天の迷い子 第十七話 |
Side 流騎
ああ、腹減った。
街道を歩きながらそんな事を考える。
水関で斬られた傷がジクジクと痛んだ。
(董卓軍は敗北、か。あの戦況じゃ仕方ないけど。遼姉達は問題無いとして、仲頴達は無事なのかな?文和が何とかしてくれてるとは思うけど。しかし、あんなひどい傷が一月足らずでここまで治るなんて、神医ってのは伊達じゃないんだな。)
水関から離れた後、重傷を負った俺は近くの洞穴に身を隠し動けないでいた。
戦場から一緒に逃げてきた姜維(今は伯と呼んでいるが)が、食料と水を確保してくれてはいたけど、このままじゃ野垂れ死ぬのは目にみえていた。
洞穴に隠れて五日目の朝、たまたま華佗が通りがからなければそうなっていただろうな。
治療の後、動けるようになるまで華佗の所に厄介になって、その間にもいろいろあった。
五斗米道(ゴッドヴェイドー)の発音の良さを華佗に褒められたり、二人の漢女、貂蝉と卑弥呼に怯えた伯が、二人に殴りかかったり。
特に俺にとって良かったのは、華佗に氣というものの手解きを受けた事だ。
ただ、俺には氣の通り道である氣脈というものが、普通の人の十分の一程しかなく、習得するのにとても時間がかかるらしい。
きっと元の世界に氣という概念がほとんど無い所為だろう。
華佗の指導の下、ほんの少しずつ氣脈の拡張訓練(ほとんど氣というものが無かった為、最初は華佗に無理矢理氣を籠めてもらい拡張した)をしてやっと普通の人並み程度のものにはなったみたいだけど、氣を運用するには程遠い。
まあ、地道にやるさ。
拡張訓練って、元々定まっているものを無理矢理広げるから、ものすっごく痛いし…。
骨延長手術ってこんな感じなんだろうか?
「流騎、町が見えたッスよ。」
考え事をしながら歩いていると、いつの間にか目的地に到着していた。
「ああ、本当だ。…でもなんか様子が変じゃないか?静かすぎるというか何というか。…嫌な予感がする。」
「う〜ん、そう言われればそんな気もするッスね。まあ取りあえず行ってみれば分かるッスよ。」
「そうだな…って、何があるのか分かんないのに先走るなって!おい!伯!!止まれえぇぇええええ!!!」
で、こうなるのな…。
「や〜、失敗したッスね〜。参った参った。」
「…明るく言っても現状は変わんないからな。だから待てって言ったのに。」
俺達は町のはずれにある民家の納屋に、両手両足を縛られて転がされていた。
全力で走って行った伯に追いついたその瞬間、町を占領していた盗賊達に囲まれ、殴られ、拘束された。
はあ、なんて間の悪い。
「ごめんなさいッス…。そうだ、氣を練って縄をブチーンって引き千切るとか出来ないッスか?」
「出来てりゃ始めっからやってるよ。」
「ッスよねえ。」
恋や雄姉なら出来そう、てか出来るだろうけど。
さて、と俺は部屋の中を見わたしてみる。
置いてあるのは木材や縄、莚など。
現代みたいに硝子の空き瓶なんかが落ちてればいいのに、とか考えても仕方ないよな。
コッ、と指先に当たったのは欠けてささくれた木屑。
よく見れば他にもいくつか落ちている。
「取り敢えずこいつで何とか縄を切るしかないか。」
「うわぁ、気の長い話ッスねぇ。」
「つべこべ言うなって。他に無いんだから黙ってやれ。」
「うい〜〜ッス。」
二人でカリカリ縄を削る。
カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ
やべ、手がめっちゃ汗ばんできた。
カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ
あ〜、腕だるい。
カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ
ちょっと休憩しようかな?
「ぐあぁぁああああああああ!!!!イライラする!!!!いい加減切れろッス!!!!」
「うっさい!騒ぐなっての!」
「だってすっげえイライラするッスもん!仕方ないッスよ!」
「ホント緊張感って言うか、危機感無いよな、お前。」
「そりゃあまあ、あん時と比べたら全然大した事無いッスから。」
あの時?
「ん?昔何かあったのか?」
俺が尋ねると伯は非難を籠めた眼で睨んできた。
「ひっでえ!この人完全に忘れてるッスよ!」
「えっ?」
「洛陽!貧民街!まさか本当に忘れたんッスか!?」
洛陽?貧民街?
…………あっ!?
「あぁぁああああ!!もしかしてあの時の子供か!?雰囲気も言葉遣いも背の高さまで違うから全然分からなかった!!」
「そうッスよ!ようやく思い出したッスか!?」
「思い出した!どうしたんだよ!まるで別人じゃないか!」
「あの後、董卓様に保護されて、仕事と住む所を貰ったんス。んで仕事してちゃんとした飯を食って、ちゃんとした生活をしてたら一気に背が伸びたんス。言葉は兵士になるなら敬語くらい使えなきゃと思って頑張って覚えたんッスよ。」
全く敬語では無いけど、まあ、口には出すまい。
「そうならそうと早く言ってくれればよかったのに。」
「言う機会が無かったんスよ。調練やらなんやらで。」
「そりゃ仕方ないなぁ、はっはっはっはっ!」
「そうなんスよ、あはははは!」
「「って笑って場合じゃない(ッス)!!」」
「…お兄ちゃん達なんか余裕だね。」
背後から聞こえてきた声に振り向くと、子供が一人立っていた。
歳は十歳くらいだろうか?
少年の手には小刀が握られていた。
「君は?」
「僕の名前はユウ。お兄ちゃん達の縄を切ってここから逃がしてあげる。だから、皆を助けてよ。」
「助けろって言われても、俺達だけじゃ連中をどうこうするなんて出来ないぞ?せいぜい近くの軍に助けを求めに行ってやるくらいだ。」
「そうッスよ。オイラ達は一人で百人ぶっ飛ばせる豪傑って訳じゃ無いんスよ?まあ助けてくれるのは嬉しいッスけど、出来ることは限られてるッス。」
「うん、だからさ、あいつらに捕まってる僕の友達だけでも先に助けて欲しいんだ。」
「友達?」
詳しく聞いてみると、盗賊達が町を占領した時、この子達はちょうどかくれんぼをして遊んでいたらしい。
ユウは偶々遠くに隠れていたおかげで捕まらなかったが、一緒に遊んでいた友達は奴らに捕まってしまったという。
その子たちを含めた子供達は、町の中央にある酒場に監禁されていて、近いうちに人買いに引き渡されるらしい。
だから、早く助けないといけないと考えたという。
「う〜ん、事情は分かったけどいいのか?子供が逃げた事が分かったら、あいつら町の人達をひどい目に合わせるかもしれないぞ?」
「あっ!?」
「最悪殺されてしまうかも知れない。それでも友達を優先するか?」
「………。」
ユウは顔を真っ青にして俯いてしまった。
きっとそこまでは考え付かなかったんだろう。
きつい事を言ったかもしれないけど、事実である以上知っておかないと、後で後悔するのはコウ自身だ。
「…そんなに深刻にならなくてもいいと思うッスよ?」
口を開いたのは伯だった。
「その子達は多分今回の襲撃の戦利品の中で一番重要なものッス。だからそれを探す為に確実に多くの人を割くッスよ。そんで子供だけで逃げるのは無理だから必ず協力者が居ると考えるはずッス。それは…。」
「そうか。すでに軍に報告がいっているかもしれないと奴らは考える。だから、もしそうなった時、人質にできる町の人達を簡単に殺すとは考えにくいって事か。」
「そう言う事ッスよ。」
俺達の話を聞いて、希望が湧いたのかユウは顔を上げる。
「でもそれは全部上手く成功した時だけだぞ?それでもいいのか?」
ユウは数十秒考え、こくりと頷いた。
「お願い、皆を助けて…!」
怯えも迷いもその眼には籠められていた。
けれどそれでも助けたいという想いも確かにそこには存在していた。
本当なら町の人全員を助けたいはず。
きっと両親も捕まっているんだろうし。
でも子供なりに考え、差し迫っているのは友達の方だと判断して、覚悟を決めたんだろう。
「わかった。ユウ、お前に協力する。縄を解いて、そこまで案内してくれ。」
Side 公孫賛
反董卓連合が解散して約一月。
洛陽の民の慰撫や諸々の雑事を片付け、ようやく我が家である幽州に戻ってきた。
「はふぅ〜。」
ドサリと私室の椅子に倒れ込む様に座り、大きく息を吐く。
疲れた。尋常じゃないほど疲れた
洛陽の民からはものすごく睨まれるし、袁紹と袁術はそんなことお構い無しで張り合って大騒ぎするし。
ほんと、疲れた。
もう今日は仕事したくない。
少し休んだら町にでも出てみようか。
今回の戦は、心に棘のようなものを残した。
それはきっと私だけじゃなく、兵達も同様だろう。
結論から言えば、董卓の暴政なんてものは無かった。
むしろ、前に私が洛陽に行った時よりもはるかに整った町になっていた。
董卓は袁紹や他の諸侯達の権力争いに巻き込まれたんだろう。
間違いなく私達が悪だ。
しかも董卓は自害。屋敷に火を放ち、外見が分からなくなるほど焼け爛れていたらしい。
同じ女として、本当に不憫な最後だと思う。
この上ない程後味の悪い戦いだった。
半刻程部屋で休憩した後、私は街に散歩に出かける事にした。
街はとても賑わっている。
この街はそれほど大きな町ではないが、自分で言うのもなんだけど、とても活気のある町だと思う。
活気だけなら袁紹や、曹操の町にだって負けないだろう。
「おう!伯の嬢ちゃん!元気ねえなあ!何なら飯でも食ってくかい!?」
「あら、伯珪様。こないだうちの旦那がぎっくり腰になっちまってねえ。」
「こーそんさんさまだ〜!あそんで〜!」
少し外を歩くだけでも色んな人に声をかけられる。
皆笑顔だ。
やっぱり我が家は落ち着くと改めて思う。
よし、少しずつやる気が湧いてきた。
この笑顔を護る為にも、落ち込んでばかりはいられない。
今日はしっかり休んで、明日からまた頑張るぞ!!
ん?城門の方が騒がしいな。
何かあったのかもしれないな。
私は城門へ足を向ける。
「どうした?何かあったのか?」
人をかき分け、門兵に訊ねた。
「あっ!?公孫賛様!今この者が報告してくれたのですが、ここより北に三十里程の所にある町が、賊に占領されているようです。この者は命からがら逃げ延び、軍に助けを求めるため昼夜を問わず走ってきたと。」
「何!?わかった!すぐに部隊の準備をさせろ!私の家を荒らす奴らは許してはおけない!騎兵を五百、いや、三百でいい!準備が出来次第出発する!」
くそ!私が留守にしている間に勝手なことを!!
この幽州に住む民は皆私の家族も同然だ!
その家族に手を出した事を後悔させてやるぞ!
「よし!準備は出来たか!?民草を守り、賊共に罪の重さを思い知らせてやるぞ!!さあ、出陣だ!!」
高らかに声を上げ、愛馬を走らせる。
待っていろ、必ず助けてやるからな!!
Side 流騎
「…ここだよ。」
「う〜ん。出入りしてる数を見る限り、そんなに厳重に警備してるって訳でも無いみたいッスね。」
「ああ、相手は子供だし他の大人達も別の所に監禁してるなら、そう人数を割く必要は無いって思ってるんだろ?好都合じゃないか。」
でもグズグズはしてられない。
武器を取り返す時に気絶させた盗賊を縛って部屋に放り込んでおいたけど、ばれるのは時間の問題だ。
現在、時間は夜。
普通なら、闇に紛れて救出って事になるんだろうけど、生憎俺も伯もそんな技量は無い。
なら、夜のうちに子供達を確保して、酒場にいる見張りを排除。
外が白んで来たら十数人ずつ外にこっそり連れ出す、ってのが一番成功率が高いか。
「…って感じで行ってみるか。」
「ッス!」「うん!」
俺達は、息を殺して酒場に入り込んだ。
まず、子供達の監禁されている場所を探しながら、見張りを一人一人無力化していく。
そして、見つけた子供達に事情を説明した後、改めて酒場の中を見回り、全ての見張りを排除した。
「シュウ!トウ!スウ!」
「ユウ!助けに来てくれたのか!?」
「ユウちゃん!怖かったよ〜!」
「ユウ君!無事だったんだね!」
ユウと、おそらく言ってた友達だろう三人が抱き合って互いの無事を確かめ、喜び合っている。
その光景を微笑ましく思いながら、俺と伯は周囲を警戒した。
子供の数は七・八十人ぐらいかな。
やっぱり一度に連れ出すには多すぎるか。
ただ、周りを見ていると、違和感があった。
「あれ?そういえば、五・六歳くらいから下の子供が見当たらないけどどうしたんだ?」
疑問に思った事を尋ねると、一番年上であろう少年がおずおずと口を開いた。
「ここにいる子達より小さな子達は、別の場所にお母さん達と捕まっているんです。えっと、あいつらの話を盗み聞きしたんですけど、あまりに小さい子供は、んっとじゅよう?が無いかもしれないから、もし売れれば良くて、売れないと、その、こ、殺しちゃうって言ってました…。」
「なるほどな。この場にいないんじゃどうしようもないな。とにかく君達を助けてからそっちは考えるしかないかな。」
「ッスね。何とか時間稼ぎして、近くの軍に助けを求めるしか無いと思うッスけど。」
「…そろそろ夜が明けそうだな。じゃあ説明した通り、六組に分けて逃げるぞ。出来るだけ静かについて来い。」
足音を忍ばせ、声を潜め、ゆっくりと進む。
一組、二組、と順調に連れ出す事に成功。
「やっぱり思った通りッスね。盗賊達は朝が遅いッス。特に昨日は町の襲撃に成功して遅くまで飲んでたはずッス。起き出すのにはまだ時間があると思うッスよ。」
その言葉通り、盗賊達はほとんど見張りも立てず、ぐっすり眠っているようだった。
上手く五組目までを脱出させ、残りは一組。
朝日はすでに昇っていた。
「お前達が最後だ。さあ、行くぞ。」
手を振って合図を送り、最後の子供達を誘導する。
「流騎さん、姜維さん、僕の我儘を聞いてくれてありがとう。」
「お礼は後ッスよ。早く逃げないと、そろそろ時間的にやばいッス。」
そうだ。日の光で早く起き出してくる奴もいるかも知れない。
「…よく解ってんじゃねえか。だったら、世の中そう上手くはいかねえって事も解ってんよなあ?」
酒場を出た所を三十人ほどの盗賊に包囲されていた。
頭目らしき男の横に、俺達の見張りをしていた奴らがいた。
「へめえら、昨日はよくもやっれくれらな!わかっれんらろうな!ぶっ殺ひてやる!!」
物凄い形相でこちらを睨み、大声で怒鳴る。
…しかし、前歯が無くて、唇がパンパンに腫れ上がった状態でスゴまれてもなあ。
呂律も回ってないし。
「いや、その顔でスゴまれても恐怖より笑いしか込み上げてこないッスからね?間抜けっぽいッスよ?」
「ふらけやがっれ!なめんれんじゃねえ!!」
顔を真っ赤にして男は身構えた。
「流騎。剣、抜くッスよ?子供に血を見せたくないとか言ってる場合じゃ無くなって来てるッスからね。」
「…わかった。流石に命には代えられない。文字通り、切り抜けるぞ!」
「ういッス!!」
言うが早いか、伯は前に出てきていたその男を一息に斬り捨て、敵に風穴を開けるため、突貫した。
敵が驚き、困惑している間に俺が野太刀でその穴を広げ、包囲を抜ける。
「ぼうっとしてんじゃねえ!さっさと捕まえろ!!寝てる連中も叩き起こして来い!囲んでやっちまえ!!」
だんだんと敵が増えていく。
徐々に囲まれ始めている。
まずい!このままじゃ数で圧されてやられる!
気を逸らしてしまった瞬間、賊の一人が子供の腕を掴む。
「やだぁぁぁああああ!!!!」
「うるせえ!!大人しくしやがれ!!ぶっ殺すぞ!!」
その声を聴いて、前の敵を牽制し走る。
すると
「〈ガブッ!!〉ぐあぁぁっ!!てめえ、何しやがる!!」
「っぐぅぅうう!!!〈ゴッ!〉あぐっ!スウを放せよ!お前!!」
ユウがそいつに噛みついていた。
その隙に距離を詰め、顔面に蹴りを叩き込む!
「〈ゴキッ!〉ぶへあっ!!」
蹴りの勢いのまま壁に頭を打ち付け、動かなくなった。
俺はちらりとユウを見た。
殴られて鼻血を流していたけど、それでも俺に向かってこくりと頷く。
心配すんなってのか。
「…やるじゃん。」
口の端を僅かに吊り上げて、一言だけ告げる。
そうしてまた敵の群れに突っ込んだ。
Side ???
薄暗い部屋の中で俺達は身を寄せ合っていた。
つい数日前、盗賊共が攻めてきてあっという間に町を占領された。
抵抗した者達はことごとく殺され、若い女と子供は別々に監禁されている。
男衆も子や妻、恋人、親を人質に取られているようなもので、もはや反抗する気力も失っていた。
時間は早朝、いつもなら畑仕事に精を出している時間だ。
普段からの習慣というか、ほとんどの者は起き出している。
「……っと……じゃ…え!………ろ!!寝て……して来い!……ちまえ!!」
……?なんだか、外が騒がしい。
そっと立ち上がり窓から外を窺う。
見えたのは、十数人の子供達が盗賊共に追いかけられているところだった。
なんでこんな事になってるんだ!?
先頭と最後に走っている二人は見たことが無い少年だった。
一人は槍を、一人は曲刀を持っていた。
そういえば昨日たまたま町を訪れた旅人が捕まったって聞いたな。その子達か?
どちらも十五・六かそこらの子供じゃないか!
少年達は剣を振り、盗賊達に対抗している。
多少の武芸の心得はあるようだ。
でも、多勢に無勢だ。
しかも十人以上の子供を護りながらじゃすぐにやられてしまうだろう。
ぐっ、と拳を握りしめる。
出来るなら無事逃げ延びて欲しい。
ジワリと掌に汗がにじむ。
二人の少年は致命傷こそ負っていないが、細かい切り傷が沢山ついている。
血も多く流れていた。
「やだぁぁぁああああ!!!!」
いつの間にか近寄っていた盗賊の一人に女の子が捕まっていた!
だがそれに気付いた少年が男の腕に噛みついた。
殴り飛ばされるが、駆け付けた曲刀を持った少年が男を蹴り飛ばし女の子を助け出す。
ぼそりと何かを呟き駆けていった。
それを聞いて立ち上がり、女の子を助け起こす少年は
「ユウ!!」
行方が分からなくなっていた自分の息子だった!
生きていたのか!?何故こんな所に!?早く逃げろ!!
色んな思いが溢れ出す。
だがユウはそんな事は知らず、仲間達を護るようにその背を押す。
それを護る二人の少年は最早疲労の色が隠せず、相手の攻撃を受ける数が多くなって来ていた。
護りを抜ける敵も多くなり、その度に少年達は、時に切り倒し、時に防ぎ、時にその身を盾にしていた。
何故そこまで?
そんな思いが頭をよぎる。
分かるはずが無い。
だが、なんとなく理由なんてもうどうでもいいのかも知れないと思った。
ただ決意と覚悟をしただけなのだと、彼らの眼が告げた気がした。
トン、と肩に何かが当たった。
隣を見るとほとんど全員が窓に張り付き、事の成り行きを見守っていた。
曲刀の少年の背を見る。
傷だらけだ。
その傷一つ一つが護る為の傷だと瞬時に理解した。
槍の少年の槍はもう折れそうになっている。
しかし、その心はまだ折れていない。
曲刀の少年は敵にぶつかるように剣を突き立てる。
槍の少年はふらふらと揺れながら槍を構える。
護りを抜けた敵がユウに迫る!
逃げろ!声にならない声を出す!
ブワッ、と黒い何かがユウに覆いかぶさる。
曲刀の少年だった。
背中を切り裂かれる。
ユウが叫ぶ。
槍の少年が敵を突く。
曲刀の少年は立ち上がり再び敵に向かって駆けだした。
ああ、熱い。
掌が、顔が、胆が。
心が、熱い。
ジワリジワリと掌が汗で濡れる。
俺は手を開いた。
空気に触れ、手の熱が逃げる。
だが、だめだ。
熱い。
俺は、いや、俺達は、開いた手を再び握った。
Side 流騎
まずい、血を流しすぎた。
背中の傷が熱を持ってる。
なのに身体から体温が逃げていく。
くそ!諦めてたまるか!!
皆に会うまでは、絶対死んでやらない!!
そう思うと、力が湧いてきた。
でも、やっぱり限界ってものはどうしてもあるんだな。
俺も伯ももう立ってるのがやっとで、辛うじて武器を落とさないでいられる状態だった。
じわじわと包囲が狭まってきていた。
その時。
ぶわぁっ!!と何か熱風のようなものが辺りを包み込んだ。
『おぉぉああぁぁぁああああああ!!!!!』
雄叫びと同時に敵の後方が吹き飛んだ。
そこには、おそらくこの町の人達だろう男達が、木材を、石を、それこそ武器とも呼べない様な物を手に突進してきていた。
その形相は、まさに鬼。
「俺等のガキに手ぇ出してんじゃねえ!!糞野郎どもが!!」
「もう我慢の限界だ!覚悟しろや!!」
子を護る鬼だった。
その姿に盗賊達は怯み怯える。
「て、てめえら、人質が、このガキ共がどうなってもいいのか!?退がれ!退がれってんだ!!」
怯えながらも頭目は叫ぶ。
「あんた等全員ここに集まって来てるだろ?この子達は俺達が護ってる。それじゃあ脅しにならないぜ?」
「う、うるせぇ!!」
俺が指摘すると、頭目は狼狽え叫んだ。
「…よそ者が子供等護って血を流してんのに、いつまでもびびって言いなりになってるような情けない姿晒せるか!!」
「そうだ!自分の子は、自分の町は俺達が護るべきだろうが!!」
「今命張らねえで、いつ張るってんだ!!」
口々に思いを叫ぶ。
その声には、強い氣が混じっていた。
「あんた等、悪かったな。二人だけに戦わせて。俺等も腹くくった!あんた等の背中に覚悟を貰った!!もう逃げやしねえ!!」
男達の声に混じった氣が俺達を満たす。
強い意志を持った熱いものが流れ込んできた。
これならまだ戦える!!
「わかった!共に戦おう!!突き崩せ!!食い破れ!!もう俺達は、奪われるだけの弱者じゃない!!!」
『うおおぉぉぉぉおおおおおお!!!!!』
さあ!反撃の時間だ!!
この町の男達が共に戦い始めてから約半刻。
勢いと士気だけの攻勢も限界が見えてきた。
士気だけで長い間戦える訳が無い。
それどころか、感情が昂っているだけに、全員が全力。
ばてるのも早い。
ここらへんで、何か工夫しないと形勢が逆転するかも知れない。
「皆、聞け!周りの人間と組みになって、三人以上の人数で敵一人に当たれ!!倒せなくてもいい!相手を押し留めることに力を注ぐんだ!!後は俺と伯が仕留めて回る!!伯、頼めるか?」
「しんどいッスけど、オイラ達しかやる人間いないッスからね。」
言って俺は左に、伯は右にそれぞれ散っていく。
こっちがわずかに勝る数を頼りに敵を抑え、それを二人で一人ずつ確実に屠っていく。
「はぁ、はぁ、まだ百人五十以上はいるか。先は長いなあ。」
ざっと様子を見て、敵の残数を確認していると
「〈ヒュッ!ザゴンッ!〉うおっ!あぶね!なんだ!?」
「ちっ、上手く避けたな。てめえがこいつらに指示出してんの見てたぜぇ。てめえが実質こいつらの頭ってわけだ。てめえをぶっ殺しゃあ連中の士気も落ちる。まあ取りあえず死んどけや!!」
剣を振り上げ盗賊の頭目が迫ってくる。
190センチ以上ありそうな巨体で、体に見合う大きな剣を手にしている。
流石にその圧力は相当なものだったが、恋や遼姉達と曲がりなりにも鍛錬し、あの趙子龍と対峙した経験から、冷静に対処し、受け流す。
胆力では負けていない。
力では相手が勝っている。
速さはわずかに俺。
こいつを倒せれば、流れは一気にこちらに傾くだろう。
逃げるわけにもいかないし、やるか。
じり、と摺り足で間合いを詰める。
体力的に相手と何度も打ち合うのは厳しい。
と考えているうちに、男が打ってきた。
力を込めた打ち下ろしの一撃。
斜め後ろに退いてかわす。
それを俺の弱気と取った男は、激しく連撃で攻め立てる。
相手の撃を紙一重でかわしながら好機を探る。
何度か避け、いなしていると、当たらないことにイラついたのか、両手で剣を持ち、渾身の横薙ぎを放ってきた。
俺は大きく飛びのくと、後方にあった小石につまずいて見せた。
男はギラリと眼を光らせ、獰猛に笑うと、脳天に目掛けて剣を叩き付けた。
瞬間、つまずいたふりで下げた左脚を蹴り、右肩を軸に斜め後方に転がる。
その反動を利用し、思い切り地面を踏みしめ一歩を踏み出し、体幹をぶらさず一切の無駄無く刀に乗せる。
正直、ここまで綺麗に力を乗せることが出来たのは初めてかも知れない。
バスンッ、という音がして、相手の腹を切り裂いた嫌な感触が伝わる。
「おあっ!ぐっ!はぁっぐ!!」
ぼたぼたと血を流し、男は膝をつく。
俺は止めを刺すために剣を構えた。
それを見た男の眼に恐怖が映った。
「ひっ!や、やめ、やめてくれ!助けて!!」
「今更命乞いなんてするな!見苦しいぞ!」
血を垂れ流しながら、男は這いずって逃げようとする。
その後ろから、人影が近づいてきた。
その影を見た瞬間から身体が動かない。
何かが警鐘を鳴らしているような気がする。
ドン、と男が影にぶつかる。
「ひへ?」
「ってぇな。んだよ、死にぞこない。」
ギロリと影の主は男を睨む。
「…っ!!?ひっ!!かっ!?けはっ!!?」
離れているのに身動きをすることすら出来ない圧力。
殺気でも怒気でもなく、ただただ純粋な力の波動だった。
眼だけで辺りを見渡すと、一切の戦闘が止まっていた。
これだけの圧力を間近で直接受けている男は、もはや呼吸困難に陥っていた。
「邪魔だ。とっとと死ね。」
「〈ボグンッ!!〉けぴゅっ!!」
無造作に出した一発の蹴りで男の首は千切れ、二十メートル以上飛ばされていた。
「ったく。ん〜?あ〜、これじゃ飯は食えねえなあ。他当たるかぁ。」
そう言い残し、影の主は立ち去ろうとする。
しかしふと足を止め、ちらりとこちらに目を向けるとこう言った。
「…雑魚同士の戦いの割にはまあ楽しめたぜ。」
初めてその時影の主の顔をまともに見ることが出来た。
髪は輝くような白髪を後ろで括り(多分肩くらいの長さだろう)、瞳の色は黄金色。
そして二メートルを超える大剣を肩に担いでいる。
自信に満ちたその顔は、傲岸不遜を絵に描いた様な笑みを浮かべていた。
しかし、顔つきはまだ幼さを残していて、俺とあまり変わらない年頃のようだった。
そして、踵を返すと今度こそ本当に去って行った。
「…っぶはぁ!!なんだあれ、なんだあれ、なんだあれ!!?恋以外にあんなのが居るのかよ!?」
一瞬で理解した。
あれは化け物だ。
多分関雲長や夏候元譲ですら十合交えるので精一杯だろう。
戦いになるのは恐らく恋くらいだ。
周りでは、あの氣勢にあてられた人達が、敵も味方も同じように膝をついている。
きっともうしばらくは皆動けないだろう。
少しして、町の南の方に砂塵が見えた。
「流騎、あれ見たッスか?」
いつの間にか隣に伯が座っていた。
「あの砂塵だろ?旗が上がってるけど、伯見えるか?」
「ん〜、公孫って書いてあるッス。」
公孫……ああ、公孫賛か。
なら後は任せても大丈夫だな。
盗賊達も頭目が倒されたショックと、あの氣勢で抵抗する気力もないみたいだし。
戦闘のどさくさに紛れて逃がしたから子供達も無事だろうし、何とか約束は守れたかな?
Side 公孫賛
報を受け、馬を飛ばし、占領されたという町に着いてみれば、どういう訳か民も賊も皆膝をついていた。
取り敢えず私は兵に指示を出し、盗賊達を拘束した後、事のあらましを町の人々に聞いてみることにした。
数日前に盗賊達に占領され、女子供を人質に取られ、男達も対抗できずに捕えられた。
そしてつい昨日、偶然この町を訪れた二人の旅人が運悪く捕まったが、上手く抜け出し、子供達を助けようと動いたらしい。
その行動を見て火のついた町の男達が彼らに手を貸し、盗賊達と戦った。
旅人の一人が盗賊の頭目を倒した直後、誰かが現れ、謎の悪寒に襲われた為、全員動く事が出来ずにうずくまっていたという。
人質になっていた子供達は、近くの森の中に逃がしたと言うので、兵達に保護するように命じた。
居合わせた旅人って言うのは何所にいるんだろう?
領民を護ってくれた礼を言いたいんだが。
広場の隅で女性達に治療を受けている二人の男がいた。
きっと彼等だろう。
「やあ、お前達が町の者が言っていた旅人か?」
「ん?そうッスけどあんた何者ッスか?」
小柄な方の少年が訊ねる。
「ああ、すまない。私は公孫賛、字は伯珪だ。幽州の州牧をしている。今回の件で礼を言いに来た。我が領民を、家族を救ってくれてありがとう。」
私は、心からの感謝を込めて、頭を下げた。
「あんたが…。別に礼なんかいらないよ。俺達はユウって子に助けられて、その代わりに頼みを聞いただけだ。そういう意味じゃ、お互いに助け合った訳だからな。礼は必要無いだろう。」
「それに、敵だった奴に頭なんて下げて欲しくないッスよ!」
小柄な少年はそう言って、キッと私を睨む。
敵だった?どういうことだ?
「伯!ごめん、意味が分からないだろうな。…俺達は董卓軍の人間だ。」
「なっ!?」
ひやりと頭の芯が冷えた気がした。
「董卓軍の…。そうか…。」
「俺達を捕えるか?董卓軍の残党と…「本当にすまなかった!!」し、て?…………は?」
私はさっきよりも深く深く頭を下げた。
彼らも周りの者達も唖然としている。
意味を理解できているのは兵達だけだ。
「洛陽の様子をこの目で見た!董卓の暴政って言うのは袁紹がでっち上げた嘘だった!それを見抜けず罪もないお前達に刃を向けてしまった事を本当に申し訳ないと思っている!!…許される事じゃないのは重々承知している。だがそれは謝罪をしない理由にはならない。殴って貰っても構わない。お前達が私を恨むのは当然だからな。」
じっと地面を見つめる。
ざっ、ざっと足音が私の目の前で止まった。
ふうっと一つ息遣い。
私は目を閉じる。
こつん
頭に拳を乗せられた。
「…口には出さなかったけど、こんな時代だ、出る杭は打たれるって覚悟は、仲頴もしてたはずだよ。そりゃあ、恨みも何もないって訳じゃ無いし、簡単に許すなんて絶対に言えないけど、そんな風に真っ直ぐ、真剣に、迷いなく謝ってくれたあんたを嫌いになんてなれないよ。俺も、きっと仲頴も。もういいから頭を上げてくれ。」
すっと手がどかされる。
「って事でいいか?伯。」
「はぁ。しゃーないッスね。言葉に嘘が無いって分かっちゃったッスもん。オイラも嫌いにはなれそうに無いッス。」
言葉がじわりと心に沁みこむ。
いつの間にか涙が溢れていた。
「ありがとう。ありがとう。ありがとう。………。」
私は、何度も何度も礼を言っていた。
熱い涙を零しながら。
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皆様、お久しぶりです。 前回の投稿からかなり間が空いてしまいました。 へたれど素人です。 宜しければ暇つぶしがてら読んでやって下さいませ。 |
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クリリンさん 実力不足で申し訳ないです。話がありきたりであったり、つまらなかったりは正直素人の自己満小説ですので目をつぶって頂けると…。主人公の強さはもうしばらくは雑魚レベルのままのつもりなので。というか、才能の欠片も無い設定ですのでいくら霞達が鍛えたと言っても、一年ではこの程度では無いかと。申し訳ないです。(杯に注ぐ清酒と浮かぶ月) nakuさん コメントありがとうございます。楽しんでいただけたのなら嬉しいです。ご期待に応えられるか自信が無いですが頑張ります。(杯に注ぐ清酒と浮かぶ月) チートな主人公はあれだけどあまりにも弱すぎるような気がする結局他の作品と変わらない気がする(ククリン) |
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