魔法少女大戦 3話 疑念
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 3話 疑念

 

 「お〜い、もしも〜し」

 「……んあ」

 「おはようさん、真田くん」

 

 次の日の朝、早朝からの補習(と言う名の授業、別に一限と言ってくれてもいいのだが。何だろう、あまりに朝早くに授業を行うと法的にまずいのだろうか、という疑問が大多数の生徒から出ている)を終えぐったり机に突っ伏している恭に声をかけたのは璃音だった。心底だるそうな恭に太陽よりも眩しい笑顔を向ける彼女。太陽って近すぎると色々厄介だ。自由と言う名の翼は太陽に近づくとにかわが融けてしまう。

 今の恭は太陽に急接近され、そのまま地面に墜落と言う構図だった。彼は何も悪くない。むしろ地球が危ない。一瞬で焦土だ。

 

 「もう、なんやテンション低いな。そんなんやとまたミスるで」

 「うるさいな、ほっといてくれませんか割とマジd…」

 「そないな事言わんでもええやん……ほら、今日はうちと真田くんが日直やで」

 

 恭の顔が凍りついた。顔を上げた恭の眼前には少しばかり長めの黒板消しが一対。そもそも黒板消しは二つで一つなどと言う事は無いはずなのだが、消す面が合わさって彼の前に突きつけられていた。一回パンと打ち合わせたら大惨事だろう。何と言うサディスティックなクラスメイトだ。

 

 「別に仕事しないとは言ってないだろ……」 

 「せやかて真田くん、言わんかったらせぇへんもん」

 「分かったから……やるって」

 

 重い腰を上げ、補習のためほぼ真っ白に塗りたくられた黒板(違う意味で白板だ)を黒板消しで綺麗にする恭。確かにこの黒板を一人で、しかも女子がやるのは厳しい物がある。

 ちなみに璃音と恭は同じ部活をしている。恭の凡ミスはばっちり彼女に見られているのだ。また鳴も同じ部活なのだが、それはまた次の機会に。

 

 「それにしても熱ない? 今日さ」

 「胸元を露出しようとするな」

 「じゃあ見んといてや」

 「見せるな」

 

 議論は平行線を辿りながらも黒板は綺麗な緑を取り戻し(黒板の色が緑色なのに黒板なのは初期型が本当に黒かった名残らしい)、妙な達成感を得る二人だった。と同時に先生(何度も言うが禿)が入ってくる。二人は慌てて着席した。

 

 

 ……………

 

 ………

 

 …

 

 熱い。あまりの暑さにクラス全体が死屍累々となっていた。校内放送では熱中症の対策の放送がされ、秋になったので封印された冷房が解禁される程になった。それでも熱い。と言うか集中管理で温度を28℃以下に下げられないのが悪いのだが。

 この茹であがるような暑さに教師陣は大抵やる気が無かった。生徒に至っては言わずもがなである。そんな中で、九兵衛は黙々とノートをまとめていた。何だこの少女は。鬼か。学問の。

 ちなみに先生の言う通り昨日の帰りのHRで席替えが行われ、恭の席は真ん中付近になり左隣が九兵衛になった。特定の人間と隣り合う確率は思ったほど低くは無いのだが、周囲の批難は凄かった。ネタだと信じたい。

 昨日転校してきて、一日でクラスに馴染んでしまうのは恐らく彼女の可愛さなのだろう。性格的に自分からコミュニティを広げて行けるキャラではないし。可愛いは正義と言う奴だ。イケメンは性格的に多少何があってもモテるというあれだ。生憎恭にそう言う素敵イベントを引き起こすステータスは無いし、某ゲームのように魅力値や学力値を簡単に上げる事も出来ない。

 そんな事を考えながら黒板の文字の羅列を書き取っていると、左肩をちょんちょんと小突かれた。その方向を振り向くと、左頬に華奢な指が当たる。そのまま恭は左手でその指を握りしめた。

 

 バキバキバキバキ。

 

 「いっいつつつつっ!!!」

 「おい優等生。ふざけてる暇があっても凡才の邪魔をするな」

 「いや、そう言う事ではないのですが……この時期、この町ってこんなに暑いんですか?」

 「さっきまで何も気にしてなかったくせに……」

 「いや、温度計が酷い事になってるので……」

 

 教室前に置かれている温度計が95度になっている。ああ、と恭は直感し、机の中に入れていた電卓をいじる。うちの温度計は誰の趣味か知らないがセ氏ではなくカ氏を採用しているのだ。

 計算の結果、35℃という結果が出た。確かにおかしい。真夏はとっくに終わっているはz……

 

 ウゥーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!!!!!!!

 

 強烈なサイレン音が前方のスピーカーから流れる。その後、今までに生徒達の聞いた事のない音声が流れて来た。

 

 『火災発生、体育館より火災が発生しました。担当教諭の指示に従い迅速に避難して下さい。これは訓練ではありません、繰り返します、火災発生……』

 

 機械音声だった。今までの訓練は全て誰かしらの先生が原稿を読み上げていた事もありそれが非常事態である事を如実に表している。

 喚き散らす者達も居たが、それを教師達が上手く統制し生徒を校庭へ導いて行く。しかしうまく行かない。普段の訓練がどれほどに儀礼的なものかを有事の際には思い知らされる。

 出火元が本校舎から渡り廊下によって繋がれた別館であったためこの避難クオリティでも十分に間に合ったのだが、避難の末の全校生徒達の混乱は並大抵のものでは無かった。早急に消防隊が駆け付けたが、巨大な建物を包み込むように燃え上がる炎は中々消えなかった。

 

 「いったた……ちょっ、うちの足踏まんといて!!」

 「あっ、ごめん……」

 「ああ、真田くんか……いたたたたたたっ、あーやばい、骨折れてもうた」

 「おいどこのチンピラだよ」

 

 と言ってもそこそこに炎が鎮静化されて行くのを見ると生徒達も落ち着きを取り戻し始め……れば良かったのだが、落ち付いてくるにつれて新たな問題が浮上したらしい。

 あちこちから聞こえてくる悲鳴にも似た声。居ないのだ、生徒が。何人も。報告するクラス委員長も気の毒な話だ、こんな状況で生徒がそんな責任を取れるはずがないのに。それでも報告すれば叱責は免れない。叱責されるべきはクラスの生徒達を見ていなかった教師だろうに。と言うのもお角違いな話なのだが。

 悪魔のように踊る炎が目に焼き付いて離れない。この度の問題は全て火事の所為なのだ。この焼けるような暑さの中揺らめく陽炎が現実さえも歪めて行くような気がして、一周回って恭は身震いするのだった。

 

説明
今回は火曜と言う事ですが、1日を一話にまとめると長くなりすぎるので(多分8千字くらいいきそう)二つに分けます。
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