真・恋姫†無双〜家族のために〜#5一番目の家族
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 −−旅一日目

 

 邑を出て最初にでてきた問題は食料だった。

 幸い、近くの森にいくつかの木の実が生っていたので、それを食べることにした。木の実は簡単に手に入ったがそのまま食べてはいけないと、母様に言われていたことを思い出し、川を探すことにした。

 たまたま歩いた方向がよかったらしく、川はすぐに見つかった。木の実は水で洗い汚れを落とし食べた。川に口を付け喉を潤した。

 

 

 

 −−旅五日目

 

 木の実の取れる量にも限りがあった。そもそもそれほど木の実が生っている木が少なく、また背が低い為に届かないものが多かった。とにかく木に登れないと話にならない。この日から、朝は木の実を探し、昼になったら洗った木の実を食べて腹ごしらえをする。その後はひたすら木登りの練習に時間を使った。

 

 木の実と一緒に大きめの木と葉っぱも捜した。

 大きな木を探したのは寝床にするためだった。これもまた運がよかったんだと思う。川からそれほど離れていない位置に大きな窪みのある木を見つけた。

 今日からはここを寝床にしよう。

 

 大きな葉っぱは雨を凌ぐためだ。こればっかりはいくら探しても見つからなかった。

 どうしようか考えている時、ふと目に映ったものがあった。何かの鳥だった。母様なら種類が分かったかもしれないけど、僕にはそんな知識がないから名前は分からない。

 その鳥は巣を作っていたみたいで、葉っぱや枝を器用に編んでいた。これだと思った。

 僕は一応と思って集めておいた葉っぱを並べ、それからよくしなる枝を探した。それらを組み合わせ大きな笠を作った。見た目はあれだけど隙間はないはずだから大丈夫だと思う。

 

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 −−旅十日目

 

 木の実じゃお腹が膨れない。一刻毎に木の実を食べてはいたが、空腹が我慢できなくなってきた。

 木登りの練習をしているとき、空腹で力が入らなくなって落ちたりもした。幸いそんなに高くなかったから怪我はしなかった。そう、怪我はしなかった……めちゃくちゃ怖かったけどね!

 

 邑では木の実はもちろん、育てた作物、何かの肉も食べていた。

 木の実はある。作物は育て方すら知らない。ならあとは……。

 

 たぶんそのときは間が悪かったんだと思う。

 視線の先には明らかに弱っている兎がいた。足を怪我しているみたいで引きずっていた。

 

 

 ドクン……。

 

 

 視界が赤く染まってくる……。

 

 

 ドクン……。

 

 

 知らず知らずのうちに右手は短刀を握り締めていた。

 

 

 ドクン……。

 

 

 

 

 気が付けば足元には兎だった((肉塊|・・))があった。右手の短刀は切っ先に血が付いていて……。

 あぁそうか、僕はこの兎を殺してしまったんだ……と理解した。

 

 

 

 −−旅三十日目

 

 一つ気付いたことがある。兎などの動物を狩るとき、視界が赤く染まって、普段自分が走るときより数段速く駆け、いつの間にか倒していることが何度かある。狩り以外では特に問題はないし、狩りの時いつもではないから気にしないことにした。

 

 

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 −−旅五十日目

 

 虎だ。子供の虎がいる。

 さすがに虎は食べたことがないし、そもそも食べられるのだろうか……。

 

 息を潜めて近づく。一歩また一歩と。

 あと十歩のところまで近づき、一度止まる。そして一気に駆けた。短刀を持つ右手を力一杯前に突き出し、子虎へと突っ込む。

 

 仕留めた! ……僕は確実にそう思った。しかし僕の予想を裏切り、子虎はすんでのところで横に跳び、切っ先を躱していた。いつからかは知らないけど気付かれていたみたいだった。

 

 そのまま僕と子虎は隙を探り合う……ように見せかけて同時に駆けた。

 

 

 心の臓を狙う僕と、短刀を持つ右手を狙う子虎。ここに差が出た。急所に当てる為に牙を掻い潜らないといけない僕と、むき出しの右手を狙えればいい子虎。

 

 子虎の攻撃が先に届いたのは当然だったのかもしれない。

 

 子虎の牙は僕の右手に深々と突き刺さり、あまりの激痛に短刀を放してしまった。

 でも声は上げるわけにはいかなかった。子虎がいるということは親虎もいるはずだと、頭のどこかで理解していたんだ。

 

 痛みに耐え左手で子虎の口を開こうとした。父様譲りの怪力を出す為に力を込めようとするが、右手が痛すぎて力が入らない。

 

 

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 そんなとき……。

 『ぐぅ』と大きな音が聞こえた。何の音だと辺りを見回していると右手に違和感を感じた。そちらを見ると、先ほどよりも明らかに力がこもっていない子虎の口があった。どうやら、空腹のために力が入らないみたいだった。

 時間が経つ度にどんどん抜けていく子虎の力。僕は思わず笑ってしまった。痛みも忘れて笑ってしまった。

 

 ふと思い立って、左手で服に付いている袋を漁り、お目当てのものを取り出し子虎の前に差し出した。

 瞬間、子虎の眼が輝いた。僕はまた笑った。

 

 通じるかは分からないけど、敵意が無いことを身振り手振りで表すと、通じたのか口を右手から放してくれた。僕は慎重に右手を戻し、左手に持った木の実をそっと地面に置いた。そして子虎から眼を逸らさずに徐々に後ろに下がり、そこで体の緊張を解いた。途端に木の実に噛り付く子虎。その様子を見た僕は、腹を抱えて笑った。

 

 

 

 どれぐらい経ったか、木の実を地面に置いては下がり噛り付き、置いては下がり噛り付く。そんなことを繰り返した僕らは、大きな窪みのある木の前まで来ていた。

 子虎はまだ警戒していたが、僕はもう警戒を解いていた。だってあんなに噛り付く姿を見たらねぇ。

 

 僕は窪みの中に入り、保存してある木の実を取り出してから元の位置に戻った。

 子虎は木の実を食い入るように見つめたまま動かない。

 

 僕はその場にいくつかの木の実を置いて、今度は下がらずに食べ始めた。見せ付けるように。

 警戒を解かない子虎は、置いてある木の実を食べたそうに見つめているが、僕が下がらないため近づいてこない。そんな子虎を見て笑いつつ、後ろを向く。木の実はそのままにだ。

 

 しばらくすると子虎がこちらに近寄ってきた。ゆっくりとゆっくりと、警戒しながら。

 

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 木の実を食べる音が聞こえた。多分一度離れてから食べているんだと思う。

 食べ終わってからまた近づいてきて、一個取っては離れて食べる。そんなことを三回ほど繰り返し、四個目の木の実を取ろうとした瞬間、僕は振り返り子虎を抱き上げた。

 子虎はすごく抵抗したが、口元に木の実を寄せると大人しくなった。まだ警戒はしていたが空腹には勝てなかったらしく、手のひらに載せた木の実を大人しく食べていた。ちゃんと僕の手を傷つかないようにだ。

 

 取り出した木の実をあらかた食べ終わり子虎を下ろそうとすると、いつの間にか一切の抵抗が無くなっている事に気が付いた。見ると子虎は僕の腕の中で眠っていた。

 なるべく動かさないように移動し、僕は木の窪みの中に入った。子虎を抱きかかえるようにして、そういえば今日は木登りの練習をしてないなと思いながらも、僕は眠りについた。

 

 

 翌朝、目が覚めると腕に抱いていた子虎は僕の隣に立ち、じっと僕を見つめていた。正確には僕の右手をだ。視線には気付いていたが知らない振りをし、木の実を探す準備を始める。

 時折噛まれた右手が痛み顔をしかめるが黙々と準備をする。すると、じっと見つめていた子虎が近寄ってきて、僕の右手の傷を舐め始めた。試しに右手を少しずらす。子虎も動いてまた舐め始める。

 

 右手をそのままにするわけにもいかず、川へ向かっていくと子虎もついて来た。

 

 

 

 その日から僕と子虎は共に過ごすようになる。

 いつまでも名前がないのは不便だと思い、僕は子虎を『((空|くう))』と名付けた。

 

 

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【あとがき】

 

 

あとがきのようなものを書いてみることにしました。ということで

 

初めまして 九条 です。

 

 

見切り発車で始めたこの作品。ここまで読んでいただいてありがとうございます。

 

あと一話ほど森の話をするか悩んでますが……今日中には次の話を投稿する予定ですので

お楽しみに!

 

 

 

子虎の名前ですが

空腹で仲良くなったからそんな名前になった訳じゃありません。

ほんとです。信じてください。

 

 

 

今回の話を投稿してから、全話修正を行いました。

具体的には『・・・』が『……』になってます。

それ以外は変更していませんので、再度見る必要はないかと思います。

 

 

それでは次回もお楽しみに!

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