寂滅為楽(上) 11
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十一.

 ゲート付近の低空に挑戦者は浮遊していた。

 滑らかな胸甲と鋭敏な曲線で鎧う白銀の長躯は、武士よりも騎士の印象を見る人間に懐かせる。されど、その手に握る得物は見間違うことなき日本刀。

 知る人ぞ知る。鎬の溝より呼応の光を漏らす形成は雪片が後継、型名を雪片弐型。

 それを所有する者の姓を織斑、しかし繰り手の名は一夏という。

 世界でただ一人、道理を覆した少年。それが本日、セシリアが撃つべき相手だった。

「……逃げずに来ましたのね」

 アリーナ中央の高々度から織斑一夏を見下すセシリア・オルコットは、尊大とも取れる態度とは裏腹に、けして油断はしていなかった。

 クラス代表の選定が始まり三日。

 本日の最終戦。偏向制御射撃を駆使するに至った青雫になおも臆せず挑む白式を外敵と認知しているが故のこの位置付けだ。

 試合までの一日を挿む合間に修復されたブルー・ティアーズは、既に腰脇に設置された弾頭型を除く四基が、盟主たる青雫を取り巻くように展開されていた。 

「貴方にチャンスを与えましょう、織斑一夏」

 言いながら、セシリアは銃身を突き出すようにして一夏へと向ける。

 その左手に握るのは大型BTレーザーライフル「スターダスト・シューター」

「星屑」の名に相応しい射程と火力を誇る、mkVに代わる青雫の銃器。

 その性能故に多大な積載領域が必要となるのが欠点だが、今の青雫には関係のないことだった。必要というのなら用意すればいい。

 ここに至り、彼女は近接戦闘用のショートブレードを青雫から排除している。

 最早この機体に剣など必要ない、そう断言できるだけの確証を彼女は既に持っていた。

「……チャンス?」

「ええ、わたくしが一方的な勝利を得るのは自明の理。

 ――ですから。もしも惨めな姿を晒すのが怖ろしいのなら、今この場で辞退なさい」 

「そういうのはチャンスとは言わないな」

「……馬鹿な人。貴方の努力に健気に応えるほど、世界は優しくはありませんのよ?」

「確かに。――けどさ、一つだけ教えておいてやるよ」

 あくまで自然体を装いながらも微妙に銃口から身を逸らす一夏の挙動を見るに、どうやら付焼刃ながら予習もしてきたらしい。

 意図せず目を笑みに細めたセシリアの、その左眼が射撃形態へと移行した事実を、一夏は過たず認識する。

 交錯。瞳に混じるは決意と覚悟。右手に握る雪片を、白式は二日前の打鉄に重ね合わせるように青雫へと向ける。それは少年の小さな意地だった。

「男には、それでも闘わなきゃいけない時があるんだ」

 抜かせ。瞬きの間に照射された星屑の輝線が白式へと降り注いだ。

 地上への着弾と共に舞う砂煙。その霞を内側から引き裂くように切り払い、白式は青雫へ飛翔を開始した。気鋭の若武者が空を駆ける。速度は打鉄を遥かに凌ぐ。

 しかし、傍目には驚異的なその性能もセシリアの視界による空間把握、ましてや青雫の光線には遠く及ばない。

 接近して切りつけなければならない白式と、ただ目標を両目で捉えれば良い青雫との差はあまりに大きい。

 青雫が動く。星屑を白式の機動予測上に、四基のブルー・ティアーズは目標の撃墜に。

 白式の頭部と左スラスターに同時双方向から四線は伸びた。

 呑気に観測していては回避も出来ぬ閃光。けれど、白式は弾けるような真横への跳躍で、初撃をかわした。瞬時加速。昨日の打鉄との一戦から学んだ白式の新たな戦術。

 されど、青雫の戦術も土壇場でそう易々と攻略されるほど軟ではない。

 ブルー・ティアーズの精神感応制御は、発射口の真後ろでもない限り問題なく適応する。

 白式の背後で四線が弧を描く。ISの全方位視覚接続は完璧だ。高速で通り過ぎた過去の事象が起こした異常を、余さず操縦者へと伝達するだろう。けれど伝えるだけだ。

 織斑一夏は篠ノ之箒ではない。少年にその絶技を認知することまでは許されても回避するまでの幸運は、このセシリア・オルコットが許さない。

 無理な機動で骨が軋む。雪片を掲げでどうにか胴への直撃は免れたものの、左脚部装甲と右肩部装甲に光弾は直撃した。障壁が展開され、白式のエネルギー総量が減少する。

「さあ、踊りなさい。

 わたくし、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる円舞曲で!」

 意趣返しとでもいうように、一夏に宣言するセシリアの言葉は箒の一戦とまったく同様だった。

「――――っ!」

 直後。遅れてやってきた衝撃波に機体が捻じ切られる様に引っ張られ、神経情報としての痛みが一夏の全身を駆け巡った。

 それに追随するかの如く星屑の銃口が紅く滾る。

 尋常ならざる悪寒に反射的に飛び退いた白式の目前を極大の奔流が通過していった。

 使用エネルギーの手動調整により、セシリアの保有する星屑はビームの熱量をある程度まで制御することが可能だ。並の操縦者ならば先の一撃で終わっていた。

 されど素人はこの一撃を確かに避けた。

 成程。これが、一夏が箒を相手に勝負することができた理由。理不尽なまでの超反応。けれど、少年の輝きは未だ粗削りの原石でしかない。

 強敵との一戦を経た青き宝玉を前にその煌めきはあまりに儚かった。

 しかし、青雫もまた真に理解したとは言い難い。白の宝玉がその身に秘めた可能性は、より堅き強者を前に常に研磨され続けている事実を。

 白式は、一夏は同じ愚を犯さない。

 鳴らされる指先。青雫の周囲に一度集結した後、ブルー・ティアーズは盟主の指令に従い、再び一基を残し散開した。

 ブルー・ティアーズの撃墜という事態を踏まえて新たに考案された三次元の包囲網。

 青雫の偏向する光線がISを熱籠へと封じ込める、そういう手筈だった。

 変わらず走駆する白式を取り囲むように三基が穿つ。瞬時加速により潜り抜ける白式。けれど、そんなものは想定内だと閃光は屈折する。

 またも胴体だけは雪片によって防いだ。変わり、今回は白式の右脚部装甲が抉られる。

 痛みに呻く暇も許さず飛来するブルー・ティアーズの連撃。

 青雫を中心に円を描くように回避へと奔る白式を青の光弾が追い駆ける。相変わらず、胴を防ぐのだけは上手いが、それでも左肩部装甲を掠った。

 若干の違和感。

 しかし、これで敵方の四肢は撃ち抜いた。残るは白式の異常に堅牢な胴回りのみ。

 青雫は未だ一度の接触も相手に許さず、白式のエネルギーを削り続けている。そこにどうして、少しの失望を覚えながらも彼女は早すぎる終幕を一夏に迫った。

 下後方向から一基。瞬時加速は最早習熟したのか、死角からの攻勢を容易く白式は速度を以て、かわして見せた。

 中斜方向から一基。偏向し迫る輝線の隙を補うように放たれた一撃を、弧を描くように加速して白式はやはり避ける。けれど、折り返す光線に遂に姿勢制御は崩れた。

 上前方向から一基。自らの速度に翻弄される白式に雪片を扱う余力はもうない。ならばこの一手を以て試合は終了するだろう。横降りされる青雫の右腕。瞬く発火炎。

 

 一基より伸びる閃光が白式を穿ち、抜かなかった。

 

「――――嘘」

 何故。箒の打鉄ですら逃れきれない光弾を一夏は確かに避けた。折り返しの偏向による一撃すら瞬時加速を連続し、緩急をつけながら白式は光線をかわしていく。

「なんて、出鱈目」

 セシリアは遅れながらその違和感を理解した。

 確かに避けられるはずだ。白式の機動は無理な回避などではなかったのだ。ただ知っていながら無意識にその選択肢を彼女は排除していた。誰が思い当たるというのだろう。

 円状制御飛翔だ。

 相手の背後に回り込むような動作、瞬時加速を応用した機体の加減速。有り得ないはずの彼女の想定を現状が肯定している。

 白式は近接戦闘用の雪片を持ちながらも、射撃型、つまり青雫の攻撃動作を模倣していたのだ。嘯く口元が歪む。

 それは高度なマニュアル機体制御を必要とする技術だ。機体制御のPICは初期設定が全自動制御となっている。それを態々、手動に切り替えるような面倒な処理を行ってまで一夏が勝利を求めていたのだとすればやはり侮れない。

 自身の白式が青雫のブルー・ティアーズを捌ききるという想定が、現実と想像の狭間を試合中に修正できるという自信が、一夏にはあったのだ。

 そんなことが本当に有り得るのか。けれど雄弁にも現実に白式は実行した。

 まさしく異才。

 信じられない瞬時加速の連続で、白式は青雫の攻勢をかわし続けている。無理に機動を変えれば空気抵抗や圧力の関係で骨折の危険性すらあるというのに、少年は一向に堪えた様子もない。そこにある種の怖気を感じ、彼女の身体が戦慄いた。

 裂帛が轟く。そんな青雫の動揺を衝くように、雪片の一太刀が遂にブルー・ティアーズの一翼を屠り去った。反撃の狼煙。剣を構える白式に油断はない。

 煩わしい。一瞬の恐怖の後、彼女の心中を席巻したのは滾るような想いだった。

 少年の強い意志の宿った瞳。他者に媚びることのないその眼差しは、彼女に父を逆連想させた。大嫌いだった。どうでもいい他人の目に怯え、常に弱弱しいその態度が。

 許せなかった。彼女に反論も贖罪もせずに、母まで連れて逝ってしまったあの人が。

 許してあげられなかった。

 その後悔の延長に立つ青雫の前に白式がいた。理想の、強い瞳をした男が。

「――――っ、」

 己の思考に苛立ちさえ感じて、セシリアは妄執を振り払うように、ブルー・ティアーズの三基を一夏へと向けた。同時に、腰脇の二基の弾道型も放つ。彼女は勝負を焦った。

 まったく戦闘とは関係ない、しかし、無視しがたい自身の思考が勝負に影響することを、青雫は嫌った。一度の駆け引きには過剰な戦力が白式へと殺到する。

 

 この瞬間を、織斑一夏は待っていた。

 

 弾頭型は、BT兵器の実験機である青雫にとってある種異質な兵装だ。どうして光速に匹敵する武装の中に、わざわざ遅い実弾を混ぜるのか。空気抵抗がある以上、質量を持つ爆発物を事前のプログラムなく軌道変更したところで、誤爆するのは目に見えている。

 そこから推測される事実。それはこの二基のブルー・ティアーズは名を冠してはいるが、純粋なBT兵器ではないということだ。つまりこの二基の役割は他の四基とは別にある。

 それは箒との一戦からも明らかだった。セシリアが弾頭型を使ったのはいつだったか。

 そう射撃型が破壊された直後、彼女にとっては予想外な出来事が起こった後だった。

 ならば二基は彼女にとって通常の攻撃手段ではない。それを一夏は模擬戦が始まって確信した。彼女は一夏が射撃型に翻弄されている時には弾頭型を使わなかった。

 何故か。使うまでもなく一夏には通常の兵装で十分だ、という認識を彼女は抱いていたからだ。その剣技は打鉄に劣り、青雫には今や偏向射撃がある。慢心ではない。

 当然と、青雫は白式に負ける要素がなかったのだ。

 故に一夏は勝負を前に賭けた。白式を、姉譲りの雪片を手にして負け戦に挑むことが、少年にはどうしても我慢ならなかった。せめて勝率を可能な限り高めておきたかった。

 だから敗戦の後だというのに箒にも頭を下げた。幼馴染みの知り合いで整備科の先輩を紹介してもらい、機体を可能な限り修理して頂いた。

 その間、物珍しさに集まった先輩方に白式と青雫について一夏が知り得る情報を可能な範囲で話したのだ。無論、話したところで一夏以上に機体に精通した者が行きつく結論が変わる訳がない。白式は青雫にまず間違いなく敗北する。現状は、だ。

 しかし、もしも。IFの話だ。有り得ない仮定として、青雫がとある行動にでた場合。

 その行動を一夏が彼女に選択させることができたなら、もしかすれば白式は青雫を一瞬だけだが圧倒できるかもしれない。そう先輩方は笑って言った。一種の冗談だ。

 別に馬鹿にしてる訳ではなく、ISを学ぶ者の経験則として一夏は彼女には及ばない。たかだか一週間と一試合の起動経験しかない一夏が、二年間という月日をISに費やした彼女に経験と実戦で勝る道理など存在しないからだ。

 よって、青雫が弾頭型ブルー・ティアーズを使用する瞬間はまず訪れる筈がなかった。

 あの二基は自動追尾と搭載した多量の爆薬による衝撃で敵機を撃墜する、言わば彼女にとっては搦め手。同等かそれ以上の操縦者でなければ使用するという選択肢が存在しない、そんな兵装だ。

 だからこそ。もしもそんな状況が起こり得るとすれば、それは一夏が彼女の想定を凌駕した時。つまり最低一基以上の射撃型ブルー・ティアーズを素人の一夏が撃墜した時。

 質量武装を収める場所が存在しないほどに小さい白式の拡張領域に、それでも悪足掻きのように書き込まれていたその奇策は、その真価を発揮した。

「――――――え?」

 故に此度こそセシリアは瞠目した。偏向射撃を駆使し穿たれた三基の輝線が、白式に回避されたことは、信じたくはないが事実としては認めよう。しかし弾頭型は違う。

 射撃型より速く多角形直線軌道を描いて目標地点へ飛来する弾頭型の連撃を、回避直後で態勢が乱れた白式が捌ききれる訳がない。これは初撃だ、適応する時間などなかった。

 けれど白式は捌いたのだ。

 爆発後の発生熱量の関係上、弾頭型は敵機がより効果範囲内に面積を置いた状態で起爆することが望ましい。ならば事前に設定を変更しない限り、弾頭型は敵機胸部へと飛ぶ。

 青雫の二基もその常識を外れることなく、白式の胸部へ目掛けて跳んだ。

 それを目前に。白式はまるで事前に予測していた如く体制を瞬く間に立て直し、まるで機械的な雪片の一閃によって放たれた弾頭を切断したのだ。

 唖然としながらも彼女は一夏の機動が二日前の物真似であることを見抜いた。試合前に組まれた動作プログラム。しかし理解していても納得がいかない。不合理だ。

「……まさか、この状況だけを想定して?」

 そんな馬鹿な、とセシリアは断じてしまいたかった。そんな一点賭けのような真似を、低確率の事象にすべてを委ねるような愚策をまさか実行する人間がいるなんて。

 若年ながらも当主などという立場に身を置いている彼女には想定できない事態だった。

 けれど、不思議と胸は熱くなった。

 合理性が求められる当主としての彼女は現状に理不尽さを覚えたが、勝利を求められる操縦者としての彼女は現状を肯定的に捉えていたのだ。

 そうだ。確かに確率的合理性を追求するなら、箒のように有り得る可能性がより高い状況を想定して動作プログラムを組むべきなのだろう。しかし、それでは足りないのだ。

 それだけでは白式は青雫には勝てないのだ。

 故に操縦者としての彼女には理解できてしまった。

 この瞬間こそが唯一、白式が青雫を圧倒することが許された状況だと。

「この兵器は毎回お前が命令を送らないと動かない! しかも――」

 一夏の咆哮がセシリアの鼓膜を叩く。ISは現状における究極の機動兵器だ。特に防衛機能が突出して優れていることは世界的によく知られている。しかし、それが本質的に、「究極」の由来になり得るだろうか。

 答えは否だ。ISを機動兵器足らしめる理由はその攻撃手段にある。思えば何故彼女の青雫にはショートブレードが備えられていたのか。

 彼女は射撃を主戦法としている。口にしたことはないが、実際、展開には口述を必要とするほど接近戦闘用ブレードは未習熟なのだ。

 ならば何故、これまでは理解しながらも搭載していたのか。

 それは、ISの接近戦闘用ブレードには弾頭無効化機能が普遍的に備わっているからだ。

 別に、事実は隠されてはいなかった。何故なら十年前の「白騎士事件」においてそれは既に立証されていた。日本に向けて発射された二三四一発のミサイル。その半数における一二二一発が第一世代IS「白騎士」の持つ接近戦闘用ブレードによって切断された。

 近接信管、時限信管を問わず、である。白騎士は距離のあるミサイルに対しては大型荷電粒子砲による撃墜という手段を取ったが、それ以外は区別しなかった。

 状況から明らかになったその機能はしかし、それほど主要な戦術とは言い難い。理由は単純で、亜音速で移動するミサイルをわざわざブレードを使ってまで撃墜する必要がある状況などまず想定されないからだ。ISの機動性、迎撃能力を以てすれば接近する必要など皆無である。だから青雫の場合も慣例で装備しているにすぎなかった。

 故に、彼女が偏向射撃を修得したことで今回ブレードは保険としての必要意義を失い、青雫から取り除かれた。初めから持ちえない手段を誰がわざわざ想定するだろう。

 それは偶然だった。しかし状況はどうしようもなく噛み合ってしまった。

 白式が加速する。低い機械音を鳴らす雪片を構え、ただ真っ直ぐに飛翔する。

 本来ならそんな愚行、撃墜して終わりだというのに、状況はそれを許さない。

「その時、お前はそれ以外の攻撃をできない。制御に意識を集中させているからだ。そうだろ!」

 セシリアは臍を噛んだ。肯定だ。ブルー・ティアーズは現在、射撃型三基と弾頭型二基を分けて制御している。そしてこの状況において制御していたのは弾頭型の方であり。

 弾頭型は吶喊する白式を前に、まだ再装填が完了してはいない。彼女の思考からすればあまりに長いと思えるこの状況は、現実では未だいくばくの時間さえ経ってはいないのだ。

 一刹那の反撃に、その隙はあまりに致命的だった。疾風の如き白刃の気流が響きさえも遅らせるほどの鋭さを以て弾頭型を切断する。慣性のままに白式を通り過ぎた二基が背後で爆ぜる音を両者が知覚する頃には、その距離は二桁を切った。

「――――――!」

 一夏にとって、試合はこの瞬間の為に在った。白式が唯一、青雫に勝利し得る可能性が見出せるこの奇跡ともいえる瞬間を、少年は渇望し手繰り寄せる為に機会を探り続けた。

 これがその結果だ。

 篠ノ之箒の時とは違う。セシリア・オルコットにこの斬撃はかわせはしない。

 白式のエネルギーの奔流が雪片に集結していくのが、握りながらも理解できる。

 上段に振りかざした光輝くこの刀身こそが雪片弐型の本領。

 しかし、すべてが一夏を中心に動くと思っているのならそれは間違いだった。

 セシリアもまた代表候補生だ。一夏ほどの反応速度は持たないが、それでも敵機の接近に無防備でいるほど愚かではない。確かに、青雫には白式の迫る一撃をかわす術などない。

 けれど、青き手甲の内に握る星屑はけして飾りではないのだ。

 咄嗟に次弾を無視して銃口を焼きつけるくらいの行動は彼女にも許されている。

 紅蓮の閃光が視界を埋め尽くす中で、白式が振り下ろした刀身は間違いなく青雫の装甲を切りつけた。しかし、勝利の可能性を手中に収めるには未だ自分が実力不足であることを彼は痛感した。最後に詰めを誤ったのだ。

 真正面ではなく懐を目掛けた下方からの逆袈裟払いこそを一夏は仕掛けるべきだった。

 肝心な部分でまたも一夏は失敗してしまった。勝利というのは斯くも得難い。

 この様ではとても成功とはいえない。そんな思考の後に少年は意識を手放した。

 ブザーは鳴る。少年の勝利は未だ遠い。

 

説明
 ISで篠ノ之箒メインの話をやってみたいなと思い立って書いた次第です。
 ちなみにpixivとハーメルンでも同名作品を投稿しています。

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二次創作 インフィニット・ストラトス IS 篠ノ之箒メイン 末期戦モノ? 

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