真・恋姫†無双〜絆創公〜 小劇場其ノ十
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小劇場其ノ十

 

「皆さん、一刀様が策を考えて下さいました。今からご説明致します……」

 一刀の前から皆の所へ素早く戻った亞莎が、小声で話し始めた。

 一旦態勢を整えるため固まっていた一団は、その声を聞いて一瞬の身じろぎで反応した。しかし、視線は対戦相手の男から離さず、得物を持つ力も緩めぬまま耳を傾ける。

「ご主人様、が……?」

 声にいち早く反応したのは、一番闘志を燃やしていた愛紗であった。恨めしさを帯びた視線は、未だに相手の男に向いたままである。

「ろくでもない策じゃないだろうな……?」

 己の君主への忠誠心を男に愚弄された少女、思春は発案者への不信感を、その眉根に表した。

「危険ではあるかと思われますが、私としては有効な策であると思います……」

 相手の男に気付かれないように、亞莎は一層声を潜めて話しかけている。

「ふむ……。して、主の策とは?」

 己の代名詞でもある嗜好品を貶された少女、星は興味を示したのか、薄く笑みを浮かべて小声の少女の発言を促した。

「はい。皆さんは一刀様が来るまで、相手の注意を巧く引きつけて下さい……」

「ご主人様が参戦するのか……?」

「いえ。参戦するのは一刀様ではありません。続けます、その後は…………」

 亞莎の全ての説明が終わった途端、一同は僅かに難色を示した。

「……それは、流石に危険では?」

 提案された策に最初に異を唱えたのは、自分のタブーを土足で踏み荒らされた紫苑であった。

「私もそう思いましたが、一刀様が巧く手筈を整えてくれるかと……」

「鈴々は、お兄ちゃんを信じるのだ……!」

 勝機を見出したのか、強い眼差しと可愛い八重歯を見せた、どこか力強さのある笑顔で答える。

 それを見た亞莎の顔も、頼もしく感じさせる笑みに変わった。

「はい。私も信じています。だから……皆さんも……!」

 その瞳に映る一筋の希望に、全員が決意を新たにする。

「……いいだろう。その策とやら、乗じてやろう」

「なに、主の事だ。十中八九吉に転ぶはずだ」

「そうね。信じましょう……ご主人様も、そして……」

「ああ。皆、行くぞっ!!」

 

 

「こそこそと何の相談ですか? 私に贈る賛辞の言葉でも考えていましたか?」

 これまでの女性陣のやり取りを、腕を組んで悠々と眺めていたリンダ。その内容までは把握していないのだろう、訝しげに右の眉を吊り上げている。

「違う……。貴様を跪かせる為の、下準備だ……!」

 鈴音の切っ先を向けながら静かに、それでいて闘志を帯びた口調の思春。

「お主には、メンマの素晴らしさをたんと味わって貰わねば、な……」

 龍牙を持つ力を強め、不敵な笑みを浮かべる星。

「母親としての底意地……あなたに教えてあげます!」

 颶鵬を構え、穏やかな顔付きに鋭い眼光を加える紫苑。

「お前に、鈴々たちの力をたっぷり見せつけてやるのだっ!!」

 丈八蛇矛を振り回して、自分達が勝利するという威勢良いアピールをする鈴々。

「一人一人の力を合わせることの素晴らしさを、今から証明致しますっ!!」

 素早く相手に向けて、凛々しい顔付きと構えをとる亞莎。

「さあっ! 覚悟を決めろっ!!」

 一番大きな声を張り上げ、端整な顔立ちを険しくして青龍偃月刀を突きつける愛紗。

 

 全員から立ち上る凄まじい闘気を感じて、リンダは深く息を吐いた。

「ほう……最後の追い込みですか。では、私も全力でお相手致しましょうか……」

 閉じた鉄扇を女性陣に突きつけ、意地悪そうな笑みで対抗する。

 相変わらずの小馬鹿にした発言に、女性陣のこめかみが反応したが、相手に悟られないよう更に闘志を燃やした。

 そんな様子に少し気を引き締めたのか、リンダの手に力が入り鉄扇が僅かに軋んだ。

「やる気になるのは一向に構いませんが、結果は変わりませんよ。あなた方は誰一人として、私を捕らえる事は出来ません」

 強気な態度を崩さないリンダに、愛紗も負けじと言い返す。

「別に捕らえなくとも良い。貴様に触れさえすれば良いのだからな……」

「それも無理ですね。今までの戦闘でお分かりでしょうが、私は防御や回避に長けています……。ですから私には絶対に触れられませんよ」

「それは、やってみなければ分からんだろう?」

 口元に笑みを浮かべて、愛紗は更に言い返す。

「随分な自信ですねぇ……。その自信が果たしてどこまで持つのか楽しみで……」

 

 

「さーわったーーー!!」

 

 −ポフッ!!−

 

「…………は?」

 突如後ろから聞こえてきた楽しげな声と、自分の腿裏を触る感触に、男は間抜けな声を上げた。

 声を出してから後ろを振り返ると、その目線を下げた所に一人の少女が確認できた。

 更に、その少女の後ろには、年は少し下であろう少女達が何人かいた。

 事態を飲み込めていないキョトンとした顔の男と同じように、状況は理解していないが凄く楽しそうな笑顔をしている少女は、ただじっと男を見ていた。

「……あなたは、確か黄忠様の?」

「璃々だよ!!」

 その元気な声は、男が先程聞いた声に間違いなかった。

「……では、さっき私に触ったのも?」

「うんっ!!」

 屈託のない少女の笑顔を見ても、男は心が晴れやかにはならなかった。

 

「触るんだったら、どんな方法でも良かったんだよね?」

 男が次に耳にした声の出所は、闘技場の外からだった。

 声の主は、少女達の更に後ろで様子を見ている北郷一刀であった。一刀は呆然としているリンダを満足げに眺めている。

「なるほど……。これはあなたの計略ですか」

「これほど巧くいくとは思わなかったけどね」

 

 −ガシャンッ!!−

 

 力無く鉄扇を落としたリンダ。金属音の後に、暫しの沈黙が走る。

「……私の、負けですねぇ」

 溜め息混じりに呟かれたその声に、一同は一斉に喜びの声を上げた。

 

 と、敗北を認めた男は、自分のスラックスの裾を軽く引っ張られるのを感じた。

 見ると、自分を負かした少女が不思議そうな顔をしていた。

「ねーねー、何で皆喜んでいるの? おじちゃん」

 

−ピシッ!−

 

 その声で、リンダは一瞬で石化した。

 

 

 

 

 

−続く−

説明
リンダ、意外な展開を垣間見るの事。

次回、北郷一刀のよく分かる解説と、ヤナギが若干鬼畜な報復をするの事。
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コメント
ま、「おじちゃん」と呼ばれてもしゃーないわな。それにしてもまさか璃々ちゃんが助っ人だったとわね。璃々ちゃん泣かしたら地獄もんだけどな!(前原 悠)
人を小バカにした結果、璃々ちゃんから「おじちゃん」呼ばわりされるとはww 次回、いままでからかわれてきた人たちや主任たちに全力でからかわれるのでしょうなww(神余 雛)
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