恋姫†無双 関羽千里行 第20-4話 |
第20話 ―拠点2-4―
○雛里
ぐぅ...
日が少し傾きかけてきた頃、一刀は空腹だった。というのも愛紗によって早朝に叩き起こされ、書類の山と格闘させられたのだ。急ぎの案件だということで為す術もなく言う通りにしていたわけだが、なんとかそれも片付き今に至る。そういう訳で一刀は朝飯を食べていない。今ならそこら辺の雑草だって食べられそうだとあまりよろしくない方向に思考が傾き始める。
一刀「確か前にもこんなことがあったよなぁ...どの世界でも一番怖いのはやっぱり食事を抜かれることか。」
空腹を忘れようと思考を切り替えてみる。皆の鍛錬を見ていた時に直ぐ目の前を飛んできた武器の刃がかすめていったことや、あの得体の知れない女性のような何かが迫ってきた時のことを思い出し、一番でもないかと思い直す。今考えればよく今まで五体満足で生きてこれたものだ。そこへ、
一刀「はっ!この匂いは!」
時間が時間なので街まで出ようとしていた体を反転させ、一刀は誘い込まれるように城の一角へと戻っていった。
??「そうじゃな、そこはそろそろいいじゃろ。」
??「はい。よいしょっと。」
一刀「俺はついに辿り着いた...この桃源郷に!」
??「えっ?(はぁ?)」
一刀「...なんでもないです。」
一刀がいたのはもちろん桃源郷などではなく、城にある厨房だった。そしてそこでは雛里と祭が前掛けを姿で向かっており、雛里はいつもの丈の高い帽子を脱いでいた。その姿からすると、二人は何やら作っているところだったようだ。
一刀「でもあれ、雛里と祭が一緒だなんて珍しいね。」
祭「そうか?割と一緒におることは多いと思うんじゃが。」
そう隣の彼女を見下ろす祭にコクコクと頷く雛里。
雛里「祭さんには兵法書を貸していただいたり、時々こうして呉の料理を教えていただいたりしているんですよ。」
祭「それはお互い様じゃ。雛里の戦術論は聴いていて飽きないからのう。」
少し照れるような仕草をする雛里。その後ろでは鍋の中身が噴き出しそうになっていた。
雛里「あわわ!」
慌てて火を消そうとする雛里に、
一刀「だ、大丈夫っ!?」
祭「これ、一応火を扱っておるのじゃ。目を離すと危ないぞ。」
雛里「は、はい...」
一難去って一息つく雛里。
祭「時に北郷。お主腹でも減っておるのか?なんだか雑草でも食べ始めそうな顔をしておるぞ。」
一刀「それがどんな顔なのかわからないけど、その通りですはい。」
よほどの顔をしていたらしい。先程から少し落ち着きのない俺の様子に少し怪訝そうな表情を浮かべていた雛里も、納得がいったとばかりに尋ねてくる。
雛里「今何品か作っているところですけど...ご主人様も召し上がってい...」
一刀「そうか、ありがとう!」
雛里「えっ?あ、はい。」
空腹のあまり食い気味に答える。それほど今の俺は切羽詰まっているのだ。それに雛里や祭の手料理を食べられる機会なんてそうそうないかもしれない。祭も前に料理は得意みたいなことを言っていたことだし、味の方も期待できるだろう。ここはなりふり構わず押しでいくべきだ。
祭「どうやら此奴は相当に腹が減っておるようじゃぞ。よし雛里、ここは儂らの腕を奮い...」
愛紗「見つけたぞ、祭!」
祭「愛紗!?なぜお主がここに!?」
愛紗「それは自分の胸に聞いてみるのだな。さあ行くぞ、お騒がせしました一刀様。雛里、一刀様は朝から何も召し上がっていないから、何か精のつくものを作ってくれ。」
祭「離せ、こら、離さんかぁ〜!」
そう残し祭は愛紗に引きづられていった。
一刀・雛里「...」
雛里「とりあえずもうすぐできるので、ご主人様は座っていてください。」
一刀「ああ、ありがとう。」
それから数分後、目の前には美味しそうな料理の数々が湯気を立てて並べられていた。
雛里「それでは...」
一刀・雛里「いただきます。」
次々と料理を口にしていく。空腹もあるが、どの料理も街の飯店で食べる料理並にうまかった。雛里は料理にがっつく俺の様子を見て面食らっているようだった。いかんいかん、ここは大きく削られた威厳を回復せねば。
一刀「ん、んんっ!ごめんごめん、あまりに美味しかったからついつい。雛里がこんなに料理がうまかったなんて知らなかったよ。」
すると、少し照れたように、
雛里「あ、ありがとうございます...」
一刀「誰かに習ったのかい?これなら普通に飯店でも出せるんじゃない。」
雛里「いえいえ、私なんて...料理は水鏡先生のところにいた時に習ったんです。朱里ちゃ...一緒にそこで習っていた子にも、上手な子はいたんですよ。」
一刀「そうかなぁ...万が一ウチの財政が赤字になったら、店出して雛里に頑張ってもらおうかな。」
雛里「えと、文官としてそれはどうなんでしょう...」
もちろん、雛里は優秀なのでそもそも赤字になることなどないだろうが。ただウチには浪費家(主に酒)が何人かいるので油断はできない。そんな他愛のないことを話しながらも食事は進み、あっという間にたいらげられてしまった。
一刀「ふう、ごちそうさまでした。」
雛里「お粗末さまです。」
一刀「ありがとね。でもこれだけ料理ができるなら、雛里はいいお嫁さんになるんだろうなぁ。」
雛里「あわわ!およ、お嫁さん...」
何かを想像したのか、湯気が吹き出したように顔を真赤にする雛里。そのまま椅子から落ちそうになり...
一刀「あ、危ない!」
手を伸ばすも互いに机を挟んで反対側。為す術もなくガタンという音とともに雛里の姿は机の下に消える。
一刀「だ、大丈夫?」
すぐに反対側へ回りこむ。本日二回目のその問いに、
雛里「は、はひ。だいじょうふれす...」
尻餅をついた状態で、頭を撫でさすりながら答える雛里。
一刀「たんこぶでもできたら大変だ。ちょっと看せてみて。」
雛里に手を貸し助け起こすと、傷などがないか確認していく。その間、雛里は恥ずかしさからかずっとモジモジとしていた。
一刀「どうやら大丈夫みたいだな...念のため、何かあったらちゃんと言ってね。」
雛里「はい、あり難うございます。」
雛里の服についていたホコリを払ってから、壁にかけてあった余りの前掛けをとる。
一刀「んじゃさっさと後片付けしちゃおうか。」
雛里「それなら私がやっておきますから...」
一刀「せめてこれくらいやらせてよ。美味しいものをご馳走してもらったんだしさ。雛里こそ休んでなよ。」
そう言って厨房に向かおうとすると、後ろから俺の袖をクイッと掴まれる。
雛里「じゃあの...一緒に片付けてしまいましょう。その方が早いですから。」
その後、戻ってきた祭に二人で洗い物をしていたところを見られ、新婚夫婦みたいだとからかわれた雛里はテンパッてうっかり皿を落としてしまい、俺は本日三回目の安否確認を行うことになったのだった。
○華雄
華雄「はああああああっ!」
キンッ!
城の庭に高い金属音が響く。武器と武器が激しくぶつかり合う音だ。
愛紗「その程度かっ!」
華雄の攻撃を軽くいなす愛紗。一方の華雄には焦りのようなものが見て取れる。
華雄「まだまだ!はあっ!」
霞「そう口にする華雄の振るう戦斧は、いつもの精彩をどこか欠いているようにも見えた...」
一刀「あの、人の考えてることを勝手に漏らさないでくれないかな。」
霞「まあまあ。実際華雄がいつもの調子じゃあれへんことは確かなんやし。」
ケラケラと笑うもすぐに真剣な様子で目の前の華雄と愛紗に向き直る。実際のところ、華雄の動きはいつもと違っていた。華雄は攻めに強い武人だ。その武人が攻めあぐねるというのは、今の愛紗を相手にしているのならわからない話でもないが、原因はそれではなくむしろ華雄自身にあるようだ。集中力が途切れているのか、ちらちらとこちらに視線を送って来ているようにも感じる。
華雄「てやああああああっ!」
愛紗「ふんっ!」
大きく振りかぶった一撃を青龍刀で受け止める。そして返す刀で、
愛紗「はあっ!」
大振りのあとにできた硬直時間に一閃。華雄の握っていた戦斧は彼女の後方へ大きく弾き飛ばされた。
華雄「くっ...」
武器を失った突きつけた青龍刀を下げ、一息つく。
愛紗「勝負ありだな。しかし、どうしたのだ、今日のお前は。」
霞「せやで。いきなり愛紗に稽古つけてくれなんて頼んだと思うたら、なんやえらい一刀のことばっか気にして全然集中できてんかったし。」
一刀「あれ、気のせいじゃなかったのか。」
霞「てっきり、一刀が変な顔でもして、華雄を笑かそうとしてるんかと思うたけど違うみたいやし。」
一刀「いやいや、人が真剣に稽古しようとしてるところでそんなことしないから。」
華雄「...すまんが一人にさせてくれ。」
華雄はその理由も離すことなく、地面に突き刺さった戦斧を引き抜くと、そのままどこかへと歩いて行ってしまった。その背中をただ見送る三人であったが、
霞「なあ、追いかけへんの?」
愛紗「一刀様、追いかけないのですか?」
そう尋ねる二人に、
一刀「ああ、行ってくる!」
俺は華雄の向かった方向に駆け出していった。
霞「ええの?愛紗。」
愛紗「あのお方はそういうお方だから仕方あるまい。それより、次はお前の番だろう?」
霞「せやせや。よっしゃ、行くでえ!」
再び庭には武器と武器のぶつかる金属音が響きわたっていった。
一刀「やあ。」
華雄「北郷か。一人にさせてくれと言っただろう。」
華雄は城壁の壁に肘をつき、どこか黄昏れるように視線を遠くに送ったまま答えた。
一刀「どうやら俺に原因があるみたいだからさ。なにかあるなら聞いておかなきゃと思って。」
華雄の隣に行き、同じように肘をつき遠くを眺める。
華雄「...そんなことはない。これは私の問題だ。」
何かを噛み殺すようにそう漏らす。それに対し、
一刀「...そっか。」
それだけ話すとあとはしばらく二人とも黙ったまま遠くを眺めていた。
華雄「...」
一刀「...」
華雄「...私はな。」
沈黙を破り、華雄は少しずつ話し出した。
一刀「うん。」
華雄「自分の武には誇りも自信も持っていたのだ。」
一刀「うん。」
華雄「だがな。先の水関で気づいてしまったのだ。」
一刀「何にだい?」
華雄「私が誇りや自信だと思っていたものは、ただの奢りに過ぎないということにだ。」
一刀「...そっか。」
華雄「お前が私の命を奪おうとしていた矢をたたき落とした時、私はそれまでその存在にすら気づいていなかったのだ。これが奢りの生んだ油断でなければ何だというのだ。」
一刀「...」
華雄「何よりも衝撃だったのが、あの矢をたたき落としたのがお前だということだ。こう言ってはなんだが、私はお前と百回討ち合ったところで一度も負けることはない。これは奢りではなく事実だ。」
一刀「うん。」
華雄「だが実際に私の命を救ったのは他でもない北郷、お前だ。しかもあの時、私はお前を守るという任務を預かっておきながら、お前に命を救われたのだ。そう、先に敵を全て叩き潰してしまえばいいなどという身に余る奢りを抱いていたばかりに。」
一刀「...うん。」
聴きに徹してた俺の様子に苛立ったのか、華雄が声を荒げる。
華雄「...お前はなぜ何も言わない!臣下が己が主君の命を危険に晒したのだぞ。結果はどうあれ本来ならば極刑に処せられるべきだ!」
一刀「そんなことできないよ。」
華雄「なぜだっ!?」
一刀「だって華雄は華雄なりに俺のことを守ろうとしてくれたんだろ。少し失敗しちゃったかもしれないけど、そんなふうに考えてくれてる人に死ねなんて言えるわけないよ。」
華雄「だがっ!」
一刀「失敗しちゃったのならさ。」
華雄「...」
一刀「失敗しちゃったら、次は失敗しないように頑張ればいいんじゃないかな。いくら強くたって負けることはあるし、俺を守ってくれるのだって、一人でなんでもしなくたっていい。背中に目はついてないだろ。できないことはお互いに補い合えばいいんだ。」
華雄「...」
一刀「それは、華雄自身だって同じだよ。仲間同士、お互いに守り合うことは弱さじゃない。誰かに背中を預けたっていい、あんなに頼りになる仲間がいっぱいいるんだから。」
華雄「...」
しばらく沈黙していた華雄だったが、
華雄「...ふっ。お前、キザだな。」
一刀「なっ!?」
何かを吹っ切ったようにそう言い、こちらに顔を向ける。
華雄「まあいい。だが私はまだまだ強くならねばならんのだ。その頼りになる仲間とやらに背中を預けてもらえるくらいにはな。」
一刀「そっか。じゃあ俺も華雄に守ってもらえるくらいには成長してみせるよ。」
華雄「ああ、そうしろ。だが私は皆の言うとおり猪だ。お前にはこんなことが二度とおきぬよう、私を抑えてもらわねばな。」
一刀「あはは。それはしんどい役を押し付けられたもんだなぁ。」
華雄「命が保証されるのだ。安いものだと思え。」
そう口にする華雄はとても清々しい表情をしていた。
華雄「では、私は鍛錬に行ってくる。余計な気を使わせて悪かったな。」
華雄は置いていた戦斧をひょいと拾い上げると、肩に担いで歩いて行く。先ほどとは異なり、その歩き去っていく背中からは強い気迫と頼もしさを感じた。
―あとがき―
れっど「なんだか今日の取り合わせは対極にあるお二人といった感じですね。」
華雄「まあ、そうだな。そもそも武官と文官では役割が全く別だからな。」
れっど「でも将である以上、ある程度兵法とかそっちの知識は必要ですよね?華雄さん字読めるんですか?」
華雄「馬鹿にするな!」
雛里「では、これをどうぞ。(難しい兵法書を手渡す)」
華雄「ぬっ!?ま、任せろ。これくらい朝飯前だ...」
雛里「あの...頭から湯気が出てますよ?」
華雄「う、うるさい!」
雛里「ひぃっ!」
れっど「いじめないであげてください。それでは次回から本編に戻ります。少し更新が遅くなるかもしれませんが、よろしくお願いいたします。」
説明 | ||
恋姫†無双の二次創作、関羽千里行の第20話、拠点のラストです。 この前やっていたテレビ番組で、日本人の肉の摂取量がサカナの摂取量より多いとやっていました。 うちは魚が多いのでちょっとびっくりです。 みなさんはどっちですかね? それではよろしくお願いします。 |
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