真・恋姫†無双〜家族のために〜#14片鱗
[全5ページ]
-1ページ-

 諳から課題を出されて今日で十日目。つまり期限の最終日である。

 今日もいつもと変わりなく、朝から屋敷の掃除をし、門下生達の使う道具の準備を行い、新兵達とともに僕を明らかに潰そうとしてくる訓練を終え、孫子を細部まで読み漁っていた。

 解読自体は八日目に終えている。今は諳から何を聞かれても答えられるようにしている。あの諳のことだ。ただ孫子を読めるようにするだけならば、時間は掛かったとしても誰にでも出来ることだ。絶対に何かしてくるに違いない。確証はないが確信はあった。

 そのための熟読だ。読みながらも独自の解釈を入れたりしている。これだけ準備をしても実際には不安だらけだ。相手はあの諳なのだから。彼女を詳しく知る人物なら、今の一言で理解すると思う。

 そんなことを考えながらも、書物から目を逸らさず読み続けた……。

 空は茜色に染まり始め、郷愁を漂わせるような雰囲気に包まれていた。

 

 

 辺りは暗闇に包まれ街の人々が寝静まった頃、僕と少女は諳の部屋にいた。

 

 「課題の孫子。読み終わりましたのでお返しします」

 

 「……はい」

 

 「ええ、お疲れ様。ちゃんと丁寧に扱ってくれたみたいでよかったわ。それじゃあ次の書物を渡すわね」

 

 そう言って諳は手渡した本を入れ替え、僕達に渡してきた。僕には六韜、少女には孫子だ。

 

 「えっと……これだけ……ですか? 」

 

 「それだけよ? 他に何か欲しいのかしら? それとも……孫子に関して質問されるとでも思ったのかしら? 」

 

 まさに図星だった。途端に先読みし過ぎた自分に恥ずかしくなり俯く僕。そのせいで彼女が浮かべた笑みに気付くことができなかった。その表情(かお)が見たかったのだという嗜虐的な笑みを。

 

 「今回の期日は明日から五日間よ。私への質問はどちらもなし。それで構わないわね? 」

 

 「……うん、たぶん大丈夫」

 

 「わ……かりました」

 

 正直恥ずかしさでいっぱいで、後半は反射的に頷いているようなものだった。一刻も早くここから立ち去りたかった。それでも必死に平静を保って受け答えた。

-2ページ-

 

 諳の部屋を後にした僕達は、時間も遅いことだし寝ることにした。寝台に入ったあとには、必ず僕から挨拶をして眠ることにしているのだが、今日は少女からの返事がなかった。疲れて寝ちゃったのかなと思い、寝返りを打とうとしたら彼女から声が掛けられた。

 

 「……こくじょう」

 

 「あ、起きてたんだ。何かな? 」

 

 そう言って僕は彼女のほうを向いた。彼女は眠そうに欠伸をしたがきちんと僕のほうを向いて言った。

 

 「影華……」

 

 「それって真名だろう? 」

 

 「いい……呼んで。こくじょうは私を背負って助けてくれた」

 

 彼女はまっすぐに僕の眼を見つめながら、そっと笑った。

 驚いた。僕は彼女に川で倒れていたとしか言っていない。つまり彼女は何か思い出したのかもしれない。そして笑顔を見せたこと。今まで彼女の感情の変化といえば、恐怖や悲しみ、寂しさといった、どちらかといえば負の感情ばかりだったからだ。僕は微かにとはいえ笑顔を見せてくれたことに感謝することとともに、それだけ彼女が信頼を寄せていることに喜んだ。

 信頼には信頼で応える。偉大な父がそうであったように、僕もそうありたいと思った。

 

 「僕の真名は深。影華、君に預けるよ」

 

 「ん。じゃあ深……おやすみ」

 

 「ああ。おやすみ影華」

 

 

-3ページ-

 

 四日後。この日もまた同じ時間に僕達は諳の部屋にいた。

 

 「何かあなた達、前以上に仲が良くなってないかしら? 」

 

 「気のせいです」

 

 「ん、気のせい、です」

 

 諳は訝しんでいたが僕達の返事で納得がいったようで、いつものように笑っていた。

 

 「なるほどね。まぁ今は聞かないでおきましょう。それよりも課題のほうはどうかしら? 期日まであと一日あるけれど」

 

 「本当なら昨日で終わってたのですが、二人で話し合って一日置かせて頂きました。本はお返しします」

 

 「そう、ありがとう。では一つだけ質問するわ。六韜、孫子、どちらでも構わないわ、それらに記されているものであなた達が一番興味を持った部分はどこかしら? 」

 

 その質問は予想していなかった。諳のことだ、兵法の応用方法ーーこれは自己解釈で構わないーーとか、碁盤を用意して一対一で勝負をしたりするのかと思っていた。

 

 

 熟考する深を見ていた影華は諳へと向き直り、己の考えを伝えた。

 

 「兵のみんなとは、仲良くないとダメ、です」

 

 「ふふっ、ふふふっ。それは孫子の七計から取ったのかしら? 」

 

 と、質問された影華は静かに頷いた。

 

 「自分と仲良くない人の、言うことは聞きたくない。みんなもきっとそう」

 

 「ええ、そうね。嫌だわ」

 

 「それと、司馬徽。私は影華っていう……いいます。これからは、そう呼んで欲しい……です」

 

 「それは真名ね? ……私の真名は諳よ。よろしくね、影華ちゃん」

 

 「ん、よろしく……お願いします、諳」

 

-4ページ-

 なんとか敬語を使おうとしている影華に笑いつつも、彼女の隣に座っている深に眼を向ける。

 影華が話し始めてすぐにこちらへと注意を向けていた彼だが、すでに頭の中を整理したのか、その眼には迷いがないようにも見えた。

 

 「諳。どれだけ考えても、答えはでませんでした」

 

 彼の出した答えはまさに無回答だった。今まで何人もの優秀な人物に問いかけてきた質問を、そのいずれもが一様にどこかを示していた質問を、彼は否定したのだった。否、その考えまでも次の一言で否定される。

 

 「ただ、僕には全て大事に思えた……っていう回答じゃダメかな? 」

 

 そう、彼は否定したのではなく、全てを肯定したのだ。

 試しに孫子からは九変篇を、六韜からは武韜の質問をだしてみたが、淀みなく、また悩む素振りを見せることもなく答えてみせた。末恐ろしいとまで感じた。彼の才能を、彼の思考を。もしかしたら自分はとんでもないものを世に引きづり出してしまったのではないか、そう思うと身震いした。同時に誇らしくもあった。これほど優秀な人材に出会えたことに、弟子として迎えられたことに。

 

 「いいわね。本当にあなたは、あなた達は私を楽しませてくれるわ! 腕試しは今日まで。明日からは二人とも、私の全てを教えるわ。それと、ここにある書物は全ていつ読んでも構わないわ、許可しましょう」

 

 そう早口に捲くし立てると、私の頭の中は明日二人に教える内容を考えることで一杯だった。

 

 

 早口で捲くし立てた諳は、それからすぐに思考の渦に飲まれてしまったのか、僕達がいることなどすでに忘れているようだった。一応静かにだが退出の挨拶をして、部屋を出て行く僕と影華。

 扉が完全に閉まったとき、僕はつい影華を抱きしめてしまった。それほどまでに、諳に認められたことが嬉しかったんだ。影華は少し顔を赤くしながらも、されるがままになっていた。それで我に返った僕も顔が真っ赤に染まっていて、自分達の部屋まで無言で歩いていった。

 無意識にだが、決して離れないよう手を繋いだまま……。

 

 

-5ページ-

 

 

【あとがき】

 

こんばんわー。

 

九条です。

 

 

30度超えたり、夜は寒かったりと季節の変わり目は忙しいですね。

風邪には十分注意したいところです。

 

 

さて、14話でした。いかがでしたでしょうか。

ちょっと諳の意地が悪いな〜と思いつつ、Sな人はこんな感じかなと納得していたり……。

影華ちゃんはこれからちゃんと敬語を覚えていきます。ちゃんと喋れるようになっちゃいます←あ

 

 

朝方NLで報告し、昼ごろに編集した名前の件、申し訳ありませんでした。

でもあれなんです、名乗りの時に一々フルネームってねぇ?……ごめんなさいorz

ちゃんと直しましたので、何卒お怒りのほどを静めてくださいぃ!

 

 

そういえば今回は?徳公がいませんでしたね……わすれry

次は(たぶん)?徳公との鍛錬メインで書くと思います。まだ考え中ですが。

 

 

そろそろ主要キャラを登場させたいぞー!

いっそのこと新たに武の師匠を登場させて、どっかの森とかで恋ちゃん出しちゃおうかな〜。

 

 

最後に。

ランキングをちらちら見ていたら……。

総合ランキング(小説カテゴリ)でハムさんが3位にランクインしてるじゃありませんか!

17位には#12が……ハムに負けた…だと。

さらには!

注目のルーキー1位!! ハムパワー恐るべし……。

 

続々と支援数二桁も出てきました。いつもいつもありがとうございます!!

 

 

そんなことを言いつつも!

次回をお楽しみに〜

説明
兵法とか難しいですよね……。
総閲覧数 閲覧ユーザー 支援
2094 1906 12
コメント
>観珪様 NTR展開はありません。ご安心を←(九条)
影華ちゃんがどんどんかわいくなっていく……手を出すなよ?ww(神余 雛)
タグ
真・恋姫†無双 恋姫†無双 族ため 外史 オリ主 

九条さんの作品一覧

PC版
MY メニュー
ログイン
ログインするとコレクションと支援ができます。

<<戻る
携帯アクセス解析
(c)2018 - tinamini.com