真・恋姫†無双 外史 〜天の御遣い伝説(side呂布軍)〜 第十回 在野フェイズ:呂布@・黄忠と肉まんと昔話と(前編)
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しとしとと降りしきる雨の中、呂布は雨に濡れるのも気にせず、ただ雨空を見上げていた。

 

 

 

<そんな弱腰やったら守りたいもんも守れへんで!>

 

 

 

―――恋は、守れなかった・・・。

 

 

 

<黄忠様は我々がお守りする!>

 

 

 

―――月も詠も、もういない・・・。

 

 

 

眼頭に熱いものを感じるが、雨に打たれているせいか、呂布にはそれが何かのかよくわからない。

 

 

 

―――恋に、大切な人を守る力はない・・・。

 

 

 

瞳に映る雨雲がぐにゃりと歪んで見えた。

 

 

 

―――恋は、いらない子・・・。

 

 

 

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【荊州、長沙】

 

 

 

ここは荊州の長沙辺りの道中。

 

普通であれば益州に向かうには、単純に言えば寿春から西へまっすぐ行けばいいのだが、ちょうど寿春からまっすぐ西へ向かうと、

 

反董卓連合に参加していた劉表が治める襄陽にぶつかってしまう。

 

もしそうなると色々とややこしい話になりかねないため、呂布一行は、少し遠回りになるが、

 

安全に行くために南へ迂回して長沙へ入っていた。

 

 

 

 

 

北郷「ようやく半分くらいか」

 

高順「ですが、そろそろ路銀の心配をした方がいいかもしれませんね。どうやらこの辺りは治安がいいようですし」

 

張遼「せやな。この辺は報奨金もらえそうな手柄もなさそうや」

 

 

 

以前、荊州付近で大規模な山賊団を役場に突出し、陳宮の妙策?もあって大量の路銀を手にしていたのだが、

 

このような会話が出るのにはある理由があった。

 

勿論、南に迂回したことで、遠回りになっていたり、わざわざ長江を渡ったりといった出費がかさんだということもあった。

 

 

 

しかし、一番の原因は・・・

 

 

 

 

 

 

 

ぐぅー

 

 

 

 

 

可愛らしくお腹が鳴る音がした。音源をたどってその主を見てみると、呂布の顔が赤くなっていた。

 

 

 

つまるところ、想像を絶するほど食費における出費が大きいということである。

 

特に呂布の一日に食する食糧の量が凄まじかった(北郷曰く、恋の胃袋は四次元ポケットになっているに違いない、とのこと)。

 

5人で1か月分は余裕だろうと見積もっていた食費を、なんと1週間ほどで消費してしまったのである。

 

かつて、呂布軍が董卓の下にいた頃は、董卓の有する莫大なまでの資産のおかげで、何も気にすることなく食べることができた。

 

しかし、在野となった今となっては、以前と同様の量を食べ続ければ、あっという間に資金が尽きてしまうのは言うまでもない。

 

当然呂布もそのことは十分理解しており、我慢しようとするのだが、

 

 

 

 

 

ぐぅー

 

 

 

 

 

お腹が鳴ってしまうのだから仕方がない。

 

そして、そんな呂布にひもじい思いはさせたくないという陳宮たちの思いから、結局、食費は宿代などから切り崩すことで何とか保ち、

 

驚くほどにあった路銀も、今となっては尽きかけてしまっているということである。

 

 

 

陳宮「とりあえず、あそこに城があるです。少し立ち寄って食糧を分けてもらえないか頼んでみるですよ」

 

呂布「・・・(コクッ)」

 

 

 

他のみんなも陳宮の意見に賛成し、一行は少し先に見えている城へと向かった。

 

 

 

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【荊州、長沙、黄忠居城】

 

 

 

黄忠「まぁ、はるばる下?の地からここ長沙までようこそいらっしゃいました」

 

 

 

呂布一行が城に着き、陳宮が門兵に自分たちに敵意がないことを示すと、門兵は快く通してくれた。

 

そして城に入ると、予想外にも手厚く招いてくれたのは、この城の城主である黄忠であった。

 

本人の話によると、彼女は元劉璋の配下であるそうだ。

 

 

 

北郷(また女の人だ。まあ今更突っ込みはしないけど。でも、ここにいるってことはまだ劉備の配下じゃないってことなのか?

 

けど、元劉璋の配下って、確か黄忠は劉備に仕える前は劉表の配下だったような・・・。とにかく、元ってことは今は在野?それとも、

 

すでに劉備配下になってて、ここの地の守りを任されてるってことか?うーん、その辺りの細かい仕官状況はわからないなあ・・・)

 

 

 

黄忠といえば劉備配下の将の中でも有名な老将である。 “老いてなお盛ん” とは黄忠のことを指す。

 

つまり、この世界の黄忠も、見た目は若々しくても、当然本当のねんrギャッ

 

 

 

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北郷「どうしたんですか、黄忠さん?いきなり空に向けて矢を放って」

 

 

 

なんだかすごい形相だったような気が・・・。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・あれ?

 

 

 

黄忠「いえ、何か失礼なことを言われたような気がして、気にしないで下さい」

 

 

 

・・・失礼なこと?どういうことだ?

 

 

 

張遼「お、雨が降って来よったな」

 

 

 

霞の言葉につられて外を見ていると、確かに雨が降り出していた。さっきまではいい天気だったのに・・・。

 

 

 

陳宮「しかしいいのですか?食糧を分けてもらっても」

 

 

黄忠「ええ、構わないわ。あなた達、劉璋様の元に仕官しに行くのでしょう?あの子、早くに先代の劉焉様を亡くされて、まだ若いのに

 

無理やり一国の主にされてしまって、まだわからないことも多くてやんちゃしているのよ。だから少しでも助けになるというのなら、

 

喜んで協力するわ」

 

 

 

やっぱり劉璋は若いのか・・・それで政治が分からず、暗愚になっているのか・・・。ていうかこの設定袁術と似てるな・・・。

 

 

 

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そうして俺たちは、食糧を分けてもらうだけでなく、今晩城内に泊めてもらうことにもなった。黄忠さん、なんていい人なんだ・・・。

 

 

 

璃々「まてーちんきゅーお姉ちゃんー♪」

 

陳宮「待てと言われて待つ奴はいないです!」

 

高順「ねね、そこは待ってあげるべきですよ」

 

 

 

どうやらねねとななは、城の地下にある訓練場のような所(この時代にこんな広い地下空間があることにはさすがに驚かされた)で、

 

黄忠さんの娘さん、璃々ちゃんと鬼ごっこで遊んであげているみたいだった。

 

ねねやななはそれぞれすごい軍師や将軍だけど、こう見るとまだまだ遊び足りない年頃なのかも。

 

そして霞はというと、同じく地下訓練場で黄忠さんのところの兵士たちと稽古をしていた。

 

 

 

霞「ほれ次!」

 

 

 

霞は偃月刀の柄の部分で、兵士の首元を思いっきり突いた。

 

 

 

黄兵1「ぐへッ」

 

霞「ほれほれどんどん来いや!」

 

 

 

続けざまに攻めてきた二人の兵士を相手に、霞は偃月刀を駆使して受けきり、体を軸に回転して、二人の兵士を吹き飛ばした。

 

 

 

黄兵2「ぐわあッ」

 

黄兵3「ひえー」

 

 

 

どうやら、兵士たちと酒を飲んでいるうちに意気投合したらしい。霞は馴染むのが早いな。

 

そして恋はというと、霞たちの稽古の様子をそばで見ているみたいだった。俺も恋のそばに腰かける。

 

 

 

北郷「霞は本当に強いな」

 

呂布「・・・(コクッ)」

 

 

 

恋も俺の感想に賛同した。そういえば、恋と霞が本気で戦ったら、どちらの方が強いのだろうか・・・?

 

本当の三国志じゃ実際戦ったことなかったよな・・・どっちも反則的に強い武将だし、ちょっと興味深いかも。

 

 

 

霞「ほれほれどないしたんや?もう終いか?そんな弱腰やったら守りたいもんも守れへんで!」

 

 

 

霞の挑発に、兵士たちが痛めた体に鞭打ち、奮起した。

 

 

 

黄兵1「何を!」

 

黄兵2「黄忠様は我々がお守りする!」

 

黄兵3「まだまだこれからだ!はああッッ!」

 

 

 

兵士たちのガッツが気に入ったのか、霞はニッと満足そうに笑っていた。

 

 

 

霞「せや!その意気や!」

 

北郷「みんな張り切ってるな恋。・・・・・・・・・ん?恋?」

 

 

 

俺の問いかけに返事がなかったので、どうしたのかと隣を見てみると、さっきまで隣にいたはずの恋がいなかった。

 

どこへ行った?と辺りを見回すと、地上に上がる階段を上っていく姿がチラッと見えた。

 

その時は気にすることはなかったんだけど、時間がたっても一向に戻ってくる気配はなかったので、

 

少し心配になってきた俺は、恋を探すことにした。

 

 

まず手始めに、城内を歩いていた黄忠さんに尋ねてみた。

 

 

 

黄忠「あら、呂布さんなら、さっき外に出て行ったみたいだけど」

 

 

 

外?この雨の中?さらに心配になった俺は、恋を探しに外へ行こうとした。

 

けど、案外早くに見つかった。

 

恋は城のすぐそばで、雨の降りしきる中、ボーっと空を眺めていた。

 

 

 

北郷「どうしたんだ恋、風邪ひくぞ?」

 

呂布「・・・北郷」

 

 

 

俺に反応した恋の顔は、どこか寂しげな雰囲気を醸し出していた。

 

一瞬泣いている?とも思ったけど、この雨の中ではどうなのかわからない。

 

 

 

北郷「とにかく城の中に入ろう。ほら、肉まん持ってきたんだ」

 

 

 

こんなこともあろうかと肉まんを用意していたんだなこれが。

 

さすが俺、と思いたかったんだけど、この雰囲気だと完全に空気が読めてない感じだな・・・。どうしよう・・・。

 

 

 

呂布「・・・肉まん・・・!」

 

 

 

けど、やっぱりお腹が空いていたのか、肉まんと聞くとすぐ城の中に戻ってきてくれた。

 

どうやら恋といえば食べ物、という俺の安直な考えは間違っていなかったらしい。

 

俺はびしょびしょに濡れた恋の髪を、布でわしゃわしゃと拭いてやる。

 

前から少し思ってたんだけど、恋ってなんか動物的と言うか、放っておけない不思議なオーラがあるんだよな。

 

 

 

呂布「・・・・・・」

 

 

 

そんなことを考えながらわしゃわしゃ拭いていると、恋がじっと俺の方を見上げていた。

 

 

 

北郷「ああ、悪い・・・!あとは自分で拭いてくれ」

 

 

 

よく考えたら女の子の髪をわしゃわしゃするとかどんだけデリカシーないんだよ俺は!恋は犬猫じゃないんだから!

 

恋の表情から察するに、不快には思っていないようだったけど、何か複雑な表情をしていた。

 

俺は恋に布を渡すと、恋はまだ俺の方をじっと見ていたけど、やがて自身を拭き始めた。

 

あらかた拭き終ったようなので、俺は恋に肉まんを渡す。

 

 

 

北郷「はいどうぞ」

 

呂布「・・・ありがとう」

 

 

 

恋は俺にお礼を言うと、無心で肉まんに食らいついた。

 

 

 

呂布「・・・モクッ、モグモグ、モグ」

 

 

 

いつみても本当にすごい食欲だな。なんていうか、見ているこっちまで気持ち良くなるような、いい食いっぷり。

 

 

 

北郷「恋は肉まんが好きなんだな」

 

呂布「・・・肉まんは、好きな方」

 

 

 

恋が5つ目の肉まんを平らげ、6つ目に差し掛かったところで、俺は恋の口元に食べかすがたくさんついていることに気づいた。

 

 

 

北郷「ほら、口元。そんなに焦らなくても、まだまだたくさんあるよ」

 

 

 

俺が口元を拭いてやると、恋は少し顔を赤らめて、再び食べ始める、かと思ったら、食べようとしていた手を止めて俺の方を見てきた。

 

 

 

呂布「・・・北郷も食べる」

 

北郷「え?ああ、オレはいいよ」

 

 

 

気を使ってくれてるのかな・・・。

 

 

 

呂布「・・・食べる」

 

 

 

けど俺の遠慮をものともしないで、恋はずんと俺の口元にホカホカの肉まんを突き出した。

 

 

 

北郷「アチッ!わかった、わかったから!食べるから肉まんを口元に押し付けないで!」

 

 

 

俺は若干口元にヒリヒリとした痛みを感じつつも、恋から肉まんを受け取って食べた。

 

すると、これが想像以上にうまい。

 

もっちりとした生地に、かぶりつくことでにじみ出る肉汁がより一層おいしさを引き立てている。

 

しゃきしゃきしたこれはメンマだろうか。この食感、再びかぶりつきたくなる魔法のような歯触り。

 

とにかく日本で食べる中華まんとは別次元だ。

 

 

 

呂布「・・・美味しい?」

 

 

 

恋は食べる手を止めたまま俺の方をずっと見つめてくる。

 

 

 

北郷「うん、美味しいよ」

 

呂布「・・・よかった」

 

 

 

恋は満足したのか、再び肉まんを食べ始めた。もうすでに8つも完食している。本当にすごい食欲だな。

 

 

 

すると、しばらく恋の食いっぷりを眺めていたその時、雨宿りをしに来たのか、何匹かの野鳥が飛んできて、

 

なんと驚いたことに恋の頭や肩に止まった。

 

 

 

北郷「うお!すげえ!野生の鳥が無警戒に人に近づくなんて・・・!」

 

呂布「・・・?割とよく止まる」

 

 

 

マジか!すごいな・・・。恋は何を驚くことがあるのか、といったような表情をしている。

 

 

 

北郷「そっか、恋は動物に好かれるタイプなんだね」

 

呂布「・・・たいぷ?」

 

北郷「動物に好かれる素質があるってこと」

 

呂布「・・・恋は動物が大好き、だから、みんなも恋に近寄ってくる」

 

 

 

なんて羨ましいスキルを持っているんだ・・・。

 

 

 

北郷「いいな、恋は。オレも動物大好きだけど、近所の犬には吠えられるわ、猫撫でようとしてもすぐ逃げられるわで散々だよ。

 

この前なんか数匹の猫に引っかかれまくるし―――」

 

 

呂布「・・・(クスッ)」

 

 

 

笑われてしまった。

 

 

 

北郷「あ、今笑っただろ」

 

呂布「・・・笑ってない」

 

 

 

どうやら恋は白を切るつもりらしい。けど表情はいつもより穏やかだ。隠し事が苦手なんだな。

 

 

 

北郷「いーや、絶対笑ったね!ちゃんと見てるんだからな!」

 

呂布「・・・笑った」

 

 

 

自然と双方から笑みがこぼれた。よし、いい雰囲気だ。この様子だとそろそろ聞いても大丈夫かな。

 

 

 

北郷「そういえば、どうして雨の中、外に出てたんだい?」

 

呂布「・・・・・・」

 

 

 

返事は帰ってこなかった。聞いてはいけなかったのか、食べるのをやめて俯いてしまった。しまった、聞くタイミングを見誤ったか。

 

 

 

北郷「いや、別に言いたくなかったら言わなくてもいいんだけ―――」

 

呂布「・・・さっきの霞と兵士の話」

 

 

 

俺が言い終わる前に、恋がわけを話してくれた。どうやら話してくれそうだ。

 

 

 

北郷「霞と兵士?」

 

呂布「・・・さっき、霞は弱腰だと守れないって」

 

 

 

そういえば、さっき霞がそんなことを叫んでいたような・・・。

 

 

 

呂布「・・・それで、兵士が守るって」

 

 

 

うーん、いまいち話が見えてこないな・・・。

 

 

 

北郷「確かに言っていたけど、それがどうしたんだい?」

 

呂布「・・・昔のことを思い出した」

 

北郷「昔?」

 

呂布「・・・北郷と会う前のこと」

 

 

 

俺と出会う前のこと?いったい何があったんだろう。

 

 

 

呂布「・・・恋、その時大切な人を守れなかった」

 

 

 

すると、恋はゆっくりと思い出すように俺にその時の話をしてくれた。

 

 

 

途中で気付くんだけど、そう、あの有名な虎牢関の戦いのことだった・・・。

 

 

 

【第十回 在野フェイズ:呂布@・黄忠と肉まんと昔話と(前編) 終】

 

 

説明
どうもみなさんお久しぶりです。

祝!二桁!ということで記念すべき十回目はもちろんこの娘、恋の在野フェイズです!

前回までをお読みいただいた方はお気づきかもしれませんが、stsは恋について未だキャラクター性を計りかねております。

今回の在野フェイズを機に何か掴めればいいのですが、、、



あと、今回の在野フェイズではとある事情から、途中非常に読みにくくなりますが、

stsの五月病が重傷化したか、と鼻で笑い飛ばしていただき、終わりまで、そして次回には元に戻ると思いますので、

冷ややかな、そして温かい目を向けていただけたら幸いです。



それでは我が拙稿の極み、とくと御覧あれ・・・


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コメント
月と詠は死んだ設定なのですか?劉璋√だと… 月ちゃん詠ちゃんファンの方々には大変申し訳ないのですが…/入蜀については現在第二章制作にあたり絶賛迷走中です! 間に合う気がしません^^;(sts)
>あと一刀が来るまでは歴史どうりの設定だから詠は生きてますよね?  ほぼ歴史通り設定ですので残念ながら… 彼女は董卓軍軍師賈文和であると共に、月の親友詠でもあるのです。TT(sts)
>というか作者さん無事か?… とりあえず次回もう少し一刀君に頑張ってもらいます。紫苑さんのあの目は夢に出てくるレベルでしたよ 笑(sts)
月と詠は死んだ設定なのですか?劉璋√だと入蜀はどうなるか気になります。(チョコ)
虎牢関ということは月が誰にやられたかわかるのかな?あと一刀が来るまでは歴史どうりの設定だから詠は生きてますよね?(兎)
ついに恋キタァ!というか作者さん無事か?続き読みたいからこんなとこで討たれないでくれよww(くつろぎすと)
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真・恋姫†無双 オリキャラ 北郷一刀  音々音  高順 紫苑 璃々 呂布 

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