進撃の巨人 ビッグになりたいエレンとヤンデレなミカサと苦労性な僕
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進撃の巨人 ビッグになりたいエレンとヤンデレなミカサと苦労性な僕

 

 

 僕の名前はアルミン・アルレルト。

 アルミンっていう名前のせいで、よく新種のポケモンやドラクエキャラと勘違いされたりもする。けれど、僕はれっきとした10歳の人間の男だ。

『見た目通りの貧弱女顔総受け肉便器の分際で何をほざいてるの?』

 幼馴染の少女ミカサに手厳しいことをよく指摘されるように、確かに僕の体は同世代の子に比べて小さい。ちょっと悔しいけれど貧弱と言った方が僕を表すのに正しい。

顔も女の子みたいってよく言われる。髪を伸ばしたら多分大半の人は僕が男だって気付かないないだろう。

 総受け肉便器って言うのは何のことなのかよく分からない。多分僕が男らしくないことを指し示した単語だろう。

 知らない単語なので以前お父さんとお母さんに聞いてみたことがある。

 そうしたらお父さんは

『やっ、やめてくれぇえええええぇっ!! 俺の古傷をこれ以上抉らないでくれぇええええええぇっ!!』

 何故か床に倒れ込んで頭を抱えて苦しみ始めてしまった。お尻を左右に振りながら。

『クスッ。全身真っ白に染まり上がって絶望しきったあの時のアナタの顔……とても素敵だったわ♪』

 お母さんは何故か勝ち誇った顔でドヤ顔をお父さんに向けていた。

 きっと聞いちゃいけない、知っちゃいけないアルレルト家の秘密に僕は触れてしまったのだと思う。

 そう。この世界には秘密……僕が知らないことがいっぱいある。

 

 僕が知りたい秘密はたくさんある。その中でも一番知りたいのが、僕たちが住んでいる壁の外の世界についてだ。

 僕たち人類は壁に囲まれた小さな世界で暮らしている。

 ウォール・シーナ、ウォール・ローゼ、ウォール・マリア。高さ50メートル、厚さ10メートルほどの3つの円形状の巨大な壁に囲まれて人類は暮らしている。

 一番内側の壁であるウォール・シーナの中心から、一番外の壁であるウォール・マリアまでの距離が約500キロ。今の人類はこの半径500キロの壁に囲まれた円内にのみ生存圏を確保している。

 逆に言えば、この壁の外で人間は生きることができない。

 それは何故なのか? 

 答えは簡単だ。

『モェ〜〜〜〜ッ!!』

『ホモォ〜〜〜〜ッ!!』

壁の外には人間を食い物にする恐ろしい巨人がウヨウヨしているから。

 

 巨人は僕たち人類の天敵だ。かつて人類は巨人のせいで絶滅させられかけた。そして現在も壁の中での生活を強いられている。巨人の脅威から身を守るために。

 巨人は小さな個体でも4メートル以上、大きな個体だと50メートルを越える。姿かたちは人類によく酷似している。服を着ておらず年中全裸仕様。でもたまに全裸にメガネ仕様の巨人 巨人には知性をほとんど感じられず「モェ〜」とか「ホモォ〜」とか意味不明な言語をニヤニヤしながら叫ぶだけ。

 奴らに人間を食らう特性がなかったとしても同類だとは絶対に思われたくない。あんな奴らは犯罪者予備軍。いや、存在そのものが犯罪だ。

 巨人の生態についてはほとんど分かっていない。唯一分かっているのは、その巨体を活かして人間を残忍に食らうということだけ。そしてその人間を見つけるための能力に優れている。

 巨人は最初からこの地球上に存在していたわけじゃない。歴史上、巨人が最初に現れたのは100年ほど前だと言われている。

 詳しい伝承は残っていない。断片的に残っている記録を整理してみると、巨人は東洋の”びっぐさいーと”と呼ばれた地で発生したらしい。

 ”もーぇ”とか”ほぉーもぅ”と叫ぶ巨人たちは次々に人類を無差別に襲っていった。

巨人たちに襲われ食われた人間は……よく分からないのだけど、人間でない何かになってしまったらしい。

 人類はその何かを”大田区(東洋の文字のために読み方不明)”と称して巨人同様に恐れ、人類とは別の存在と規定して排除した。

 人類は巨人の脅威から逃れるために新天地に堅固な城郭都市を築き、一生の全てをその壁の中で過ごすようになった。

 人類がそうやって壁の中で暮らすようになってからもう100年になる。

僕は生まれてこの方まだ1度も壁の外に出たことがない。ううん。僕だけじゃない。この城塞都市の中に住む120万人ほどの人間の中で壁の外に出た人はごく僅かしかない。

そして壁の外に出るとは……例外なく巨人に襲われ食われることを意味していた。

 

 人類側の組織の中で調査兵団だけは、壁の外に遠征して外の世界の様子や巨人たちの正体について掴もうとしている。壁の外に出ることが公的に認められている唯一の存在。

 けれど、その調査兵団に志願することは自殺行為と変わらないとされている。それぐらいに調査兵団の未帰還率は高い。

 そんな状況なので壁の外に出ようとすることは全く奨励されていない。それどころか王政府は壁の外に興味を持つこと自体タブーにしてしまっている。下手に外に出ようとすれば壁の中に巨人を招き入れてしまいかねないから。

 だから壁の外に出たがれば変人か異端者扱いされる。その思想を捨てるように強く念を押される。

 でも、それでも僕は……壁の外の世界が知りたい。

 おじいちゃんの蔵書を通じてこの壁の外の世界について知ってしまったから。この籠の外にはとても大きくて未知の世界が存在していることに僕は気付いてしまっているから。

 そんな僕の考えにたった1人だけ賛同してくれる友達がいる。

『一生壁の中から出て来られなくても……飯食って寝てりゃ生きていけるよ。でも、それじゃあまるで……まるで家畜じゃないか。俺はこんな籠の中を飛び出して……ビッグになってやるっ!』

 それがエレン・イェーガーという名の少年だった。

『絶対ダメッ! ダメッ! でも、万が一エレンが巨人に襲われるような事態に遭遇しても、エレンは死なないわ。私が……お義母さまに、あの子はだいぶ危なっかしいから……困った時は2人で助け合うんだよとエレンのことを任されているこの私が守るから』

 そしてそのエレンにヤバいぐらいに好意を抱いているのがミカサ・アッカーマン。

 この2人が僕の幼馴染だった。

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 845年のその日、僕は生まれ故郷であるウォール・マリアの南端突出区域シガンシナ区の路地の一角でいつものようにいじめっ子たちに絡まれていた。

「人類はいずれ外の世界に出て行くべきなんだっ!」

 いじめっ子3人組はいつものように僕がこの壁の外の世界についてどう思っているのか尋ねてきた。

 僕はその問いがどんな意図から発せられているものかもう知っていた。でも、正直に答えずにはいられなかった。自分が間違ったことを言っているとは思わないから。

 そして、僕の返答に対するいじめっ子の反応もいつもと同じだった。

「この異端者がっ!」

 いじめっ子の1人でリーダー格のジャ・イアンが非難の声を上げた。

「そうだそうだ。この危険思想の持ち主がっ!」

「アルミンのくせに生意気だぁっ!」

 続いてジャ・イアンの取り巻きのスー・ネオとノ・ビッタも僕を非難し始めた。

 ジャ・イアンたちは王政府の方針を何の疑いもなく受け入れている”善良な”市民であり、それを根拠に僕をいじめる陰険ないじめっ子だった。

 二重の意味で腹立たしい彼らに僕は屈するなんてできなかった。自分の考えを曲げてジャ・イアンたちにへつらうなんてできなかった。

「人類は……巨人の脅威を排する方法を一生懸命に考えて……外の世界に出るべきなんだぁ〜〜っ!」

 僕は自分の考えを繰り返し述べた。

 そしてそんな僕の言葉を聞いて、いじめっ子たちは残忍な笑みを浮かべたのだった。

 

「どうした、異端者っ? 悔しかったら殴り返してみろよっ!」

 ジャ・イアンは僕の襟首を掴むとレンガの壁へと僕の背中を強く叩きつけた。

 彼らのいつも通りのいじめのパターンだった。

「そんなことするもんかっ! それじゃあお前らと同レベルだっ!」

 ジャ・イアンは僕が殴り返して来ないのを承知の上で殴り返せと言っているのだ。

 そんな彼らの思い通りになってしまうのは悔しくて仕方がない。でも、それでも僕にだって譲れないものはある。僕にだって矜持はあるんだ。

「何だとぉっ!?」

 ジャ・イアンの表情が僕を馬鹿にするものから怒りに満ち満ちたものへと変わった。これで僕が暴力の危険に曝される可能性は一気に高まった。でも、これこそ僕が望む展開だった。何故なら……。

「僕が言ったことを正しいと認めているから、言い返せなくて殴ることしかできないんだろう?」

 ジャ・イアンは僕の襟首を掴んだまま上半身を仰け反らせて怯んだ。

「それは僕に降参したってことじゃないのか?」

 僕は一気呵成に言葉を叩き込む。僕の力とは言葉に他ならないのだから。

 そして一方で、ジャ・イアンたちの力とは暴力に他ならなかった。

「ウルセェぞ。この屁理屈野郎っ!」

 ジャ・イアンは拳を振り上げた。言葉で、考え方で敵わないから彼らが取れる対抗手段はもう暴力しかなかった。それは最初から予測できたこと。

 正しさを立証する対価に暴力をふるわれる。いつもの……ことだった。

 

「止めろぉおおおおおぉ〜〜〜〜ッ!!!」

 

 ジャ・イアンの拳が振り下ろされようとするまさにその瞬間だった。

「エレン……っ」

 外の世界を見てみたいという僕の考えを唯一理解してくれる友達エレン・イェーガーがこっちに向かって全力疾走で近付いてきた。

 エレンはいじめっ子から僕を守ってくれるとても勇敢な少年。相手が複数でも大人でも怯まない。正しいと思った道を躊躇なく突き進む。内罰的で積極性に欠ける僕とは正反対の少年。

 そんなエレンが助けに来てくれたのは嬉しい。でも、ひとつ大きな問題があった。

「エレンだっ」

「馬鹿め。また来やがった」

「ブチのめされてえのか? カモにしてやる」

 ジャ・イアンはエレンを見ながら笑っている。援軍がエレンだったことを馬鹿にしているのだ。

 そう。エレンは怒り易くて喧嘩早い割りにすごく弱い。下手をすると僕より弱いんじゃないかとさえ思う。

 

『俺には家畜でもずっと平気でいられる人間の方がずっと間抜けに見えるねっ!!』

 

 外の世界への憧れが僕よりも強いエレンはビッグマウスをよく叩く。エレンは未知なる外の世界に出てビッグになれると信じて疑わない中二病的気質の持ち主だった。

 でも、そのための実力が全然伴っていない。ぶっちゃけ馬鹿だし弱かった。勇気と躊躇のなさには感服するのだけど。

 そんなエレンなのでジャ・イアンたちは馬鹿にしているのだ。

 

「エレン……ゲス男たちを誘い受けして股を開くしか能のないあんな総受け野郎なんて放っておけば良いのに……」

 

 路地裏からボソッと吐き捨てるような少女の苛立ち交じりの小さな声が聞こえた。

 ……ミカサに違いなかった。

 ミカサの世界はエレンを中心に回っている。逆に言えば、エレンに関すること以外ミカサにとっては心の底からどうでもいい。

 彼女にとって僕を助けることには何の意味もない。

 というか、エレンの関心が僕に向いてしまっているのでミカサにとっては面白くないのだ。姿を見せないのもそのために違いなかった。

 

「お前ら……アルミンを放しやがれぇえええええぇっ!!」

 エレンは拳を握り締めながら僕たちへと近付いてきた。

「またエレンをブチのめしてやろうぜ」

 ジャ・イアンは僕を掴んだままエレンへと向き直り迎撃体勢を取った。

「ビッグパ〜ンチッ!!」

 僕が解放されないのを見てエレンは躊躇なくジャ・イアンの顔面を殴りに行った。僕が全身全霊をかけて否定した行為をあっさりとやってのける。それがエレンだった。

 それに対する価値判断を今は保留する。でも、エレンの攻撃にはやっぱり大きな問題があった。

「そんな亀の歩みよりノロいパンチを食らうかっての。アッハッハッハッハ」

 ジャ・イアンは僕を壁へ叩きつけるように放り出すと笑いながらエレンのパンチを避けた。

「よしっ。まずはエレンからやっちまおうぜっ!」

 ジャ・イアンは3人でエレンを取り囲んだ。彼らは暴力をふるう最初の対象にエレンを選んだのだ。

 

「まずはエレンから犯っちまおうぜ……ですってっ!?」

 

 路地裏からミカサの大声が聞こえてきた。

「あのゲスども……エレンを陵辱し尽くして総受けにするつもりなのねっ!! エロ同人みたいにっ!! エロ同人みたいにぃ〜〜〜〜っ!!!」

 路地裏から全身がガタガタ震える音だけが聞こえる。

 総受けとかエロ同人とか何のことか分からない。でも、ミカサがジャ・イアンたちに対して激しく怒っていることだけは分かった。

「きっと、こんな風にして3人でエレンを蹂躙するつもりなのねっ! そうなのね!」

 ミカサの妄想が始まった。

 えっ?

 ここでミカサの妄想が入るの? 

 僕の一人称語りじゃないの!?

 これってそういうお話なの!?

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『うわぁああああぁっ! やられたぁああああぁっ!! もうダメだぁあああぁっ!!!』

 ジャ・イアンの拳が頬を掠めてエレンは大きく吹き飛び土の地面に叩きつけられた。

『へっ! 口ほどにもねえなっ!』

 ジャ・イアンら3人の少年たちは地面に尻餅をついて座った姿勢になっているエレンを取り囲む。

『畜生っ!!』

 エレンは険しい表情と鋭い視線のままジャ・イアンたちを睨み返す。けれど、エレンにできる抵抗はもうそれだけだった。

 倒れた拍子に腰を強く打ってしまい立ち上がることさえもできなくなっていた。

 エレンはこれ以上喧嘩を続けられる状態ではなかった。そんな少年の変化はすぐにジャ・イアンたちの知る所になった。

『フッハッハッハッハ。あれだけ威勢良く飛びかかってきたくせに、もう動けなくなるなんて情けないなあ』

『ウルセェッ!』

 高笑いを奏でるいじめっ子少年たちにエレンの苛立ちは最高潮に達する。だが、そんな抵抗こそがジャ・イアンたちにとっては最高のスパイスとなっていることをエレンは知らなかった。

『さあて。じゃあ、戦いに負けるってことが何を意味するのかエレンに教えてやるぜ。……その体にタップリとな』

 ジャ・イアンたちのエレンを見る瞳がギラギラとした欲望に満ちたものへと変わる。まるで野生の肉食動物が獲物となる小動物を発見した時の瞳だった。

 エレンもいじめっ子たちのいつもとは違う視線に内心では恐怖を感じていた。けれど、エレンはそれを認めずに虚勢を張り続けた。

『ヘッ! 殴りたいなら殴れっ! 俺は決してお前らなんかに屈しないからなっ!』

 ヘレンは歯を鳴らして噛み付く仕草を見せて威嚇した。

『『『ハッハッハッハ』』』

 ジャ・イアンたちはエレンを見ながら嘲笑した。

『何がおかしいっ!』

『お前が勘違いしているからだよ』

 ジャイアンがギラギラとした瞳でエレンの体を嘗め回すようにジットリと見る。

『俺たちはお前を殴るんじゃない。嬲るんだ』

 いじめっ子少年たちはその浅ましい欲望の正体を遂に口に出してみせた。

 

『嬲る? 嬲るって一体なんだ?』

 しかしエレンはジャ・イアンたちの言葉の意味がよく理解できないでいた。

 エレンは医者である父親の教育方針もあって性に関する知識をまるで持っていなかった。いや、たとえ持っていたとしても、正常ではないこの流れをわずか10歳の少年が受け入れられるはずがなかった。

『お前ってば、医者の息子のくせに何にも知らねえんだな』

 ジャ・イアンの声に合わせてスー・ネオとノ・ビッタも大声で笑う。明らかな嘲笑だった。

『そんな無知でお子ちゃまなエレンくんには……俺たちが特別に大人の保健体育を実技で教えてやるぜ。ひゃっはっはっはっは』

 スー・ネオとノ・ビッタがエレンの両手を押さえて抵抗を封じる。その間にジャ・イアンはエレンの正面にしゃがむとズボンを素早く剥ぎ取って下半身を太陽の下に露出させた。

『お前の言う保健体育ってのは、ズボン下ろしのことかっ! そんなもん、俺は5歳ぐらいで卒業したっての。このガキがぁっ!!』

 恥ずかしさに耐えながらエレンが罵声を浴びせる。だが、ジャ・イアンはエレンの両足首を持つと自らの両肩の上に足を乗せるような体勢を取りながら体を近寄らせてくる。

 そして、自分のズボンのチャックをおもむろに下ろした。

『さあ、俺たちに歯向かった罪をその体でタップリと思い知るんだなっ!』

 ジャ・イアンの鼻息は荒い。エレンは得体の知れない恐怖を感じずにはいられなかった。

『やっ、止めろっ!』

 これから何をされるのかまるで分からない。けれど、ソレは決して受け入れられるものではないということだけは本能が理解していた。

 ジャ・イアンが上半身を起こすことにより、肩の上に乗せられている自分の足が上げられていく。それは自分の腰が勝手に浮き上がってしまうことを意味していた。

『やっ、止めろって言ってんだろぉっ!! ヤメロヨォ〜〜〜〜ッ!!』

 エレンは必死になって制止を叫んだ。だが、ジャ・イアンは耳を貸さなかった。より正確に言えば、エレンの叫び声に強い快感を得ていた。エレンのそんな声を聞かされてはもう止まることなどできない。頭の中が全て性欲で満たされていく。

 ジャ・イアンは更なる快楽を求め、エレンを1秒でも早く汚したくてもう我慢できなくなっていた。

『いい声で鳴いてくれよ。エレンには俺たち3人をタップリ満足させてもらわないといけないんだからな』

 ジャ・イアンはエレンの体内を蹂躙すべく、その荒ぶった欲望を無垢な少年へと向けたのだった……。

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「エレンのお尻は…………私のモノなんだからぁあああああああああぁっ!!」

 

 大絶叫と共に、長い黒髪を靡かせながら今の世界ではすごく珍しい東洋人の少女が飛び出してきた。ミカサだった。

 ミカサは妄想を延々と僕たちにも聞こえる音量で唱え続けた後、我慢の限界に達したのか僕たちの前に姿を現したのだ。

「あっ! 間違えた」

 ミカサは怒りの表情からハッと我に返ったようだった。

「そうよ。エレンは男の子で私は女の子……っ」

 ミカサはジャ・イアンを指差しながら大声で先ほどの発言を訂正してみせた。

「私のお尻は……エレンのモノなんだらぁあああああああああぁっ!!」

 ………………っ。

「ミカサ。それは聞いている僕たちの方がすごく恥ずかしくなる台詞なんだけど」

 僕の頬は明らかに先ほどより熱を帯びている。

 ジャ・イアンたちも同様だ。顔を真っ赤にして口篭っている。

 僕たちの年代はただでさえ女子との距離感を掴み難い。それに加えて、ただの勢いなんだろうけど、すごく反応に困る恥ずかしい台詞を言われてしまった。

 僕たちは今すぐこの場から走って逃げ出してしまいたい気持ちでいっぱいだった。

「総受けは黙って男たちに股を開いてなさいっ!」

 ミカサに薬をキメた逝かれたヤンキーよりもヤバい瞳で睨まれる。チビらなかった自分を誉めてあげたい。毎日のようにこの視線に曝されているから慣れたのだろうけど。

「ミカサ……僕たち、友達だよね? 幼馴染だよね?」

 ミカサの瞳が更に鋭く、獰猛なものへと変わった。

「総受けがエレンの半径1000キロ以内に近付かなければ友達とも幼馴染とも認めるわ」

「1000キロ離れるって、それじゃあ僕はどうやっても壁の外に出るしかないじゃないかあっ?」

 僕たちの生活圏内は直径1000キロの円状の壁内に限定されている。エレンが壁の中にいる限り、僕はどうやっても外に出ない限りミカサの友達とも幼馴染とも認めてもらえないらしい。

「総受けの夢は壁の外側に出ることなんでしょ? 夢が叶って良いじゃない」

「巨人対策も施せない内に壁の外に出たら死んじゃうだけだっての!」

 僕の夢は周到な準備の上に実現すべきもの。自殺願望じゃない。

「別に総受けが巨人に食われようが、野垂れ死にしようが私には関係ないわ」

「ミカサは僕のこと嫌いなのっ!?」

「総受けがエレンの友達で幼馴染でなければ嫌いでもないし、そもそも関心を持たないわ」

「要するに、嫌いなんだね」

「……だって、エレンは私といる時よりも総受けといる時の方が楽しそうなんだもの。……チッ!」

 ミカサから大きな舌打ちが漏れ出た。

 

「助けに来たのに格好悪い所見せちゃってんなあ」

 ミカサの妄想と出現により呆気に取られて立ち尽くしていた3人の包囲を突破してエレンが僕の隣にやってきた。

「ミカサは今日も相変わらず意味不明なことばっかり呟いてるな。お尻がどうとかって一体、何の話なんだ?」

「……イェーガー家の教育の賜物だろうね」

 不思議がるエレンから目を逸らす。

 きっと、イェーガー家ではミカサが居候しているからその手の話はエレンに一切しないのだと思う。うん。きっとそうだ。

「ミカサの話は何一つ分からなかったけど……俺にも分かったことはある」

「何?」

 エレンは僕を見ながら満面の笑みを浮かべてみせた。

「アルミンとミカサって仲良いよな♪」

「「えっ?」」

 僕とミカサの声が揃った。

「もしかして2人って、好き合っていて、こ、恋人同士だったりするのか?」

 エレンは照れ顔を見せながらとんでもない勘違いを披露してくれた。

 今の会話をどう聞けば、僕とミカサが恋人同士という結論に至るのかまるで理解不能。

 けれど、その勘違いが僕たちを不幸に、死への船出へと導いていくものであることは間違いなかった。

「そ、そんなわけないよっ!」

 僕の声は震えていた。恥ずかしさとかそんなんじゃなくて純粋な恐怖から。

「照れんなって。俺は、アルミンとミカサの仲を応援するぜ♪」

 陽気な表情を見せながら僕の肩をバンバン叩くエレン。彼は僕を間接的に殺す気なのだろうか?

 恐る恐るミカサがどんな反応を示しているか確かめることにする。

 

「…………死を。私とエレン以外の全ての生きとし生けるモノにあまねく死の罰が与えられんことを」

 ミカサは両手を合わせて祈っていた。うん。実に僕が知っているミカサらしい反応だ♪

 ……僕の命も、そろそろおしまいかもしれない。調査兵団で3度壁の外に出て生き残る可能性ぐらいでしか僕は明日の太陽を拝めない気がする。要するに限りなく0だ。

「そこのエレンを輪姦しようとしたゲス男ども!」

 ミカサは瞳孔開きっ放しのヤンデレ全開な表情をいじめっ子たちを見た。

「俺たちがエレンを性的に襲うわけがないだろっ!」

「エレンは男だろうがっ!」

「変な言いがかりを付けるなっ!」

「黙りなさいっ!!」

 ミカサの大声はジャ・イアンたちの文句をかき消した。

「私の頭の中で、お前たちは、既に10回はエレンを汚しているっ! エレンはそのショックで絶望して私のことさえも認識できなくなっている。この鬼畜どもがぁ〜〜〜っ!!」

「「「ひぃいいいいいいぃっ!?」」」

 ……ヤンデレって始末に悪いよね。

 僕はちょっとだけジャ・イアンたちに同情した。

 

「これ以上お前らに付き合ってられるかっての。ダメだ。ここは引けっ!」

 いじめっ子たちはミカサに背を向けると一目散に逃げ始めた。それは生物として正しい選択だとは思う。危険と遭遇したら全力で逃げるべき。

 でも、実際に逃げきれるかは全く別次元の問題だった。

「総受け……取引をしない?」

 ミカサの声は淡々としていた。けれど、その声は一切の拒否を許さない絶対順守を命令する響きを伴っていた。

「……で、取引とは?」

 隣のエレンにさえ聞こえないような小さな声で呟き返した。それしか僕に選択肢はない。

「総受けの命を特別に慈悲を授けて助けてあげてもいい。総受けが死ぬとエレンが悲しみそうだから」

「……対価は?」

 ミカサはほんの一瞬だったが薄く笑ってみせた。

「これから3分ほどエレンの耳と目を両方塞いでくれれば良いわ」

 その言葉の意味が分からない僕じゃない。エレンが何をするつもりなのかも。でも……。

「分かったよ」

 頷くしかなかった。

 絶対の死の恐怖を前にして僕は自分が弱虫だと改めて思い知らされた。僕はとても卑怯な人間だと理解してしまった。

「ごめん。エレン……」

 僕はたくさんの後悔を抱えながら後ろに回り指を器用に回してエレンの耳と目を同時に塞ぐ。

「なっ、何だ!? 突然真っ暗になって何も聞こえなくなったぞっ!?」

「ごめんね。エレン……」

 俯きながら友に謝罪する。

「…………頭のいい子は、エレンの生存にも役に立つ。だから、特別に生かしてあげる」

 その言葉のすぐ後にミカサは僕たちの前から一瞬にして姿を消した。

 

 そこから先のことはあまり詳しく語りたくない。

「エレンのお尻の仇…………死ねぇえええええええぇっ!!」

「だから俺はエレンをそんなヤバい目で見たことは…………ぎゃぁあああああああぁっ!?」

 急所を狙うミカサの蹴りにはどこにも躊躇というものが感じられなかった。

 泡を吹いて倒れた3人に対して更に足を踏み上げ

「慈悲深い私に感謝してね。本当はあなたたちを殺す方が手間が掛からなくて楽。でも、そうするときっとエレンが嫌な気分になる。それは私には耐えられない。だから、あなたたちの命までは奪わない。代わりにエレンのお尻を狙う凶悪な兵器だけ永遠に封印させてもらう。私って、本当に慈悲深いわよね。こんな私こそがエレンのおよ……」

 ミカサは清らかな乙女の澄んだ表情で3人の股間を凶悪に踏み抜き続けた。

 人間が巨人よりも残酷になれることを知った瞬間だった。残虐性は同じでも、自分を慈悲深いと思ってしまえる分、人間の方が恐ろしいのかもしれない。そんな恐ろしい人間を狂気と理解していながらただ見ているだけの僕もまた狂気なのだと思う。

 気絶して身じろぎ一つしないジャ・イアンたちの股間を熱心に踏み潰し続けるミカサを見ながら僕はそんなことを考えていた。

 

「なあ、アルミン? 今一体何が起きてるんだ?」

 エレンの耳を塞いでいた親指を外す。これで僕の声は聞こえるようになったはずだ。

「僕たち人間の世界は狂気がいっぱいに溢れている。その狂気の波を決して広くはない籠の中だけに無理やり閉じ込めてきた。その歪みはもしかするともう極限まで達しているのかもしれない」

「アルミンは一体何の話をしているんだよ?」

「この壁の中は未来永劫安全だと信じきっている人はどうかと思うよ」

 ミカサの行為を見ていると僕にはこの壁の中が安全だなんてとても思えない。

「エレンは私が守る…………エレンに近づく奴は、男だろうが女だろうが巨人だろうが関係なく徹底的に潰す」

 人類は、いや、少なくとも僕は壁の中にミカサという脅威を抱えている。壁の外だけが問題じゃない。そう。事態は内憂外患なんだ。

「いまいち話が見えないけれど、そうだよな。巨人がいつ壁を越えてくるかなんて誰にも分からない。にもかかわらず、駐屯兵団の奴らは毎日昼間から飲んだくれてやがる」

 エレンは悔しそうに舌打ちしてみせた。

 ミカサという具体的な恐怖の存在を理解していなくとも、エレンは人類側に大きな問題点があることを本能的によく理解している。

「100年間壊されなかったからと言って、今日壊されない保証は……どこにもないのに。なのに人類はどうして、恐怖に備えて自らを律しようとしないんだろう……」

 再びミカサを見る。

 

「大丈夫よ。エレンは……はぁん……私が守ってあげる。ねえ、ヘレン……」

 

 ミカサは両手を頬につけて恍惚とした表情を浮かべている。その足で3人のいじめっ子の股間を踏み抜き続けながら。

「……ミカサがいれば、人類は巨人に勝てるかもしれない。けれど、人類はミカサによって滅ぼされるかもね」

「何を言ってるんだ、お前?」

 空を見上げる。雲一つない一面の青さ。

 でも、その青さは逆に僕の不安を掻き立てて止まなかった。

 

 

 この日、巨人は壁を超えて再び人類を襲い始めた。

 圧倒的な力を有する巨人。存亡を賭けて必死の抵抗を続ける人類。エレンのためなら全てを粉砕して滅するミカサ。三者の長きに渡る壮絶な戦いはこうして幕を開けたのだった。

 

 

 了

 

 

 

 

 

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