ソードアート・オンライン 黒と紅の剣士 第七話 打ち上げ兼忘年会 |
和人視点
現実世界の自室のベッドで覚醒するや真っ先にエギルに予約の電話を入れると、「そろそろ来る頃だと思ってたぜ。」と言われて、驚かされた。
どうやら、大地がクエスト開始前に前もって連絡を入れていたそうだ。
相変わらず、そういうところまでしっかりというか、ちゃっかりしているなと感心させられてしまう。
天気予報は夕方から雪だったので、直葉と2人、バイクではなく電車で都内を目指す。
どうせ今回はやや大型の荷物があったので、狭いメットインしかない俺のおんぼろ125ccでは厳しい。
東京に着くと、俺たちは電車から降り、駅を出て台東区御徒町の裏通りへ向かう。
2時過ぎにダイシー・カフェに着き、ドアを開けて中に入ると、1人だけ先客がいた。
激近に家があるシノンだ。
アンドリュー「ようキリト、早かったな。」
和人「おっす、エギル。悪いないつも押しかけて。」
ちょうどシノンにジンジャーエールを出していた店主と挨拶を交わしてから、運んできたハードケースを開く。
収められているのは、四つのレンズ可動式カメラと制御用のノート型PCだ。
詩乃「・・・なにそれ?」
眉を寄せているシノンと直葉にも手伝ってもらってカメラを店内の4か所に設置する。
市販のマイク内臓ウェブカメラを、大容量バッテリー駆動及び無線接続できるように改造したもので、置き場所を選ばないためこのくらいの空間なら4つでほぼフルカバーできる。
カメラをノートPCで認識し、動作確認を取ってから、最後に川越の自宅にあるハイスペック据え置き機にインターネット経由で接続。
小型ヘッドセットを装着して、話しかける。
和人「どうだ、ユイ?」
ユイ[見えます。ちゃんと見えるし、聞こえます、パパ!]
俺の耳のイヤホンと、PCのスピーカーからは、ユイの可憐な声が響く。
和人「OK、ゆっくり移動してみてくれ」
ユイ[ハイ!]
返事に続いて、一番近くのカメラが小口径のレンズを動かし始める。
ユイは今、このダイシー・カフェのリアルタイム映像を疑似3D化した空間で、小妖精のように飛翔していると感じているはず。
画質は低いし応答性も悪いが、携帯端末のカメラから受動的に現実世界の映像を得るのに比べれば、自由度は格段に高い。
詩乃「・・・なるほど、つまりあのカメラやマイクは、ユイちゃんの端末・・・感覚器ってことね。」
シノンの言葉に、俺ではなく直葉が頷く。
直葉「ええ。お兄ちゃん、学校でメカ…メカトニ・・・」
和人「メカトロニクス」
直葉「それニクス・コースっての選択してて、これ授業の課題で作ってるんですけど、完全ユイちゃんのためですよね。」
ユイ[がんがん注文出してます!]
あはは、と笑い合う3人に、相変わらずカラいジンジャーエールを啜りながら反論する。
和人「そ、それだけじゃないぞ!カメラをもっと小型化して、肩とか頭とかに装着できるようになれば、どこでも自由に連れていけるし・・・」
直葉「だから、それもユイちゃん仕様でしょ!」
全く反論できない。
そんな俺を見て、再び3人が笑う。
その時、入り口のドアが開いた。
視線を向けるとそこには、デュオとシリカの姿があった。
大地「楽しそうだな。」
珪子「こんにちは。」
2人はそう言って店内に入ると、店内に設置されているカメラを見てシリカが訊ねてくる。
珪子「この機械はなんですか?」
直葉「これは、お兄ちゃんの学校の課題。まぁ、ほとんどユイちゃん仕様にカスタマイズされてるけどね。」
珪子「なるほど。」
大地「さすがはパパだな。娘のことをちゃんと考えてる。」
和人「からかうなよデュオ。シリカも納得しなくていいから。」
そんなやり取りに、またも笑いが起こった。
だが、俺は見てしまった。
俺のことをからかっていた時、デュオの眼が光を失って濁っていたのを。
しばらくして、アスナ、クライン、リズ&ガッシュ、最後にエルフィーの順でメンバーが集い、2つのテーブルをくっつけた卓上に料理と飲み物が並べられた。
最後に、見事な照りをまとったスペアリブの大皿が出てくると、全員で店主に拍手。
エギルもエプロンを脱いで席につき、ノンアルコールと本物のシャンペンがグラスに注がれる。
キリト「祝、【聖剣エクスキャリバー】とついでに【雷槌ミョルニル】ゲット!お疲れ、2025年!乾杯!」
という俺の省略気味な音頭に、全員が大きく唱和した。
詩乃「・・・それにしても、さ。どうして【エクスキャリバー】なの?」
宴会開始から一時間半が経過し、ご馳走があらかた片付いた頃、俺の右隣に座るシノンが呟いた。
和人「へ?どうしてって?」
質問の意味が汲み取れずに首を傾げると、シノンは指先でフォークを器用にくるくる回しながら補足した。
詩乃「普通は・・・っていうか、他のファンタジー小説や漫画とかだと大抵【カリバー】でしょ。【エクスカリバー】。」
和人「あ・・・ああ、そういうことか。」
直葉「へえ、シノンさん、その手の小説とか」読むんですか?」
向かいに座る直葉が訊ねると、シノンは照れ臭そうに笑った。
詩乃「中学の頃は、図書室の主だったから。アーサー王伝説の本も何冊か読んだけど、訳は全部【カリバー】だった気がする。」
和人「うぅーん、それはもう、ALOにあのアイテムを設定したデザイナーの趣味というか気まぐれというか・・・」
情緒のない俺の反応に、左隣に座るアスナが苦笑した。
明日菜「たしか、大本の伝説ではもっといろいろ名前があるのよね。さっきのクエストじゃ偽物扱いされてたけど、【カリバーン】もその1つじゃなかったかしら。」
すると、卓上のスピーカーからユイがはきはきと答える。
ユイ[主なところでは、【カレドヴルフ】、【カリブルヌス】、【カリボール】、【コルブランド】、【カリバーン】、【エスカリボール】等があるようです。]
和人「うは、そんなにあるのか。」
大地「伝説の剣はほとんどいろんな国で語られてて、地域によって名前が変わるからな。エクスカリバーは特に別名が多いだろ。ちなみに電子辞書で引くと、エクスキャリバーでしか出てこないぞ。」
和人「へえ〜。」
驚きつつ、それなら【カリバー】と【キャリバー】なんて誤差みたいなもんだよなと思っていると、シノンが再び口を開いた。
シノン「まあ、別に大したことじゃないんだけど・・・【キャリバー】って言うと、私には別の意味に聞こえるから、ちょっと気になっただけ。」
和人「へえ、意味って?」
大地「((caliber|キャリバー))銃の口径のことだろ。」
詩乃「そう。よくわかったわね。まあ、エクスキャリバーとは綴りは違うと思うけどね。」
一瞬口を閉じたシノンは、ちらりと俺とデュオを見てから続ける。
詩乃「・・・あとは、そこから転じて、【人の器】っていう意味もある。《a man of high caliber》で《器の大きい人》とか《能力の高い人》。」
直葉「へええーっ、覚えとこ・・・」
直葉が感心すると、シノンは「多分受験には出ないかな。」と笑う。
と、いつの間にか話を聞いていたらしいリズベットが、テーブルの反対側でにやにや顔を作って言った。
里香「ってーことは、エクスキャリバーの持ち主はデッカイ器がないとだめってことよね。
なんかウワサで、最近どこかの誰かさん2人が、短期のアルバイトでどーんと稼いだって聞いたんだけどぉー。」
和人「ウッ・・・」
大地「ああ、あれか。」
総務省の菊岡から、【死銃事件】の調査協力費が振り込まれたのはまさに昨日のことだ。
しかしすでにそれを当てにしてユイの据え置き機パワーアップ用のパーツを色々、あと直葉のノンカーボン竹刀も発注済みで、残高は早速かなり寂しいことになっている。
しかしここで引いてはそれこそ器が問われるというものだ。
どーんと胸を叩き、宣言する。
和人「も、もちろん最初から、今日の払いは任せろって言うつもりだったぞ。」
途端、四方から盛大な拍手とクラインの口笛が響いた。
デュオだけは呆れるように肩を竦めてため息をついていた。
ちなみに、会計をする時、デュオがこっそりとお金を払ってくれたのは明日奈達には内緒である。
説明 | ||
キャリバー編終了です。 | ||
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コメント | ||
はい、ありがとうございます!大地の様子が変わったのについては、おそらく後でわかると思います。(やぎすけ) 大地の様子が一瞬だけ変わったのは何だったのでしょうかね・・・とにもかくにも、キャリバー編お疲れ様でした!(本郷 刃) |
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