あの日言えなかった言葉を… (5)疾駆と邂逅
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 蘭と和葉は、都心にいた。時計は午前4時を回っている。2人は、コナンを呼び出したと思われる手紙にあった『国立妖怪博物館』にやってきたのだ。昨夜のあの後、蘭と和葉はすぐに探偵事務所を出た。タクシーを使おうと思ったが、あいにく2人とも持ち金が少なく、歩いて米花町からここまでやってきたのだ。東の空が、うっすらと明るくなってきていた。

「はぁ〜、疲れたわ……米花町からここまで、こないかかるとは思ってへんかった……」

「そう、だね……」

2人はゼイゼイ言いながら、博物館前の公園のベンチに腰かけた。博物館には、まだ明かりが灯っている。

「……こんな朝なのに、開いてるのかな?」

「まさか……さっきネットでここについて調べたけど、開館9時て書いてあったで……メンテナンス中なんちゃう?」

「でも、だとしたら、中に誰かいるってことだよね?」

2人はジッと博物館を見る。誰かいないか……目を皿のようにして凝視した。

「いた……!!」

ガラス張りの壁の向こうに、確かに人がいる。2人。

「いてる……いけんで!!」

蘭と和葉は人影に向かって一目散に駆けだした。ゲートは閉まっていたが、2人はハードルの要領で軽く飛び越えた。入口まで来ると、鍵の閉まった自動ドアをドンドンと叩く。

「すみませ〜ん、すみませ〜ん!!」

2人が見た人影の一人・ひげの豊かなお爺さんが、驚いた顔で近づいてきた。慣れた手つきで鍵を開ける。

「これは、お嬢さん方、こんな朝早くに何の御用ですか?」

訝しげなお爺さんに、蘭はコナンの写真を見せた。

「私たち、この子を探してるんです。見かけませんでしたか?」

お爺さんは、老眼鏡を取り出して写真を眺めた。

「さぁ……私は存じ上げませんねぇ。お役に立てなくてすみません、お嬢さん」

「いえ……」

蘭はやや落胆した顔でため息をついた。さっきのもう一人の人影・髪が左目にかかったジャージにトレパン姿の男の子が、室内のベンチから立ち上がって近づき、写真を覗き込んだ。そしてあっと声を上げた。

「あっ、僕、この子見ましたよ!」

男の子の言葉に、蘭はえっと言った。

「ほ、本当ですか!?本当に見たんですか?」

「はい」

男の子は考えながら言った。

「その子、江戸川コナン君ですよね?今朝10時頃、僕たちの前にコナン君がこの博物館に入って行ったんです。だから僕たち、探偵っ子も妖怪に興味を持つんだなぁって話してたんですよ」

これは重要な証言だ。蘭と和葉は、思わず顔がにやけてくるのを止められなかった。

「で、コナン君は、そのあとどこに?」

蘭は期待を込めて聞いた。

「いや……僕たち、そのあとすぐ企画展示を見に行っちゃったんで、その後は分からないんです、ごめんなさい……」

「そ、そうですか……」

蘭は肩を落とした。その肩に、和葉がそっと手を載せる。

「大丈夫やて!ここにはコナン君が確実に来たって分かったんやし、もうちょっと色んな人に聞き込んでみよ、な?」

和葉が囁くと、蘭は小さく「うん」と頷いた。

「コナン君に、何かあったんですか?」

男の子は、やや髪に隠れた目で、じっとこちらを見つめながら訊いてきた。蘭は、その目に、何だか分からない違和感を感じた。何もかも、見透かされているような。この目、どこかで……

「う、ううん、何でもないんや。コナン君、推理に夢中で迷子になってしもたらしくて……ごめんなァ、迷惑かけてもて」

蘭の思考は和葉の声で中断された。

「いえいえ、こちらこそ、大したお力添えもできなくて……」

男の子は、礼儀正しく頭を下げて蘭たちを見送った。蘭は笑顔を作りながら2人と別れたが、しばらく、あの男の子の事が気になっていた。

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「うーん、これからどないしよ、蘭ちゃん」

和葉はベンチにドッと座ってフーッと息をついた。

「開館するのを待って、改めて話を聞いてみる、とか?」

蘭が言った。

「せやなぁ……」

和葉はため息交じりに言った。

「従業員の人とか来はったら、もっと色々手がかり掴めるかも知れへんな……」

2人は、静まり返った公園を見渡した。朝日が昇り始めているとはいえ、街灯の明かり以外はほとんど真っ暗である。全てが寝静まっていた。二人の呼吸だけが響いているように感じる。その息も、晩秋の気温に白く染められていた。

「静かやね……」

和葉が呟く。

「そうだね……」

蘭も小さく返した。コートを着ているとはいえ、寒さはじんわりと堪える。蘭はどこにいるか分からないコナンの身を案じた。わざわざ手紙を用意し、誘い出して誘拐した犯人だ。準備万端整えて誘拐し、監禁している可能性が高い。どこに拘束しているのだろうか。今まで小五郎や新一の傍で少なからず事件に関わってきた蘭は、誘拐した子供を暖かい部屋に入れるようなお人好しばかりでないことは分かっていた。もし、暖房も何もないところに入れられていたとしたら……寒いだろうし、お腹もすいているだろうな……そんなことを考えてしまい、蘭はますます不安になった。

 その時、どこからか、「ドルン」とエンジン音がした。蘭は、近くで車が発信したのだろうと、気にも留めなかった。しかし、同じ音が同じところから立て続けに響き、しかも公園の中から響いてくる。公園は、入口にガードレールがあって、車は入れないはずなのだ。

「なぁ、蘭ちゃん、このエンジン音、何かおかしない?」

和葉も不審に思ったようだ。2人は、目くばせし合って立ち上がると、音のする方へそっと近づいた。音は、公園の片隅の、街灯に薄暗く照らされた辺りからする。目を凝らすと、明かりの下で、こちらに背を向け、何やら作業する人影が見えた。背格好からしてどうやら男性のようだ。こっそり横に回り込むと、男性は、ローラースケートのようなものを手に取り、時々紐を引くと、ドルンと音が鳴った。

「な、何やあれ?」

和葉は、エンジン音のするローラースケートなど初めて見たので、目をパチクリした。

「ね、ねぇ!」

蘭が、急に、和葉の服を乱暴に引っ張った。

「な、なに?どないしたん、蘭ちゃん?」

蘭が無言で指さした先には、男性の陰に半分隠れて、ノートパソコンがあった。そっと回り込んで、覗き込むと……

「コ、コナン君!!」

和葉が大声を上げた。その画面には、椅子に縛られ監禁されたコナンが映っていたのだ。

「アンタかァ!!コナン君誘拐した犯人は!?」

和葉はバッと男性の腕をつかんだかと思うと、あっという間に地面にねじ伏せた。

「ち、ちょっ……!?」

男性は、馬乗りになった和葉の下でもがいている。

「ちょっと、ご、誤解ですよ!僕は犯人じゃありません!!」

「じゃあ何でコナン君がココに映ってるん!?」

「ぐぁ、イテッ!?ちょ、話聞いて……」

「さっさと白状しィ!!蘭ちゃん、手伝おて!!」

「ちょ、待っ……!!」

最強空手少女にも技を加えられそうになって、男性は大慌てに慌てた。

「誤解、誤解ですって!!僕は、コナン君を助けるために、犯人が撮っている映像を傍受してるだけですっ……!?」

和葉は、男性を締め上げる手をフッと緩めた。

「コナン君助けるため、やて?」

「は、はい……」

男性は、和葉の手が緩んだのでほっとした……

「ドアホ!!そないな手に騙されるかいな!!」

和葉は激昂して、さっきにも増して締め上げてきた。

「っあ……ちょっ……ギブギブギブ」

「ちょっと待って、和葉ちゃん!話聞いてあげようよ……」

和葉の腕を、蘭が抑えた。蘭は、どんなわずかな手がかりでもいいから、コナンの居場所や今の状況について知りたかったのだ。

和葉は、ふくれっ面をして男性から離れた。

「しゃ、しゃーないなァ……い、一応話、聞いといたるわ」

「は、はい……」

男性はひやひや顔で苦笑した。

「まず、あんた誰?コナン君とどういう関係なん?」

「えっと、僕は黒羽……じゃなくて、クロバネ・ガイトです」

快斗は、咄嗟に偽名を名乗った。

「僕は一応探偵でして……探偵仲間のコナン君が誘拐されたと聞いて、僕なりになんかできないかなぁと……これは、コナン君の友人の探偵さん……確か、服部平次って人……に送信されている映像を傍受して、分析していたんです」

「そうなんですか……で、今、コナン君は?」

「そうですねぇ……手がかりはこの映像だけですし、海外のサーバーを幾つも経由しているようで場所の特定は僕だけの技量じゃ難しいです……しかも、映像が暗くて……」

蘭は画面を覗き込んだ。リアルタイムの映像なのだろう、かなり暗い部屋の中に、ぼんやりとその姿が見えるだけだ。時々、縛られた手を動かしているように見える。そして時折、コナンの顔の辺りから白い吐息が立った。

(コナン君……)

蘭は心の中で呟いた。やはり、コナンが監禁されている場所は寒いのだ。早く助け出さなきゃ、でもどこにいるの……蘭の中に複雑な思いが渦巻いた。

 突如、快斗のスマホが何かを受信し、電子音のメロディが鳴った。快斗は何気なくチェックしたが、急にその顔がパッと明るくなり、飛び上がってガッツポーズした。

「やった!!名探て……じゃなくて、コナン君の居場所が分かったぞ!!」

「えッ、ホンマ!?」

和葉がバッと立ち上がった。

「はい!!ここで……」

快斗は開いていた地図アプリを2人に見せた。

「こ、ここって……」

「こんな遠く!?」

「遠くって……車並みのスピードで行けば、昼前には着けるんじゃないかなぁと……」

「せやかて、ウチらお金ないからバスもタクシーも乗れへんで!?」

「そ、それは僕の方で何とかなりますから……」

「ホンマ?」

「ええ……」

快斗は、さっきまでいじっていたローラースケートを持ち上げて見せた。

「これは特製ターボエンジン付きローラースケートなんですが……」

「え?」

蘭はそのスケートをまじまじと見た。

「ターボエンジン?」

「そ、そうですけど、何か?」

「そういえば、コナン君が使ってるスケボーも、阿笠博士が作ったエンジン付きのだけど……これで行くんですか?」

「え?そのつもりでしたけど……」

快斗はキョトンとした。

「わ、私……ローラースケートやったことないんですが……」

「ウチも……それに、それ人数分あるん?」

「え?えっと、確か、予備のヤツ持ってきてたはず……アレ?」

快斗は、慌てた顔でバッグの中をかき回した。

「おかしいなぁ、ここに入れたはずが……あ!」

快斗は、今度はどやって、何やら折り畳まれたモノを取り出した。

「これなら3人で乗っても問題ない……はず!」

快斗が組み立てたのは、ローラースルーゴーゴーだった。

「こ、これもターボエンジン付きなん?」

「ええ、仕事柄こういうものも使……あ、いや、あると便利なもんで」

怪盗キッドとして犯行をする時の道具だとは絶対言えないと、快斗は苦笑いした。

「さて、ちょっと手入れして、エネルギー補充しますから待っててください」

快斗が手入れしている間、蘭と和葉は、コナンがいる場所を示した赤い点が点滅する地図を見つめた。

「でも、どないしてココ特定したん?」

「あ、それは……僕の仲間にちょっと使い走りに行ってもらってるんです」

ホントはハトだけどな……と快斗は心の中で笑った。

「おーし、準備完了!!」

ローラーの点検を終えた快斗は、地面に広げていた荷物やパソコンをリュックに仕舞い、よいしょと背負った。そして、ブウンと低くエンジンを吹かし、蘭と和葉に悪戯っぽく笑いかけた。

「さ、乗ってください、お嬢さん方」

蘭は、恐る恐る快斗の後ろに乗った。続いて和葉も乗る。

「あ、えっと……どこに掴まればいいんですか?」

蘭は顔を微かに赤らめて訊いた。快斗は、そんな展開は想像していなかった。ローラーに、複数の人が掴める部分なんてない。

「え、えっと、それは……」

快斗は、1つだけ方法を思いついたが、言い出せなかった。

「蘭ちゃん、ウチは蘭ちゃんの腰に掴まるさかい、蘭ちゃんはガイトくんに掴まらしてもらいィ!」

快斗が言うか言うまいか迷っていた文言を和葉がしれっと言った。

「あ、えっと、じゃあ、いいですか?掴まっても……」

快斗は覚悟を決め(?)た。

「ええと……じゃあ、しっかり掴まってくださいよ。飛ばしますから」

蘭は快斗の腰に手を回した。短い、少々ぼさぼさの髪から、微かに整髪スプレーの匂いがした。一方快斗は、背中に感じる柔らかさに一瞬デレっとなった。

(蘭になにしやがんだバーロ!)

突如、どこかからそんな声が聞こえた気がした。快斗は我に返って、慌てて発進準備をする。

「では……行きますよ!!」

快斗は一回大きく吹かせて、ハンドルを切った。ローラーは一気に加速し、公園の入り口のガードレールをすり抜けた。

「きゃあああ!」

車並みのスピードに、女子2人はジェットコースターに乗っているかのような声を上げた。快斗は、ほぼ無人の交差点を右折―――昨日コナンを乗せた車が曲がって行った方―――した。そして、オレンジ色の街灯に照らされながら歩道と車道の間を疾走した。裕に時速50キロは出ている。冷たい夜風が頬を打った。

 しばらく走ると、市街地を抜け、田園地帯に入った。所々小さな電灯に照らされただけの暗い一本道は、さらに暗い森の中へと伸びている。快斗はローラーに取り付けていたライトを点灯させた。

「お嬢さん方、ちょっとこれを被ってください。飛ばしますから」

快斗は後ろ手に風除け付きヘルメットを二つ後ろに放った。蘭と和葉がキャッチし被ったのを横目で確認すると、快斗はスピードを上げた。3人は、闇に閉ざされた森を通り抜けた。

「いややわぁ、真っ暗やん!恐い!」

「ほ、他に道、ないんですか?」

蘭と和葉は、暗さに恐れをなしたらしい。

「し、仕方ないですよ……これじゃ高速道路に乗れませんし……ナビによれば、これが近道なんですよ……」

快斗は、ハンドルに結わえつけた、地図を表示させたスマホを指さした。

「それより、僕、コナン君が誘拐されたって事実を知ってるだけで、詳しい事は分からないんです……教えていただけませんか?」

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「なるほど」

快斗が事のあらましを聞き終えたときは、既に東の空が光に染まってきていた。ローラーはようやく森を抜け、田舎っぽい一本道を進んでいた。

「でも、蘭さんの話だと、犯人から電話が来たのが11時ごろなんですよね?でも、コナン君が誘拐されたのは10時頃……蘭さんの話が正しければ、犯人は車を運転しながら電話してたって事になりますよね?」

「エエッ、それ、法律違反やし、危ないやん!」

「いや、でも、イヤホンマイクを使用すれば、両手を自由にしたまま通話する事は可能ですよ……まぁ、会話に気を取られて注意力散漫になる点では、普通にケータイで会話するのとは変わらないとは思いますが……」

少し上を見ながらそう言う快斗を、蘭はじっと見つめた。

(何か、この人……新一みたい……)

一方快斗は、ローラーの舵を取りながら、

(これが、推理ってヤツ……なのかな?アイツはいっつもこんなことやってんだな……まっ、オレには似合わねェけど……)

その時、不意に後ろから、バイクが猛スピードで走ってくる音がした。快斗は、少し不安を感じて、スピードを上げた。しかしその音は唸り声を上げながら追いつき、快斗のローラーと並んだ。バイクに跨った人物は、ヘルメットのカバーを開けた。

「え……!?」

その人物を見て、快斗の顔には驚愕の色が浮かんだ。

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「おい姉ちゃん!さっきの話ホンマかいな!?」

阿笠邸に血相を変えて飛び込んできたのは、医院で治療を終えて、さっき哀からの電話を受けた平次だった。

「あ、イテテテテテ……」

傷が痛んで、平次はその場にしゃがみ込んだ。哀は、パソコンを打つ手を止めて、椅子から飛び降り、平次に歩み寄った。

「残念だけど、本当ね。私の見た限りでは」

哀は、平次を助け起こし、ソファまで引っ張った。慌てて博士も手伝った。

「でも、犯人はそんな真似工藤にしたんや?ただ誘拐しただけならまだしも……犯人の狙いは何なんや!?」

「それもまだ……」

哀は顔を曇らせた。

「ほんで、工藤の居場所は分かったんかいな?」

「いえ……今、解析してる所だけど、幾つも海外のサーバを経由しているみたいで、難しいわ」

「さよか……」

平次も肩を落とした。

「くそっ……!!何かないんか、手がかりは……!!」

「そうね……この映像から分かるのは、工藤君が、どこかの山奥、それも寒いところにいるって事ぐらいね」

「寒いて……山だったら今時期どこも寒いし、どこの山か分からんと意味ないやんけ!!」

やはり、手がかりは無い。2人は、ため息をついて押し黙った。博士はしばらく二人の顔を交互に眺めていたが、その場の空気にいたたまれなくなったのか、ポットのお湯を急須に入れて、紅茶を淹れて運んできた。

「ホレ、寒かったじゃろう服部君。お茶でもどうじゃ?」

「……へ?ああ、茶か……もろとくわ」

平次は熱い茶を一口含んだ。

「へぇ……日本茶やのぉてもなかなか美味いな」

「そうじゃろう?一昨日、鳥取の友人が旅行ついでに持ってきてくれたんじゃ」

「それって、あの境港の人?」

「そうじゃ。哀君も会ったじゃろう」

「ええ……でも、あの人だったのね……分からなかったわ」

「ん?どういう事や?」

「山陰のあっちの方は、東北弁に似た方言を使うのよ。だから、てっきり訛っていると思ってたから……」

「そうそう。彼は元々岩手の出身で、あまり方言を使わんそうじゃ?」

「え?岩手だって訛ってるんとちゃうか?」

「それが、県庁所在地に近いところに住んでおる人は、あまり訛らないそうじゃ。テレビの影響が大きいと言うが……え!?」

哀と平次が急に立ち上がった。

「ま、まさかソレて……」

「早く確認して!!」

何に合点したのか全く分からず困惑する博士を尻目に、平次は急いで電話を掛けた。しかし相手は出る気配がない。

「何や!!こんな時に……早よ出んかい!!」

『もしもし』

「アッ!?おっちゃんか!?」

出たのは小五郎だった。

『何だよ、急に掛けてきやがって』

「ちょお、オッチャンに聞きたい事があるんやけど」

『何だ?』

「小梅ハンって、大阪に住んどるのに関西弁喋らへんよな?オッチャン、何か聞いてへんか?」

『ああ、小梅さんがどこ出身かは聞いたよ』

「ホ、ホンマか!?小梅ハン、東北の出だったりせぇへんか!?」

『ああ、その通りだ。彼女は……』

小五郎の答えを聞いた平次は、顔色を変えた。

「そ、そないに遠いとこなんか!?」

『ああ……彼女だけでなく、東都大の院長、そしてもう一人の容疑者・野崎、そして彼女の恋人・勉さんもそこ出身だそうだ』

「マジか……」

平次は頭を抱えた。

「まてよ……さっきの映像に……」

平次は一旦電話から耳を放して、コナンの映像を確認した。暗い部屋の隅に置かれているある物体に目を留める。

「やっぱり……工藤がどの山におるかは分かったで!!」

「え!?」

驚く博士と哀の前で、平次はジャケットを着、帽子を被り直した。

「今すぐ出発や!!すぐ出んと間に合わへんで!!!」

 

<続く>

説明
それぞれに動き始めた人たちは、コナン救出のために、徐々に1つにまとまってゆく。
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