違うから、呼ぶ時は新でいいぜ」

 

 確かこの時代では、相手を名だけで呼ぶのは失礼にあたったはずだ。

 

 だが俺の時代では、姓と名は完全に別のものだと考えられている。

 

「了解した。 では新、次の質問だが・・・・・お前は、どこから来た?」

 

「・・・・・・・・・・・・・」

 

 ま、当然その質問だよな。 

 

 嘘をつく意味もない。 だが、どう説明したもんか・・・・・

 

「信じてもらえないかもしれないが、俺はこの時代よりもずっと未来・・・・。

 千年以上先の世界からここへ来た」

 

「なにっ!? 未来だと・・・・・?」

 

 今まで決して表情を崩さなかった周瑜が、初めて目を見開く。

 

 周りで聞いていた孫策、孫権、甘寧の三人も、声には出さなかったが似たような反応だ。

 

 そりゃ、いきなり信じろって言う方が無理な話か。

 

 けど、これを信じてもらわなきゃ、これから先の話しはできない。

 

「嘘だと思うだろうが、本当の話だ。 どうやってここへ来たのかは分からない。

 けど、俺は確かにここよりずっと未来の世界から来た。

 それを証明できるものも、いくつかはある」

 

「って、いきなり言われてもね〜・・・・・どう、冥琳?」

 

「フム・・・・確かに、にわかには信じがたい話ではあるな。

だが、こいつは初めて会うはずの私の名を知っていたし、先ほど私の事を呉の大督“だった”と言った。 現在大督である私に、その言い方はおかしい。

それに、この風変わりな装束・・・・頭ごなしに否定する訳にもいくまい」

 

 周瑜は言いながら、俺の黒い制服を見た。

 

 確かに、この時代から見ればこれもそうとう変わってるか。

 

 しかしさすがは美周朗。 理解が速くて助かるぜ。

 

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「では、次の質問だ。 思春・・・・甘寧の話だと、お前は天の御遣いについて知っている

 らしいが?」

 

「ああ。 あんたたちと同じ様に、天の御遣いも俺たちの時代じゃ有名な人物だからな。

 だから何度もいうが、俺はあんたたちの探してる天の御遣いじゃないよ」

 

「なるほど。 ・・・・と、いうことらしいが、雪蓮?」

 

「うーん、そうねー・・・・」

 

 周瑜が話しを振ると、孫策が悩んだ様子で首をひねった。

 

 ってか、ほんとにこいつは今の話分かってたんだろうな?

 

「うん、それじゃあ新。 私から最後の質問ね?」

 

 そう言うと、孫策は俺にズイっと顔を近づけて来た。

 

 そして、なぜか嬉しそうにニッコリ笑って・・・・・

 

「ねぇ、私たちの仲間になってくれないかしら?」

 

「えぇっ!!?」

 

「姉様っ!!?」

 

「雪蓮さま、何を・・・・・!?」

 

 思いがけない孫策の申し出に、俺はすっとんきょうな声を挙げる。

 

 それが予想外だったのは孫策と甘寧も同じだったらしく、身を乗り出していた。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ! あんたたちが探してたのは天の御遣いだろ?

俺は違うって分かったのに、なんで仲間になる話になるんだっ!?」

 

「フフフ、それはねー、強いて言えば、あなたが天の御遣いじゃないから、かな?」

 

「はぁ? 意味わかんねーよ!」

 

 狼狽している俺などお構いなしに、孫策は笑顔のまま。

 

「えっと・・・・その辺の説明はめんどくさいから、冥琳お願い♪」

 

 肝心なところで、話を周瑜に振る。

 

 周瑜はやれやれと言った様子で首を振ったが、自分が出なければどうもならないと悟ったのか、口を開いた。

 

「実はな、新。 甘寧がお前を連れて来る前から、お前が天の御遣いでない事は分かっていたんだ」

 

「えっ・・・!? なんでだよ?」

 

「管輅の占いでは、“天の御遣いは白銀に輝く衣を身にまとい・・・・”とある。

 だがお前のその装束は、どう見ても白銀に輝いてはいないだろう?」

 

「そりゃ、そうだけど・・・それだけで?」

 

「もう一つある。 というか、こちらの方が重要だ。

 ・・・・実はな、本物の天の御遣いは、既にこの世界に存在している」

 

「なにっ!?」

 

 天の御遣いが、もう存在してるって?

 

 北郷一刀・・・・・俺の、遠いご先祖様が?

 

「数か月前、天の御遣いは蜀の劉備に着いた。 そして実際に、我々もその姿を見ている」

 

「じゃあ、なんで俺に天の御遣いかなんて聞いたんだよ?」

 

「お前を試す為さ。 もしかしたら天の御遣いを語る不貞の輩とも限らんからな」

 

 んな無茶苦茶な・・・・。

 

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「それでも、俺を仲間にする理由にはならないだろ?」

 

「あら、大ありよ♪」

 

 そこで、今まで黙っていた孫策が口を開いた。

 

「あなたは確かに天の御遣いじゃない。 でも、あなたは未来から来た人間だもの。

 天の御遣いと負けないくらい価値がある存在だと思うわ」

 

「そう言う事だ。 私たちにとって、お前が本物の天の御遣いかどうかであるかということはそれほど重要ではない」

 

 ・・・・なるほど。 言いたい事の大筋が分かってきた。

 

「つまり、天の国から来た天の御遣いと、未来の世界から来た俺。

 その特別な名前を持つ存在を仲間に入れたいって訳か?」

 

 この時代の民衆は、とにかく神やら天やら、そういう人知を超えたものにすがっていた。

 

 俺と言うよりは、“未来から来た”という事柄が重要なんだ。

 

「そーいうこと。 それに、別に良いじゃない。 

 管輅は御遣いが一人だなんて言ってないんだもの。

 蜀にいるのが白の御遣いなら、あなたは孫呉の黒の御つかいってことで」

 

「フム、黒の御遣いか・・・・。 悪くはないかも知れんな」

 

「でしょ、でしょ?」

 

 何やら、孫策と周瑜が二人で勝手に盛り上がっている。

 

 でも、黒の御遣いか・・・・・。

 

「・・・・いいな、それ。 気にいったよ」

 

「ホント!? それじゃ、仲間になってくれるのね?」

 

 俺の返事を聞いたとたん、孫策の表情が一層明るくなる。

 

 ほんとに、一国の王とは思えないほど無邪気な笑い方するんだな。

 

「ああ。 どのみち、ここを追い出されても行く宛てなんか無いしな。

 とりあえず、あんたたちの世話になる事にするよ」

 

「うんうん、そーこなくっちゃね♪ それじゃ・・・・」

 

「待って下さい、姉さまっ!」

 

 嬉々としている孫策とは対照的に、それまで黙っていた孫権が険悪な表情で話を止めた。

 

「どうしたの? 蓮華」

 

「勝手に話を進められては困ります。

 この者を仲間にするのを、私は認めた訳ではありません」

 

「恐れながら雪蓮さま、私も蓮華さまと同意見です」

 

 孫権の隣に立っていた甘寧も、続けて言う。

 

 どうやら、俺はこの二人にはあまり歓迎されていないらしい。

 

「この様な得体の知れぬ輩を、孫呉に受け入れるなど・・・・いつ裏切るやもしれません」

 

 ひどい言われようだな。

 

 俺をここまで連れて来た張本人の台詞とは思えない。

 

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「あら、蓮華も同じ意見なのかしら?」

 

「少なくとも、今の段階で簡単に信用する訳にはいきません」

 

 甘寧程ではないが、孫権もかなり険しい・・・というよりは、熟考しているといった表情だ。

 

 まぁ、当然っちゃ当然だよな。

 

「なるほどね。 だそうよ、新?」

 

「そこで俺に振るのかよ!?」

 

「だって、疑われてるのはあなただもの。 あなたが自分で弁解するのが筋でしょ?」

 

 またニコッっと笑って、そんな事を言ってくる。

 

 要するに、めんどくさい事は他人に任せた言って事なんだろうか。

 

「わかったよ。 とは言っても、今俺に出来るのは信じてくれって言う事だけだ。

 もし裏切ったら、その時はお前のその剣で首でも何でも飛ばせばいいさ」

 

 甘寧の腰にある剣を見ながら言ってやると、甘寧は眉をピクリと動かしただけだった。

 

「うん。 新はこう言ってるけど、二人はそれでどうかしら?」

 

「どうって、姉さまはそれで良いのですか?」

 

「私はさっきから良いって言ってるじゃない。

 それに、もし新が孫呉の敵なら、私と冥琳が部屋に入った時点で襲われるはずじゃない?」

 

「それは・・・・・」

 

 姉に言われ、言葉に詰まる孫権。

 

 確かに、孫策の言うとおりだ。

 

 仮に俺がこの国の敵だったとしたら、目の前の相手が王だと分かった時点で斬りかかっていただろう。

 

 もっとも、孫策がそれほど生易しい相手だとは思えないが・・・・・

 

「もし新が裏切ったら、その時は私が自ら手を下すわ」

 

 おいおい、笑顔で随分と恐ろしい事を言ってくれるな。

 

「もっとも、多分新はそんなに簡単にやらせてはくれないだろうけど・・・・・?」

 

 俺の方をちらっと見ながら、孫策はウインクをしてみせた。

 

 なるほど・・・・・相手の実力が分かってるのはお互い様ってわけね。

 

「・・・・・分かりました。 姉さまがそこまでおっしゃるのでしたら、もう止めません」

 

「蓮華さまっ!? よろしいのですか?」

 

 少し呆れ交じりに孫権が言うと、甘寧が身を乗り出しながら声を挙げた。

 

「姉さまが言った様に、確かに今の呉には天の御遣いのような存在が必要なのも事実。

 まだ到底信用はできないけれど、この男の力を試してみましょう」

 

「・・・・・わかりました。 蓮華さまが認めるのであれば、是非もありません」

 

 孫権の言葉のあとに、悔しそうにだが甘寧がそう言った。

 

 どうやら甘寧にとっては、王の孫策よりも孫権の方が影響力があるらしい。

 

 そういえば、あいつは孫権に仕えてるとか言ってたもんな。

 

-12ページ-

 

「うん。 それじゃあみんな納得してくれたところで、これからよろしくね、新♪」

 

「ああ。 殺されないようにせいぜいがんばるよ」

 

「そうしなさい。 それから、私のことは雪蓮って呼んでい良いわよ♪」

 

「えっ!? それって真名じゃないのか?」

 

「そうよ。 でも、新なら呼んでもいいわ」

 

「姉さまっ! 真名まで教えるのですか!?」

 

 案の定、孫権から声が上がった。

 

 そりゃ、命と同じ程大切な名前を、あったばかりの人間には普通教えない。

 

 ここは、多分孫権の方が正しい反応なんだろうが、当の孫策はケロっと

したものだった。

 

「新は裏切ったら死ぬとまで言って力を貸してくれるんだもの。

 こっちもそれ相応の対応をするのが礼儀というものじゃない」

 

「フム。 確かに雪蓮の言う事も一理あるか・・・・・。

では、私の真名も預けよう。 私は冥琳だ。 よろしく頼む、新」

 

「あ、ああ・・・・・」

 

 孫策・・・・もとい、雪蓮に続いて、周瑜まで真名を教えてくれた。

 

「冥琳まで・・・・っ」

 

「少し落ちつきなさい蓮華。 別に、あなた達にまで強要するつもりはないわ。

 真名を預けるのが嫌ならそれで構わないし、新と無理に仲良くしろとはいわない。

 でも、そんなにかたひじ張ったままじゃ、いつまでたっても信用なんてできないわよ?」

 

「っ!・・・・・・はい」

 

 雪蓮に諭されて、孫権は少し落ち込んだ様子で返事をした。

 

 なんか、俺が悪い事したみたいじゃないか。

 

「いいさ。 孫権も甘寧も、俺が本当に信用できると思った時に真名を教えてくれれば」

 

「当然だ。 貴様などに、私の真名を預けてたまるか」

 

 相変わらず手厳しい。

 

 これはどうやら、孫権よりも甘寧から信頼される方が難しそうだ。

 

「では、話がまとまったところで、新」

 

「ん? まだ何かあるのか?」

 

「最後に一番重要な質問、というより、私たちからの頼みだ」

 

「俺にできることなら、なんなりと」

 

「お前は未来から来たといった。 それではこれから先、この戦がどうなるかも知っている・・・・というわけだな?」

 

「っ・・・・・・・・・」

 

 冥琳の表情が、一気に険しくなった。

 

 なるほど。 いきなりで驚いたが、向こうの立場からすれば当然の質問だった。

 

「ああ、知ってるよ」

 

 特に取り繕うこともせず、俺はうなずいた。

 

-13ページ-

 

 

「よろしい。 では、今後何があろうとも、未来にかんすることは一切口にしないで欲しい」

 

「それが、たとえあんたらの勝敗に大きくかかわることでもか?」

 

「それが、たとえ孫呉の滅亡にかかわることであってもよ」

 

 明琳の代わりに、雪蓮が答えた。

 

 先ほどまでの無邪気さは消え、その表情はすでに王のものに変わっていた。

 

「私たちは、あくまであなたの名を使って力を貯えたいだけ。

 未来を知って、戦に勝とうとは思わないわ。 それじゃ、つまらないもの」

 

 一変して、今度は笑う。

 

 少女のような、無邪気さか。 王としての風格か。

 

 いったいどちらが、本当の彼女なのかと考えてしまいそうだった。

 

「わかったよ。 未来に関することは、いっさいしゃべらない。 あんたらが有利に運ぶような下手な助言もしない。 それでいいだろ?」

 

「ああ、十分だ」

 

 明琳がうなずく。

 

 もともと、俺としては頼まれない限りその辺を話すつもりはなかった。

 

 下手にこの時代に干渉して、未来が変わってしまうことが怖いからだ。

 

 まぁ、多分俺がこの時代に来てしまった時点で、十分干渉したことになるんだろうが。

 

「さて、じゃあ話しはこれくらいにしましょう。 

 他にもまだ何人か将軍や軍師がいるんだけど、それはまた紹介するわね。

 今日は新も疲れただろうし、この部屋は好きに使っていいから、もう休みなさい」

 

「ああ、そうさせてもらうよ」

 

 正直、もうクタクタだ。

 

 はやく寝台に横になって休みたいぜ。

 

「それじゃ、皆いきましょ」

 

 雪蓮に促されて、他の三人も部屋の外へ出ていく。

 

 甘寧の奴が部屋を出るときにこちらを睨んでいたが、それは見ないふりをした。

 

「ねぇ、新」

 

「ん?」

 

 最後に残った雪蓮が、扉に手をかけようとしたところで、思い出したように俺を呼んだ。

 

「蓮華と思春のこと、嫌いにならないであげてね?

 二人とも、ちょっと真面目すぎるだけで、ほんとはいい子たちだから」

 

「ああ、分かってるよ」

 

「ありがと。 新ってイイ男ね♪」

 

 “バタン”

 

 それだけ言って、雪蓮はさっさと部屋を出て言った。

 

 イイ男・・・・・か。

 

 やばい、ちょっと惚れそうになった。

 

 なんて、バカな事を考える余裕ができたのも、きっと雪蓮のおかげなんだろう。

 

「はぁ〜・・・・」

 

 長い溜息と共に、寝台に仰向けになった。

 

 今日一日で、いろいろな事がありすぎた。 

 

 なんにせよ、この状況で呉の仲間として迎えられたのは、幸運だったと言うべきか。

 

 もちろんこれから、いろいろな問題がある。

 

 まずは、呉の皆に俺が認められる事。

 

 これはまぁ、時間をかけてゆっくりとやっていくとして、もうひとつ重要な事がある。

 

 “天の御遣い”・・・・・北郷一刀。

 

 俺の遠い先祖である彼が、蜀にいる。

 

 もしこのまま歴史通りに蜀と対立することになれば、俺は彼と戦わなくちゃならないんだろうか・・・・・?

 

 その時、俺はどうすればいい・・・・・・?

 

「・・・・・ま、いいや。 めんどくせ」

 

 そんなゴチャゴチャとした考えごとは、この一言で全て吹き飛んだ。

 

 今は考えても仕方のない先の事なんかより、さっきから襲ってきている眠気の方が重要だ。

 

 先の事は、また先になったら考えればいい。

 

 そう割り切って、俺は静かに目を閉じた―――――――――――――――――

 

説明
どーも、黒の御遣い2話目です。

二作同時進行という無茶なことやってますが、ボチボチ更新していきたいと思います。

一刀の遠い子孫が主人公というこの作品、賛否両論あると思いますが、どうぞよろしくお願いします 汗
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黒の御使い 真・恋姫?無双 恋姫†無双 三国志 孫呉 

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