楽しく逝こうゼ?
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前書き

 

 

し、仕事がマジで忙しすぐる(汗)

 

もう泣きたいかも……後書きに重要なお知らせがありますので出来たら読んで下さい。

 

それでは、どうぞッ!!!

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「おぉぅ……1日しか経ってねーのに、まるで1年も帰ってなかった様な感慨が湧くのはこれ如何に?」

 

ぐっもーにんeveryone、俺の名前は橘禅、何処にでも居る普通の可愛いモノ好きな少年さ♪

ちょっと変わった所があるとすれば……『スタンド能力』ってスゥパーな力があるぐらいかな?

さて、そんな俺様が嫌に感慨深い声をだしてる理由はっつうとだね?

……まぁ、我が家も玄関を見てると、何故かノスタルジィな気持ちが湧いてきたからです。

あの後、置き型充電器FATEチャンのお陰で完全復活を果たした携帯で家に連絡し、電話に出てくれたお袋に親父と一緒に家に居て欲しいと伝えてアースラから降りた。

朝方リインフォースを助けた時間には雪が降ってたというのに、今の時間は全く雪が降ってなかったので、帰りは濡れずに済んだのは有難いぜ。

そして、プレシアさんの待つ家に帰る為に俺と一緒に降りたフェイトと途中で別れて、俺は今しがた、我が家への帰還を果たしたんだが……。

 

「考えてみりゃ、俺よくあの闇の書の闇と戦って生きて帰れたなぁ……これも日頃の行いの良さだな、うん」

 

我が家の玄関口を見ながら一人でウンウン頷いてる俺は、傍から見ればアホな子だろう。

だがそれぐらいに感慨深いんだってばよ。

むしろあの戦いで腕に傷を負うだけで生還できたのが奇跡に近いぜ。

しかも昨日から帰ってなかったから、実質的には昨日の朝、お袋に見送られたのが家を見た最後だったという真実。

それなんて戦場行きフラグ?

ランドセル背負ってお袋ににこやかな笑顔で戦場に送り出される少年……シュールにも程があるわ。

オマケに今現在の時刻は午前11時、まだ今日が始まったばかりの時間という……昨日だけで濃密過ぎね?

まぁしかし、何と言っても家に入らねー事には何も始まらないし、さっさと入ってお袋達に話ししなきゃな。

 

とぉおおおるるるるるるん。

 

「ん?誰だ?……なのはから?」

 

と、俺がいざ我が家に入ろうとした瞬間、充電フルパワーで元気MAXな携帯が着信を知らせてきた。

ポケットから携帯を出してみると、電話の発信者は『高町なのは』と出ていた。

何だぁ?確かなのはは士郎さん達に自分の事を話す段取りを決めてる筈じゃなかったっけ?

 

とぉおるるるるるるん。

 

そんな事を考えている間にも携帯は強く鳴り響いていたので、俺は携帯の通話ボタンをプッシュする事にした。

 

『(ピッ)あっ、もしもし?なのはだけど、禅君、今大丈夫かな?』

 

電話のスピーカーから聞こえてくるなのはの声は何時も通りで、何かトラブルが遭ったとかでは無さそうだ。

 

「おう、大丈夫だけど、どうした?」

 

『うん、あのね?アリサちゃんとすずかちゃんの事なんだけど……』

 

なのはの話を聞いてみると、今日の2時頃にすずかの家で集まって、昨日の事……というか魔法少女の事を全部話す事にしたらしい。

なのはが何時魔法少女になったのか、そしてフェイトやユーノとの出会いに至るまで全部を、だ。

この事に関しては、さっきはやてとフェイトと一緒に決めたらしく、2人もその考えに賛成したそうだ。

それで、俺の力についてはどうするか、俺の考えを聞こうと電話してきたらしい。

 

「なるほどな……わぁった。俺もその話し合いにお邪魔させてもらうわ。俺も自分の力の事話さなきゃ、アリサに怒られちまう」

 

俺はその提案に一も二も無くOKの返事を返した。

いやまぁ、昨日の時点でアリサとすずかに約束したしな、事が終わったら全部話すって。

これでなのは達が話して俺だけ話さなかったら何されることやら……考えるだけで恐ろしいです。

 

『うん、わかったの。それじゃあすずかちゃんのお家なんだけど……禅君は、場所を知らないよね?』

 

「……ん?そぉいやぁ知らねえな。いつも翠屋で話してたか、あいつ等が塾だとか習い事で居なかったし」

 

俺はなのはの質問に肯定で返事を返す。

アリサもすずかも良いトコのお嬢様で、習い事とか塾に結構な時間行ってた。

いや、一応アニメで流し見たから朧げにゃ覚えてるんだけど……何せ10年近く前の記憶だしなぁ。

 

「あははっ……アリサちゃんもすずかちゃんも、お嬢様で忙しいから……それでね?フェイトちゃんとはやてちゃんも私と一緒に行くから、何処かで待ち合わせしない?」

 

俺の言葉に電話越しに苦笑いしたなのはだったが、全員一緒に行かないか?というお誘いをくれた。

ふむ、まぁなのは達も俺の家の場所は知らねえし、妥当っちゃ妥当か。

ここいらで一番待ち合わせがしやすいのは……海鳴公園だな、あそこなら分かりやすいし。

 

「おう、わかった。それじゃあ海鳴公園前に1時でどうだ?」

 

『うん。大丈夫だよ』

 

「そんじゃあそれでいこう……でもよ?それぐらいならメールでも良かったんじゃねえか?」

 

重要な用件が終わったのを見計らって、俺は途中から気に成っていた事を切り出してみた。

別にこれぐらいの内容なら態々電話で確認しなくても良い様な気が……。

 

『ギクゥッ!?』

 

おい待てやコラ、何だ今のギクッてあからさまな擬音は?

何やら電話越しに聞こえた変な音に、俺は無言でなのはの返事を待つ事にした。

所謂、無言のプレプレプレップレッシャーって奴だ。

大体3分ぐらいだろうか?何も言わずにジーッと待ってみると、スピーカーから乾いた笑い声が聞こえてきた。

 

『に、にゃはは……じ、実は禅君にお願いがあって〜……駄目かな?』

 

……何だろう?なのはからのお願い事と聞くと激しくデジャヴる。

具体的には俺がメンドクサイ思いをする方面で。

 

「……一応、聞きましょうか」

 

一応、ね?

 

『う、うん……ア、アリサちゃんから伝言があって、『禅の馬鹿は引き摺ってでも連れてきなさい!!それとレディーの家に来るからには菓子の1つでも持ってこさせなきゃね!!あっ、あたしガトーショコラが食べたいから作って来る様に言っといて』って……』

 

「俺はアイツの専属バトラーじゃねえんですけどッ!!?ってゆうか最初から俺に拒否権は存在してねえじゃねえかコンチクショウッ!!」

 

余りにも理不尽っつーかわがまま極まる伝言に、俺は電話越しに大声を出してしまう。

通話相手のなのはは今の伝言に全く関係ねえにも関わらず、だ。

でも仕方ねえと思う!!だって家に来るなら菓子折りの1つでも持って来いだぜ!?

つうかガトーショコラとかマジメンドクセエ!!何時から俺はアリサの我侭を聞く不幸な執事になった!?

しかも行くのはすずかの家であってアリサの家では無い筈ですよねえ!?

それを何でアリサがあたかも自分の家に招待するから菓子持って来い、的な言い方してんだよ!?

 

『ど、怒鳴らないでよぉう!!私は伝言を伝えただけなんだから〜…………食べたいけど(ぼそりっ)」

 

「今何かぼそっと呟きやがったろテメッ!?」

 

携帯の向こうから呟かれた小さい言葉にも過剰に反応してしまう程、今の俺は冷静さを失っていた。

お、落ち着け、落ち着くんだ橘禅……こーゆう時はアレだ、素数を数えるんだ……2 3 5 7 11 13 17 ……。

朝一で聞かされた理不尽な我侭で荒ぶった心を落ち着けるために、俺は目を閉じて素数を順に数えていく。

こーゆう時こそ冷静に行動しなくちゃいけねえ。

そうさ、何も慌てなくとも、クールに考えれりゃ断ればいいだけの話しじゃねえか。

あたかも自然体を装い、家に材料がありませんでしたとか尤もらしい事を言えば良いじゃ……。

 

『それとすずかちゃんからも伝言があって……『御菓子を持ってきてくれたら、昨日約束してたO☆HA☆NA☆SHI☆は無しにしてあげるよ?』って……』

 

「OKOK!!もうバリウマなガトーショコラ作って持って行きますとも!!一体如何程作れば宜しいんでしょうかぁこんにゃろう!?」

 

よし、可愛いお嬢様方には極上級のガトーショコラを召し上がって頂こうではないか。

それもなのはとプレシアさんに脅された時のパンプキンパイより気合入れて、あれを超える味を作ってみせましょうぞ。

O☆HA☆NA☆SHI☆の事しっかり覚えてたのね……すずかちゃんメラ怖い。

 

『やった!!作ってくれるんだね!?それじゃあ私とフェイトちゃんとはやてちゃんとアリサちゃんとすずかちゃんに、後は忍さんとファリンさんとノエルさんも居るから……ユーノ君はさっきアースラに戻っちゃったから食べれないし』

 

えらい大所帯だなおい!?つうか作ると言った途端に容赦ねえ!?

俺のOKサインを聞いたなのはは喜々とした声で人数をリストアップしていくが、その余りの人数の多さに腰を抜かしそうになった。

3人程俺の知らない人の名前が上がったが、なのはの言い方から考えるにすずかの家族だろ。

しっかし聞いてるだけでも俺を入れたら9個ですか……マジで材料足りるか?っつうか家にあんの?

 

『ん〜っと、それじゃあ禅君の分も含めて9個お願いするの!!楽しみにしてるね!!』

 

と、人数を数え終えたなのはは、電話の向こうで飛び跳ねてるんじゃないかと思うくらい嬉しそうな声で楽しみにしてるとのたまってらっしゃる。

あ〜も〜……そんな風に嬉しそうな声出されたら、作るの面倒でした。なんて言えねえじゃねえか。

全く、何時もは砲撃魔だってーのに、こーゆう時のなのはは子供らしく素直で可愛らしいな、まぁフェイトとは比べ物にならねえけど。

スピーカーから聞こえるなのはの声に疲れが入った溜息が出そうになるも、俺の頬は鏡を見なくてもわかるぐらいに緩んでた。

 

「はあぁ……オーライ。じゃあガトーショコラを9個作るが……もしも家に材料が無かったり足りなかった場合は、勘弁してくれよ?」

 

さすがにそれ位は、許して頂けると思うとです。

 

『にゃはは……その時の事もアリサちゃんから、『材料が無かったらすずかの家で作りなさい。すずかの許可は出てるから』って伝言が……』

 

「テメエらホンットに容赦がねえなぁ!?そつなく逃げ道潰されて絶望する奴の気持ちも考えようぜ!?この悪魔共め!!」

 

『うにゃ!?わ、私が言ったんじゃないよ!?それに私は悪魔じゃないのーー!!』

 

そこはアリサとすずかも否定してやれよ。

っていうか、あんな極悪砲撃を造るわ人に向けて盛大にブッパするわなんて所業しくさっておいて悪魔じゃないはねえだろ。

しかもアータ昨日ヴィータに「悪魔でいいよ」って言ってたじゃん。

受話口から聞こえてくるなのはの叫び声をバックミュージックに俺は盛大な溜息を吐いていた。

残念ながら俺のやる事は読まれていたのか先手を打たれていたぜ、どうしてこうなった?

そしてその後は今日の夜の事を纏める為に話し合った。

今のトコ決まってる事は、俺の家族となのはの家族の人達を集めてリンディさんとグレアムさんに今回の一件について話しをしてもらうって事だ。

場所は全員が入れる所……そこがなのはには思い当たる節がねえらしい。

まず、なのはの高町家が5人、俺の家族で説明しなきゃいけねえのは、お袋、親父、爺ちゃんの3人、そして説明役にリンディさんとグレアムさん。

今回の事件の発端である八神家の6人。更に前回のジュエルシード事件の中心だったテスタロッサ一家が3人。

執務官として活躍したクロノとアースラスタッフ代表としてエイミィさん、全部で……。

 

「占めて……22人か……とんでもねえ大所帯だなぁ」

 

しかも大人の割合がかなり多い上に、屋内でその人数が座れるとなると、中々無いだろう。

 

『流石に翠屋もそんなに大人数は入れないから……禅君は、何処か良い場所知らないかな?』

 

「いんや、俺の方も検討が付かね……いや、あったわ」

 

『え!?あるの!?』

 

俺の言葉になのはの驚く声が受話器から鳴り響いてくる。

 

「あぁ、俺の爺ちゃんの家が滅茶苦茶広いのをド忘れしてたぜ」

 

俺は後頭部をガリガリと掻きながらなのはの言葉に肯定の意を示す。

そう、俺の心当たりってのは他ならぬ俺の爺ちゃんの家だった。

ここで軽く爺ちゃんの事に触れておこう。

俺の爺ちゃんである『橘茂』は、地元である海鳴市で一番デカイ廃車工場の社長だ。

従業員はたったの2人で、爺ちゃんを入れると3人しか居ねえが、この辺りには廃車工場が爺ちゃんの所しかねえから需要はちゃんとある。

そんでまぁ、前にも言った通り、爺ちゃんは俺やお袋達とは別居していて、親父が結婚する前の家、つまり実家に1人で住んでる。

婆ちゃんは俺が生まれるずっと前に亡くなったらしい。

その実家が、第3部の主人公である空条承太郎の実家だった和風な屋敷そっくりなんだ。

さすがに初めて見た時は目ン玉が飛び出そうになったよ。

 

「まぁ爺ちゃんの屋敷なら、大広間に22人ぐらい余裕で入る。とりあえず聞いてみっから、また連絡するわ」

 

『わかったの。それじゃあ、また後でね』

 

爺ちゃんの家の造りに衝撃を受けていた昔を懐かしみつつ、俺はなのはに言葉を返した。

そのまま少しだけ話してからなのはとの通話を止め、俺は目の前にそびえる我が家の門を迅速な足取りで潜っていく。

こ、こんな所でノスタルジックな思いに浸ってる場合じゃヌァッシングッ!!さっさと親父達に今日の事を話して厨房に立たねば!!

只でさえ時間が無い上に、材料が無かったらすずかの家に行ってから作らされるという面倒を回避したいが為、俺は玄関のノブに荒々しく手を掛ける。

 

「(ガチャンッ!!)親父!!お袋!!戦う料理人こと橘禅!!只今戻りましたーーー!!」

 

俺は盛大に玄関の扉を開いて玄関口から声を張り上げた。

すると、1階のリビングの方から、スリッパでフローリングを擦るパタパタ音と軽やかで上品な足取りが聞こえてきた。

そして、リビングの扉が開くと、そこから長い黒髪を優雅に翻すお袋の姿が現れる。

何時もの暴走してる時の般若顔ではなく、普段通りの優しい微笑を浮かべながら歩くその様は、大和撫子といって差し支えないだろう。

でも親父の話しだと、昔は伝説級のレディースの総長だったらしいが……全く持ってそうは見えんから不思議だぜ。

いやまぁバーサークモードの時は納得できるけどね?

 

「はいはい、お帰りなさい禅。全くもう、何の連絡も無しにフェイトちゃんの家に泊まるなん(ピキッ)……」

 

と、いつも通りの柔和な笑みを浮かべて俺に話しかけてきてくれたお袋だが、俺の様子を間近で見ると、驚いた顔で固まってしまった。

え?な、何だ一体?

俺はそのいきなり急変したお袋の様子に戸惑ってオロオロしてしまう。

 

「お、お袋?一体どうし……」

 

たんだ?と続けようとしていた所、お袋は驚いた表情のままに屈んで俺との距離を詰め、俺の右腕を凄く強い力で握って持ち上げた。

そして、俺の右腕に巻かれた包帯をしげしげと眺め……って包帯!?し、しまったぁ!?

しかもその包帯を見て、段々とお顔が怒りに染まっていくマイマザー、迫力だけなら完全にリインを上回ってらっしゃる……やっべえ。

自分の右手に巻かれた包帯と、腕を掴まれたことで右腕全体に奔る鈍痛、そしてお袋の醸し出すスゴ味に俺は今世紀最大のOH MY GOD !?って気持ちを叫びたくなった。

俺はフェイト、アルフ、リインからの萌え攻撃と桃色空間を堪能していたがゆえに、昨日の戦闘で負った怪我の事が頭からスッポリと抜け落ちていたとです。

そう、今お袋が穴が開くほど見ているのは、昨日の闇の書の闇との最後の戦闘で使った((山吹色の波紋|サンライトイエローオーバードライヴ))の反動で刻まれた裂傷だ。

まだ成長途中、そして未熟なこの身体で使った最強の波紋エネルギーの代償は、俺の手首より少し上から肩の付け根に至るまで、決して消えない傷を遺した。

それ自体の痛みは、あのドタバタ劇と魔法による治療のお陰であんまり気にならなかったんだが、それがココに来て仇になっちまった。

 

「この傷は一体何だ!?どうしてこんな酷い怪我をしている!!答えろ!!」

 

「あっ、いやその……」

 

そして、お袋は怒りを浮かべた表情のままに俺を大声で怒鳴りつけてきた。

しかし俺はどう話したら良いモンか判らず、言葉に詰まって視線を逸らすことしか出来なかった。

何せこの傷は全部俺の自己責任だし、正直に魔法の事やら管理局の事を話しても、今の怒り状態のお袋じゃ取り合っちゃくれねえだろうからだ。

 

「どうして黙っているんだ禅!!朝にプレシアさんから連絡をもらった時は、こんな怪我の事は一言も話していなかったんだぞ!?なのにどうして……!!」

 

「お、落ち着いてくれお袋!!こ、これには理由があ……」

 

「どうしたんだ母さん?そんなに大声を出して……」

 

と、玄関口で怒りを撒き散らすお袋をどう鎮めたもんかと焦りながらいると、リビングの入り口から普段着に身を包んだ親父が登場した。

何の気無しに現れた親父の表情は怪訝なモノになっており、何事かわからないって感じだ。

まぁ確かに行き成り玄関で大声を出されちゃ何事かと思うのが普通の反応か。

 

「あなた、コレを見て!!」

 

何て半ば諦めの境地で状況を判断していると、お袋が掴んでいた俺の腕を親父に見える様に差し出してしまった。

しかも俺の来ていた冬用のジャケットと制服の裾を捲くり上げて、俺の腕全体に巻かれた包帯を見せつける様にだ。

裾というベールに包まれていた俺の右腕は外気に晒され、右腕全体に巻かれた白い包帯が親父の目の前に露になる。

それを見た親父は顔を驚愕の表情に変えたが、直ぐに俺を真剣な表情で見つめてきた。

 

「禅、リビングに来い。一体何をしてそうなったのか話してもらうぞ。母さんも今は抑える様に……いいな?」

 

「……わかった」

 

普段は滅多に見せない重みが篭った、拒否は許さないという声質と気迫に、俺はお袋から解放してもらった腕をさすりつつ親父に返事をした。

まぁこの怪我を負った経緯をとりあえず話しておいて、夜にまた話しがあるって言うしかねえか。

お袋にもとんでもなく心配かけちまったんだし……反省しねえとな。

お袋もここで怒鳴っても仕方ないと落ち着いたのか、今は俺を心配そうな表情で見つめてくるだけだ。

 

「ならとりあえず着替えて来い。……それと、その腕は痛むのか?」

 

そして、俺の返事に言葉を返してきた親父はリビングへ戻ろうとしていた足を止めて、背中越しに腕の容態を聞いてきた。

その声はさっきまでの気迫に満ちた声じゃなく、微かにだが震えてる様に感じる。

それを考えた瞬間、あぁ、親父も俺の事心配してくれてんだな。と、不謹慎ながら嬉しくなっちまったぜ。

 

「少し痛むけど、もう殆ど大丈夫だよ。ちょっくら着替えてくるわ」

 

震える声で俺に声を掛けてくる親父に、俺は心配をかけない様に何時もの調子で返事をして、部屋に向かう階段を上った。

階段を上って突き当たりにある部屋のドアに立てかけられた$マークが、俺の部屋の目印だ。

そのドアを潜り、俺は部屋へと足を踏み入れる。

 

「……なんつうか、この部屋がすげえ久しぶりに感じちまうなぁ」

 

部屋の壁の至る所に張られた車のポスターを眺めつつ、俺はそんな事を呟く。

アメリカのシボレー社のローライダーテイストにカスタムされた93年式インパラコンバーチブル。

反対側の壁にはメッキパーツと行灯でデコレーションされた大型トラック、通称デコトラの『芸術丸』がスナップされたポスター。

渋くパリッと纏められた旧車のハコスカGT-R、エトセトラエトセトラと、壁にはジャンル問わず節操無く車のポスターが張られている。

ベッドの反対側に設置された本棚には、料理の本から車の本、ワンニャンパラダイス(キッズ)と、ここもジャンル問わずって奴だな。

本棚の隣りに設置されたコンポも、癒しの音楽からHIPHOP、REGGAE、ROKCと、何が好きなのか分からない状況になってるのはお約束。

その光景にえも言えぬ感慨深さを感じたけど、直ぐに思考を切り替えて、俺は服を着替え始めた。

あんまり時間かかるとお袋が待ちきれなくなって乗り込んでくるかも知れん。

そんでまぁ適当なシャツとジーパンに穿き変えて、俺はリビングへ向かう為にもう1度階段を降りた。

 

「来たか。とりあえずそこに座りなさい」

 

そして、リビングへ通じる扉を開くと、テーブルの横に配置されたL字型のソファーにお袋と親父が座っていた。

親父が顎で促したのは、そのソファーと反対側にテーブルを挟み込む形で置かれた椅子だ。

これは食事を摂る時に使うテーブルの椅子だから、多分向こうのテーブルから持ってきたんだろう。

俺は親父の言葉通りに椅子に大人しく座り、反対側から真剣で、それでいて厳しい目を向けてくる親父とお袋に向き合った。

 

「さて……では禅。その腕の怪我はどうしたんだ?」

 

そして、等々この質問が来てしまった。

2人の俺を見つめる表情は「嘘は許さん」という考えがアリアリと出ていらっしゃった。

その竦みそうになる視線を受けながら、俺はどうしたもんかと悩む。

何せ俺1人で魔法だ何だと説明しても子供のたわ言で終わっちまいそうな感じがする。

第一あのハチャメチャバトルの事を何て言やー良いってんだよ?

「実は俺、昨日この海鳴市、いや地球を滅ぼすハルマゲドン級のバケモンと戦ってたんだ」ってか?

うん、間違いなくふざけてんのか?ってお袋にブッ飛ばされちまうな……とりあえず、ちょっとだけでも説明しとくか。

 

「え〜っと、この腕は……まぁ、自業自得の怪我っつーか……ちょっと無茶な事をしちまった結果ッス。はい」

 

俺は2人の真剣な視線を受けつつ、少しばかりおどけた態度で言葉を返した。

まぁこの腕の傷が自業自得なのは本当の事だしな。

俺がもっと過酷なトレーニングをしていたら、((山吹色の波紋疾走|サンライトイエローオーバードライヴ))を使いこなせてたかも知れねえし。

その辺りは修行を疎かにした俺の責任でしかねえ。

俺はそう答えるが、親父とお袋は未だに視線を和らげずに俺をしっかりと見つめている。

 

「自業自得か……では、そうなった原因は何なんだ?そんな腕全体を覆う包帯を巻く傷、余程の事が無い限りはならないだろう?」

 

「あぁ〜、それはッスねぇ〜……何と申しますか……俺1人じゃ説明しきれねーっていうか……」

 

「曖昧に言葉を濁すなッ!!ハッキリと言えッ!!」

 

と、何とも煮え切らない言い方をした俺に我慢の限界が訪れたお袋がキレた。

もうなんつーか般若と見紛う程にメンチ切ってらっしゃる、しかも素が美人なだけに怖さも半端じゃねえ。

 

「いや、その……さっき電話で親父とお袋に家に居て欲しいって言ったのは、この怪我が出来ちまった原因を夜にリンディさんが説明してくれるんで夜の時間を空けて欲しかったっつー話しなんだ……」

 

そのお袋の剣幕に圧されて一気に話しを続けた俺だったが、俺が出した人の名前が意外だったのか、お袋と親父は目を見開く。

お袋に至っては今の名前が出て冷静になったのか、半分程浮かしていた腰をソファーに沈め直した。

 

「……リンディさんが?つまり、大人が話しをしなければいけない様な大事って事か?」

 

親父は依然真剣な表情を崩さずに、俺の言った言葉を聞き返してくる。

俺はその問いに頷く事で、親父の言葉を肯定の意を示す。

 

「……正直、かなりブッ飛んだスケールの話しになるから、俺だけじゃ絶対に納得してもらえねえと思う。それに、俺の友達のなのはの家の人達も、親父達と一緒に説明する事になるって話しなんだ。……だから、この怪我を負った原因についてってのは、今日の夜まで待って下さい。お願いします」

 

俺は椅子に座ったまま頭を限界まで下げて2人に頼み込む。

お袋と親父が俺の事をスゲエ心配してくれてるってのは分かるし、本当に嬉しい。

でも、こんな話しは管理局の人間であるリンディさんとかじゃねーとちゃんと伝わらないかも知れねーし、今は待ってもらうしかない。

そして、俺が頭を下げて数分、リビングには重苦しい沈黙が降りたままだった。

その長く重苦しい沈黙に、俺の心の中に焦りの気持ちがグングンと湧き上がってきてしまう。

やっぱこれじゃあ納得してもらえねーか?でも俺口下手だから上手い事説明なんて出来ねえしなぁ〜。

 

「……わかった。今日の夜を待つ事にしよう」

 

「あなた……でも……」

 

と、冷や汗モノ状態の俺の頭上から、親父の意外な一言が聞こえてきたので、俺は思わず顔を上げる。

顔を上げた先に居た親父は腕を組んで目を閉じた体勢になってて、隣に座っているお袋は不満げな表情を浮かべていた。

そんなお袋の様子に目を開けて親父は苦笑いしながらお袋に向き直ると、膝の上で組まれていたお袋の手を軽く握る。

 

「母さん、リンディさんが詳しく説明をしてくれるならそれに越した事は無いだろう?それに今回の事は、禅の友達の家の方達も一緒に説明を受けるんだ。なら、私達も待とう」

 

親父はお袋を安心させる様に優しい声音で語りかけていく。

その囁きを聞いたお袋は頬を赤く染めて、親父の握っている手にもう片方の手を添えた。

もう既にお袋の瞳はハートマークが飛び交ってる状態です。

 

「……そうですね。私も少し、興奮し過ぎたわ……今日の夜まで、待ちましょう」

 

おぉ!?あのお袋が陥落した!!?さすが巷で『ジゴロ・信吾』なんて呼ばれてるだけのお人だ!!

俺に出来ない事を平然とやってのけるッ!!ソコにシビれる憧れるゥ〜ッ!!!

……っていうか何時でも家に居たら果てなくイチャイチャっぷりを見せつけられるんですけどね?

 

「うむ。ありがとう……所で禅?リンディさんが私達と……なのは君だったか?あの子の家の方達を纏めて話すというのなら、何処で話しがあるんだ?」

 

「あっ、その事なんだけど親父。ちょっと頼みがあるんだ……」

 

そして、落ち着いたお袋から俺に視線を向けてきた親父に、俺は爺ちゃんの家に全員を集めても良いか聞いてみた。

集まるのは家となのはの家族だけでなく、フェイトの家とリンディさんの家族、そして今回の事で一番重要な立ち位置に居る八神家という大人数が集まる。

だからその大人数が入れる爺ちゃんの家の大広間を今夜使う事が出来るか爺ちゃんに聞いて見て欲しい、と。

どの道今回の話しは爺ちゃんにも話しておくつもりだったから、ついでに頼んで欲しいって伝えた。

俺の言葉を聞いてくれた親父は顎に手を当てながら暫く考え、「少し待ってろ」と言葉を残して廊下に出て行った。

多分廊下に置いてある電話の場所まで行ったんだろう。

そのまま待っていると、ドア越しに廊下から声が聞こえてきて、親父の話し声が5分ぐらい続いた。

爺ちゃんと話してんのかな……。

 

『……あぁ……わかった…………あぁ、それじゃあ』

 

と、それから少しして廊下から聞こえてた話し声が止み、親父がリビングに戻ってきた。

親父はそのままソファーに座りなおし、再び俺を見てくる。

 

「爺さんからOKが出たぞ。今日は夕方5時過ぎには家に戻っているから、その後なら来てもらって構わないそうだ」

 

そして、爺ちゃんとの電話で家を使わして貰える事を教えてくれた。

良し、それなら後は各自への連絡をしなきゃな。

俺は親父とお袋に電話してくると断りを入れて、廊下に出てクロノの番号をダイヤルする。

なのはにも電話を掛けようかとも思ったが、どうせ後ですずかの家に行く時に会うんだし、そん時でいいかと除外。

 

『もしもし、クロノだが、ゼンか?』

 

と、考え事をしてる最中に連絡が繋がった様で、受話器からクロノの声が聞こえてきた。

受話器越しに聞こえてくる声は何時もよりか疲れてる様に感じるが、それも仕方ねえか。

マジで今回の事件はアッチコッチが大変だったしな。

 

「ようクロノ。さっそくで悪いんだが、今日の夜の話し合い。家の爺ちゃんの家を使って良いって許可が出たから報告しとこうと思ってな」

 

そこから俺はクロノに、さっきなのはと話した通り、今日の話し合いは俺の家族となのはの家族を全員集めて話すという段取りを伝えた。

この方が直ぐに終わるし、移動の手間も掛からないからな。

 

『……なるほど、確かにそうした方が手っ取り早いか。態々場所まで確保して貰って済まないな。じゃあそういう段取りで僕の方から母さんとグレアム提督に伝えておくよ』

 

「おう、使い走りみてえで悪いが頼んだ。なのはとフェイトにはやてはこの後会う予定だから、3人には俺から伝えておく。そっちはユーノにも伝えておいてやってくれい」

 

『あぁ、了解した。それじゃ、女の子達に囲まれて楽しんでくると良い』

 

俺が謝罪の言葉を口にすると、クロノはからかう様な口調で俺に言葉を返してきやがった。

何か電話越しにニヤニヤとした笑みを貼り付けてるクロノの顔が過ぎりやがるではありませんか。

なんだぁ?からかってんのか羨ましいのかハッキリ言えやこの野郎。

……だが、そっちがそうくるなら俺も言わせていただきましょう(笑)。

俺は軽く咳払いをしつつ、ちょっとあくどい感じの声音を出して通話口に向かって喋りかけた。

 

「いやいやぁ、アースラの中で四六時中可愛い女の子や綺麗なお姉さま達にたっぷり可愛がって貰ってるクロノ君に言われたら嫌味にしか聞こえませんよぉ(ニヤニヤ)」

 

『ぶーーーーーーーーーーーッ!!?げ、げほげほっ!!がほっ!!な、ななな何を言ってるんだ君ごふぅッ!?』

 

不意を突いた俺の言葉に、受話器の向こうから何やら液体を噴出す音と共に、クロノが咳き込む声まで聞こえてくるではないか。

しかもその後に続く声は狼狽しまくってるし詰まってるし。

あ〜あ〜、間違いなくアイツのデスクの書類はオジャンだなこりゃ(笑)休み返上も覚悟しなきゃだぜ?

 

「まぁ俺達は子供らしく楽しいお茶会をしてきますんで、クロノ君は書類の書き直し、頑張れよぉ〜♪」

 

『は?書類って……って書類がーーー!?し、しかも事件の初期報告書までーーーー!?』

 

というクロノの悲惨な絶叫をBGMに、俺は笑いを堪えながらさっさと電話を切った。

アイツはイケメンな上に性格がツンデレ入ってるモンだから、エイミィさんを筆頭にアースラの女性スタッフからモテモテなんだよなぁ。

しかもユーノの奴はイケメンっつーより美少年だから、それ系の好きなお姉さまにゃ絶大な人気を持ってる。

っていうか思いだしてきた……あんのフェレット野郎は我が愛しのエンジェルであるフェイトに要らん事を拭き込みやがったんだっけ。

あぁ〜思い出したらドンドンムカッ腹が立ってきやがるぜぇ……!!俺はユーノの所為でフェイトにすけこましだとか不名誉な事言われたんだぞ?

あの野郎だってフェレットモードなのを最大限利用して、確かアニメの中でなのは達と温泉に浸かっ……そうだ(ゲス顔)。

腹の中に渦巻く怒りのままに考えを巡らせていたら、もう殆ど忘れてしまった筈だった前世の記憶にあったアニメのワンシーンが頭の片隅を過ぎった。

しかも段々と明確に思い出してきて、その記憶からグレートに良い事を思い付いちまったぜぇ。

ふっふっふ……夜は覚悟しとけよぉ?ユゥ〜〜〜ノくぅ〜〜〜ん?

余りにもナイスすぐる自分の冴えた脳みそに、キッチンでホイッパー片手に(食材を泡立てたり混ぜ合わせるときに用いる調理器具)クックックと低い声で笑う俺だった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「(ぞくぅっ!!!)ッ!?うわぁあッ!!?」

 

「ど、どうしたのユーノ君!?」

 

第1管理世界ミッドチルダの休憩室で一服していたユーノは、何やらいきなり奔った最大級の悪寒に叫び声を挙げていた。

余りにも怯えきった悲鳴に只事ではないと感じたのか、ユーノと相席して休憩を取っていた無限書庫の美人司書がユーノをあやすように抱きしめた。

そのハグにより大きな胸の谷間に顔を埋めてしまったユーノは、恥ずかしさに顔を赤くしてしまう。

 

「い、いえ。大丈夫ですから……あ、あの、離してもらっても……いいですか?(む、むむ胸がッ!?こ、こんなに柔らか……だ、駄目だ考えるな!!僕にはな、なのはが……)」

 

余りの恥ずかしさにどもる様な声で、ユーノは自身の顔を谷間に挟んでいる美人司書に懇願する。

彼女からすれば男の子にしては細い体と、女の子の様にきめ細かいハニーブロンドの髪を揺らして涙目で懇願する様に上目遣いに見てくるユーノは、色んな意味でドストライクだった。

つまりズギュウゥゥウンッ!!!っとキタのである。

 

「何を言ってるの!?こんなに震えてるじゃない!!私が暖めてあげるわ!!怖がらなくていいのよ!!(こんなキュンとくる仕草魅せられて離せるわけないじゃない!!むしろいっぱい押し付けちゃえ!!えい!えい!!)」

 

「(ぐにゅうぅぅうん)うんむぅぅうぅうう〜〜〜〜!!!?」

 

年下の草食系男子が見せたキュンとくる仕草にハートを撃ちぬかれた美人司書は、熱病に浮かされたかのごとく瞳を蕩けさせ、目の前の純情少年を抱きしめ続けた。

その見事なる柔らかさを誇る2つの水風船に埋もれたユーノは、一種の幸せな死に方を現在進行形で体験してしまう。

そのままでは介抱しようとして逆に気絶する事になってしまうが、実はそれこそが美人司書の真の狙いだったりする。

あわよくば、優しく美味しく色々念入りにネッチリと介抱してあげようという下心のもとに行われる行為……。

 

「あぁ〜〜!?ちょっとちょっと抜け駆けは無しって言ったじゃない!!」

 

「そうですよ先輩!!私達だってユーノ君抱っこしたいです!!」

 

「今が旬のユーノ君は私達こそがモフるべき!!者ども!!かかれぇーーーー!!!(ドドドドドドッ!!!)」

 

そして彼を我が手中に収めんと走り出す狩人が増えた。

もはやその中に彼の意思は無く、唯されるがままに身を委ねるしかないだろう。

 

 

 

ユーノ・スクライア9歳、なんだかんだで美味しい目に遭ってばかりな少年だった。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

「くはぁ〜〜……でっけぇ」

 

現在、俺はなのはとフェイト、そして車椅子に乗ったはやてと共に海鳴市の高い丘の方へと来ている。

そこで俺は丘の上にそびえ立つ『豪邸』を見上げていたりする。

そう、電話で約束していたすずかの家の前に俺たちは居るんだが……いやはや、トンデモねぇ豪邸だぜ。

洋風の大きな屋敷に広大な庭、塀と柵もかなり高い位置にあるし、潜ってきた門には監視カメラまで付いてやがった。

あの物腰の柔らかさから良い所のお嬢様だとは思っていたが……まさかここまでのブルジョアだとは思わんかったです。

そんな事を考えながら、俺は現在の自分の服装の状態を失礼がねえかチェックする。

まずジャケットは、背中に半分こに剥かれた果物のオレンジが大きく描かれ、剥かれたオレンジの中身から爆弾が見えている。

これってゼッテェにオインゴ・ボインゴブラザーズが使ったオレンジ爆弾ですよねぇ……まぁ気に入ってるから良いんだけど。

まぁジャケットもズボンも汚れはねえから失礼はねぇか。

……ついでに、俺の『両腕』を占拠してるのも……失礼なんかある訳ねえな、あるって言われたらブチのめすよ僕は?

今現在自分の両腕を占領してる『1人と1匹』の事を思い出しながら、俺は1人で大きく頷く。

まず片手の手首に懇親の力作であるガトーショコラが『10個』入ったタッパーを下げていて、もう片方の手は……。

 

「……えへへっ♪」

 

これまた嬉しそうな顔をしたフェイトに占領されてたりする。

っというか手どころか腕全体を絡める様に抱きついてらっしゃるんですよ、ええ。

最初は滅茶苦茶恥ずかしそうにほっぺを赤くしてらっしゃったが、次第に幸福感の方がWINーWINした様で、さっきからこの調子だ。

ふにゃっとした笑顔のままに、時折俺の腕に顔を擦り付ける様は、ホントに愛らしい猫っぽいぜ。

 

「ヘイ、ベイビー?そんなに俺の腕に引っ付いってると、『アンタはユーカリにしがみつくコアラか!?』ってアリサに突っ込まれちまうぜ?」

 

「……こうしていられるなら、コアラでいいよっだ?……ん〜?(ゼンの匂いって、お日様みたい……胸がすごくポカポカする?)」

 

俺の優しく諭す様な忠告もなんのその、今日のフェイトちゃんは押しがつよぉございます。

しかも今度は喉をゴロゴロ鳴らす様な声を出しながら俺の腕にコテンって感じで頭をもたれ掛かけてくるマイエンジェル。

オマケに俺のジャケットに顔を埋めてスンスンと匂いを嗅いでらっしゃる。

あぁん止めて!!そんな幸せそうな顔をこんな至近距離でされたら思わずキスしちゃいたくなるうぅ!!?

俺の真横で、まるで誘う様にピョコピョコと揺れるフェイトのツインテールに心かき乱されております。

 

『……なぁ、なのはちゃん。フェイトちゃんホンマに嬉しそうな顔しとるなぁ……あの表情、ごっつ可愛えぇわぁ〜』

 

『にゃはは……フェイトちゃんは禅君が、その……と、とっても大好きだからね』

 

『あれ見てるだけで、コッチはもうお腹イッパイになるわ……アルフさんも顔は分かり辛いけど、すっごい嬉しそうやし……私もリイン連れてきたったら良かったかなぁ』

 

『やめてなの。絶対私達も巻き込まれるの』

 

『それは私もわかっとるけど……ホンマに八方美人やなぁ禅君は……女の敵やで。一体何をどうやったらあんなに可愛い女の子とか美人なお姉さんを堕とせんねん?スーパージゴロ人か?それとも外来種かいな?』

 

『女たらしとかスケコマシとかそんなチャチなモノじゃ断じてないの。もっと恐ろしいモノの片鱗を味わってるの』

 

なんか前に立ってる二人にボコスカに言われてる希ガス、具体的には念話で。

もし俺が念話が聞こえるのなら、遠慮なく『クレイジーダイヤモンド』を解禁するぐれえの事を言われてる様な……気のせいかね?

ちなみにはやては車椅子に乗ってるが、動力はバッテリーなのでこの丘の上までそんなに苦労はしてなかった。

もし電動じゃなかったら、今朝みてえに『クレイジーダイヤモンド』で押してやるつもりだったが、別に必要はなかったようだ。

それをはやてに伝えたら『心底安心しました』って表情で大きく息を吐いていやがったけどな。

別に急いでる訳じゃねえんだから今朝みたいなスピードは出さねえっての。

第一『クレイジーダイヤモンド』の射程距離は2メートルしかねえんだからな。

 

「レロレロレロレロレロレロレロレロ???」

 

……おーけーおーけー、言っても止めねえから放置してたけど、もうそろそろ止めても良いと思うんだ僕ぁ。

何やら水気を帯びたピチャピチャ音と共に湿っていく『首と顎』の事を思い出しながら、俺は自分の『胸元』に視線を下ろす。

本来、俺の体をしっかりと包んでくれる筈のジャケットは膨らみ、そこから『あるモノ』が飛び出していた。

 

「レロレロレロレロレロレロレロレロォ〜〜〜???(こうやってたぁっぷり舐めておけば、もうアタシの匂いを上書きなんか出来ないだろ雌狐め!!ココ(禅の胸の中)が誰の場所か、しっかりと印をつけといてやる!!)」

 

いやまぁ子犬モードのアルフなんですけどね?俺のジャケットの内側から顔だけ出してなんともまぁつぶらな瞳で俺を見ていらっしゃるわけで……可愛ユス。

あの後、俺はキッチンにて注文されてたガトーショコラ9個作っていたんだが、いざ取り掛かろうとした時にメールが来た。

差出人はフェイトからで、『アルフも着いて行くから……アルフの分もお願いできない……かな?』という内容だったんだ。

それを見た俺はフェイトに二つ返事でOKを出して、ガトーショコラを10個作り上げてから待ち合わせ場所の公園に向かった。

そんでまぁ公園に着いてなのは達と合流した時にアルフが俺の胸元めがけて飛びついてきてからこの調子。

引き剥がそうとしたらつぶらな瞳で俺を見つめながら『くぅ〜ん?』と一鳴きされて、気が付いたらしっかりと、且つ優しく抱っこしてますた(笑)。

だって子犬モードでフリフリしてた尻尾が可愛かったんだもん。

それを見たフェイトが触発されて、俺の腕に抱きつき、今のようなユーカリまっしぐらなコアラ状態に陥ったんです、はい。

そしてすずかの家まで来る最中ずぅっと俺の首と喉の辺りをペロペロと無我夢中で舐めていらっしゃる。

もう俺の喉元はアルフの唾液でべッタベタ、というかもう肌がふやけてきてるぜ。

 

「……あのなアルフ?すずかの家に着いたし、そろそろ俺の服の中から出……」

 

「くぅん……(ウルウル)」

 

はぐうぅ!?そ、そんな俺の心に訴えかける様な目で見ないでぇええ!?

俺が抱っこするを止めようとすると、瞳をウルウルさせながらつぶらな瞳で悲しみを訴えてきなさるではないか。

しかも段々と体全体を震わせて、某CMで日本中の可愛いもの好きのハートをガッシリ掴んでいたチワワを連想させてくる。

だ、だがそんな目で見つめられたって、俺の熱き魂はそう簡単には屈したりはしねえ……。

 

「くぅ〜ん……(ペタン)」

 

と、俺が毅然とした心構えでアルフを注意しようとしたら、彼女の元気の象徴でもある犬耳がペタン、と元気なく倒れてしまった。

元気の象徴が消えたかわりに萌えの象徴に早代わり、早くも鼻から愛が吹き出そうデス。

オマケとばかりに行動していくアルフは、下顎を俺の胸元に密着させてべったりと床に這い蹲るような格好で俺を見つめてきた。

そのつぶらな瞳が訴えかけていた……『もう抱っこ終わりなのかい?……もっと抱っこして欲しいよぉ……』と。

そのキュンとくる格好と瞳で見つめられる事数秒……。

 

「……やっぱ話し合いの時に出てくれりゃあそれでいいかな、うん。今はまだ別にいいや」

 

俺の熱き魂は堕ちますた☆後ろからなのはとはやてのジト〜ッとした視線が刺してくるが気にしない。

だってこのワンちゃんが可愛い過ぎるんだぜ?こんな状態のワンちゃんを引き剥がせる程、俺は大人じゃねえ(キリッ)

普通の人間なら、こんな情けねえ俺を見て『優柔不断な最低野郎』と罵るだろう。

だけどなぁ……只、1つだけ偉そうな事を言わせて貰うなら……俺は『正しい』と思ったからやったんだ。

後悔はない……こんな性分とはいえ、オレは自分の『信じられる道』を歩いていたい!!

 

「わぅ?……ちゅっ?ちゅっ?」

 

そして、俺の許可が出たアルフはスゲエ嬉しそうに鳴き声を出すと、軽く啄ばむ様にキスを繰り出してきた。

俺の首元に口と鼻を擦りつける様にして、口の隙間から小さく舌を出しながら少しだけ舐める様は、まさしく動物なりのキスと言える。

ふっふっふ……ほらな?……俺の選んだ道は、正しかっただろ?

 

「……もぉ(ぎゅっ)」

 

と、使い魔というか甘えん坊の子犬と化したアルフを笑顔で見ていると、反対側の腕に掛かる力が増す。

そちらに目を向ければ、そこにはちょっとだけ膨れっ面になったフェイトが居て、俺の顔を不満げに見ているジャマイカ。

 

「うん?どーしたよ、フェイト?何か機嫌悪そうじゃねぇか?」

 

「……ゼンのいぢわる……私がどう思ってるかなんて、わかってるくせに……本当に意地悪だよ」

 

ニヤニヤとした笑顔を崩さずに問いかけて見れば更に不満さと不機嫌さを表情に現すフェイト。

そのままフェイトは俺を見つめたままに、腕に掛ける力を更に込めて、体全体で俺の腕を抱え込んでいく。

 

「アルフばっかり構っちゃヤッ……わ、私だってちゃんと……構って……ね?」

 

そう言いながら恥ずかしさでほっぺを赤く染めつつ、俺の目を下から覗きこんでくる。

その瞬間、俺はすかさず『クレイジーダイヤモンド』の手のみを顕現させてアルフを俺の代わりに支えさせ、フリーになった手でフェイトの頭を優しく撫でてやる。

 

「んにゅ……」

 

その感触が擽ったいのか、フェイトは目を細めてちょっと変わった声を出す。

 

「へへっ心配しなくても忘れてなんかいねえって。只まぁ、今は両手が塞がってるからよ……いい子だからもう少しだけ待っててくれ」

 

「ん……約束だよ?忘れちゃヤだからね?」

 

「オーライ。可愛い可愛いお姫様の仰せのままにさせていただきますぜ♪」

 

「ぁぅ……うぅ…………ばか?」

 

俺の気障ったらしい返事を聞いたフェイトは体をモジモジさせたかと思うと、俺に小さくばかと呟いて顔をぼふっと俺の腕に埋めた。

僅かに見えるフェイトの耳が赤く染まっているなんて、そんな仕草見たら素晴らしくニヤけてしまうではないか。

右手にアルフ、左手にフェイト……リアル両手に華ってなぁサイコ〜だね☆

この聖域を崩せる奴ぁ誰一人として存在してねえ。

フェイトちゃんの恥らう姿に満足して、俺は『クレイジーダイヤモンド』と手を交代させて、腕を消した。

何時までも『クレイジーダイヤモンド』に支えさせてたら、今度はアルフがキレそうだしな。

 

『ごふあっ!?……な、何なんや!?あんの甘ったるくて奥歯がムズムズするセリフと空間はぁ〜〜!!?こんなん見とったら胸焼けで死んでまうで!!?』

 

『あ、甘いよ、はやてちゃん……学校じゃずっとあんな感じになる時もあるんだよ?』

 

『え゛ッ?……私、復学すんのやめとこかな……』

 

と、人様の家の前で何時までもフェイト達の恥らう様を楽しんで愛でていたのだが、その時不意に閉ざされていた玄関らしき扉が開きだした。

その音に気づいて扉の真ん中に視線を向けると、そこには1人の女性が立っていた。

開いた扉の先に居る女性は、紫を基調としたメイド服に身を包んでいて髪の色も透き通るような薄紫色の美人さんだ。

その身には紫色の衣服の上に、フリルのあしらわれた白いエプロンを着飾った美女。

これが世間で知られる出来るメイドってやつなのだろう。となるとこの人はすずかの家のメイドさんか?

 

「ようこそ、いらっしゃいませ。なのは様、はやて様、フェイト様」

 

「こんにちわ、ノエルさん」

 

柔らかに微笑みながら声を掛けてきた美人さんに、なのはが率先して挨拶を返す。

挨拶したなのはに続いてフェイトとはやても笑顔で挨拶を返し、和気藹々とした空気が流れ出す……が。

それはいいんだが、初対面なうえに初めてすずかの家にお邪魔したワタクシが完全空気な状態なんですがどしたらいいのよ?

 

「貴方様が、橘禅様ですか?」

 

「え?……あっ、そうっすけど……」

 

なんて事を考えていたら、メイドさんは俺に向き直って俺の名前を確認してくるではないか。

 

「初めまして。私はこの月村家にお仕えしているノエル・K・エーアリヒカイトと申します。以後、お見知りおきを」

 

「こ、こりゃご丁寧にどうも。俺は橘禅って言います。え〜っと……ど、どうぞよろしくお願いしまッス?」

 

両手を前に組み、正しい姿勢で一礼するメイドさん、ノエルさんに俺も慌てて頭を下げる。

まぁ、その美麗さはしっかりと出来ている彼女と比べると天と地の差があるけど。

っていうか完全に礼儀に慣れてないのがバレバレな言動だったし。

俺の後ろで見えない様にクスクスと笑ってるなのはとはやてが良い証拠だ、テメエら等デザート抜きにすんぞ?

 

「ふふっ、余りかしこまらないで下さい。気疲れされては、申し訳ありませんから……皆様、どうぞお入り下さい」

 

慣れない挨拶をしているのを見抜いたノエルさんは微笑を崩さないままにそう言うと、玄関の扉を開けながら後ろに下がって俺達を中に招き入れてくれた。

入室を促されて早速入っていくなのはとはやてに続いて、俺もアルフとフェイトを引き連れて後に続いていく。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「皆、いらっしゃい♪」

 

「うん、時間通りに来たわね。感心感心」

 

そして広い屋敷の中を歩くこと数分、俺達は一面ガラスで覆われた部屋に通された。

窓を覗けば辺り一面に芝生が青々と茂っているのがこっからでも見える上に、部屋の中には猫が数匹寝転がっている。

中央には大きな円形のテーブルが鎮座しており、其処には普段着に身を包んで俺達に柔和な笑みを送るすずかと、腕を組んでウンウンと頷いてるアリサが居た。

更にその隣りには、すずかと同じ紫色のロングヘアーの女性が居て、俺達、いや俺を興味深そうに見ている。

多分なのはが電話で言ってた忍さんてのはあの人の事だろう。

……いやいや冷静に分析してますけど、良く考えてみろ俺?こんなゴージャスな部屋が家の中にあるだぁ?

こりゃあ全く持って度し難いブルジョワじゃねえか。

 

「すずかちゃん、アリサちゃん。こんにちわ♪」

 

「2人とも昨日のプレゼントありがとうな♪……いや〜、すずかちゃんのお家にお邪魔するんは2回目やけど、やっぱゴッツイなぁ〜。ガラス張りの部屋とか初めて見たわ」

 

俺やフェイトよりも先に入ったはやてとなのはがアリサ達に返事を返していく。

まぁはやてのは挨拶ってのよりも感想の方が近いな。

ちなみにノエルさんは俺達の間を潜り抜けて何時も間にか忍さん?の隣に立っていた。

 

「ふふっ♪ありがとう。この部屋は家の中で一番好きな場所なの」

 

「まぁ、日当たりも良くて綺麗だしね……所で、禅。アンタちゃんと約束通りに持ってきたんでしょうね?」

 

はやてとなのはの挨拶に言葉を返したすずかとアリサだが、何故か俺にだけは何も無い有様、差別いけない。

 

「挨拶ブッチしてデザートの心配とか鬼畜だろおい……ちゃんと作って来たっつうの。ホレ」

 

俺はアルフにジャケットの中から出るように促すと、アルフもさすがに満足したのかホクホクした顔と足取りで床に降りてくれた。

そのお陰でフリーになった右手を掲げて、ガトーショコラの入った保冷パックを見えるようにすると、そのままテーブルの上に置いて中身を広げた。

その中身にある型崩れしていない芸術の様なガトーショコラを見ると、アリサは満足気に頷きを一つとる。

 

「よろしい。まぁ、これで昨日の無茶に関しては忘れてあげるわ。感謝しときなさいよ?」

 

「へいへい、ありがとっしたぁ〜」

 

ふんぞり返ってそんな事を言ってくるアリサに俺は手をブラブラさせて返事を返す。

まぁO☆HA☆NA☆SHI☆されるよりは大分マシか。

 

「何よその気の抜けた返事は……っていうか……さっきからスルーしようと頑張ってたけど……フェイト?」

 

「ふふっ?……え?な、何、アリサ?」

 

何やら俺のお礼の言葉が気に食わなかった様で小言を漏らしていたアリサだが、アリサは俺の腕に抱きついて幸せそうにしているフェイトの名前を呼ぶと、プルプルと震えだした。

一方でフェイトは何故アリサがそんな反応をしてるのかわからないようで、首をコテンと傾げながらアリサに問返していく。

その間が数十秒程続いたかと思うと、遂にアリサは弾かれるように勢い良く顔を上げて……。

 

「アンタはユーカリにしがみつくコアラかぁぁぁぁあああ!?しょ、小学生の内からそ、そそ、そんなに男とベッタリして良いと思ってんの!?」

 

「寸分違わぬツッコミ頂きましたー、どうもありがとうございます」

 

いや、マジでどんぴしゃりな台詞を頂いてしまいましたよ、えぇ。

小学3年生にしてませてるのかはわからねえが、何やら顔を真っ赤にして吠え立てるアリサを見ながら、フェイトは依然として首を傾げている。

 

「え?……ダメなの?(キラキラキラ)」

 

「「はうッ!!?」」

 

純粋な心の塊ともいえるフェイトの無垢な眼差しを見てしまった俺とアリサは、2人揃って変な悲鳴を上げて目を逸らした。

アカンです!?心の穢れきった俺には今のフェイトを直視できませぇええん!!?

 

「だ、だだっダメなのってアンタ!?フェイトは女の子で、禅は男……」

 

「こうしてると……上手く言えないけど……ココがぽわぁってなるんだ……とっても、暖かい気持ちになれるのに……ダメなのアリサ?(キラキラキラ)」

 

「う、う、うわぁああああ〜〜〜!!?そ、そんな目でアタシを見ないでぇぇええ〜〜〜!!?」

 

フェイトの後光が差しているような輝く笑顔と純真な瞳、そのダブルパンチを受けたアリサは頭を抱えながら左右に振り回し始めた。

わかる!!スッゲエわかるぞアリサ!!お前は今、この天使の如き穢れを知らないフェイトアイに良心を苛まれてるのが!!良くわかるぞ!!

 

「ねぇアリサ。何でダメなの?」

 

俺の腕に抱きついたまま尚もナチュラルにアリサを追い詰めていく天然天使フェイトちゃんマジ鬼畜☆。

 

「う、うぅうぅ……あ〜〜!!わ、わかった!!わかったわよ!!でも、今から昨日のことを話してくれるんでしょ!?だからだ、抱きつくのはそれが終わってからにしなさい!!」

 

「あっ、そうだったね……ゼン。あ、後でその……良い、かな?(もじもじ)」

 

アリサの言葉に悲しそうな顔をしながら名残惜しそうに俺の腕から離れたフェイトだったが、そのまま俺を上目遣いに見つめてくるではないか。

恥ずかしそうに手をモジモジさせながら聞いてきたのは、後でもう一回抱きついても良いかって確認だろうっていう奇妙な確信があった。

 

「お、おう。俺は構わねえぞ?」

 

「……?……あ、ありがとう?」

 

俺のOKサインに向日葵の様なスマイルを携えてお礼の言葉を言うフェイトはべらぼうに可愛かった。

……今日こそ持ち帰っていいでしょうか?この萌えっ娘?もう隅から隅まで可愛がってやりたげふんげふんっ。

とりあえず其処でアリサは重い溜息を吐きながらガラスのテーブルに突っ伏してしまったので、俺はさっきから黙っているすずかに視線を送る。

俺が視線を送った先に座っていたすずかは俺の視線に気付く、と複雑そうな表情を浮かべだした。

 

「でも、あんまり危ない事はしないでね?私とアリサちゃんを助けてくれたのは嬉しいけど、昨日みたいに目の前で友達が傷つくのは見たくないから」

 

と、すずかは俺の包帯が巻かれた腕を見つめながら心配する様な声音を言ってきた。

それに関してはアリサも同意なのか、さっきまでの自信に溢れた表情は鳴りを潜めて、一転して心配げになった。

この包帯も今日の夕方には外して良いって言われてたし、波紋を使った同時進行の治療も施してあるお陰で、もう殆ど痛みは感じない。

だからもう心配する程のこっちゃねえんだが……まぁこの先もなるべく怪我をしない人生を送りたいお、切実に。

 

「わかってんよ。むしろ昨日みたいなトンデモバトルが起きるのがミラクルなだけで、これからはあんな事ぁまずねえさ」

 

俺は心配そうな2人に対して首をすくめておどける様に返事をする。

クロノから聞いた話しだが、ぶっちゃけ闇の書はA級の危険指定が掛かったロストロギアで、その域に達したロストロギアは殆ど無いらしい。

だから地球に居る限りはあんな敵を相手にする事なんざそうそう無いだろうって言ってたし。

 

「ちょっといいかしら?」

 

すると、今まですずかの隣りに座って俺達の話しに耳を傾けるだけだった忍さん?が俺達に声を掛けてきた。

そのまま忍さん?は俺に対してすずかと同じ様に微笑を浮かべて目を向けてくる。

 

「君が橘君ね?私はすずかの姉の月村忍っていうの。よろしくね?」

 

やっぱり俺の予想は当たっていたらしく、この人が忍さんって人で確定した。

俺は忍さんに目を向けつつ少しだけ頭を下げて会釈していく。

 

「どうも初めまして。すずか達のダチになった橘禅ってモンです。忍さんの事は恭也さんから話しだけ聞いた事がありますよ」

 

「えっ?そうなの?」

 

俺がそう言いながら頭を上げると、忍さんは少しだけ驚いた表情になっていた。

周りを見てみると、恭也さんの事を知ってる面々は大小関わらず驚いている。

まぁ周りが女の人ばっかりだとね?年が離れていても、偶には男だけで会話したくなる時があるんスよ。

翠屋に呼ばれて高町家の人達と遭遇したあの日から、俺は恭也さんとか士郎さんとは偶に話しをしている。

そんでまぁ偶々休日に1人で海鳴公園で自分で作って持参したクラブハウスサンド片手にボケーッとしてたら、偶々1人で散歩してた恭也さんとバッタリ遭遇。

小学生と大学生という異色な2人でクラブハウスサンドを分け合い、サンドイッチのお礼って事で奢ってもらったジュースを飲みながら喋ってたのさ。

そん時に恭也さんの口から、彼女である忍さんの事も色々と聞かされていたのだよワトソン君。

 

「はい。すっげえ照れくさそうな顔で、『生涯を賭けて護ると誓った人だ』ってね」

 

「そ、そうなんだ♪……恭也ったら、面と向かってじゃそうゆう台詞、あんまり言ってくれないんだもんなー」

 

俺の密こっ……他愛ない世間話を聞いて嬉しそうに目を細めて笑顔になる忍さん。

いやいや、さすがに面と向かっては言い辛いと思いますよ?恭也さんてかなりお固い人だし。

 

「まぁ男ってそんなもんスよ。面と向かってじゃ恥ずかしいってのも男心の内ってヤツです」

 

「ふ〜ん?そうなんだ……こうして話してみると、なんだかすずかが話してた君のイメージと大分違うね?」

 

忍さんは俺を興味深そうにしげしげと眺めながらそんな事をおっしゃった。

その言葉に忍さんの隣に座っていたすずかに目をやれば、目を逸らして俺を見ようともしやしねえ。

おいすずかさんや?貴女様は一体俺のことをなんて話されたんですかい?まぁ大体想像付くけどさぁ?

言っとくけど可愛い人が好きでも、既に好きあってる人が居るなら声掛けたりしねえよ俺は?

 

「はぁ……まぁその辺は敢えて触れないでおきますんで……そんで、俺に声を掛けたのは一体何故っすか?」

 

とりあえず追求は後でも出来るんで、今は忍さんが声を掛けてきた目的を聞いておきますか。

俺が本題に入ると、忍さんはさっきまでのおちゃらけた雰囲気を入れ替えて、真剣な表情で俺たちを見てきた。

 

「昨日の夜にすずかから話しの触りだけは聞いたわ。それで、君にお礼が言いたかったの。すずか達を助けてくれて、本当にありがとう」

 

そして、忍さんは俺達に対して座ったままの姿勢で頭を下げてくるではないか。

ノエルさんも忍さんに倣って同じ様に頭を下げている。

いきなりそんな畏まったお礼を言われて、なのは達はどうしていいかわからずにオロオロしていた。

いやいやいや、お礼言われてるのは俺なんですけど皆さんや?

そんな光景を眺めつつ俺は……。

 

「あぁ、別に良いっすよ?俺はダチを助けたかっただけなんで」

 

普段通りの雰囲気で何の気なしに返事を返す。

その返事を聞いたノエルさんと忍さんは口をポカンと開いたお顔で俺をしげしげと見つめてきた。

そんなお二人の様子に、俺は後頭部をボリボリと掻きながら苦笑いしてしまう。

 

「まぁ、あん時はあぁするしか方法が無かったってだけで、別に俺1人なら怪我しても良いやとかそんなんじゃねえッスから」

 

「……随分軽くないかしら?確かにその時はそれしか方法が無かったのかもしれない。けど、そんな簡単に自分の命に対して覚悟を決める事なんて、普通は出来ないでしょ?」

 

俺の言葉に、忍さんは再び真剣な表情を取り戻して問い掛けを続けてきた。

確かに忍さんの言ってる事は合ってるぜ?俺だって((元|前世))はスタンドに憧れるだけの普通人だったし。

幾ら憧れても、直ぐに行動に移せるかって言われたら普通は無理だ。

でもまっ、俺もあのヒーローな家系のJOJO達みてえに中々肝が座ってたっつうか……あん時は一つの事しか頭に無かったしな。

 

「そうでもねえッスよ?男なんてのは単純な生き物で、大切なモン守るためなら命だって簡単に張れちまう」

 

俺はそこで言葉を切ってから、俺の傍で真剣でいて、心配そうな表情で俺を見ているフェイトに視線を向ける。

一方で視線を向けられたフェイトは「?」って顔してるがな。

 

「俺はあん時、アリサ達を守りたかったってのもありますけど、一番はフェイトを守りたかったから身体張ったってだけなんすよ」

 

「ふぇ?……えぇッ!?(ボフンッ!!)は、はぅ……あぅぅ」

 

俺の言葉の意味を理解したフェイトは、これでもかと顔全体を赤くして目を見開いた。

そんなフェイトの様子を見てると、自然と顔がニヤけてきちまう。

アリサ達はそんな俺達の様子を見て頬を赤くしながら苦笑いしたり、手をパタパタと団扇の様にして扇ぎ始めた。

何だよその「あーハイハイ、ご馳走様」って言いたそうな顔はよぉ?

 

「だからまぁ、気にしないで下さい。それにダチを守るもは当たり前の事なんスから」

 

「……わかったわ。じゃあこれ以上はお礼の言葉は重ねない、でも、最初のお礼ぐらいは受け取って欲しいんだけどなぁ?」

 

「GOOD、では最初のお礼に対して『どう致しまして』って言わせてもらうッスよぉ」

 

とりあえず俺のその言葉で忍さんは納得したのか、それ以上の言葉は言われなかったけど、ずうっと俺とフェイトを見てニヤニヤしてらっしゃるではないか。

俺はからくのは大好きだがからかわれるのは我慢ならねえんですけど?

まぁ兎に角、今ので昨日の件に関してのお礼が終わったので、次はなのは達の持つ魔導師の((能力|チカラ))、そして俺の持つ((能力|スタンド))についての説明をせにゃならん。

すずか達はそのことに関しての話し合いをしながら俺の作ってきたガトーショコラに舌鼓を打つつもりだったらしく、今もう一人のメイドさんに紅茶を用意させてるそうだ。

なので話し合いはもう少しだけ待ってからになる。

 

 

 

 

 

やれやれ、しかしもう一人のメイドさんってのはどんな人なのかね?

 

視界の先で和気藹々な雰囲気で世間話をしているなのは達を見ながら、俺は未だ見ぬメイドさんについて考えていた。

-3ページ-

後書き

 

この「楽しく逝こうゼ?」を読んでくださってる皆様にお聞きしたいことがあります。

最近、というか「IS~ワンサマーの親友」を書き始めてから、なるべく一つ一つの描写を濃く、濃口にするよう心がけて書いて来ました。

その方が内容が頭の中で浮かびやすいというコメントも頂くことが出来ました。

 

 

 

 

 

ですが……皆様御存知の様に、そうなるとストーリー自体の進みが亀の如くスットロイです(泣)

作者ですら今回でA`S編を完全終了させようとしてたのにこの体たらく、本当に申し訳ありません。

 

 

 

 

 

そこでッ!!作者初になりますが、今回、アンケートを取ってみたいと考えました。

 

 

内容は以下の通りです↓

 

 

 

 

 

@今のままの濃さでストーリーの流れがゆっくりでもいいから細かい描写を入れて書けやコラ作者ぁ!!

 

 

 

 

 

A描写はもっと薄く、薄〜〜くていいからストーリー自体をサクサク勧めろダボ作者ぁッ!!!

 

 

 

 

 

B俺はリスナーを辞めるぞッ!!pigzam]!!!

 

 

 

 

 

です♪どうか皆様、奮ってコメントッちゃって下さい。

 

 

それでは、((HAIL 2 YOU|君に幸あれ))ッ!!

 

 

説明
第28話〜まだ俺に休みは無い。
総閲覧数 閲覧ユーザー 支援
16055 13882 11
コメント
1か?『YES!YES!YES!』(rotary228)
1で行ってもらいたいです(ダーさん)
1でお願いします(ネオ・ゼクトール)
1でしょう(row)
1でお願いです!(ポポルスキー)
マテリアルのがみたい!!              誰を落とすのだろうww(kikikuya)
1で(カルピスソーダ)
なんか最近ガチなバトルが無くて腑抜けそうだから2でお願いします。(神薙)
1でお願いします                         修羅場がみたいww(kikikuya)
1でお願いします。その方が、長く楽しく観れるので!(東文若)
道産子国士さん>あ〜そこはもしかしたら言葉足らずだったかもしれません(汗)ゲンが行くリリカルは原作の世界そのもののつもりなんです(土下座)もちろんその時にならないとわかりませんが(piguzam])
2でっ!!! 俺は番外編のゲンゼンコンビの活躍を読みたいぞっ(道産子国士)
1以外は認めん!!(影夜)
1でお願いします 欲を言えばヒロイン増やして甘さ増加希望(toumayuu)
1でお願いしまッス!!(クライセス)
1を選びますよ(鬼姦)
1でお願いします(FUMI)
デーモンさんと同じですね…。日常編なら2、シナリオ編は1・・ですかね。3はあり得ません!毎日更新チェックするのが日課になっとりますw(フィーネ)
時と場合にもよるけど・・・何気ない日常なら2、重要な場面or戦闘シーンは1ができたら・・・いいなぁ・・・と・・・(デーモン赤ペン)
ここは敢えて3を選ぶ!!                 嘘嘘、冗談だよ。2かな。そろそろStsが気になってしかながない(匿名希望)
せっかくだから1を選ばせてもらうよ。(ハラキリ)
1でお願いします(頭翅(トーマ))
ふむ、1が圧倒的ですね…3が居なくて一安心でした♪(piguzam])
1でいいと思いますよ。でも少しストーリーを早く進めたほうがいいとは思います。(ヘイト)
1でお願いします 俺もリスナーを続けるぞッ!!pigzam!!!(シオ)
1で、1話ごとが濃いほうが読みごたえがあって面白いので(駄猫)
1でお願いします、おもしろいしこのあとのどんな展開あるか楽しみになります、あと自分のペースで書いたらと思います(松影)
2!2!2!sts編とかが濃いなら空白期が薄くても無問題!(匿名希望)
1で、今のままの濃さでストーリーの流れがゆっくりでもいいから細かい描写を入れて下さい。なんでもしますから!!(青髭U世)
俺には1以外見えなかったww(nike)
1以外ありえないっス!一話あたりの内容の濃さがpigzam]さんの作品の魅力なんだからそれをスポイルするなんてとんでもない!!(プロフェッサー.Y)
せっかくだから、俺はTを選ぶぜッ! 俺はリスナーを続けるぞッ!!pigzam]!!!(tiruno9)
もちろん1です!!とても面白いので遅くていいので今までどうりお願いします♪(ライト)
いやぁ〜、相変わらず大変参考になりますしとても面白いので私は@でお願いしたいくらいですね!(make)
1ですかね、この内容だからこその面白さですから。続きが早く読みたいのは確かにありますが楽しい話を読まさせて頂いてますから無理は言えないですよねい(笑)さて、次回はファリンさんにフラグがたつ予感しそう(笑)こけそうなった所をCDで助けそうだな(氷屋)
相変わらず面白いですね! sts編が早く見たいので2でお願いします(匿名希望)
タグ
波紋 リリカルなのは ラブコメ ジョジョ 

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