外史を駆ける鬼・IS編 第010話
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外史を駆ける鬼・IS編 第010話「力の在り方」

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重昌が束の研究所に帰ってきて3日後。

その間、彼は束の研究のサポートや、ディアに料理の基本を教え込むなど忙しく過ごし、あらためて旅立ちを迎える。

ディアは彼直伝の料理のレシピ本を貰い、束は最後の最後まで重昌が学園に帰ることに駄々をこねては、彼を困らせていた。

 

そして夕方。

彼が研究所を出たのは朝方であり、街に着いたのは夕方、ただ今は学園に続くモノレールに乗り静かに揺れている。

そして期間は夏休み中。

車内はガラガラに空いているので、堂々と車内の中央座席に腰を下ろすこともできる。

座席にはパンパンに膨らんだスーパーの袋数個と、足を大きく開き腕を組んでいる重昌、そして何故か床に正座させられているセシリアと鈴の姿である。

はたから見れば、彼は触れれば火傷では済まない程の様な威圧を放ち、二人を見下ろしている。

それに対し二人は震える余裕も無いほど体が硬直している。

その光景はまるで、『蛇に睨まれた蛙』と表現は軽すぎる。

『鬼も裸足で逃げ出す』と言えばいいのではないだろうか。

勿論そんなことわざはないのだが、今はそういう事を言いたい訳ではない。

何故このような状況に陥ったのであろうか。

 

少し時間を遡り重昌が学園に帰って来た所から話そう。

学園の事務室と職員室に帰還報告を済ませると、彼は新作料理の為の食材探しで街へ繰り出していた。

食材も揃えいざ帰るとなった時、彼の所持している携帯電話より千冬より連絡が入ってきた。

内容はセシリアと鈴の両名がウォーターランドというプールの娯楽レジャー施設でちょっとした問題を起こしたので、代わりに引き取りに行くことを言われた。

それぐらいであれば彼はこんなにも怒りはしないのだが、施設の職員に言われた内容が彼の気に触れた。

ウォーターランドのあるイベントに彼女らはタッグで参加。

そこで喧嘩をし、その最中にISを展開。

幸い怪我人は出なかったものの、施設内のプールは半壊、窓ガラスの一部も割れ、大会や施設は無茶苦茶となり、今に至る。

 

重昌「それで……何故私が怒っているのか、判るかな?」

 

張り詰めた空気の中、彼の小さく上げた声に、二人はわかり易くビクッと反応する。

数秒間、間を置いた後、鈴が答える。

 

鈴「し、重昌さんに……手間をかけさせたからでしょうか?」

 

それを聞くと重昌は一つため息を吐き、二人の前に両膝を折って座る。

 

重昌「そんな小さなことで、私は怒りやしない」

 

その一言を言い終わるとともに、彼は懐より鈴の前に鉄扇をゴトリと置く。

そして次は何か機械的な部品の数々を取り出すと、20秒程でそれをリボルバーマグナムにして今度はそれをセシリアの前に置く。

 

セシリア「あ、あの、重昌さん。これはいったい?」

 

いきなりそれぞれに武器を渡されて二人は途惑う。

 

重昌「それで喧嘩の続きをしろ」

 

セシリア「……え!?」

 

鈴「で、出来ません」

 

重昌「何故だ?それぞれの専用IS、((甲龍|シェンロン))とブルー・ティアーズ。扱うにあたって通常の近接武器と遠距離武器。それぞれのノウハウは判っているはずだ。死合ならまだしも、試合ならば問題あるまい」

 

セシリア「し、しかし――もし、誤っt」

 

重昌「そうだな。もし誤れば命はないな。だがISの武器に比べれば遥かに威力は低いぞ?」

 

鈴「で、でも……」

 

重昌「――なんだ?公共施設でIS喧嘩をするくせに、通常武器では出来ないのか?」

 

するとモノレールは目的の学園に着き、扉が開くと鉄扇と銃、そして買ってきた食材を拾い上げ――

 

重昌「付いて来い。"喧嘩"を教えてやる」

 

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彼は二人をIS専用アリーナへ連れて行く。

夕日は既に沈みかけ、少し薄暗くなったアリーナに3つの影が浮かび上がる。

 

重昌「それじゃあ、どんな方法でもいい。私にどの様な攻撃でも一発あてればいい。ISは使ってくれてはかまわない。許可など気にするな。これは"喧嘩"だからな」

 

気乗りのしない二人はISを展開し、鈴は切りかかり、セシリアは遠距離射撃で狙い撃つ。

重昌の実力を知っている二人は、生身の彼に本気でかかるが、鈴の攻撃は鉄扇で流すように受け止められ、セシリアの放つ玉の動きは重昌の放つ弾丸により軌道をそらされる。

彼は鈴の懐に潜り込み、下から上に蹴りあげる。

IS展開中、操縦者を覆っているバリアのおかげで彼女自身にダメージはないのだが、少し怯んだ隙に、重昌は彼女が使っている武器、((蒼天牙月|そうてんがげつ))を無理やり奪い取る。

彼は奪い取った武器に瞬時に自らのISに対応出来るようにハッキングし、それのみを終えると少し振り回して構える。

 

重昌「……お前ら。2対1で、なお私が生身だと思って勝てるつもりでいるか?死ぬ気でかかってこい。その慢心がお前らを殺す」

 

そして夕日が沈み始め、暗くなってきたアリーナに照明が照らされ始めた頃。

誰かが噂しアリーナの席には学園に残っていた少なき生徒がギャラリーとして観戦しており、中心で戦っている重昌は、まだ余裕があるように涼しい顔をしている。

それに対し鈴とセシリアは誰が見ても疲弊しボロボロとなっており、セシリアにいたっては自身のISに備わっている銃の弾を全て使いきり、充電にも時間はかかるので、今はショートブレードで戦っている状態である。

最初はどっちが勝つ方に賭けるかなどのお決まりの声もあり倍率1;9で二人組みが勝つであったが、今は周りも重昌と戦っている二人が気の毒に思えてしかたがなかった。

やがて噂を聞きつけ、千冬、真耶そして何故か一夏まで駆けつける。

 

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真耶「三人とも何をやっているのですか!?影村君はともかく、一般生徒が教員の許可なくISを展開させるのは認められていません。今すぐ装甲を解除しなさい」

 

教師の駆け付けにより彼女たち二人は安堵のタメ息を漏らすが彼はそれを許さなかった。

隙を見つけたとばかりに二人におそいかかり、それぞれのISにダメージ与える。

これにより鈴たちのISのエネルギーはジリ貧状態に陥り、ISから警告のアラーム音がなる。

 

重昌「いつ喧嘩を終えたと言った。周りなど関係ない。規則など関係ない。お前らが終える条件は私に一撃を与える事だからな」

 

真耶は重昌に何かを叫び続けているが、彼はそれを気にもせずに蒼天牙月を振り下ろす。

しかしその一撃は、急に止められる。

アリーナの選手入り口より、一夏が百式を展開させ、叫びながら突っ込んで来たからだ。

彼は蒼天牙月を突っ込んでくる一夏に回転させながら投げつけ、一夏の動きはその衝撃で一時的に停止する。

 

重昌「一夏君。君はこの場に呼んだ覚えはないのだが?」

 

一夏「重昌さん。何故このような事を?」

 

重昌「――何故?自らに与えられた力も制御出来ない者達に、"喧嘩"とはどういうものかを教えているのだが?」

 

一夏「それなら重昌さんの勝ちでいいじゃないですか!?何故こんな風になるまでやる必要が!!?」

 

重昌「そういうわけにもいかない。この喧嘩の終焉は私に一撃を与える事なのだから。もし邪魔をするのであれば――」

 

彼は下で寝転がってしまっているそれぞれ二人の首を掴み……

 

重昌「遠慮なく二人を弾除けに使うからそのつもりでな。判ればISの展開を解いてもらおう」

 

一夏は奥歯を噛み締めながら、言うとおりに百式の展開を解除する。

それと同時に、彼は二人を掴んだまま互いをぶつけ合わせ、それぞれを適当に放り投げる。

そして遂にはISを展開していた二人は、エネルギー切れで装甲が微粒子に変わりISスーツのみの状態になる。

倒れている二人に彼は剣道の竹刀を放り投げ「立って戦え」と((煽|あお))る。

 

鈴「……もう無理です。許してください」

 

セシリア「わ、ワタクシ達が悪かったですわ。お願いですから……」

 

重昌「許す?別に私は怒っていないぞ。それに君たちは『悪かった』と言うが、具体的に何が悪いのだ?君たちは正しいと思いISを展開し、それも((公共|こうきょう))、さらには沢山の一般人がいる中で"喧嘩"をしたのであろう?いいよなぁ、力があるものは。自身の思うままにその力を振舞えるのだから。そこで"巻き込まれる者"のことなども気にもしないで」

 

彼の強調したその一言で、頭のいい二人は気がついた。

いや、思ったのだ。

あの時はバルーンの破裂の音などで、自らが置かれている状況に気がつくことが出来たが、誤ればホントに死人が出かねない事に。

――そして、彼が車内で言った「誤れば」の意味も……

いつもは学園内でISでの喧嘩が始まった時、止めに来た重昌によく言われていた。

「ISはおもちゃではない。そして、国代表の肩書きは大衆を満足させるための象徴ではない。ISは兵器であり、候補生と言えどISと言う名の"兵器を保持する者”としては、万が一ということはあってはならない」っと常日頃から言われていたのを思い出していた。

こんなことはIS教科書の最初の方にも似たようなことが書いてある基礎の基礎。

代表候補になる為の講義の際にも、何度も言わされウンザリしていたのだが、今になってようやくその真実に気付いたようで、自らが犯した行いに、重昌が何故怒っているのかが理解できたようだ。

 

重昌「ISはおもちゃではない。そして、国代表の肩書きは大衆を満足させるための象徴ではない。ISは兵器であり、候補生と言えどISと言う名の"兵器を保持する者”としては、万が一ということはあってはならない。そう……万が一も――」

 

彼はセシリアの首を掴み拾いあげる。

彼女は抵抗する様に重昌の腕を両手で掴むが、そこに握力は入っていない。

 

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重昌「痛いか?苦しいか?問題なかろう。死には至らないようにはしている。大丈夫だろう?人はこのぐらいでは"死にはしない"。だがISで軽く首を殴られるだけでどうなるだろうな?」

 

そう話しながらも、竹刀に手を伸ばそうとしていた鈴の手を踏みつけて話を進める。

 

重昌「私が何故ISを展開しなかったか、判るか?………怒りのあまりに、二人を殺しかねないからな。……あぁ、訂正しよう。確かに私は怒っている。そう、君たちの言うとおり――俺が間違っていたな!」

 

鈴を踏みつける足は彼女の胸に行き、セシリアの首を締める手はよりいっそう強まる。

アリーナの客席にいる生徒達も何人かは、重昌から流れてきた闘気で恐怖し、真耶は涙目になり、傍にいる一夏ですら体が硬直したままである。

 

千冬「もういいだろ、影村」

 

その状況に間をさしたのは千冬である。

セシリアを掴んでいる彼の右手を、いつも束にかけているアイアンクロー以上の力で握るが、それでもビクともしないので、千冬の額にも冷や汗が流れる。

やがて彼は右手を離し、踏みつけている足もどかせる。

今日買い込んだ膨れ上がったスーパーの袋を持って、重昌はアリーナを後にした。

 

千冬「……織斑。((鳳|ファン))とオルコットを医務室に運ぶ。手伝え」

 

姉にそう急かされた一夏は少し曖昧な返事で慌てて答え、倒れている鈴を抱かかえ、千冬はセシリアを抱かかえる。

 

千冬【……とっさに止めに入ったが、果たしてISの無い今の私に、本気を出した奴を止められたであろうか?いや、ISがあっても、恐らく怪我は覚悟せねばなるまい。一体奴の実力はどれほどだというのだ?】

 

翌日。

鈴とセシリアは身体数箇所の打撲、全治1週間ちょっとで済んだ。

攻撃が全て寸でのところで手加減されていたおかげである。

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二人は2、3日医務室で安静となった。

2日目の3時頃。

重昌はお茶とケーキを持って二人の見舞いに来た。

二人はお茶を入れる彼に何と話しかければ良いかも判らず、一緒に出された美味しそうなケーキも、何故か手が付けれないでいたが、彼の「食え」との一言で、反射的に体が動きケーキを頬張る。

すると次の瞬間衝撃が走る。

それは今((流行|はやり))の洋菓子店"@クルーズ"の味。

そこのパフェは一個2,500円と少々お高めで、さらに2ランク上の夏限定のケーキは、値段は4倍の10,000円。

その様な破格でも販売30分で完売という幻のケーキなのである。

 

重昌「美味いか?少し美味かったので作ってみたのだが――」

 

二人「「作った!?」」

 

重昌「まぁ、そんな些細な事はどうでもいい。君たちのことだ。夜も碌に寝ずに、いい訳やら懺悔の言葉やら考えていたのだろう?目の下にクマが出来てるし」

 

そのことを指摘されて、二人は改めて窓ガラスに映った自分の顔を確かめると、目は充血して目の下に真っ黒なクマがある事に気付く。

 

重昌「言葉など意味が無い。懺悔もいらない。ただ自分が犯しそうになった事の重大さを、心に刻みこんでくれれば。私たちはもう話をした。何かがある訳でもないが一緒に集まる関係にもなった。千雨、一夏君、箒ちゃん、シャルロットちゃん、ラウラちゃん、そしてお前たちが間違いを起こしそうになれば、何度だって判らせてやる。殴って引きずり回してでも、悟るまで、何度でも何度でも。何故なら仲間だからな」

 

そういい終わると彼は座っている椅子から立ち上がり、部屋を出て行こうとする。

 

重昌「――そうだ。来週、一夏君は久しぶりに自宅に帰省するらしい。……出し抜かれるなよ」

 

ニヤリと笑い終えると、規則正しいドアの音と共に彼は部屋を出て行った。

出て行くと同時に、先程の説教で二人は泣きそうになっていたことも忘れ、どういう風にして他のライバルを出し抜くか考えていた。

 

説明
こんちゃッス、お久しぶりです。
ついに来ましたねIS8巻発売日。
作者さんが首になってから、もう見ることが出来ないのかと絶望していましたが、ほんとによかったですww
もう見ることが出来ないと言えば、ヤマグチノボルさん……ご冥福をお祈りします。

さて、今回の話ですが、原作ではセシリアと鈴がプールで一悶着を起こした話をネタにしています。
実際、プールでIS展開して暴れたら普通は死人が出ますが、そこは流石作者さん、ギャグで流していますが、私はちょっとシリアスな感じでまとめて見ました。
それではどうぞ〜。
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タグ
IS インフィニット・ストラトス おじさん恐いでしょう 重昌 セシリア  一夏 千冬 

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