魔法少女大戦 5話 人魚
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 5話 人魚

 

 ……………

 

 ………

 

 …

 

 「……ん」

 「っ!? 真田くんっ!!!?」

 

 恭が気だるさの残る身体でなまこ、もとい眼を開くと気付いたらそこは病院のベッドの上だった。彼の眼前には璃音の姿があり、彼女はぐったりとした涙を瞬時に潤ませていた。

 

 「良かった……心配したんやで……」

 「心配したって……ああ、俺……」

 「もう……最近物騒なんやから、真田くん死んだら……哀しなるねんで……」

 「……お前が助けてくれたのか?」

 

 彼女は泣き散らしながらもこくんと頷いた。彼女曰く丁度恭が倒れていた所に出くわし、日陰に連れて行って濡れタオルで身体を拭いたが結構危ない状況だったため救急車を呼んでくれたらしい。そこから先も彼女はずっとついていてくれたそうだ。今日は折角部活も休みだったろうに、と思うと恭は申し訳なさで一杯になる。

 近くにそこそこ設備の整った病院があって良かった。それが無かったらと思うとぞっとする。とにもかくにも死なずに済んだ。それはずっとついてくれながら頭のタオルを換えてくれた彼女のお陰だと思うと何回御礼を言っても足りない。

 それなのに……何かを忘れている気がするのは文字通り気のせいなのだろうかと恭は思いを巡らせたが、答えは得られそうになかった。

 

 「……今何時?」

 「……ん、ええと、6時くらいやで」

 「分かった、とりあえずお前はもう帰れ。お前の親に心配かけたくない」

 「せやけど……いや、せやな。ここ病院やし。とりあえず真田くん無事ならええわ」

 

 顔をハンカチで拭くと、いつもの勝気な表情で彼女は立ち上がる。んじゃ、と軽く言い残し、彼女は病室の扉に手をかけた。

 

 「璃音」

 「ん、何?」

 「その……ありがとう、助けてくれて」

 「そんなんええよぉ。うち……真田くんに死なれたらつまらんし」

 

 ふふっと笑い、璃音は病室を出て行った。特に力を入れなくても勝手に扉は閉まって……いかなかった。

 

 「お兄ちゃんっ!!!!!!」

 「うわぁああっ!!!!!!」

 

 涼が閉まりかけた扉を強引に開けて飛び込んできた。そしてそのまま恭の顔面をホールドする。

 料理の途中だったからかジャージにエプロン姿である。色々大丈夫なのか、火の元とか世間体とか。涼には世間体とかそう言うものはあまり関係ないのかもしれないが。

 

 「お母さんからさっき電話がかかってきて…いてもたってもいられなくて……うわぅっ!!」

 

 居ても○っても居られないのはこっちだ。贔屓目に見ても妹の発育はやばい。そんな彼女の胸元で顔面を包囲されたらそれはもう色々死にそうになる。体力とか回復してないんだからやめてくれと思いながらも剣道部所属の彼女は腕っ節が強く振り払うのに相当な体力を消耗した。

 

 「ご、ごめんなさい……」

 「お前な……また意識失う所だったわ」

 「でも、いてもたっても……ところで、もう大丈夫なの?」

 「お前の所為でデッドラインに達しそうになったけどな」

 「ううう……」

 

 正直殺されそうになった感は否めないのだが、弱っていたとは言え妹に窒息死させられたなど末代まで笑い者にされそうで死んでも言えないのだがそうか今死ねば末代は自分だからこの負の連鎖は自分で終わるラッキーと軽く自殺を肯定しそうになったところで踏みとどまり、恭は両頬をぱんぱんと叩いた。

 

 「母さん、何て?」

 「『恭が倒れて病院だそうだから様子見に行ってもらえる?』って言われて……ほら、今週末は旅行だし、その前に色々あったら……」

 「ああ、そう言う事ね……」

 

 あまり聞きたくない話だった。あれか、子供が倒れたまま旅行を満喫しようとすると世間体が悪いとかそういう話か。

 別にお前が来いとは恭も思わない。むしろ妹が来てくれてありがたいくらいだ。あの親には、弱った状態で相対したくない。

 とりあえず旅行の件は絶対に行くまい、社交辞令として誘われても本調子じゃないからと断ろう、恭は本気でそう思っていた。

 

 「とりあえずもう帰れるから……一緒に行こう」

 「うん……あっ、そんな急がなくても……お兄ちゃん?」

 「ん? どうした?」

 「首筋に……変な痕(きずあと)があるよ?」

 

 涼に指摘され始めて気がついた。言われてみれば何か変な感じがする。おもむろに手を当ててみると、何だかごつごつした感触があった。しかも手を這わせた感じ、何らかの模様になっているような気もする。

 そう言えばあの時、誰かに後ろを押されたような感覚があったような……恭はあの時の事を思い出そうとした。しかし思い出せない。

 余計な事をあれこれ考えてもしょうがないので、二人は病院を後にするのだった。

 

 

 その痕には『Roberta』と刻まれていた……

 

 

 『Roberta』、別名『鳥籠の魔女』。その性質は憤怒。 カゴの中で足を踏み鳴らし叶わぬもの達に憤り続ける。 この魔女はアルコールに目がなく、手下達もまた非常に燃え易い。

説明
この話は結構な転機になっているかと思います。タイトルも原作へのオマージュです。それを思えば、また違った見方が出来るのではないかと。
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