俺妹短編集 きりりんとあやせたん いい夫婦の日記念 罵られたい病 |
俺妹短編集 きりりんとあやせたん いい夫婦の日記念 罵られたい病
きりりんとあやせたんのドキドキ!プリティーでキュアキュア
「きゃぁああああああああああぁっ!?!?」
4月某日の日曜日の昼下がり。アタシは自室で遊びに来ていたあやせによってベッドに組み倒されていた。
「ちょっ、ちょっと一体どうしたのよ、あやせっ!?」
上に圧し掛かってくるあやせを払いのけようと必死に両腕を動かす
「桐乃がっ! 桐乃が悪いんだからねっ!」
けれどあやせはあたしの両手首を捕まえると馬乗りになって更に逃れ難い体勢を作ってしまった。
「アタシが一体、何をしたって言うのよ!?」
最近あやせを怒らせるような行為をした覚えはない。なのに何故こんな仕打ちを受けるのか分からない。
アタシはこのままマウントポジションを取られてフルボッコにされてしまうのか?
まったく訳が分からない状況。
「桐乃がわたしの気持ちを弄ぶからっ!」
「弄ぶって一体何のことよっ!?」
「まだ白を切るのっ!?」
あやせは瞳を鋭く光らせると……アタシの胸を鷲掴みにしてきた。
「ひゃっ!?」
他人に胸を揉まれるという生まれて初めての行為に驚いて声が出てしまう。
ちなみに感じたとかそういうのは一切ない。単に痛い。でも、胸を揉まれるという行為自体にすごく驚いている。
「あやせ一体、アンタは何を言ってるのよ!?」
「桐乃はわたしの気持ちを知っていた。なのに、わたしを裏切ったっ!」
「だから何のことなのか分からないってのぉっ!!」
あやせの気持ちって何? 裏切ったって一体何のことなのよ?
「ウルサイッ! わたしという心に決めたたった1人の彼女がいるくせに、他の女に尻尾を振っていた分際で。このビッチがぁ〜〜っ!!」
「あやせが何を言っているのか全然分かんないわよぉ〜〜っ!!」
アタシは正真正銘女の子だ。
なのに、何であやせが彼女で、他の女に尻尾振っているっていう話になるんだか?
「アタシは女だっての! 彼氏はいても彼女がいるのはおかしいでしょうがっ!」
「六花はマナの奥さ〜〜んッ!!」
アタシは正論で反論を試みた。けれど、あやせは陸上部のアタシを遥かに圧倒する力で抵抗を封じ込めた。
「女同士で夫婦は普通でしょっ! 今時の常識でしょうが!」
「全然常識じゃな〜〜いっ!! 恋愛は男女で行うのが普通でしょうがあっ!!」
「近親相姦も普通じゃないってのぉっ!!」
グサッとくる一撃だった。
「妹が兄貴を好きになっちゃいけないってのっ!」
「ダメに決まってるわ」
躊躇のない返答。
でもこれは、アタシが万が一兄貴と恋仲になった際の周囲の反応に違いなかった。
「何よ……アタシはダメで、アンタは兄貴を好きになっていいって言うわけ?」
「うん。わたしとお兄さんには血の繋がりはない。だから付き合っても結婚しても大丈夫」
あっさりと認めやがった。
「確かにわたしはお兄さんのことが好き。将来はお嫁さんになりたいとも思う」
またまたあっさりと認める更新。
今日のあやせは本当に手強い。一体、どうしちゃったの?
「でもね。今日のわたしはもう一つの大切な使命を果たすためにこうしてここに来たの」
「大切な使命?」
首を捻って考えるものの、何も分からない。そもそもあやせの使命なんて知るはずがないのだけど。
「桐乃はまだ思い出していないようね」
「だから何のことをよ?」
「わたしが昨日見た夢に基づいて得た使命のことよ」
「アンタの夢をあたしが知るわけないでしょうがっ!」
頭が痛い。
あやせってこんな娘だったかしら?
いや、中2の夏まで騙されていただけで元からこんな奴だった気がする。
「そう。昨日見た夢はこんな感じだったの。野獣と化した桐乃に蹂躙し尽くされる辱めを受ける夢……」
「えっ? ここから回想入るのっ!?」
アタシの嫌そうな顔を他所にあやせは回想モードに突入してしまった。
『やっ、やめて桐乃っ!? 女の子同士で、こんなのおかしいよっ!』
桐乃に無理やりベッドに押し倒されたわたしは全身を使って必死に抵抗します。
わたしは今身の危険を感じています。命ではなく貞操という意味でです。桐乃はわたしの顔を舐めて涎を擦り付けてきました。
『ハンっ! 押し倒したのがアタシじゃなくて京介だったら喜んで股を開く淫乱お嬢さまがよく言うわね。そんな淫乱アンタに倫理を語られるなんてチョー受けるっ♪』
桐乃はわたしから退くどころか両手を縛り上げて抵抗を封じてます。更にわたしの顔をペロペロと舐め上げ続けてきます。
『そ、そんなわけないじゃないっ! わたしは、わたしはお兄さんのことなんて……』
頬が熱を持ちます。わたしのお兄さんへの想いは桐乃に全部バレてしまっています。でも、それを認められる素直さはわたしにはありません。
『アタシの所に遊びに来たくせにさ。さっきからずっと兄貴の部屋の方ばっかり見ちゃって……目的がミエミエでムカつくってのよ!』
『ムカつくって…………きゃぁああああああああぁっ!?!?』
桐乃がわたしの胸を鷲掴みにしてきたのです。とても荒々しくて……エッチな男性のような下品な手つきです。
『なっ、何するのよっ!? わたしたち、女の子同士なんだよっ!』
身を捻って必死に桐乃から逃れようとします。でも、両手を縛られた状態のわたしではろくな抵抗さえできません。桐乃のなすがままです。
『うん? 何って、あやせを滅茶苦茶に陵辱してさ。あたしだけのモノにしてやろうってだけのことよ』
『滅茶苦茶に陵辱って……桐乃。一体、何を言っているの!? 今日の桐乃、おかしいよ』
桐乃は返答の代わりに目を細めると意地の悪い笑みを浮かべ……わたしの若草色のブラウスのボタンを外し始めたのです。
『ちょっ!? ちょっと、桐乃っ!? 冗談にしてもほどがあるんだよっ!』
わたしは声と行動で必死に抵抗を示します。
でも、そんなわたしの抵抗をあざ笑うかのように桐乃はわたしのブラウスのボタンを全部外してしまい……
『へぇ〜。あやせってば、黒いブラなんてエロい下着を身につけてるのね。いっやらし〜んだぁ〜♪』
桐乃にブラを曝け出されてしまったのです。
『いっ、嫌っ! 嫌ぁあああああああああああぁっ!!』
必死になって暴れます。でも、馬乗りになってわたしのお腹の上にいる桐乃には何の役にも立ちません。それどころか桐乃はわたしのブラのカップを指でなぞり始めたのです。
『何を今更恥ずかしがってんのよぉ〜? 下着姿ぐらい、体育の着替えの時に何度も見てんじゃん♪』
『体育の着替えと今とじゃ全然意味が違うじゃない! 肌を晒そうとする意味があっ!』
『まあそうだよね〜♪ じゃあ、これからエロいことをする記念にまずは写メを1枚いっておこうか♪』
『えっ?』
桐乃は手にした携帯でパシャっと音を立てて写真を撮ったのでした。
『やっ、やめてよっ! そのデータ、消してよっ!』
『やだよぉ〜♪』
桐乃は右手でアカンベーをしながら携帯を高く掲げてみせます。
『あやせの態度次第で……ネットに流出しちゃうかもねぇ〜。このお宝写真♪ ファンのみんなも大興奮よね〜♪』
『嫌よっ! そんなのっ!』
もし、わたしの下着姿がインターネット上に流出してしまったら……。
わたしは新垣家の娘に相応しくないと家を追い出されてしまうかも知れません。ううん。それ以前に……わたしが恥ずかしくてもう生きていけません。
(あやせって淫乱な女の子だったんだ。ガッカリだよ)
特にお兄さんに軽蔑されてしまったらと思うと、死にたくなります。
『どうして? どうしてこんな意地悪するの!? 今日の桐乃、おかしいよっ!』
涙ながらに訴えます。でも、今日の桐乃は普段と違いました。
『どうして、ね』
桐乃の瞳が冷淡なものへと変わりました。そして桐乃は再び荒々しくわたしの胸を掴んだのです。
『こんなエロいブラまで準備してさ。京介に尻尾振ろうっていう魂胆が気に入らないのよ。あやせは本当にいやらしい牝犬だわよね』
『しっ、尻尾振るって……』
全身が恥ずかしさで熱くなっていきます。
『あわよくば京介に取り入ろうって魂胆だったんでしょ? 下着見られたから責任取れとか言って、わざと下着姿を見せつけておいて迫ったりするつもりだったんでしょ? ハンっ。アンタの考えそうなことよね』
『そ、そんなことは……』
胸が苦しくなって桐乃から顔を背けます。
桐乃の指摘はまさにわたしが今日考えていたことそのものでした。
この部屋から途中で抜け出してお兄さんの部屋に行き、会話の途中で理由をつけて肌を晒す。後は泣き怒りながらお兄さんに責任を取ってわたしと恋仲になるように迫るというものでした。
そのために普段はつけない……大人っぽい下着を身につけてこの家を訪れたのです。
『本当にあやせってばエロいんだから。頭の中はエロ一色よね』
桐乃は蔑むように息を吐きだしました。
『だから、そんなことは……』
わたしはそれ以上何も言えません。
『今日はアンタのことをただ一方的に滅茶苦茶にしてやろうと思ってたけど……ちょっと趣向を変えようかしら♪』
桐乃はわたしを見ながらクスッと笑いました。でもその笑みにはどこにも温かみを感じられません。とても恐ろしいことを考えている笑みでした。
『兄貴にアタシたちが何をしているのかよく分かるようにしてアンタのことを陵辱してあげるわ』
『えっ?』
わたしの時間は凍りつきました。
『そのためにまずは電話をかけて兄貴を速攻家に帰らせることから始めないとね♪ ぐっしっしっし』
桐乃は携帯の短縮ダイヤルを押すとすぐにお兄さんへと電話を繋ぎました。
『あっ、兄貴♪ 今どこにいるの?』
『桐乃から電話して来るなんて珍しいな。俺は今、図書館で勉強をして休憩してる所だ』
『じゃあ、今すぐ帰ってきた方がいいわよ』
『何でだ?』
桐乃はわたしを見ながら面白そうに微笑んだのでした。
『アタシがあやせのことをエロ同人みたいに滅茶苦茶に陵辱するから』
『はぁ〜〜〜〜っ!?』
お兄さんが桐乃を馬鹿にした声を出しました。でも、桐乃はその事態をお見通しだったのです。
『アタシ今、あやせの上に馬乗りになってんのよね』
『お前は何訳わからないことを言ってるんだ? あんまり邪気眼電波なことを言っていると電話切るぞ』
『じゃあ、あやせの悲鳴でも聞けば信じてくれるかしらね?』
桐乃は天井を向いて呟きながらわたしのブラの中に強引に手を突っ込んできたのです。
『いっ、嫌ぁあああああああああああああああぁっ!?!?』
わたしの胸をブラの内側から弄ぶおぞましい感触に思わず大声を上げてしまいました。
『おっ、おいっ! そこに本当にあやせがいるのか? お前ら、一体何をしてるんだっ!?』
お兄さんの切羽詰まった声が携帯越しに聞こえます。
『だからこれからあやせを陵辱するって言ったでしょ♪ あ〜あやせの胸って気持ちいいわ。くせになりそう♪ にゃっはっはっは』
ブラの中に入ってきた桐乃の手が、胸の一番敏感な部分に……。
『やっ、やめてぇえええええええええぇっ!!』
誰にも触らせたことがない、将来結婚する男性以外に触らせる予定のない所を触られた。そのショックは自分が思う以上に大きなものでした。
『おっ、おいっ! あやせぇえええええええええぇっ!!』
『今すぐ帰ってこないと……アンタのラブリーエンジェルがキズモノになっちゃうわよ。アンタだって陵辱されて中古品になった女なんか抱きたくないでしょ』
桐乃は薄ら笑いを浮かべながら冷めた瞳でわたしを見ています。
『お前、今どこにいるんだ!? あやせ、答えてくれっ!』
わたしは必死になって声を張り上げました。
『わたしは……あっ…………桐乃の部屋です……た、助けてください……ああっ!』
『今行くからな。待ってろっ!!』
通話が切れました。桐乃が切ったのです。
『さぁ〜て、これで下準備は整ったわねぇ〜っ♪ ニッヒッヒッヒッヒ』
美少女アニメを見ている時のような陽気な笑みを浮かべる桐乃。でもその瞳はよく見るとケモノのようにギラギラと光っています。
『兄貴も馬鹿よねぇ〜』
『お兄さんの何が馬鹿だって言うのよ! お兄さんはすぐにわたしを助けに来てくれるんだからもうこんなことはやめてっ!』
『無理よ。だって兄貴はこの部屋に入って来られないもの』
桐乃は視線を部屋の扉へと向けました。
『この部屋は鍵が掛かるし。あの扉、木製に見せておいて鋼鉄製だから兄貴じゃ絶対に開けられないわよ』
『だったら、窓の方からっ!』
桐乃の視線が今度は窓へと向きます。
『アタシの部屋の窓、防弾仕様になってるから。兄貴が侵入しようとしても絶対無理だから♪』
『えっ? それじゃあ……』
わたしは自分の状況が絶望的なものであることを急に理解してしまいました。そしてそんなわたしの表情の変化を見ている桐乃は実に楽しそうな表情を見せたのでした。
『そっ。アタシがあやせを陵辱している間、京介はアタシたちの淫らな声を部屋の外から聞いているしかないってこと♪ この部屋、壁は薄いからあやせのエッチな声が丸聞こえで間違いないでしょうね〜。あやせの艷声聞いたら京介ってばどんな反応を示すかしら?』
『そ、そんなあ……』
目の前が急に暗くなっていきます。絶望はわたしから抵抗する意思と力を奪っていったのでした。
『淫乱あやせは兄貴には渡さない。アタシが全部奪い尽くしてやるんだから。あやせの身体も、幸せな未来もね……』
『や、やめて……』
わたしは震えるばかりでもう抵抗することができません。
『ああっ♪ アタシが陵辱し尽くしたあやせを兄貴が見たらどんな反応を示すかみものだわ♪ じゃあ……いっただっきま〜す♪』
桐乃が覆い被さってきます。でも、もうわたしにはその行為を止めるだけの力も気力もなくなっていたのでした。
『お兄さん…………ごめんなさい……』
お兄さんに捧げようと思っていた大切な物を失ってしまう。わたしの涙が止まることはありませんでした。
そして、帰ってきたお兄さんが部屋の外から桐乃に向かって罵声を浴びせる声が止まることもありませんでした。
…
……
………
「こうしてわたしと桐乃は女同士でも子供ができることを立証したのでした。めでたしめでたし〜〜〜〜っ!!」
今日の目覚めは最高でした。とてもいい夢を見た気がします。
どんな夢だったのか詳しくは覚えていません。でも、桐乃ととても良い雰囲気で過ごした爽やかな夢だったと思います。
「そうでした。わたしはすっかり初心を忘れていました」
机へと歩いていき、写真立ての1つへと目を向けます。そのガラスケースの中にはわたしとお兄さんと、顔を塗り潰された茶髪少女が3人で写っています。
お兄さんがマネージャーをしていた加奈子が出演したメルルイベントをわたしが監視しに行った所観客席にいた桐乃に遭遇し一緒に撮った1枚です。
桐乃がいなければお兄さんとの貴重なツーショット写真になるのでつい顔をマジックで塗り潰してしまいました。でも、ここに写っているのは間違いなく桐乃です。
桐乃の他の写真は全部捨ててしまったので今残っているのはこの1枚だけです。お兄さんとの仲を邪魔するウザ女の写真は全部焼いてしまったからです。
でも、この写真は確かに桐乃の写真です。そう、桐乃の……。
「わたしは昔桐乃に『ガチゆり始まるよ〜♪』だったのに。いつの間にか基本を疎かにしてしまったのですね」
自分のことをとても恥ずかしく思いました。
「でもここで、基本ばかりに忠実でいようとして今を忘れちゃダメですよね。きっと失敗します」
以前、どこか他の世界のわたしが、お兄さんへの愛を捨てて桐乃だけに執着したことがある気がします。でもその結果として桐乃もお兄さんも両方逃すという最悪な結末を迎えたのです。
同じ過ちを2度繰り返すわけにはいきません。セイントに同じ技は2度効かないのです。
「つまり大事なことは、お兄さんのお嫁さんになりながら桐乃をお嫁にもらう一夫一婦制を遵守することですね」
日本では重婚は認められていません。従って1人の個人が認められる結婚の形態は夫1人、妻1人までです。
「両手に花ならぬ両手に高坂を実現するために私は頑張りますよっ!」
お兄さんと桐乃を両方を一気に落とす二方面作戦は始まりを告げたのでした。
「というわけで、わたしにはお兄さんのお嫁さんになって、桐乃をお嫁さんにもらうという大切な使命があるのよっ!」
あやせは大声で怒鳴った。
でも、延々とあやせの与太話を聞かされたアタシもまたイライラが最高潮に達していた。
「そんなのあやせの妄想に過ぎないじゃん! アタシはあやせのお嫁さんになるつもりはない。だからいい加減退いてよっ!」
必死になって抵抗を繰り返す。でも、それでもあやせは退いてくれない。
「やっぱり……あの女たちが桐乃を惑わしのねっ!!」
「あの女たちって一体何のことよぉっ!?」
あやせが不満をぶつけそうな女といえば、黒いのや沙織などアタシのヲタ友達が真っ先に思い浮かべる。
「桐乃ってば、昨日教室であんなにも大声で叫んでいたじゃない」
「何をっ?」
「『まこぴ〜今週もカッコイイ〜〜ッ♪ ありすちゃんは今週も可愛かったぁ〜〜っ♪ デキドキ!プリキュア……もっ、もっ、萌えぇええええええええええぇっ♪♪』ってさっ!」
あやせは悔しさに顔を震わせながらそう言った。
「はっ?」
アタシは何と反応するべきか困った。
「桐乃はこうも言ったわ。『マナちゃんってば、勉強もスポーツも完璧超人でその上人気者って……ほとんどあたしと一緒じゃん。キャラのステータスをパクられちゃったぁ〜〜〜〜〜〜っ♪♪』って」
あやせはよほど悔しいのか、全身を激しく震わせている。
「えっと……それって、アタシが朝っぱらから教室で奇声を上げていたから怒っているってこと?」
アタシも最近はヲタ趣味を誰にも隠さなくなっている。それをあやせは慎みがないと怒っているのだろうか?
「そんなわけがないでしょっ!!」
あやせはアタシのブラウスのボタンを荒々しい手つきで外し始めた。更にスカートにも手を伸ばして強引に脱がされてしまう。
「ちょっ!? あやせっ!?」
「ショーツと合わせて白と青のチェックの下着だなんて……如何にもお兄さんの二次元妹趣味に擦り寄って選んだ下着じゃないのっ!」
あやせは顕になったアタシの下着を見ながらそう評した。
「違うってのっ! これはアタシが可愛いと思ったから買ったのよ!」
「下着を選ぶ基準がお兄さんに気に入られるものになっている分際でよく言うわねっ!」
今日のあやせは全く聞き耳を持ってくれない。
このままじゃアタシ……本当に犯される!?
「桐乃はわたしが何故怒っているのか、まだ理解していないようね!」
「だから変態の考えることなんかアタシに分かるかっての!」
気力だけは絶対に負けないようにしてあやせを睨む。
「桐乃……あなたはドキドキ!プリキュアが大好きなのよね?」
「そっ、そうよっ! アタシがヲタ趣味を持っちゃ悪いっての?」
瞳を鋭くしてあやせを睨む。
兄貴に初めて人生相談をして、アタシは初めてヲタ趣味全開な自分を肯定することができた。
その後も色々あったけど、アタシは自分の選んだ道を否定するつもりはない。たとえあやせに何を言われようとも。
「じゃあ、ドキプリの好きなキャラを言ってみてよ!」
「はっ?」
あやせの言ったことが理解できない。
「だからっ! ドキドキ!プリキュアで桐乃が好きなキャラを言ってみてってば!」
「えっと……」
あやせの考えが読み取れないながら答えてみることにする。
「主人公の相田マナちゃん、財閥の正真正銘お嬢さまの四葉ありすちゃん、スーパーアイドルにしてクールなんだけど天然娘の剣崎真琴ちゃんが大好きよ。何か文句あるっ!?」
キッパリと答えてみせた。アタシの趣味は誰にも否定させない。
「どうして……どうしてなのっ!?」
アタシの返答を聞いてあやせが見せたのは激しい怒りだった。
「どうして桐乃の好きなキャラの中に……菱川六花ちゃんが含まれてないのよぉ〜〜〜っ!?」
あやせは怒りを大爆発させた。
「あやせが怒っている真の理由って、それ?」
「そうよっ! 何で桐乃はプリキュアが好きなのに……六花ちゃんを避けているのよぉ〜〜っ!!」
あやせの手がアタシのブラのホックへと伸びてきた。
本当に犯されるっ!?
アタシは自分の体に残った力を全て振り絞りながら必死に抵抗する。アタシが六花ちゃんをあまり好きでない理由を述べながら。
「だって……六花ちゃんって何かあやせくさい臭いがするんだもん。ガチゆりっぽくてさ、ヤンデレにジョブチェンジしそうな気質を持っててさ……外見もそっくりだし」
六花ちゃんは確かに可愛い。のだけど、あの娘を見ているとあやせの、しかもヤンデレバージョンの影がちらついて背筋が寒くなってしまうのだ。
「そこが最高に可愛いんでしょうがぁ〜〜っ!!」
あやせはアタシのブラを力づくでむしり取った。
「きゃぁああああああああああぁっ!?」
あやせに裸の胸を晒してしまう。
「こうなったら……桐乃にはわたしの娘を産んでもらうんだからっ!!」
「嫌ぁあああああああああああぁっ!! ケダモノおぉおおおおおおぉっ!!」
兄貴に捧げるはずの大切なモノが奪われてしまう。しかも女の子の手によって。
「兄貴ぃ〜〜〜〜っ!! 助けてぇ〜〜〜〜っ!!」
必死に大声を張り上げて助けを求める。
「無駄よっ! お兄さんが留守なことは、さっきこの部屋に入る前に確かめておいたわ」
「誰でもいいから助けてぇ〜〜〜〜っ!!」
必死に抵抗する。でも、そうしている間にもアタシのパンツまであやせに脱がされてしまった。
「さあ……桐乃っ♪ ハァハァ。女同士でも子供が作れることを全世界に証明してあげましょう♪ わたしたちが新しい世界のイヴとイヴになるのよっ!」
「嫌ぁあああああああああああああぁっ!!」
犯罪者の魔の手が迫る。
その時だった。
ガチャっと隣の部屋の扉が開く音がした。
「あっ、兄貴が帰ってきたっ!」
「チッ! これから桐乃の純潔を奪おうって時に!」
あやせが大きく舌打ちをした。
後はアタシが正真正銘の危機に陥っていることを知らせれば、兄貴はアタシを助けにこの部屋に乗り込んできてくれる。
あやせの動きもさすがに止まった。
アタシは大切な貞操を守りぬくことに成功したのだった。
『何か隣の部屋が騒がしい気がするのだけど?』
……黒いのの声がした。何でアイツはこのタイミングで女連れ込んでるのよ?
しかも黒いの。遊びに来たのにアタシには一言の挨拶もなしかい。
『さあな? 大方、桐乃とあやせがふざけ合って遊んでいるんだろ。いつものことだよ』
『やけに必死な声に聞こえたのだけど?』
『そんなことよりも、早くリアルエロゲーを2人でプレイしようぜ♪』
……おいっ。結局またいつものこのパターンなの?
『貴方、自分の彼女を部屋に連れ込んで最初にすることがそれなの?』
『だって、ルリルリはちゃんと会話してくれるし、触れられるしで最新機能てんこ盛りのゲーム感覚彼女だからな。ゲームプレイしたくなるのは当然だろ♪』
『私は現実よ。そしてルリルリはやめてちょうだい』
『そんなこと分かってるって♪ じゃあ、前回の続きから早速ロードするぜ♪』
『前回の続きって……京介はまたあんなプレイを私にさせるつもりなの? ほんと、変態だわね』
『まあまあ。世界でただ1人の俺の彼女ルリルリにだからお願いするんだってば♪』
『だからルリルリはやめてちょうだい……ハァ。私は彼氏が変態で本当に不幸よ』
服が床に落ちる音が聞こえた。どうやら黒いのが服を脱いでいるらしい。結局京介の要求を飲むんかいっ!
「桐乃……わたし、ちょっとお兄さんを殺しに行ってくる」
あやせはヤンデレと化した瞳でそう言い切った。
「うん。行ってらっしゃい」
手を振ってあやせを見送る。
本当はアタシも一緒に殴りこみたかった。
でも、今のアタシは全裸。さすがにこの格好で兄貴の前に姿を現せるわけがなかった。
『お兄さん……泥棒猫……2人まとめて死ねぇええええええええええぇっ!!』
『わぁ〜っ!? あやせ、突然乱入してきて一体何なんだぁ〜〜っ!?』
『そんなことを言ってないで、早く逃げるわよっ!』
『逃がすかぁ〜〜っ!! わたしのモノにならないお兄さんも、わたしからお兄さんを奪った泥棒猫も死ねぇ〜〜っ!!』
隣の部屋からガチャンガチャンとモノが激しく床に落ちる音と罵声と悲鳴がひっきりなしに鳴り響いている。
「よいしょっと」
アタシは自分の部屋の鍵を念入りにかけた。
そして裸のまま椅子へと座った。
「こんな時は……キャプチャーしておいたドキドキ!プリキュアでも見て気分を落ち着けるに限るよね♪」
ヘッドホンをして外部からの音を遮断する。パソコンを立ち上げて早速視聴を開始する。
「まこぴ〜今週もカッコイイ〜〜ッ♪ ありすちゃんは今週も可愛かったぁ〜〜っ♪ デキドキ!プリキュア……もっ、もっ、萌えぇええええええええええぇっ♪♪」
アタシを襲い、今また兄貴と黒いのを襲っているあやせを思い出しながら、六花ちゃんを好きになるにはもうしばらく時間がかかるかもしれないと思ったりした。
今日起きた嫌なことを全部忘れるべくアタシは隣の部屋の騒動を忘れてアニメに集中したのだった。
了
いい夫婦の日 来栖加奈子さんの場合
「お〜い、京介。晩飯の準備ができたぞ〜」
「ああ。ありがとうな」
大学の課題を進めていた手を止めて顔を上げる。
2年前まで俺が通っていた高校の制服を着た加奈子が鍋を持ってテーブルへと歩いて来ていた。
彼女の邪魔にならないように手早くテーブルの上を片付ける。
加奈子はテキパキと料理をテーブルの上へと並べていった。
「さっ、食べようぜ」
「そうだな」
2人で向かい合って食事を採り始める。
ツインテールをやめて、髪を下ろすようにした加奈子は中学時代に比べて随分大人っぽくなっていた。
「味、どうだ? ちゃんこ鍋に初めて挑戦してみたんだが?」
「ああ、本当に美味いぞ。加奈子は本当に料理の腕がめきめき上達したよな」
加奈子に笑顔を見せながら返答する。
「あったり前だろ。何たって京介と暮らし始めて1年半。ほとんど毎日飯を作ってきたのはこの加奈子なんだぜ。腕も上達するっての」
加奈子は楽しそうに笑った。
「1年半、か」
この1年半のことを思い出してみる。
大学進学を機に独り暮らしを始めた俺の所に加奈子が転がり込んできたのが去年の春。
高校進学をやめて、芸能活動1本で勝負することにした加奈子は顔を赤らめながら言ったのだった。
『あたし……大好きな京介と一緒に住みたいんだ』
それから紆余曲折あって俺と加奈子は一緒に住むことになった。
まあ、なんだ。
俺と加奈子が恋人同士になったとも言い換えられるのだが。
一緒に住み始めて、俺は大学、加奈子は芸能活動とそれぞれの道で頑張っていた。
ところが、俺達が一緒に住んでいたことで大きな問題が生じてしまった。
加奈子のストーカー的気質を持つファンが俺達の同棲を突き止めて、インターネット上にそれを暴露したのだった。
加奈子はいわゆるアイドルという存在ではない。秋葉原でイベントショーなどに参加する以外は雑誌上にだけ現れるモデルだ。プライベートをどうこうされる類の存在じゃない。
けれども、段々と仕事も増えて有名になってきた所でのスキャンダル発覚。
イメージ悪化を避けたがるスポンサー達は加奈子の降板を要求。加奈子は完全に干された。
加奈子は俺との関係を完全に絶って再出発を図るか、事務所を辞めるかの選択を迫られた。
加奈子が選んだのは、躊躇なく選んだのは後者だった。
『あたしは昔、確かにアイドルになりたかった。誰でも良いからチヤホヤして欲しかったから。でも、今は違う。あたしは京介のそばにずっと居たい。それがあたしの唯一の望み』
こうして加奈子は事務所を辞めて芸能活動から一切身を引いた。
そして今年の春に俺が通っていた高校に1年遅れで入学したのだった。
「加奈子はさ、モデルを辞めてしまったことを後悔してないのか?」
この1年間、聞かないようにしていた質問をつい口にしてしまった。
「後悔、してねえよ」
加奈子の答えには躊躇がなかった。
「どうして?」
「今現在こうして京介と一緒にいられるんだから、何を後悔することがあるってんだよ」
加奈子の理由説明はこれもまた簡潔明瞭だった。
「そりゃあ、事務所辞めた後に京介に捨てられてたら後悔もしただろうけどよ。現にあたしは京介と暮らしている。幸せを満喫している。後悔なんてあるわけねえだろ」
加奈子は照れ臭そうに笑ってみせた。
「俺、加奈子にそんなに評価されるほど立派な男なのか不安になってきたぞ」
加奈子の過大評価ではないかと疑心が募る。
「確かに、京介がそんなにいい男かと言われると……微妙だな」
加奈子は首を捻った。
あれ?
ここは躊躇なく否定してくれる所では?
「背はまあまあ高いけど、顔は地味で、事務所の男モデルに比べたら月とすっぽんだし。ファッションセンスも最悪だしな」
「グハッ!?」
クリティカルヒット1
「結構良い大学行ってはいるけども、スポンサー関連にT大卒がゴロゴロいたのに比べれば別に大したことないしな」
「ブヘッ!?」
クリティカルヒット2
「女とフラグを立てる能力だけは一級品だし、あやせとかまだお前を狙ってるっぽいしな。気苦労が絶えねえよ」
「グボハァッ!?」
クリティカルヒット3
「それって加奈子さん……俺のこと、全然好きじゃないってことなんじゃ?」
聞いていて悲しくなってきた。
「ばぁ〜〜かっ」
加奈子は俺の意見を一蹴した。
「そんな悪条件が気にならないぐらい加奈子は京介のことが大好きだってことだよ」
さすがに恥ずかしかったのか、加奈子の顔は真っ赤になっていた。
「きょっ、京介こそ、あたしのことをちゃんと愛しているんだろうな?」
照れ隠しで加奈子が逆襲に転じた。
「加奈子のことは愛しているに決まっているだろ。でなきゃ、1年半も一緒に住むかっての」
俺もやけ気味に大声で返答する。
「あたし、背もおっぱいも小さいぞ」
「そっ、それがいいんじゃないか」
大好きな加奈子なんだから身長が低いのも胸が小さいのも個性。
そう言いたかった。
「チッ。やっぱりロリコン趣味だったか」
加奈子はふて腐れたように舌打ちしてみせた。
「違〜〜〜〜うっ!!」
愛する人には俺の真意が伝わっていなかった。
「違うって言うのなら……釣った魚にはもっと餌をやれよな」
加奈子は今度は頬を膨らませてみせた。
「餌をやれとは?」
「もっと毎日ちゃんと好きって言えよな」
「う〜ん。夜とか割と言っていると思うのだが?」
「だからエロいことしている最中に勢いで言うんじゃなくてだなっ」
加奈子の顔が真っ赤になった。
「それから、記念日はちゃんと祝え。たとえば今日」
「今日って何かの誕生日だったか?」
思い当たるものがない。
「今日は世間一般でいい夫婦の日なんだよ!」
「いい夫婦って……お前……」
自分の顔が急速に熱を持っていくのが分かる。
「京介はあたしが奥さんじゃ……不満か?」
不安げな瞳で俺を見る加奈子。
「これ以上嬉しいことが他にあるかってんだよ」
加奈子の背後に回って後ろから抱き締める。
「じゃあ、嫁さんを大事にしろよな。嫁さんはおめえを一生裏切らないからよ」
加奈子は体重を俺に預けてもたれかかってきた。
「ああ。そうだな」
愛する人を優しく抱き締めながら俺達はまったりとした時を過ごしたのだった。
了
いい夫婦の日 五更瑠璃さんの場合
「それで、京介はいつになったらプロポーズしてくれるのかしら?」
大学3年への進級をきっかけに東京で暮らし始めた彼の部屋を掃除しながら尋ねる。
週末はほとんどここで暮らしている。
最近は日向が五更家の家事をよくしているので平日に泊まっていくことも多い。
けれども、私はまだこの部屋の正式な一員ではない。
早く正規の構成員になりたかった。
それに──
「えっと……大学を卒業してからではダメ、でしょうか?」
京介が冷や汗を垂らしながら聞き直してくる。
「ダメよ」
私は即答して返してみせた。
「だって、京介が受けようとしている会社って……転勤が多いと聞くところばかりだもの。結婚せずに就職されたら……何年も放って置かれて、捨てられるかも知れない」
京介は一つのことに夢中になって最善を尽くすタイプなのはよく知っている。
でもそれは、遠い場所で新しい仕事に夢中になると、私のことをすっかり忘れてしまう可能性でもあった。
加えて京介は地味な顔でステータスもそんなに高いわけでもないのに、女とフラグを立てる能力だけは一級品。
今までは私の目の届く所にいたから制御できた。けれど、卒業して離れ離れになってしまったらと思うと怖かった。
「俺が瑠璃を捨てるわけがないだろ。お前のことを愛しているから復縁して、その、今もこうして半同棲な生活しているのだし」
「私が契約や形式を重んじているのはよく知っているでしょう? 結婚は……私にとっては何より重要なのよ」
何年経っても激ニブのこの男にはちゃんと言葉にして言っておく必要がある。
「その、何だ。結婚は……3年以内に必ずするというのでどうだろうか?」
「却下だわ。京介が大学を出る後1年と4ヶ月以内がタイムリミットね」
先延ばしは認めない。
「けど、瑠璃だって今通っている服飾の専門学校の2年制コースが終わったら、どっかに就職するんだろ?」
「高坂京介の元に永久就職するのはもう決まっているわよ」
私の志望進路は極めて単純明快。
「いや、それはそうだとしてもだ」
「貴方が申し込んでくれるのなら私は今日からでも高坂瑠璃になるわよ」
「と、とにかくだ。卒業したら、どこかの企業に勤めて自分の才能を生かして仕事するという道が瑠璃にもあるだろ? 結婚は瑠璃がそれを体験してからでも」
「そんな道、考えたこともないわ」
京介の言葉をキッパリと否定する。
「貴方だって知っているでしょう。私がどうやって収入を得ているかを」
「コスプレ衣装だの、洋服だのをインターネットで注文受けて作ったり、ネット販売していたりするよな」
「そうよ」
頷いてみせる。
「私はインターネット上で文字を介してやり取りしている時のみ、世に言う普通に顧客と接することができるもの」
「お前、いまだに知らない人に対して邪気眼な対応をすることあるもんな」
京介が呆れたような瞳で私を見ている。
「だから私は、在宅で働く道を選ぶのよ。その為に、高校時代からずっと布石を投じていたのだし」
私がインターネット上でアパレルグッズを売り出したのはもう3年前のことになる。
最初は趣味の領域を出ないものだったけど、専門学校に通うようになって基礎もしっかりしてきた。それで、フルオーダーの注文も取れるようになった。
「在宅なら……京介がどこに転勤しようとずっと付いていけるでしょ」
チラッとだけ京介を見る。
私は人と接するのが苦手。
その短所を何とか長所に変えたかった。
そして京介とずっと一緒にいたいという中3の頃からずっと抱き続けた想い。
その2つの想いを結合した結果がこれだった。
「瑠璃は……結婚に向けてもう何年も準備を重ねているんだな」
「少なくとも高1の頃から、私の頭の中の一番重要な部分を占めてきた問題だもの」
京介の言葉に頷いて返す。
私は普通の子とはちょっと違う。
邪気眼中二病な設定を引き摺っているからとかではなくて。
感じ方とか、将来の見据え方とか、今の楽しみ方とか。
多分それらの面で、私は一般人より損をするようになっている。
この社会が一般人を基準に形成されているから。
でも、だからこそ、私は自分という存在をよく自覚して生きることで、損害になる所をプラスに変えていこうと考えて実践してきた。
「この、ムッツリエロ猫め」
京介はニヤッと笑ってみせた。
「エロいのは京介の方でしょ。昨夜だってあんな……」
昨夜のことを思い出して顔が急激に熱くなる。
「瑠璃は、夜は大胆になってくれるのに、昼間はちょっとでもエッチな話をするとこうだから不思議だ」
「それは貴方がTPOという人類のマナーを知らないからでしょう!」
真っ赤になりながら京介に反論する。
「とにかく……わっ、わたしは京介との結婚に関して高校生のときからずっと真剣に考えているのよ。後は、貴方が答えを出してくれれば……」
私は弱い女だから。
京介にちゃんと形で示してもらわないとすぐに不安になってしまう。
「そうだな。後は俺の問題。だよな」
京介は立ち上がって鞄の中をガサゴソと漁った。
そして小さな四角い青い小箱を取り出して私に見せた。
「その、何だ。瑠璃に贈り物だ」
京介はテレ顔を見せながら私に箱を近付ける。
「今日って何かの記念日だったかしら?」
11月22日。特に思い当たる記念日はない。
「本当は……俺の方から言わないといけないことだったんだが。瑠璃に先を越されてしまったので言い出し難かった」
「あ、そう、なの」
よく分からないまま箱を受け取る。
「その、開けて良いの?」
「開けて返事を聞かせてくれないと、俺が困る」
京介が目を逸らしながら顔を赤くした。
何のことか分からないまま箱を開いてみた。
「これは…………指輪っ?」
大小のダイヤモンドが合わさって三日月の形の装飾が施された指輪が入っていた。
「今日は夫婦の日らしいからな。今、俺達に一番必要だと思うものを準備したつもりだ」
京介の顔は、私が大好きな凛々しい先輩のものになっていた。
「瑠璃」
「はい」
頷いて先輩の言葉を待つ。
「俺と、結婚して欲しい。俺が大学出るまでに、2人でちゃんとした夫婦になろう」
「……………………はい」
私の返事は最初から決まっていた。
「京介も人が悪いんだから。最初から素直に言ってくれれば良いのに」
京介に指輪を左手の薬指に嵌めてもらう。
私は人生の幸せをかみしめながら京介に向かって微笑んだのだった。
了
罵られたい病
「のっ、のっ、罵られてぇえええええええぇ〜〜〜〜っ!!」
4月某日。俺は日本在住男性の99.9%以上が掛かるという『罵られたい病』を発症させてしまった。
日本の風土病とも言うべきこの病気は、発症すると体が大きく痙攣して止まらなくなる。痙攣は時間と共に激しくなり、やがて天井を突き破り地面に激突して死んでしまうという恐ろしい病なのだ。
治療法はただ一つ。美少女に罵られることだけ。美少女からの罵りだけが生き残るための唯一の方法だった。
「るっ、瑠璃ぃいいいいいいぃっ!! 俺をっ、俺を罵ってくれっ!! 昔のように邪気眼中二病毒電波で意味不明に手酷く罵ってくれぇええええええぇっ!!」
俺は病気を発症させてしまった。しかもかなり末期まで症状が悪化している。
そんな俺はベッドの上でトランポリン選手のように体を跳ね上がらせながら看病に訪れた恋人に治療を求めた。
高校入学以来だいぶなりを潜めたが、瑠璃は俺の知り合いの中で一番の毒舌使い。瑠璃に罵られれば俺の病気もたちどころに治るに違いなかった。
「昔のように蔑んだ瞳と冷淡な口調で『呪うわよ』と言ってくれぇえええええぇっ! そうすれば俺の命は助かるんだぁああああああぁっ!!」
瑠璃に昔のように手酷く罵倒されたらと思うと……体がゾクゾクして頬が火照って止まらない。
ヤバいっ! これはヤバいっ! ヤバいってのっ!
病気が治っても、瑠璃に定期的に罵ってもらおう。いや、罵ってもらうために定期的に罵られたい病に掛かろう。そう運命を決意した。
さあ、瑠璃よっ! 愛する俺を救うために俺をゴミ以下の存在として冷たい視線と共に蔑んでくれっ!!
「…………愛する京介を罵るなんて、私にはとてもできないわ」
瑠璃は涙目で顔を逸らして俯いた。
「えっ?」
体を跳ね上がらせるのも忘れて全身を引き攣らせながら瑠璃を見る。
「私はもう、心無い酷いことを言う毒舌女から卒業したのよ。だから、京介を罵るなんて絶対無理なのよ」
瑠璃の泣きながらの壮絶な告白。
「いや、そこを何とかなりませんか? 俺の命の危機なんですが?」
「京介に幾ら頼まれても無理なものは無理よ。だって……」
瑠璃は顔を上げて両手を広げた。
「だって今の私は京介への愛に満ち満ちた……いわば愛猫とも言うべき存在なのだから」
……照れ顔の瑠璃はとても可愛かった。でもそのキュート・フェイスは俺を死へと追いやる顔だった。だって今の俺は罵られたい病の末期患者なのだから。俺の死まで後2時間。
?
「え〜と、俺への愛で満ち満ちている愛猫さんは俺を罵ることができないということでよろしいでしょうか?」
「ええ、そうよ。愛の言葉なら幾らでもつむぎ出せるけど、罵るなんて私にはできないわ」
瑠璃は真顔でそう言い切った。
……コイツはすごく頑固な所があるからな。彼氏である俺が何か言っても意見を変えることはきっとないだろう。となると……。
「瑠璃が俺を罵ってくれないと言うのなら……きっ、桐乃を呼んできてくれないか!? あの口の悪い妹なら絶対に俺を罵ってくれるはずだっ!」
俺に憎まれ口しか叩けない、マジで口の悪い妹ならきっと俺の病気を治せるはず。
「早く、早く桐乃を呼んできてくれぇ〜〜っ!!」
俺にはもう時間がない。跳ね上がる距離が伸びて段々と近付いてくる天井に一抹の不安を感じながら瑠璃に頼む。
「桐乃なら今いないわよ」
「えっ?」
瑠璃からの返事は俺をガッカリさせるものだった。
「メルルイベントにでも出かけてるのか? それとも渋谷に服を買いに行ったのか?」
秋葉や渋谷からだとここに戻ってくるまで2時間掛かる。その間、俺の体は保つのか?
今から呼び戻してギリギリか……。
「桐乃なら今…………アメリカ留学の真っ最中よ」
瑠璃は目を瞑りながら桐乃の出かけ先を告げてくれた。
「なんだあ。アメリカ行ってるんじゃここにはいないよなあ。うん。納得だ♪」
なるほど。アメリカにいたんじゃ最低丸1日は帰って来られないよなあ。ここに連れて来られないのも納得だ。
「…………って、どうしてアメリカ留学にまた行ってんだよっ!? その流れはサザエさん時空の彼方にかき消されたんじゃなかったのかあっ!?」
ていうか、昨日桐乃と一緒に家で飯食ったぞ。いつの間にアメリカ旅立ったんだよ!
「何でも、アメリカに留学すると小学生幼女と一緒の部屋で暮らせるし、ロリ体型小学生幼女と一緒にシャワーが浴びられるからって。幼女目当てでアメリカに旅立ったわ」
「実に桐乃らしい納得せざるを得ない理由だ」
そう言えば昨日の夕食で幼女分の不足を切々に語っていたからな。
リアちゃんに会いにアメリカに旅立ってしまったのも道理だろう。桐乃だしな。
「じゃあ、桐乃を連れて来るのは……」
「不可能でしょうね。ロリ小学生との同棲を楽しみたいから来年までテコでも帰って来ないそうよ」
「なるほどな♪」
「連れ戻しに行ってみる? 妹の前で涙流して」
「死んでもお断りだ♪」
桐乃に会えるのは来年になった。
俺の命は後1時間半。
「けど、瑠璃も駄目。桐乃も駄目じゃ俺は誰に罵ってもらえばいいんだっ!?」
他に俺を罵ってくれそうな美少女がいないか考えてみる。
「麻奈実や沙織は罵りとはほど遠いからなあ。加奈子も最近は口の悪さがすっかり影を潜めたし……」
呼べば来てくれそうな俺の知り合いたちは罵りとは距離が遠い子ばかりだった。有力株だった加奈子は一番角が取れてしまったし。
「後、俺が電話番号を知っている女の子と言えば……」
頭の中で他に罵ってくれそうな候補を探す。
その時だった。俺の脳裏に最近見たアニメの一幕が過ぎった。
『私はあなたのツバメにはなれないっ!?』
「そうだ。俺にはまだあの子がいるじゃないかっ! プリキュアのキュア・ダイヤモンドの変身前の女の子、菱川六花(ひしかわ りっか)にそっくりなあの子がいるじゃないかあっ!」
アイツなら、アイツなら絶対に俺を罵ってくれる。罵倒してくれる。言葉と共に豪快なキックやパンチを放ってくれるに違いない。
「六花? ああ……爆ぜろリアル、弾けろシナプス、ヴァニッシュメント・ディス・ワールドのことね」
「それはお前の邪気眼系中二病友達の小鳥遊六花ちゃんのことだろうが! 俺が言っているのはドキドキ!プリキュアに出ている菱川六花たんのことだっ!」
熱く訴えながら唾を飛ばす。前回はれいか様一択だったが、今回は六花たんで決まりだ。
瑠璃はポンッと手を叩いた。
「ああ。スイーツ2号でパチモンくさいあの百合女のことね。珠希が大好きでよく見ているけれど、妹に悪影響を及ぼさないか心配だわ」
瑠璃の反応は冷たい。邪気眼系だけあって、桐乃が好みそうな番組を瑠璃は好まない。プリキュアも瑠璃内ではそんなにヒットしていないらしい。
そんなことでは桐乃菌に感染した高坂家で嫁としてやっていくのは大変だと言うのに。
ちなみにオヤジはありすちゃんの大ファンで非番の時はよく1人お嬢さまゴッコをしている。
「そうだよ。アイツだよっ! アイツなら、アイツこそ俺を確実に酷く罵ってくれるはず!」
罵り界のプリンセスならきっと俺の病気を治してくれる。それを確信する。
ちなみに邪気眼中二病な姉の方が珠希ちゃんの情操教育に悪そうだという意見はグッと飲み込む。
俺の嫁は結構怖い。特に妹の教育関連では。下手に口を挟めば俺は殺されてしまうかもしれない。
「で、アイツ…………えっと」
「新垣・スイーツ・あやせでしょ」
瑠璃がジト目で俺を睨む。
「いや、ほらっ、最近あやせの顔を見てなかったしさ。それに……あやせの話をすると瑠璃が怒るから極力思い出さないようにしててさ……」
名前がパッと出なかった自分にちょっと落ち込む。瑠璃の教育の成果だった。
「私という決まった嫁がいるのに、デレデレ顔で他の女を賞賛する京介が悪いんでしょうが」
「いや、あの、すみません」
瑠璃に向かって深く頭を下げる。瑠璃の俺への教育も順調に実を結んでいるらしい。
「とにかく、あやせさえいれば俺は罵られたい病を治すことができる。というわけで、あやせを呼んできてくれないか?」
「それは不可能よ」
瑠璃は目を瞑って面倒くさそうに首を横に振った。
「瑠璃の気持ちも分かるけどさ。そこを何とかお願いしてくれよ。このままだと後1時間で俺は確実に死ぬぞ」
俺の髪は既に時々天井をこするようになっている。このまま行けば、そう遠くない未来に俺の体は天井に派手に激突を始めるだろう。
「私があの女を呼ばないのは、別に貴方とスイーツ2号の関係を妬んでのことではないわ」
「じゃあ、何でだよ?」
瑠璃は大きく口を開いてため息を吐いた。
「新垣あやせは今…………アメリカにいるわ」
「へぇ〜。あやせは今アメリカにいるのか。それじゃあ呼んでくるのは不可能だな。って、何でアメリカなんだよっ!?」
瑠璃の返答にノリツッコミしながら驚いて返す。またこのパターンなのかっ!?
「彼女は今アメリカに留学中なのよ。明らかに誰かさんの真似をして……貴方の気を惹きたいのでしょうね」
瑠璃は冷笑する瞳で窓の外を見た。
「って、俺は今の今まであやせが留学しているなんて知らなかったぞっ!」
「それも真似でしょ。誰にも知らさずに出発するっていう」
「留学した事実さえ知らなかったら意味がないだろうがっ!」
頭が痛くなってきた。
「アメリカから1度の連絡もないんだが?」
「だからそれも桐乃の真似でしょ」
「連絡しなければ俺にはあやせがアメリカにいるって知る手掛かりが何もないってのっ!」
頭がますます痛くなってくる。これは俺の頭が天井と求愛しているからだけじゃない。
もっと内面的な痛さだ。
「あやせは今、何と戦ってるんだ?」
桐乃は競走で勝つまで日本の誰とも連絡を取らないと固く心に誓っていた。じゃあ、あやせは何と戦っているんだ?
「桐乃じゃないかしら? よりドラマチックな帰国劇を演じたいっていう」
瑠璃はとても投げやりに答えた。でもそれはきっと真実に違いないと思った。
「そう言えば、桐乃はたった1通だけメールをよこしたな。自分の部屋のヲタグッズを処分してくださいっていう」
そこまで話した所でメールの到着を知らせる音が鳴った。
俺は瑠璃と2人で早速メールの中身を確かめてみた。
From:新垣あやせ
Sub:今アメリカです
本文:お兄さんの部屋にあるエッチな本を全て捨ててください。後、泥棒猫な彼女さんも捨ててください。以下に私のアメリカでの住所を記しておきます
「…………京介はアメリカまでこの腐れスイーツを迎えに行くの?」
瑠璃は死んだ魚のような濁った瞳で俺に尋ねた。
「フッ。あやせならアメリカでも逞しく生き延びてくれるさ」
できればこのまま瑠璃さんに罵って欲しい。でも今の瑠璃はそんなささやかにして命を繋ぐ望みさえ言い出せないような怖い雰囲気をまとっていたのだった。
俺の命が尽きるまでもう1時間を切っていた。
「瑠璃……どうやらお別れの時が来たようだ。俺が天井を突き破ってしまうまでもう時間がない」
天井へのヘディングを繰り返しながら瑠璃に別れの挨拶を告げる。俺はもう頭を打って死ぬか、天井を突き破って転落死するかの2つに1つのルートしかない。
罵られたい病に掛かった男の末路はみんな同じだ。まったくもって惨めな最期だ。
「私を置いて逝かないで……私をこんなにも早く未亡人にしないでちょうだい」
瑠璃も涙に暮れている。でも、俺を生かすために罵ってはくれない。あくまでも愛猫を通すつもりらしい。うん。ちょっと困った彼女だ。
「妹たちも呼んでおいたわ。最期の挨拶にね……」
「そうか……」
人生の最期を五更美少女三姉妹に看取られるというのも悪くないかもしれない。そんなことを考えながら迫りくる死に対して少しでも平常心を保てるように目を瞑る。
と、誰かが階段を登ってくる音がした。
「高坂く〜ん。お見舞いに来たよ〜……って、キモっ!?」
ノックもなしにドアを開けて部屋に入ってきた日向ちゃんは俺を見るなり引いていた。
見ててキモいのは俺も認めるけどさ。でも、それを口に出されるとすごく傷つく。日向ちゃんももう小学5年生なんだし、その辺の空気は読んで欲しい。
「たまちゃんっ! たまちゃんはまだ見ちゃ駄目。キモいからっ!」
日向ちゃんは妹の珠希ちゃんの目を塞ごうとした。姉として妹の教育に懸命な点は長女と同じらしい。
けれど珠希ちゃんは日向ちゃんの手を華麗に掻い潜りベッドの前へとやって来た。そして右手でピースサインを作りながら右目を挟むように位置取りをしてみせた。
あれ、このポーズって確かどこかで見たことがあるぞ。瑠璃の友達がよくしていたような……?
「くっくっくっく。きょうすけにーさま。いえ、たまきのはんしんよ。ずいぶんなしゅうたいをさらしていますです〜♪」
珠希ちゃんが満面の笑みを浮かべながら毒を吐いた。あっ、ちょっと衝動が収まった。
「この喋り方、このポーズは、まさしくレイシス卿のものっ! 珠希ったら、邪気眼中二病などというこの世で最上級に危険な女の影響を受けてしまったと言うのっ!?」
瑠璃が両目を大きく見開いて驚いている。小鳩ちゃんはお姉ちゃんにそっくりな邪気眼中二病だもんな。そりゃ〜影響ぐらい受けるよなあ。
「ふかしきょうかいせんのえいきょうにより、きょうすけにーさまはへんたいとなってしまったのです。なおすくすりはありません♪ ばにっしゅめんと・でぃすわーるどですぅ」
今度は六花ちゃんの真似をして右腕を前に突き出した。
「こっ、今度は邪王真眼の真似までっ!? た、珠希が、純粋で愛らしくてこの世の可愛らしさを凝縮した私の妹が、邪気眼中二病女になってしまう……嫌ぁあああああぁっ!」
瑠璃は悲鳴を上げると頭を抱えて蹲ってしまった。
瑠璃自身はどうしようもない高度レベルの邪気眼中二病だ。それを恥じてもいない。けれど妹がその道を歩むことには抵抗があるらしい。まあ、友達少ないしな……。
「なあ、珠希ちゃん」
落ち込んでしまった嫁に代わって俺が義妹を諭すことにする。
「なんですかあ、わがはんしん、きょうすけにーさま?」
笑顔を振りまく珠希ちゃん。そこには瑠璃とその愉快な仲間たちが見せるアイロニーな姿勢はどこにも見えない。うん。珠希ちゃんは以前の素直な少女のままだ。良かった。
「あんまり、お姉さんとそのお友達の真似はしない方がいいぞ。せっかく小学校に入学したのに友達100人できなくなっちゃうぞ」
できる限り優しく諭す。すると珠希ちゃんはちょっとムッとした表情をして見せた。
「ねーさまやこばとねーさまやりっかねーさまをわるくいわないでください……のろいますよ」
「なっ!?」
呪いますよ。
珠希ちゃんの放ったその一言は俺の胸に深く突き刺さった。言葉のナイフは俺と地球を杭のようにして深く結びつけた。俺は串刺しにされたことで地球と一体化に成功した。
気が付けば俺の体の痙攣はピタッと収まっていた。体が跳ね上がるようなこともない。
珠希ちゃんに罵られたことにより俺は九死に一生を得たのだった。
「ありがとう、珠希ちゃんっ!!」
俺は命の恩人の両手を掴んで上下に振り回しながらこの感動を表す。
「……幼女に罵られて命が助かるとか。今日の高坂くん、マジでキモいんだけど?」
日向ちゃんが顔を青ざめさせているが気にしない。
「きょうすけにーさまがたすかってよかったですぅ♪」
「ああっ。全部珠希ちゃんのおかげだよ」
瑠璃、桐乃、あやせとダメでもう死ぬしかないと思っていた。なので喜びも大きい。
「じゃあ、さっきのるりねーさまたちへのことばをとりけしてください♪」
「ああ、分かったよ。邪気眼電波女最高〜♪ 薄い本に最適なヒロインだよな♪」
「……全然褒められている気がしないのだけど?」
瑠璃も不服そうに俺を見ているが気にしない。
「珠希ちゃんには何かお礼をしなくちゃいけないな〜♪」
今の俺なら珠希ちゃんのお願いなら何でも叶えてあげようって気分だ。
「じゃあ、たまきがおおきくなったらきょうすけにーさまのおよめさんにしてください♪」
「オーケーオーケー。分かった。お嫁さんね。じゃあ、珠希ちゃんが大きくなったら俺たちで盛大な結婚式を開こう♪」
「わ〜いですぅ〜♪」
珠希ちゃんが抱きついてきた。
「ハッハッハッハ。子供は無邪気でいいなぁ〜♪」
欲や打算に塗れた瑠璃や桐乃やあやせと違って、珠希ちゃんは何の含みも持たない点が最高に可愛い。
「京介……やっぱり貴方という人は……」
「可愛い妹を守るためだもんね。高坂くんは死ぬしかないよね……」
命が助かって浮かれていた俺は気付かなかった。
五更姉妹がバールのような物を振り上げていることに。
俺は五更三姉妹の献身的な働きにより罵られたい病から完治した。
しかし、五更三姉妹によって結局半死半生の重傷を負ったのだった。
了
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