真・恋姫†無双 〜胡蝶天正〜 第二部 第02話 |
この作品は、北郷一刀の性能が上方修正されています。はっきり申しましてチートです。
また、オリジナルキャラクターやパロディなどが含まれております。
その様なものが嫌いな方はご注意ください。
「はぁはぁ・・・・・ええいっ!こう数が多くてはきりが無い!」
両側を山に挟まれた村の入り口で、群がる賊徒を葬りながら私は苛ついた言葉を口にする。
旅仲間の稟と風が村人を逃がすまでの時間稼ぎを引き受けたのはいいが多勢に無勢、全身に疲労が溜まり、その一閃にも鋭さが失われている。
更に倒した賊の屍が狭い入り口に積み重なり身動きが取れず、足場を求めて後退を余儀なくされており、後少しでも下がれば場所が開けてしまい賊の侵入を許してしまうところまで来ていた。
「そうだ!そのまま押し込んじまえ!たかが女一人、広い場所に出ちまえばどうってことたぁねぇ!取り囲んで嬲り殺しにしろ!」
賊の頭目と思われる男が声を荒げると、それに呼応するかのように周りの賊が勢いを増して襲い掛かる。
「この趙子龍!貴様等、賊徒如きには負けん!」
気迫を込めた雄叫びを上げて自身を奮い立たせ、再び己が身を刃に変えてその猛攻を凌ぐ。
だが、それも限界を迎え、とうとう村への侵入を許そうとしたとき、賊の後方で動揺が走る。
「あ、兄貴ぃ!後ろから軍の連中が迫っていやすっ!」
「んな馬鹿な話があるか!刺史の野郎にはちゃんと金を払ってるんだ!俺達を襲うわけがねぇだろうが!」
「違いやす!あれは刺史の軍じゃねぇ!この辺を治める太守の軍だ!とても太刀打ちできる量じゃ・・・・・」
知らせに来た三下はそれ以上喋る事はない。
背中には無数の矢が刺さり、まるで針差しのようになっていたからだ。
その姿を目の当たりにし、全体をまとめていた男は恐れおののき、この場から逃げようとするが、両側を崖で囲まれて村の入り口で立ち往生している今、逃げ場が何処にも無い事を悟る。
瞬間、その男の頭が転げ落ちて首から鮮血の美しい花を咲かせる。
その横には、高貴な蒼い衣を身に纏った精悍な男が軍馬に跨り、賊徒を蹂躙する精兵たちに号令を飛ばしていた。
「一人たりとも生かして帰すな!弱者から強奪をする以外に能が無い賊徒の群れなど、お前達の武勇を持って蹴散らしてしまえ!」
「サーイエッサー!!!!!」
俺は兵達に号令を出し終えると、目の前に居た一人の女の娘に目を向ける。
肩で息をしているが、見たところ大した怪我をしている様では無いので安堵しつつ、馬から下りて彼女に話しかける。
「この村を守って頂き感謝いたします。俺の名前は司馬懿、字は仲達、この新平の地で太守を務めています。お怪我は在りませんか?」
「・・・・・お気遣いかたじけない。幸いに怪我はありません。我が名は趙雲、字は子龍。主となる方を捜し求めて大陸を渡り歩いている流浪人だ。・・・・・それにしても太守殿自らが盗賊の退治に出向かれるとは、中々に物騒な土地のようですな」
先程の賊のやり取りを耳にしてか、趙雲さんは少し嫌味を含んだような声色で俺に問いかけてくる。
当然だろう、盗賊どもを取り締まるのが役目の刺史が、よりにもよってその盗賊から金を受け取って蛮行を見て見ぬ振りをしていると言うのだ。
郡を治める太守にも疑いの目を向けても仕方ない。
「面目次第も無い。・・・・・趙雲殿、これだけの数を一人で相手にされてお疲れでしょう。後はどうか我々にお任せ下さい。今は安全な場所へ送る事は出来ませんが、貴方の御身は俺がお守りいたしましょう」
俺は趙雲さんが盗賊団から攻撃を受けないように彼女の前に立ち、まだ戦意のある賊を手当たり次第に斬り捨てる。
斬り、薙ぎ、突き、斬り上げ、周りの賊が息つく間もなく屍へと変えていく。
そんな光景を目の当たりにし、逃げ場も無い事に正気を失った賊の一人が俺に向かって半狂乱で右側面から襲い掛かり、それを迎え撃つ為にそちらへ意識を集中させる。
しかし、賊は俺が斬り捨てる前に槍で首を一突きされて呆気なく絶命した。
その槍の一閃は俺の後ろ側に居た趙雲さんが放ったもので、彼女は槍を賊の首から引き抜くと、周囲に気を配りながら真剣な面持ちでこちらに近づいてくる。
「先程は発言、申し訳ない。盗賊どもが刺史に金を握らせていると話していたのを聞いたので、あなたもその類の下衆な役人と勘違いしてしまった」
「このご時世では官職と聞いて憤るのも当たり前の事ですからね。・・・・仕方が無い事ですよ」
「いや、この様な辺ぴな村を、郡を統治する太守自らが救援に来た時点で気付くべきでした。この趙子龍、一生の不覚。せめてこの賊どもを倒す手伝いをさせて頂きたい、そうでもなければ共に旅をしている仲間に合わせる顔が無い」
先程とは打って変わって俺に誠意を込めて謝り、賊の討伐を手伝うと言う趙雲さん。
そんな彼女の申し出を無下に断るのは失礼だと思い、快く承諾する事にする。
「・・・・・わりました。それじゃあこいつ等を討伐する間、俺の背中を預けます」
「承知」
それから、その場の鎮圧は瞬く間に進む。
元々は村を襲ったこいつ等を含めた盗賊団全てを討伐するだけの兵数を揃えているのもあるが、趙雲さんのような優秀な武人が加わった事により一瞬で片が付いてしまった。
「城に村の損害の調査と復興の為の兵を出すよう伝令を出せ!残った者は負傷した兵を手当てした後、点呼を取って村の外で整列!」
「サーイエッサー!!!!!」
「・・・・・・」
賊を葬り、兵たちに指示を飛ばしていると、後ろから妙な視線を感じだので振り返る。
するとそこには、ただ黙ってこちらをジッと見つめる趙雲さんの姿があり、少し驚きながらもどうしたのか聞いてみることにした。
「ど、どうしたんです?そんなに俺の事をジッと見て・・・・」
「・・・いや、仲達殿を見ていると太守と言うよりも何処かの州牧に仕える勇将の様に見えたのでな」
「まぁ今はそう見えても仕方が無いかもしれませんね。うちはとにかく人手が足りませんから、自分の手で何でも出来ないとやっていけませんからね」
「ふむ・・・・・新平には英雄となるものは居ないと思っておりましたが、まさか竜が潜む地であったとは・・・・」
俺の言葉を聞いて何か思うところが在ったのか、趙雲さんは小声で呟いているが兵達の喧騒で聞き取る事が出来ない。
何と言ったのか聞き返そうと思ったところで、誰かがこちらに歩いてくる気配を感じたのでそちらへ振り返ろうとする。
だが、俺が振り返るよりも早く気配の主が趙雲さんに話しかける声が聞こえてきた。
「星ちゃーん、大丈夫ですかー?」
「村人の避難が終わっても戻ってこられないので心配しましたよ」
「!」
こちらに来た良く知る二人の声を聞いたとき、一瞬体が硬直してしまう。
彼女達が趙雲さんと一緒に旅をしていたのは覚えていたし、趙雲さんの姿を見たときにここで会える可能性が高いと心構えをしてはいたのだが、実際に声を聞くと懐かしさと嬉しさで涙が溢れ出てしまった。
「心配をかけてしまった様だな、見ての通り怪我も無い。賊に押し込まれそうになったところをそこの方が助けてくれたのだ」
いかんいかん、こんな顔を見せては何事かと思われる。
俺は服の袖で涙を拭うと、出来る限り平静を装って二人のほうを向いた。
「始めまして旅の方。俺の名前は司馬懿、この新平で太守をしている者です。あなた方のお陰で村への被害が最小限で済みました。ありがとう御座います」
「いえいえ、当然の事をしたまでです。風の事は程立と呼んでくださいー」
「郭嘉と申します。・・・・・・この辺りの太守はそこまで優れた統治者ではないと聞きましたが、何故太守自らが賊の討伐を?」
「おやおや、悪口とも取れる発言をした上で聞きづらいことをさらりと聞くとは・・・・稟ちゃんも中々度胸がありますねー」
「私だって相手を選びます。第一態々賊の討伐をする様な太守が、機嫌を損ねただけで頸を刎ねるわけが無い」
まぁ、城でせっせと私腹を肥やしているような太守に今の発言をしたら一発で頸を刎ねられるが・・・・・。
遠まわしに無能と言われた後にそう言われると何か微妙な気分になるな。
とりあえず聞かれた事は適当にはぐらかしつつ、馴れ馴れしくならない程度の口調で二人の事を聞きだそう。
「賊の討伐に関してはまぁ色々と在りましてね。それはそうと、趙雲殿は主君を求めて旅をしていると聞いたのですが、二人も同じ目的で旅をしているのですかな?」
「いえいえ、風たちは誰に仕官するかは大体決めておりますので、見聞を広める為に旅をしているのですよー」
「書物を読むよりも、直接自分の目で見たもののほうが信頼できるものです」
どうやらもう二人は華琳の下に仕官する事を決めているようだな。
彼女達なら信頼出来るし、あわよくば引き込もうと思ったんだけど・・・・・・駄目元で勧誘してみるかな。
先ずは・・・・
「実はこれから直ぐにこの村を襲った賊の大元である盗賊団の砦を討伐しに行くんですけど、もし良かったら三人とも手伝ってくれますかな?謝礼は弾みますよ」
「・・・・星ちゃんはお役に立てるかもしれませんが、風たちは武術に覚えが在りませんので、役に立てないと思うのですよー」
「趙雲殿と共に旅をされて、武に覚えが無いのに何処かへ仕官するという事は、文官か軍師を志望しているって事ですよね?それなら俺の軍から兵を分けるので、そちらの指揮を采って貰えませんかな?勿論、趙雲殿にも客将として隊の指揮をお任せするつもりですけど」
「「「!」」」
俺の言葉に三人とも驚愕する。
見ず知らずの村で出会った者に兵を預けると言うのだから、余程のうつけか或いは大器だと思ったのだろう。
三人は少し考え込んで話し合った後、稟が俺に対して言葉を返す。
「私達はそれでも問題ないですが、どこの馬の骨とも知れん者がいきなり指揮をしても兵は従わないとでは?」
「確かに、私なら幾ら主君の命令でも、そう易々と信の置けぬ者に従う事は出来ませんな」
「そういうわけなので、申し訳ありませんがこの話は無かった事にー」
体の良い断り文句を言って話を無かった事にしようとしているのは分かるが、こちらもこれぐらいは覚悟の上で誘っているのだから引き下がる事は出来ない。
それに今の理由は普通の兵に対しては有効だろうが、俺の兵に対しての理由ならば下策であったといわざるを得ないだろう。
「その点に関してなら問題ないですよ、三人とも村の外まで来てくれますか?」
俺の答えに疑問を持ちながらも、三人を村の外に待機させている兵たちの前まで案内する。
三人とも俺と一緒に兵たちの前に並んでもらい、それを確認してから俺は兵たち号令を掛ける。
「喜べ貴様等!今日お前らの新しい指揮官を紹介する!腐った膿が詰まった頭に入るようにしっかり聞いておけ!」
「サーイエッサー!!!!!」
「こちらに居る趙雲殿は貴様ら掃溜め野郎どもと共に前線で戦ってもらう武将殿だ!敵を前に小便をちびって逃げ出すようなフニャ○ン野郎は下に付く事が出来んぞ!」
「サーイエッサー!!!!!」
「こちらの程立殿と郭嘉殿は貴様ら蛆虫を手足の様に使い指揮をする軍師殿だ!お前たちのような脳みそに糞が詰まっているだけのボケナスどもが戦える様に現場で指揮を取ってやろうと言うのだ!軍師殿の命令を聞けない様な耳の腐った奴その場でけつの穴小便を流し込むぞ!」
「サーイエッサー!!!!!」
「良いか貴様等!三人の命令に従わない蛆虫以下は楽しい地獄の一週間に逆戻りだから良く覚えておけ!分かったか!?」
「サーイエッサー!!!!!」
俺のスラングを混ぜた号令を聞いて、兵士たちが直立したまま一斉に声を張り上げる。
その様子を見て三人は何か恐ろしいものでも見るような驚愕した顔でこちらを見ている。
「これで三人がどんな指示を出しても聞くようになりました。試しに何か命令してみて下さい」
「はぁ・・・・それでは・・・・・全員腕立て五十回」
「サー、腕立て五十回開始します、サー!!!!!」
稟が全員に腕立てを命令すると全兵が復唱して一糸乱れぬ動きで腕立てを開始し、瞬く間に腕立てを完了させるとまたその場で直立して整列をしなおす。
その様子を異様なものを見る目で他の二人が見ており、風が趙雲さんと一緒に先頭の兵士に思わず声を掛ける。
「あのー、大丈夫ですかー?」
「はっ!自分は大丈夫であります!」
「自分・・・・・?」
兵士の簡潔な返事を聞いた後、三人とも俺の方を向いて話しかけてくる。
「司馬懿殿は五胡の妖術か何かをお使いになるのか?この兵士たちはとても正気とは思えぬが・・・・・」
「そんなものは使えません、遥か西にある国の練兵の方法を取り入れたらこうなっただけです」
「確かに、これだけ良く鍛練された兵なら風たちの命令も聞いてくれそうですねー」
「少なくとも命令違反で戦線を離脱するなんて事は無いと思います」
二人が納得する中、稟が俺に対して神妙な面持ちで声を掛けてくる。
「・・・・・司馬懿殿、一つ聞いてもよろしいかな?」
「なんです?」
「この兵士たちは全て司馬懿殿が鍛えられたのですか?」
「そうですけど?」
「これだけの兵士を育てる事が出来、自ら賊徒の討伐に出向かれるほどのお方が何故周辺の地域で噂にならないのか、お聞かせ頂きたいのだが」
「・・・・・」
流石は稟、俺に何か裏があると読んでかまを掛けてきた。
とりあえず今は惚けて俺への興味を向けさせる事にしよう。
「さぁて、どうなんでしょう。自分自身の噂など特に気にした事が無いですから解りませんな。とりあえず、兵たちは貴方たちの命令を聞くことが分かって貰えた様ですし、もう一度さっきの返答をお聞きしたいのですけれど」
「・・・・・分かりました。貴方と言う人物を見定めるのには丁度良いお誘いですので、引き受けさせていただきます」
「そうですねー、風もお兄さんの事が気になりましたので、ここは話に乗る事にしましょう」
「ならば私も引き受ける事にしよう。幽州までの路銀稼ぎに丁度良いしな」
「そうですか、それじゃあ宜しく頼みます。郭嘉さん、程立さん、趙雲さん」
三人とも申し出を受けてくれた事に内心ホッとしながらも、顔に出さずに返事をしてから兵たちに隊編成の変更を命令する。
「左半分の隊は趙雲殿・郭嘉殿の下に付け!残った者は俺と程立殿が指揮を取る!分かったか!?」
「サーイエッサー!!!!!」
「ではこれより当初の予定通り盗賊団の討伐へ向かう!行軍開始!」
俺の号令で軍が移動を開始する。
俺は兵たちの中から適当な馬を三人に回す様、指示を出して盗賊団の砦まで三人と一緒に向かう事に。
すると向かう途中で風から声を掛けられる。
「それにしてもお兄さんは強引ですねー。引き受けると言う前に風たちを指揮官だと紹介するんですから・・・・・。もし風たちが断ったらどうするつもりだったのですかー?」
「その時は“お前たちが不甲斐ないから三人は指揮官の誘いを断った”と兵たちに言って無かった事にしただけですよ」
「・・・・・お兄さんは自分の兵たちの事をどう思っているのですかー?」
どうやら兵たちに浴びせる罵声のせいで俺が兵たちを何とも思っていないと勘違いしたらしい。
「別に彼らをどうでも良いとか道具としか思ってないわけでは無いですよ。皆俺が手塩にかけて育てた大切な精兵、ただ敵を前に逃げ出す者や新しく入った将だからといって命令を無視して全体を危険に晒す様な兵士が出ないようにしっかり教育しているだけです。そんな奴が居たら勇敢に戦う他の兵士が命を落とす事になりますからね。まぁ、甘やかすだけが優しさじゃないってだけですよ」
「・・・・お兄さんが兵を大切にする気持ちは良く分かりましたが、嗜虐的な趣味も持っている事が良く分かったのですよー」
「チョッ!俺は別にそんな趣味は」
「そんな事より司馬懿殿、そろそろ盗賊団の砦に着いてからの事を教えて頂けませんか?」
「そんな事って」
「確かに司馬懿殿のご趣味よりもそちらの方が気になりますな。我らの隊と風たちの隊で軍を二つに分けたという事は何か策があっての事とお見受けするが?」
「・・・・・・」
俺の誹謗中傷をそんな事呼ばわりして、稟と趙雲さんが俺に盗賊団を討伐する策が在るのかを聞いてくる。
少し泣きたくなりながらも、盗賊団の砦周辺の地形を教えながら、向こうに着いてからの事を説明することに・・・・。
「策ってほどの事ではないですけれど、まず俺と程立さんは兵の半数を率いて砦の前に陣取るので、趙雲さんと郭嘉さんには砦の西側にある小高い丘の裏側に兵を伏せておいて欲しいんです」
「丘の裏にですかー?」
「ええ、間諜の話によると盗賊団の砦周辺ではその丘以外は兵を潜ませる場所が無いらしくて…。俺と程立さんの隊が相手の注意を引き付けて東へ誘導、頃合いを見て合図を出すので、二人は合図を確認したら敵の背後を突いて俺達の隊と挟撃をお願いしたい」
「確かに丘の裏側ならば賊どもに見つかる心配も無いでしょうが、司馬懿殿が出す合図もこちらからは見えませぬ。どの様に合図を出されるおつもりか?」
「それに関しては、これを使うつもりです」
俺は袖の中から人の腕よりも若干太い筒を取り出し、稟たちに見せる。
三人はそれを見て一体何なのか分からず、首を傾げながら俺にそれについて訪ねてきた。
「お兄さん、これは何なのですかー?」
「これは発煙筒と言い、俺が武器の発注をしている鍛冶屋に作らせたものです」
「はつえんとう?一刀殿、それは一体どういった物ですか?」
「これを使うとしばらくの間、遠くからでもはっきり分かるような色が着いた煙が発生します。丘の裏側からでも空に煙が上がっているのが見える筈なので、それを合図に兵を動かして欲しいんです」
「・・・・司馬懿殿、これはあなたが考案された物なのですか?」
「・・・・ええ、作るために試行錯誤してくれたのは違うけど、考えたのは俺ですね」
真剣な顔で聞いてくる稟に対して、俺は事実のみを話す。
稟は俺の言葉を聞いた後、ただ一言「そうですか」と返事を返し、眼鏡の弦を指で弄りながら一人考え事をし始める。
俺は彼女の思考を遮る様な形で彼女に話しかける。
「それから郭嘉さんには盗賊団の討伐が粗方終わったら、預けた兵の半分を率いて蛻の殻になっている筈の砦へ向かって欲しいのですが、お願いできますか?」
「盗賊団の砦へ?一体何のためです?」
「盗賊団が略奪した物の中から“仲”と刻印された金塊が入った箱を探してきてほしいんです。他の物は砦ごと燃やしてしまっても構いません」
「司馬懿殿の字は仲達でしたな・・・・・賊どもに蔵の中身でも盗まれたのですかな?」
趙雲さんが俺の話を聞いて横から話しかける。
今聞いた話だけではその程度の事しか予想は出来ないだろうな。
「いえ、もうちょっと事情が複雑な物です。まぁ証拠品として必要な物ってところですね。引き受けてもらえますかな?」
「・・・・分かりました」
「ありがとうございます。もう少しで着く筈ですので、あとは手筈通り頼みます」
「承知」
「わかりましたー」
「はい」
三者三様、全く息の合わない返事をし、預けた兵を連れて稟と趙雲さんはその場を去り、俺と風だけが残る。
「それじゃあ砦へ向かいましょうか、程立さんは何かあったらあの二人に申し訳が立たないので俺の後ろに」
「おうおう、兄ちゃん。変な趣味を持っているくせに、いっちょまえに格好つけて女の気を引こうって言うのかい?そいつは十年早いぜ」
「と、宝ャが申しております。そんなわけで風の事は心配せずとも大丈夫なので、お兄さんは隊の指揮に集中して貰ったほうが良いかとー」
頭に乗っている宝ャを使って、俺の護衛を断る風、恐らく彼女なりの気遣いなのだろう。
「分かりました、それなら俺は隊の後退の指揮を取るので、程立さんは二人に合図を出す頃合を見計らってくれますか?」
「・・・・・ぐー」
「寝るな!」
「おおっ!?稟ちゃんに勝るとも劣らぬ見事な突っ込みでした」
戦の段取りを話してる最中に寝たふりをするとは、相変わらずだなぁ。
まぁ、お陰で大分リラックス出来たし良いんだけど・・・・。
そんな漫才をやっている内に盗賊団の根城である砦の前まで着いたのだが、見晴らしの良いため賊の物見に直ぐ見つかり、こちらが挑発しなくとも相手のほうから門を開けて勢い良く攻め込んできた。
「おやおや、折角お兄さんが夜も寝ないでお昼寝しながら考えた台詞が無駄になってしまいましたねー」
「いえ、そんなの大して考えてませんよ。銅鑼を鳴らして俺が攻めてきた事に気付いて、向こうから出て来てくれれば良いなぁ程度の事しか考えてませんでしたし、まぁ手間が省けて上々ってところです」
「お兄さんは何事にも前向きなのですねー」
「ですね。さて、そんな事より隊に号令を出しませんと・・・・・・・・貴様ら!賊どもが丁重な出迎えをしてきたぞ!これからお前らのお得意な楽しい後退戦闘の時間だ!気を引き締めて掛かれ!」
「サーイエッサー!!!!!」
俺の号令を聞いて兵たちは一斉に隊列を組み、突進してくる賊徒の群れに対して前列が槍撃を開始する。
相手の数は恐らく俺達の三倍といったところだろう、だがこちらのほうが兵の練度は圧倒的に上なので押し込まれる事無く、上手くいなしながら後退を開始する。
盗賊団は隊列も何も無く、ただ獲物に噛み付くだけの獣のような攻撃を繰り返す。
対してこちらは槍での攻撃を数回した後、前列が後列と交代して再び槍撃、交代した前列は最後尾で隊列を組みなおしてまた自分たちの順番を待つという集団戦闘を繰り返している。
おまけに盗賊団の主兵装が剣や短刀なのに対してこちらは槍、間合いの差もあり相手は次々と串刺しにされて行く。
それでも前進しているので自分たちが優勢だと思っている盗賊団は逃げる事無くこちらへ間断なく攻めてくる。
「さて、大分砦から離れたし、そろそろ後退方向を東へ変更しないとな」
「それじゃあ、星ちゃんたちに合図を出しますねー」
「ええ、発煙筒の上の方に紐が出ているので、そこに火をつければ煙が出ます。かなりの量の煙が出ますから火をつけたら少し遠くに投げたほうが良いですよ」
「はーい、わかりましたー」
風は俺に言われたとおり火をつけてから発煙筒を自分が投げれる限界まで遠くへ投げた。
丘の裏側で息を潜めて攻撃の機を待つ二人。
向こう側から聞こえてくる賊のものと思われる怒号が、戦の熾烈さを物語っていた。
「それにしても稟よ、司馬懿殿の兵は寡黙なものだな。普通これだけの鬨の声を聞けば少しはどよめきがあるものだが・・・・・」
「全くです。どよめくどころか私語の一つも発さず、直立したままその場で微動だにしない。余程の訓練を受けているようですね」
兵達を見回した後、星は稟にそれとなく司馬懿の事を聞いてみる。
「・・・・稟。あの司馬懿という御仁、どう思う?」
「正直なところ、まだ良く分かりません。周囲の地域の者からは無能と言われているようですが、これだけ良く訓練された兵を持ち、煙による遠方との連絡を考え出すだけの発想力。とても無能とは思えません」
「ならば、あの御仁は智勇に長けていて、それを隠して行動しているのではないか?」
「それだと我々にその片鱗を見せる辻褄が合いません」
稟は顔を星の方へ向けずに彼女の出した答えを否定する。
「もし周辺の住人にその事を悟られずに行動出来るほどの人物ならば、数日でこの地を去る見ず知らずの旅人である私たちに悟られるような行動を取るわけが無い」
「確かに・・・・」
「それにあの人が私に頼んできた金塊の件、どうもきな臭い匂いがします」
「どういうことだ?」
星は稟の言い出した事が理解できずに聞き返す。
「先ほどの司馬懿殿の言い方から察するに、賊の宝物庫に金塊がある事が初めから分かっている様な口ぶりでした。」
「言われてみればそうだな」
「その上であの方はその金塊を“証拠品”と言っておられた。ですが、証拠品とは何かをした者がそれをやった証として残してしまった不特定な物の事です。見つける前から何か分かっているのは可笑しい」
「なるほど、考えてみれば可笑しな話だ・・・・ならば稟はこの件をどう考えているのだ?」
「私は・・・・」
稟がその場で自分の答えを口にする事は無かった。
口にしようとしたところで、遠くに立ち昇る赤い煙が目に映ったためだ。
「・・・・・どうやら時間のようですね。話の続きはこれが終わってからにしましょう」
「だな。では、参ろうか」
星も煙を確認した後、隊に号令を掛ける。
「我らはこれより進撃して賊の背後を叩く!奮闘せよ!」
「サーイエッサー!!!!!」
「総員、行軍開始!」
「サーイエッサー!!!!!」
星の一声で丘に伏せていた隊は一糸乱れぬ動きで進行を開始した。
「二人とも動いたようですねー」
「よし、それじゃあこっちも後退戦闘をやめて二人に呼応して挟撃するとしますか・・・・・・後退戦闘終了!これより挟撃に移行する!貴様ら以下のくそったれどもを捻り潰せ!」
「サーイエッサー!!!!!」
俺の号令を聞いた兵たちは、前衛は隊列を維持したままその場で槍撃をし、後衛は隊列を二つに分けて左右に展開、敵を半包囲して殲滅に掛かる。
先ほどまでの後退戦闘でストレスが貯まっていたのか、各々が「死ねぇーーっ!!」だの「くたばれぇーーっ!!」だのと狂気に満ちた声を発して敵に襲い掛かり、最早どっちが賊なのか分からない状態だ。
盗賊団もこちらの士気の高さと圧倒的な力の差にようやく気付き、慌てて逃げ出そうとするが、後方から稟と趙雲さんの後詰めに攻撃されて逃げる事が出来ない。
そこからは最早、戦と言えるものではない。
逃げ場を失った盗賊団は混乱して士気はガタ落ち、成すすべも無く命を刈り取られていった。
ほとんどの賊を討伐した辺りで稟が砦へ向かったと報告を受け、全軍に指示を飛ばす。
「敵首領格と見られる男は捕らえてここへ連れて来い!そいつには用がある!」
「・・・・お兄さんは何を考えているのですかー」
「ん?どういうことですかな?」
「ここに来る前に証拠品が必要と言ってましたし、今度は盗賊団の首領を連れて来いと言いましたので、何か考えがあるのではないかと思ったんですよー」
「・・・・まぁ大体当っていますかな。とりあえず郭嘉さんが戻ってきてからの話ですけどね」
そう答えながら討伐を進めていく。
しばらくすると砦のほうから稟と兵たちが戻ってくるのが確認でき、金塊が入った箱を持って俺たちの所までやって来た。
(計画通り)
俺は稟が持ってきた箱を見ると、つい皆から顔を背けて凶悪な顔でほくそ笑んでしまった。
「稟ちゃん、おかえりなさいー。お兄さんに頼まれたものは見つかりましたかー?」
「ええ、ご丁寧に宝物庫に入って直ぐのところに置いてあったわ。探す手間が掛からないほどだったわね・・・・」
「お疲れ様です、その箱はその辺に適当に置いといて貰って構いません」
「・・・・司馬懿殿、この討伐が終わった後で幾つかお聞きしたい事があるのだが、よろしいか?」
「・・・・まぁ答えられる範囲でよければですが」
稟の問いに返答していると、兵士が後ろ手に縛られた大柄の男を連れてくる。
「太守殿!賊に命令を出していた首領と思われる男を捕らえたので連れて参りました!」
「ご苦労」
兵士の報告を確認して俺はその男へと視線を向ける。
するとそいつは捕まって身動きも取れないにも関わらず、ふてぶてしく俺に声を掛けてきた。
「てめぇがこいつ等の親玉か!?誰だか知らねぇが俺を捕まえると、この辺の刺史が黙っちゃいねぇぜ!命が惜しけりゃ、とっとと縄を解きな!」
「おやおや、捕まった賊とは思えないほどに威勢良い言葉ですねー」
男の言葉に風が呆れた言葉を発するが、男は風を一度睨んだ後、再度こちらへ顔を向ける。
俺は目の前にいる男に対して静かに声を掛ける。
「お前が略奪した物の中から、俺が先日この地の視察に来た宦官に渡した金塊が見つかっている」
「は?何を言ってやがる?」
「その宦官は先日、洛陽へ向かう途中の林道で首と胴が離れた遺体となって発見された。周囲の状況から考えて賊に襲われたとの報告を受けている」
「だから何言ってやがるんだてめぇ!!?」
「その報告を受けて俺は賊の討伐を都に申請し、仲間を殺された宦官どもは快諾しているだろう。刺史にもその事を連絡してある。今頃はお前との癒着が暴露されるのを恐れて自ら官職を辞している頃だ。お前の後ろ盾など最早何も無い、諦めろ」
「何だと!?そんな馬鹿な話があるわけねぇだろ!!第一、俺はそんな金塊の事なんぞ知らねぇ!!」
「お前の証言などさして重要ではない。視察に来た宦官が賊に襲われ、その宦官が持っていた金塊がお前の砦から出てきた。この事実のみが重要なんだよ」
「!」
俺の言葉を聞いて、男は自分が嵌められた事にようやく気付く。
自分が手を組んでいた刺史が官を辞していると言う話も恐らくは本当だと悟り、さっきまでの威勢も無くなって大人しくなる。
「お前の頸は刎ねた後に、そこの証拠品と一緒に洛陽へ送り届けさせてもらう。賊に身を落とした事を後悔するんだな」
「・・・・・」
「司馬懿殿、賊徒の討伐が終了したので合流した。貴方から預かった兵をお返しする」
男に話しかけていると、後ろから盗賊団の討伐を終えた趙雲さんが合流する。
「あ、趙雲さん、お疲れ様です。謝礼の件ですが城に帰ってから渡す事に」
「・・・・・・・畜生・・・・・・畜生───ッ!」
俺が趙雲さんと話をしている隙を突いて、男は縛られていた筈の両手を使い風へと襲い掛かる。
普段なら直ぐに対応出来たが、趙雲さんへ意識が向いていた上に、縛られて身動きが取れないという先入観で対応が遅れてしまい、風を人質に取られてしまう。
「「風!」」
「近づくんじゃねぇ!一歩でも動いたらこいつの喉を掻っ切る!」
男は隠し持っていたと思われる短刀を風の首筋に当てて俺達を脅迫する。
恐らくあれで手を縛っていた縄を切ったのだろう。
「チッ。卑劣な真似を・・・・・・っ!」
「何とでも言いやがれ!この場を凌げればあとはどうとでもなる!さぁ、この女を助けたけりゃ、さっさと道を」
ズチャ
男が周囲に言葉を発している途中で、何か泥の塊が落ちたような音が鳴り、そこに居るほとんどの者が音がした所に目を向ける。
そこには俺が切り落とした、短刀を握り締めた男の右手が地面に赤い模様をつけて転がっていた。
「ひ、ひいぃっ!お、俺の右手が!右手が無」
男はその言葉を言っている最中に首が転げ落ちて骸になる。
俺は頸を刎ねて男が死んだ事を確認すると、男の胴を蹴り飛ばし、捕まっていた風をこちらへ抱き寄せた。
「お兄・・・さん・・・・?」
今、俺は恐らくとても見れたものではない顔をしているのだろう。
自分でも自覚がある。
何せ風の命が危険に晒されたのだ。
最早そこに転がっているものを人であったとは俺は思うことが出来ない。
まるで溝鼠のくそを見るような顔をしているに違いない。
俺は目を瞑り、心を落ち着かせてから抱きかかえた風に話しかける。
「怪我は在りませんか?程立さん」
「・・・・お兄さんのお陰で怪我をせずに済みました・・・・・。ありがとうございますー」
風のその言葉を聞いて内心胸を撫で下ろし、彼女から離れると、近くに居た連隊長に指示を飛ばす。
「そこに転がっている頸と金塊の入った箱を回収後、点呼を取れ。全員の点呼を確認後俺に報告しろ」
「サーイエッサー!」
俺の指示を聞いた連隊長は、刎ねた男の頸と金塊の箱を近くに居たの班の兵士に回収させると、軍全体の点呼を取る為に俺の下を後にする。
それを確認した後、俺は再び風のほうを向いて誠心誠意、謝罪した。
「すみません、程立さん。君を守ると言って置きながら・・・・・・結局、君を危険な目に合わせてしまった。いくら言葉を重ねても謝罪出来る気がしません。本当にすみませんでした」
「いいえー、その話は風が断っていましたし、お兄さんは風を助けてくれたので、気にする必要はないのですー」
「でも、それでは俺の気が治まりません。何かお詫びをさせて下さい」
「そうですねー、それでは風たちに、この一件でお兄さんが何をしたのかを包み隠さず教えていただけないでしょうか?」
「・・・・・・分かりました。この場で話す内容でもありませんから、城に戻ってからになりますけど、それでも良いですか?」
「いいですよー、そのくらいなら待つ事も出来ますし・・・・・星ちゃんたちもそれで良いですかー?」
「構わんぞ、その程度待つ事が出来ないほど、私も短慮ではないのでな」
「私もそれで構いません。寧ろ私の聞きたい事も答えて頂ける様なので手間が省けました」
三人が納得していると、連隊長がこちらに戻ってきて点呼の報告を始める。
「太守殿!点呼が完了した為、ご報告に上がりました!負傷者二十名、殉職者、行方不明者ともに無し!この規模の戦闘での被害としては軽微です!」
「ご苦労、直ちに城へ帰還する!総員、行軍開始!」
俺の号令を聞いて全軍が移動を開始する。
こうして、俺達は盗賊団の討伐を完了し、主の居なくなった砦を後にした。
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ゴールデンウィークは結局何処にも出かけずに終わりそうです。 (恋姫一からやり直してる的な意味で) |
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コメント | ||
さてさて・・・星&稟&風に残ってもらえるか続き気になりますね・・・w(howaito) なかなかに面白い展開になってまいりましたね! さて、3人はどうするのか……(神余 雛) この調子でどんどん人材を取り込もう!あとイケそうなのは朱里・雛里と三羽烏あたり?(牛乳魔人) 一刀の攻撃は最早霞をも超える神速の一撃・・・カッコイイですね〜♪(本郷 刃) 来ましたねーいやぁかっこいいですねぇ。次も楽しみにしています。(Fols) 第二部来たー!!そんでもって一刀最高!強い!男!かっこいい!!!次の更新も楽しみにしています♪(アサシン) |
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