真・恋姫†無双〜家族のために〜#17始まりと終わりの樹 |
今日は休みだ。とはいえ、屋敷の掃除や門下生達の道具の準備はあるので、正確にいうのならば軍務が休みというべきか。
俺の日課の日。今では十日毎に行われている日課だが、これが周知の事になるまでなかなか城門に辿り着けなかったのを覚えている。
空はもとより子供たちに人気がある。街のどこをあるいていても、必ずといっていいほど遊んでとせがまれるほどに。影華は街の、特に料亭や侍女の人から人気があった。料理をちゃんと作れるようになってから、さらにはまったらしい。暇さえあれば調理法を聞いて回っているとのこと。俺は、とにかく道行く人に呼び止められるな。なんでも、?徳公の一番弟子だとか、水鏡先生と互角の勝負をするとか……他にも色々あるが割愛しておこう。とにかく、色んな人に呼び止められ、引き止められ、それに気付いた人達に囲まれ、とても城の外に出られる状態じゃなかった。
それから正式に仕官したことで街の人は一旦落ち着きを見せ、千寿が森の木のことを知らせると、その日だけは皆遠慮してくれるようになった。
今日も前回の日課から十日目ということで、俺と空に話しかけてくる人は少ない。長い話になりそうなときは「日課なので……」と言うと皆下がってくれた。そして悠々と門をくぐり森へと到着した。
森の入り口で立ち止まる一人の男と一匹の虎。男は虎の方を向き、虎も男の方を向く。
「競争だ。先に着いた方の勝ち」
男は虎にそう言った。場所の指定なんてものはなく、そもそも虎に人の言葉が理解できるのかは疑問であるが、しっかりと虎はその言葉に頷いたように見えた。そして互いに森の入り口に向き直り、数瞬後、同時に森へと駆け出した。
目指している場所はこの森の中心よりやや奥まったところにある。地上では空に勝てないのは明白な為、俺は木を伝って移動していた。目的地は整えられた道などなく、生い茂った茨などに邪魔されてしまう。それなら木を伝っていった方が数段マシだ。空には負けられない、それは空も同じことだろうなと考えながらも俺は木から木へ飛び移っていった。
結論を言おう。やっぱり虎には勝てないな、うん。
俺が木の窪みを覗いた時、そこには空が横たわって欠伸をしていたよ。
というかなんだその呆れた顔、おい。
若干友情に傷が付いたようにも見えるが、俺と空はゆっくりと川に向かっていった。お日様はすでに真上に上がっている。ちょうどいい、川で魚を取り昼食にすることにした。
川に着き先ほどと同じように横に並ぶ空。言わなくても分かってるか。
「勝負だ」
そう言い、空のほうを見る。空もこちらを見て、先ほどとは明らかに違う溜息を吐きそうな顔をしていたが頷いた。こんなことなら槍でも持ってくれば良かったな、と思いつつも川に近付く。
互角の勝負だった。空が川に飛び込み魚を銜えて出てくると、俺も負けじと腰に差した剣を抜き、己の最速の突きを放ち魚を串刺しにする。二人で食事をする分には十分な量の魚が獲れたので、そこで勝負は終了となった。数はどちらも七匹。引き分けだ。
昼食を食べ終え木の窪みに戻ってきた俺達は、そこで寝ることにした。六年も経つとどちらも成長していて少し窮屈だったが、少しだけ入ってくる日の暖かさと空が近くにいる安心感で俺はすぐに寝入った。
何か物音がした気がして俺は目が覚めた。すぐに空がいないことに気が付いたが、あいつのことだ、川にでも行ってるのだろうと思い、俺も川に向かった。
浅はかな思考−−思い込み。もしこのとき別のことを考え付いていたのなら、物音を確かめに行っていたら、最悪の事態を免れていたのかもしれない。しかし、いつだって後悔は先には立ってくれないのだ。彼は虎がいるのであろう方角へと歩き出す。この後は何をしようか、などと考えながら……。
−−空side
空は違和感に気付き、相棒を起こさないように起き上がると、違和感のある方へと走っていった。近付いていくにつれ、違和感は疑念から確信へと変わりつつあった。
臭いだ、嗅いだことのない臭いがした。空は虎であったが鼻には自信があった。もちろんこの森に狩りに来ている人間の匂いも覚えていた。だが、今漂っている臭いは確実に今まで嗅いだことのないものだった。
そうして現場に着いたとき、それは確信となった。
確実に見たことの無い顔の若い男が三人、剣を持って一人の少女を追い詰めていた。狩りならば動物を狙うだろう。そして、そもそもこんなに気配を垂れ流しにする者などが、狩りを生業にしている人間のはずがない。男共は今にも少女に襲い掛からんとしている。
空は咆哮を上げると、右側の男を爪で切りつけると、少女の首元の服を銜えて少女を己の背に乗せ一気に走り去った。まさに一瞬の出来事だった。だが男共もすぐに立ち直り、怒号を浴びせながら追いかけてきた。さすがに少女を一人背負っているからか、いつものようには速度が出せない。幸い、少女は怯えているのかどこか怪我をしているのか、背中で暴れることはなかった。それでも振り切ることは出来ず、追いつかれるのは時間の問題でもあった。
ここは大きな窪みのある木の麓だ。窪みを見ても相棒はいなかった。近くで聞こえた男の声に気付き空は相棒を探すことを断念する。再び少女を銜えると木に登り、比較的に太い枝に少女を下ろした。空と深でなければ登れない場所だ、少女一人ではしばらく降りてこられないだろう。怯える少女をしばし見つめたあと空は地上に降りていった。まるで男共を待ち伏せるかのように木の陰に隠れながら。
−−深side
俺はほどなくして川に辿り着いたのだが、いくら探しても空はいなかった。ここじゃないなら木の実でも探しにいったのかと、来た道を帰ろうとしていたとき空の咆哮が聞こえてきた。
俺は考える前に聞こえた方角に走っていた。子供達に尻尾を踏まれたり、強く掴まれても鳴き声一つあげない空、それが吠えた。ただ事じゃないと走りながら考えていた。何が起きてるのかはさっぱり分からないが、とにかく間に合ってくれ、と心の中で叫んでいた。
だが時間は無常にも過ぎ去り、そこには後悔しか残さなかった。
俺が窪みのあるあの木の元に着いた時、それはちょうど空の腹を切り裂いたところだった。斬られた衝撃で撥ね飛ばされる空。まだ息はあったらしく、這い蹲りながらも俺のほうを向き、そして見上げた。空の見上げた方向を見てみると、怯えながらも悲鳴をあげず、木の幹にしっかりとしがみついている碧の髪の少女がいた。その瞬間俺は気付いた。空は男達に襲われる少女を発見したこと。その少女を助け、代わりに男達から狙われていたことを。
空は最後に一鳴きし、力尽きたように地面に横たわった。
視界は赤く染まっていた……。
−−影華side
時はやや遡り、街の広間。
空には暗雲が垂れ込み始め、昼間だというのに辺りは薄暗くなっていた。人々は一雨来ると口々に囁き忙しなく動き回っている。
私の胸中は穏やかではなかった。深がいないこともそうだが、それ以上に言い知れぬ不安に駆られていた。千寿との訓練の時、似たような感覚を味わったことがあるが、今感じているのはその比ではない。なにか良くないことが、それも深に深く関わることが起きようとしている……私は厩へと急いだ。今日は日課の日だ、彼らはあの場所にいると確信しながら……。
森に着き、付き添ってきていた兵士に馬を預け、私は一人森へと入っていった。森の中ほどまでは猟師の使う道を通り、その途中からは完全な獣道を通る。邪魔する枝などを腰に差した剣で切り開きながら、一度も足を止めずに進む。先ほどから雨が降り始めていたがそんなことは気にせず、早くあの人の下へ、その一心で走り続けた。
そして、私はその場所に辿り着いた。周囲には辛うじて人の頭部だと分かる程に切り刻まれた肉塊が三つ散乱し、その周囲には手足が全て欠けている胴体。その凄惨さに口元を押さえたが、眼を逸らすことなく深の姿を探した。
深は木のすぐ麓にいた。顔はこちらを向いてはいなかったが、あの姿は間違いない……だけど、なんなんだ……この悪寒は。深を見ているだけで震えが止まらない。それでも一歩踏み出そうとしたとき、そこでようやく深は動いた。僅かに左を向くとその眼−−血のように紅く染まった眼−−で一瞬私を見たような気がしたが、次の瞬間にはふっと倒れ込んだ。
深が倒れた途端、先ほどまでの震えは収まり深の下に駆け寄ることができた。怯えた様子の少女を庇うようにしていた深は、体に一つも傷を負っていないにもかかわらず荒い息をしていた。
「たす……けて……。この人を……たす……けて」
少女は縋るように私にしがみついてくる。
「大丈夫。必ず私が助けるから……だからお姉ちゃんと一緒に来てくれる? 」
「……(コク)」
少女が頷いた拍子で、後ろにある((何|・))((か|・))が見えてしまった。一目見て、もう決して動くことがないのだと分かるそれを見た私は、静かに黙祷を捧げると深を抱え、少女と共に森の入り口に戻っていった。
少女を身を挺して助け、命を落とした虎が一匹いた。名を空というその虎は、街の人々から好かれ、子供から絶大な人気を誇っていたそうだ。その虎には一人、特に仲の良い少年がいた。いつだって共にあり、まるで本当の家族のようだった。
街の人々は虎との別れを哀しみ、死した場所を奉った。しばらくしてその場所には、とある言い伝えが伝えられるようになる。曰く、その場所は何人たりとも近付いてはならない。曰く、その場所に近付くと冥府より虎が蘇り、その者を喰らい尽くすだろうと。
『始まりと終わりの樹』
人々はそう呼び、賊や皇帝でさえも、その場所には近付かなかったとされている……。
【あとがき】
こんばんわ。
九条です。
色々と書き変えていたら遅くなりました。
空の最後、かなりぼかして書いたような感じですが
如何でしたでしょうか。
この回に関しては何も言いません。
今後ですが、
街に戻ったあとを書いてから拠点パートに移ろうかと考えています。
ではでは次回も楽しんでいただければ〜
説明 | ||
それほど長くならなかったので 1本にまとめました。とはいえ今までで最長ですが……。 少しだけ残虐な表現があるかもしれません。ご注意ください。 |
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コメント | ||
>rassey様 う、うおおおん!(九条) く、空・・・・゜・(ノД`)・゜・(らっしぃ) >観珪様 ご神木……たしかにそう言えますね。6年の月日はそれだけ大きかったのかもしれません。(九条) >yamimaru様 どうなるかは明日の自分のみぞ知る?(笑)(九条) あぁ、空くんが…… しかし、皇帝すらも畏敬の念を感じるほどのご神木(?)とは、空くんは街の人々にそれだけ好かれていたということですね(神余 雛) 主人公がどうなるか楽しみです^^(yamimaru) |
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