魏after 一刀伝05
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道場内で正座した俺を、静寂と暗闇が包んでいる。

卒業式から二日。

身の回りの整理などとうに済ませていたにもかかわらず、すぐにあの世界に行けなかったのは、俺に僅かに残っていたこの世界への未練、というべきだろう。

別れの挨拶自体はあっさりとしたものだった。

夕飯の席で一言、「今日、行くよ」と告げたのみだ。

反応は父さんの「そうか……」という一言のみ。

爺ちゃんは無言。

母さんは……泣いていたかもしれない。

その後は会話も無いまま食事を終え、リビングを出るときに一度振り返り、頭を下げた。

その後部屋で制服に着替え、纏めてあった荷物を持ち道場に来て、今に至る。

「……ふぅ」

溜息と共に目を開けた俺の傍らには、ボストンバッグとその上に乗せた竹刀袋、靴、そして銅鏡。

バッグには、あちらの世界で役に立ちそうな物や、役立つ知識の詰まった本やレポート。

竹刀袋には、素振り用と普通の木刀二本に日本刀が一振り。

日本刀は昔爺ちゃんに貰った物で、稽古でも巻藁を切るなどして時々使用しているものだ。

特に高価なものではないが、真剣には違いない、あの世界の量産品よりは、よっぽど役に立つだろう。

「そろそろ、行くか」

言って立ち上がった時、ふと、入り口の方に気配を感じた。

「ふん、まだおったか」

「爺ちゃん?」

そこにいたのは袴姿でピシリと背の伸びた……、まあ、いつも通りの爺ちゃんだ。

「餞別だ、持っていけ」

影になって見えなかった左手から、細長い物が投げ渡される。

受け取ると、ズシリとした重み。

長さ1m強の長さに僅かに反り返った形状……、日本刀だ。

「これは……」

「紛争などがある場所に行くなら、持っていて損はなかろう。まあ、銃のゴロゴロしておるこのご時世、どこまで役立つかは知らんがな」

言われて、手の中の刀にもう一度視線を落とす。

掴んだ鞘は黒塗り。

柄を覆う柄糸は鉄色(てついろ)と呼ばれる黒に近い緑。

全体的にシンプルに纏められ、柄頭や鞘にも装飾は見当たらない。

例外は、金属製の鍔(つば)に、一匹の龍が描かれている位だろうか。

どうにも、高級感というか、普通じゃない空気を持つ一振りだ。

「相州水心子兼定(あいしゅうすいしんしかねさだ)、江戸時代に打たれた大業物よ」

「大業物って……、そんな物貰うわけには」

道理で雰囲気から違うはずだ。

もし本物だとしたら、最低でも一千万は下らない逸品である。

そこそこ裕福、程度のウチが買える物ではないし、ということは先祖代々伝わっている物ではないだろうか。

「元々、お主が師範になったらくれてやろうと思っておったもんじゃ。それが少々早くなったというだけの事よ」

「これってもしかしなくても家宝だろ? もう帰ってこない俺なんかに渡していい物じゃないんじゃ」

「お主が帰ってこないなら、流派もわしで終わりじゃろうが。実力的には問題は無い、気にせずに持っていけ」

爺ちゃんは俺と口論するつもりは無いらしい。

言うだけ言うと、さっさと背を向けて母屋の方へと戻ってしまった。

「爺ちゃん……」

呟いて、改めて兼定に目をやる。

「大業物か」

シャラリ

ほぼ無意識に引き抜かれた刀身が、暗闇の中でなお、白々とした輝きを放っていた。

刃渡りは昔の刀にしてはやや長く、二尺七寸(80cm強)といったところか、

ゆらゆらと揺らめく様な刃文に、優美な曲線を描く切先。

透き通るような白さの刃先が、峰に向かうにつれて艶やかな黒い輝きに変わっていく。

俺の持っている数打ちの品とは比べるまでも無く、まさに武器を越えた芸術というに相応しい造形だ。

 

 

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ゴクリ、と自分の喉が鳴る音で意識が戻る。

おそらく10秒に満たないだろうが、自失するほどに刀身を見つめていたらしい。

慌てて頭を振り、これ以上見ないようにしながら慎重に鞘へと戻す。

最後の最後に、とんでもない物を貰ってしまった。

正直喜びよりも、俺程度の腕で振るっていいのか、という戸惑いの方を強く感じる。

「でも、全てを捨てていなくなる俺に出来るのは、たぶん……ひとつだけだ」

そうだ、俺は、この刀に見合うだけの男にならなければいけない。

爺ちゃんが何故、この刀を俺に渡したのかは分からない。

意味など無かったのかもしれない。

餞別というだけだったのかもしれない。

言葉通り、流派が終わるからなのかもしれない。

だが、託された以上、俺にその価値があったのだと証明してみせよう。

この刀は俺の腰にこそ相応しい、そう言われるような男になろう。

「さて、餞別も貰った。目標も定まった。行くべき場所と、そこへ至るべき道も見つけた」

ならば、行こう。

ゆっくりと息を吸い込み、母屋のある方向に向かい、深く深く頭を下げる。

「18年間、ありがとうございました!」

母屋どころか近所にまで響いたかもしれないが、気にしない。

1分ほどそうしただろうか、勢いよく頭を上げ、母屋に背を向けて呟いた。

「行くか……」

その行動を取ったのは、たぶん見せたかったからだ。

家族とも、友達とも別れを済ませた。

だから最後に、十数年間俺を見守ってくれた道場に、俺が何処まで成長できているのか、それを見せたいと思った。

もちろん、相州水心子兼定、その切れ味を試してみたいと思った事も否定はしないが。

 

バッグの横に置いてある靴を履き、靴紐をキチンと縛る。

土足で道場に上がるというのはあまり褒められたものではないが、この際それは勘弁して貰おう。

そしてひとつ深呼吸。

銅鏡を高く放り投げると同時、腰を落として相州水心子兼定の柄に手を掛ける。

「……」

息を吸い、止める。

一拍。

「……シッ!」

キン……

鋭い呼気と共に抜き放たれた兼定が、僅かな音と、更に僅かな手応えを残し、銅鏡を真っ二つに切り分けた。

今の俺なら、斬鉄にまで届くかもしれないな。

頭の片隅で考えながら、くるり、円を描くように刀身を滑らせ、納刀。

パチリ、と鯉口が音を鳴らした瞬間、銅鏡の断面から真っ白な光が迸る。

「これが!」

外史への門が開いたという事か!

視界が純白に包まれる寸前、俺は足元のバッグと竹刀袋を引っ掴み、ひたすらあの世界のことを考えながら目を閉じる。

瞼を通してなお、白い光は視界を灼いて。

視界が真っ白に染まった瞬間、俺の意識も白い光に飲み込まれ、消えた。

 

説明
Q.魏で女の子とラブラブするんじゃ?
A.そこまで辿り着きませんでした。

Q.何でですか?
A.日本刀(ついに無機物)大活躍\(^o^)/

次こそ、次こそは魏にぃ……。

週一更新のペース守っても、一回の文章量少ないとあんま意味無いかもと思い始める今日この頃。

とりあえず最後に一言
日本刀は日本男児の魂(ロマン)だぜ!

追伸
日本刀が一本→日本刀が一振り
に修正しました。
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コメント
>>ブックマンさん、ネタのストックには一刀の技量や相州水心子兼定の凄さに触れるネタもありますので、気長にお待ちくださいませー。(三国堂)
一刀もですが相州水心子兼定の活躍、おおいに期待します。(ブックマン)
入りきらなかったので追伸。この話の前書きとかに↓の内容書いたつもりでいたら書いてなかったので、次の話かどこかに説明載っけときます。(三国堂)
>>京 司さん、あー、相模国とかの俗に言う相州物(そうしゅうもの)の刀というわけではないです。折角なので日本刀っぽい名前をつけようと思って考えた名前で。個人的に好きな水心子(刀工)を真ん中にして、あとは語感で決めました。あえて日本刀に関連する漢字をあてたので、混乱させてしまい申し訳ないです。(三国堂)
ちょっと気になったのですが……相州は「あいしゅう」ではなくて「そうしゅう」ではないでしょうか?(京 司)
>>灰猫さん、続き書きたいぜぇ。でも書く前に、軽く魏の拠点フェイズやり直してキャラの性格掴みたい。うおー、頑張るけど時間が足りねー。(三国堂)
つ、続きを見たいぜぇ・・・!(猫)
>>G-onさん、これでもソフトSを自称しているというのに……。ドSなら、次の展開は時空の狭間で延々と貂蝉と会話。とかですが、勿論やりませんよ! ソフトSですからね! 頑張って、もっと感じちゃうようなSS書くぞー><(三国堂)
>>Poussiereさんの家に黄色い救急車が呼ばれる前に、なんとしても続きを書かねば>< 正直、帰還後の話と今回のをくっつけて更新すると、今週中にアップできそうも無かったのです。ご勘弁を〜。(三国堂)
>>美鷹鏡羽さん、光が消え目を開けると、そこにはパンツ一丁のモミアゲお下げマッチョが、鳥肌が立ちそうな笑顔でこちらに唇を突き出していた。とか続いたら、たぶん今まで支援のボタン押してくれた人達に、ボッコボコにされると思うので自重しますw(三国堂)
>>カピパラさん、お待たせしましたー! 次回はあまり待たせないように、と言いたい所ですが、目玉の部分なので時間かかっちゃうかもです。見捨てずにお待ちくださいー。(三国堂)
>>halleiさん、変な電波受信しない限り。ちゃんと帰還編を書いてみせますぜ。もしかしたら更新二回に分けるかもですが、期待に応えられる様頑張りますよー。(三国堂)
>>YUJIさん、期待されると緊張しちゃいますね。でも嬉しいから頑張っちゃうんだぜ><(三国堂)
>>水質測量班員さん、正式(ニュースなど)では本で統一されているらしいですが、ロマン的にはやっぱ振りがいいですかね。兼定は一振り標記なんですが、名無し刀の方は安さを強調的な意味で本にしてみたのです。でもやっぱり、木刀と差別化する為にも振りがいいのかな。無銘でも日本刀は格好良くあるべきだし、修正しちゃいますか!(三国堂)
>>きりゅーのすけさん、陰謀は陰謀でも、爺ちゃんたちの陰謀なのですよ。勝手に動き始めて、俺の予定を狂わせてくるのです><(三国堂)
作者はきっとドS。悔しい、でも感じちゃうッ!w (G-on)
続きが気になりすぎて、いつも発狂しそうになります。(Poussiere)
北郷の辿り着く先はどの地、どの時か?楽しみです〜(逢いたいという漢女の悪戯で真じゃなく恋姫無双にとか想像してしまった^^)(美鷹鏡羽)
お待ちしておりましたーー!!  次回作待ってます。!(カピパラ)
ワクワクしてきましたねぇ〜 この先どうなる事やら(hallei)
まったくもっていい所でとめてくれますな・・ 次も期待してますよ!!(YUJI)
日本刀は1本じゃなく1振りのがいいかな?単位 (模擬刀に対して本身といいます)(水質測量班員)
毎回毎回気になるところで止められて・・・。陰謀かっ!?ともあれ次も楽しみにしてますw(きりゅーのすけ)
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真・恋姫†無双 一刀 爺ちゃん 日本刀 

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