詩集「奏詞」欲巻 |
【魅欲】
やわらかな誘いを
体の奥から囁かれる
断る事は難しく
誘いにのってしまい
やわらかく心地よく
体の芯までほぐされる
のることで得られるもを
人は知っている
だから逃れる事はできない
どんなに強固な
意志をもってしても
いずれはやわらかな誘いを
受け入れる
【器炎】
器に小さく灯った炎はゆらりゆらりと揺らめく
いつか大きく燃えるときまで揺らめき続ける
小さく灯った炎は思っていたよりも暖かく
炎を包むたびに冷えついた体は芯まで暖められる
小さく灯った炎は時には別の場所に移る
移るときには器同士が二つ重なる
元あった場所から完全に移るのではなく
一度一つになりまた二つに分かれる
重なり別れた炎は最初の炎と違い
二色の色で重なりあい明るさも暖かさも強くなる
【新薬】
体に訪れる心地よい疲労感は
アルコールより安全なドラックの一種
好きなだけ浸れて依存性がなくって
誰にも迷惑をかけない
ゆっくりと目を閉じて
呼吸を整え血液の流れを感じ
頭の中を空にして
訪れる疲労感に身を委ねる
初めは意識が上手く保てない
そのうちアルコールが入ったように
フワフワとして最後はスッキリとリセットされる
【転欲】
坂を転がっていくボールのように
色々な物が下に下にと転がっていく
どこまで転がっていくのか
人ごとのごとく眺めている
眺めている場合ではないのはわかっている
でもどうしていいのかがわからない
わかっているのは転がりを止めなければ
その先にあるのは光がない未来
手に入れたいのは
踏みとどませるための方法と
踏みとどませるための力ではない
手に入れたいのは
坂を上る方法と坂を上る力
現実を先送りにしない
未来を手に引寄せたい
【幼炎】
小さな炎が消えた
少ない数の小さな炎が消えた
理不尽な理由で意味もなく消えた
世の中は病んでいる
思っている以上に病んでいる
全てに救いがない
【欲触】
無邪気な目にあてられ
気持ちが抑えれなくなる
ゆっくりと手は動き
優しく肌をなぞる
柔らかな感触に手が踊る
踊り色々な場所に舞いこむ
手が踊り戯れていると
無邪気な目からは笑みがこぼれ
淡色の空間が周りにできる
知らず知らずのうちに
手が絡めとられ
惹き込まれ溺れもだえる
【包優】
握りしめられている手に感じる温もり
それが大きな支えになっている何て
となりで可愛い顔で寝ているあなたは思っていない
あなたのこの温もりがあるから今がある
これがなければどこかへ飛んでいきそうなぐらい不安定
何気なくそっと出してそっと手を握る
深い意味はないんだろうけど
あなたの仕草の一つ一つに救われている
包んでいたつもりがいつの間にか
すっぽりと包まれていた
【理欲】
理由もなく沸き上がる破壊衝動
それは基本的には理性が抑止する
でもたまにちょっとだけ
抑止できなくてもいいかと
思う自分がここにいる
それでも理性が抑止している
それは普通で特別なことではない
人が人であるがための必然
今は人でない人が無数にいる
人でない人の世界の始まり
世界は人でない人で溢れかえる
日常と非日常が逆転する
非日常が日常に
日常が非日常に
そのとき人としていられるのだろうか