ガールズ&パンツァー 我輩は戦車である 〜販促編〜 |
我輩は戦車である。名をチーム名にちなんで『あんこう』という。
『W号戦車D型』という制式名称もあるが、私として個を名乗るならば前者を選びたい。命名当初は困惑する他なかったが、今ではさほど違和感を感じなくなった。人とは往々として慣れる生き物なのだろう。…いや、私は戦車だが。
「西住ちゃん達、モデルやってくんない?」
「へ?」
練習後のミーティングが終わり各々が帰宅しようとした折、生徒会長の角谷殿は唐突にそんな事を言い出した。
「いやー、うちの財政が火の車だって事は皆知ってると思うんだけど、だからといってこのままってわけにもいかないんだよね」
「つまり、せっかく上がった知名度を利用して色々と売り出したいのだ」
「別にテレビに出ろっていうわけじゃないの。ちょっとグッズのモデルになって欲しいなって」
会長殿の言葉を補うように河嶋殿と小山殿がフォローをする。なるほど、私にも生徒会の意図が見えてきた。
今回の大会で辛うじて優勝を手にした我々だが、戦力不足は依然として深刻な問題である。他校が20を超える車両を保有するに対し、我々はいまだ最大8両の稼動が限界なのだ。多勢に無勢を少数故の連携と団結力で補ってきたが、逆にいえばそれが崩れた時の建て直しが効かない。我々は常に最低必要限度の戦力しか運用できない、つまり余裕がないのだ。
これまでは相手校の慢心をつく事もできたが、次の大会ではそれは望めない。なにしろ我々が優勝者なのだ。むしろ磐石の態勢で挑んでくるであろう相手を迎え撃たなければならない立場なのである。故に次の大会までに戦力の確保は至上命題なのだ。
そして、その為の資金を調達するには。
「つまり色々売ってお金を貯めないといけないんですね」
「ま、そーいう事。せっかく今年勝っても来年負けちゃったら意味ないって事、西住ちゃんも分かるでしょ?」
「そうですね」
会長殿の言葉に頷く西住隊長の心労がはばかられる。
そう、我々は勝ち続けなければらならない。戦車道の好成績があったからこそこの学園は統廃合を免れたのだ。これで来年に緒戦敗退などすれば再び窮地に立たされるのは目に見えている。これは生徒会が来年残される後輩達を思ったゆえの提案なのだろう。
「…お姉ちゃんの気持ちが少し分かったかも」
勝たなければならないという重責を常に背負ってきたであろう姉君に思いをはせる西住隊長は憂鬱そうであった。基本的に楽しむ事をスタンスとする我々の主義と反する面があるのだから無理もない。
「はいはーい! グッズっていうけど、どんな物でもいいんですか?」
「そうだな。とりあえず各チーム全員から案を募り、試作品を作る予定だ」
「よーしっ! ここはまだ見ぬイケメン達にもアピールするチャンスよねっ!」
河嶋殿からの話を聞くなり意気揚々とするのは武部殿だ。さすがこの手の順応力には長けている。
「モデルというのは、少し恥ずかしいですわね」
「別に直接じゃなくてもいいの。校章とか、チームのエンブレムとかでも作れると思うから」
「…なるほど」
一方で消極的な五十鈴殿や冷泉殿への説得には小山副会長殿が当たっていた。
「どうかな? 西住ちゃんも色々考えてみてくんない?」
「はい。せっかくですから皆で色々考えましょう」
そして西住隊長へは会長殿が直接交渉に当たる。この辺りの人選は彼女の采配なのか。
…さて。ところでなぜ生徒会が秋山殿と交渉しないかというと。
「となればやっぱり各チームの戦車のプラモは必須ですよね? いえ、ここは各国のレーションや軍事参考書も売り出して一人でも多くの戦車、軍事ファンを増やす絶好の機会です。くぅ〜、燃えてきましたっ!」
この様にその必要性がないからである。
もっとも、生徒会の目指すものと秋山殿の趣向の方向性には差異がありそうなので修正する必要はありそうだが。
数日後、試作品が完成し校庭の倉庫内で品評会が行われた。
もっとも、そこまで厳正なものではない。会議用の大きめなテーブルに品物を置き、全員で出来栄えを見せ合う程度である。他チームからの提案も多くなった結果、生徒会だけで査定をするのが困難になってしまった故の措置であった。
「西住隊長のチームだけ個人の持ち歌があるなんてずる〜い!」
「あれは放送部の王さんが勢いで進めちゃって…」
「やっぱりワッペンやキーホルダーは基本だよね」
「あ、このねんどろいど可愛い〜!」
「カラコレですか。…会長、一人だけちゃっかり割り込みましたね」
「ん〜? 河嶋も入りたかった?」
「そういう桃ちゃんはキムチ…」
「お酒って、これ蝶野教官の趣味だよね…」
「サイクルジャージって流行ったりするの?」
「ちょっと恥ずかしいよね…」
「それより秋山先輩の持ってきた戦車の模型大きすぎ〜」
「そうかな? 割と普通だと思うんだけど」
「ゆかりんの普通は戦車オタクの普通だから当てにならないんだってば」
いやはや、実に多種多様な品が揃ったものである。オーソドックスな小物から模型、さらに食品や日用品までと列挙にきりがない程だ。これら全てを商品化する事は難しいだろうが、こういう過程を楽しむのもまた彼女達らしさなのだろう。
「…あー、そのだな」
そんな中、河嶋殿が気まずそうに傾注を促した。
おそらくあれの事だろう。実は先ほどからほぼ全員が見て見ぬふりをしている物があったのだ。
「これの案を出した者は、誰だ?」
河嶋殿が指差した先には一体の造形物があった。人形である。
西住隊長をモデルにしたであろうそれは手のひらに乗る程度の大きさであり、愛玩用だと見て取れた。
顔立ちと四肢は間違いなく西住隊長の特徴を捉えており、出来栄えは良いほうだった。
ただ何故、胴体にあたる部分が長方形の木柱であるのか。
私にはどうしても理解が及ばなかった。
「名札には『西柱殿』とあるが、誰が案を出した? これは西住への誹謗中傷とも言えるぞ!」
河嶋殿の問いに答える者はいなかった。
モデルの当人である西住隊長はうつむき顔を伏せているので表情が分からない。おそらく深く傷ついているのだろう。
木柱である。長方形である。これ以上ない程の寸胴である。
女性の尊厳を根こそぎ侮辱するような奇抜な造詣であった。
このような無体な仕打ちを受けたモデルが傷つかないわけがない。
「もう一度だけ聞く! この不恰好な人形は誰が作らせた!?」
再三にわたる河嶋殿の恫喝に観念したのか、犯人が静かに手をあげた。
その人物は―
「ってお前か西住ーーーっ!?」
―事もあろうに、他ならぬ西住隊長ご本人であった。
「…その、ダサ可愛いと思いませんか?」
少しでも賛同が欲しかったのであろう、同意を求めるような彼女の問いに頷く者は皆無であった。あの秋山殿でさえ申し訳なさそうに俯くのみであった。
そのいたたまれない光景を目にしつつ、実家が戦車道の家元という点を除けば一般的な女子学生である西住隊長なのだが、こと造詣や語録のセンスは少々常人から離れた人であった事を私は思い出していた。
後に聞いた話であるが。
この珍妙な人形の考案者は西住隊長本人ではなく、彼女と近しい人物によるものだったそうだ。
私は彼女に等しいセンスの持ち主としてある御仁を思い浮かべたのだが…言わぬが花というものなのだろう。
数日後、黒森峰のある人物の私室にて。
「…隊長」
「何?」
「この、なんとも言えない物は、なんですか?」
「ああ、先日みほに人形のデザインを頼まれてな。試作品を一つもらった」
「…これ、売るんですか?」
「いや、品評会で外されたらしい」
「そうですか。良かっ…残念ですね」
「ああ。残念だ」
「………隊長は、この人形を見てどう思ったんですか?」
「…? 可愛いだろう?」
「………ソウデスネ」
妹を模した人形は姉を見守り続ける。
その長方形に木目を鈍く輝かせながら。
説明 | ||
今回のオチに使わせていただいた物は普通に愛らしいと思います。 決してモデルとそれを貶める意図はありません。 |
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コメント | ||
コメントありがとうございます。あだ名なんて慣れれば違和感が無くなるものだと思いますので>開き直ってたでござる。(tk) 題名を見て『何をしてるんだW号! 次からあんこうと呼ぶぞ!』と思ってたらすでに開き直ってたでござる。なんだ、イジリがいが無い(ぇ 初めまして、イザナギと申します。いつも楽しく読ませてもらってます。やはり美的センスは遺伝子なのか…とすると師範殿も実は……?なんてw 西住まほは俺の嫁、イザナギでした。長文失礼しました。(イザナギ) |
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