ISとエンジェロイド
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 第一二話 臨海学校初日

 

 

 

 

 

 「海っ! 見えたぁっ!」

 

 

 トンネルを抜けたバスの中でクラスの女子が声を上げる。

 

 海が見えるとクラスのテンションが上がるのに対して、俺は逆に下がり苛ついていた。クラスのテンションについて行けない。

 

 特例としてエンジェロイドも同行して、俺とシャルの間の通路にアストレア、前にニンフ、後ろにイカロスが補助席に座っている。

 

 

 「そろそろ目的地に着く。全員ちゃんと席に座れ」

 

 

 織斑先生の言葉で全員がさっとそれに従う。相変わらず指導力抜群だった。

 

 言葉通りほどなくしてバスは目的地である旅館に到着した。四台のバスからIS学園一年生+三名が出てきて整列した。

 

 

 「それでは、ここが今日から三日間お世話になる花月荘だ。全員、従業員の仕事を増やさないように注意しろ」

 

 『宜しくお願いしまーす』

 

 

 織斑先生の言葉の後、全員で挨拶をする。この旅館には毎年お世話になっているらしく、着物姿の女将さんが丁寧にお辞儀をした。

 

 

 「はい、こちらこそ。今年の一年生も元気があってよろしいですね」

 

 

 元気があり過ぎて困ってます。

 

 

 「あら、こちらが噂の……?」

 

 

 ふと、俺や一夏と目が合った女将が織斑先生に尋ねる。

 

 

 「ええ、まあ。今年は二人男子がいるせいで浴場分けが難しくなってしまって申し訳ありません」

 

 「いえいえ、そんな。それに、いい男の子達じゃありませんか。しっかりしてそうな感じを受けますよ」

 

 「感じがするだけですよ。挨拶をしろ、馬鹿者」

 

 

 ぐいっと頭を押さえられる。話をしていたから出来なかったのに。

 

 

 「お、織斑一夏です。宜しくお願いします」

 

 「山下航です。宜しくお願いします」

 

 「うふふ、ご丁寧にどうも。清洲景子です」

 

 

 そう言って女将はまた丁寧なお辞儀をする。

 

 

 「不出来な生徒でご迷惑をお掛けします」

 

 「あらあら。織斑先生ったら、こちらの生徒には随分厳しいんですね」

 

 「いつも手を焼かされていますので」

 

 

 一夏より無いはずだが、どうなんだろう?

 

 

 「それじゃあ皆さん、お部屋の方にどうぞ。海に行かれる方は別館の方で着替えられるようになっていますから、そちらをご利用なさってくださいな。場所がわからなければいつでも従業員に訊いてくださいまし」

 

 

 女子一同は、返事をするとすぐさま旅館の中へ向かった。

 

 初日は終日自由時間で食事は旅館の食堂にて各自とるようにと言われている。

 

 

 「ね、ね、ねー。おりむ〜、やまし〜」

 

 

 この呼び方は布仏さんだな。振り向くと、異様に遅い移動速度でこっちに向かってきていた。

 

 

 「おりむー達って部屋どこ〜? 一覧に書いてなかったー。遊びに行くから教えて〜」

 

 

 その言葉で周りにいた女子が一斉に聞き耳を立てたのがわかった。……夜は普段以上に注意しないと。

 

 

 「いや、俺達も知らない。廊下にでも寝るんじゃねえの?」

 

 「わー、それはいいね〜。私もそうしようかなー。あー、床冷たーいって〜」

 

 「それだけは確実にないだろう」

 

 

 因みに女子と寝泊りさせるわけにも行かないということで、俺達の部屋はどこか別の場所が用意されている、と山田先生に言われた。

 

 

 「織斑、山下。お前達の部屋はこっちだ。ついてこい」

 

 「えーっと、織斑先生。俺達の部屋ってどこになるんでしょうか?」

 

 「黙ってついてこい」

 

 

 一夏が言論封殺された。俺と一夏の後ろにエンジェロイドの3人がついてくる。

 

 

 「ここだ」

 

 「え? ここって……」

 

 

 ドアに張られた紙は『教員室』と書かれている。

 

 

 「最初は個室という話だったんだが、それだと絶対に就寝時間を無視した女子が押しかけるだろうということになってだな」

 

 

 溜息をついて織斑先生が続ける。

 

 

 「結果、織斑は私と。隣の部屋で山下達は山田先生と同室になったわけだ。これなら、女子もおいそれとは近付けないだろう」

 

 「そりゃまあ、そうだろうけど……」

 

 

 確かに。俺達の為に侵入する愚か者はいないだろう。

 

 

 「一応言っておくが、あくまで私達は教員だということを忘れるな」

 

 「はい、織斑先生」

 

 「はい」

 

 「それでいい」

 

 

 一夏と織斑先生が泊まる部屋の中を覘くと二人部屋なのに広々とした間取りになっていて、外側の壁が一面窓になっている。

 

 

 「一応、大浴場も使えるが男のお前達は時間交代だ。本来ならば男女別なっているが、何せ一学年全員だからな。お前達二人の為に残りの全員が窮屈な思いをするのはおかしいだろう。よって、一部の時間のみ使用可だ。深夜、早朝に入りたければ部屋の方を使え」

 

 「わかりました」

 

 「了解しました。一夏、早く海に行こうぜ」

 

 「おう、そうだな」

 

 

 俺達は一旦それぞれの部屋に入り、必要な物を持って部屋を出る。その後、一夏と合流して海に向かった。

 

 

 

 

 

 「………………」

 

 「………………」

 

 

 千冬さんを除いた先程のメンバーと箒は更衣室のある別館へ向かう途中で出くわした。それはまだいい。

 

 問題は道端に、ウサミミが生えていて、ご丁寧に『引っ張ってください』という張り紙がしてあることだ。

 

 

 「なあ、これって――」

 

 「知らん。私に訊くな。関係ない」

 

 

 言い切る前に即否定。これは何かある気がする。

 

 

 「えーと……抜くぞ?」

 

 「好きにしろ。私には関係ない」

 

 

 そう言って歩き去ってしまう。

 

 

 「ニンフ、そこのウサミミを調べてくれないか?」

 

 「わかった。……変な機能が付いてるウサミミみたい」

 

 「ありがとう。イカロス、ウサミミの地点から上空に向けてHephaistosを」

 

 「了解しました」

 

 

 イカロスが空の女王モードになり、Hephaistosの砲口を上空に向けて撃つと、何かに当たってその何かは煙を上げながら海の方に落ちていった。

 

 

 『………………』

 

 

 取り敢えず、何も見なかったことにしよう。ウサミミを回収して更衣室に向かう。

 

 当然だが男である俺と一夏は別館の更衣室でも一番奥を使用するように言われている。一番奥の更衣室ということは、必然的に女子の更衣室を横切るわけで、中から黄色い声が聞こえてしまう。

 

 

 「わ、ミカってば胸おっきー。また育ったんじゃないの〜?」

 

 「きゃあっ! も、揉まないでよぉっ!」

 

 「ティナって水着だいたーん。すっごいね〜」

 

 「そう? アメリカでは普通だと思うけど」

 

 

 一夏がやや早足で立ち去り、イカロス達とは一つ手前の更衣室で別れた。

 

 更衣室に入ると誰も居なかった。どうやら一夏は着替え終えて海に向かったみたいだ。何をしようかと考えているうちに着替えが済んだ。

 

 パーカーを羽織って浜辺に出ると一夏が鈴を肩車していた。

 

 

 「……何をしてるんだ?」

 

 「何って、肩車。或いは移動監視塔ごっこ」

 

 「ごっこかよ」

 

 「そりゃそうでしょ。あたし、ライフセーバーの資格とか持ってないし」

 

 「うーん、そう言われるとそうか」

 

 

 二人で会話が盛り上がっているので、俺はその場から静かに立ち去る。

 

 特にすることなくウロウロしてたら、セシリアがビーチパラソルとシート、サンオイルを持って俺の方に来るのが見えた。

 

 

 「航さん、此方に居られたんですね?」

 

 「まあね」

 

 「航さんに背中にサンオイルを塗ってもらいたいのですが」

 

 「背中だけでいいなら」

 

 「それでは、お願いしますわね」

 

 

 セシリアはパラソルを広げて砂浜に刺し、シートを敷いて首の後ろで結んでいた紐を解くと、水着の上から胸を押さえてシートに寝そべった。

 

 

 「さ、さあ、どうぞ?」

 

 「じゃあ、始めるぞ」

 

 

 サンオイルを手に取って、温めてからセシリアの背中に塗る。

 

 

 「ん……。いい感じですわ。航さん、出来れば他の所も」

 

 「背中だけの約束だからこれで終わりな」

 

 「残念ですけど仕方ありませんわね」

 

 「それじゃあ俺はこれで」

 

 「ええ、では後程」

 

 

 セシリアと別れて再び歩いていく。

 

 

 「あ、航。ここに居たんだ」

 

 

 声に呼ばれて振り向くと、そこにはエンジェロイドの三人とシャルと――

 

 

 「ん? 誰だ、この暑い中バスタオルに包まっている奴は」

 

 「ほら、出てきなってば。大丈夫だから」

 

 「だ、だ、大丈夫かどうかは私が決める……」

 

 

 バスタオル越しに眼帯とレッグバンドで予想していたが、今の声で確信した。コイツはラウラだ。

 

 

 「ほーら、折角水着に着替えたんだから、航に見てもらわないと」

 

 「ま、待て。私にも心の準備というものがあってだな……」

 

 「もー。そんなこと言ってさっきから全然出てこないじゃない。一応僕も手伝ったんだし、見る権利はあると思うけどなぁ」

 

 

 先程からラウラがバスタオルを取ろうとしない。

 

 

 「うーん、ラウラが出てこないんなら僕も航達と遊びに行こうかなぁ」

 

 「な、なに?」

 

 「そうね。行こう、マスター」

 

 

 シャルとアストレアが腕を絡ませて、ニンフが俺の背中を押そうとしている。

 

 

 「ま、待てっ。わ、私も行こう」

 

 「その格好のまんまで?」

 

 「ええい、脱げばいいのだろう、脱げば!」

 

 

 バスタオルを数枚かなぐり捨て、水着姿のラウラが陽光の下に現れる。しかもその水着というのが――

 

 

 「わ、笑いたければ笑うがいい……!」

 

 

 黒の水着でレースをふんだんにあしらい、髪は左右で一対のアップテールになっている。

 

 

 「……ぷすすっ」

 

 

 アストレアが口に手を当てて密かに笑ったのにラウラが気付いた。

 

 

 「貴様、よくも笑ったな! 待て! 逃げるな!!」

 

 「ぷすすっ。だって笑えって言ったじゃない」

 

 

 アストレアが笑いながら逃げ、ラウラが追いかける。

 

 

 「山下くーん!」

 

 「一緒にビーチバレーしようよ!」

 

 「わー、やましーと対戦〜。ばきゅんばきゅーん」

 

 

 布仏さん達数人の女子に誘われたので受けることにする。一夏も居たので誘われたのだろう。

 

 

 「航も一緒にしようぜ」

 

 「わかった。ラウラ、アストレア、戻って来い」

 

 「はーい」

 

 「うむ」

 

 

 俺の呼びかけに応じるラウラとアストレア。

 

 

 「最初は見るから、エンジェロイドは一纏めにして始めよう」

 

 

 俺の意見を聞いてから手早くネットを広げる女子二名、布仏さんは砂の上にコートの線を引いていた。

 

 始めはネットを広げた二人と一夏VSエンジェロイドの三人。残りのメンバーは観戦することに。

 

 

 「んじゃ、お遊びルールでいいよね。タッチは三回まで、スパイク連発禁止、キリのいい十点先取で一セットねー」

 

 「じゃ、そっちのサーブで」

 

 

 一夏がイカロスにビーチボールを放って渡す。

 

 結果から言うとエンジェロイドチームの圧勝だった。一夏達のチームに反撃を許すことなく、アストレアのミスのみでしか点は入らなかった。

 

 

 「航、あいつら強過ぎだろ」

 

 「あれでも力を抑えているのだが」

 

 

 飛ぶことを許可してないし、本気でしたらボールが破裂してるはずである。

 

 

 「あ、そろそろお昼の時間かな? 航達は午後どうするの?」

 

 「そうだな、少しのんびりする予定だ」

 

 「そっか。じゃあ、お昼に行こ。それと航と一夏は結局どこの部屋だったの?」

 

 「あー、それ私も聞きたい!」

 

 「私も私も!」

 

 「わたしも〜。冷たい床情報は共有しよ〜」

 

 

 布仏さんの言葉に他の人は解ってなかった。

 

 

 「えーと、俺が織斑先生の部屋で航達は隣の部屋だぞ」

 

 

 それまでワクワクとした顔をしていた女子一同は凍り付いた。

 

 

 「だからまあ、遊びに来るのは危険だな」

 

 「そ、そうね……。で、でも織斑君達とは食事時間に会えるしね!」

 

 「だね! 態々鬼の寝床に入らなくても――」

 

 「誰が鬼だ、誰が」

 

 

 ドン! と何か音が聞こえた気がした。一同、軋んだ動作で首を動かす。

 

 

 「お、お、織斑先生……」

 

 「おう」

 

 

 ラウラとは印象が異なる黒の水着を身に纏っている。

 

 

 「ほら、お前達は食堂に行って昼食でもとってこい」

 

 「先生は?」

 

 「私は僅かばかりの自由時間を満喫させてもらうとしよう」

 

 「じゃあ、俺達は昼飯に行ってきます」

 

 「集合時間には遅れるなよ」

 

 「はい」

 

 

 それだけ言ってその場を離れる。ちょうど十二時を過ぎたところなので、俺達以外にも生徒達が移動していた。

 

 

 「昼飯は何が出るんだろう? 海に来てるから刺身が出たりして」

 

 「お刺身! いいね、新鮮なの大好きだよ」

 

 

 シャルはこの様に日本文化にもしっかり適応している。セシリアは驚いて、ラウラは軍での出来事を言っていた。

 

 そういえば、イカロスが撃墜させた物体は海の方に落ちたはずだが見当たらなかったな。

 

 そんなことを考えながら、俺達は旅館に戻った。

 

 

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