スカーレットナックル Lion プロローグ |
3年前、朝日市某所にあるプロレスジム、その中は今、異様な光景が繰り広げられていた。
床には体中に骨折や内臓破壊などの大怪我を負った男子レスラー達がうめき声を上げながら倒れ、リングの上では30代半ばのシアン色のスポーツ刈りのプロレスラーが、血塗れになりながら膝を付いて息を荒げている。そして彼の目の前には……黒い拳法着に狐の面を付けた男が立っていた。
「最強を自負するプロレスラーも、この程度か」
「何を……!」
プロレスラーはそのまま立ち上がり顔についていた自分の鼻血を拭き取り、そして狐の面の男に猛突進してエルボータックルを敢行するが、ヒョイと横に避けられてしまう。そして狐の面の男はプロレスラーの腹部に強烈な膝蹴りを叩きこんだ。
「遅い」
「がふっ……!」
プロレスラーはそのままマットの上にうつ伏せに倒れる。狐の面の男はそのまま右手を貫手の形にし、爪先を彼の背中に突き刺そうとする。その時……。
「お父さん!!」
ジムの中に突然、シアンの長い髪を黄色いリボンで結んだ、黒と青のオッドアイの少女が駆けこんできた。
「み、未希……! 来るな……!」
「何これ!? 皆倒れて……!」
ジムの中の血生臭い光景に戦慄する少女……ミキ。すると狐の面の男はミキの方をじろりと見る。
「ほう、騒ぎを起こされては困るな……消すか」
「!!」
狐の面の男はそう言ってミキの方へ向かおうと歩き出す。
「うおおおおお!!
すると突然、プロレスラーが飛び起き、狐の面の男を背後から羽交い絞めにした。
「未希! 逃げるんだ!」
「でも!」
「この……くたばり損ないが!」
すると狐の面の男は、3mはある天井まで頭をぶつける寸前まで高く飛び上がり、プロレスラーの羽交い絞めから脱出する。そして着地と同時にプロレスラーを両手の掌打で吹き飛ばした。
「ぐぁ!」
「お父さん!」
「これで……トドメだ」
狐の面の男はゴウッと足元から凄まじい衝撃波を放ち、リングロープでバウンドしたプロレスラーに消えるようなスピードで距離を詰める。そしてその刹那……プロレスラーの体に突きや蹴りを凄まじいスピードで叩きこんでいく。
「がああああああああ……!」
地獄のような集中攻撃を全身に受け、プロレスラーはそのまま膝を付く。すると狐の面の男は、彼の胸板にぴんと伸ばした右手中指と人差し指を突き当てる。
「弾けろ」
次の瞬間、ドスンという何かが突き刺さる音と共に、プロレスラーの背中からブシューッと赤い血が噴水のように噴出した。
「げぁ……!」
「雑魚が」
「お父さぁぁぁぁぁぁぁん!!」
崩れゆくプロレスラー……自分の父に駆け寄るミキ、その時外の方からパトカーのサイレンの音が鳴り響いた。
「チッ、ここまでか……命拾いしたな娘」
そう言うと狐の面の男は駆け出し、窓ガラスを突き破ってプロレスジムから逃げ出した。
しかしミキはその様子に目もくれず、ピクリともせず血だまりに沈む自分の父の体を揺さぶっていた。
「……」
「お父さん! 目を開けてお父さん! お父さぁぁぁぁぁん!!」
☆ ☆ ☆
―――私の名前は五十嵐未希! “未”来に“希”望と書いてミキって読みます! お父さんは日本人でお母さんはアメリカ人、二人共それぞれの国で最強と謳われた有名なプロレスラーで、私も二人の様なすっごく強いプロレスラーになるのが夢です! ただお母さんは何も言わないんですけど、お父さんはとある理由により私がプロレスラーになるのは反対しています。だから今は二人の目を盗んでこっそり河原とかで特訓したり、ビデオや本で技を覚えたりと独学で色々やっています!
そして今日も、いつもの河原ですっごく強いプロレスラーになる為の特訓中です!!
☆ ☆ ☆
その日、ミキはいつものように黄色いリボンでシアンのロングヘアーをポニーテールで纏め、顔にはオッドアイを隠すために牛乳瓶の底のようなレンズのメガネ、服装は黒いスパッツに赤いジャージ、そして青いラインが入ったスポーツシューズといった格好で、朝日川の河川敷をランニングしていた。ちなみに腰には乗用車のタイヤを4つ結んだロープが巻かれており、かなりの重量である筈にも係わらず鼻歌交じりに一定のスピードを保ったまま走り続けていた。
「ふーふーふーん、ふーふー、ふーふーん」
ちなみに鼻歌の原曲は燃える闘魂でお馴染みの某有名プロレスラーの入場曲である。
彼女は持久力アップのためのランニングを数十キロこなした後、屯田橋の橋の下に降りて行った。橋の下には様々な重量のダンベルやバーベル、ボロボロのサンドバックにボロボロの体操用マット、そして車の交通事故の実験で使われるダミー人形が置いてあった。すべてミキがゴミ処理場で見つけてきた練習器具である。
そしてミキは背中に背負っていたリュックからノートを一冊取り出し、ペラペラとめくり始めた。
「えっと、今日はジャーマンスープレックス千回と……スクワットの数増やしてみようかな? ムーンサルト繰り出した時正確に着地できるようになりたいし」
ブツブツ言いながら今日のトレーニングメニューをどうするか色々思案するミキ。
その時、彼女は遠くの方で何やら騒がしい声がしてくる事に気が付いた。
「ん? 何だろ?」
気になったミキは騒ぎがする方向へ行ってみる。するとそこには複数の派手な装飾のバイクと、白い特攻服に身を包み、竹刀や鎖を持って武装したレディースが、チェリー型の髪留めで黒い髪を後頭部にまとめている、ピンクのワンピース姿の5歳ぐらいの女の子を取り囲んでいた。
「こんガキャア! 私のバイクぶっ倒しやがって!」
「ふえぇ……! ごめんなさい……!」
怒りの形相で睨むパーマヘアのクマの様な巨大な体型のレディースを前に、女の子は目に涙を滲ませて怯えていた。しかしレディース達の怒りは収まる事なく、女の子にズイズイと迫って行く。
「ったくよぉ! これから奴等と決闘だってのに水差しやがって! 総長! このガキ川に沈めちゃいましょうか!?」
「だな……このガキに世間の厳しさってもんを体に叩きこんでやろう」
そう言ってパーマのレディースは女の子に掴みかかろうとする。
「 待 ち な さ い !! 」
「!? 誰だ!?」
その時、レディースの集団にミキが突っ込んでいき、彼女はそのままレディース達の頭上を飛び越え、女の子を守るようにパーマのレディースの前に立ちはだるように着地した。
「わっとと……あいた!?」
しかし着地に失敗しバランスを崩し、そのまま尻餅をついてしまう。
「な、なんだテメエは!?
「あいたたた……こんな小さな女の子を集団で苛めるなんて、そんなの絶対駄目です!」
突然現れて驚くべき身体能力を見せたミキに戸惑うレディース達に対し、ミキは強打した尻を摩りながらずれたメガネの位置を調整した後、両腕をバッと広げてもっともな事を叫んだ。
「はん! このガキが私のバイクを倒したから躾してやるんだよ!」
「バイク?」
ミキは恐らく目の前のパーマのレディースのものであろう、派手な装飾を施したバイクを見る。バイクは昨日降った雨の影響でぬかるんだ地面の上に停車されており、そのまま倒れたようにも見える。
「あんなところに置いたら倒れやすくなるのは当然でしょーが!!!」
「ああん? 何だお前私達にケチ付けようってか?」
するとミキはふふんと鼻を鳴らして両腕を組んで言い放った。
「お父さんが言っていました! “弱い者を虐めて勝ち誇るようなカッコ悪い人間にはなるな”って! 今の貴方達……すっごくカッコ悪いです!」
「んだとお!?」
「てめえ!!」
ミキの挑発に対し周りのレディース達は怒りの声を上げる。今にもミキと女の子に襲い掛かってきそうだ。
それを見た女の子は、咄嗟にミキの背後に身を隠した。
「お姉ちゃん……」
「大丈夫! アナタはちょっと離れていてくださいね! 危ないから!」
女の子はコクンと頷くと、走って近くの草むらに身を隠した。そしてミキは怒りに燃えるレディース達と対峙する。
一方レディース達は武器を構えて戦闘準備を済ませていた。
「テメエコラ……私達“麗陣虞覇亜人”に目を付けられて生きて帰れると思うなよ!!」
「おー? バトルロワイヤルマッチですか! 受けて立ちます!」
ミキは大勢の人間から向けられる敵意に臆することなく、ぐんぐんと猛スピードでスクワットし、ウォーミングアップを済ませ、そのまま身構えた。
それを合図にレディース達は一斉にミキに襲い掛かって来た。
「死ねぇ!!」
まず先頭のマスクを付けたレディースがミキに向かって竹刀を振り降ろす。
「ふんっ!」
対してミキは体を捻って避け、体を戻す勢いで無防備になったレディースの首目掛けてラリアットを叩きこんだ。
「ごえ!!?」
レディースはそのまま後ろにいた仲間達を巻き込んで数メートル吹き飛ばされた。
「こ、こいつ!!」
次に髪を金髪に染めたそばかすが特徴的なレディースが背後からミキに掴みかかってくる。対してミキはそれをしゃがんで避け、そのまま立ち上がる際頭上のそばかす顔のレディースの腹部を肩に乗せるように持ち上げた。
「うわっ!? うわっ!?」
「よっこらしょっと!」
「うげっ!」
そしてそのまま股に手を差し込んだ後、地面に勢いよく叩きつけて昏倒させる。プロレスの代表的な技、ボディスラムである。
「て、てめ……!」
「次はこっちから行きますよー!」
ミキはそのまま、少し身長が高いレディースに向かって猛ダッシュし、低い姿勢でタックルし相手を転ばせる。
「おまっ!?」
「行きますよー!!」
そして背の高いレディースの両足を自分の両脇に抱え込むミキ、それを見た他のレディース達は一斉にミキに襲い掛かって来た。
「今だ! もたついているうちにやっちま……!」
「ふんにゅうううううううう!!!」
「「「ほげえええええ!!!?」」」
ミキはそのまま立ち上がると、背の高いレディースをグルングルンと振り回した。彼女の得意技の一つであるジャイアントスイングである。ミキは回転しながら迫ってくるレディース達を次々と蹴散らしていく。
「あわっ、あわっ、降ろして……!」
「ほい!」
「ひええええええ!?」
そして腕を離して、背の高いレディースをリーダー格であるパーマのレディースに向けて投げ飛ばした。
「ふんっ!」
「おごっ!?」
対してパーマのレディースは飛んできた自分の仲間を振り降ろした張り手で地面に叩きつけた。
「やるなアンタ……前哨戦としてはまずまずじゃないか!」
「私の戦いに前座はありません! 常にメインイベントで全力です!!」
「言ってろおおおお!!!!」
パーマのレディースは猛スピードでミキに突進して行く。対してミキは避けようとはせず、腰をぐっと落として身構えた。そして……パーマのレディースのタックルを正面から受け、後ろに吹き飛ばされた。
「がっはっはっは! どうだ私のパワーは!?」
「っ……!」
ミキはすぐさま起き上がろうとする……が、パーマのレディースはすぐさま飛び上がり、地面に伏せるミキにフライングボディプレスを敢行する。
「死ねええええええ!!!」
「かはっ!!」
推定100キロはありそうなレディースの重量を全身に受けて、ミキは苦痛に顔を歪める。
「ひゅう! 流石総長だ!」
「そのままやっちまってください!」
「はっはっは! これでトドメだあああああ!!!」
パーマのレディースはそのまま起き上がると、仰向けに倒れるミキの顔目掛けて自分の足の裏を叩きこもうとする。が……。
「隙あり!」
「ぐえ!?」
突然ミキがギンッと目を見開いたかと思うと、グルンと体を転がしレディースの踏みつけを回避し、そのまま地面に手を付けて逆立ちの体勢のままレディースの顎に強力な両足のキックを叩きこんだ。
「ぐあああ……!」
強烈な奇襲攻撃にレディースの体が大きく揺れる。一方くるっと一回転して起き上がったミキは間髪入れず右手の空手チョップを1,2,3とレディースの胸部に叩き込んだ。
「ごへ……!」
「よん!!」
そしてそのまま左手の地獄突きをレディースの喉に叩き込んだ。レディースは大きく体を丸めこんで咳き込む。ミキはそのまま後ろに回り込んでレディースの体をガッチリと両腕でホールドした。
「行きます! ふんにゅうううううううう!!」
「うわっ!? うわわわわ!!?」
レディースの巨体がゆっくりと持ち上がり、彼女は空に浮かぶ雲を見て何故か昔乗ったジェットコースターの事を思い出していた。
(ああ、そう言えばあれもこんな感じだった、ゆっくりゆっくり上がって行って……)
「だあああああああ!!!」
「そしてそのまま地面に急降下あああああああが!!」
ミキはそのままブリッジの体勢で体を仰け反らせ、レディースの体を地面に叩きつけた。彼女の得意技の一つであるジャーマンスープレックスである。パーマのレディースは自分の重い体重を上半身すべてに受ける形になり、凄まじいダメージをうけてそのまま昏倒した。
「よっしゃー! 私の勝ちー!!」
ミキはそのまま起き上がり、両腕を天に突き出して勝鬨を上げる。
「そ、総長がやられた!?」
「ウ、ウソだろ……総長無しでどうやってあの化け物に勝てってんだ……!」
それを見た他のレディース達は、何かに怯えた様子で狼狽えていた。そして彼女達が出した結論は……。
「逃げるか!」
「そうだな!」
総長や気絶している他の仲間達を置いて逃げる、だった。
「あやや……逃げちゃいましたね。もう大丈夫ですよー」
ミキは逃げるレディース達を追う事はせず、草むらに隠れていた少女に声を掛けた。すると少女は目に尊敬の念を込めてミキに駆け寄って来た。
「お姉ちゃんすごく強いね! もしかして“プリティブラッディ”!?」
「プリ……何?」
初めて聞く単語に首を傾げるミキ。すると少女は半ば興奮気味に語り始めた。
「あのね! プリティブラッディはプリティルビーとプリティエメラルドとプリティサファイアのライバルなんだけどね! すごく強いし本当は優しいの! それでね! 最後は愛した男の子を庇って死んじゃうんだけど神様がブラッディに命を与えてプリティホワイティに生まれ変わらせてね……!」
「う、うーん……私特撮しか見ないんでそっち方面のはちょっと解らないです……」
少女の勢いに普段からハイテンションのミキも少し圧倒される。そして彼女はある事を思い出し、目の前の少女に質問する。
「そ、そうだ! 貴方のお名前は? どうしてこんな所に一人で?」
「私? 私手塚一葉! 私ね……ママに言われてここに隠れていたの」
「隠れていた?」
一葉と名乗った少女の話に、再び首を傾げるミキ。
「見つけたで、い・ち・は・ちゅわ〜ん」
その時、土手の上から派手な装飾品に身を包んだサングラスにスーツ姿という格好の男を先頭に、何人ものヤクザ風の男達が降りてきた。
「やっ……!」
その男達の姿を見るや否や、怯えた様子ですぐさまミキの背中に隠れる一葉。
それを見たミキは、目の前に現れた男達がこの少女に害を成す存在だという事を見抜き、彼女を守るように戦闘態勢を取る。
「どちら様ですか貴方達は!?」
「どちら様って……その子の飼い主や、その子はワイらの大事な大事な商品やからなあ!」
派手な装飾の男は下衆な笑みを浮かべてじりじりとミキ達に近寄って行く。
「やぁ! おじちゃん嫌い! 私外国に行くのやぁ!」
「うーん、聞き分けのない子やな……いう事聞かへんと……」
そう言って派手な装飾の男は右に一歩ずれる。するとそこには白衣の女性が数人の男に取り押さえられながら大暴れしていた。
「ぬあああああ!! 放せこのアホ共! 一葉逃げろおおお!!」
「ちょ! 暴れるなこのアマ……いでっ!?」
取り押さえていた男の一人が女性に頬を引っ掻かれて涙目になる。そんな女性を見て一葉は叫んだ。
「ママ!」
「あら、貴方のお母さんですか、随分アグレッシブな方ですねえ」
「ふっふっふ……お前のオカンがどうなってもええんか?」
派手な装飾の男の言葉に、一葉は俯いて黙り込んでしまう。すると取り押さえられていた女性が大声で叫んだ。
「一葉逃げろ! 母さんはどうなってもいいから!」
「ええいうるさいわこのアマ!」
「がぁ!」
ついに堪忍袋が切れた派手な装飾の男は女性の顔を殴りつける。すると一葉は慌ててミキの背中から出てきた。
「やめて! 私おじちゃんと行くからママに酷い事しないでぇ!」
「一葉! 福澤あああああ!!」
「ふふふ……いい子や」
一葉の返答に満足そうな笑みを浮かべる、女性に福澤と呼ばれた派手な装飾の男。その時……先程まで蚊帳の外だったミキが小さく手を上げて会話に入って来た。
「あの……これは一体何なんでしょうか?」
「ああん? 何やお前? 外野は口出しすんなや」
福澤は怪訝な顔をしてミキを睨む。するとミキは両腕を組んで鼻をふふんと鳴らして答えた。
「関係なくないです! この子のお友達です! それで! これは一体どういう事でしょうか! つか貴方達は何ですか!? 女性を寄ってたかって!」
「ワイらはこの町を縄張りとする三戸部組のモンや、そこのお嬢ちゃんはな……実の父親に売られたんや」
「売られた……!?」
ミキの質問に次々と答えていく福澤。
「そこのお嬢ちゃんの親父はな、なんやぎょうさん借金こさえて、それを帳消しにするためにその子をワシらに売ったんじゃ、そんでワシらはさらに高値で外国に売るつもりなんじゃ、日本人の小さい娘は珍しいから高く売れるでえ……!」
「……!」
ミキは怒りに燃えて一歩前に出る。しかし福澤はその事に気付かず得意げになって女性に向かって話を続けた。
「ま、ワシらが開催している“サクリファイスファイト”に出るっちゅうなら話は別やけどな? ドクターはんそれなりに美人やしそれなりに客引けるやろ。娘を救う為にリングに上がった格闘の素人が屈強な男達に蹂躙される……くくく、これほど魅力的なもんはあらへんで……」
「くっ……!」
悔しそうに歯噛みする女性、その時……ミキが興味深そうに福澤に質問してくる。
「なんですかそのサクリファイスファイトって?」
「なんや姉ちゃん興味あるんか? サクリファイスファイトはうちらの組が開催している裏の格闘大会の事や、ノーレフェリーノーギブアップの危ない試合やでえ? その分チャンピオンになった時のファイトマネーは莫大やけどな」
するとミキはしばらく腕を組んで考え込み、そして手を上げて言い放った。
「じゃあ、私がその大会に出ます!」
「「え!?」」
予想外の言葉に面喰う福澤と女性。そして女性は声を荒げてミキに言い放った。
「やめろ! その大会は普通じゃないんだ! あんたみたいな子が出たら滅茶苦茶にされちまうよ!」
対してミキは両腕を組んで不敵な笑みを浮かべて返答した」
「大丈夫です! 私……鍛えていますから!」
「へっへっへ、面白い嬢ちゃんや、ふむ……」
福澤はミキの全身を嘗め回す様に見つめ、そしてにやりと笑った。
「いいで嬢ちゃん、今夜12時過ぎに朝日市地下歩行空間に来いや、そこでテストを受けてもらうで。逃げても無駄やからな……」
「解りました!!!」
「ほら、いくでお前等。それとドクター、お前等も逃げても無駄やからな、うちのボスはねちっこいから地の果てまで追いかけるで」
そう言って福澤はヤクザ風の男達に女性を解放させると、その場から満足そうに去って行った。
そして一葉はすぐさま女性の元に駆け寄った。
「ママ!」
「一葉……!」
女性は一葉を愛おしげに力強く抱きしめる。そしてミキの方を見て怒りの声を上げる。
「アンタなんてことしたんだい! あんな約束して……無事には帰れないよ!」
「大丈夫です! 試合こなせるし、一葉ちゃんも助けられるし! それに……」
ミキはふと、表情に憂いを帯びながら答えた。
「それに裏の大会だったら、もしかしたら狐の面の人の事が解るかもしれないですしね。……」
「……?」
ミキは父が狐の面の男に敗れた日の事を思い出し、白い雲が流れる空を見上げた……。
☆ ☆ ☆
ミキ達が去った数分後、地面に伏したままのパーマのレディースは、起き上がる事に必死だった。
「くそっ! ダメージが抜けねえ……あいつなんてパワーだ……! 早く援軍使って報復……!」
その時、彼女の視界に一人の15歳ぐらいの、真っ黒な特攻服を着た少女が映り込む。太陽の光で顔は隠れていた。
「おい」
「うわあああああ!!?」
その少女を見た途端、パンチパーマのレディースは恐怖が籠った叫びをあげる。すると少女はレディースの腹部をガンッと踏んづけた。
「お前何勝手に死んでんの?」
「ぐぇ……! いやこれには深い訳が……」
「俺に喧嘩売っといてよお、何勝手に死んでんのか聞いてんだよぉ!!!」
少女はとてもイライラした様子で何度もレディースの体を力任せに踏んづけた。
「ぐえ……! 畜生! オマエなんて私の援軍が居れば!」
「援軍? もしかしてさっき喰ったアレ?」
少女はそう言って後ろの土手の上を指さす。そこには少女がやったと思われる、血塗れのままうめき声を上げるレディース達の屍の山が築き上げられていた。
「う、嘘だろ!? 50人は呼んでおいた筈なのに!?」
「ったく全員弱っちくて喰い足りねえからてめえを喰おうと思ったのによ、勝手に喰われてんじゃねえよ!!」
そう言って少女はこみ上げるイライラを吐き出すようにパーマのレディースを蹴り飛ばした。
「ひぎぃ!?」
「ったくこれじゃ腹減ってしょうがねえ……おい、お前をやった奴はどんな奴だ? そいつ喰うわ」
「ひっ、あ、あの……プロレス使うポニーテールの女でした……」
少女が醸し出す強烈な殺気に、パーマのレディースは完全に心が折られ、少女の言葉に従順になっていた。
「どこいったんだそいつ?」
「さ、さあ? でも今夜12時過ぎに地下歩行空間に行くって言っていました……」
「地下歩行空間ね、聞いてたなお前等!」
するとどこからともなく、背が180cm以上はありそうな大女、白いマスクに角張ったサングラスをつけた女、そしてほぼ球体の体型をしたお下げ髪の女が現れた。
「「「はい、聞いていました!!」」」
「今夜地下歩行空間にいくぞ、俺の獲物を取った奴を喰いに行く」
「「「はい!」」」
少女は口元をつり上げてニタァと笑った。
(しかしプロレスラーか、どんな味がするんだろうな……!)
少女はまるでこの先に最高級の料理が待っているかのように、口から出る涎を腕で拭いながら、取り巻きの三人と共に歩きだした……。
今回はここまで、ミキと手塚親子との出会いの話、そしてミキの過去と二人目のヒロインをチラ見せするところまでやりました。
次回は地下闘技場での話になりますのでお楽しみに。
説明 | ||
☆おめでとうございます。スカーレットナックル全シナリオをクリアしましたので隠しシナリオ「ミキ/ブラッディレオン編」がプレイ可能になりました☆ ※てな感じでこの作品はスカーレットナックルの外伝作品となります。主役はミキことブラッディレオン。ユウキ達の物語の前日譚&同時刻の別の視点で物語が進行します。 ※女の子が痛めつけられたり痛めつけたりという、いわゆるリョナ、逆リョナ要素が多めにあります。(クオリティ低いんであんまりエロくないかも) それでも私は一向に構わんッッッ! という方のみご覧ください。 |
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あざーっすw 桜庭愛との対戦SS、楽しみにしておりますーw(okura) こんにちわー。まな@でーす。登録しました。よろしくお願いします。(まな) |
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