魔法少女リリカルなのは 四天王始めました |
十二月になった。そろそろ闇の書事件が本格的に始まる頃だ。
こっちは既に仕込みは終わっているので後は闇の書が完成するのを待つだけになっている。
猫は洗脳してこっちの手駒として情報収集と守護騎士の援護を命じている。抜かりはない。守護騎士の監視はヴァルドとレオンが組んでやっているし、その護衛をシアに任せてあり基本的に問題はない。
「さて……もうすぐだ」
俺が窓越しに空を見上げながらそう言うとリゼットが近寄ってきて俺の隣に立つ。
「そうね……あっという間ね」
リゼットも窓越しに空を見上げる。
空は雲一つ無く晴れ渡っていたがこれから起こるであろうことを考えるとすぐに荒れるなと思った。
既に幾人もの違法魔導師がリンカーコアから魔力を収集された状態で発見されているのだ。もうそろそろ地球で事件が起きても不思議じゃない。
こう言った情報は猫から流されてくる。なので犯人についても既に分かっている。
まあ、分かっていると言っても守護騎士達なのだが……。
それよりも今は……。
「リゼット……血貰うね」
「え? ちょ、待っ……っ!」
リゼットが返事をする前に俺はリゼットの後ろに回り込んで、首に噛みついた。
「……ごちそうさま」
「……せ、せめて……私が許可してからにして欲しいのだけれど」
「あー、うん……善処する」
そう言いながら貧血ぎみでフラフラしているリゼットを抱き抱えてソファーに運び、寝かせる。
「レイン……血が付いたままよ」
「あ? 本当だ」
リゼットに指摘され、俺は手の甲で口元を拭うと少しばかり血が付着した。
(リゼット、レイン……鉄槌の騎士が高町なのはを襲撃した)
手に付いた血を落とそうと思い洗面所に向かっているところでヴァルドから念話がかかってきた。
(了解。そのままバレないように監視を続けてくれ、もし見つかって戦闘になったら呼べ。そうなったらすぐに向かう)
(……それにいざとなったら私が広域殲滅魔法を使って守護騎士を撤退させるから安心して)
(分かった。監視を続ける。何かあればすぐに連絡する)
念話が終ると俺は洗面所に向かい、顔を洗う。そして、いつでも動けるように準備を整えておく。
それからしばらくすると再びヴァルドから念話がかかってきた。
(見つかった。 湖の騎士の探索能力を甘く見ていた。現在湖の騎士とレオン、俺は守護獣と交戦中)
守護獣……ザフィーラか……。
(なのはは撃墜されたのか?)
(ああ、鉄槌の騎士に撃墜された。今はユーノが鉄槌の騎士の相手をしている。烈火の将はフェイトとアリシアの二人を相手にしており、転生者数名がプレシアとアルフの二人を相手している)
(なるほど……他には何かあるか?)
(特に無い。イレギュラーは猫が相手をする手筈になっているからな)
(分かった……これからそっちに行くから)
(出来るだけ早く来てもらえると助かる)
(了解、すぐに行く)
俺は念話を切ると、デバイスを起動させてリゼットの元に向かう。
「連絡があったから行ってくるよ。一応、部分覚醒までは使用しても大丈夫かな」
これは結構大事なことなのだ。部分覚醒が使えるだけで戦闘方法の幅が大きく広がるからだ。
「……ん、良いわよ。覚醒体にさえならないのであれば問題ないわ……だから、遠慮無くやってきなさい」
俺は気だるげな声で言うリゼットに無言で頷くとベランダから外に飛び出して結界の張られている場所に向かって全速力で駆け出す。
しばらくすると結界が見えたのでデバイスに魔力を込めてそのまま突貫する。
一瞬の抵抗の後、結界に人一人がやっと入れる大きさの穴が開きそこから結果い内に侵入する。
一番近くのビルの屋上に上がるり周囲を見渡す。
「な!? テメェは!」
「何でここに?」
俺の存在に一番早く気がついたのはヴィータとユーノだった。
「久しぶりだね」
俺は不適に笑いながらデバイスを片手にヴィータとユーノに挨拶する。勿論、この間にヴァルドとレオンの位置を探しているが。それにしてもシアはどうしたのだろうか? ヴァルド達の護衛の筈なのだが……。
とりあえず、ヴァルド達に直接聞けば分かるだろうし。さっさと探そう。
「良かった。レイン彼女を捕らえるのを手伝って」
「なっ! 上等じゃねか……まとめて相手にしてやるよ」
ユーノの発言にヴィータが気合い十分に返す。
「断る!こっちは家族を迎えに来たんだからそんなのに時間を費やしてる暇は無い」
ユーノの要請をすぐに断り俺はこの場所から移動する。
ユーノが待ってと言ってくるがそれを無視してバインドを掛け合っている金髪の女性とレオンの元に向かう。
「レオン、迎えに来たよ」
俺はレオンに呼び掛け、金髪の女性ことシャマルの後ろに回り込んでBJの襟を掴んでシグナムに向けて投げ飛ばす。
キャアアアアァァァ……と悲鳴を上げながら飛んでいくシャマルを無視してレオンを担ぐとヴァルドの方に向かう。
まあ、ヴァルドがいる方向はシグナムがいる方の向こう側なんだけどね。
「貴様か……」
「あっ!レイン!」
「何でここに?」
「あなたは……」
四人から視線を向けられる。
「家族を迎えに来ただけだから邪魔しないでくれないかな?」
俺がそう言うとシグナムがデバイスを俺の方に向けて構える。
「邪魔すると言ったら?」
「此処で墜ちてもらう」
確かめるように言うシグナムに俺は少しばかり殺気を混ぜて答えた。
「……行くと良い」
「……そうさせてもらうよ」
構えを解き道を開けるシグナム。そこを通り俺はヴァルドがいる方に再び駆け出す。
その後ろでは……。
「さて、続きといこうか」
シグナムとフェイト、アリシアが再び戦いを始めた。
金髪の女性はその場から離れてビルの屋上で戦況を見る。片手には一冊の本を持ちながら……。
俺が丁度ヴァルドの姿を確認したタイミングにヴァルドとザフィーラの間に一筋の光の柱が立ち登った。
両者がそれにより動きを止めている間に俺はヴァルドの襟を掴んでこの場から離れて辺りを見渡せる場所に降り立つ。
「ヴァルド……シアは?」
「……あ、ああ、シアは−−」
「余がどうかしたか?」
ヴァルドが答えようとした時にシアが上空から降りてきた。
「いや、護衛の筈なのにいなかったからどうしたのかなって思ってね……それで何があったの?」
「ちょっと変な奴と戦っててな」
変な奴?
「特徴は?」
俺がそう訊くとシアはイライラした様子で話し出した。
「全身を赤と黒の布で覆われた人型の軟体生物だ」
何それ? 確かに変な奴だけど……人型の軟体生物って何! それが一番気になるんだけど!
「あああっ! 思い出すだけでイライラする!!余の砲撃をよくわからない動きで回避するし、ヌメヌメした液体で攻撃してくるし、最後には黒い靄になっていなくなったんだぞ!?」
「あ〜、とりあえず落ち着いてな?」
俺はシアを宥めながらシアが相手をしていた存在について考える。
原作には登場していない謎の存在か……まさかな……俺はふと浮かんだ予感を頭から振り払うと三人に話しかける。
「全員揃ったし帰るか」
「ちょっと待ってくれないだろうか」
三人が頷いたので帰ろうとしたタイミングに話しかけられた。
「ハァ……何の用?」
うんざりとした声で返事をするとその人物は、
「いや……そんな反応にしなくても良いのではないか?」
とショックを受けた様子で答えた。
いや、実際に凄く面倒なんだけど。
「まあ、良いや……それで、もう一度訊くけど何の用……クロノ」
「事情聴取となのは達を助けて欲しくてね。……それで頼めるかい?」
「……俺だけで良いのなら」
俺がそう言うとクロノは少し悩んでから口を開いた。
「それで良いよ」
「……と言うことなので先に戻ってて」
俺はヴァルド達の方に視線を向けてそう言う。
「なら先に戻ってる」
「了解。必要ないと思うけど気をつけてね」
「早く戻ってくるだぞ」
「了解」
俺は三人に返事を返すとクロノの隣に行く。
「僕はユーノを助けに行くからレインはフェイトとアリシアを頼む」
「分かった」
そして俺はフェイトとアリシアの援護に向かった。
デバイスを振るい魔力刃をフェイトとシグナムの間に飛ばす。
「フェイト、アリシア、クロノの頼まれたから助けて上げる」
「……三対一か」
ジグナムがデバイスを構える。だけど三対一じゃないんだなぁこれが。
「いいや違うよ……一対一だから」
「何?」
「「へ?」」
俺の言葉に疑問符を浮かべるアリシアとフェイトを尾てい骨から生やした尻尾で捕まえる。そしてプレシアがいる方へ投げ飛ばす。
フェイトは悲鳴を上げながら飛んでいくがアリシアは「覚えてろよぉぉぉぉ!」と叫んでいた。
「よし! 後は……」
呆然としているジグナムの襟を掴む。
「っ! まさか……」
「それじゃ行ってこーい!!」
例のごとくジグナムをクロノに向けて投げ飛ばした。
ふぅ……いい仕事した。後は転生者達を適当に撃墜して帰るか。
「行かせん!」
ザフィーラが来たよ。しかもすっごく警戒されてるし、どうしたもんかな……。
仕方ない……クロノ達に押し付けよう。
そうと決まれば早速やりますか。
「通らせてもらうよ」
片手を弓状に変化させて転生者達に向けて矢を放つ。魔改造された影響で覚醒体じゃないと出来なかった誘導が出来るのでザフィーラを避けて矢は高速で目標に向けて進んでいく。
「オオォォォォ!」
ザフィーラが拳を構え突っ込んで来たのでこちらも拳で反撃する。
「ハァァァァ! ……なんちゃって」
と、見せかけて尻尾でザフィーラを捕まえてクロノ達にぶん投げる。そのまま任せるのも可哀想なのでデバイスから魔力刃を数発放ってザフィーラを追撃しておく。
まあ、あまり魔力を込めていないからダメージはないだろう……ただ、余計に勢いよく飛んでいくだろうけど。
よし! 事情聴取なんて知ったこっちゃない! 少しばかり手伝ったんだし帰るか。
デバイスの限界を無視して特大の魔力刃を生成して縦に結界を両断する。
「あ……壊れた」
プスプスと煙を上げ、バチバチと火花を散らしてその数秒後小さく爆発した。
この爆発で手に軽く火傷を負ったが再生力が高いのですぐさま治った。
俺に唖然とした様子で視線を向けられているのを感じるがそれを無視して家に帰る。勿論、壊れたデバイスはポイ捨て。
「……嘘」
家に戻った俺を待っていたのは柩型の水晶に閉じ込められて眠っているリゼット。
そして、ハイライトの消えた瞳で感情を感じさせない人形のようになっている、ヴァルド、レオン、シアの三人だった。
慌てて三人に近づこうとするが、何者かの気配を背後から感じたので片手を弓状に変化させて矢を放った。
だがそれは弾かれ完全に俺が振り向くとしんじられない光景が目に入った。
「……俺?」
俺にそっくりな人物がいた。そいつは一冊の本を取り出す。
「な! しまっ……」
不味いと思い動こうとしたが時すでに遅く俺はその本に吸い込まれてしまった。
俺が意識を失う前に見た最後の光景は俺にそっくりな存在がニヤリと悪どい笑みを浮かべた瞬間であった。
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A's編 1話 予期せぬ出来事 | ||
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