楽しく逝こうゼ?
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前書き、やっと山場が過ぎた……長かったぜ(泣)

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現在、アースラの会議室の雰囲気は少〜しずつだが重くなり始めて候、皆の顔つきも段々と引き締まっていくのは仕方がねえんだろう。

いやまぁさっきまでの雰囲気がカオス過ぎただけなんだがな?主に俺の所為だけど。

それに、グレアムさんの切り出した話しの2つのお題目が『はやてと守護騎士達の今後の事』。

そして何故『リーゼ姉妹が仮面の男達』として俺達……つまりは管理局側の妨害をしたかって話しだったんだ。

そりゃ雰囲気も重苦しくなるのは当たり前だ。

八神家の面子も、はやて以外の守護騎士達は表情に怒りが見え隠れしている。

あの闇の書の闇……あれを発生させる引き金として、はやての目の前で守護騎士達を闇の書に取り込んで消したんだ。

守護騎士達じゃなくても怒る、俺だって怒るっての。

特に俺は大事な大事な可愛いフェイト達に酷い事されてんだ、腸がよく煮えております。

これで対した理由なかったりしてみろ?そん時は体がブッ壊れようが((山吹色の波紋|サンライトイエローオーバードライヴ))+エイジャの赤石使ってピチュンしてやる。

 

「……こうしてお互いの顔を見るのは、写真以外では初めてだね……はやて君」

 

「は、はい……でもまさか、グレアムおじさんが管理局の人やったなんて、ここに来るまでは思いもしませんでした」

 

と、俺が物騒極まり無い事を考えていると、重苦しい沈黙を破ってグレアムさんがはやてに声を掛けていた。

居た堪れない表情で語るグレアムさんと、はやては何故か困惑顔だ。

あぁ何だこの2人は知り合いだったの……はぁ?え、ちょっとまて?何ではやてがグレアムさんと知り合いなんだ?

俺は目の前で話す2人の関係性が全く判らなくて首を傾げてしまう。

でも会議室にいるメンバーは俺以外には誰もはやてとグレアムさんの様子に困惑している人は居なかった。

あるえ?もしかしなくても俺だけ乗り遅れてる?

 

「……禅はさっきまで気絶していたのだから、知らないのも無理は無い」

 

すると、俺がオロオロとした様子で周りを見渡していたのが目に付いたのか、俺の隣りに座っているリインフォースが小声で話しかけてきた。

その声に従って隣に視線を向けると、リインフォースははやてとグレアムさんから目を離さずにしっかりと見つめていた。

 

「主はやてはご両親が早くに亡くなられていてな……今日までずっと生活援助と財産監理をして主を陰から保護していたのが、グレアム氏らしい」

 

「は?……グレアムさんが、はやての生活を支援してた?今日まで?」

 

俺の聞き返しに頷くリインフォースだったが、俺は頭の整理が追い着かずにこんがらがっていた。

とりあえずはやてとグレアムさんが知り合いなのは判ったけど、今まで生活援助をしてきたってのが良く判らねえ。

グレアムさんは管理局の人間だから管理世界、つまり魔法文化のある世界の人じゃねえのか?

 

くいっくいっ

 

「ん?」

 

と、俺がまるで見えない2人の関連性について考えていると、更に逆隣りに座っていたフェイトが、俺の服の袖を摘んで引っ張ってきた。

何だ?もしかしてフェイトも何か知ってるのか?

そのまま俺がフェイトに視線を向けると、フェイトは俺を少し屈ませて耳元に口を寄せてくる。

 

「あ、あのね?ゼン。言い忘れてたんだけど……グレアムさんは、地球の出身なんだって」

 

「え?マジかフェイト?」

 

耳に寄せられたフェイトの言葉に驚きながらフェイトと目を合わせると、フェイトは可愛らしくこくんっと頷きを返してきた。

グレアムさんも地球出身って事は……あの人もなのはみてえに魔力があった事で何かの事件に巻き込まれて、管理局と関わったのか?

 

「うん。私が地球に引っ越す時になのはと一緒に話を聞いたんだけど、その時にグレアムさんは地球のイギリスっていう国の出身だって言ってたよ?」

 

「……イギリスぅ?」

 

だが、フェイトの口から出た余りにも突拍子な出身地に、俺は怪訝な声が出るのを抑えられなかった。

何か更にややこしくなってきたぜ畜生。

確かにグレアムさんの容姿は、日本人のソレとはかけ離れている。

シルバーの髪にブルーの瞳だし、外国人だって言われてもそれは納得できる。

だが腑に落ちねえのは、はやてとの関連性だ。

どうやったらイギリス人のグレアムさんが日本人のはやての生活援助をするなんて話しになるんだ?

第一、さっきのグレアムさんの口ぶりじゃ、はやてとグレアムさんは写真以外では会った事が無いって事になる。

そんな奇妙な事が起きるっていうか在り得るのか?

 

「……グレアム叔父さん、そろそろホンマの事教えて下さい。何で叔父さんがここに居てはるんですか?」

 

そして、遂にこの雰囲気の中で、はやては口火を切った。

グレアムさんをジッと見つめながらはやてが言った言葉は、俺が聞きたい事そのものだ。

それに、これははやてとグレアムさんがしなきゃいけねえ話しだし、俺は聞き手に徹しなきゃな。

只真っ直ぐに目を見つめてくるはやてに、グレアムさんは哀愁を帯びた目を向けている。

やがてグレアムさんは、はやての目から視線を外して俯くと、机の上で組んでいた拳をギュッと握り締めた。

 

「……そうだな。今となっては話さなければならない。私が今まで、はやて君の生活を援助してきた経緯、そして……」

 

そこでグレアムさんは言葉を区切ると、今度はリインフォースに視線を向ける。

 

「私が闇の書を、生涯を賭けて封印しようとした切っ掛けを……」

 

そして、グレアムさんは語り始めた……11年前に起こった……悲劇を。

 

 

 

 

 

今から11年前、とある管理世界で闇の書が発見され、管理局は起動前の闇の書を捕獲したらしい。

 

 

 

 

 

辛くもそれは起動前だった事で、その管理世界で闇の書が暴走する事は無く、未然に世界が滅ぶという危機は防げた。

管理局は急いでこれを別の無人世界へと移し、そこで解析なり破壊なりの手段を講じるつもりだったそうだ。

その時、グレアムさんは艦隊司令官として闇の書を護送する任務の責任者をしていた。

だがそれを護送している途中、闇の書の防衛プログラムが暴走し護送していた艦隊の中で闇の書を積んでいた管理局の船『エスティア』が防衛プログラムに乗っ取られてしまった。

 

「闇の書の暴走に巻き込まれたエスティアは、もはやコントロールを受け付けなくなってしまった……乗艦しているクルーの命も風前の灯だったのだが……」

 

そこで言葉を区切ったグレアムさんは、徐にクロノとリンディさんに視線を移す。

俺達は何故そこでクロノ達を見るのか検討が付かなかったんだが……グレアムさんに見つめられたリンディさんは、表情を悲しみに染めていた。

リンディさんだけじゃなく、リーゼ姉妹、そして俺の相棒たるクロノも、だ。

 

「その航行船『エスティア』の艦長がクルー達を全員逃がした後、艦隊全てが防衛プログラムに巻き込まれる前に、自分と『エスティア』、そして闇の書をアルカンシェルで破壊して欲しいと、私に懇願したんだ」

 

グレアムさんは自分で語りながらも、その言葉で悲しみに顔を変えてしまう。

一方で、聞き手の俺達は、その言葉に息を呑んだ。

自分も一緒に破壊するという残酷な案。そして闇の書は、持ち主が死ねばどこかの適合者の元へ転生する。

そして今、はやての元に闇の書があったって事実……それはつまり、11年前の闇の書を道連れに、その艦長さんは死んだって事になる。

クロノ達が悲しそうな顔をするって事は、その艦長さんはクロノ達の関係者だったのか?

その沈黙から少しして、グレアムさんは口を開いた。

 

「苦渋の決断だった……そして、彼のお陰で、私達は今もこうして生きている……その次元航行船『エスティア』を指揮していた艦長の名前は……」

 

「‐‐『クライド・ハラオウン』」

 

「……え?」

 

だが、グレアムさんの言葉に被せる様に、悲しみに暮れた顔をしたクロノが言葉を紡いだ。

しかし、紡がれた言葉に俺達は呆然としてしまう。

ユーノが小さく呟いた言葉と、俺と同じ様に呆然とした顔をしてるって事は、俺の聞き間違いじゃねえ。

今、クロノは確かに言った……『ハラオウン』と……それはつまり。

 

「艦長の名は『クライド・ハラオウン』……僕の父さんだ」

 

クロノの親父さん……そしてリンディさんの旦那さんじゃねぇか……。

余りにもヘビーな空気と悲しい話しに、俺達は誰も言葉を発する事が出来なかった。

なんてこった……とんでもなく重てぇ……くそっ。

 

「……彼はまだ若く、そして私の大事な部下であり……掛け替えの無い友人だった」

 

グレアムさんは俯きながらも、言葉を続ける。

そんなグレアムさんの雰囲気に、リーゼ姉妹ですら悲しそうな顔で見つめる事しか出来なかった。

 

「もうあんな悲劇は繰り返してはならない……そう思った私は、例えどんな非人道的な手段を用いようとも、他人に非道と罵られ様とも、闇の書を永久に封印する事を誓った」

 

管理局の方針の様に、発見して破壊するという先延ばしではなく、その全てを根絶すると……。

グレアムさんは11年前のその時から、闇の書の行方を独自に探り始めた。

もう決して同じ様な事を繰り返さないように、それが自分が犠牲にしてしまったクライドさんの為に出来る、唯一の贖罪だと信じて……。

そして、執念とも言える粘り強さと幾ばくかの幸運が重なり、グレアムさんは闇の書を発見した。

両親を早くに失い、たった1人孤独に生きる少女の下に……自分の故郷の下に、闇の書があると突き止めた。

それが、グレアムさんの故郷であり、俺達の住んでいる第97管理外世界の地球、そして……。

 

「その少女が君だったんだ……はやて君」

 

八神はやてという、天涯孤独の少女の下にあるという事を。

 

「ほ、ほんなら、お父さんとお母さんの知り合いゆうんは……」

 

「……すまない、全て作り話だ」

 

はやての信じたくない、縋り付きたいという悲痛な表情に、グレアムさんも心が痛んだんだろうな。

その顔をとても辛そうに見つめていたけど、最後は目を逸らしてしまった。

 

「……そうです、か……」

 

グレアムさんの答えを聞いたはやては悲しみに顔を染めてか細く声を出した。

はやての辛そうな表情と声に、はやての傍に居たヴィータが、はやての手に自分の手を重ねる。

 

「……君達も知っての通り、闇の書……いや、今は夜天の書だったな。夜天の書は、主が死ぬと次の主を探して転生してしまう。そうなれば、再び広い次元世界の何処かで、またあの悲劇が繰り返される……だから……」

 

そこで言葉を区切ったグレアムさんは、再び顔を上げてはやてを見詰める。

下を向いていた顔を上げたグレアムさんの表情は、とても辛そうで、それでいて申し訳ないって感じだ。

 

「今、場所が判明しているこの段階で……私は闇の書を、『主と共に』永久封印するつもりだったんだ」

 

……は?

辛そうな表情のグレアムさんが語った言葉に、俺は頭を直接ハンマーで殴られた気分になった。

それは他の全員がそうだったのか、驚愕に顔を染めてグレアムさんを凝視している。

そんな複数の視線を浴びながら、グレアムさんは今までの過程を語っていく。

彼女が、はやてが天涯孤独の身であることを知ったグレアムさんは支援という名の下に、起動前だった闇の書を監視していた。

はやてに支援を続けつつ、リーゼ姉妹に闇の書の起動、そして守護騎士……ヴォルケンリッターが現れる機会をずっと窺っていたそうだ。

それと同時に、管理局には極秘で動き、闇の書をはやてごと凍結封印するための封印専用デバイス、デュランダルを用意していた。

 

「デュランダルって……まさかとは思うがよぉ……」

 

ここで、俺は呆けた声を出しながら、自分のデバイスの待機状態を眺めているクロノに視線を送った。

その視線の意味を理解したのか、クロノは複雑な顔で俺と視線を合わせる。

 

「あぁ、君の察している通り、僕の持ってるデュランダルがそれだ」

 

クロノはそう言いつつ、氷結の杖、デュランダルを眺めたまま言葉を続ける。

今回、闇の書の闇を覚醒させたリーゼ姉妹は、隙を見てはやてとリインフォースをあの状態のまま凍結封印しようとしていたらしい。

はやては天涯孤独の身だから、悲しむ人も少ないだろうと……自分に言い聞かせて。

今まではやての生活の援助をしてきたのは、はやてを巻き込む罪悪感と、せめて封印するその日までの日々を不自由なく過ごして欲しかったから、だそうだ。

だが、一歩早く仮面のクソ共の正体に勘付いていたクロノが2人をこっそりと見張っていたのが運の尽き。

ギリギリのタイミングで2人を捕獲したクロノは、グレアムさんから今回の事の真相を聞き出すために、2人を連れて1度本局のグレアムさんの下へ駆け込んでいたらしい。

グレアムさんの心の内を聞いたクロノはそれを否定し、俺達が闘う場に向かおうとしていた。

その時にクロノの固い決意を聞いて復讐を諦めたグレアムさんから、あのデュランダルを託されたという事だ。

 

 

 

つまり守護騎士達を補助し、なのはやフェイトのリンカーコアを奪うように指示したことも……。

 

 

 

「我々は、最初から貴方の手の平で踊らされていたと言う事か……主はやての命でさえも……!!」

 

俺達が守護騎士と戦ってる時に起きたアクシデントは全て最初から計画されてたってワケだ。

ホントふざけ倒したマッチポンプじゃねーか。

今回の事件の全てを理解したシグナムさんは、溢れ出る怒りを隠そうともせずに言葉を荒げる。

そう、リーゼ姉妹が守護騎士に味方したり、最後に守護騎士を裏切る様な遣り方をしたのは、全てはやてと闇の書を封印するための布石だったってワケだ。

流石にそんな破滅のマッチポンプに付き合わされた身のシグナムさん達としては憤りが隠せねえだろう。

現に八神家のはやて以外の面子は怒りに身体を震わせているし。

 

「黙れ!!お父様は、私達は……ッ!!戦友のクライド君をお前達闇の書に奪われたんだ!!それを棚に上げて、自分達だけが被害者面すんじゃないよ!!」

 

だが、シグナムさんの言葉を聞いたアリアが、同じ様に顔を怒りに染めてシグナムさん達に言い返した。

その表情と剣幕にヴォルケンリッターは全員たじろいでしまう。

まぁ確かに身近な人間奪われたとあっちゃあ、冷静でいられねえのが人間だわな……その事に関しては俺は何も言えねえ。

だがリーゼ姉妹、テメエ等はダメだ。テメエ等も自分達の事棚に上げまくって俺に喧嘩売ったのホンの数秒前だぞクルァ。

 

「……例えそうであっても、提督。クライドを……私の夫を、復讐の理由にしないで下さい」

 

だが、それは被害者のクライドさんって人に尤も近い場所に立っていたリンディさんの言葉で遮られる。

その、小さくとも心の中まで済み渡る様な言葉を聞いて、この場にいる全員の視線がリンディさんに集まっていく。

この部屋の全員の視線を受け止めているリンディさんは力強い瞳でグレアムさんを見詰めていた。

 

「確かに私とクロノは闇の書に恨みがあります……ですが、それはあくまで11年前の闇の書です。今はそんな物はどこにも存在していません」

 

リンディさんはそう言ってはやてや守護騎士達に目を向けるが、リンディさんの目には怨嗟の思いは欠片として灯っちゃいなかった。

 

「それに彼女達夜天の書は、私達人間の自分勝手な都合で改変されて闇の書になってしまった……私達だけが、彼女達を責めていい理由はありません」

 

「リンディ君……」

 

はやて達に目を向けていたリンディさんは、とても慈愛に満ちた笑顔を浮かべながらそう言い切った。

彼女の浮かべる優しい笑顔に、会議室の雰囲気が幾分か和らいだ。

そんなリンディさんの雰囲気に、グレアムさんは顔を悲しみに染めていく。

その中でも一等アホ面晒してたのは俺なんだろう。

俺の面が愉快な形になってる事に気付いたのか、リンディさんは俺に1つウインクを飛ばして微笑んだ。

スゲエなぁリンディさんは……グレートに優しい心を持ってる女の人だぜ……砂糖の過剰摂取が偶に傷だけどよ。

 

「所で、リインフォースさん?一応貴女の事はプレシアから事前に連絡を受けていますが……出来れば貴女の身体の事を、貴女自身から直接教えて頂けますか?」

 

そこで会議室の雰囲気が変わったのを感じ取ったのか、リンディさんはリインフォースに視線を向けてそう尋ねた。

一方、リンディさんの言葉が聞こえたグレアムさんとリーゼ姉妹は、表情を硬くしてしまう。

あれ?何でそんなに緊張した表情してんだ?……もしかして、リンディさんはリインフォースが治ってる事をグレアムさんに伝えてねえのか?

心に浮かんだ素朴な疑問のままにリンディさんに訝しげな視線を送ると、今度はウインクと一緒に人差し指でシッーってポーズまで送られたッス。

 

「はい……ですが、その「その前に1つええですか?リンディさん」……主」

 

「どうしたの?はやてさん?」

 

だが、リンディさんの問いに口を開こうとしたリインフォースに被せて、はやてが横から言葉を発した。

その突然の横槍に疑問の声を上げるリンディさんだったが、はやてはその声に答えず、今の位置から前に進みだす。

そして、グレアムさんとリンディさん、そしてクロノが見える位置に付くと、はやての傍に守護騎士とリインフォースが並ぶ。

その光景にリンディさん達だけでなく、俺やフェイトも首を傾げた。

何だ?はやては一体何をするつもりなんだ?

はやての謎の行動に疑問を持つ俺だったが、その問いに答える者は無く、前に進みだしたはやては車椅子に乗ったまま……。

 

「まず最初に、この場に居るクロノさん、リンディさん、そしてグレアムおじさんに謝罪させて下さい……11年前、闇の書の暴走に巻き込んでしまい、申し訳ありませんでした」

 

とても深く、頭のてっぺんが見える位置まで頭を深く下げて、謝罪の言葉を述べた。

はやてが頭を下げると、守護騎士5名もはやてに倣って頭を深く下げる。

この突然過ぎる光景に、グレアムさん達はおろか、俺やなのは達まで驚いてしまう。

おいおい、はやては偶然闇の……いや、夜天の書を手に入れちまっただけだろーが……そのはやてが頭を下げるって。

 

「今はもう闇の書は存在しませんし、先代の主も居ません。でも、夜天の書の最後の主となった私、八神はやてが全てを代表して謝罪させて欲しいんです」

 

「はやて君……」

 

はやてのその言葉に、グレアムさん達は何とも言えない顔をしてしまう。

有り体に言えば、はやては偶然にも夜天の書を手に入れて偶然にも主になり……先代の主達の業を全て背負わされた。

それはグレアムさん達も理解している上に、まだ9歳の女の子を犠牲にしようとした事に罪悪感を感じているだろう。

だというのに、自分達が殺そうとしたのにも拘らず、はやては頭を下げた。

その、全ての責任と怨嗟を押し付けてしまったが故にグレアムさんからすればとても心苦しい筈だ。

 

「これは所詮私の自己満足なのかも知れません。転生する毎の記憶をリセットさせられる守護騎士、自らの意志ではなく、改変されたデータにより狂わされた管制人格……」

 

はやては今やデータでは無くなった守護騎士を見回す。

心優しい主を守り通さんと強い意思をその目に宿した誇り高き守護獣ザフィーラ。

その癒しの力を持って、傷ついた仲間と主を助けると誓うシャマルさん。

小さき身体に、家族を苦しめる存在の全てを叩き潰さんと大きな決意を持つヴィータ。

そしてその3人を束ね、主の為に剣を振るう騎士、シグナムさん。

破壊する事ではなく、これからは愛しき主を守るという誓いを胸に刻み、新しい生きる道を得たリインフォース。

はやては自分の騎士達を……大事な『家族』の顔を一人一人見てから、グレアムさん達に視線を戻した。

 

「失ったものの悲しみは計り知れません。そして、失ったものは二度と戻りません。それを私達が償って行けるものでもありません……」

 

「はやてさん……」

 

「すべての関係者に謝罪が済んだら、最後の夜天の主として、この力を役立てて行きたいんです!!」

 

最期の主としての責務。

それは誰かがはやてに負う様に強要したモノじゃない。

それでもはやては、全ての責を背負って守護騎士達と償いをしていくと言う。

謝罪を受けている3人だけでなく、部屋にいる他の人達も口を開くことが出来なかった。

 

「管理局員では救いきれないものもある。だけど、それでも救えるものがあるんだ。だから僕らと一緒に救って行こう」

 

はやての宣言から3分ぐらい経った頃だろうか?会議室に重苦しい沈黙が続いていたが、その沈黙を破ってクロノが口を開く。

クロノのはやてを見る目はリンディさんと同じ様に穏やかで、父親を殺された事なんざ根に持っていない事をしっかりと現していた。

 

「クロノさん……ありがとうございます」

 

「いいさ、今回の事件では、君は被害者でもある。僕は管理局執務官として、当たり前の事を言っただけだよ」

 

クロノははやての感謝に若干照れながらも言葉を返す、助けるのは当然の事であり、謝罪も感謝も要らないと。

男の俺から見てもカッコイイ姿に、リンディさんは慈しむ様な視線を向ける。

俺も口がニヤリ、としていくのを自覚できた。

全くよぉ……やっぱ俺の『相棒』はグレートにカッコイイぜ。

そして、はやては謝罪をした後、グレアムさんに向き直って、しっかりと正面から顔を合わせた。

 

「グレアムおじさん……さっきも言った様に私は最期の夜天の書の主として、すべての関係者に謝罪をしたいんです」

 

「……」

 

真剣な顔で話すはやてに、グレアムさんは黙って耳を傾けている。

 

「でも、他の世界で闇の書の犠牲になった人達を探して、その人達の元へ謝罪に行くには、私1人の力では何も出来ません……」

 

はやては申し訳なさそうに言いつつも、真剣な顔のまま言葉を止めない。

まぁ確かに、他の次元世界へと赴くならそれ相応の技術とコネクションがいるんだろうな。

でもそれをグレアムさんに話すって事は……。

俺が頭の中で考えを纏めている間にも、話しはドンドンと進んでいく。

 

「ですから、グレアムおじさんに協力して欲しいんです。私達が闇の書の犠牲になってしまった人達に謝罪をする協力を」

 

「「「ッ!!?」」」

 

そして、はやての覚悟が篭った言葉に、グレアムさんとリーゼ姉妹は顔を驚愕に変えていった。

でもはやての提案には俺もビックリしたっての。

まさかリンディさんやクロノ達だけじゃなく、グレアムさんにまで協力を仰ぐとは……。

 

「……何故、私なんだね?私はまだ幼い君を犠牲にしようとしたんだよ?君を援助していたのも偽善、いや罪悪感からだ。全てが終わるまで少しでも良い生活が送れるようにという私の浅ましい考えからだったのに……なのに何故私に協力を頼むんだい?」

 

グレアムさんはそれこそ搾り出す様に、小さく言葉を発した。

そしてグレアムさんの言葉に、はやては一瞬悲しそうな表情をしたが、それでもグレアムさんから目を離さない。

 

「……グレアムおじさんの事、たくさん手紙で知りました。何時も私を気に掛けてくれた言葉の全てが嘘や演技やなんて思えないんです……今でも私は、グレアムおじさんは本当は優しい人やと思ってます」

 

「私は君を犠牲にしようとした……それは本当の事だ。それでもはやて君は、私が優しい人間だというのかね?」

 

はやての純粋な言葉に、首を振りながら早口で捲し立てるグレアムさん。

そんなグレアムさんの様子が不安なのか、リーゼ姉妹はグレアムさんを心配そうに見つめていた。

 

「はい、私はそう信じたい……どんな形でも、今までずっと私を助けてくれてたグレアムおじさんを信じたいんです……」

 

はやてはしっかりとグレアムさんを見詰めながら、言葉を終える。

自分の真摯な気持ちが少しでも伝わるように、目を逸らさないでいた。

その視線にずっと居た堪れないって顔をしていたグレアムさんだったが、不意にグレアムさんは自傷するかのように笑みを零す。

 

「……こんな私でも、頼ってくれるのなら……それに応えない訳にはいかないな」

 

「ッ!?そ、それじゃあ……」

 

グレアムさんの搾り出した言葉に、はやては顔を期待に染めながら、その先の言葉を待った。

そして、はやてを期待させていた張本人は、さっきまでの自傷めいた笑みではなく、とても頼れる大人の笑顔を浮かべていく。

 

「私も協力させて欲しい。今までの様に罪悪感からの贖罪などではなく……叶うなら、はやて君の『叔父さんとして』ね」

 

「ッ!?あ、ありがとうございます!!」

 

そう言って笑ったグレアムさんの言葉に、はやては弾ける様な笑顔を見せて感謝の言葉を送っていた。

マジに嬉しそうに笑うグレアムさんを見て、はやても笑い出す。

そして、それは会議室の皆に暖かい空気を作り、なのはやフェイトも笑顔を浮かべながら協力を約束していく。

勿論、俺も出来る限りの協力は惜しまないって約束した。

うむうむ、友情ってゆーか、美少女達の笑顔っつーのは何時見ても良いモンだぜ。

そして、グレアムさんが続けてはやての後見人になる事が決まると、次はリインフォースの話しだ。

 

「……さて、それじゃあはやてさんとグレアム提督の話しが付いた所で、今度はリインフォースさんの身体の事に話を戻しましょうか」

 

そして2人の間が一段落した所で、さっきのリンディさんの質問に議題は戻り、全員の視線はリインフォースに集まっていく。

いや実際の所、俺もリインフォースの事は気になってたしな。

『クレイジーダイヤモンド』で融合騎の機能と混ざったバグをまるごと切り離して治したワケだが、リインフォースの身体がどうなったとか、詳しい所は俺にも判らねえ。

 

「はい……私の身体の事ですが、まず先日お話しした私の中に巣食う闇の書のバグは、完全に消滅しています。もう私が暴走する事も、防御プログラムが再生してしまう事も、二度とありません」

 

と、リンディさんの言葉と全員の視線を受けたリインフォースは、厳かな雰囲気を出して語り始めた。

だが、今のリインフォースの言葉に質問を投げ掛けるヤツは誰も居なかった。

まぁそりゃ当然だ、リインフォースの中に居たビチグソ蛸野郎を俺と『クレイジーダイヤモンド』が昇天させてやったのは全員が知るとこ……。

 

「ち、ちょっと待ってくれ!?い、今の言葉は本当なのか!?」

 

んあ?何だ?

だが、納得していた俺の反対側から突然聞こえてきた声の方を振り向く。

すると俺の視界に入って来たのは、何やら凄い驚きの表情を浮かべたグレアムさんと呆けた顔のリーゼ姉妹だった。

あっ、そういやこの人達はさっきの出来事を一切見てねえんだったな。

俺が今目の前で驚いてるグレアムさん達の行動に納得していると、俺の横で立ち上がっているリインフォースはグレアムさん達に顔を合わせながら頷いた。

 

「……本当です。本来なら、私もろとも私の中に巣食っていたバグを消滅させるつもりでしたが、その必要が無くなったのです」

 

「し、しかし……君の融合騎の機能と融合したバグは、もはや自分自身では制御不能であり、君の様な古代ベルカ式の融合騎の構造を知るモノも居ないから摘出は無理だとリンディ君から報告を受けていたのだが……」

 

リインフォースの言葉に、グレアムさんは更に頭を混乱させていく。

まぁ普通の方法じゃリインフォースは助からない上に、新たな脅威を生み出しかねないからこそ、自分から命を絶とうとしたからな。

それがその日にひょっこり帰ってきて、更には「問題は全て解決しました」なんて言われたら混乱してもしゃーねえわ。

 

「はい。私自身、この世に存在する事は無理だと諦めていたのですが……」

 

リインフォースはそこで一旦言葉を区切ると、すげえ柔らかな微笑みを浮かべて俺を見つめてきた。

何よ?俺に説明しろってかリインフォースさん?そんな綺麗なスマイル見せられたら、勿論やるしかねえじゃねえか?

 

「『コイツ』のお陰で、全てはまる〜くハッピーエンド。事無きを得たっつーワケっすよ」

 

未だ絶賛混乱状態のグレアムさんに対して説明を中断したリインフォースだったが、ソコに俺は言葉を被せて『クレイジーダイヤモンド』を背後に出現させる。

行き成り言葉を発した俺に疑問顔を向けてくるグレアムさん達だったが、俺の背後で腕を組んだ状態で堂々と仁王立ちする『クレイジーダイヤモンド』を見た瞬間、盛大に顔を引き攣らせた。

特にリーゼ姉妹の反応は過敏で、姿を確認した瞬間「「ひっ!?」」って上擦った悲鳴出して恐がっておられます。

まぁ確かに威圧感の塊みてーなシルエットですが、テメエ等にお仕置きしたのはテメエ等が俺の大事な二人を傷つけるっていう悪い事をしたからだぜ?

 

「……先程から思っていたんだが、そ、それは君の……使い魔、なのかね?」

 

そして、俺の後ろに現れた『クレイジーダイヤモンド』の姿にビビりながらも、グレアムさんは俺に声を掛けてきた。

グレアムさんの出したその台詞に、もう何度目だよこの質問って考えが出てきちまったっての。

ってゆーか使い魔ならアルフの様に可愛いワンちゃんを所望しまっす!!

だが俺はそれを表情に出さず、この人はどれぐらい驚いてくれるんだろーなぁって考えながら、顔をニヤリとさせる。

 

「『クレイジーダイヤモンド』は使い魔じゃねーっすよ。なんつーかその……俺の精神力が形と力を持ったモンだと考えてもらえりゃいいっす」

 

「せ、精神力……君の心そのものが、その『クレイジーダイヤモンド』という形で顕現している……と、いう事かい?」

 

「あー、大体はそんな感じっすね。俺はこの力を総称でスタンド能力って呼んでます」

 

さすがに人生経験豊富なグレアムさんは、俺の言葉の意味を分かりやすく噛み砕いてくれた。

心そのものが力を持つってのは結構近いと思う。

スタンドを操作する原動力ってのは、自分自身の何かをしたいって気持ちが大元だからな。

 

「とりあえず一から話しますよ。まずは俺が身に付けた『スタンド』って呼んでる能力についてッスけど……」

 

其処から俺はグレアムさん達にスタンドという概念について、俺なりに、少しばかりの嘘をブレンドして納得できるように説明した。

さすがに神様から貰ったなんて説明できねーです。

このスタンドは何時の間にか、何の前触れも無く俺の傍に現れ、他の人間には全く見えなかった事を話し、何故かなのは達魔導師には見えている事も話した。

これについては恐らく魔導師が持ってるリンカーコアってのが原因なんじゃねーかって推測をだしたら、リンディさんも同意見だったらしい。

リンディさんは管理局には内緒で俺の力についてプライベートに調べたらしいが、全くその存在と似た物は無かったと言った。

俺が居る海鳴に住んでいる人間となのは達の違いっつったら、リンカーコアとやらが有るか無いかぐらいしか思い浮かばないしな。

そんでスタンドの説明から『クレイジーダイヤモンド』の力についても詳細に話したが、こっちは納得されるまでそう時間は掛からなかった。

なんせ触れた物を治す力についてはリーゼ姉妹がさっき嫌と言うほど体験した事で良く分かっているし。

身体ブルブルと震わせて恐がってる様はザマミロって思えたぜ。

そして『クレイジーダイヤモンド』から魔力を一切感じないのは、魔力を必要としていない=魔力の産物じゃないって事で使い魔とは違うってのも納得してくれた。

スタンドの能力について納得してくれた所で、今度は一体どうやってリインフォースを助けたのかって話しになる。

その質問に対しても、俺が身振り手ぶりを交えながら説明し、更にその場に居たクロノ達も証言してくれたお陰でスムーズに済んだ。

最初は訝しいというか、信じられないって顔してたが、クロノのデュランダルやなのは達のデバイスに入ってた映像もあって信じてもらう事は出来た。

 

「成る程……橘君の『クレイジーダイヤモンド』に闇の書の名残であるバグの全てを取り除いてもらったからこそ、君は……リインフォース君には、もう死ぬ理由が無いという訳だね?」

 

と、俺がタコ野郎を地獄の特急便に叩き込んでやった瞬間の映像を見たグレアムさんは、納得顔でリインフォースに向き直る。

 

「はい……ゼンにバグを取り除いてもらったお陰で、私の機能は取り除かれた融合騎の機能以外は正常に作動しています……彼の力が、私に生きるという道を切り開いてくれました」

 

そう言いつつ隣りに座っている俺に向けて、リインフォースはまたもや滅茶苦茶綺麗な笑顔を送ってきてくれた。

もうなんつーか美人過ぎる笑顔に俺のドキがムネムネ状態です!!

そんな風に綺麗って言葉が陳腐に思える笑顔を俺にプレゼントしてから、彼女は自分の身体の説明を再開した。

 

「そして、主はやてにもご報告が遅れてしまいましたが……私はもう、ユニゾンデバイスという存在ではありません」

 

と、リインフォースは申し訳無いって表情ではやてに事実を伝えた。

その言葉を聞いたはやても、「あっ」という声を出しながら悲しそうな顔をしてしまう。

そんな2人の表情を見て、俺はさっきまでのドキドキしていた気持ちが吹っ飛んだ。

 

「先程の映像で確認していただいた通り、私の身体から融合騎の機能は取り除かれているため……もう、主はやてとユニゾンする事は出来ません……今の私はユニゾンデバイスではなく、夜天の書の官制人格と主はやての、第5の守護騎士という存在です」

 

リインフォースはそう言いつつ、自分の胸に手を当てて目を瞑っている。

……そうだよな、俺がリインフォースの大事なモンを、この手で消しちまったんだよな。

ならケジメはしっかりつけなきゃいけねえ。

俺は座っていた椅子から降りて、悲しそうに話しを聞くはやてと、申し訳なさそうな表情を浮かべてるリインフォースに頭を下げた。

 

「……すまねえ、リインフォース、はやて。あのタコ野郎がその融合騎の機能ってのと完全に一体化する前なら何とか出来たかもしれねえけど……新しい存在になっちまってたから、そこだけはどうしても治せなかった……本当にすまねえ」

 

目の前に居るであろう2人に謝罪の言葉を述べつつ、俺は頭を下げ続ける。

本来、『クレイジーダイヤモンド』のチートパワーなら、混ざり合ったモノを混ざる前の段階まで戻して治す事も出来る。

アスファルトを原材料の段階、つまりはコールタールまで戻す事だって朝飯前だ。

だが、あの野郎は別々の物が混ざり合って出来た存在ではなく、完全に0から造られた存在になっちまってた。

0はどれだけ治そうと0……だからこそ『クレイジーダイヤモンド』の力でも、あの野郎だけを取り出す事は不可能だった。

あの時、俺がリインフォースに融合騎の機能を取り出しても大丈夫かってのを聞いたのは、その機能に『クレイジーダイヤモンド』の能力を叩き込む事でリインフォースが死なないかの確認でしかない。

俺があの時はバグだけを取り出すつもりだったにも拘らず、バグと融合騎の機能が丸ごと出てきたのは、その機能そのものがバグだとしか認識出来なかったからだ。

正直、俺が何とか出来たかもしれねえってのは自惚れが過ぎるんだろう。

でも、助けたかった女のあんな表情を見ちまったから、頭を下げずにゃいらんねえよ。

 

「ッ!?そ、そんな!?謝らないでくれ!!ゼンがあの機能を取り出してくれたからこそ、私はあの永遠の地獄から抜け出せたんだ!!その事に感謝してもお前を、ゼンを恨むなんて絶対に無い!!だ、だから顔を上げてくれ!!私はお前に謝罪して欲しくて言ったんじゃないんだ!!」

 

「そ、そうやで禅君!!リインフォースの、私の家族の命を救ってくれただけでも感謝しきれんのに、これで禅君に文句なんか言うたらそれこそ罰が当たってまうんや!!せやから頭をあげてぇな!!」

 

だが、俺の頭上から降り注いだ声は、俺を非難する声じゃなくて随分慌てた声音だった。

更にその声が聞こえた瞬間、俺の両頬に行き成り手が添えられて、強制的に頭を持ち上げられていく。

 

「た、頼む……私の命だけでは無く……私の『心』まで救ってくれたお前には、そんな風に気負って欲しくないんだ……あの暗い奈落の底から助け出してもらえた事だけでも、この穢れた身には余る程の幸福なんだ……だから、謝ったり……しないでくれ」

 

そして、俺の顔に添えられた手の持ち主であるリインフォースは中腰になりながら、その端整な顔を深い悲しみで歪めていた。

彼女の意志の強さを表す様な深紅の瞳から、大粒の涙をポロポロと流しながら、俺をジッと見詰めている。

頬に添えられた白魚の様な白い手は細かく震えていて、リインフォースがどれだけ悲しんでいるかを如実に物語っていた。

ってま、まずい!?泣かせるつもりなんてこれっぽっちも無かったってのによぉ!?

俺は目の前で泣きそうな表情で震えながらも耐えているリインフォースの姿に焦りながら、泣いてるリインフォースを落ち着かせようと彼女の両手に自分の手を重ねた。

 

「わ、悪い!?お、俺は別にリインフォースを追い詰めるつもりなんて無かったんだ!!だ、だから泣かないでくr……」

 

「ぐすっ……ま、また、謝りそうだった、ぞ?」

 

「わ、わかったわかった!!もう謝らねえから泣かないでくれって!?」

 

何やら泥沼化しそうな雰囲気になってきたので、俺は謝らずに何とかリインフォースに泣き止んでもらおうと頼み込む。

そうすると、リインフォースは少ししゃくりつつも、その綺麗な瞳から流れていた涙をゆっくりと止めてくれた。

案外あっさりと涙が止まった事に肩透かしを食らい、しかも何故か泣いていた本人であるリインフォースは微笑んでいるではないか。

あ、あれ?随分簡単に泣き止んでらっしゃる?……ドちくしょう!!一杯食わされた!?

女の涙って反則だぜ、泣かれたらどうしていいかわかんねえんだもん。

 

「……ふふっ。約束だぞ?……もう私の事で、気負ったりしないでくれ……ゼンには、胸を張っていて欲しいから……な?」

 

リインフォースはそう言って、見事してやったりな微笑みを浮かべてきた。

くっそ、恥ずい……いいさ、そっちがその気なら俺も仕返ししちゃる。

 

「……オーケー。俺も男だ……金輪際この事でリインフォースにゃ謝ったりしねえ、約束する」

 

「あぁ、そうしてk「ただし」……?」

 

俺の言葉を聞いて話を終わらせようとしたリインフォースだが、俺はリインフォースの言葉を遮って、更に言葉を紡ぐ。

その只ならぬ様子にリインフォースは首を傾げているが、俺は依然としてリインフォースの瞳を見詰めていた。

 

「俺も謝らねえ代わりに、1つ約束してくれ……もう二度と、自分の事を『穢れてる』だなんて言わねーって」

 

そして、俺は真剣なツラでリインフォースに言いたかった事を口にする。

俺がさっきまで聞いていて聞き逃せなかったのは、リインフォースが自分の事を『穢れてる』だなんて言った事だ。

その全く持って納得いかねえ一言だきゃあ何が何でも訂正してもらわなきゃあな。

 

「ッ!?……だが、私は……(ぐいっ)ぁっ……」 

 

俺からの要求に目を見開いて驚いたリインフォースだが、直ぐに表情に陰を落として俺から目を逸らしてしまう。

多分今までの暴走でいくつもの世界を、主を滅ぼしてしまった事とかが、自分を穢れてるなんて言った原因なんだろうが……そいつはちぃと聞き捨てならねえ。

俺はリインフォースが目を逸らすのを許さず、リインフォースの手に添えていた片手を離してリインフォースの頬に当て、彼女の顔を俺の方向に向かせた。

そん時に小さく声が聞こえたが無視。

 

「だがも何もねえよ……リインフォースは穢れてなんかいねえ。それどころか、俺には眩しいぐらいにすげえ綺麗な女なんだぜ?」

 

「ッッッ!?ま、また、お前はそうやって世辞を……!?」

 

「世辞なんかじゃねえよ。ましてや美辞麗句でも、上っ面だけ飾った薄っぺらな言葉でもねえ……こいつは純度100パー、俺の本心だ」

 

俺は真剣な表情を崩して優しくリインフォースに笑い掛ける。

そうすると、リインフォースはその綺麗な頬に赤みを差しながら瞳を潤ませていく。

この表情だけで一体何人の男が堕ちる事やら……これで穢れてるなんて言われたら、堕とされた男が馬鹿みてえじゃねえっすか。

ましてや、リインフォースに言った綺麗ってのは何も外見だけの事じゃねえ。

 

「リインフォースは、大事な主を殺さねーようにって、自分の命を主の為に消そうとしたじゃねえか……そんな、大事な人の為に命を投げうる事が出来る良い女が、穢れてなんざいるもんかってんだ」 

 

「ぅ、ぁ……うぅ……」

 

俺の歯の浮く台詞に、リインフォースは恥ずかしそうに呻き声を上げながら視線をアチコチへと彷徨わせる。

ふっふっふ、もはや羞恥心を次元の彼方へ置き去りにした俺から一本取ろうなんざ、全く持って甘々スイーツな考えだぜ?

 

「それに、これでも女を見る目にゃ自信があるんだぜ?……俺はリインフォースの事を心の底から良い女だと思ったからこそ、あのタコ野郎を尚更生かしちゃおけなかった……さっきも言った通り、俺が女神だと思ってるリインフォースに、宝石なんか霞んで見えちまう程に心が綺麗な女に寄生するなんざ、神様が許しても俺は許せなかったんだよ」

 

「〜〜〜〜〜〜ッ!!?わ、わかった!!も、もう言わないから、もう勘弁してくれ!?……む、胸が締め付けられるんだ……ゼンの言葉を聞くと……切なくて……でも、暖かくて……どうにかなってしまう……ま、麻薬みたいなんだ……お前の、言葉は……」

 

そして、遂に色々な限界を迎えたリインフォースは膝立ちになってしまい、俺の言葉を遮って懇願するかのように俺を上目遣いに見てきた。

俺の頬に添えられていた手は離れ、自分の胸元をキュッと握り締めていて、何かに耐えている様にも見える。

へへへっ、まぁちゃんと約束してくれるってんなら、ここいらで止めておきます……が。

俺は上目遣いに覗きこんでくるリインフォースに、更に顔を近づけて、リインフォースの深紅の瞳を覗きこむ。

俺が行き成り顔を近づけた所為なのか、リインフォースは虚を突かれた様に、俺の目を見たまま固まってしまった。

 

「約束だぜ?今度また、自分は穢れてるなんて言ってみろ?……そん時は中毒になるまで、リインフォースがどれだけ良い女かって言葉を、休み無しで浴びせ続けてやるからな……OK?」

 

「わ……わかった(……もう、とっくに私は……お前に侵されているというのに……酷い男だ……もう少しで、抑えが外れる所だったんだぞ……)」

 

膝立ちで俺を見ているリインフォースは、俺の言葉に頷くと、今度は俺が頬に添えていた手に自分の手を重ねてきた。

大体、拳1つ分くらいの距離で見詰めあう俺とリインフォースは、まるで麗しき囚われの姫を救いに来た勇者のようにも見えるだろーよ。

まぁ勇者とか王子様なんてガラじゃありませんけどね?俺は遊び人と呼ばれる事を要求する。

 

「あ〜、ゼン君?もうその辺りで止めておかないと、後が怖いわよ?…………手遅れでしょうけど(ぼそっ)」

 

と、ディ・モールト(非常に)良い雰囲気で見詰め合ってた俺とリインフォースでしたが、其処に飛んでくるは警告を促すリンディさんのお言葉だった。

おんやぁ?最後に何やら小さく不吉な事を呟きませんでしたかリンディさん?

その微妙に、いや多分に呆れを含んだ声音が気になって視線の感じる方に振り返ると……。

 

「……じぃ〜〜いっ(……良いなぁ)」

 

其処には指を咥えて羨ましそうにリインフォースと俺を凝視しているつぶらな瞳がウル目状態のフェイトちゃんと……。

 

「ううぅ〜……(……後で思いっ切り甘えさせてもらうから、覚悟しときなよゼン。こうなったら肌がふやけるまでペロペロしてやるからね!!)」

 

何やら悔しそうに呻き声を上げながらも、目の前に御馳走を置かれて主人に待てと言われてモジモジしてるワンちゃんを連想させるアルフたんがいますた。

何でか知んねーけど、口の端から赤い舌がチロチロと見え隠れしております。

……いや、まぁ怒りに呑まれて攻撃されるよりは100万倍マシっちゃマシなんですが……コッチはコッチで精神的なプレッシャーがががが。

りょ、良心が苛まれるうぅぅぅ!?殴られるより辛いかも……早く離れとこうか、俺。

俺の心に直接訴えかけてくるような眩い視線に負け、俺はリインフォースから離れてさっきまで座っていた椅子に座り直す。

 

「……(じぃ〜〜〜〜〜〜〜〜いっ)」

 

「うっ……(汗)あ、後で何か埋め合わせすっから、今は許してくれ……な?」

 

そうすると、俺の横からさっきよりも熱い視線が降り注いでくるジャマイカ。

その責めたてる視線に汗をダラダラ流しながらも耐え忍ぶしかないチキンな俺、御免なさいフェイトちゃん。

無垢で穢れを知らない瞳に見詰められ続けた俺は、ぎこちない笑顔を作ってフェイトに笑い掛けるが……。

 

「………………ばか(ぼそっ)」

 

ぐさっ!!!

 

小さく、しかし俺の耳に浸透するかの如く、泣きそうな顔になってるフェイトの悲しみに満ちた呟きが、俺の心をゲイ・ボルグしてくるとです。

 

「……むぅ(……お前は、女に優し過ぎる……私だって、諦めきれない程に焦がれているんだからな)」

 

そして何故か逆隣に居るリインフォースからも責め立てる視線が飛ぶ始末、なんでさ?

 

「……コホン……話が逸れてしまったけど、リインフォースさん。続きをお願いできるかしら?」

 

「……わかりました」

 

両隣から送られる責める様な視線に胃が締め付けられる思いをしながら耐えていると、リンディさんから話を元に戻す様に促されて、リインフォースは再び視線を俺から外してくれた。

ナイスですリンディさん!!今度お礼に常人なら死にそうなぐらい糖分を詰め込んだパフェ御馳走しまっす!!

そして、再びリインフォースから説明が始まったので、俺もそれを静かに聞く事にした。

まずリインフォースの現状は、身体は守護騎士達と同じではやての魔力と、夜天の書に蒐集された超膨大な魔力で構成されているらしい。

様はプログラム体なのだが、人間と同じ様に食事も出来るので、その辺りは普通の人間と大差ないとの事。

更にはバグが消滅した事で夜天の書本来の機能が完全に復活、その管制人格たるリインフォースは、今まで蒐集した技の全てを使える。

しかも今回蒐集された面子、つまりなのはの極悪砲撃であるSLBやフェイトのフォトンランサー、守護騎士ヴォルケンリッターの技の全てを本人を遥かに超える威力で、だ。

オマケに蒐集した魔力が夜天の書に蓄積されているので、リインフォースの魔力ランクは実質的にSSS+ランククラスを遥かに超えているとの事だ。

この発言にグレアムさんはおろか、さっきまでは頷いて話を聞いていただけのリンディさん達も、目を皿にして驚いている。

え〜〜っと?リンディさん達の反応からすると……それってかなり強いって事なのか?

 

「う〜ん……なぁフェイト?SSS+ってドンぐらいスゲーんだ?」

 

でも、魔力量の基準が判らねー俺には理解出来なかったので、隣であんぐりと口を開けてるフェイトに質問してみる。

いや実際そのランクの数字が高いのは判るけど、他の面子がどれぐらいなのかがわかんねーから驚き様がねえんだよ。

もしかしたらプレシアさんのちょっと下ぐれーか、ちょっと上なのかね?

俺の言葉にハッと意識を戻したフェイトは、若干どもりながらも俺に説明をしてくれた。

 

「え、えっと……わ、私となのはがAAAランクで、お母さんが、特定の条件下のみっていう限定付きSSランクだから……」

 

「おーけーわかったもうそれいじょうはいわなくていいぴょん」

 

「ぴょん!?……だ、大丈夫?すごい棒読みだけど……顔色も、良くないし……」

 

「もーまんたいだポン酢♪」

 

「ぽん!?ゼ、ゼン!!しっかりして!?」

 

ポン酢って魚でも鍋でも美味しく逝けるよね♪って何言ってんだ俺?

お隣のフェイトちゃんが何やらオロオロしながら俺を見てるが、俺の頭はかなりの勢いでローリングサンダー枕ーレンしてる(意味不)

ちょっと待て待て?あの神・無双状態超絶ハイパー無敵ママさんのプレシアさんが特定条件付きのSSランク?

あ・の闇の書の闇を昔より弱いとかおっしゃってたフォトンランサー・ジェノサイド・シフトをバンバン撃ちまくって蹂躪してたプレシアさんがSSランク?

え?じゃあリインフォースってプレシアさんよりかなり上のSSS+ランク……を遥かに凌いでいるって……いや、それって。

俺はぎこちない動きでゆっくりと俺の隣りで立ち上がってるリインフォースに視線を向ける。

すると俺の視線を感知したリインフォースは、頬を赤く染めて照れくさそうな微笑を浮かべて俺と視線を合わせてきなすった。

うむ、恥じらいをブレンドした良いスマイルだ……っていやいやいやそうじゃねえだろ。

 

「それって……リインかなり強いんじゃね?」

 

ぶっちゃけ俺と『クレイジーダイヤモンド』なんか足元にも及ばないくれえにさ?

思わず、何と無しに言葉を発した俺だったが、その科白に呼応してリンディさんが若干引き攣った笑顔で言葉を発した。

 

「強いなんて簡単なモノじゃないわよゼン君。はっきり言って最強ね……何せSSランクですら、管理局の中でも一握り。いると仮定されて作られたSSS+ランクなんて人は、事実上誰も存在しないの……なのに、そのSSS+ランクを遥かに凌ぐ魔力量、そして数多の魔法技術を記憶しているとなれば……」

 

「公式バグチートキャラ認定って事ですねわかります」

 

俺の言葉に当の本人であるリインフォースを除いた全員がウンウンと首を縦に振った。

つまり俺の目の前で優しく微笑んでる銀髪美人は、全能力値が計測不可(SSS+以上)という、時空管理局も卒倒確実な超絶的スペックを誇っている。

それでいてこう時折見せる優しげな笑顔、更に女性として超が付く程に極上のプロポーションを持つって事か。

なんてこった、まるで隙が見当たらねえんですけど?好きは見当たるケド。

 

「あ、あの、ゼン?」

 

「ん?」

 

と、俺が目の前の超絶最強美人、リインフォース様のスペックに舌を巻いていると、そのご本人様からお声が掛かった。

一体何だろうと視線をそちらに向ければ、何やら恥ずかしそうに頬を赤らめたリインさんが俺を見ていらっしゃる。

おおぅ、そんな笑顔で見られたら蕩けちまうぜ。

 

「い、今その……わ、私の事を、『リイン』と呼んでいた様に聞こえたんだが……そ、そのリインとは?」

 

恥じらいの表情を浮かべ、若干俯きながらも俺に問い掛けてくるリイン。

何だその事か、特に対した意味はねーんだが……まぁいいか。

 

「あぁ、リインってのは安直だがリインフォースの愛称みてーなモンだよ」

 

「あ、愛称……!?ゼ、ゼンが考えて、くれたのか?」

 

俺が普通に答えると、リインは目を見開いて驚きを露にした。

何故か俺に返してくる言葉も、若干震えてる様に感じるんだが……何か変だったか?

やっぱ、リインフォースから取ってリイン、なんて安直過ぎて嫌かもしれねーか。

 

「まぁな。それに、普段からリインフォースってフルネームで呼ぶのも、何か仰々しいって思ってな……嫌なら別に止めるぜ?」

 

「ッ!?い、いや、良い!!是非そう呼んでくれ!!」

 

「お、おう?」

 

さすがにこの愛称は無かったかと思って聞き返してみると、リインは焦った様に声を大きくして俺にOKを出してきた。

その剣幕に少しばかり押されはしたが、リインがそれでいいならいいかと首を縦に振ると、リインは嬉しそうな顔を見せてくる。

ふ〜む?これは気に入ったって事でいいんだよな?

まぁ美少女、いや美女の笑顔ってのが見れるなら俺は何でも良いんですけどねぇ!!

 

「な、成る程……では、やはり早急に手を打つ必要がありそうだな」

 

「えぇ、今の内に私達ではやてさん達の周りを固めないと、よからぬ連中が暴走したら手が付けられませんし」

 

と、俺がリインの柔らかい微笑みに心癒されていると、向かい側のグレアムさんとリンディさんから不吉な単語が聞こえてきた。

おいおい?ここまできてまだ面倒事があんのかい?

この会話に反応したのは俺だけではなく、会議室に居た面々、得に八神家の面子は過敏に反応していた。

 

「提督殿、それは一体どういう事でしょうか?」

 

そして、俺達を代表してシグナムさんがグレアムさんに質問をすると、グレアムさんは真剣な顔で俺達に向き直る。

まず、これははやてにも言える事だが、八神一家は今回の事件で全員が管理局の保護観察対象になるらしい。

これについてはリンディさんとグレアムさんが保護観察を担当する方針で固めているとの事。

何故なら管理局は一枚岩では無く、前のプレシアさんの一件みてえに自己の欲に走る馬鹿も多数いる。

そんな奴等に強大な力を持つはやてやヴォルケンリッターの保護観察を任せれば、何をされるか分からない。

更には事実上、次元世界最強であるリインの事を狙ってはやてを人質に取る可能性もある。

まぁ不幸中の幸いか、ユニゾンデバイスとしての機能が失われているお陰で、管理局の封印指定には引っかからないそうだ。

つまり、いろんな意味で八神家の立場は不安定な位置にあるらしい。

だが、時空管理局でも提督の位に就いてるグレアムさんが後見人を今まで通り継続する事によって、その可能性を潰す事が出来るって話しがある。

更に夜天の書の存在は、前にクロノとユーノが話してくれた様に、今は失われた古代ベルカの大きな遺産らしい。

その夜天の書とその最期の主であるはやての存在は、ミッドチルダという管理局お抱えの世界にある聖王教会ってのにとっては、是非保護したい存在らしい。

 

「ん?……その聖王教会ってのはなんなんだ?」

 

とりあえずまたもや新しい組織の名前が出てきたので、物知りユーノ君に視線を向けてみた。

 

「あぁ、まずそこからの説明が要るよね。聖王教会っていうのは……」

 

聖王教会……ユーノ曰く聖王とかゆう人物を崇め、聖王の偉業を語り継ぎ、数多くの次元世界に影響力を持つ有数の大規模組織。

要するに世界に羽ばたく大規模な宗教団体ってワケだな。

ついでに、聖王縁のロストロギアを回収し、古代ベルカの技術を悪用されないように保管する、管理組織的な一面もあるらしい。

 

「よーするに、夜天の魔導書はロストロギアで、古代ベルカの品って事だから、その主のはやての保護に繋がるってか?」

 

「簡単に言うとそうなる。古代ベルカの技術の結晶体ともいえる夜天の書なら、聖王教会も大手を振って協力してくれるさ。それに、あそこには信頼できる人物も居るしね」

 

俺なりに纏めてみた応えにクロノが太鼓判を押してくれた。

更にその聖王教会とやらには、クロノ自身が信頼できる人が居るらしい。

まぁクロノが信頼できるってんなら大丈夫だろ。

聖王教会には報告の他に無限書庫でユーノが集めてくれた闇の書と夜天の書の古代ベルカの遺産である証明と一緒に、はやての夜天の書の所有権と支援協力を要請する段取りらしい。

今さっきはやてと話をして後見人を続ける事を決めたグレアムさんは、急いでこれ等の情報の整理や裁判、そして聖王教会への受け入れの体勢を整えさせているそうだ。

それをグレアムさんが語ると、はやては申し訳無さそうな顔をしてしまう。

 

「ごめんなさい、叔父さん……私の所為で、迷惑掛けてしもて……」

 

そう言って俯き気味になってしまうはやてだったが、グレアムさんは朗らかに微笑んでいた。

さっきまでの罪悪感が出てる顔じゃなく、本当の孫を見守る様な顔でだ。

 

「はははっ大丈夫だよ。私は先程、君に協力すると言ったばかりじゃないか?叔父さんとして、これぐらいはさせてくれ」

 

「で、でも……」

 

だが、グレアムさんの優しい言葉を聞いてもはやての顔は優れない。

まぁ仕方ねえか……迷惑掛けろと言われても簡単には頷けないって事は、はやての中で遠慮が強いんだろ。

それこそ今まで1人で生きてきたんだし。

っていうか何時までも遠慮しててもこれじゃ話しが全く進まねえっての。

 

「別に良いじゃねえか、はやて」

 

俺はそうやって何時までも戸惑ってるはやてに笑顔で話し掛ける。

その声が聞こえたのか、はやては俯いていた顔を上げて俺を見てきた。

 

「グレアムさんが……いや、はやての叔父さんが任せろって言ってんだ。俺達はまだガキなんだし、大人に甘えとけって」

 

「禅君……」

 

「……タチバナ君の言う通りだよ、はやて君。私がそうしたいんだ……それとも、やはり私の様な老いぼれには任せてくれんかね?」

 

すると、グレアムさんは悪戯っぽい笑みを浮かべながら俺の言葉に便乗してきた。

しかも若干脅迫めいた言葉が入ってるし。

それを聞いたはやてはワタワタと手を振って慌てふためいている。

まさか搦め手で来るとは……伊達に提督なんて地位にいる人じゃねえって事か。

 

「そ、そんなんちゃいますけど……うぅ、そんな言い方は卑怯ですやん」

 

グレアムさんの若干脅しを含んだ言葉に、はやては口を尖らせて非難を送る。

だがそんなはやての顔を見ても、グレアムさんは何処吹く風といった感じで笑っていた。

 

「ふふっ、大人は卑怯な生き物だよ?まぁここは1つ、叔父さんとして私に、はやて君の為に活躍させてくれ」

 

そんなグレアムさんの様子にこれ以上の抵抗と遠慮は無駄無駄無駄ぁと悟ったのか、はやては苦笑いを浮かべながら「お願いします」とOKを出した。

そして、そこからトントン拍子に進む話し合い。

まずははやて達の扱いについてだが、はやて本人は管理局の保護観察を受けつつ嘱託魔導師を目指すらしい。

その方が闇の書の犠牲者の人達に謝罪しやすいというのも1つの目的だそうだ。

尤も、はやての足は闇の書の影響が無くなったとはいえ、長い間動かさなかった所為で未だに満足には動かない。

だから、はやては地球で普通に暮らしてリハビリを行いつつ、完全に歩ける様になった時に初めて嘱託魔導師の試験を受ける事になる。

次にヴォルケンリッター達は、今回の地球で起こった魔導師襲撃事件の実行犯でもあるので、管理局での奉仕活動をしなきゃいけねえ。

但し、ヴォルケンリッターははやてと共に地球で暮らしていかなきゃならないので、管理局への奉仕活動の見返りに、地球での戸籍をもらえるそうだ。

フェイトの時はフェイト1人でプレシアさんとアルフの分の戸籍も手に入れているわけなんだが……。

ただ、それは元となる戸籍があるからであって、今回はみんなの戸籍そのものがどこにも存在しない、なんせ元は魔導書の中に住んでましたからね、皆さん。

つまり0からデータ偽造するからその代わりに全員入職ってワケです。

そう言う訳ではやては嘱託魔導師として登録することとなり、併せてなのはも兼ねてから考えていた通りに、嘱託として登録することとなった。

今回の闇の書事件解決の功労として、多少のテストの免除や研修期間の短縮などがあるそうだ。

シグナムさん、シャマルさん、ヴィータ、ザフィーラ、そしてリインの5名は管理局員として入職することとなった。

家の生活費も稼がないと……なんてシャマルさんが言っていたよ。

しかし次元世界最強種なリインが管理局入職とか……いやはや、次元世界に居るであろう犯罪者の皆様、ご愁傷様です。

 

ちなみになのはが嘱託魔導師になるので、ユーノは無限書庫の司書を引き受けた。

っていうか無限書庫ってなんぞ?名前の響きからして書庫なんだろうけどさ。

そして、この疑問もユーノ君にクエスチョン、返ってきたアンサーはこうだ。

 

無限書庫――世界の記憶を収めた場所とも呼ばれる、規模が異常なほど大きい図書館である。

大きすぎて逆に調査効率が非常に悪くなっている。

次元世界中のありとあらゆる本がこの書庫に毎日有り得ないペースで記憶、保存されてくる。

その所為で、書庫とは名ばかりの物置に近くなってるらしい。

具体的にいえば無重力の空間に人間が浮いて、上下左右が本に埋め尽くされた本による本だけの本の為の空間らしい。

俺なら絶対に行きたくない空間だぜ、マジで発狂する。

 

そして、最後に俺の扱いについてなんだが、俺はぶっちゃけ時空管理局とやらに就職する気は一切無し。

何せ異世界だし?こちとらまだ小学生だし?遊びたい盛りですしお寿司。

前回のジュエルシード事件の際にリンディさんにお願いした通り、俺の扱いは偽造して頂く事となった。

まずは俺が映っていない戦闘の映像のみを編集して、上層部に提出。

更にリインフォースを助けた事の映像は一切合財洩らさず、闇の書の闇を吹き飛ばしたら治りましたって事で終わらせる。

やっぱり『クレイジーダイヤモンド』のチートパワーは類を見ない貴重さと使い勝手の良さがあるので、上に目を付けられたら勧誘どころか強制される可能性もあるらしい。

まぁその場合はテスタロッサ一家並びに八神一家も俺を助けるのに尽力してくれるそうだ。

何にせよ、リインの気合の入り様はヤバいの一言だったね。

だって滅茶苦茶綺麗な微笑みを浮かべながら「ゼンの為なら星の1つや2つ、軽く消してみせる」だぜ?

色んな意味で背筋が凍ったよもう。

そして、全ての話し合いが終わった時点で、今度は俺やフェイト、なのはといった面々の問題が浮上。

そう、昨日の闇の書VS俺達の現場に巻き込まれてしまったアリサとすずかに対しての説明である。

更になのはが嘱託とはいえ魔導師を続けるなら、なのはの家族にも説明をしなきゃならん。

かくいう俺も、両親や爺ちゃん達には俺の力の説明をしていないので、俺もこの際良い機会って事で打ち明ける事と相成った。

そして、その説明に関しては、リンディさんとグレアムさんにも説明をしてもらわなきゃあならねえ。

何せ次元世界の事とかは其処の人間に話してもらわなきゃあ納得なんざしてもらえない。

 

 

 

と、まぁ今後の予定の大部分が決まってきた俺が今何をしてるかっつうと……。

 

「……何か悪いなぁ、フェイト。お前を『充電器』代わりに使っちまってるみてえで……」

 

俺は目の前で俺の携帯の充電部分に指を当てて魔力を放出してるフェイトに、申し訳ないって声で語り掛ける。

 

「う、ううん。気にしないで。これぐらいなら、お安い御用だよ」

 

すまないって顔で謝る俺に、優しく微笑みながらフェイトは言葉を返してくれた。

いやもうマジすんません。

はい、只今フェイトの魔力を微弱な電気に変えつつ、携帯の充電をしてもらっておりますです。

いや、まぁ親に俺の力の事を話すのは良いとして、その親に連絡つける携帯が使えなきゃ意味がねえとです。

それでどうしたもんかと困っていたら、妙にモジモジとしたフェイトが恥ずかしそうに声を掛けてきて……。

 

『そ、その……わ、私が(充電)してあげても……良いよ?』

 

と、まぁ何故か恥ずかしがりながらも携帯の充電をしてくれてたりする。

ちなみにこの会議室には、今は俺達以外の人間は居ない。

はやて率いる八神家一同は、勝手に抜け出してしまった病院へ説明と謝罪に、なのはは自分の家族とアリサ達に説明する段取りをユーノと相談しながら地球に帰った。

リンディさんとエィミィさんは仮眠の続きに行ったし、グレアムさんはリーゼ姉妹を引き連れて裁判と保護の準備を整えてくるそうだ。

プレシアさんはフェイトと離れる事に血涙を流しながらも、アルフと一度地球の家に戻って行ったし……プレシアさんぇ……あの人性格変わりすぎだろ。

そんなわけで、この会議室には俺とフェイトの2人っきりです。

2人っきりなのにやってる事は携帯の充電……何か悲しくなってきそうだ。

余談だが、微笑みながら携帯を胸に抱きかかえて充電してくれるフェイトを見て、『置き型充電器FATEチャン』なる商品が頭を過ぎっちまったい。

デフォルメされた可愛らしいフェイトが携帯を抱きかかえながら充電……ヤバイ、何か知らねえけど無性に欲しくなってきた。

プレシアさんに頼んだら鼻血出しながら狂喜乱舞して作ってくれそうだな。

 

「いやいや気にするって、お前を充電器代わりに使うとか……お返しに、今度俺が作った新しいデザートのレモンメレンゲパイを、『フェイトの為だけに』作ってやるよ」

 

「ッッ!?ほ、ほんとう……?」

 

俺の何気ないお返しを聞いたフェイトは、ふさふさしたツインテールをピコンッと動かして俺を上目遣いに見詰めてくる。

その可愛らしい仕草に、俺の中の保護欲とかリビドーがすげえ勢いで掻き立てられてきます。

具体的にはドキドキが収まりません!!

 

「お、おう。ホッペが落ちるぐらい美味しいヤツ作ってやるから、期待してな」

 

俺は弾けんばかりに動く心臓を落ち着かせつつ、フェイトの柔らかい金髪の髪をゆっくりと撫でてやった。

あぁ、やっぱりフェイトの頭撫でてると癒されるぜ。

 

「ぁぅ……えへへ?(わ、私の為だけに、かぁ……嬉しい?)」

 

そして、俺に撫で撫でされる事で確変するフェイトの可愛らしいスマイル。

ホントどんだけ可愛いんだよコイツゥ!!?俺のハートにドッキューンしてアッカリーン!!になっちまうじゃねぇか!!(意味不)

そこから充電が終わるまで暫く、俺はプリティーでラヴリーなフェイトの笑顔をじっくり堪能させてもらいました、まる

 

説明
第27話、事後処理終了、これより地球へ帰還します!!
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コメント
プロフェッサー.Yさん>それはない!!                      かも(piguzam])
忘れた頃にやり返す…どんなことするのかな〜などと?気に思いながら葦澤良久さんの「凛々狩る家族」を読み返してて恐ろしい事が脳裏をよぎった。この世界のはやて…腐女子だったりしないでしょーね?(汗)(プロフェッサー.Y)
プロフェッサー.Yさん>もちろん……やり返しますよwww忘れた頃にwww(piguzam])
時にはやてさん?禅君には随分と感謝しているようですが…それはそれとして散々ビビらされた仕返しはキッチリするんですよね。わかりますwww(プロフェッサー.Y)
げんぶさん>リインちゃんは魔導書の中に居たから世間知らずって面もありますから……OKでしょう!!!(piguzam])
海平?さん>いや……もしかしたら対抗して立て掛け型充電器FORCE(ナイスバディなデフォルメされてないリイン様が携帯を抱きしめる格好で充電してくれる)を作る可能性がががが(piguzam])
置き型充電器FATEチャン・・・やべぇメッチャ欲しいッ!! でも禅君がそんなの嬉々として使ってるの見つけたら、嫉妬のあまりリインさんは魔王通り越して魔神化するんじゃありますまいか・・・((((;゚Д゚))))(海平?)
ダーさん>手直しよりも親話の方が進んでしまって、他に手が回らない状況ですwww(piguzam])
他のところに続きはうpしないんでしょうか?(ダーさん)
プロフェッサー.Yさん>俺だって欲しいっすよ(血涙)!!!(piguzam])
匿名希望さん>この作品のリインちゃんは誰もが畏れる最凶の戦乙女でございやすwww(piguzam])
匿名希望さん>冥王かも知れませんwww(piguzam])
げんぶさん>恐ッ!!?(piguzam])
置き型充電器FATEチャン…作ったとして商品化は無理だな。絶対売らないよ、あの親馬鹿さん。プレシアさんとフェイト本人、あと禅と…大まけにまけてなのはの分位の超限定生産だろうな。欲しいけど、ものごっつ欲しいけど!!!(プロフェッサー.Y)
StSでは聖王モード・ヴィヴィオ<高町なのは(空戦S+/一等空尉)「誰もが認める無敵のエース」だったはず……… うん、魔王だね(匿名希望)
ベルカの魔王リインフォースwww(匿名希望)
ライトさん>余裕でリインちゃんでしょう♪(piguzam])
SS4ゴジータとどっちが強いですか?(ライト)
氷屋さん>そして終わり際になったら「もうちょっと待ってね(はーと)」と囁いてくれるんですね、わかりまウボァ(鼻血)(piguzam])
置き型充電器FATEチャン・・・充電する時は「充電します」充電途中に外したら「まだ充電途中だよ」と寂しそうに言われたりとか状況によって色々喋ってくれるのなんてどうでしょうかプレシアs・・・だれかシャマル」さん呼んできて〜!鼻から大量に血を流して血の池に沈んでるよ、あぁもう親指立てていい笑顔してないで〜〜〜〜!(氷屋)
げんぶさん>禅は管理局には入りません…何故ならば…彼は遊び人の禅君だからwww日々女の子の尻を追っ掛けてはフェイトに追っ掛けられるwww(piguzam])
駄猫さん>ふっふっふ、まだ二期が終わっただけ…この先は空白期って事で、このPiguzam]、容赦せん!!(piguzam])
ふぅ、今回は砂糖を吐かずにすんだ(駄猫)
ダーさん>控えめがやはりちょうど良いんですかね?ってゆうか23,24,25話が濃すぎただけで、普通はそんなに糖分盛り込んでない……筈(piguzam])
これくらいの糖分だといい感じでしたw(ダーさん)
絶対零度さん>状況説明と今後の処遇書いてたら、糖分を削る他無かった……!!(血涙)でも泣かない。また増やすから(ゲス顔)(piguzam])
tiruno9さん>糖分の過剰摂取は体に毒ですよー?(ゲス顔)(piguzam])
こいしさん>まだまだこれからイベント盛り沢山ですからーこっからドンドンピッチ上げていきまーすwww(piguzam])
げんぶさん>フェイトちゃん愛の力www(piguzam])
匿名希望さん>この作品中、最強はリインちゃんで決まりっしょwww(piguzam])
匿名希望さん>某蛇さん風「 待 た せ た な 」(piguzam])
最近カフェオレがブラック・コーヒーの様に感じるんだが、なぜだろう。(tiruno9)
良かった…今回は砂糖を吐かない展開だった。これが前回みたいのだったら間違いなく吐いてた。もう電車の中で砂糖を吐きたくない。(ハラキリ)
桃色破壊光線を本人以上の威力で撃てるって事はガチで星を軽くぶっ壊すじゃないですかやだー(匿名希望)
待ってました! (匿名希望)
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