瓶詰無双8 |
クーデター後、美羽こと袁術が表向き病気を理由に中央(洛陽)に送還され。この都市(寿春)の支配者が孫家に代わってから十数日たったある日。
「主人殿、どうですか「私」の居心地は……」
この都市の支配者である孫家の首領、雪蓮の元親友である冥琳は、そんな事を自らの新たな主に尋ねていた。
「うん〜、ちょっと大きすぎて締め付けがちょっとキツイなー。俺的には星ぐらいの大きさが一番しっくりくるんだけど」
自分の胸(の谷間)におさまる、……その「ちっこかわいい」主人に。
「(星、誰だ、それは……。まあ、名前的には女であろうな。)」
一瞬、そんな疑問を抱いた冥琳であったが。
「そ、そうですか。それは残念です(……ええ、本当に残念で目から汗がでそうな程)」
次の瞬間には、この常日頃から冷静である人物にしては相当な落ち込みようをみせる。
「(い、いかんいかん、しっかりせねば……)
とはいえ、露骨に落ち込む様をみせてしまうと目の前のちっこかわいい主君が心配してしまうので、冥琳はその感情を内内に秘め表面にこそ出さなかった。
「(だが、その星とか言うヤツいつか火攻めしてやるからな……主人殿の一番は私の物だ)」
まあ、表に出さず溜め込んだ為か。内心は若干暴走していたが。
「(はぁ……。それにしても私の「胸」は大きすぎて駄目なのか)
冥琳は、自分の胸を見下ろす。その、他の女性陣から羨ましがられる程の大きさを誇示する自らの胸を。
元々、軍師である冥琳にとって。胸などという物はどうでもよい存在、いやっその胸に注がれる男の厭らしい目線のおかげで、彼女にとっては邪魔でしかない存在であった。
「俺を見つめてるけど、なにかようなの」
だが……、自らの胸を見下ろしている冥琳の姿を自分を見ていると勘違いしたこの主人(北郷)。そう、この主人の定位置が此処(胸の間)と知ってからは。この邪魔者(胸)が主人にも喜んでもらえると。彼女はこの存在(胸)を受け入れられてきたのであったのだが。
「(はぁー、私も小蓮や明命みたいに貧乳であれば……)」
「大きすぎる」と評された今は、その存在がただ恨めしく。当の貧乳娘に言ったら確実に一騒動起きそうな事を心で洩らした。
「(……それにしても)」
冥琳は、胸から北郷へと目線を移す。
「(女子と肌触れ合っている時に他の女の名を出し、その上比較するとは)」
「ふぇ、なに、なに冥琳。さっきからずっと俺を見つめて」
「(私の主人殿は鈍感すぎやしないか)」
確かに、冥琳のいう事は一理ある。
星、張三姉妹、詠、麗羽等の胸を渡ってきた北郷にとって「胸に納まる」という行為はごくごく当たり前の事となりつつあるとはいえ。それでも胸に納めてる側(女性)にもう少し気を払う必要があろう。
そのため、「ちょっと私は許せませんぞ」っと、言う感じで冥琳は内心拗ね始めていた。だから、先ほどから疑問符を顔一杯浮かべる北郷の愛らしい顔を視姦しつつも、無言を続けている。
「でもね……、俺は、今までの中では一番冥琳が好きだよ」
「なっ!なにを!(い、いきなりの告白?急に敏感すぎるぞ!!)」
だが、そんな北郷の一言で冥琳の「拗ね」はどこかに飛んでしまう。
「(もちろん、嫌ではないが……。こういう事はもっと前段階を踏んでだな。と、とにかくまずは交換日記から初めて)」
挙句、冥琳の感情は激しく動き一昔前の中学生のような恋愛観を暴露し始める。
……とはいえ。
「だって一番俺に気を使ってくれるもんー冥琳って、だから一番だよ冥琳の胸(の納まり心地)が」
「えっ、あっ、ああ、私の「胸」の納まり心地がですか、……一番なのは」
冥琳の暴露は無駄に終わり。
「(別に、私の「自身」の事が一番という訳ではないのですね、実に、実に…、残念だ)」
「うん、だって冥琳ってさ、どんな動作の時も、俺に気を使ってゆっくり動いてくれるし」
彼女は早とちりのせいで、内心また落ち込み始め。
そんな冥琳の心の変化を、一向に察知できない北郷は笑顔でそのような言葉を続ける。
「慌てて動けば主人殿を落としてしまう危険があります、その程度の気遣いは当然の事です」
「全然当然じゃないよ、詠なんて俺が居ても「よっとこい〜しょういち」なんていいながら躊躇無く椅子に座ってたよ」
「そうですか(また別の女の名だな、まあ、私の方がその女より優ってるらしいからいいが)」
再び出た女性の名前に、冥琳は一瞬反応したが。
自分が勝っている事でさして感情の波は立たなかった。
「(詠ってやつ、会ったら自慢してやるぞ、でっその後火攻めだ、過去とはいえ主人殿に触れた者は皆煉獄の炎で身を焼いてやる)」
あっいや……、やっぱりすごい波だっていた。
*冥琳視点*
「それに比べたら、冥琳はどんな時でもちゃんと気遣ってくれるから、……俺も気を張らないで納まってられるよ。」
「主人殿に、お喜びいただいて嬉しいかぎりです」
「うん、いつもありがとうね。冥琳」
「し、臣下として当然の勤めです」
そ、そう、ほんとに当然のことです、満面の笑みで私を見上げないで頂きたい主人殿。
そ、そんな事されたら全身に、ね、熱が走りますので。
「臣下として当然な事なの?」
「は、はい、ですから主人殿が礼をいうような事ではございません」
そう、これは当然の事である意味事務的なもので、で、ですからそれ以上主人殿の笑みを私に向けるのはお止めください、これ以上……、これ以上は。
「んーー、……でも、やっぱり冥琳ありがとうね(にぱぁ)」
「ぐはぁつっ・・・・・・!」
「め、冥琳どしたの、背中の方に頭が跳ねたけど」
「な、なんでもありませんぞ主人殿」
き、気張れ!!私よ!!
主人殿のかわいすぎる笑顔にやられた、なんていったら主人殿になんと思われてしまうやら、わ、私は、あくまで頼れる臣下として振舞わねばならんのだ。
「なんでもないって顔じゃ、赤いよ風邪?」
「い、いえ・・」
ち、ちがいますからっ……、そんな心配しすぎて逆に愛らしいくなっちゃった表情はおやめください。
「よしっ」
「しゅ、主人殿なにを?」
なぜ、決心した顔をしながら、手をグッと握られるのですか。
もちろん、その愛らしい様子はこの瞼にこびり付かせましたが、あっ・・うんしょ、うんしょって。私の身体をよじ登り始めましたな。
「はぁ、はぁ……」
疲れたのか、途中私の肩で一旦息を整えてますな。
「んーしょっ……」
びた。
「うーん、若干あつい?」
「・・・」
そーですか・・。
あー、おでこと、おでこを突き合わせて体温確認ですか、まあ、風邪の確認方法としてはベターな方法ですね。
「んー?ごめんね、おれのおでこちっちゃいから良くわかんないや」
そ、そんなことやるまえにわかってたことではないですか。
うっかりやさんですね、しゅじんどの。
その点、いやっ、全体を合わせてかわいすぎですぞ。
しゅじんどの。
ほ、ほんとしゅ、しゅじんどのはひ、ひきょうなほどの・・・か、か、かわいさでー・・・す・・す・・な。
「(ひゃほほほぃーー!!)」
「……(ブルブルブル)」
そんな感じで心の中で狂喜の雄たけびを上げつつも。
主君の手前ギリギリ我慢した冥琳が悶えて小刻みに震えていると。
「め、冥琳話の最中に悪いけど、今は会議中なんだけど……」
孫家首領雪蓮の妹である蓮華が呆れた顔して冥琳に声を掛けた、ちなみにその蓮華を周りを固めていた武官達も若干ひいた顔して冥琳をみつめていた。
表にはこそ出していないが冥琳の感情の激しさ(「萌え狂咲き」そんな単語は無いが)が、風に乗って嫌に感じていたのであろう。
「あと、なんなのさっきから貴方のその胸の間にいる小さいのは」
「北郷一刀様、私の主人殿だ。文句あるか蓮華(そんな怪訝そうな目で主人殿をみおって……孫権のヤツめ、お前も火攻めするぞ)」
「北郷一刀、その名前は姉様から聞いてるわ、……なにを考えてるのか冥琳、貴方は孫家を裏切ってその北郷とか言うちびっこいのの部下になったそうじゃない」
「天命だ(主人殿に出会った瞬間にビビッときたのだ。あと、チッコイのとはなんだ、孫権のヤツめ火攻めの上水に沈めて溺死させるぞ)」
「天命ですって……なにを馬鹿なこ」
「そうだ天命だ!ミツバチさんが蜂蜜と共に主人殿を私の目の前まで連れてきてくれたんだ」
「はぁ・・・・・・、これは、姉様のいうとおり重症ね」
「なに、人を病人みたいに言っている。いやっ、まて、確かにこれは病(恋の)かもしれぬな」
頭痛がしてきたらしく、頭をコンコンと叩き始めた蓮華はそんな冥琳の発言に更に頭が痛くなるが。
「だが、孫権」
「な、なにかしら」
冥琳の顔が軍師になり。
頭痛はおさまり、蓮華に緊張が走る。
「北郷一刀様だ、お前如きが主人殿を呼び捨てにするな、……主人殿はお前の姉の「盟友」だぞ」
前回の、あの後(ひゃほほほぃー後)、北郷を家に連れて帰った冥琳は。
クーデタ直後で、孫家が色々と忙しい時にも関わらず。仕事もサボって、その日から3日間、北郷を愛で続け。
・・覚悟きめちゃった。
のであった。
そして、「きめちゃった」翌日。
冥琳は雪蓮の執務室に向かい、『冥琳!!なんで仕事サボったのよ!!おかげで私、ここ三日、一睡もしてないわよ!!』って、感じの衰弱しきった目(声が出せないぐらいの衰弱)を向ける雪蓮を無視して。
『世話になったな、孫策』
と、いってしまった。
「・・はへ?め・・めぃひぃん??」
そう洩らした次の瞬間。
雪蓮は疲労と心労により、一時間近く魂が抜けたらしい。
「めいり〜ん!わたしをみすてないでー!!」
そして一時間後。
天の川の美しさを語る暇もなく、雪蓮は冥琳の説得を始めた。「冥琳」は孫氏に外すべからず人物である、だから孫氏の頭領である雪蓮は当然冥琳を引き止めるしかなかったし、なによりも。
「ごめん!冥琳!!今後は貴方だけに仕事を押し付けないから!!」
っと、いう言葉を100回以上言い放ったというから。単純に親友を失いたくはなかったのであろう。
とはいえ、そんな雪蓮の奮戦空しく冥琳は論理的な説明を繰返し結局雪蓮は泣く泣く冥琳を手放さざる得なくなった。
とはいえ……。
「めいひぃん、めいひぃん・・あまいけど、なみだでからいひぁ」
「じゃあ、世話になったな孫策殿」
論理的には納得させられても感情として納得できない雪蓮は、美羽の残した蜂蜜を舐め飲み泣きじゃくる。まるで上司と部下に挟まれ悩み酒に溺れる中間管理職の如き様をみせてた。
そんな雪蓮の哀れな様に対しても、冥琳はとことん冷たく「じゃあねー」って感じで手を振りながら、北郷をつれて部屋から出ようとしたが。
「って、主人殿はどこに」
「ねえ、ねえ、雪蓮」
いつのまにか雪蓮が泣きじゃくる机に北郷が座っていた。
「な、なによ」
自分の友を奪った相手である。どんなに、可愛らしくても恨めしい。
雪蓮は当然、北郷を睨みつけた。
「うっ・・・」
ただ、見すぎると頬が自然たるんでしまう恐るべき可愛さである。
「冥琳いないと、雪蓮も大変なんだよね」
「そうよ、いないと仕事が進まなくなるわ」
「じゃあ、楊州の人も大変なんだよね」
「そうね、私たちは此処の責任者だから民にも迷惑が掛かるわ」
「んっ、じゃあ……冥琳、返す」
「へっ?」
「なっ?」
その言葉に、雪蓮は冥琳とも驚く。
「しゅ、主人殿!!」
特にようやく手にした主人から、返す発言で冥琳の動揺は激しかった。
ちなみに雪蓮は唖然として無言だった。
「冥琳・・・、人様に迷惑かけちゃだめだよ」
「い、いやっ、しかし・・・」
「迷惑かけちゃだめ!」
「しゅ、主人殿しかしですね私は主人殿に忠誠を・・・」
冥琳は雪蓮を負かしたその舌で北郷を説得しようと試みたが。
「わがまま言うと嫌いになっちゃうよ!」
「はい、わがまま言いません」
「嫌いになっちゃう」の一言で黙った。
袁紹を表わすのに数百数千の言葉より、「馬鹿」と一言いったほうが早いのと同じ事で冥琳を諭すもっとも的確な言葉であった。
とはいえ、その後冥琳は北郷の配下になりたい一心で、自分は北郷の臣下のままであるが北郷と雪蓮の間で盟を結び、雪蓮は冥琳を借りるという形で話をまとめた。
数千を率いる「孫家」と冥琳しか部下のいない「北郷家」、そんな釣り合いが取れない同盟であった。
「ありがとうね……一刀」
「いいよ、雪蓮(にこぉー)」
ともかく、その提案のおかげで冥琳という優秀な人物を失わず救われた雪蓮は、初めて北郷に心からの笑顔を向け、北郷も笑顔で返した。
「かずとー!!ありがとうねー!あと、可愛すぎるー!」
「う、うわ!!し、雪蓮!!」
「しゅ、主人殿に抱きつくな孫策!!火攻めにするぞ!!」
その瞬間、そう、この笑顔で前回から続いていた雪蓮の玉璽の呪縛から完全に解き放たれた。
「玉璽の呪縛」
だが、そんな物に縛られる人物がまだ一人残っている。
雪蓮が玉璽に縛られた(孫家の「為」の天下を目指し始めた)、その日その時共に美羽に謁見しその手に持たれた玉璽に魅せられ縛られた雪蓮の妹である後の呉王蓮華こと。
孫権が……。
……「9話」に続く。