とある 食蜂操祈という少女
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とある 食蜂操祈という少女

 

 

「え〜と、食蜂さんは、さ」

 上条当麻は目の前に立つ常盤台の制服を着た長いブロンド髪の美少女の放つ年に似合わぬ色気に微かに胸を高鳴らせながら話を切り出した。

「食蜂なんて他人行儀じゃなくてぇ〜み・さ・きちゃんって呼んでくださ〜い♪」

「じゃあ……操祈ちゃん」

 当麻は苦笑しながら言い直す。少女を“ちゃん”付けで呼ぶのは自称硬派な当麻にとってはなかなか難しいことだった。

「は〜い♪ 何ですかぁ〜上条さ〜ん?」

 わざとらしく甘い声を上げる食蜂操祈にやりにくさを感じてならない。

 御坂美琴のような竹を割ったような性格でとても分かり易い少女と比べると、目の前の少女の心の内はまるで見えて来ない。けれど、だからこそ当麻は尋ねてみたいと思った。

「操祈ちゃんはさ、一体、どうしたいんだ?」

 当麻の質問を聞いた瞬間、操祈の表情が一瞬ムッとしたものに変わった。

「…………質問がぁ抽象的過ぎてぇ〜よく分かんないですけどぉ」

 操祈はすぐに表情をいつもの笑顔に戻すと当麻の質問をはぐらかしに掛かってきた。明らかに乗り気ではなかった。

「踏み込むか、踏み込まねえか。それが問題だな」

 操祈の機嫌を優先するか、それとも彼女にお節介を焼くべきか。当麻は決断を迫られていた。

 

「上条さんの硬派は絶対に崩せない。けど……」

 今日出会ったばかりの少女に、しかも特に命の危機に陥っているわけでもない少女に深入りするのは当麻の信条に反する。

しかも相手はプロポーションは既に超高校級とはいえまだ中学生。女子中学生をナンパしているがごとき誤解は絶対に受けたくない。

これらの事象は操祈にこれ以上関わるべきでないと知らせている。けれど……。

「俺のこの右腕の力が彼女にとって希望になるかれ知れない」

 けれど、当麻は既に本人から聞かされてしまっている。操祈にとって自分が特別な意味を持つ存在であることを。

「それに、乗りかかった船。だもんな」

 当麻は大きなため息を吐いた。自ら厄介事を背負い込むルートに首を突っ込んでいるのを自覚せざるを得ない。

「けど、これじゃあ……不幸だって愚痴さえも漏らせないよなあ」

 もう1度大きなため息が漏れ出た。要らぬお節介を自分から焼きに掛かるのでは、常用の慰みのフレーズさえも用いられない。何しろ不幸を自分から買い占めに走るのだから。

「難しいことを考えるのは俺の性に合わねえ。出たとこ勝負で行くか」

 結局それしか自分にはないのだと再確認する。そして、相手が美少女であれば何だかんだで頑張ってしまうのが上条当麻という男だった。

 

「私は上条さんのぉ心を読めないからぁ〜ちゃんと口で言ってくれないとぉ〜困るんですけどぉ」

 当麻が1人でブツブツやっている間に操祈から文句が来た。

「ああ。悪い悪い。そうだったな」

 当麻は両手を合わせて謝りながら笑ってみせる。

 

 操祈の精神干渉は当麻には通じない。それが操祈にとって当麻が学園都市で数人しかいない特別な存在である理由となっていた。

 その数少ない人間の中でも操祈と積極的に関わりを持とうとする意思を示した人間は当麻しかいない。故に、重大事件が起きなくても当麻は操祈にとって既にオンリー・ワンのポジションを既に得ていた。

 そのことを当麻は本人の口を通じて聞かされていた。だからこそ、彼女を放っておくわけにもいかないと思って踏み込んでいた。

 

「さっきの質問の意味はさ……操祈ちゃんは、常盤台の女王さまのポジションを本当に望んでいるのかなってことだよ」

「…………っ」

 当麻の発言に対して操祈は表情も変えず全く反応を示さない。身動きさえ見せない。けれど、無反応こそが大きな反応であると考えて当麻は更に踏み込んでみることにした。

「君は……女王でいることを本当は苦痛に思っているんじゃないのか? 辞めたいんじゃないのか?」

 操祈の表情が笑みを湛えた余裕たっぷりなものから一瞬だけ無表情なものに変わった。少女は目を固く瞑って何かに耐える仕草をみせた。

 そして次の瞬間

「プッ。アハハハハ」

 お腹を抱えて笑い始めた。

「えっ? 何でここで笑うんだ!?」

 当麻には操祈の行動の意味が分からない。

「上条さんはぁ大きな勘違いをしてますぅよぉ」

「勘違い? 何を?」

 操祈は目を瞑ったままニヤッと意地悪く魔女のように笑ってみせた。

「私は御坂さんみたいなぁ〜乙女チック力全開のぉ真っ直ぐな娘とは違うってことですぅ」

 操祈の喋り方は普段と何も変わらない。違うのは目を閉じたまま喋っているということだけ。けれど、それは大きな違いでもあった。当麻は目を瞑ったまま喋っている操祈に微かな違和感を覚えた。それでもう少し踏み込んでみることにした。

「まあ確かに、世の中がみんな御坂みたいな単純なヤツばっかりで構成されてたら誰も困らねえだろうなあ。いや、アイツにいつも妙な難癖付けられる俺だけ不幸になりそうだが」

「上条さ〜ん。自分の恋人のことぉ〜そんな風に悪く言っちゃっていいんですかぁ? 御坂さんに怒られちゃいますよぉ」

 操祈は薄目を開いて更に意地悪く唇の端を歪ませてみせた。

「みっ、御坂は別に恋人じゃねえよっ! 俺と御坂は友達。ただの友達だっての!」

 操祈の切り返しに当麻が焦る。

「あ〜あ〜。愛しの上条さんにぃそんな風に言われたらぁ〜御坂さん泣いちゃって引き篭りになっちゃうかもぉ」

「………………べ、別に俺と御坂はそんなんじゃ。ない、はず……」

 当麻は結局顔を赤くして口篭ってしまった。単純度で当麻と美琴はいい勝負だった。

 

「こんな風にぃ私の性格が元からお茶目さん力に溢れているのは確かなんですよぉ」

 操祈はもう少しで顔がくっ付いてしまうぐらいに当麻に近付いて囁く。

「だから本当は心がピュア力溢れたヒロインがぁ〜わざと悪役演じてるって思うのは間違いって言いますかぁ女の子に夢見すぎですよぉ」

 少女はクスッと楽しげに笑ってみせた。

「さすがに上条さんもそんな単純な話だとは思っていませんよ。俺はラノベやギャルゲーの主人公じゃありませんから」

「でもぉ御坂さんの話を盗み聞いているとぉ〜上条さんってラノベ主人公としか思えないぐらいに高確率で女の子とフラグをひょいひょい立ててますよねぇ。フラグの神様ぁ?」

「そんな事実はございません! 俺の人生ノー彼女デイズです!」

「私も上条さんに目を付けられちゃったからぁ〜上条ハーレムの一員の仲間入り決定?」

「上条ハーレムなんて存在しません。根も葉もない噂でございます!」

「はぁ〜これからは私もぉ〜上条さんの愛を勝ち取るためにぃあの手この手を尽くすコメディー力要員増員決定ですねぇ」

「お願いですから、御坂の事実無根の話を信じちゃ駄目です! 本当に俺は生まれてこの方女の子と付き合ったことがないんですからっ!!」

 当麻は顔を真っ赤にしながら必死に弁明する。

「あ〜あ。この調子だとぉ御坂さんもぉ大変力に塗れてるわねぇ〜」

 操祈は当麻の動揺を見ながら楽しそうに白い歯を見せた。

 

「そして私はお友達の御坂さんにぃ〜ゲスいって単語をよく使われちゃうぐらいにぃ性格悪いんですよぉ。上条さんもこれで理解してくださったんじゃないですかぁ?」

 当麻は右手で頭を掻いた。

「俺はさ、アイツより2歳年上のはずなのに、いつまで経っても馬鹿な弟扱いばっかりだよ。しかもその馬鹿を吐き捨てるように嫌そうに言われてる」

「ゲスと馬鹿ってぇ〜どっちがより悪いんでしょうねぇ?」

「どっちも最悪な評価には変わらないだろ」

 当麻は軽く目を瞑った。

「…………愛情が篭ってるかどうかの差はあるかもしれないがな」

 操祈に聞こえないように小さく付け足した。

 

「操祈ちゃんは何だか、わざと悪く思われたがっているように聞こえるな」

 真顔に戻って操祈に感想を素直に述べてみる。

「私だってぇ〜自分の性格が悪いってことぐらいはぁさすがに自覚してますよぉ。まぁ〜それを補うぐらいの美少女力は十分に持ってるかなぁっとも♪」

 陽気に笑ってみせる操祈。その陽気さが当麻に逆に不自然に見えた。

「そうやって相手をからかってれば、御坂ならすぐに怒って関わり合いを止めるよな」

 操祈が白い手袋を嵌めた手で長い髪を撫でた。

「さすがぁ上条さんは高校生力を発揮していますねぇ。御坂さんみたいに単純なら扱いがぁ楽なんですけどぉ」

「単純なのが御坂のいい所だよ」

「はぁ〜」

 操祈は大きく息を吐き出してから両手を軽く挙げて降参の意を示した。

「私はぁ自分の能力が通じない人とどう接すれば良いのかよく分からないんですよねぇ。実際そんな人間はぁここ数年で上条さんと御坂さんしか知らないしぃ。1位と2位とは顔を合わせたことないしぃ」

「…………要するに操祈ちゃんはコミュ力不足なんだな。能力が介さない限り上手く人との距離が測れない」

「コミュ力不足……」

 操祈は天を見上げた。茜色の光が彼女を優しく包み込む。

「……そうかも」

 操祈は語尾を伸ばさなかった。

 

「上条さんは私が女王さまじゃなかったらどんな風に扱われることになると思いますか?」

 夕日を背に喋る操祈が当麻にはどこか物悲しく感じられた。

「そりゃあ…………えっ?」

 当麻は答えに詰まった。

 脳内で準備していた“普通の女の子”“常盤台のお嬢さま”など没個性を示す単語は彼女には当てはまらないと思った。代わりの上手い答えが浮かんでこない。

「正解は……」

 当麻が答えを出しあぐねている間に操祈は解答に移っている。

 そして彼女は寂しそうに、けれど自嘲しながら正解を述べた。

「化物で〜すぅ♪」

 操祈のその解答を聞いた瞬間、当麻はとても物悲しい気持ちになった。

 口をすぐに開きたいのにそれができない。

「女王として高ビーに振舞っていない限りぃ〜私はこの世で最もゲスい能力を自在に操る化物としてぇ〜人間たちからぁぼっこぼこにぃ排除される未来が待っているんですよぉ♪」

 操祈の話を聞きながら、当麻は体の奥底から嫌な汗が吹き出してくるのを感じずにはいられなかった。

「排除されないためにはぁ〜いつも怯えてぇ人のご機嫌とって終始低姿勢で生きるって方法もないわけじゃないんですがぁ〜私は昔から性格悪いんでぇ女王さまになって堂々と生きる道を選びましたぁ。キャル〜ン♪」

 操祈は舌を出して悪戯っぽく振舞ってみせた。

「そのさ……良かったら、操祈ちゃんが女王さまになる生き方を選んだ理由を教えてくれないかな?」

 当麻の質問に対して操祈は深呼吸を2度、3度繰り返した。

「…………………つまらない話だと思いますよ」

 操祈は微かに当麻から目を逸している。

「俺は聞きたいな」

「ゲス女の昔話が聞きたいなんて上条さんはよっぽど趣味が悪いんですね」

「学園都市レベル5の連中を相手にしてれば性格ぐらい歪んで当然だろ?」

「言ってくれますね」

「まあ、そんな訳で俺も性格の歪みぶりについては定評があるから、遠慮なく喋ってくれ」

「御坂さんはこうやってお節介を焼かれて落ちたんですね。なるほど……」

 操祈は自分の過去について語り始めた。

 

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『妖怪サトリっていう化物がいるらしいんだけどぉ〜私はその凶悪版って感じらしいのよねぇ。だから私は醜い妖怪でぇ〜御坂さんは光り輝くお姫さまってわけなのよぉ』

『何を訳分かんないことをほざいてんのよっ! アンタのゲスい能力が周りを不快にさせてるだけでしょうが!』

『漫画の主人公みたいにぃみんなから愛される能力を持っている御坂さんにはぁ分からないでしょうねぇ。醜い魔女の役割を昔から担わされている私の気持ちなんて』

『ハァ? アンタはその力を使って好き勝手放題しているじゃないの』

『……ええ、そうねぇ。私にはぁ普通なんてあり得ないからぁ好き勝手やってるわぁ』

『アンタはそうやって人の上に立って見下すことしか考えてないんでしょ。たくっ、下らないことに人生燃やして馬鹿みたい』

『御坂さんは見下されて蔑まれることに慣れてないのねぇ。幸せな人生を送ってきたのね』

『別に幸せじゃないわよ。ここまで登ってくるのに立ち止まってる暇なんてなかったから、幸も不幸も考えていられなかったわよ』

『能力を伸ばすほどに忌み嫌われる逆境人生は御坂さんには分からないわよぉ』

 

 

 

 食蜂操祈が自身を指し示す表現として幼い頃から最も多く接してきた単語は“化物”だった。

 その事実は、操祈に幼い頃から2つの生き方のどちらかを選ぶように不断の選択を強いることになった。

 即ち、人の上に立って相手をひれ伏させることで自分の安全を確保するか、人の下にひれ伏して恭順の意を示すことで安全を確保するか。その極端な道のどちらかを選ばない限り、ひたすらに嫌われて徹底的に排除されて潰されてしまう。

 操祈は物心付く前からその事実を自身の体験を通じて嫌というほど思い知らされてきた。

 

 操祈は、他人の記憶を読み取ったり、偽りの記憶を植えつけたり、認識や感情を自在に左右したりと精神・記憶に関する操作を自由に行うことができる学園都市最強の精神系能力者として物心付く前から有名人だった。

 レベル5第1位、第2位など、幼い頃からその能力を発揮している天才は他にもいた。けれど彼らと比べた場合に操祈は大きな差異を見せていた。それは、能力の強大さではなく、その能力の性質ゆえに人々から疎まれ嫌われていたという点だった。

 

『あっ。今、今日のご飯はスパゲッティーにしようと思ったでしょ。私も大好き♪』

『そ、そうだね。僕はこれでもイタリア料理にはちょっとうるさくてね……』

『何で? 何でそんな嫌そうな言葉を頭の中で並べるの? 私、悪いことをしたの?』

 

 操祈と接するとは常に心を読まれていることに他ならない。それは同世代の子供たちばかりではなく、能力開発を行うその筋の専門家でさえも彼女と接することを嫌がるという事態を生んだ。

 彼女に関係する者はみな、心を読まれることに大きな苦痛を感じていた。その苦痛は彼女を如何にして排斥するか、その排斥を正当化するかに心血が注がれるようになった。

 彼らは操祈を化物として扱い排斥することで心の均衡を保とうとした。

 

『何で? 私、化物じゃないよ? 人間だよ。どうしてそんなこと言うの?』

 

 だが、彼らの自己正当化の過程自体が、操祈に人間に対する恐怖心と不信感を植え付けた。そして逆に人々を見下して支配してしまおうとする心を生み出す逆効果をもたらしてしまった。操祈は人々が恐る通りの“化物”へと近付いてしまった。

 

『では、今日の実験はここまでにしよう』

『えっ? 教授、今日の予定では後1時間は能力テストをするはずですが?』

『偉い先生がぁ止めようって言ってるんだしぃ〜もう止めた方がいいんじゃないのぉ?』

『…………また、教授の記憶を改ざんしたな』

『えぇ〜? 何のことを言っているのか全然分かんな〜い♪ キャハ』

 

 操祈の力は年齢を重ねるごとに強大になり、遂に他人の記憶や精神を自由に改ざんできるレベルに至った。

 この段階に至って大半の研究者や企業関係者は操祈から手を引いた。善意と打算をない交ぜにしながら操祈と接することは大きな苦痛とビジネスリスクをもたらした。

 操祈もまたそれを狙っていた。心の内が読めてしまう彼女にとって、程よく善人で程よく悪人である一般人を相手にするのは苦痛でしかなかった。彼女の経験から、一般人こそが自分を化物と認識し、また化物へと仕立てていく主体であることをよく知っていたから。

 操祈の怠慢の結果、彼女の周囲に残ったのは、彼女を利用することを少しも悪びれない者たちばかりとなった。彼らの大半は悪人と呼ばれる人間たちだった。

けれど、操祈にとってそんな環境は以前よりマシだと感じられるものだった。

 

『私はあなたの持つ唯一無二の強大な力を高く評価し、その恩恵に預かることを心より望んでいます』

 

 打算のみを訴える彼らには却って二心が存在しなかった。操祈が強大な能力を有している限り彼らは操祈の味方であり、それを失えば切り捨てることを公言している。操祈から甘い汁を吸おうとする彼らは、操祈の強大な力を全面的に肯定した最初の者たちとなった。

彼らの存在は操祈の気分を軽くさせた。けれど、そんな連中に友情を感じるはずもない。

 一般人とは反目しあい、甘い汁を吸おうとする悪人のみが自分を認め必要としている。

 そのいびつな構図は中学校に上がろうとする操祈に対して2つの相異なる願望を抱かせるようになった。

 

『常盤台に行けば……少しは“マシ”な子がいるのかしらねぇ?』

 

 1つは、自分と対等に接してくれる存在。つまり“友達”を得たいという年相応の願望。

 もう1つは、学校内で排斥の対象とならないために覇を唱え、上に立たなくてはならないという支配の願望。

 操祈は逆境を跳ね返す強い精神力の持ち主ではあった。しかし同級生に化物扱いされながらも真摯に友達探しをしたいと思うほどに世の中の善意を信じることはできなかった。

 操祈のそんな心は彼女の中学生活の方向性を決定する上で大きな作用を及ぼした。

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『レベル5第3位超電磁砲御坂美琴さん。どんな娘なのか気になるわねぇ〜♪』

 

 操祈は常盤台中学校に入学するかなり以前より御坂美琴の存在を知っていた。

 同い年のレベル5少女の存在を意識しないはずがなかった。操祈と美琴は7名のレベル5の中でも名前が公に出ている唯一の存在であり、操祈は美琴に関する情報を様々な手を尽くして集めていた。

 その美琴と同じ中学に通うことになった。より正確に言えば、何となく常盤台中学を選択した美琴に合わせる形で操祈が進学先を決定した。能力を駆使して偶然同じ進学先を選んだ体裁を装いながら。

 操祈にとって美琴はとても気になる少女だった。その一番の理由は──

 

『御坂さんはレベル5なのにみんなから愛されているって……本当なの?』

 

 美琴が同じレベル5で同い年の少女でありながら自分とは正反対の評価を受けているからだった。

 操祈にとって美琴は羨ましくもあり妬ましい存在でもあった。そんな彼女に接近してみたいと思った。

 

 

『新入生代表の挨拶。1年うさぎ組御坂美琴さん』

『はいっ』

 

 操祈が初めて見た美琴はとてもごく普通の中学生に見えた。目鼻立ちは平均以上に整っているものの、レベル5であることを知らしめるような特別なオーラは一切感じられない普通の少女。この入学式会場によく馴染んでいる。

そのことは操祈にとってはあまりにも衝撃的なことだった。

 

『何で……あんなに自然体で振舞っていられるの? ごく普通のお嬢さまみたいに挨拶しているわけ?』

 

 美琴の様子は自分の体験を基にしたレベル5の姿とは全くかけ離れたものだった。彼女は常盤台という学校の中にごく自然に溶け込んでいた。

勿論、レベル5ということで美琴には一生徒には本来あり得ないほどの多大な尊敬の念が送られているのが能力を使わなくても見て取れる。

 けれど、美琴を常盤台中学校の異物と見る目は皆無だった。あくまでも彼女は常盤台のあるべき姿を、その理想を体現した存在として認識されていた。

 そして美琴はそんな生徒たちの視線をごく自然な形で受け止め、また、受け流していた。

 生徒たちのレベル5を憧れて見る反応も、そして美琴の自然の対応も操祈には全く見覚えのないものだった。

 恐怖、排除、打算。それらの単語で操祈は自分と他者との関わりを規定してきた。けれど、目の前の世界はそれとは違うものを見せてくれた。

 

『もしかして、ここなら……』

 

 12歳の少女は入学式を見て中学生活に期待を馳せた。けれど、その期待はすぐに大きな失望へと取って代わられることになった。

 

『レベル5心理掌握(メンタルアウト)の食蜂操祈でぇ〜す♪ 気軽に操祈ちゃんって呼んでねぇ〜♪』

 

 操祈は中学デビューに失敗した。

 自己紹介の挨拶が寒かったのが失敗の原因ではない。

 操祈が名乗った瞬間に、彼女がよく知る雰囲気が教室中を包んだからだった。

 特に覗く気はなかったのに、中学に入学したばかりの少女の初々しくも生々しい心の言葉が操祈に雪崩れ込んできた。

 

(メンタルアウトって、確か人間の心をすみずみまで覗けて記憶をどんな風にでも改ざんできる化物のことよね。私の記憶も改ざんされちゃう!?)

 

 少女たちは一様に操祈の強大な能力に怯え、自分の心を丸裸にされてしまうことに恐怖を抱いていた。

 操祈のことを以前からよく知っている者もそうでない者も“化物”という単語を心に浮かべながら彼女を評していた。

 それは全く操祈が今までよく知っている世界と何も変わらないものだった。

 

『まっ、お嬢さま高能力者集団とはいえ……所詮大半はレベル3、4の便利な家電程度の力の持ち主。一般人と変わる所なんてないか。やたら高いプライドと無知さ以外』

 

 操祈は大きな落胆のため息を吐いた。

 クラス全体を操って雑音のない居心地の良い空間に変えてしまおうかとも思った。けれど、それは止めた。

 隣のクラスに在籍するもう1人のレベル5の少女に会うまでそれは保留にしようと思った。

 何故そう思ったのかは操祈にも分からない。他人の心は読めても、自分の心だけは読み取りきれずに持て余していた。

 

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 放課後、操祈は早速隣のクラスに在籍する美琴に会いに行くことに決めた。

 

『学園都市第3位の実力の程を〜見せてもらいましょうかねぇ』

 

 遠巻きに自分を見ているクラスメイトたちに聞こえるようにわざと大きな声で独り言を吐き出す。

 次の瞬間、大量の言葉が操祈の中へと雪崩込んできた。その大半は操祈が美琴に喧嘩を売りに行くのではないかという危惧だった。

そしてその中の大半は、操祈が美琴に負けることを望んでいた。危険な化物が正義の姫によって撃退されて大人しくなることを願っていた。

 

『……入学初日でまだ話もしたことないってのにぃ〜随分と嫌われたものねぇ』

 

 自分に対する評価があまりにも“普通”過ぎて操祈は苦笑するしかなかった。

 けれど、一方で同じ条件にいるはずの超電磁砲に対する評価が非常に高いことにやり切れないものを感じていた。

 

 自分の教室を出て隣の教室へと入る。

 美琴の席は探さなくてもすぐに分かった。多くの人だかりができていたから。

 美琴は窓側の席に座り晴天の空を眺めながらひっきりなしに話しかけてくるクラスメイトたちに適当に相槌を打っている。

 

『ホント……モテモテなのねぇ御坂さんは……』

 

 自分相手にはあり得ない光景を見て操祈はますます複雑な気分になった。

 大きく息を吸い込んでやや大股に歩きながら美琴へと近づく。

 操祈のことを知っている生徒たちがギョッとした表情で出迎える。今まで美琴のことを賞賛の渦に沈めていた生徒たちがだった。

 

『はぁ〜い。御坂すわぁ〜ん♪ 初めましてぇ〜♪』

 

 他の生徒の反応は無視して美琴に陽気を装いながら話し掛けてみる。

 

『うん?』

 

 美琴はわずかに反応を見せて目線を操祈へと向けた。

 

『私はぁ隣のクラスの食蜂操祈って言いますぅ。御坂さんよろしくねぇ〜♪』

 

 人差し指を頬に当てて可愛い子ぶってポーズを取りながら美琴に自己紹介した。

 操祈の名前を聞いて、それまで正体に気付かなかった生徒たちにも一斉に緊張が走る。

 それに対して美琴は──

 

『あっ、どうも。御坂です。よろしく……食蜂さん、だっけ?』

 

 ごく軽い感じで返してみせた。その反応は操祈をひどく困惑させた。

 

『えっ? あの……御坂さんってば、もしかして私のこと、知らない?』

『あっ、その……食蜂さんってモデルさん、とか? 髪綺麗だし、スタイルいいし、顔可愛いし……』

 

 美琴は操祈の質問に対して明らかに困惑している。

 

『その表情……本当に私のことを知らないみたいねぇ』

『あっ、いや、その。ごめんなさい。テレビとかあんまり見ないから』

 

 美琴は苦笑しながら両手を合わせて謝った。

 美琴は操祈のことを全く知らない。同じレベル5同士であるのにも関わらず、その存在を気にしてもいなかった。操祈は色々と調べていたというのに。

 その対照的な事実は操祈を大きく混乱させた。

 

『それじゃあ……私は御坂さんの眼中にも入らない小さな存在だったってわけ?』

 

 化物と恐れられ続け、近寄ってくるのは悪党ばかりという曰く付きの自分が視界に入れてももらえない。

 その印象の悪さはともかくレベル5ということでVIP待遇を受ける大物だと自負してきた。大物であるという自己認識は操祈の矜持を保つのに重要な一要素となっていた。

 ところが、学園都市第3位にはその矜持すらも通用しない。操祈の自我は美琴の自然な無視によって大きく傷付けられた。

 

 混乱した操祈には大きく2つの選択肢が存在していた。

 1つは美琴の視界に入っていなかった自分を受け入れて慎ましやかに振舞うこと。

 もう1つは美琴に相手にされていなかった自分を否定して派手に振舞うこと。

 

 もし仮に操祈が“友達”を得ることを何にも増して優先していたならば、彼女は異なる道を選んでいたかも知れない。

 そうすれば、今とは異なる中学生生活を送っていたかも知れない。けれど、彼女はそれを選ばなかった。

そして、操祈の選択の後押しをしたのは教室に残っていた他の生徒たちの心の声だった。

 

(所詮第5位じゃ、第3位の御坂さんには相手にもされてないってことよね)

(食蜂さんの気分悪い能力なんて、最強無敵のエレクトロマスターである御坂さんの敵じゃないわ)

(御坂さんには化物に大きな顔されないためにここで鼻っ柱を叩きおって欲しいわよね)

 

 教室内に残っていた生徒はその全てが美琴の応援に回っていた。操祈は反対に打倒されるべき対象だった。

 生徒たちのその心の動きは結果的に操祈の中学生活を分ける決定的な分岐点となった。

 

『実はぁ〜私の能力ってぇ〜こういうのだったりするんだぁ〜♪』

 

 操祈はリモコンを取り出してその中央部のボタンを押してみせた。

 次の瞬間、教室内に残っていた生徒たちは一斉に操祈に向かって敬礼してみせた。

 

『ちょっ!? 一体、どうしたの!? 何をしたの?』

『これが私の能力。学園都市レベル5第5位心理掌握(メンタルアウト)の食蜂操祈よ。改めてよろしくね、御坂さぁ〜ん♪』

 

 操祈は茶目っ気いっぱいにぶりっ子してみせた。

 

『それじゃあ……みんなをこんな風にしたのはアンタだって言うの!?』

 

 美琴は席から立ち上がりながら怒りの表情を顕にした。

 

『同級生に対して何て真似をすんのよっ!』

『へぇ〜。さっきまで相手にしてなかったくせにぃこういう時は怒るんだぁ』

 

 美琴は心底怒っているように操祈には見えた。それが不思議だった。先程まではどう見てもクラスメイトたちの話をスルーしているようにしか見えなかったのに何故こんなムキになって怒っているのか。操祈には美琴が理解できない。

 

『それじゃあ〜御坂さんもご一緒に♪』

 

 操祈は再びリモコンのボタンを押して美琴の精神にも干渉を仕掛けた。

 

『『きゃぁああああああぁっ!?』』

 

 ところが操祈の予想に反して2人の中間で激しい火花が上がった。

 

『痛ったいわねっ! いきなり何をするのよっ!』

『嘘……私の能力が弾かれた……!?』

 

 美琴は頭を抑えて痛がっているものの操祈の精神干渉を受けた素振りを見せない。

 

『も、もう1度っ!』

 

 操祈は美琴に向けてもう1度リモコンのボタンを押した。

 

『痛っ!』

『きゃぁああああああああぁっ!』

 

 再び激しい火花が飛び散る。それで操祈はようやく気が付いた。美琴の周囲に張られている電気が自分の能力と干渉して無効化しているのだと。

 

『電磁バリアまで張ることができるなんて……主人公タイプさまは本当にすごいわねぇ』

 

 操祈がレベル5に認定されてから、彼女の能力を何ら装備なしに打ち破ったのは美琴が初めてだった。

 

『2度も物理攻撃かましてくれるとは……アンタ、私に喧嘩売ってんのねっ!』

『物理攻撃じゃあないんだけどなぁ』

『その喧嘩、買ってやるわよ』

 

 美琴の瞳は怒りに満ちており、その体は青白い電気の柱を帯び始める。

 

『怒っちゃったのねぇ。別に喧嘩を売るつもりはないんだけどぉ』

 

 精神干渉が効かない以上、他に物理的対抗手段を持たない操祈に美琴に抗う術はない。1対1では。

 だから仕方なく操祈は1対1の状況を止めることにした。操祈はこの教室に入ってから4度目のリモコンボタンを押した。

 敬礼の姿勢を取り続けていた生徒たちが一斉に操祈の前に立って人間の壁となる。その意味は美琴にも十分伝わっていた。

 

『アンタ本当にゲスい能力を使うわねっ! 同級生を盾に使おうだなんて』

『だってぇ〜御坂さんには1対1じゃ敵わないからぁ多人数で攻めるしかないしぃ』

 

 怒りに燃える美琴とヘラヘラ笑って応える操祈。2人の睨み合いは1分ほど続いた。

 その終わりは唐突だった。教室の外で物音がした。それで気が付いた。幾人もの生徒が自分たちを覗いていることを。

 

『まあ別にぃ今日は御坂さんに挨拶に来ただけだしぃ。また遊びましょうねぇ。バ〜イ♪』

 

 操祈は大きく肩をすくめると人の壁を解かせた。そしてもったいぶってゆっくりと歩きながら美琴の教室を出て行く。

 

『私はアンタと2度と関わり合いになりたくないわよ。このゲス女っ!』

 

 美琴の怒声が背中に突き刺さってくる。けれど操祈は無視して教室を出て行った。

 

 操祈が生徒たちを自在に操り美琴と互角に渡り合った。その情報は瞬く間に校内に知られ渡った。

 操祈は美琴と並んで校内最強の実力者の称号を期せずして手に入れることになった。

 その結果、彼女に対する評価は忌み嫌い排除すべき化物から圧倒的な力を有する恐怖と畏敬の対象へと変わった。

 その認識変化は操祈の中学生活を障壁の少ないものへと変えてくれた。けれど同時に、彼女が密かに願っていた“友達”ができる可能性を潰してしまうものでもあった。

 特に美琴との反目が操祈の中学生活の有様を大きく規定することになった。

 

 

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 入学から1ヶ月ほどが過ぎた。

 食蜂操祈の名前は常盤台中学に隅々まで知られ渡るようになっていた。

 レベル3以上の高位能力者たちを10人以上同時に操った圧倒的実力を持つ者として操祈は遠巻きに見られる存在になっていた。

 操祈を化物と心の中で呼ぶ者もほとんどいなくなっていた。代わりにみな操祈の力を恐れていた。そして魔獣が神として崇め立てられる場合もあるように、操祈もまた圧倒的な力を持つが故に崇拝の対象にもなっていった。

 力を示すことで操祈は常盤台の中で居場所を確保することができた。けれどそれは同時に彼女と他の生徒の距離を大きく開かせてしまってもいた。

 

 操祈はその日も1人で校内のカフェテラスに腰を下ろしてぼんやりと空を眺めていた。

 すると、見覚えのないショートカットの少女が近付いてきた。

 

『こんにちは、食蜂さん』

 

 少女は操祈に向かって丁寧に頭を下げた。

 操祈はもう1度自分の記憶を探ってみる。やはりこの少女に見覚えはない。ということは──

 

『先輩さんですねぇ〜。こんにちはぁ〜』

 

 他の学年の少女に違いなかった。

 

『2年ひまわり組の口囃子(こばやし)早鳥と申します。以降、お見知りおきをよろしくお願いいたします』

 

 口囃子と名乗った少女はもう1度丁寧に頭を下げた。

 

『それでぇ口囃子先輩が一体私に何の用ですかぁ〜?』

 

 大して興味もなかったが、暇だったので一応用件を聞いてみることにした。

 

『実は食蜂さんに私たちが立ち上げる派閥のリーダーになってもらいたいと思いまして』

『はっ? 派閥のリーダー?』

 

 全く予想外の話が切り出されて面食らった。

 

『詳しいことはよく知りませんがぁ下級生の私が派閥の長なんてとてもとても務まりませんのでぇ辞退させていただきますねぇ』

 

 厄介事に巻き込まれたくないので、詳細な話を聞かない内に断ってしまいたかった。最悪、記憶を改ざんしてでも。

 けれど、口囃子は諦めない。今にも泣き出しそうな表情で食い下がった。

 

『私たちには食蜂さんが必要なんですっ!』

『……私がぁですか?』

 

 軽い探りを入れた所、口囃子から悪意やデマのようなものは感じない。代わりに感じたのは必死さだった。

 

『私はレベル3の念話能力者(テレパス)なのですが』

『え〜とぉ、そういう込み入った話はまた次回にでもぉ』

『私には集音器か携帯の代わりを務めるぐらいの力しかありません』

『まあレベル3じゃそれぐらいじゃないんですか?』

『でも、私の能力は人の心に直接アクセスできるものなので……他の方によく嫌がられたりするんです。化物って陰口を叩かれたこともあります』

『…………化…物』

 

 口囃子の口から“化物”という単語が出た瞬間、操祈の態度が変わった。知らずに身を乗り出していた。

 

『食蜂さん程の方になれば別だとは思いますが、他人の精神や認識、記憶に干渉する能力者は、その能力を持っているというだけでひどく嫌われます』

『………………それは私が一番知ってるわよ』

『そんな私のような精神系能力者が世間から排除されないためには、平身低頭、恭順の意を示して敵でないことを常にアピールし続けなければなりません』

『………………っ』

 

 操祈は口囃子に対して何も言えなかった。操祈がこれまで選んできた行動は圧倒的な力を見せることで相手を黙らせることだったのだから。操祈の性格上、平身低頭を選びたくはなかった。そして操祈にはそれを選ばずに済む力があった。

 でも、目の前の少女はそうではなかった。その事実は操祈の胸を苦しくさせた。

 

『ですが、私たちのような能力を持つ者だって、自分の尊厳を大事にしたいんです。別に、他の方を害したいとかそういうわけでなく』

『………………っ』

『けれど、私たちのような者が派閥を立ち上げれば人々からより一層忌み嫌われることは目に見えてます。だから……』

『だから……排除されない圧倒的な力を持つ私がお神輿として必要だと』

『………………………………そうです。私たちには食蜂さんという絶対的な力を持つ象徴が必要なんです』

 

 口囃子は心苦しそうに肯定してみせた。操祈相手に嘘やおべっかは通じないことを知った上での正直な返答に違いなかった。

 

『………………いいわ。先輩たちのお神輿になってあげる』

 

 しばらく考えた後、操祈は笑顔で口囃子に向かって笑顔で応えてみせた。

 

『本当ですかっ!?』

 

 口囃子の顔がパッと輝いた。

 

『私はね、ずっと考えていたことがあるのよ。どうしてスキルアウトみたいな集団があって、いつまで経ってもなくならないのかなって』

『スキルアウト、ですか?』

 

 口囃子がキョトンとした顔を見せた。

 

『常盤台にもスキルアウトは必要だって思うんですよ、私は』

『は、はあ』

『私は常盤台のスキルアウトのボス。うん。とってもいいかも♪』

『えっと、あの、つまり……?』

 

 話をよく飲み込めていない口囃子に操祈はニマッと笑ってみせた。

 

『化物を嫌う“善良な”いい子ちゃんたちの集まりであるこの常盤台に私たちの派閥が風穴を開けてやりましょうってことよ♪』

 

 食蜂派閥の誕生の瞬間だった。

-6ページ-

 

 食蜂派閥はその立ち上げから短期間の内に勢力を急激に拡大していった。

 けれどその勢力の拡大の仕方は操祈が当初思っていたのとは別な方向へと進んでいった。

 

『派閥構成員は随分増えたけど……随分色んな子が入っちゃったわね』

 

 派閥の構成員は操祈の区分法によれば2つの分類に分けられた。

 1つは口囃子をはじめとする操祈と同じ精神干渉系能力者たち。その能力ゆえに人々に疎まれてきた“化物”グループ。

 もう1つが、操祈が持つレベル5という称号と圧倒的な力に惹かれて集まってきた非精神干渉系能力者たち。華やかさや権力ごっこに青春を燃やす“一般人”グループ。

 元々は前者のために組織したはずの食蜂派閥だったが、構成員の比率的には後者の方が遥かに多かった。その比率のアンバランスさは派閥の性格を徐々に変容させていった。

 

『女王には、もっと毅然とした態度を見せて頂かないと下の者に示しが付きませんわ』

『別にいいじゃん。堅苦しいことはなしにしてさぁ〜』

 

 “一般人”グループの構成員であり、自分のコーディネーターを自称する通称縦ロールのお小言に操祈は辟易していた。

 縦ロールたち“一般人”生徒たちが派閥に対して要求したのは操祈に対する神格化だった。操祈の個人的な名声、威勢を高めることで派閥全体の地位を底上げしようとするものだった。それは、食蜂派閥を常盤台中学の中央部に据えようとする作業でもあった。

 食蜂派閥を常盤台の中央部に据えようという試みは操祈や“化物”グループの本来の狙いとは異なっていた。

 けれど、操祈たちは特に反発を示すことはなかった。中央部を陣取ってしまうことで、彼女たちの目的もまた達成できたのだから。

 

『スキルアウトが学校の中央部を乗っ取るってどう思うぅ? 口囃子せんぱ〜い♪』

『みなさんが違う空を見上げている気はしますが……この派閥のおかげで私や他の精神系能力者たちは快適に学校生活を送れるようになったことは確かです。食蜂さんにはとても感謝しています』

『回答を避けましたねぇ〜。まあ〜私にもいつも話しかけてくれる“お友達〜”がたくさんできたからぁ悪くはないですけどねぇ。擬似コミュ力アップみたいなぁ〜♪』

 

 食蜂派閥が最大勢力になったことで、精神系能力者に向けられる生徒たちの反応は大きく変わった。

 少なくとも非敵対的なものへと変わった。そして多くの生徒たちが、最大の規模を誇る食蜂派閥、その中心に存在する才色兼備を誇る食蜂操祈に憧れを抱くようになった。

 操祈はその現象をハイソに憧れる少女の一時的な熱病と分析していた。

 

『女王っ! 私の話を聞いてくださっていますか?』

『ああっ、ごめ〜ん。聞いてなかったぁ〜♪ 許して愛しの縦ロールちゃ〜ん♪』

『来月の派閥の定例会の重要な話をしているのですからちゃんと聞いてくださいね』

『はぁ〜い』

 

 例えば、操祈への忠義が最も熱い縦ロールを例にとって考えてみる。

 操祈は彼女のことを常盤台の生徒の典型例にして最も重度な熱病患者と考えている。

 縦ロールは派閥の中で厚く用いている限り無限の忠誠を尽くしてくれるであろうことは間違いないだろうと操祈は考えている。

 おそらくは、命じなくても自ら危険の中に飛び込んでくれるであろうとも。

 けれども同時に操祈は確信している。縦ロールと進学先が別々になった場合、彼女は短期間の内に操祈のことを忘れ去り新生活に夢中になるであろうことを。

 縦ロールは操祈のことを女王と呼ぶ。同学年であるのにも関らず決して食蜂とも操祈とも呼ぼうとしない。

 その意味を操祈はよく熟知している。即ち、縦ロールが欲しているのは操祈という一個人ではなく強大にして優雅な女王という存在であることに。だから縦ロールは自分に常に女王然として振舞うように要求しているのだと。

 忠義には厚いが操祈本人ではなく女王というイコンを見ているのが食蜂派閥の構成員の大半であることを操祈は熟知していた。そして常盤台の生徒には多かれ少なかれそのような傾向が共通で見られることも理解していた。

 だからこそ操祈は注意しないわけにはいかなかった。権力ごっこ遊びを通じて快適な学園生活を続けるためには女王であり続けなければならないことに。

 女王の地位を脅かされてはならない。女王の座の維持は操祈にとって学生生活を送る上で大きな方針となっていった。そして操祈はより女王然として振舞うようになっていった。それは操祈の信奉者を増やす結果をもたらし、食蜂派閥メンバーの安寧をもたらした。

 けれど、それは同時に操祈に対する反発や無視も強まる両面的な効果ももたらした。そして、その過程を通じて操祈と美琴の間には修繕し難い程の深い溝が出来上がっていった。

 

『アンタ、そのゲスい能力を2度と行使するんじゃないわよっ!』

『御坂さんこそぉ〜私の持っている女王の地位に興味があるんじゃないのぉ?』

『フザケンナッ!!』

 

 操祈にとって美琴は女王の地位を巡る強力な競争者となった。

 美琴が女王の座に就けば食蜂派閥の構成員の大半は彼女を支持するであろうことも予測がついていた。それ故に最も警戒しなければならない。例え美琴には欠片も女王の座に興味がなくても。

 操祈の美琴に対する猜疑心は高まり、それに伴って美琴は操祈をより嫌うようになってしまった。

 

-7ページ-

 

『……学園都市第1位を素手で倒したっていう上条さん。気になる男の子よねぇ』

 

 操祈は2年生に進級し、しかもその新しい学年の既に半分が過ぎ去っていた。

 彼女は最近、美琴でさえまるで歯が立たないと言われた学園都市レベル5第1位がレベル0の男子高校生に敗北したという公然の秘密と化したニュースに夢中になっていた。

 何故、レベル0の少年が第1位に勝つことができたのか不思議でならなかった。操祈はその辺りの事情を悪を公言して憚らない大人たちと、自身の能力を用いて調査した。

 その結果、面白いことが分かった。第1位を倒した上条当麻という少年は全ての能力を無効化してしまう不思議な力を持っていることを。そして、上条当麻という少年に御坂美琴が執心しているらしいことを。

 

『……第1位の力が効かなかったってことはぁ〜私や御坂さんの力も効かないってことよねえぇ。しかもぉ、あの恋愛に全く興味がなさそうな御坂さんを惚れさせちゃうなんてぇ』

 

 自分の能力が効かない人間がレベル5以外にも存在する。そしてその少年は第1位を倒したばかりか、美琴の心まで盗んでしまっている。権力ごっこにも新鮮味がなくなり飽き飽きしていた所に舞い込んだビッグニュースだった。

 操祈は調べようと思えば当麻に関する情報を幾らでも容易に収集することができる。けれど、それでは退屈を持て余すこの14歳の少女の好奇心を満たすことはできない。

 操祈はスリリングな方法で当麻に関する情報を集めて回ることにした。すなわち──

 

『ちょっと、女王っ! 聞いておられますの? 今は大事な派閥総会の打ち合わせの最中ですわ』

『あっ、御坂さ〜ん♪』

『えっ?』

 

 操祈と縦ロールが座っているテラスのすぐ横を美琴が通り過ぎようとしていた。

 美琴は携帯端末を熱心に弄っており、操祈たちの存在に全く気付いていない。

 それを知った上で操祈は美琴に先制攻撃を放った。

 

『痛ったぁっ! いきなり何をするのよ、ゲス女ッ! せっかく打ってたメールが全部消えちゃったじゃないの!』

 

 いつものように操祈の精神操作は電磁バリアに阻まれて効かなかった。勿論そんなことはやる前から十分に承知していた。美琴の注意を自分の方に向けさせさえすればそれで良かった。

 

『じょ、女王っ!?』

 

 反対に目一杯驚いているのが縦ロールだった。

 彼女はこの場に、操祈と美琴と自分の3名しかいないことを気にしているようだった。

 すなわち、もし美琴が怒ってバトルという展開になれば女王を守る盾は自分しかおらず、操祈は敗北を喫してしまうであろうことを危惧している。

 そんな縦ロールの不安を無視するようにして操祈は美琴に陽気に話し掛けた。

 

『実はお友達の御坂さんにぃ〜ちょっと尋ねたいことがあるのぉ〜♪』

『誰がお友達よっ! フザけたこと言わないでっ!』

 

 美琴は操祈を睨み付けている。けれど、電撃までは放ってこない。そのことに縦ロールは安堵していた。

 

『で、尋ねたいことって何よ?』

 

 そして美琴は律儀だった。

 

『実はぁ上条当麻さんっていう男子高校生にぃ〜ちょっと興味が沸いちゃってぇ。それで御坂さんにぃ色々教えてもらいたいんだけどぉ〜♪』

 

 陽気に喋り終えた瞬間のことだった。

 

『『へっ?』』

 

 操祈の顔のすぐ横を何かが突き抜けていった。

 速過ぎてよく見えなかった。けれど、電撃であったらしいことは、目の前の少女の全身から青白い光が発していることから分かった。

 

『じょっ、女王っ!?』

『へぇ〜。御坂さんの心をこんなにも掻き乱す存在が世の中にいたなんてねぇ♪』

 

 美琴が攻撃を仕掛けてきたことに縦ロールは慌てている。けれど操祈は興奮を隠し切れなかった。

 操祈を忌み嫌いながら徹底的に無視しようと決めてきた美琴。その少女がたった1人の男子高校生の名前を挙げただけで今までに見せたことがない程に好戦的な態度に出た。

 身体の危機、ひいては派閥の存続にも重大な影響を及ぼす危機的状況だと言うのに操祈はとても楽しい気分でいっぱいだった。

 

『もしかしてぇ私が御坂さんのカレシを盗っちゃうと警戒しちゃったのかしらぁ〜♪』

『あんな奴ッ! 彼氏なんかじゃないってのぉおおおおぉっ!』

 

 美琴は大声で操祈の言葉を否定してみせた。冷静沈着で知られる美琴にしてはとても珍しい反応だった。

 そしてこれでハッキリした。美琴は当麻という少年に片想いしている最中なのだと。

 

『アンタ……アイツに余計なちょっかいを出したら…………許さないからね』

 

 美琴が怒りに満ちた瞳で操祈を威嚇する。今まで何度も操祈は彼女に蔑む瞳をぶつけられてきた。けれど、今の瞳はそれとは違う。蔑みではなく純粋な敵意が剥き出しだった。

 それが操祈にはとても嬉しかった。

 

『上条さんがぁ御坂さんのカレシだって言うのならぁ私もちょっかい出さないけれどぉ〜そうじゃないならぁ余計なお世話力ってヤツよねぇ〜♪』

 

 操祈の言葉を聞いて美琴の様子が分かり易いほどに怒りに燃え上がっていく。そんな美琴を見て隣の縦ロールは震えが止まらなくなっている。

 

『私が上条さんとお付き合いし始めたらぁ〜結婚式にはちゃんと招待力を発揮するわよぉ。だから御坂さんは安心してね♪』

 

 美琴相手に軽口で挑発するのが楽しくてたまらない。

 

『アンタ本当に死にたいらしいわねっ!』

 

 操祈のすぐ側を2発目の電撃が通り抜けていく。人間を動かすこと以外に物理的な干渉力を持たない操祈に美琴の攻撃を防ぐ手立てはない。

 戦闘に突入すれば負ける。それは分かっている。けれど、そんなことは今の操祈にとって些細なことでしかなかった。

 美琴と同じ土俵の上に立っていることがとても嬉しかった。常盤台中学に入学して初めて同じ地平で美琴と向き合っている。そんな興奮が操祈を占めていた。

 

『それじゃあ御坂さ〜ん。どっちが先にぃ上条さんのハートを掴めるかぁ〜勝負するのはどうかしらぁ?』

『勝負? フザケンナッ!!』

 

 美琴から3発目の威嚇電撃が放たれる。しかも1、2発目よりも遥かに電流の量が多かった。直撃していれば死んでしまっても不思議はない。縦ロールは恐怖のあまり立ったまま失神してしまっている。

 けれど、そんな風に美琴が熱くなっている状況だからこそ操祈はより過激に1歩を踏み出したかった。

 

『メンタルアウトとレールガンの全面戦争にこれ以上相応しい勝負法はないと思うのだけどぉ? それともぉ負けるのが怖い?』

『…………上等よ。アンタなんかにアイツは渡さないから』

 

 美琴が今まで見たことがない真剣な表情で操祈を睨み返した。美琴が操祈を初めてライバルとして認めた瞬間だった。

 

『せっかくだから、アンタに2つアイツに関する助言をあげるわ』

『御坂さんってばぁ優しいんだぁ。負けた際の言い訳?』

 

 美琴の目が更に鋭くなった。

 

『アンタのそのゲスい能力はアイツ相手には通じないわよ』

『それぐらいは知ってるわよぉ。第1位の能力だって通じなかったんでしょ』

『それからもう1つ。あの鈍感ハーレム王を舐めてかからない方がいいわよ。アイツ自身も、アイツの周りにいる女どももね。レベル5なんてつまらない称号にこだわっていると痛い目に遭うわよ』

『御坂さんの実体験に基いていそうなぁアトバイスはぁとっても為になるわあぁ♪』

 

 操祈は軽く髪を撫でた。

 

『忠告はしたわ。アンタがアイツに相手にされないのは勝手。だけど、それでアンタが癇癪でも起こして周りに被害でも与えられちゃたまらないもの』

『ご忠告……痛み入るわぁ〜♪ 感謝力〜♪』

 

 美琴は操祈に背を向けると去っていった。

 

『ほらぁ〜縦ロールちゃん。いい加減に起きなさいって』

 

 操祈はリモコンのボタンを押した。

 

『あっ、あれ? 私は一体何を?』

『総会の打ち合わせの最中にお昼寝しちゃうなんてひどいわぁ』

『す、すみません。私としたことが』

『まあいいわ。あなたが寝ている間にとても楽しい出来事が起きたのだし』

『楽しいこと、ですか?』

『ええ、そうよぉ。ウフフフフ〜♪』

 

 いぶかしがる縦ロールに対して操祈はずっと笑っていた。

 

 この日、操祈は初めて全力でぶつかり合えるライバルを得た。

 そしてこの日から1ヵ月後、操祈は遂に上条当麻と巡り合うことになった。

 

-8ページ-

 

「…………まあ、そんなこんなで私にも色々ありましてぇ〜私は別に無理やり女王しているわけじゃありませんよぉ。強いて言うならぁ、状況に流され力を発揮しつつも楽しんでるみたいなぁ♪」

 話し終えた操祈は軽く息を吐き出した。

 考えてみると自分の半生を長々と話したのはこれが初めてのことだった。

 いつでも心を垣間見える、改ざんできる人間に対して自分のことを長々と話したいとは思わなかった。相手の記憶を改ざんしてしまいそうになるから。

 美琴とは反りが合わないので自分のことを語りたくもない。結果、当麻に対して初めて自分のことを語った。

 そして語ってみて思った。常盤台の女王を語り偉そうに振舞っていながら、意外と流され続ける人生であったことに。他人に喋って初めて気付いた。

「なるほど。操祈ちゃんが女王さまを続けているのは自分と同系統の能力者が迫害を受けないためか」

 ウンウンと頷いてみせる当麻。その評価は操祈にとって予想外のものだった。

「そんないいもんじゃありませんよぉ。私は自分のやりたいことをしているだけでぇ。快適なスクールライフのための自己実現力発揮みたいな?」

「うんうん。いじめに遭っている女学生を守り、ハイソに憧れる女の子たちの夢を守るために組のボスになるなんて、操祈ちゃんはいい子だなあ」

 当麻は操祈を見ながら微笑んだ。邪気の感じられない笑みだった。

「なるほどぉ。ハーレム王さんはそうやって次々に女の子を攻略していったんですねぇ」

 操祈が薄目になって意地悪く微笑む。

「誰がハーレム王だっての! 年上のお兄さんをからかうのは止めなさい」

「えぇ〜? でもぉ私今、上条さんに攻略されてる最中だしぃ。数ヵ月後にはぁ〜大きなお腹で幸せ満喫中力みたいな展開が待ってそうだしぃ」

「ないから! そんな展開っ!」

「それってつまりぃ上条さんはできちゃっても責任とってくれないとぉ。ハーレム王は鬼畜さんなんですねぇ」

 操祈は大きく息を吐き出した。

「高校生をからかうんじゃありませ〜んっ!!」

 当麻の絶叫。

「上条さんから1本取り返したしぃ〜♪」

 操祈は楽しそうに笑ってみせた。

 

「まぁそんなわけでぇ〜私は自分で選んだ生き方を常盤台で満喫してるのでぇ〜上条さんに助けて欲しいことはありませんよぉ」

 操祈は改めて自分の立場を当麻に告げた。けれど、それで納得して引き下がるハーレム王の異名を持つ当麻ではなかった。

「つまり、操祈ちゃんは御坂と友達になりたいけれどお互いに素直になれなくて困っている。そういうことなんだな!」

 当麻はとても力強く真顔で述べた。

「へっ?」

 操祈は当麻が何を言っているのか瞬時には理解できなかった。

「レベル5の女の子同士、しかも同じ学校に通う同級生同士。操祈ちゃんが御坂と仲良くなりたいと思う気持ちは痛いほどよく分かるっ!」

「…………どうしてそういう解釈に?」

 操祈は首を捻りながら以前美琴が発した忠告を思い出した。

 

『それからもう1つ。あの鈍感ハーレム王を舐めてかからない方がいいわよ』

 

 美琴が何故あんな忠告を発したのか何となく意味が掴めて来た。

「俺が必ず操祈ちゃんと御坂を仲良しの友達にしてみせるからなっ! 絶対に友達になれないなんて……まずはそのふざけた幻想をブチ殺すっ!」

 当麻はスイッチが入ってしまったらしくやたらと燃えている。

「………………う〜ん。どうしたものかしらねぇ?」

 操祈が微妙に困っていると、遠くからバタバタと足音が近付いて来るのが聞こえた。

 1年以上同じ学校に在籍しているのでその足音が誰にものかはすぐに分かった。

 その人物の顔を思い描いた所で、操祈にはひとつの考えがパッと浮かび上がった。

「じゃあ〜上条さんにお願いしますねぇ〜♪」

 操祈は当麻の左腕に抱き締めた。中学生とは思えない見事なスタイルを誇る胸を惜しみなく当麻の腕へと押し付ける。

「へっ? あ、あの……操祈、ちゃん?」

 当麻が顔を真っ赤にしながらガチガチに固まった。そんな当麻のテレ具合を可愛いと感じながら操祈は当麻の耳元で甘く囁いた。

「それじゃあ私と御坂さんの仲の取り持ちを……お願いしますね」

「おっ、おうっ! 任せておけ!」

 中学生とは思えぬ色気に当麻が焦りながら胸を叩いて返事したその時だった。

 

「何が……任せておけなのかしら?」

 当麻の全身がビクッと震えたのが密着した状態の操祈にはよく分かった。

「よっ、よおっ。御坂……」

 当麻がぎこちなく首を回しながらやって来た足音の主へと振り返った。

「アンタは女子中学生を腕にはべらせて一体何をしているのかしら?」

 確認するまでもなく美琴の声は怒りに満ちていた。

「こっ、これはだなっ! その、誤解するなよ!」

「私が上条さんに告白されてぇ〜お受けした場面、みたいなぁ?」

 当麻の代わりに答えたのは操祈だった。

「へぇ〜。見境なしのハーレム王だとは思っていたけれど……常盤台の女王さまにまで手を出しちゃったわけね」

「今日初めて会ったばかりなのにぃ〜熱烈に口説かれちゃったの♪ 私はもぉ上条さんにメロメロっていうかぁ〜♪」

 操祈が喋ることで美琴の全身が激しくスパークを起こし始める。そんな美琴を見ながら操祈は当麻の耳元で囁いた。

「……それじゃあ上条さ〜ん♪ 私と御坂さんの仲の取り持ち力発揮をよろしくおねがいしますねぇ〜♪」

「……難易度上げすぎだろうっ! 死ぬっ! 俺は絶対死ぬって! 1分後に生きている自分が全然想像できないって! 前言撤回! 操祈ちゃんの抱えている問題は命の危機! しかも俺のっ!」

「……頑張ってくださいねぇ〜。上手く生き延びられたらぁご褒美にファーストキッスぐらいあげてもいいですよぉ。御坂さんの見ている前で♪」

「……そんなことされたら、俺は結局死ぬしかないっての!」

「アンタたちぃ〜〜っ! 何をこそこそイチャイチャしてんのよッ!」

 美琴の放電が最高潮に達する。周囲一帯が白い光の渦へと飲み込まれていく。

「アンタたち……そんなにお望みなら2人まとめてあの世に送ってあげるわよぉ〜っ!!」

 美琴の両の手のひらから最大出力の電撃が放たれた。

「ふっ、ふっ、不幸だぁああああああああああああああああぁっ!!」

 当麻は右腕で電撃を受け止めながら結局いつもの口上を空に向かって絶叫したのだった。

 

「上条さんといればぁ〜御坂さんともいっぱい遊べるしぃ〜楽しい人生送れるかもぉ〜♪」

 

 操祈は当麻と美琴を見ながら楽しそうに微笑んだのだった。

 

 

 了

 

 

 

 

 

 

説明
僕の考えたみさきち。


過去作リンク集
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とある科学の超電磁砲

エージェント佐天さん とある少女の恋煩い連続黒コゲ事件

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水着回

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