人間と魔法使い
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【パチュリー】

 

 薄暗い中、図書館で本を読んでいるいつもの光景の中。

私の中では珍しい部類に入る感情があった。

 

つまらない。

 

 本がつまらないというわけではない。単に集中できなくて

退屈していたのである。

 

 魔法の研究は苦労は常に伴うが生涯かけて追うには面白い

題材なのだ。だから今までこんな気持ちになるのは疲れていた時か。

あるいは…。

 

『パチュリー』

『そこは違うんじゃないの?』

『パチュリーのおかげで勉強になるわ』

 

 前に客人として訪れたアリスという妖怪になって若い魔法使い。

彼女のオシャレな感覚と私の古臭い感覚ではズレが激しく大きいが

その分、見落としがちな部分を指摘してくれて。

 

 最近は友人というには近すぎるくらいの関係になっている。

そのアリスの姿がここのとこ見えないのだ。

 

 胸の辺りが少しもやもやする。

こんな感情、昔はなかったのに…。

 

 図書館内の遠くをぼんやり見つめていると紅茶の注ぎ足しに来た

小悪魔が私の様子に気づいて一度その場を離れてから

上着をそっと私の肩にかけたのだ。

 

「小悪魔?」

「アリスさんに会いたいって顔してますよ。たまにはパチュリーさまから

伺いにいくのは如何でしょうか」

 

「それもいいかもしれないわね…」

「付き添いましょうか?」

 

 小悪魔は私の体を純粋に心配してくれてはいるが私はその申し出を

断った。ここは自力でがんばりたいのだ。

 

「だいじょうぶよ、喘息も落ち着いてるし…」

「そうですか、でも無理はなさらず。呼べばいつでもかけつけます」

 

「ありがとう」

 

 小悪魔は私を玄関まで見送ると一礼をして私の姿が

遠ざかり見えなくなるまで見ていてくれた。

 

 空を飛んでいると、さわやかな風が髪や服をなびかせ

心地よい気持ちになれる。

 

 天気も十分で気持ちが良い。レミィからしたら最悪な天気なのだろうけど。

親友が日の光にさらされて灰になるのを想像したら少し笑えた。

 

 昔は天気のことでこんなに良い気分にはなれなかった。

髪も痛むし眩しくて良いことなんてなかったのに。

 

 以前アリスに連れ出されてからは悪い気分ではなくなったのだ。

だから今度は私があのジメジメした魔法の森から誘うのも

悪くはないと思えた。

 

 そんなことを考えていると一際賑やかな声が私の耳に届いた。

音の元を辿っていくとそこは人里で、

何やら子供たちが集まっているではないか。

 

 何をそんなに夢中になってみているのかしら。

私はそんな気持ちからソッと気づかれないように

その場所に近づくと、そこには。

 

「そこの館にはずっと魔法を研究している大魔法使いさんがいました」

「その人ってすごい人なの?」

「えぇ、とても」

 

 子供たちの言葉に笑顔で反応していたのは他の誰でもない

アリス本人だった。

よく見ると語り部だけではなく、人形劇をやっているようだ。

 

 こんなところで何をしているのかしら…。

妖怪で魔法使いの彼女がどうして人と…しかも子供と遊んでいるのか

ずっと魔法使いで妖怪をしていた私には理解はできなかった。

 

 だけどアリスの声色と人形の動きがとても魅力的でついつい

目が離せない。内容的には紅魔館の話をしているのか、

聞き覚えのある人物の名前がちらほら。

 

 ということはさっきの大魔法使いって私のことかな。

褒められたのだと受け取ったら私の胸が少し熱く感じたのを覚えた。

 

 話が終わると子供たちは持ち寄った品々をアリスに手渡して

散り散りに去っていった。

 

 その時に私はそっと歩を進めていくと。

 

「あ、パチュリー。どうしたの、こんなところまで」

「あの・・・気分転換」

 

 よほど珍しかったのか、アリスは心底びっくりしていて

更に嬉しそうに笑顔を見せていた。

 

 その顔を見れただけでも私は来てよかったと思えた。

 

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 アリスの家に案内されると、アリスはさきほど子供たちから

もらったものを愛しげに見つめながら数えていた。

 小銭、綺麗な石など。魔法使いにとってはガラクタでしかないものが

ほとんどだった。

 

 アリスに淹れてもらった紅茶を口に入れて

私はふと感じた疑問をアリスにぶつけてみる。

 

「なんであんなことしてるのかしら?」

「人形劇のこと?」

 

 アリスの問いに私はうなづくと、説明に困った顔をしながら

アリスはある言葉を閃いて私に告げる。

 

「気分転換ってやつよ」

 

 私がさっき言った言葉をそのまま返されて微妙だったが

本人が言うのだったらそうなのだろうとそのままの意味で受け取る。

 

「なに、パチュリー。私らしくないと思った?」

「ん、同業者だからずっと家にいるのかと思ってた」

 

「まぁ、普段はそうよね」

 

 でも、と言葉を一度切ってからまた繋げて話してくる。

 

「これまで私が経験したのを子供たちに教えたくてね」

「ふぅ〜ん…」

 

 何か納得いかない気分のままお茶を飲み終えると

それに合わせたかのようにアリスの驚きの声があがり

私もびっくりする。

 

「こんなのもらえないわ…」

「どうしたの?」

 

 アリスが手にして困惑しているのは子供が所持しているとは

考えがたい高そうな宝石であった。

しかもどこで手に入れたのか、その品には魔力が少し籠っている。

 

「もらい物だったら遠慮することないんじゃない?」

 

 私の言葉に首を横に振って椅子から立ち上がる。

 

「たぶん親のとこから無断でもってきたのよ。

もしかしたら生活に困るかもしれない。ちょっと返しにいってくる」

「アリス…!」

 

 アリスは頑固者だ。一度決めたらなかなか意見を変えないだろう。

私は上着を羽織ってから告げた。

 

「私も行くわ」

 

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 妖怪なのに人間臭さが抜けない。人間が嫌いな私だけど

アリスのそういうとこは嫌いではなかった。理解はできないけれど。

 

「どの辺にいるかわかってるのかしら?」

 

 既に空は薄暗く、しばらくすると人里の外では妖怪が跋扈するだろう。

子供の身の安全を考えるならば早く見つけないといけなかった。

 

 人里に到着すると焦りを募らせた女性があちこち周りを見て

誰かを探しているように見えた。

 

 アリスを見た女性が近寄ってきて言葉もまとまらないまま

話しかけてくる。

 

「娘が帰ってこないんです・・・!」

 

 そうやらアリスに渡した宝石を生活費のお金として変えようと

していたらしく叱ると子供は走っていってしまったという。

 

 すぐに戻ってくると思い込んでいた母親はこの時間になっても

戻ってこないから心配して里中回っていたようだ。

 

 しかもこの時間だと巫女や魔理沙は捕まらないだろう。

村の警護も担当している妹紅や慧音の姿も見つからなかったようだ。

それで藁にもすがる思いで私たちに声をかけてきたというわけだ。

 

 私たちも妖怪であるが外見は人間と変わらないので

気づいていないだろう。気づかれたら大騒ぎだけれど。

 

「わかりました。私たちも探します」

 

「お願いします・・・」

 

 子供がいれば石をすぐに渡して帰ることができたのだけど

親に返すと事態が悪化することを恐れたアリスは石をもったまま

子供を探すことにした。

 

「パチュリー、悪いけれど。これ以上外にいると体に障るかも。

うちか紅魔館に帰ったほうが・・・」

 

 アリスの言う通り。けっこう疲れてはいたが、こんな真剣なアリスを

置いて一人帰るわけにはいかなかった。

 

「大丈夫よ・・・」

 

 母親はおそらく里中を探し続けたに違いない。そうなると心当たりの

ありそうな場所といったら。

 

 私はアリスに目をやるとアリスも同じことを考えたのか

私と目を合わせてこくんと頷いていた。

 

 場所はアリスの家。

 

 しかし場所は遠いし徒歩でしかも子供の足だ。

とても短時間で着く距離ではない。

 

 森の中に入られたら飛んで探すのは至難。

森の入口までにいなかったら徒歩で探す羽目になる。

 

 その不安は的中。入口までに人の姿はなく

私たちは歩いて子供を探すことに。

 

 下手をすると子供はもう妖怪の餌食になってるかもしれない。

そんな予感をアリスも感じないわけはないだろう。

 

 暗がりでも隣にいるとわかるアリスの焦り。

湿気の多い森の中を歩いているとやがて何かの気配を

感じる。その後に悲鳴があがった。

 

 それは子供の声だった。

 

 私たちは声の場所を頼りに走っていく。

だが私は体力に限界を感じて低空飛行を始めると

視界の中に妖獣と子供の姿を視認した。

 

 今にも食べられてしまいそうなのをアリスが

予想以上の速さで走り抜けて妖獣に体当たりを当てた。

 

 痛みと驚きを察した妖獣は振り向いて私たちを確認すると

敵と察して攻撃を始めた。私たちは後ろに子供がいるから

攻撃できずにいるとアリスが死角から妖獣の横を抜け出して

子供の服を掴んで一気に抱き寄せる。

 

 子供は恐怖のあまりに声が出なくて泣きそうだった。

アリスはこの時点でかなり無防備になっていて危険だ。

 

 私には子供はどうなっても構わないがアリスが危険な目に

遭うのだけは我慢がならなかった。

 

 アリスに追いついた私は妖獣と対峙してすぐさま詠唱を開始して

スペルを発動させた。

 

「火符・アグニィシャイン!」

 

 一瞬にして火だるまになった妖獣はたまらないとばかりに

すぐさま退散してくれた。

 

「ゴホッゴホッ!」

 

 私は消耗した魔力分体調を崩してしまい、その場で膝をついてしまう。

そこに子供を抱えたアリスが心配そうに駆け寄ってきた。

 

「パチュリー、大丈夫?」

「え、えぇ・・・」

 

 平気だと嘘をついて早く人里に戻らないといけない。

そういう気持ちからアリスに言うとアリスは渋い顔をしながら頷いた。

 

 彼女はわかっているだろう。ずっと傍にいるから

まるっきり平気じゃないことに。

 

 精神が少しずつ落ち着いてきた子供に石を持たせて

今度は他の何でもないものを持ってくるように諭した。

 

「ご、ごめんなさい。私お姉ちゃんが喜んでくれればって」

「こういうのより気持ちが籠ってれば何だっていいのよ」

 

「うん」

 

 二人のやりとりを眺めているとどこか寂しい思いを感じていると

子供は私の傍によってきて笑顔を振りまいてこう言った。

 

「守ってくれてありがとう、大魔法使いさん」

「・・・!」

 

 私は返事をしなかった。この後アリスは無事に親の元へ

子供を連れていったのを遠くから見届けると悪くはない気分には

なれた。

 

 だけど、ここまで人間に肩入れするアリスの気持ちは

わからないままだったが、家に戻った時にそのことを語ってくれた。

 

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「私も昔は人間だったのよ」

「そういえば神綺も言っていたわね」

 

「そう。その頃、義理の家族とはいえすごく楽しくて幸せだったの」

 

 その気分を味わいたいというのはあっただろうけど

それ以上に、その優しさ温もり、楽しさを子供に伝えられたら

いいと人形劇を始めたのだという。

 

 当然、それなりの収益も欲しかったから大人向けのもあるという。

 

「今日は大変なことに付き合わせちゃって悪かったわね」

 

 今度埋め合わせはするからと言い切る前に私はアリスの口を

自分の口で塞いだ。

 

「これでいいわ」

 

 口づけをして離れると私はアリスのベッドに横になって

寝たフリを決め込んだのだ。

 

「ふふっ」

 

 ため息のような笑い声が聞こえる。

その後、私のベッドの中に潜り込んできて。

耳元で囁いてきた。

 

「ありがとう」

 

 その言葉がくすぐったくてドキドキして眠れることは

できなかったけれど。私の胸の中はとても晴れやかで

充実していた。

 

「また紅魔館に来なさいよ」

「えぇ、近い内に尋ねるわ」

 

 そうやって言葉を交わして私は家路についた。

色々あったのに今朝の天気は昨日と同じ晴れだったけど。

私の中では晴天のような気持ちでいられたのだった。

 

説明
パチェアリです。多分アリスは妖怪になっても人よりの思考なんだろうなとか思いながら書いてたものです。本当はアリスの夢の中にパチュリーを投入させて幼女なアリスと会わせてみたかったのですがうっかりそこの描写を忘れてしまいました。機会があったら次回書きたいですね〜
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東方project アリス・マーガトロイド パチュリー・ノーレッジ 百合 

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