ソードアート・オンライン 黒と紅の剣士 第八話 絶剣の噂
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デュオ視点

今日、2026年1月6日、俺は新生アインクラッド第二十二層のキリトとアスナのホームに来ていた。

リビングルームの床から生えた切り株型のテーブルは、お馴染みの面々で埋まっている。

俺の左隣に座るのは、((猫妖精族|ケットシー))特有の三角耳を生やした((獣使い|ビーストテイマー))にして俺の嫁であるシリカだ。

彼女は、ホロウインドウ上に表示させた冬休みの宿題の数式を睨みながら唸り声を上げている。

右隣では((鍛冶妖精族|レプラコーン))の武具職人リズベットが、木苺のリキュール片手に椅子にふんぞりかえって脚を組み、ゲーム内で売っている小説に没頭している。

その隣では、((火妖精族|サラマンダー))のガッシュが、燃え尽きて何もかも真っ白になっている。

向かい側に座る、黄緑色のポニーテールを結った((風妖精族|シルフ))の魔法戦士リーファも、シリカと同じく英語の長文に顔をしかめている。

彼女の右隣では、黒髪の((水妖精族|ウンディーネ))のサチと、もう1人の((風妖精族|シルフ))エルフィーが宿題を終え、楽しそうに談笑している。

ちなみに俺はというと、キーボードを3つずつ2段、計6個展開し、その上にさらにホロウインドウを12個表示して、残った課題を全て同時に処理している。

この、全てのウインドウに目を通しながら、腕と指を同時に動かして、6つの宿題を並行して片付けるというVRならではの作業を初めて見せた時は、アスナたちはもちろん、キリトでさえ目を丸くしていたものだ。

現国の論文、数式、物理のレポート、英文、SAO事件以前までの復習、冬休み明けの予習という無駄に長い課題を次々に片付け、残りは論文とレポートだけになった。

 

デュオ「ふう・・・あと少し。」

 

俺は使い終わったホロウインドウを閉じると、テーブルに置かれたマグカップを持ち上げSAO時代に自作したココアを飲み干す。

と、その時左肩にこつんと乗っかるものがあった。

見ると、シリカが頭を俺の肩にもたれさせ、大きく突き出た三角耳をぴくぴくさせながら、幸せそうな寝息を立てている。

俺は思わず微笑みながら右手で頭を撫でる。

すると、シリカの右隣に座るアスナが右手の人差し指でシリカのネコ耳をくすぐった。

 

アスナ「ほら、シリカちゃん。今寝ちゃうとまた夜眠れなくって困るよ〜」

 

シリカ「うにゅ・・・むにゃ・・・」

 

アスナ「冬休みもあと3日しかないんだよ。宿題頑張らないと。」

 

アスナが最後に耳をつんと引っ張ると、シリカはぴくんと体を震わせてからようやく体を起こした。

ぼ〜っとした顔で何度か瞬きを繰り返し、頭をぷるぷる振ってアスナを見る。

 

シリカ「う・・・うう・・・ねむいです・・・」

 

呟きながら、小さな白い牙のある口を開けて大きな欠伸をする。

愛らしいその姿に再び微笑んでから、俺はシリカのホロウインドウを覗き込む。

 

デュオ「もうすぐそのページも終わりじゃないか。俺もこれが終わったら、手伝うから頑張れ。」

 

シリカ「ふ・・・ふぁい・・・」

 

アスナ「ちょっとこの部屋あったかすぎる?温度下げようか?」

 

アスナが聞くと、今度はリーファが笑いを含んだ声で言った。

 

リーファ「いえ、そ〜じゃなくて、アレのせいだと思いますよ〜」

 

アスナ「アレ・・・?」

 

アスナが視線を向けると、リーファはポニーテールを揺らして、東の壁に据え付けられたペチカの方を指差した。

 

アスナ「・・・ああ、ナルホド・・・」

 

そちらを見て、アスナは深く納得しながら頷いた。

赤々と燃える暖炉の前には、磨き込まれた木製の揺り椅子が置かれており、その上に座り込んで眠っている((影妖精族|スプリガン))の姿があった。

浅黒い肌に短めの黒髪を持つ、鋭利かつやんちゃそうな顔立ちの少年、俺の相棒キリトである。

彼の腹の上では、水色の羽毛を持つ小さなドラゴン、シリカの相棒ピナが体を丸め、頭をふわふわの尻尾突っ込むようにして心地良さそうに眠っている。

そして、そのピナの体をベッド代わりにして、さらに小さな妖精があどけない寝顔を見せている。

鮮やかな黒のストレートヘアに薄桃色のワンピース姿の少女、キリトとアスナの娘、ユイである。

この2人+1匹が幸せそうに熟睡する3段鏡餅は、この家ではよく見る。

というのも、どういうわけかキリトの寝姿は周囲に強力な催眠効果を放出するらしく、ほとんど睡眠をとらない俺でさえ、何秒か見ているだけで睡魔に襲われてしまう。

更にこの催眠術は人間だけではなく、シンプルなアルゴリズムで動いているはずのピナにも効果があるらしく、キリトが寝ているところに居合わせると、シリカの肩から飛び立って、彼の上で丸くなってしまう。

 

デュオ〈本当に、常識外れな奴だな。〉

 

そんなことを考えながら、周りを見ると、アスナとリズがすでにスリープモードに入り始めていた。

 

シリカ「ちょっとアスナさん、自分が寝てますよ!あっ、リズさんまで!」

 

シリカに肩をゆさゆさ揺すられ、アスナは慌てて顔を上げる。

それと同時に、リズベットもびくんとして体を起こすと、数回目を瞬かせてから照れ臭そうに笑った。

 

リズベット「アレ見てるとなんでこう眠くなるのかねぇ・・・」

 

リズベットの言葉に、サチと話していたエルフィーが反応する。

 

エルフィー「もしかしたら、スプリガンの幻惑魔法かもよ。」

 

アスナ「ふふ、まさか。眠気覚ましに、お茶淹れるね。といっても手抜きだけど。」

 

デュオ「俺は((ココア|これ))があるからいらない。」

 

アスナ「わかった。」

 

アスナは立ち上がると、背後の棚から、カップを5つ取り出した

アスナが最近クエストで入手したという、タップするだけで99種類の味のお茶がランダムに湧き出す魔法のマグカップだ。

テーブルにカップとお茶請けのフルーツタルトが並ぶと、眠気を払拭した3人を含め、5人はそれぞれ異なる香りのする熱い液体を口許に運んだ。

俺もウインドウから新しいココアを出してカップに注ぐと、それを口に流し込んだ。

 

リズベット「そういえば、さ。」

 

リズベットが思い出したように口を開く。

 

リズベット「アスナはもう聞いた?【ゼッケン】の話。」

 

アスナ「ゼッケン?運動会でもするの?」

 

リズベット「ちがうちがう。」

 

首を傾げるアスナに、リズベットは笑いながら首を横に振る。

そして、テーブルの上からマグカップを取って一口含んでから続けた。

 

リズベット「カタカナがじゃなくて漢字。絶対のゼツにソードの剣と書いて、【絶剣】。」

 

アスナ「絶・・・剣。新実装のレアアイテムかなんか?」

 

リズベット「のんのん。人の名前よ。あだ名・・・というか、通り名かな。あたしもキャラネームは知らないんだけどね。」

 

アスナ「それがなんで絶剣なんて呼ばれてるの?」

 

アスナの質問に答えたのは、ちょうどフルーツタルトを食べ終えたサチだった。

 

サチ「とにかく強いからだと思う。」

 

サチの《強い》という言葉に、一瞬指をぴくりと動かしかけたアスナは、それを誤魔化すようにマグカップに残ったお茶を飲み干す。

 

アスナ「強いって、その人は((プレイヤー狩り|PKer))なの?」

 

サチ「ん〜ん、デュエル専門だよ。24層主街区のちょっと北にある小島に、毎日午後3時に現れて、一対一で対戦してるの。」

 

アスナ「へええー。大会とか出てた人?」

 

サチ「それが、まったくの新顔らしいの。でもスキル数値は高そうだから、たぶん別のゲームからコンバートしてきたんじゃないかな。最初は掲示板に対戦者募集って書き込みがあって、30人くらいが返り討ちにされたらしいよ。」

 

デュオ「おまけに、HPを3割以上削れた奴はいないそうだ。」

 

シリカ「ちょっと信じられませんよね〜」

 

そこで、フルーツタルトをもぐもぐしているシリカと俺が割って入った。

 

シリカ「あたしなんか、まともな((空中戦闘|エアレイド))できるようになるまで半年くらいかかったんですよ。なのに、コンバートしたてであの飛びっぷりですからね!」

 

アスナ「シリカちゃんも対戦したの?」

 

アスナが訊くと、シリカは眼を丸くしてぶんぶんかぶりを振る。

 

シリカ「まさか!観戦だけですよ。あっ、でも、リズさんとリーファちゃん、それにエルフィーさんは立ち合ってましたよ。」

 

サチ「なかなかのチャレンジャーだよね。」

 

デュオ「3人とも見事に返り討ちにされてたけどな。」

 

リズベット「うっさいなあ。」

 

リーファ「何事も経験だもん。」

 

エルフィー「そうだよ。そんなこと言うなら自分も戦ってみればいいじゃん。」

 

口を尖らせて言う3人の言葉を聞き流していると、笑っていたアスナが口を開いた。

 

アスナ「それは本物っぽいねえ。うーん、ちょっとワクワクしてきたなあ。」

 

リズベット「ふっふ、アスナはそう言うと思った。月例大会の上位常連どころで残っているのは、サクヤとかユージーンとかの領主やら将軍組だけなんだけど、あの辺は立場的に辻試合は難しいしねえ。」

 

アスナ「でも、そんだけ強さを見せ付けちゃうと、もう対戦希望者なんていなくなっちゃったんじゃない?」

 

シリカ「それがそうでもないんです。賭けネタが奮ってるんですよ。」

 

アスナ「へえ?なにかすごいレアアイテムでも賭けてるの?」

 

シリカ「アイテムじゃないんです。なんと《オリジナル・ソードスキル》を賭けてるんですよ。すっごい強い、必殺技級のやつ。」

 

アスナ「OSSかあー。何系?何連撃?」

 

シリカ「え〜と、見たトコ片手剣系汎用ですね。なんとびっくり11連撃ですよ。」

 

アスナ「じゅーいち!!」

 

アスナは、キリトの癖を真似ているのか、肩をすくめながら口笛を吹いた。

まあ、当然の反応だろう。

OSSはその名の通り、プレイヤー自身が編み出す独自の剣技である。

だが、その製作は容易ではない。

というのも、元々プレイヤーには不可能な動作だからシステムアシストを使って可能にしている動作を、システムアシストなしで行わなければならない。

この矛盾ともいえる条件があるため、OSS製作に挑戦したプレイヤーの9割以上が、それを断念してしまった。

アスナも苦労の末に5連撃のOSSを完成させたようだが、それで気力を使い果たしたのか、OSS製作には取り組んでいない。

 

アスナ「まあ、そういうことなら対戦希望者が殺到するのも納得だね。みんなはそのソードスキル見たの?」

 

アスナの問いに、全員が首を横に振った。

 

リズベット「んーん、なんでも、辻デュエルを始めた日のいちばん最初に、演舞として披露したらしいんだけど、それっきり実戦では使ってないみたいね。」

 

リズがそこまで言うと、今度はエルフィーが話を引き継ぐ。

 

エルフィー「っていうより、絶剣さんが強過ぎてOSSを使うまでもなく勝負が着いちゃうんだよね。」

 

アスナ「エルちゃんでも無理だったの?」

 

エルフィー「あはは、6割ぐらいまではいい感じだったんだけど・・・デフォルトで押し切られちゃった・・・」

 

エルフィーは乾いた笑顔で答えると、敗北の悔しさを飲み込むかのようにお茶を口に流し込んだ。

 

アスナ「へええ・・・だとするとかなりの腕前ってことになるな・・・そういえば、その人の種族とか武装はどんなの?」

 

エルフィー「インプだよ。武器はレイピア並みに細い片手直剣。とにかく攻撃のスピードが速いの。通常攻撃でもソードスキル並み。眼で追うのはほとんど無理だと思う。」

 

アスナ「スピード系かー。エルちゃんにそこまで言わせるってことは、わたしも勝機無しかな・・・あ。」

 

何かを思い出したらしいアスナが、こちらを見てから、さらに向こう側のキリトに視線を向ける。

 

アスナ「動きの速さと言えば、反則級のヒトがそこに2人もいるじゃない。キリト君とデュオ君は?キリト君はそういう話に興味持ちそうだけど。」

 

アスナの言葉を聞くと、シリカ、リズベット、リーファ、エルフィー、サチは顔を見交わし、次に揃って吹き出した。

 

アスナ「な、なに、どうしたの!?」

 

呆気を取られるアスナに向かって、サチが笑いながら理由を告げた。

 

サチ「ふふふ。実はキリトはもう戦ってるのよ。そりゃもうカッコいいくらいに負けてたよ。」

 

アスナ「ま、負けた!?あのキリト君が?」

 

アスナは信じられないとばかりに言うと、口をぽかんと開けて固まった。

確かに気持ちはわからなくもない。

SAOでは、ヒースクリフと並んでアインクラッド最強の一角となっていたキリトは、彼女の中ではすでに絶対強者の代名詞となっているだろう。

その彼が負けたというのであれば、かなりの衝撃だろう。

アスナは俺の方を見ると、掠れた声で訊いてきた。

 

アスナ「キリト君は・・・本気だったの?」

 

デュオ「二刀流じゃないところを見ると全力とは言えないけど、一刀流では全力で戦ってたって感じだな。」

 

リーファ「あたしも同感です。少なくとも手を抜いたってことはまったくないと思います。それに・・・」

 

アスナ「それに・・・?」

 

リーファ「確信はないんですが、勝負が決まるちょっと前、鍔迫り合いで密着して動きが止まった時、お兄ちゃん絶剣さんと何か喋ってたような気がするんですよね・・・そのすぐ後、2人が距離を取って、相手の突進攻撃を回避し切れないでお兄ちゃんが負けたんですが・・・」

 

アスナ「ふうん・・・何話してたんだろう?」

 

リーファ「それが、聞いても教えてくれないんですよ。何かありそう・・・な気はするんですけどね。」

 

アスナ「そっか。じゃあ多分、わたしが聞いてもだめだろうな。」

 

そう言うと、アスナは自分の手を見下ろしてから呟いた。

 

アスナ「あとはもう、絶剣さんとやらに直接聞いてみるしかない、かな。」

 

それを聞いたリズベットが、眉を上げる。

 

リズベット「やっぱり戦う気?」

 

アスナ「勝てるとは思わないけどねー。なんだかその絶剣って人、目的があってALOに来たような気がするんだ。辻デュエル以外にね。」

 

サチ「私もそう思う。でも、それを知ろうと思ったら、キリト以上の勝負をしないとならないよ。」

 

リズベット「万全の態勢で向かいなさいよ。勝負になるかどうかさえ怪しい相手なんだから。」

 

アスナ「わかってる。相手がスピード型ならおそらく((秒間破壊力|DPS))より見切り勝負になると思うから、キャラはこっちで行く。みんな付き合ってくれる?」

 

シリカ「もちろんですよ!こんな名勝負、ぜったい見逃せません。」

 

エルフィー「決まりだね。じゃあ明日の2時半にここに集合。」

 

デュオ「悪いが俺はパスだ。他にやることがある。」

 

俺の一言に、残念そうな顔をするシリカの頭を撫でてから再び口を開く。

 

デュオ「さて、そろそろ6時だし、俺はもう上がるよ。」

 

俺はウインドウを開きログアウトボタンを押して、Yes/Noボタンが現れてから、俺は振り向いてアスナに言った。

 

デュオ「1つ警告しておくぞ、アスナ。」

 

アスナ「え・・・何?」

 

デュオ「絶剣と関わるなら、それなりの覚悟はしておけ。」

 

それだけ言い残すと、俺はYesボタンを押してログアウトした。

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あとがき

 

久しぶりの投稿です。

とりあえずテストは終わったので、しばらくは安定して投稿できると思います。

 

すみません、挿絵の方はどのシーンを描こうか迷っていてまだ描いていません。

リクエスト等ありましたら、言っていただけるとありがたいです。

説明
やっとテストが終わったので、マザーズロザリオ編に入りたいと思います。
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コメント
trainさんへ 大変申し訳ないのですが、本作は原作と違ってアスナが主役ではないので、ユウキの出番は少ないと思います・・・(やぎすけ)
SAOの中ではユウキが一番好きなので楽しみです(^_^)v(train)
trainさんへ ご指摘ありがとうございます。すぐに修正しておきます。(やぎすけ)
本郷 刃さんへ キリトから絶剣のことを聞いた後、お得意のハッキングで調べているので、大体の事情は知っています。(やぎすけ)
最後のデュオのセリフ「絶剣を関わるなら」じゃなくて「絶剣と関わるなら」じゃないかな?(train)
マザロザ編に突入ですか・・・しかし、デュオは《絶剣》ことユウキに対してなにか知っているような口ぶりでしたね・・・気になります(本郷 刃)
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