真恋姫無双幻夢伝 ??話『世界の狭間で』 |
真恋姫無双 幻夢伝 ??話 『世界の狭間で』
(これは夢だな)
と、男は思った。自分が住んでいる横浜とは全く異なる情景。そう思わない方がおかしい。
次に男は、そう考える自分の意識がはっきりとしていることに驚いた。ふと以前読んだ小説の中に出てきた“明晰夢”という言葉が彼の脳裏をよぎる。これがそうなのか?
考え込む彼の足元に地面は無かった。自分の体がその空間ではぷか〜と風船のように浮かんでいる。いかんせん気持ちが悪い。
周囲には取ってつけたような宇宙が広がっていた。無音の空間の中で、星々が光を放つ。先週見たプラネタリウムよりはリアルだが、地球の姿が無いことが何とも残念だ。
彼はゆっくりと手を動かした。動く。それを確認すると、色々と体を動かしてみた。体の位置は変わらないが、動きに不自由はない。Tシャツやジーパンが肌を擦る感覚もある。ただ、どうすることも出来ない。
一体この夢はいつ終わるのだろうか?
周りの星々を見るのにも飽きた彼は、手を組んで大きく背伸びをした。すると自分の常識とは異なることに気付いた。
(あれ?なんで手の感触があるんだ?)
夢の中でも感触はあるのか?
彼は頬をつねってみた。痛い。それはぼんやりと感じるものでは無く、明確な痛みだ。彼は首をかしげる。これは夢ではないのか?
そう考えると、ふと何かを思い出しそうになった。懐かしい感覚。そうだ!俺は、この場所を知っているのではないか?!
「その通りだ」
不意の応答にバッと振り向く。気が付くと、先ほどまで見えていた銀河の光景を遮るように、若い男が立っていた。自分より小柄だが180近くあるだろう。かなり奇抜な服装をしている。まるで時代劇だ。
彼は怪しい笑みを浮かべて言う。
「アキラ。世界の狭間へようこそ。いや、おかえりと言うべきかな」
「世界の、狭間?」
その言葉が脳をくすぐり、また何かを思い出しそうになる。しかし喉に突き刺さった骨のように中々出てこない。その様子に若い男はため息を漏らした。
「無理するな。記憶を消去したのだから、明白に思い出すことなど不可能だ」
その言葉にアキラは体に電気が走ったように反応し、その男に詰め寄った。不思議なことに、今では歩ける。しかしアキラはそのことを気にする余裕も失ったように、男の肩を掴みながら叫ぶ。
「なあ!あんたは俺の記憶を知っているのか!」
「………」
「答えてくれ!生まれた時からずっとそうだったんだ!俺は何か大事なことを忘れている、何かしなければならない、“誰かが呼んでいる”って感覚に襲われてきたんだ!ずっと胸の真ん中にあったんだ!」
アキラは泣き叫ぶように、もっと手に力を入れて訴える。
「教えろ!!俺はいったいダレなんだ?!!」
その叫びに応じたのは、後ろから引きはがされる力だった。振り向くと、もう一人、眼鏡をかけた男が立っていた。この男もへんてこな衣装を纏っていた。
「冷静に。左慈が痛がっています」
アキラはもう一度左慈と呼ばれた男を見た。彼は肩を抑えながら「サンキュー、于吉」と言っていた。眼鏡の男は于吉というらしい。
冷静さを取り戻したアキラは、左慈に謝った。
「すまない」
「いや、いいさ。気持ちは分かる」
「それにしても、相変わらず直情的ですね」
彼らは親しみを込めて笑いかけてきた。その表情にアキラはまた懐かしさを感じる。そして同時に安心さを感じた。不思議と(二人は味方)と思ってしまう。
左慈と于吉は並んでアキラの前に立った。そして改めて挨拶した。
「アキラ。久し振り」
「20年ぶりですね」
「20年…だと」
ちょうど自分の年齢分だ。それを尋ねようとしたが、左慈は手で押さえた。
「まあまあ、ちょっと話を聞いてくれ。それからでも遅くは無いさ」
そして二人は「まずは」と自己紹介を始めた。
「俺は左慈…というのはこの世界でのニックネームだ。本名はジャック・ホワイトだ。まあ、この世界では左慈と呼んでくれ」
「私の本名はヴァン・スタンフィールド3世です。私も于吉でお願いします」
「日本人ではないのか?」
その疑問は当然だというように頷く二人。
「この姿も仮のものだからな。その証拠に、ほら!」
パチンと左慈が指を鳴らすと、テレビの画面が切り替わるように二人は姿を変えた。左慈は太っちょでチビの黒人に変わり、于吉はガリガリ長身の白人に変わった。40代ぐらいのおっさんに見える彼らは、白衣を着ていた。
驚きで言葉が出ないアキラを見てニタニタ笑う左慈は、もう一度指をパチンと鳴らした。二人は先ほどの姿に戻った。
アキラはようやく声を絞り出す。
「ど、どうなっているんだ!」
「もうお気づきでしょう。ここは」
于吉は言った。
「ここはバーチャル世界です」
「バーチャル世界、だと?」
「ああ。そしてこれから行ってもらう世界もバーチャル世界だ」
余りに非現実的な発言に、アキラは思わず笑ってしまう。そして笑い半分、少し怒りながら尋ねた。
「待て待て待て。おい、デブ。この野郎」
「デブじゃねぇ!ぽっちゃりだ!」
「うるせえ!いいか!俺には“現実”ってやつがあるんだ。お前らのゲームに付き合っている暇は「あなたは死にました」…は?」
悲しそうに于吉は首を振る。左慈もデブと呼ばれたことを流して、腕を組んで眉をひそめる。
「あなたは死んだのですよ。アキラ」
「胸をグサッとやられてな」
アキラはハッと思い出す。自分がここに来る前に経験したことを。確かに最後の光景は、ナイフを持って向かってくる女の姿だった。
混乱するアキラに追い打ちをかけるように、左慈は言葉を加えた。
「しかしまあ、つくづく運の無い男だな。せっかく二度目の人生を歩ませてやったのに」
もうアキラには理解が追いつかなかった。彼は「わけわかめ」と言って、頭を抱えてしゃがみこんでしまった。
「あーあ。考え込んじゃった」
「あなたのせいですよ。この前もプレゼンがへたくそって言われていたでしょ」
「うっせ」
じゃあ代わりにやれ、と言わんばかりに、左慈は于吉の背を叩く。苦笑いの于吉は小さくなっているアキラに近づいて話しかけた。
「すみませんね。説明がへたくそな相方で」
「……ああ」
「否定してくれよ!」
プンスカ怒る左慈を無視して、于吉はアキラに立つように促した。
「私から最初から話をしましょう。話しやすいように立ってくれませんか?」
「…分かった。ただし出来るだけ、詳しく」
「分かりました。ではお答えしましょう、あなたの前世のこと。そしてこれからの世界のこと」
説明 | ||
呆けたわけではありません。ちゃんと本編とつながります。 | ||
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コメント | ||
期待(二郎刀) | ||
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