真恋姫無双幻夢伝 第??話『The secret of “worlds”』 |
真恋姫無双 幻夢伝 ??話 『The secret of “worlds”』
「まずは私たちの素性から話しましょうか」
アキラが未だ慣れない浮遊感に襲われている中、于吉は話を切り出した。
「私たちはアメリカのある機関で研究員をしています」
「さっきも見ただろ。俺たちが白衣来ていたとこ」
「ああ、そうだったな」
確かにあのアメリカ人は白衣を着ていた。この目の前にいる二人とは、似ても似つかなかったが。
「そこで俺たちが研究の対象としているのは、魂だ」
「たましい?」
「そうです。精神と言っても良いでしょう」
科学じゃなくて宗教じみた話だな、とアキラは思った。于吉は続ける。
「アメリカの医師、ダンカン・マクドゥーガルが1907年に『人間の魂は21gだ』と科学誌に発表しました。ご存知ですか?」
「聞いたことがある。しかしあれはデタラメだったんだろ?」
「ところがどっこい、世の中には物好きがいたもんだ。その後も研究は続けられ、キューバ危機が起こった1962年にはそれが証明された。正確には魂の重さは、21.349…ええと」
「562gですよ。ただしこの研究は極秘扱いにされました」
「極秘…」
「宗教上、もっと言えば文明上の最もデリケートな部分だからな。魂の重さなんて発表したら、次の日にはミシシッピ川で魚につつかれているさ。誰も口外しない」
「ただ研究自体は続けられました。その後、魂の居場所、体から出た時のエネルギー値、魂をデータ化する方法、そして構成物質まで分かりました」
「人間の好奇心は誰も止められない、ってことさ。そして1997年7月25日。運命の日」
「運命の日?」
「そう。私たちのボスが作り出してしまったのです。奇しくもクローン羊、ドリーが生まれたちょうど1年後でした」
悲しいのか、それとも高揚しているのか。そんな複雑な表情を浮かべた左慈が口を開いた。
「人工の、魂が作られた」
「人工の…だと!?」
アキラは身を乗り出すように言った。まるで自分が聞いたことを確かめるように。二人はしっかり頷く。聞いたことは間違っていなかった。
「神様の誕生さ」
左慈はオーバー気味に両手を挙げる仕草をする。隣の于吉も肩をすくめる。アキラは開いた口が塞がらなかった。
でもこれは本題では無い。于吉は話を再開した。
「一方でこんな疑問も生じました。『人工の魂と自然の魂、どちらが優れているのか』と」
「ドリーも早死にしてしまったんだ。それは思っても仕方ない。それが、今の俺たちの研究テーマになった」
「ここまで理解できましたか?」
正直分からない。分からなさ過ぎる時は、黙って相手の言うことを鵜呑みにするしかないしかないのだ。この時、アキラもただ頷くしかなかった。
「戸惑っているようですが、先に進ませて下さい。本題はここからです。それを研究テーマにした我々は、2000年から人工の魂と自然の魂を競争させる研究を開始しました。勿論、現実世界では不可能です。時間もかかります。そこで、現実世界よりも100倍速く時間が進む仮想世界を作り上げました」
「この世界のように、な」
バンバンと足で地面を叩く。理屈は分からないが、アキラは自分の魂がこの世界に閉じ込められたことを知った。そして
「ということは、これから行く世界っていうのは」
「さすが理解が早いですね。そう、その仮想世界です」
于吉は笑いかけてくれたが、こちらは笑い事では無い。アキラは二人に尋ねる。
「なぜ俺が選ばれた?」
「うん?いや、今回はお前じゃない」
「今回は?」
「だー!もう!話を遮るな!最後まで聞け!…で、だ。いつも実験の被検体は一人。ランダムに決められる。今回は、確か、カズト・ホクゴウとか言ったな。まあ、その被検体が歴史上の混乱期を模した世界で生き残れるか、というのを見る」
「あえて死亡率が高い、身分が高い状態に設定しましてね。人工の魂と競争する中で生き残れたら、『自然の魂は人工の魂より優れている』という仮説が証明されるわけです。途中で死んだら、その逆ということ」
「…ちょっと待ってくれ。ランダムに決めるって言っても、実際はどうやってその自然の魂を取るんだ?」
「寝ている内に取るのさ。スポイトで採るように。魂が抜けた体は植物状態になる」
「植物状態…」
「そう。現実世界では死亡扱いになります。後は仮想空間で生きてください、ということです」
なんと残酷な。そう口に出したくなるほどの実験だった。人はここまで無慈悲になれるのか。
「…そんな顔するなよ。こっちだってそこら辺は配慮しているさ。なるべく死にかけの人を選んでいた。現実の人生となるべく関係しないようにな。人工魂も実験終了後に再利用、要は記憶を消して次の世界に移し替えていた。こうやって俺たちは自分の良心と折り合いをつけていた」
「で、その結果は?」
「成功、つまり自然魂が生き残ったのは25回中、たったの1回。もう実験結果は出ているんだよ。『人工魂は自然魂と何の遜色も無い』とな」
「ところが、ボスはあろうことか研究資金の獲得のために、この実験を“ショー”として売り込みました。まるで“コロシアム”です。観客は自然魂が生き残るかどうかを賭ける。こちらもそのために生き残る確率を50%に設定して、賭けがしやすいようにしました。そしてその上前をはねて、研究資金にしてきた」
「しかも被検体もなるべく活きの良い若い魂を選び始めた。死にかけであろうと無かろうとな!」
「さらに…」
「さらに?」
于吉は苦しそうな顔で言う。
「賭けが終了した後はその世界を消去するのですよ。そこにまだ生き残った魂があろうとね。本来ならば、その後の世界の発展経過も研究対象です」
「な、なぜ?!」
「すぐに新しい賭けを始められるようにさ!無駄な時間はかけられないってこと」
そして左慈は叫び、アキラに訴えた。
「俺たちはもうこんなことはうんざりだ!こんなもの、金の亡者がやることだ!」
「だったら、なんで止めない!」
「全ての権限はボスが握っています。仮想世界への介入する権限も消去する権限も。我々にはどうすることも出来ない。反発して止めても、この研究は続いて行く」
無力。于吉はそれを噛み締めるように俯く。左慈も拳をグッと握りしめていた。
それでも諦めず、彼らは最後の希望を抱いていた。左慈はアキラを見つめる。
「…そこで、俺たちはお前に賭けることにした」
「なに?」
「あの世界で生き残って欲しいのですよ。賭けが成立しなくなる事態、つまり“もう一つの自然魂”が生き残れば、ショーとしては破綻する。……お願いです。この狂った研究を止めてください!」
二人はアキラに向かって頭を下げる。アキラは、なんとなくは分かった。だが
「まだ俺の聞きたいことに答えてない。…俺は、何者だ」
頭を上げた二人は、互いを見て頷く。そして左慈はアキラにゆっくり伝えた。
「お前はショーになる前に唯一、つまり1/25の確率で、あの世界を生き残った魂だ」
説明 | ||
謎の話パート2。これまとめきれるかなぁ… | ||
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