魔法少女大戦 1話 改変
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 1話 改変

 

 次の日の朝。恭は冗談だと思った。それか聞き間違いだと思った。

 6×6に配置された机から一つだけ申し訳なさげに突き出た、あるいはハブられ哀愁すら漂う37番目の机に座っていた恭は先生(禿)に窘められたのだ。『お前の席は一つ前だろ』と。

 入って最奥の机についていた彼は何かのドッキリではないかと訝しんだが、どうやらそう言う事ではないらしい。本気で、彼の席は今まで座っていた所の一つ前なようだ。

 訝しんだ理由は、彼は自分の席が此処だと言う絶対的な自負があった事と、もう一つ。前の席は木村鳴の席だったからだ。思えばおかしな話だ、バスの時間があるとはいえいつも真面目に登校してくる彼女がHRの時間になっても来なかった事、クラスの女子の中でも中核メンバーの一人である彼女の事を誰も話題にしていなかった事。普通なら有り得ない事だ。

 そして、現実は模索した選択肢のどれでもない最悪の決断を余儀なくした。

 

 「それじゃあ、中途半端な時期ではあるが転校生を紹介する。体育祭の途中に入るのも大変だったろうからな……入って良いぞ」

 

 何とも突然のことだったが、先生の声に合わせて教室の扉がするすると開く(一応ガラガラ言わない位の扉は備わってます)。ぴょこっとした擬音がこれ以上無いくらい似合う風体で、その転校生は敷居を飛んで越えた。そのまますたすたと教壇の前に立つ。

 身長は150cmあるか無いかで、白くて長い髪をツインテールにまとめている日本人離れした少女。紅い瞳は充血しているとは思えないほど透き通っており、ルビーやガーネットと言った宝石を思わせる。まるで兎のような、と言うかその様はほとんど兎そのままだ。

 シルキーな髪を掻き、彼女はおどおどした様子ながらも自己紹介を始めてくれた。

 

 「あ……新しく転校してきました、木村九兵衛(きむらきゅうべえ)と言います。男みたいな名前で変かとは思うのですが……どうぞ、宜しくお願いします」

 

 ぺこりとお辞儀をする彼女の後ろを通り抜け、生徒たちから見て右側に彼女のフルネームを記入する先生(禿)。凄い漢字だ。ありふれた名前に男でも滅多に居ないだろう名前。先生の筆圧は教師陣の中でもかなり強い方と言う事も手伝って威圧感あふれる五文字がそこに書き込まれていく。

 

 「それじゃあ木村、お前の席はあの何だ……右奥に空いてる席だ。後で席替えするから、とりあえずそこに座ってくれ」

 「先生、そこは真田がさっきマーキングしてました」

 

 どっと笑いが起こる。お前のっけから何してくれてんだよの野次が飛び交う中、彼は笑っている余裕など微塵も無かった。有り得ない事が重なっている、鳴が存在の痕跡も無くその姿を消し、この時期には不自然な謎の転校生。日本人離れした容姿でありながら純日本人風な名前、しかも現代離れした男の名前。加えて、名字が『木村』。

 

 「あの……宜しくお願いします」

 「……ああ、宜しく」

 

 お前は誰だ。どうしてそこに座る。そこは俺の席で、今俺がやむなく座ってる席は鳴の席なんだ。誰も居なければ胸倉を掴み上げ捲し立ててやりたいところだったが、そんな事が出来るはずもない。ただ頭の中がごちゃごちゃしてしまったせいか相当無愛想な返事になってしまったようだ。あからさまに彼女が怯えている。どんだけ兎だよと彼は心の中で突っ込みを入れる。

 

 「よし、それじゃあHRを終わる。体育祭の後で気が緩みがちになる所だが、一時間目からしっかり目を開けて授業を受けるように」

 

 きりつ、れいの掛け声で一斉に礼をする。体育祭と言うある種の祭の興奮から現実に立ち返るかための、日常へ向かうチェックポイント。しかし彼にとって、真田恭にとってそれは今までの日常では無いし、この今は彼にとっては極限まで異常なのだった。

 木村鳴の居ない世界に於いて、彼が最も居たい居場所はどこにも存在しない。彼女の消失は彼のアイデンティティの大半を抉り取って行った。

 また明日と交わした台詞が急に重くなる。明日っていつだよ、今じゃないか。何で居ないんだよと嘆くも世界は彼女が居なかったことなど忘れて淡々と流れていく。

 怖かった。自分も彼女を忘れてしまうのではないかと。そして忘れた事さえ忘れてしまう事が、たまらなく恐ろしかったのだ。

 

 「どうしたん、真田くん」

 

 芯がありよく通る声が恭の意識を現実に引き戻す。声のする方向を向くと、其処には声の主が教材の束を左腕に挟んで立っていた。長い黒髪をポニーテールにしている快活な女性徒は恭の顔を覗き込むような仕草を見せる。

 彼女の名前は油田璃音(あぶらだりおん)、高校からの付き合いで、一年の頃からずっと同じクラスである。兵庫出身らしく、どことなくイントネーションが独特で会話のテンポが掴みにくい。

 

 「ボーっとしとかんと、はよ行かな怒られんで」

 「あ、ごめん……そういや木村さ……木村、お前次の授業は生物と物理どっちだ?」

 

 『木村さん』と言う呼称を使いたくなかった恭は訂正して彼女に尋ねる。急に名字を呼び捨てにされた事に吃驚したのか多少うろたえた後、彼女は鞄から教科書とノートを出して見せてくれた。

 

 「あの…物理、です」

 「へぇ、ほんなら連れてってやりぃよ。ただでさえ女っ気無いんやから、他のDQNからいたいけな転校生を護ってやらな」

 「すみません…あの、場所を知らないので、連れていっていただけますか?」

 

 とても丁寧な言葉で話す九兵衛。『い』抜きだ『ら』抜きだとうるさい昨今にとても稀有な存在だと言えた。璃音は九兵衛を気に入ったらしく小さな彼女をすりすりしていた。お前が行けって言ったんだろ、離してやれよと恭は璃音を引き離す。

 

 「じゃあ、連れてくからそれ持ってついて来てくれる?」

 「はい……」

 「ちゃんとエスコートするんやで〜」

 

 恭は立ち上がり自分の教材を準備する。そしてそれを左腕に挟みこみ、物理教室へと歩きだそうとした。すると、彼の留守になった右手に柔らかくて温かい感触があった。

 

 「っ!?」

 「はわっ! ご、ごめんなさい…」

 

 恭は思わず手を払いのけてしまった。流石に肝を冷やした、積極的なのか消極的なのか分かったもんじゃない。何がなんだかよく分からなかったが、ほっとくと泣きそうだったので恭の方から引っ込めた彼女の手を掴み、教室を後にしたのだった。

 早く璃音の場所を離れたかったのだ。彼女の言葉は鋭い槍、キリストを貫いたロンギヌスとなって胸に突き刺さる。出てくるのは熱い血反吐と涙と言う名の水。

 

 『ただでさえ女っ気無いんやから』

 

 どうやら自分は鳴が居ない世界では特に仲良くする女の子も居ないらしい。別に鳴と恋人同士と言うわけでは無かったのだが、だからと言って気持ちが弾むはずもない。

 

 「あ、あの……ごめんなさい」

 「別に……そういやさ、何て呼んだらいいだろうか」

 「あ……前の学校では、きゅうちゃんって呼ばれてました」

 

 九兵衛から妙に清々しい返事が返ってきた。何と言うか、前の学校のクラスメイトはそこそこに妥当な選択をしてくれたのだなと恭は納得する。九兵衛は長い。『兵衛』を取ると女の子っぽくない。

 

 「じゃあそれで固定しよう。ちなみに俺もクラス外では恭ちゃんと呼ばれたりしてる」

 「そうなんですか!? じゃあお揃いですねっ」

 

 ……何か懐かれてしまった。こんなに無防備でいいのかこの乙女は。恭は嘆息するが、喜んでくれているのだから良いのかと自分を納得させる。心なしか、と言うか明らかに彼女のテンションが上がっている。そうか、こっちが素か。思えば、転校初日でいきなりクラスメイトに馴染めるはz

 

 「そう言えば恭ちゃんさん」

 「さんを付けるなデコ助野郎」

 「ごっ、ごめんなさい!」

 「あ、いや……これ知らないのか。そう言う言い回しがあって……ってまあ良いや。どうした?」

 「あの……最近、この学校に様子が変な人って居ませんか?」

 

 彼女の眼が見開かれ、その視線は恭を捉えて離さない。何だ、この何かを見透かさんとばかりの目力は。

 

 「変な人って…?」

 「何か言動が不自然な人とか…居るはずのない人間の話をしてる人とか」

 

 ……………

 

 こいつは何の話をしているんだ。色々規格外の子ではあるが、初対面の相手に物怖じするような子がどうしてそう言うオカルトめいた事を軽々しく口に出来るのか。

 最初から違和感は感じていた。しかし、それは鳴の消失に対し割り込んできた事が主だと考えていたが、恭は考えを改める。

 不自然だ。それ故に、彼女に真実を伝えてはいけないと悟り恭は言葉を濁す。

 

 「いや、そう言う話は聞かないな……てか、うちのクラス変態しか居ないし」

 「そうですか……なら良いです。安心しました」

 「いや駄目だろ」

 

 先程のような瞳の煌めきは消え、彼女は普通に笑っていた。さっきのは一体何だったのだろう。そうこうしているうちに物理教室だ。先生(物理教師だけにトーク力の摩擦が小さい=スベる)はまだ来ていない。

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早速本家まどマギキャラが出てきたりします。
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