スカーレットナックル エンディング 「NEXT STAGE……」 |
エンディング「NEXT STAGE……」
遊園地での戦いが終わった数時間後、朝日駅の改札前の広場……そこでユウキとアツシは身支度を整えて霧雨市行の電車を待っていた。見送りにはクロとミキとめぐみと一葉、そして道信が来ていた。
「てか師匠、霧雨市には帰らないんですか?」
「おう、おめえらに教える事はもうねえし、鍛えがいのありそうな奴見つけたし、ここを拠点にしようかと思う」
「鍛えがいのある奴?」
道信はニヤニヤしながら、隣にいたクロの肩をポンと叩いた。
「おう、こいつ中々見どころがあるからな、ビシバシ鍛えるつもりだぜ!!」
「え」
予想だにしなかった展開に、クロは間の抜けた声を出す。するとユウキとアツシはまるでお通夜のような顔でクロを憐れむような目で見た。
「……大丈夫、死ななきゃいいんだ」
「折角できた弟弟子だけど……あんな過酷な運命を背負わせることになるなんて……」
「え、なんかオイラの了承なくこの人の弟子になる事になっているんスけど? ちょっと?」
目を点にして戸惑うクロを尻目に、ユウキはすぐ傍にいためぐみにあることを問いかける。
「……めぐみさん、正貴君はどうなるんでしょうか?」
「一応組の連中もろとも警察には引き渡したし、私も証言台に立つつもりだが……殺人、麻薬所持、違法賭博……これまでやって来た事の証拠が出れば、極刑は免れないだろうな」
「……」
ユウキは騙されていたとしても、一時的に仲良くなった人間が裁かれる事に少しばかり悲しみの感情を抱いた。
そんな彼に対し、ミキが神妙な面持ちで話し掛けてきた。
「あ、あのユウキさん……借りてたパーカーなんですけど……」
そう言ってミキはボロボロになったパーカー(ほぼ道信の仕業)を畳んでユウキに差し出した。
「あはは、これじゃもう着れないか」
「あの……弁償しますんで……」
「気にしなくていいって、格闘やってれば服なんていくらでもボロボロになるんだし」
「でもそれじゃ……そうだ!」
ミキは何か閃くと、徐に自分の髪を結んでいた黄色いリボンをほどき、それをユウキに手渡した。
「これ、よかったらその手のテーピング代わりにでも使ってください。安物ですけど」
「え、いやでもコレ……」
突然の贈り物にユウキは戸惑う。しかしミキは屈託のない笑顔で自分の黄色いリボンをユウキの手に握らせた。
「ユウキさんのパーカー、いつかちゃんと直して返します。だからそれまで預かっていてください」
ユウキはミキが暗に「またいつか会いましょう」と言っている事に気付き、ニコリと笑ってそのリボンを受け取った。
「わかった……これは預かっておくよ」
いい雰囲気を醸し出す二人をニヤニヤしながら見るアツシら外野。
「ミキィィィィィィ!!!」
その時、そんなピンクな空気を取っ払うような大声が、ドドドドドという何かの獣が群れを成して突進しているような轟音と共に駅構内に響き渡った。
「ん? なんだ?」
「あ、あの声は!!?」
突然、ミキの顔が驚愕に染まる。するとそんな彼女達の元に、両目が蒼く髪は金髪ブロンド、体重が100キロ超えていそうな太めの体型をした白いスーツ姿の女性が、まるで猪のように突進してきた。
「な、何だアレ!?」
「お……お母さん!!!」
「「「お母さん!!?」」」
ミキのお母さん発言に皆の視線が彼女に集中する。そしてミキの母親はそのまま強烈なラリアットを彼女にぶちかました。
「この不良娘がああああああああ!!!」
「ほげえええええ!!!?」
母親のラリアットを喰らってミキは空中で10回転した後、近くの駅弁販売店に頭から突っ込んだ。売店員のおじいちゃんが何が起こったのか解らず口をぽかんと開けている。
「こんな時間まで連絡寄越さず何見知らぬ男とイチャついてんだボケぇぇぇぇぇ!!!」
「なんだこのオーク……?(ぼそり)」
思わず小声で呟く道信、しかししっかり聞かれていた。
「誰が美しいオークだ腐れロンゲがあああああ!!!」
「いやそこまで言ってなゴエエエエエ!!!」
道信は体重100キロ以上はありあそうなミキの母親のドロップキックをまともに受けて、数m後ろにあったゴミ箱に体で床を滑りながら頭から突っ込んでいった。清掃員のおばちゃんが何が起こったのか解らず口をぽかんと開けている。
「し、師匠が一撃!!?」
「つええ!!」
目の前に突然現れ圧倒的な戦闘力を見せるミキの母親に心底戦慄するユウキとアツシ。すると彼女は猫を持つようにボロボロで目を回しているミキの首根っこを掴み、ユウキ達の元に歩み寄って来た。
「すみませんねえお見苦しい所を見せちゃって、うちの娘が何か皆様にご迷惑をおかけしませんでしたか?」
「迷惑どころか……私の娘の恩人ですよ」
めぐみは冷静にこれまでの経緯を説明する。すると説明を聞いた母親はミキの頭を手でグシャグシャと撫で始めた。
「そんな事が……まったくこの子ったら、一人でそんな危ない事して!! ノゾムも心配していたよ!! 次やったらパイルドライバーだよ!!!」
「あううう……ごめんなさい……」
するとミキの母親は優しく笑いながら、自分がやって来た方向を見る。
「心配していたのは私だけじゃないよ! ちゃんとあっちにも謝りな!」
「あ……」
ミキもその方角を見る。するとそこにはシアン色のスポーツ刈りの痩せ細った男性が、車いすに乗ってやって来た。
その男性を見て、ユウキとアツシ、そしてめぐみは察する。
(((アレがレオ五十嵐……)))
現役時代の筋肉旺盛な姿とはまるで違う、ガリガリに痩せたレオ五十嵐の今の姿を見て、ユウキ達は思わず目を背けそうになる。
「お父さん……!」
ミキはそのまま車いすに座る自分の父親の元に駆け寄る。すると父親は、弱弱しくも優しい笑顔を彼女に向ける。
「いい顔になったな……友達でも出来たか?」
「うん! 沢山出来たよ! 友達もライバルも!」
「そうか……」
その笑顔に、ミキもまた笑顔で返す。その光景を優しく見守るユウキ達、その時……駅の構内にアナウンスが流れる。
『間もなく、霧雨市行の列車が到着します。お乗りの方は……』
「お、来たみたいだ」
「それじゃ俺達、もう行くね」
荷物を背負い、駅のホームに向かおうとするユウキ達、するとクロが声を掛けてきた。
「またどこかで会いましょうアニキ達! オイラもそれなりに強くなりますから!」
「うん、クロも元気でね。お父さんも早く良くなるといいね」
そう言ってクロの頭をグシャグシャと撫でるユウキ。すると今度は一葉とめぐみ、そしてミキが話し掛けてきた。
「元気でねお兄ちゃん達ー、今度はお姉ちゃんが勝つから!」
「また遊びに来いよ、怪我したら格安で治してやる」
「金取るのかよ」
「ユウキさん……絶対いつか再戦しましょうね! わたし色んな技覚えてもっともっと強くなりますから!」
「うん、またいつか」
ユウキは差し出されたミキの右拳に自分の右拳をこつんと当てる。恐らく握手代わりの儀式なのだろう。
そして二人はミキ達に見送られながら、自分達の家族が待つ故郷へと帰って行った……。
☆ ☆ ☆
「ただいまー」
「あ、お兄ちゃんお帰り―……ってボロボロじゃない!? また喧嘩してきたの!?」
「あはは……まあなんというかその……」
「そう言えば貴方の留守中にお相撲さんみたいな子が来てたわよ、お友達?」
「す、相撲取り……? 知らないなあ」
☆ ☆ ☆
「敦史、また格闘か……あまり無茶するなよ、天国の兄さんが悲しむからな」
「はい……すみません」
「まあいい、これからお母さんのお見舞いに行くが……一緒に行くか?」
「はい」
☆ ☆ ☆
「まったくこの子ったら、人のトレーニングメニュー勝手に盗み出して鍛えていたなんてねえ!! おまけに危ない事までして!!」
「ご、ごめんなさい!!!」
「でもアンタの熱意は伝わった!! こうなったら私もマンツーマンで鍛えてあげるよ! 覚悟しな!!」
「え、え、え〜!!? さすがに死んじゃうよ〜!?」
「姉ちゃんうるさいよー」
☆ ☆ ☆
「はあ、結局すげー強い二人組っていうのには会えなかったな、まあいい、しばらくこの辺を拠点に……」
「見つけたぞ日吉!! こんな所にいたのか!」
「ゲッ!! 親父!!?」
「今日こそ部屋に帰って来てもらうぞ! それとそのふざけた頭! 刈り取ってくれる!」
「そ、そんなの嫌に決まってんだろ! ふざけんなー!」
「あ! コラ待たんかー!」
☆ ☆ ☆
「いやああああああ!!! 助けてー!」
「あっはっはっは! ほれほれ早く逃げねえと食われるぞー!」
「黒いお兄ちゃん、ワンちゃんに追いかけられてるー」
「アレのどこが強くなるための特訓なんだか……」
☆ ☆ ☆
「姉御! 今度はどこに行きますか!」
「南にでも行ってみっか……」
「南っていうと〜本州? 九州? それとも沖縄?」
「いや、もっと南だ」
「キュキュキュ……どこへ行こうとお供します……」
「ひゃっひゃっひゃ! 今度はどんなごちそうにあり付けるかなぁ!!?」
☆ ☆ ☆
「以上が朝日市で起こった出来事の顛末です」
「道信……最近行方が分からないと思ったら、面白い弟子を育てているようじゃのう」
「それと例の狐面の男ですが、今度はブラジルの空手道場に現れたようです」
「またか、何としてでも奴を捕えんとな……これ以上被害者を出さん為にのう。ワシも本腰を入れるか……」
☆ ☆ ☆
アメリカ、ニューヨークのビル街にある高層ビルの最上階。そこでスーツ姿の男は、部下らしき男から報告を受けていた。
「ふん、三戸部が失敗したか……後で始末しておけ。我々の事を嗅ぎ付けられては困る」
「はっ」
するとその部屋に、狐の面を付けた蒼い拳法着の男が現れた。
「ほう、早いな……もう目的は達したのか?」
「はい」
すると狐面の男の後ろから、背格好は15歳ぐらいに見える灰色の拳法着を着た狼の面を付けた少年と、2m程の大きさがある黒い拳法着を着た熊の面を付けた男が現れた。
「ふん、弟子にまで道場破りをさせるとは……貴様の教育は狂人染みているな」
「そうしなくては強くなれませんから」
狐面の男の代わりに、狼面の少年が答える。それを聞いたスーツ姿の男はハハハハハと高笑いした。
「まあいい、強い手駒は多い事に越したことはない。次の大会でも頼むぞ……」
「はっ」
狼面の少年はぺこりと頭を下げた。その瞳に、まるで足掻いても足掻いても暗闇から這い上がれない、深い闇を内包させながら。
To be Continue?
はい、そんなわけで続編を匂わせながらスカーレットナックルという物語は完結を迎えました。続編ではタイトル変更すると思います。
思えば自身初のオリジナル、もっとやりようはあったんじゃないかという思いはありますが、取り敢えず完結させることが出来て良かったです。
次はスカーレットナックルの続編の構想を練りながら他のものを書こうと思います。既存のクロスのリメイクか、新しいクロス作品か、別ジャンルのオリジナルかは未定です。
なんにせよまずはスパロボUXやバトライドウォー、サモンナイト5クリアしてから動き出します(笑)
では最後に、このような未熟な作品ですが読んでくださった皆様、特に挿絵や表紙絵、そしてブログで一話一話に感想をくださった猫谷園さんには多大なる感謝の気持ちを贈ります。ありがとうございました!!
それとあと一話だけ、TINAMI限定でスペシャルゲストを招いたスカーレットナックル特別編を書こうと思っています。ここまで頑張ったユウキへのご褒美と言う意味で。
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