戦火に生きし魔鬼 〜蜀伝 神殺しの鬼〜 2
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「さて、これからどうするかな。」

 

さっきの村は襲われたばかりだからよそ者を抱え込めるほど余裕はないだろう。

というわけで引き留める村人たちに別れを告げてさっさと村を出た。村人たちに教えてもらった最寄りの村に行くために。

 

「・・・北ってどっち?」

 

北に二日ほど行ったところ。なんていわれても北がどっちかわからん。太陽は傾いているが西か東かわからん。ここはやたら動かず川で野宿して夜明けに出発しよう。朝になれば方角も・・・。

 

と、これからのことについて頭を働かせていると背後から気配を感じすかさず身をかがめる。

するとさっきまで俺の首があったあたりを恐ろしいまでに重量感のある刃が風を切りながら通過した。

誰が、なぜ、などと一切考えず襲撃者の撃退に思考を切り替える。おそらくさっきの賊の生き残りが報復にでも来たのだろう。て、ちゃっかり考えてるし。

 

しゃがんだまま相手に蹴りを放つ。

襲撃者は上半身を軽くそらしてそれをかわすと今度は返す刃をしゃがんだままの俺に向ける。普通なら転がってかわすが相手に遠慮する必要がないのでさらに攻めたてる。

 

片足だけで跳躍し刃をかわす。そのまま後方宙返りで遠心力を乗せた蹴りを振り下ろす。バックステップでかわされるが手を緩める気はない。

着地と同時に再び跳躍。体をねじり空中で向きを変えるとそのまま回し蹴りを放つ。しかししゃがんでかわされる。チッ。

 

「やれやれ、いきなりなんなの。これから寝床の確保と晩飯の用意をするんだ。邪魔するな。」

 

着地してため息を吐きながら文句をつける。

山菜にきのこ、川魚を満足できるまで採るとなるとかなり時間がかかる。特に魚は釣りができない以上手で捕獲するしかない。さっきちゃっかり賊から短刀をくすねとかなかったら魚抜きだったな。貴重なタンパク源だからしっかり摂取しないとな。

 

「いきなりの無礼どうか許してもらいたい。私も一介の武人故ぜひ手合せをしたかったのです。」

 

そう言いながらフードを取る。

長い黒髪に特徴的な切れ長の目、凛とした整った顔立ち。美人という言葉が具現化したような女性だ。それにさっきの攻防で彼女がかなり腕の立つ武人であることがよくわかる。龍の装飾の施された偃月刀も演舞用ではなくいくつもの命を絶ってきた正真正銘の武器であることがよくわかる。

 

「あなたのような美しく強い武人にそういってもらえてうれしいが俺は急いでいるんで失礼させてもらう。」

 

「では寝床と食事を提供するので話を聞いてもらえませんか?」

 

「よし、聞こうじゃないか。」

 

無駄な労力は使わないにこしたことない。

 

「私は姓を関、名を羽、字を雲長といいます。あなたは?」

 

「俺は・・・。」

 

・・・あれ?俺誰だっけ?

燃える村、数千の賊とおもしき人間。そいつらと戦う俺、両の手に持つ刀。それだけの記憶。

なぜ戦う?なぜ殺す?なぜ悲しい?

俺はいったい何者なのだ?

 

「記憶がない?」

 

そうとしか思えない。

さっきまでなぜか流れるように思考が働いた。おそらく以前にも似たようなことを体験したのだろう。内容も気になる。

核により死滅させられた緑。おそらく核とは兵器のこと。それも世界中を歩き回ったということはおそらく世界は荒廃したと思っていい。だがここは緑であふれている。それはなぜだ?

 

「記憶がない?ご自分のことがわからないのですか?」

 

さらに深く思考を巡らそうとすると関羽が現実へと意識を引き戻した。

 

「ああ。すまない。」

 

「それは不便ですね。何か考えないと。」

 

そう言って考え込む関羽。自分のことでもないのにしっかり考えてくれるとはやさしいね。

そういえばこんなふうに他人ごとに入り込んできて引っ掻き回すだけ引っ掻き回して最終的に丸く治めるやつがいたな。誰のことだろうな。・・・ほんとに誰のことだ?というかそんなやついたのか?

 

「関龍、というのはいかがですか?龍のようにお強いですから。」

 

「べつにいいがいいのか?お前から一文字もらっても。」

 

「かまいません。」

 

ほんとにいい((娘|こ))だな。親御さんの顔が見てみたいものだ。いつかお礼をしに行かないとな。

 

「ではまいりましょう。姉上たちが待っています。」

 

たちということはほかにも仲間がいるということか。これほど良識のあるやつの仲間ならきっといいやつばかりなんだろうな。楽しみだ。

 

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「ただいまもどりました。」

 

さっきの村から少し離れたところにいつの間に駐屯地ができており多くの天幕が張られていた。その一つに関羽と共に入る。

 

「おかえり、愛紗ちゃん。」

 

「遅いのだ、愛紗。」

 

 

 

中には桃色の髪をした女性と赤い髪の女の子がいた。というか愛紗って誰?ここには俺と関羽しかいませんが?まさか関羽とは偽名で本当は愛紗って名前かもしれない。初対面の、しかも得体のしれない男に思わず偽名を名乗ったとしてもおかしくない。

 

「関羽、だよな。」

 

隣に立つ関羽に訪ねる。

これで「ふ、ばれてしまいましたか。」とか言って来たらどうしよ。

 

「真名をご存じないんですか?」

 

「まーな。」

 

「「「・・・。」」」

 

そんな冷たい視線を送らないで!寒い方が好みだけどそんな絶対零度の視線は冷たすぎて逆に痛いです。

 

「・・・真名とはその人を表す真の名です。本人の許可なく呼べば切り殺されても文句は言えません。」

 

呆れ気味の関羽が説明してくれた。たしかに殺されたら文句も言えないな。逆に言えば殺されなければなんともなんだろうな。

 

「というかそいつ誰なのだ?」

 

赤い髪の少女が関羽に聞く。

しかし背が小っさいな。12、3ぐらいだぞ。そんな子供でも剣をとらなきゃならんのか?

 

「こちらは関龍殿だ。村を襲った賊を撃退してくださったお方だ。」

 

あそこを見られてたか。まぁ、いきなり襲われたからなんとなくそんな気がしてたがな。できれば加勢してほしかったな。

 

「あ!村長さんが言ってた流浪のお兄さんですね。」

 

どうやらすでに村人から話を聞いたらしい。

 

「わたしはこのあたり一帯を治めている劉備、字を玄徳と言います。」

 

「鈴々は張飛なのだ!」

 

にこにこしながらいう劉備と元気がいい張飛。

劉備は普通の女の子だが張飛はかなりの腕だな。それでも戦場には立ってほしくないな。小さい子には未来がある。無垢な心を汚されるよりもっと明るい世界で生きてほしいものだ。戦なんてくだらないものは俺みたいなくだらない人間にまかせてほしい。あ、別に関羽を貶してるわけではない。

 

「で、話ってなんだ?」

 

関羽に聞く。

ここに来たのは話を聞くだけで寝床と食事をくれるというからだ。だったらさっさと話を聞いて食事にありつきたいものだ。

 

「それは夜にしましょう。まずは村の復興に手を貸さなければならないので。」

 

「愛紗行くのだ!!」

 

そう言って天幕を出ていく関羽と張飛。幸いなことに死者も出なかったし建物への被害も些細なものだったため元通りになるまでそんなに時間を有しないだろう。

そんなわけで俺は今夜の寝床と食事を獲得できた。しかし、劉備、関羽、張飛、なんか引っかかる名前だな。知り合いに同じ名前のやつでもいたのかな?

 

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