インフィニット・ストラトス―絶望の海より生まれしモノ―#102
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「全員、揃ったな。」

 

千冬の声に、一度戦線を離脱した一夏たちは頷いて肯定した。

 

彼らが居るのはアリーナの上空。

その足元では空を始めとした教員部隊と暴走機が入り混じっての混戦を繰り広げている。

 

「では、手短に作戦を説明する。何、単純だ。――吶喊し、暴走の元凶と思われる((試作量産型打鉄弐式|もくひょう))を撃破する。」

 

千冬が言った作戦とも言えない作戦にラウラは『ガクッ』という擬音が付きそうなくらいに転びそうになった。

――PIC制御での滞空中に。

 

「突入の順番は私、ボーデヴィッヒ、鳳、デュノアの順だ。更識とオルコットは突入支援と進路確保に当たれ。」

 

名前を呼ばれた面々が『はい』と返事を返す一方で名前を呼ばれなかった二人に視線が集まる。

 

「織斑、お前は進路を確保し次第、最大加速で突入。目標に零落白夜を叩きこめ。篠ノ之はその直掩だ。」

 

「――つまり、いつも通りだな。」

 

『仲間たちが切り開いた道を抜けて止めを刺す』。

一夏からすればいつもの事だ。

 

それを判っての千冬の言葉に全員が僅かな瞬間ではあるが頬を緩ませる。

 

「更識、最適ルートを算出してくれ。そこに穴を空ける。」

 

「はい。―――ルート図出します。」

 

全員の手元に表示されるのは標的の周囲に居る暴走機の配置と進攻ルート。

 

「見事なまでの敵中突破ね。」

 

「まあ、これ位なら母様のミサイルの雨をくぐり抜けるよりも楽だろうな。」

 

「それは同感。」

 

こぼれる軽口。

 

そんな様子に千冬は誰にも気づかない位に微かに口元をほころばせる。

 

刹那の微笑み。それをすぐに消して気合いを入れ直す。

 

「では、更識の砲撃開始を以って突入を開始する。―――タイミングは任せる。」

 

「了解ッ!」

 

突入組が((瞬時加速|イグニッション・ブースト))の態勢に入るのを見届けながら、簪はランチャーを構えてルート上中央に居座る一機に狙いを定める。

 

「――――撃ちます。」

 

((簪が引き金を引く|トリガー))。

 

連続して放たれたエネルギー弾と実体弾は狙い通りに進路上最初の障害物であった打鉄を弾き飛ばす。

 

「私に続けッ!」

 

その僅かに出来た隙間に飛び込む千冬。

その後を追うラウラ、鈴、シャルロット。

 

セシリアのビットとレーザーライフルでの狙撃。

簪のランチャーと速射荷電粒子砲による砲撃。

その二つに動きを制限された暴走機の群れに更に楔が撃ち込まれる。

 

千冬が手にしたブレードで切り伏せ、鈴が衝撃砲で弾き飛ばし、ラウラがワイヤーブレードで接近を阻み、シャルロットが弾幕を張って動きを止めさせる。

 

そして生まれる僅かな隙間―――だが、

 

一夏は雪片を左手に、納刀しているかのように持ち、そこに手を添えてじっと動かない。

 

そして、その数秒半後―――

 

「一夏ッ!」「応ッ!」

 

一夏が動く。

 

イグニッションブーストで地面まで一直線に吶喊。

 

千冬が、鈴が、ラウラが、シャルロットが開け、セシリアと簪が支える穴を、彼女らの背中をかすめるようにしてくぐり抜ける。

 

吶喊の勢いを僅かに右に振る。

 

同時に左腰でその出番を待っていた雪片を―――"抜く"。

 

 

 

一閃。

 

 

 

残心を取る一夏の背後で斬られた機体が盛大な爆発を起こしていた。

 

 

* * *

[side:箒]

 

「ま、やっぱりこうなるのか。」

 

「外殻を剥がせたんだ、そうぼやくな。」

 

爆風の向こう側から姿を現したのは追加装甲を排除し、本来の姿となった試作量産型打鉄弐式。

 

その足元には真っ二つに叩き斬られた追加装甲の残骸がある処を見ると追加装甲を切り離して雪片の斬撃を上手く避けたらしい。

 

攻撃を喰らった時に装甲が吹き飛んでダメージを軽減する、確か((爆発反応装甲|リアクティブ・アーマー))だったか?

そんな感じの働きをしたのだろう。

 

さて、どうしたものか。

一夏のエネルギー自体も心もとないモノがあるし、私では撃破までに時間が掛る。

周りに居るみんなの助勢も難しいだろう。

 

…となると、

 

「一夏、露払いは任せろ。」

 

進路上に居座るのは打鉄が一機とラファールが二機。

それくらいなら、何とかなる。

 

両手の刀をしっかりと握り直し半歩前に出る。

 

展開装甲は背中を推進に、両足を攻撃に変更。

 

「では、参る―――」

 

ほんの僅かな間のみ、スラスターを全力噴射。

真ん中に居るラファールとの距離を詰め、その勢いを殺さずに足に載せて―――

 

「でぇいっ!」

 

展開装甲のエネルギーブレードを併せた蹴り。

同時に空裂を振るって一夏の進路上に居る二機を追いやり、

 

「はぁッ!」

 

回転運動をする機体を強引に停め、そのまま雨月で刺突。

同時に放たれるレーザーが最後の一機を撃ちすえる。

 

機能停止に追い込むには程遠いが一夏が通り抜けるには十分な時間だろう。

 

「おぉぉぉぉぉぉぉぉおお!!」

 

一夏が喊声を上げながら突っ込んでゆく。

 

ほんの僅かな隙間ではあるが、その隙間を縫って試作量産型打鉄弐式との間合いを詰め―――

 

 

 

『ギャリ、ピチーン。』

 

そんな、何かが割れるような微かな音が、駆動音と銃撃音、爆発音に溢れる((戦場|アリーナ))に居るにもかかわらず、何故か耳に残った。

 

刹那の間に量産型打鉄弐式との位置を入れ替えた一夏が振り抜いたままの状態で着地し、地面に擦り足の跡を残しながら停止する。

 

 

そのまま、一夏と量産型打鉄弐式だけが動かない、奇妙な時間が流れる。

 

それは一秒だったのか、一分だったのか、それとも一瞬にも満たない刹那だったのか。

 

がくん、と力なく――あっけないほど静かに量産型打鉄弐式は機能を停止した。

 

ついでに、暴走している殆どの機体も同時に機能を停止する。

 

残っている機体も、すぐに撃破されるだろう。

 

ならば、と私は一夏の元に近づく。

 

 

「いち―――」

ねぎらいの言葉でもかけてやろうとして、言葉を喪った。

 

一夏が振り抜いた雪片、その刀身が無かった。

 

「ん、ああ。箒か。」

 

私の事に気付いた一夏が残心を解いてこちらに向き直る。

 

「ボロボロだけど、何とかなったな。」

 

そう言いながら浮かべる屈託のない笑顔が、私には酷く痛々しく見えた。

 

「余計な心配はかけたくない。みんなには内緒で頼む。」

 

敢えてISの通信機能を使わず、すれ違いざまにぼそりと耳打ちしてくる一夏。

 

振り返ると雪片を収納し、降りてくる鈴たちに手を振っている。

 

その姿は見事なまでに、『いつも通り』だった。

説明
#102:終わる永遠


あと数日で8巻発売ですね。
アニメ二期も企画が動きだしているみたいだし、またISも盛り上がるのかな…

まあ、絶海は最早ISが『原案』に近いくらいの状態になってますが。
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コメント
感想ありがとうございます。『いったい何があったのか。』それについては事後処理の話で明かせると思います。…『原案』は単に『ISという小説を元にして書いてますよ』という程度の意味なのであまり深く考えなくても…(高郷 葱)
?? なんだ、何が起きたんだ? あとは面倒な事後処理を残すだけという状況下でここへきて一夏サイドでもなにやら不穏な空気を感じます。『原案』という言葉の意味も非常に気になります。(組合長)
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