恋姫 エピローグ 貂蝉√ エンド
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貂蝉√エンド

 

 

 

〜貂蝉視点〜

 

「やはり、一刀はすごいわね。」

 

 

戦いが終わった翌日私は、彼が命がけで戦ったその戦場を眺めていた。そうすると、そんな独り言が自然と口からこぼれる。30年、ずっとあちらの世界に一緒にいた男。ずっと、その覚悟を曲げずに貫き通した男。そして、私が唯一愛した男、北郷一刀。彼の名前をそう繰り返すと心がなぜか温かくなる。彼の夢で再会を果たしたあとも、彼は彼の道を貫き通した。一度、命の危険にさらされながらも、その後も彼は、関羽の命を救って、そしてゆきちゃんの命も救った。

 

一刀が、ゆきちゃんの毒を引き受けたって聞いたときはもうなんなのっ!と正直私は怒っていた。もう少し、自分のことも大切にしなさいよ、私はそう何度もそう、彼に言い続けた。声は届くことはないとわかっていてもだ。私は、そういわずにはいられなかった。でも・・・それが彼なんだ、だから、一刀は一刀なんだってそう思う。どこまでも、まっすぐで、どこまでもみんなを大切に考えている彼。だから私は彼のことが好きになったんだ。

 

 

 

 

「よっ、貂蝉」

「あら、噂をすれば、ですね。」

「噂をすればって、ここには貂蝉しかいないじゃないか。」

「それもそうでしたね。」

 

そういって、私は日が沈みかけ赤く染まるその空を見ていた。そこは、城壁よりも少し高い位置にあり、その眺めは絶景だった。

 

「そういえば、まだあれからちゃんとお礼がいえていなかったな。ありがとう。」

 

そういって彼は私の頭をそうなでてくる。もう、私は子供じゃないのに。そんな風に思いながらも彼の手のぬくもりを私は感じていた。

 

「そうですよ、一刀。まったくです。貴方って言う人はいつも、無茶をしすぎなんですよ。あそこで私がいかなかったらどうするつもりだったんですか!」

「死んでな、きっと。」

 

そんな私の質問に彼はそんなふうにためらいもなく答える。

 

「もうあなたはっ」

「それでも、君はきてくれた。」

 

少し怒る私に彼はそう言葉を続けた。 ずるいよ・・・私はそう思う。30年ずっと一緒にいたのに、一刀はわたしよりずっと先をみてずっと前を歩いていた。どんなにがんばっても私はおいつけなかった。

 

「なあ、貂蝉。いまからちょっと、出かけないか?」

「?いきなりですね。それに、これからみんなで宴があるのでしょう。行かなくてよいのですか。」

「それは貂蝉もだろ?」

「それは、そうですが・・・」

「まぁ、いいじゃないか。ちょっとくらい。三国を俺たちが救ったんだ。だから、ちょっとわがままをいっても大丈夫だろ?」

「はぁ・・・一刀はそういったら聞かないですから。もう、華琳に後で何を言われても私は知りませんからね。」

 

そう彼の誘いに最初は戸惑うわたしではあったが、彼がいこういこうと、そう繰り返していたので私は行くことにした。

 

「ほら、馬に乗れよ。」

「馬にのるんですか・・・遠くにでもいくつもりですか?まさか私と逢引が目的で?」

 

私はそんな風に冗談交じりにすこしにやにやしながらそう聞く。いつも先を行かれてばかりだ。少しくらい私も彼から一本とりたい、そう私は思った。

 

「まあ、それもいいかもな」

 

しかし、彼はあわてることもなく、そんな風に真面目に答える。一本とろうとした私が逆に赤面してしまった。まったく、そんなこといって。華琳がいるくせに。そんなこといわれたら、私、真面目にかんがえちゃうじゃない。そう思い、心がちくりと痛む。

 

ずっと、そうだった。彼への思いに気づいたあと、私は苦しかった。それは、一刀にはもうすでに華琳という存在がいたから。そもそも、彼が私との30年を選んだのは、彼女のもとに戻るためであったし、彼が彼女と特別な何かで結ばれているのはわかっていた。理解はしている。けれど、納得ができない。すきな彼を祝福したい。でも、その彼の隣に立つのが私ではないと思うと、心が苦しくてしょうがない。だけど、好きな彼がそんな私の気持ちに気づいて、苦しむのはもっといやだ。私はそんな矛盾した思いに苦しまされていた。

 

 

 

 

「それで、一刀。どこにいくんです?」

 

だから、私はいつもこうして、そんな思いを隠せるようにこんな言葉遣いで彼に話している。

 

「うーん、この近くにさ、小さな川があるんだ。そこで、ちょっとつりをしないか?」

 

そういった彼は、すでにつりの道具をその手に抱えていた。はぁっとため息をつく私に彼は、趣味になっちゃたんだといいながらにししと笑っていた。

 

「どうせ、いやだといっても無理やり連れて行くんでしょう。行きますよ。」

 

そんな風に言う私ではあったが心の中ではうれしかった。彼が、私だけを誘ってくれたことに。そうして、私は、彼についてその小さな川へと馬を進めた。

 

 

 

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「へえ、きれいな川ですね。」

 

目的地に着いた私は、その川をみてすこし驚く。この近くで戦があったのだ。川といってもどうせ汚れているだろう、そう思っていたが、その川は小さくはあるが澄んでいて、とてもきれいな川だった。

 

「ここに川があるのを知っていたんですか?」

「昨日、体を動かすために馬を走らせていら、偶然見つけたんだ。」

「そうだったんですか。そういえば、一刀。体のほうは大丈夫なんですか?」

 

昨日、華陀とともに治療を行い、一刀の体は走ったりといった普段の運動ができるくらいまでには回復していた。しかし、あれだけの毒を抱えながら、気を一気に使ったんだ。まだ、その体を元の状態まで回復させるのには時間がかかる。

 

「ああ、貂蝉と華陀のおかげでね。いろいろとリハビリをしなくちゃいけないけど、体のほうはいたって問題ないよ。」

「そうですか、それは良かったです。そういえば、私といるときは横文字を使うんですね」

「だって、貂蝉はわかるだろう?」

「ふふっ」

 

そう笑いながら私はうれしくなる。これは、華琳がもってない、一刀と私だけのもの。

 

「おおー、みてくれ!大物がつれた。」

 

そんな会話をしながら、釣りを始めていた私たちではあったが、一刀はもうつれたようだ。しかも、結構大物だ。そんな風にはしゃいでいる彼をみると、あっちの世界で彼とともに過ごしていた時間が思い出される。私たちは、ご飯をつくるためによく山や川へその材料をとりに一緒にいったものだ。最初のころは彼は、ふーむとどこかつれない様子であったが、だんだんと慣れてくるうちに、彼もその時間が好きになったようだった。そして、大物を捕らえたときは子供のような笑顔をつくっては自慢してきたものだった。

 

「はいはい。一刀はすごいすごい。」

「貂蝉、お前、馬鹿にしてるのか?」

「いや、ただ一刀のそんな姿がおもしろいだけですよ。」

「そんな姿ってどんな姿だよ。」

「まあ、そのうち、わかりますよ・・・っと、わたしもつれました!」

 

そういって、わたしは笑いながら一刀にそのつれた魚をみせつける。

 

「おおっ、結構大物だな。俺もまけていられない!」

「一刀が、その気なら!私も負けていられません!」

 

私たちは、そうお互いにいいながら時間も忘れて釣りに没頭していた。そんな時間が私にとってはとても楽しく、最高だった。

 

 

 

 

 

「さて・・・」

 

彼がそういい、周りを見渡すと日はすでに落ちていた。あたりも、だんだん暗くなり始め、そろそろつりも終わりだろうと思っていた。

 

「一刀、そろそろ帰ります?」

「?、何をいってるの貂蝉?」

「え・・だって、もう日は暮れましたし。魚もたくさんつれましたし。」

「はいはい、貂蝉、ここで質問です。魚釣りにいくとしたらどうしますか?」

「えーっと、つりざおと小道具を準備しますよね?」

「当然だ。それがなかったら、釣りはできない。それから?」

「魚がつれる場所にいって魚を釣ります。」

「そうだよな、魚釣りだからね。」

「・・・・」

「それだけか?」

「食べる?」

「正解!正解!というか、俺の一番の楽しみはそれだ。塩焼きにして食べるのは最高だ。」

「これから、ですか?ここで食べるんですか?城に持って帰ってみんなで食べたほうがいいんじゃ・・」

「いーの。今日はわがままになる日だ。だから、この魚は俺たちで独占しよう。じゃあ、いこう」

「ここで食べるんじゃないんですか?」

「うーん、川のそばというのもいいけど、俺的にはこのあたりを一望できるところで食べたいかな。だから行こう!」

 

 

そんな風に、私の手を引いていった。ちょっと、今日の一刀はすこし変だ・・・・そうは思っていたが、さすがに彼もいろいろあったあとはこんなことをしたいのかとそう思っていた。

そして、私は再び彼の後を追って、その馬を走らせた。ときもたつことなく、彼がその馬をとめたのは、とある丘の上だった。確かにここからは周りを一望できる、私は馬をおりながらそう思う。そして彼の後を歩いていくと、そこにはすでに火をつけるための小さな木が並べてあった。一刀は、しゃがみこみ、その木に火をつける。

 

「この場所も知っていたんですか?」

 

私は、まるでこのために用意されていた木をみながらそう聞く。

 

「まーな。昨日、体を動かすために馬を走らせたって言っただろう?そのとき川で水浴びして、寒くなったからここで焚き火をしていたんだよ。」

「そうだったんですか。」

 

そんな彼の説明になるほどなとそう思う。

 

「さ、早速、食べようか。」

 

木にさし、火であぶった魚はいい感じに焼けているのか、その香ばしい香りを漂わせていた。

 

「そうですね。」

 

そういいながら、私たちは魚を食べ始めた。その間、私が彼に、あの世界から旅立った後の話を聞かせてほしいとお願いすると、彼は笑顔でうなずき、いろいろと話してくれた。初めて、その剣で命をうばってしまったこと。民とたくさん話して、彼らがいるから国があるのだとあらためて感じたこと。兵士たちと話して、それぞれの人に大切な人がいて、それでも国のためにその命をかけて戦ってくれること。蜀の王、劉備や将たちと話し、彼女が掲げ続けた理想を知ったこと。呉の王、孫策とその将たちとはなし、国を強く思う気持ちに気づいたこと。そして、魏のみんなに再会し、自分がどれだけ、彼女たちを大切なのかあらためて理解したということ。

 

話は尽きることはなかった。しかし、そのどれもが私には聞いていて楽しく、そしてうれしかった。すこしでも、私は彼といなかった時間を、共有したかった。

 

 

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パチパチっ、

 

そんな音とともに、火はだんだんと小さくなっていった。あんなにたくさんあった魚も、今はその姿を骨へと変えている。

 

「一刀、そろそろ・・・」

「そうだな。ちょっと、待っててくれ。もうすこしまきをもってくるから。」

「いえ、そろそろ、帰ったほうが」

 

私はそう彼に言う。

 

「いや、もうちょっとあったまりたいからさっ」

 

しかし、今日の彼はなぜか、そんな風にすこしわがままだった。

 

「そう・・・一刀、その、華琳たちのもとに戻れて、貴方は幸せでしたか、いえ、幸せですか?」

 

私は、そう丘の下へとかけていく彼にそう聞く。

 

「ああっ、もちろん。幸せだよ。」

 

そんな私の言葉に手をあげながら、そう元気に答える彼。

 

「そう、ですか。」

 

不思議と私の頬に涙が伝わる。それは、彼が華琳とともにいられてうれしいといったからではない。彼が、幸せで、私はたまらなく、うれしかったのだ。

 

 

 

 

 

#####

 

 

「貂蝉、それで、あなたの覚悟は本当なのね?」

「ええ、本当です。」

 

一刀が孫策から毒を引き受け、その体のまま、曹操のところへと向かおうとしている。そんな情報を卑弥呼から聞いた後、私は卑弥呼にそうお願いしていた。そのお願いは、一刀のところにいかせてほしいということ、彼のことを助けたいということ。曹操軍の様子を聞くに、曹操たちが一刀と共闘することはないとそう思った。だって、一刀の目的は、曹操を助け出すことだから。でも、そうしたら、彼は、一刀は一人だ・・・・だから、私が一刀を助けなければならないとそう思った。

 

「でも、あなたがいったところで、何も変わらないわよ。」

「でも、一刀だけは助けることができるかもしれない。彼を逃がすことができるかもしれない。」

「だけはって、あなたは死ぬつもり?」

「それも、覚悟はしています」

 

パチンッ

 

そういう私の頬を卑弥呼がたたく。

 

「卑弥呼・・・」

「これくらいはさせてよね。貴方の気持ちはあかっているつもりだけど、これ位しなければ私の気持ちはおさまらないから。」

「ごめんなさい。」

 

そういう、卑弥呼はその目から涙を流していた。本当にいい友達をもった、そう思う。

 

「行きなさい。」

「・・・え?いいんですか?」

 

しばらくたってから、そう言う卑弥呼。私はその答えに少し驚く。

 

「まったく、いくといって聞かないというのは貴方のほうでしょう?それに・・・貴方の彼、北郷一刀。わたしも彼の覚悟は認めているの。」

「卑弥呼・・・・」

 

私は、自分で言い出したことだが暗くなる。

 

「なに、暗い表情をしているのよ。あなたがいいだしたことでしょ。私は一度賛同したんだから、最期まで、ちゃんとするわよ。」

「あり、がとう。」

 

そんな親友の言葉に涙があふれてとまらない。力がなくなったとはいえ、私は管理者だ。その管理者が外史の人間に手を出すことは禁じられている。歴史を変えるなどもってのほかだ。一刀は、あの30年のあと、外史の人間となった。それまでは、正史、外史どちらにも属さなかったから、私たちが少し手を出すのは問題はなかった。しかし、彼は今、外史の人間だ。そして今彼は三国の運命を大きく背負っている。私が彼を助ければ、それからの世界の歴史は大きく変わってしまうのだ。そんなことは本来であるならば許されるわけがなかった。しかし、もし、その禁忌をやぶったものがいたとしたら、その管理者は狭間の世界とともに消えてしまうことになるであろう。つまり、ここでいう、私をこの世界から送り込む卑弥呼は、この世界とともに消えてしまうということだった。そんなことは卑弥呼もとっくに知っていた。しかし、彼女は、私にうんと、返事をしたのだ。

 

 

「貂蝉、あなたも、力はなくなったといっても管理者よ。この意味がわかっているわよね。」

「ええ、わかっています。」

 

私はそんな彼女の質問にそう答える。もし、一刀を守る過程で生きながらえることができたとしても、私はあの世界にいることはできず、時もたつことなく消滅するであろう。そういうことだ。

 

「そう、なら、もう何も言わないわ。」

「卑弥呼・・・わたしはっ」

 

私は、友人の思いに涙を流す。

 

「あー、ほらほら、今からいとしの彼を助けにいくんでしょ。泣かないの。」

 

そういって、彼女は昔のように私の頭をなでてくれる。

 

「ほら、貂蝉!元気出しなさい! そして、やるからにはやってやんなさい!私の友なのだから。」

「はいっ!やってみせます。やってみせます・・・だから・・・ありがとう。卑弥呼・・・」

「別にもういいって。昔からあんたのわがままには慣れっこだよ。それに、最後にひとつ。私は一刀だけを認めたんじゃないわ。彼の仲間たちも、すばらしいものよ。」

 

そういって、彼女は笑う。

 

「じゃあ、貂蝉・・・また、どこかで会おうね。 そのときは、ちゃんとあなたの英雄伝を聞かせるのよ。じゃ・・・・彼との最期の時間・・・楽しんで、ね」

 

卑弥呼がそういうと私は、まぶしい光に包まれ、気がつくと一刀の目の前に立っていた。

 

 

 

 

######

 

 

 

 

 

私は、あふれ出る涙を拭く。あの時、卑弥呼が言ったことは本当だった。私が降り立った後、時も立つことなく華琳たちが戻ってきた。華琳たちだけではない。三国の将兵皆が、一刀のもとへとやってきたんだ。

 

 

「あーあ・・・もっと、一緒にいたかったなぁ」

 

そんなかすむ声でいいながら手をみるとその手はだんだんと透け始めているのがわかる。

 

「一刀・・・ずるいよ。」

 

そう思う私にはあの30年の楽しかった日々が頭によみがえる。最初は、彼の覚悟にただ手伝うつもりであった。けれど、私は彼と過ごす日々の中で、だんだんと彼に引かれていく自分に気づいた。最初はうれしかった、だって、好きな彼と一緒に二人だけでいられるから。けれど、それは違ったんだ。彼には、華琳やほかのみんながいた。わたしは・・・ただの助けにしか過ぎないんだ。

 

 

「でも、私は・・・・」

 

そう、私はうれしかった。幸せだった。彼の笑顔を守ることができて。彼が幸せだといってくれて。月の光が私を照らす。私の体は手だけではなく、足までもだんだんと透けてきた。彼と過ごしたこの短い時間。けれど、私にとっては最高に幸せの時間だった。しあわせだ・・・・そう思うのは本当だ。そう、確かに思うのに・・なんで・・・なんで・・・・私は、

 

 

 

こんなにも涙があふれてとまらないのだろう。

 

 

管理者であるのに歴史を変えるようなまねをしてしまったんだ。消滅しなければいけないってことはわかっていた。けれど、私は心のどこかで、きっとどうにかなるかもしれない、彼と一緒にいることができるかもしれないという望みがあったんだ。弱いな・・・・私は、そう思いながら自分の体をみるともうすでに全身が透けていた。彼の幸せを願うのが当然だ。彼が華琳と一緒にいて幸せだっていうのはわかっている。けれど・・・・けれど・・・

 

 

 

 

「私が、一番になりたいっていうのは・・・・わたしの、わがままなのかな・・・」

 

そんな一言が、私の口からかすかにもれる。

 

 

 

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「貂蝉、お前は、俺の一番だ。」

 

 

えっ・・・・・その声に振り向くとそこには膝に手をつきながら、息を荒くしながらもそう叫ぶ一刀がいた。前のようにまだ走れない体を無理に動かしたのだろう。月に照らし出される彼のその顔からは、汗が流れていた。

 

「なん・・・で」

 

私は彼のそんな言葉に涙しか出てこない。そんな動けないでいる私に彼は一歩一歩近づいてきて、私をぎゅっと抱きしめた。私の体は透け始めてはいたが、彼のぬくもりを感じることができた。

 

 

「貂蝉、君が大好きだ。強がりなところも、がんばるところも、そのやさしさも、みんな俺は大好きだ。貂蝉。」

「一刀・・・・なんで・・気づいていたの?」

 

透けている私に驚いた表情もせずそういう一刀にそう聞く。つまり、一刀はわたしが、消滅をしてしまうことを気づいていたみたいだ。

 

「馬鹿だな。俺だって、一度はそうなったんだ。貂蝉の表情をみればわかるよ。それに、管理者という立場を考えれば、そうなっちゃうんじゃないかなって思っていたよ・・・それでも、君は俺を助けてくれた。本当に、ありがとう」

 

そんな風に彼から告げられる言葉。

 

ちょっと、待って・・・一刀は私がこうなるって知っていた?それじゃあ・・・・

私はそのとき、思い出す。夢の中で再会した一刀が私に言ってくれた言葉を。

 

「貂蝉、いつか俺は君に会いに行くよ。絶対にだ。だから、そのときは、また前みたいに、一緒に出かけて、一緒に食事をして、一緒に話そうな。」

 

 

彼は、覚えていたんだ。あの時の言葉をずっと。だから、私を今日いきなりつりに誘って、そして丘でたべようと言ってくれた。ずっと・・・覚えていてくれたんだ・・・私は、なんていっていいかわからない。その目からは、涙が止まらなかった。

 

 

「貂蝉が最初の約束を果たしてくれたからな。だから、もうひとつをかなえるのは俺の番だろう?」

 

そういって、彼はいつものように私の頭にその手を置く。

 

「一刀・・・かずとっ・・・・」

「泣くなって。かわいい顔が台無しだぞ。」

「かわいいって、またそんなこといって・・・・誤解しちゃうよ?」

 

そう、話す私の言葉に仮面はつけられていなかった。

 

「誤解じゃないよ。嘘っていうなら、何度もいうさ。」

「えー、恥ずかしいよ。」

「貂蝉、俺は君が好きだ。大好きだ。この、世界の中で、いや、時空を越えたすべての世界の中で、俺は君が大好きだ。」

「かずと・・だって、かずとには華琳やみんながいる・・・」

「華琳たちも、大切だ。けれど、俺はやっと、気づいたんだ。あの30年とこの2年で。俺は君がいたからここまで変わることができた。君がいたから俺は、この世界を好きになることができた。君がいたから俺は、俺でいられた。」

「うそ・・・だよ」

「うそなんかじゃないさ。絶対だ。」

「ほんと・・・?」

「ああ、本当だ。天に誓って、そう言うよ。」

「だったら、真名・・・私も真名がほしい。一刀だけがよんでくれるそんな真名が。」

「俺も、君を真名で呼べたらと、ずっと思ってたよ。」

「そうなの?」

「ああ、だから、俺が好きな名前を受け取ってほしい。愛里。愛はそのまま、愛だ。貂蝉のそのやさしい気持ち。そして、里はみんなが集まってくるところという意味だ。どうかな・・・」

「あいり・・・・うんっ!うれしいよ。一刀。」

「よろこんでもらって、うれしいよ。愛里。」

「あー、早速よんでる!」

「いやなのか?」

「ううん、うれしい。」

「愛里、さいごにちょっと俺のわがままに付き合ってくれ。」

 

 

そういいながら、一刀は私のその透ける手を離れないようにとそうやさしく握り、丘を下っていった。

馬に乗ることもなく、歩いてまもなくついたそこには蝋燭がたくさんともしてあり、その蝋燭は何かを囲むように円を描いていた。そこには、たくさんの赤い花が蝋燭の光をうけてよりいっそう幻想的に赤く、輝いていた。その光景はまるで、夕焼けのその光に包み込まれたようでとても温かかった。一刀は私の手をつないだまま、その中心へと歩いていった。

 

 

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「かずと・・・ここは?」

 

私は、そのきれいに咲く花々を見ながらそう言う。

 

「この花は、彼岸花。そして、その花言葉は・・・」

「再会、ね。」

「ああ」

 

そうつぶやく私に彼はそうやさしく答える。お別れのときくらい、涙をとめようとそう思っていた。けれど、なんでだろう。彼の気持ちを聞いた後も、私は涙を止めることができなかった。彼は、わたしにさようならを言おうとしていたんじゃなかった。彼は、消えて行く私に再会の約束をしようとしていたんだ・・・・かずと・・。そう彼を思うと胸が熱くなる。

 

 

 

 

「貂蝉、想像してくれ。ここじゃないどこかの世界を。」

「そんなの、難しいよ。」

「おいおい、管理者がいうせりふじゃないだろ。」

「でも・・・・」

「まあ、俺がほかの世界から来たんだ。そういった別の世界を想像してほしい。」

「うん」

「そんな世界のどこかに一刀って名前の男の子がいて、そしてそいつは、強くなるために剣道を小さいころからやってるんだ。」

「なにそれって。かずとのこと?」

「まあ、それは秘密だ。でも、そいつはなんのためにつよくなっているのか、わからないんだ。」

「そうなの?」

「ああ、でもそんなときに愛里っていう女の子にあうんだ。」

「それって・・」

「その愛里っていう女の子は強くて、前を向きながら自分と戦っているんだ。そんな姿に一刀っていう男の子は自分に足りなかったものにだんだんと気がついていくんだ。」

「かずと・・・」

「それから、一刀は愛里と一緒にいるようになって・・・・一緒に出かけて、一緒に食べ物をさがして、一緒にご飯を食べるんだ。」

「うん・・・うん。」

「どんなに大変なことがあっても、俺は愛里と一刀なら乗り越えていけるんじゃないかなってそう思う。どうかな?」

「うん・・・うん、うん。 愛里もそう思う。」

「そっか。」

 

そう泣きながらうなずいた私を一刀は抱きしめようとするがその手はもう、私のことに触れられることはなかった。

 

 

「愛里・・・・」

「一刀・・・・」

 

ああ。幸せだ。そう思う。こんなに大好きな彼と、最期まで一緒にいられて、そして一番大切といってもらった。かずとは、いつもいきなりだ。どんなときも私を驚かせた。でも、彼はどんなときでも私を思っていた。どんなときでも、やさしかった。

 

「いったんおわかれだな。」

「うん、いったん、おわかれだね・・・」

 

そういいあう私たちはその頬に伝わる涙とは裏腹に、お互い、微笑んでいた。

 

「これは、約束の証だ、愛里。」

 

 

再会の約束、そんな一言とともに私の唇を何かが覆う。初めてだったから、最初は驚いたけど、だんだんと、私は彼の気持ちを受け止めた。そして、だんだんとかすみゆく景色の中、ただ、わずかに伝わるそんな彼のぬくもりを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「また、会おうね・・・大好き、一刀。」

 

 

 

 

貂蝉√エンド

 

 

 

 

 

 

 

-6ページ-

 

 

 

 

あとがき。

 

貂蝉√のエンディングでした。

一刀と愛里のその後は、読者の方々のご想像にお任せします。

 

どこかの世界で、きっとあっていることを祈って。

 

 

 

そして、貂蝉、今まで、ありがとう。

 

 

敬礼!

 

説明
〜貴方の笑顔のために〜貂蝉√のエンディングです。

やっぱり、貂蝉はいい人だと作者は思ってしまうのです。
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コメント
たくましいナぁ、ほかユーザー・・・・(黄昏☆ハリマエ)
madao 様、おっ、愛里ファンまたひとり発見。そろそろ、愛里ファンクラブをひらこうかな。  madaoよ、私は君がそのイメージを超える力をもっていると、信じている。  (白雷)
ここで愛里かぁ・・・。可愛すぎるぅ!!やっぱ真名っていいですねぇ。しかし貂蝉のイメージがどうしても筋肉達摩から離れない。アアァ〜〜〜〜〜!!ww(madao)
本郷 刃 様、そうですねー、きっと。   愛里ちゃんはやっぱりかわいい。(白雷)
2人はまた新たな外史で再会するのでしょうね・・・感動しましたよ!(本郷 刃)
デーモン赤ペン 様、そうですね。そう信じたい。(白雷)
二人は、どこかできっと、再開してるんだよね・・・(デーモン赤ペン)
Mr.ハリマエ 様、ユーザー様方はそれをも超越する想像力をもっていることに期待(白雷)
だめだ・・・チョウセンだと思うと想像できない、漢女を連想してしまう!!(黄昏☆ハリマエ)
nao 様、それは・・・nao 様のご想像にお任せします。  でも、作者としては、二人がどこかで出会っているとは思いますよ?(白雷)
観珪 様、めちゃくちゃをこえますね!もう、貂蝉最高(白雷)
咲実 様、貂蝉は実は女性だったと考えると、やっぱり一刀のことを一番に考えていたのは彼女だったのかもしれないってそう、思ってしまいます(白雷)
おぉ、鬼・無双の愛里は貂蝉の生まれ変わりかなんかなのかな?まさかここで愛里って名前がでてくるとは思わなかったな!(nao)
貂蝉√とかww と思っていた自分を激しく殴りたい めちゃくちゃいい女じゃないですか! 願わくば二人の再会を……!(神余 雛)
目からしょっぱい液体が…(咲実)
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