真恋姫†夢想 弓史に一生 第七章 第十二話 |
〜于吉side〜
「ご報告申し上げます!!!! 敵後方から新たな一団が出現。旗印は『孫』!! いかがなさいますか?」
「……………ならば全軍を投入して対処しなさい。」
「はっ!!!」
足早に去っていく兵士の後姿を視界の端に捕らえながら、やれやれと頭を振る于吉。
「まさかここで江東の虎がお出ましとは……………史実を曲げることは出来そうにありませんね…。」
虚空を見つめ、ぼそりと呟く。
「まぁ、良いでしょう。この戦の決着は既に付いているようですし、素直にここは彼らの策に乗りましょう…。せいぜい派手に暴れてください。」
高台から戦場を見渡し、先程の報告にあった『孫』の旗印を見つける。
「しかし、あくまで史実どおりに進むと言うなら………英雄にはここら辺で退場していただきますか……。」
口の端を僅かに吊り上げ、于吉は不気味に笑うのだった。
〜一刀side〜
孫堅軍の参入により勢いを取り戻した俺たちの軍は、賊の進攻をただひたすらに食い止めていた。
賊の方も急な孫堅軍の出現に驚いている様子で、浮き足立っており思うように攻め込めていない。
戦場はまさに膠着状態にあった。
「伝令!!!! 敵の後方部隊が出陣!!!」
「よしっ、これで全軍が釣れた!! 関羽将軍と孫堅将軍に連絡!! 俺たちは後退を始めるぞ!!」
敵の全軍投入が確認されたと同時に隊を下げ始める。
俺たちの隊の動きを見て、愛紗や孫堅さんも軍を退きはじめた。
するとそれを見た賊の一団は、敗走と思い込み追撃を仕掛けてくる者と何かの罠ではないかと様子を見ている者とに分かれはじめ、軍全体が間延びしたような形になった。
その瞬間を見逃さない我が軍師達は、ドラを高々と鳴らす。
「にゃ!! ドラの音なのだ!! 皆、気合入れていくのだ〜!!!!」
「「「応〜!!!!!!!!!!」」」
ドラの音に合わせて、賊の東側からは鈴々率いる強襲部隊が現れ、
「ドラの音っ!! よ〜し、皆張り切って行くよ〜!!!!」
「思う存分とごえるっちよかよ〜!!!!」
「「…………??」」
「あ……暴れるって意味たい……。」
「そうなんだ!! よ〜っし!!!! 皆、思う存分暴れてきなさい!!!!」
「……………頑張れ…!!」
「「「応〜!!!!!!!!!!!」」」
賊の西側からは音流、雅、蛍の率いる部隊が挟撃をかける。
左右からの伏兵に驚き、賊共は多いに混乱し始めた。
よしっ、今が好機!!!!
「全軍反転!!!!! 今までやられた恨みを晴らせ!!!!」
「「「応〜!!!!!!!!!」」」
今まで退却していた俺たちの隊、関羽隊、孫堅隊が反転。
一転攻勢の兆しを見せた我が軍の前に、賊の統率はボロボロになり、後は殲滅戦を繰り広げるだけとなる。
こっちの戦いは既に終止符が打たれた……。
聖、そっちはどうなんだ……??
〜于吉side〜
「ほう………自身の隊だけではないと言うのに、見事に息のあった連携をして賊共を引っ張り出していますね……。となると、目的は間延びした中央への伏兵の横撃……。」
間延びした中央の賊から、その左右へと目線をずらす。
「ふふふっ。予想通り、左右から伏兵が飛び出してきましたね…。これで混乱したところにさっきまで後退していた軍が反転してぶつかり、三方から挟撃される形になった賊軍は殲滅されるのを待つだけ……と…。素晴らしい…素晴らしい軍略ですね!! ……あなたも、そう思いませんか?」
振り向きざまに天幕の入り口に目を向ける。
「………生憎、うちの軍師様方は優秀でね……。」
声と共に姿を現す男。
男の纏う空気は重く、殺気に満ちているように見える。
「おやおやっ……。そんなに殺気を溢れさせていたら、折角ここまでの作戦が成功して、私と一対一と言う状況を作り出したと言うのに、外にいる兵に気付かれてしまいますよ?」
「へっ……ご心配には及ばねぇよ……。既に外の兵には眠ってもらっている…。」
「随分とまぁ、乱暴な方ですね……天の御使いは…。」
「………やはり、それも知っているのか…。」
「知っていますよ。何故かは言いませんが…。」
「構わねぇよ……。てめぇを倒して口を割らせればすむことだ…。」
「……出来るのですか? 昨日私に負けたあなたにそれが…。」
「出来るかどうかじゃなくてやらなきゃいけないのさ……。この戦を終わらせるために…。」
男は静かに彼の武器である剣を抜く…。
「面白い……。では、見せてください。君の本当の力……天の御使い、徳種聖のその『弱い』力というものを!!」
〜聖side〜
作戦通り、敵陣内で于吉と一対一と言う状況を作り出すことに成功はしたが……。
どうやら、これが作戦であることが奴にはばれているようだ……もしかしたら罠が張ってあるかもしれない…。
そんな不安も考えながら、しかし于吉本人にも油断が出来ない。
ある程度の距離を保ちながら、それでも直ぐに攻撃を仕掛けれるように準備はしておく…。
「ほらほら……。あなたの力を見せてくれるのではないのですか? それとも、やはり『弱い』君では私を倒すのは無理だと怖気づきましたか? まぁ、私としては時間をかけてくれて結構……。陣を出て行った兵たちは先程のあなた方の攻撃で多大な被害を出しながらも、幾許かはこの陣に戻ってくるでしょう……。そうなれば、あなたが不利になるのはこの上ない事実……。さぁ……どうしますか?」
于吉の言うことは尤もなことで、時間をかければかけるほど敗残兵がこの陣に戻ってくるのは想像に難しくない…。
そうなった時、複数に囲まれると流石に俺も厳しい…それほど数の差と言うのは物を言うのである…。
于吉が罠を張っているのかないのか……それはまだわからない状況であるが、俺から仕掛けないとしょうがない……。
ピチョンピチョンと落ちる水の音でタイミングを取りながら、切りかかる機会を窺う。
「はぁぁあああああああああ!!!!!!!!!」
乾坤一擲、奴に向かって最速の踏み込み、最速の抜刀、最速の振り抜きを行った……はずだったのだが…。
ガキンッ!!!!!
「遅いですね〜……そんなんで私を殺させると??」
于吉は俺の剣を鉄扇を使っていとも簡単に止めると、余裕綽々の顔でそう言った。
やはり、本来の剣速と比べると圧倒的に遅くなっている…。
「くそっ……。なら、これならどうだ!!!」
刀を手元まで引いてから袈裟切り、逆胴斬り払い、三段突き、身体を入れ替えながらの逆袈裟切り、切り上げからの唐竹割りと連続攻撃を仕掛ける。
しかし、それも全て于吉は鉄扇を使って捌ききってみせた。
「っ!? まさか…。」
「ほらほら、隙だらけですよ!!」
「うぐっ……。くそっ……。」
流石に一撃くらいは入るかと思っていた俺だったので、全てを防がれて少し動揺してしまった。
于吉はそれを見逃すことはせず、鉄扇で俺の左腕を切り裂いた。
距離を離して自分の怪我の具合を確認するが、鉄扇は筋組織数本を切断し、左手に力が入らない…。
于吉と言う男を前に、このハンデはあまりにも大きいものとなる。
さらに、どうして自分の攻撃がこんなにも遅くなってしまうのか……その謎が解明できてない。
まさに絶体絶命の状況である。
「左手が使えなくなり、右手一本で私と勝つことがあなたに出来ますか? 無理でしょうね……他の人に勝つならいざ知らず、この私に勝とうと言うのだから………私は『強い』、あなたは『弱い』これは既に決まりきっている事実、早々にこの事実を受け止めたほうが、あなたも楽だと思いますよ?」
「……はぁ……はぁ……。 確かに、右手一本じゃあ不便かもしらねぇが、お前如きのハンデには持って来いだろ?」
「………ほぉ…。この状況でまだ虚勢を張りますか…。見上げた根性ですね。果たして君を突き動かすものは何なのか……。」
「さぁ〜な………。 はっ!!!!!」
再び一足飛びで于吉へと近付く。
「……無謀にも無策で飛び込んでくるとは……。」
「うぐっ……うぅぅぅ〜……。」
于吉はひらりと俺の攻撃をかわすと、すれ違いざまに両足を切りつける。
一瞬早くそれに気付いた俺だが、完全に回避することは出来なく、浅くはあるが両足に傷を負ってしまう…。
これで、足も止められた…。
「まったく……少しは考えて行動したらどうですか? そんな単純な攻撃、一般兵でだって避けきれますよ?」
「………ぐっ…。畜生……。」
足へ思うように力が伝わらず、膝立ちの状態から立つことができない。
これは単に傷が原因というだけでなく、于吉と言う人物への俺自身の恐怖が具現化しているのである。
于吉はゆっくりと俺に近付くと、鳩尾目掛けて拳を打ち込んだ。
「うっ……げほっ…ごほっ…。」
鳩尾に拳を食らった俺の体は海老の様に反り返り、力無く地面にうつ伏せに倒れこむ。
「天の御使い?(ガッ!!)この世の救世主?(ゴッ!!)鬼の化身?(ガッ!!)笑わせてくれますね!! そんなもの居やしないのに……。居るのは、私の目の前にひれ伏しているあなただけだと言うのにね!!!!(ガンッ!!!!!)」
于吉は倒れこんだ俺の頭を掴むと、地面へと数回叩きつけた。
「分かりましたか?天の御使い君…。この世を救うのなんて君には無理なんですよ…。分かったらさっさと消えてくれませんかね?」
ボロボロになった俺に満足したのか、頭を打ちつけることを止め顔を覗き込んでくる。
「………気に入りませんね…。何ですかその目は!!!!」
「………へっ……下等な…生物を見下す目だよ……。」
「…何っ??」
血走った目を見れば、こいつが相当怒っていることが容易に想像できる。
「……案外と…お前も人間としての矜持を…持ち合わせて…いるんだな…。下等生物のくせして…生意気…だぞ…?」
「この………減らず口を……!!!!」
乱暴に頭を地面に叩きつけると、持っていた鉄扇で背中を切り裂く。
「ぐあっ………。」
背中からは大量に血が噴出していることが分かる。この出血が続けば命に関わるだろう…。
「いい気味だ……。苦しいだろう? 今すぐにでも殺して欲しいだろう?」
「へっ………そんな……こと……出来ないくせに威張ってんじゃねぇぞ、この三下が!!!!」
「……なんだと?? いい加減その口を塞いでやる!!!!」
鉄扇は頭を目掛けて振り下ろされる。
しかし、あと数センチと言うところで鉄扇はその動きを止めた…。
「おっと……私としたことが……冷静さを欠くとは情けない……。」
于吉はその表情を元の無表情な面に戻し、髪を引っ張るようにして俺の顔を持ち上げる。
「あなたの罵倒、素晴らしいものでしたよ? まさか、私があんなに乱れるなんて……。そのお礼として、あなたには素敵な贈り物をしなくては……。」
于吉のその不気味な笑い顔をみると、血の気が引き背筋にびっしりと嫌な汗をかく…。
「な……何を……する気だ……??」
「どうやらあなたを虐めても面白く無さそうだし、どうせならあなたの心を抉ろうかと思いましてね…。」
そう言って、鉄檻の方へと歩みを進める于吉。
「ま……まさか……やめろ!!!! 彼女たちに手を出すんじゃない!!!!」
「おやっ? 予想以上に効果がありそうですね…。これは、やる価値がありそうです。」
「やめろ!! やめろ〜!!!!!!!!!!!!!」
一際大きな絶叫をしたその時だった。
「……手負いの女に手を出すとは……卑怯者のする事と心に刻んでおけ!!!!」
「何っ!!!!???」
天幕の入り口が勢い良く開かれ、一陣の風が吹き抜けたかと思うと、その風は于吉の腹を切り裂く実体となって現れた。
「くっ……思った以上にお早いお着きじゃないですか……。」
「何……雑魚共相手に寧ろ時間を使いすぎたぐらいだ……。貴様がここの大将か?」
「そうですが?」
「ならばこの戦を締める為、貴様の首を差し出してもらおうか?」
「あなたにそれが出来ますか? 孫堅殿。」
于吉と対峙している人を俺は見間違えるはずも無く、その褐色の背中が王としての威厳を醸し出している。
「蓮音……様……。」
消え入りそうな程微かな声を、蓮音様は聞き漏らす事無く、こっちを一度見てにこりと微笑んだ後、再び于吉の方に鋭い目線を向ける。
「お疲れ様、聖。後は私に任せなさい。」
その言葉は今までに感じたことが無いほど力強く、
「………少しの間、お願いします…。」
俺は少しの間、蓮音様に于吉の相手を任せるのだった。
弓史に一生 第七章 第十二話 激闘 END
後書きです。
第七章第十二話の投稿が終わりました。皆さんいかがだったでしょうか…??
今回で、黄巾賊との戦いは終わりです。
今話からは敵の黒幕、于吉との戦いが始まっています。
一度敗北をしている于吉相手、しかも傷を負い思うように動け無い中、果たして今後聖はどうするのか、助けに来た蓮音様の活躍は??
次話をお楽しみに!!!
次話は来週の日曜日に……。
それではお楽しみに!!
説明 | ||
どうも、作者のkikkomanです。 今回は黄巾の乱の戦闘編の続きです。 皆さんはきっと今回も思うことでしょう。 蓮音様カッコいいと………。 何故か蓮音様出すとカッコ良くなっちゃうんですよね………。 なんでなんでしょうかね……?? |
||
総閲覧数 | 閲覧ユーザー | 支援 |
1358 | 1245 | 7 |
タグ | ||
真恋姫†夢想 オリ主 オリキャラ多数 バトル回 次に読者は「蓮音様カッコいい」と言う…。 | ||
kikkomanさんの作品一覧 |
MY メニュー |
ログイン
ログインするとコレクションと支援ができます。 |
(c)2018 - tinamini.com |