少年Aの独白
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白状すると、まず最初に思ったのは「めんどくさいとこに出くわしちゃったな」だったんだ。

だってそうだろ?

放課後、何の気なしに向かった校舎裏で、泣いてる女子に出くわしちゃったんだから。

 

「…。」

「…。」

 

とりあえず何も言えず、ただ見つめ合う俺たち。

地面に座り込んでぼろっぼろ涙を零しながら、目を見開いて固まってるコイツのことは知ってる。

同じクラスの竜崎桜乃だ。

 

驚くほど長い三つ編みが特徴で、入学初日の教室で、思わず二度見してしまった。

気が強いタイプではないことは知っていたが、さすがにここまで泣いているのは何かしらあったのだろう。

 

「…どしたの、竜崎。」

 

理由を聞いたところで、大した慰めスキルは持ち合わせていないのだが、ひとまずこの第一声は間違っていないはずだ。

 

アイツこっちが泣いてて至近距離で目もばっちり合ったのに無視しやがった、なんて広められても困るし。

 

まぁ竜崎はそんなこと言い触らさないだろうけれど。

 

「な、んでも…ないの…。」

 

嘘つくんならもっとうまくついてほしーよなー。

そんな言い方されて、あーそうなんだ、じゃあね。とか言えないだろどう考えても。

竜崎なりに、心配かけまいとしてんのは分かるんだけどさー。

 

ごしごしと手の甲で涙を拭ってるけど、そんなんしたら余計赤くなるんじゃないのかね。

 

「…とりあえず、目元冷やしたほうがいいんじゃないの。」

「えっ?あっ、そうだね。」

 

と返してはくるものの、竜崎が動く気配はない。

まぁそうだろうな、こんな顔でうろついて、誰かに会ったら困るだろうしな。

 

むしろ竜崎にしてみたら、どうして俺がどっか行かないんだろうとか思ってんだろうな。

 

お前の嘘が下手だからだよ。

 

「…俺のハンカチでいい?ちゃんと毎日換えてるから。」

 

ため息をひとつ吐く。

ほんとめんどくさいとこに出くわしてしまった。

なんで俺がここまで優しさを発揮しないといけないんだ。

 

なんのことやら分かってないらしい竜崎が呆けた顔をする。

 

そうだよな、俺がわざわざ水のみ場まで行って、俺のハンカチ濡らして、目の赤い竜崎に渡してやるとか、俺ら全然そんな関係じゃないもんな。

 

けど、もう仕方ないだろ、お互い間が悪かったってことで、うやむやにしとこうぜ。

 

それは口に出さず俺の中だけの考えとして閉まっといて、俺は一番近くの水のみ場へ行くべく、足を踏み出したのだった。

 

これで戻ったら竜崎が居なかったら、なんてーか間抜けだよな、いやいっそそのほうがいいのか、とかどっちつかずなことを考えつつ戻ったら、まだ、居た。

 

「…。」

 

これは安堵なのか、落胆なのか。

自分の感情がよく分からない。

 

そんなのきっと思春期にはよくありがちなことなのだろう。

などど適当に理由付けて、また一歩近づく。

 

相変わらず竜崎は地べたに座り込んでる。

動く元気もないのだろうか。

 

俺が戻ってきたことに、多少なりとも驚いてるようだった。

 

「あの…?」

 

どうして、と聞きたそうに首を傾げる竜崎に、濡らしたハンカチを突きつける。

 

「冷やしたら。」

 

というか、まだ涙引いてねーじゃん。

俺が居なくなったあと、また泣いたんだろうか。

 

スポーツドリンクでも買ってやったほうがよかったか、こいつ水分どんだけ失ってんだよ。

 

小さく目を見開いた竜崎は、素直にハンカチを受け取った。

それを目元にやり、冷やすところまで見て、竜崎の隣に腰を下ろす。

 

「で、なにがあったわけ。」

 

さすがにここまでしたんだから、理由くらい聞かせてもらわないとな。

まぁ俺が勝手にしたんだけどな。

 

でもやっぱ、気になるじゃん。

 

ここで適当に「なんで泣いてるのか、言えないならいいけどさ」とか流せたら大人なのかもしれないけど、俺まだ中学生だし。

 

目は隠れてるから、口元しか分からない。

ゆるく開いたかと思うと、きゅ、と結ばれて、だけどまた意を決したかのように開いた。

 

…カタチのいい唇だなとか思ったのは、誰にも言うまい。

 

「リョー、マくんのこと、好きな子たちに、リョーマくんに、近づくなって言われて。」

 

アンタなんて、うざがられてるに決まってんじゃんって言われたの。

何の取柄もないトロいだけのやつが、ウロチョロしないでって。

 

自嘲気味に竜崎が話す横で、俺はなるほど、と得心していた。

 

越前絡みね。

越前と竜崎は付き合ってこそいないが、特別仲がいいらしいことは、俺も知っていた。

クラスもタイプも違うのに、ふとした時に一緒に居るその姿はよくも悪くも目立つのだ。

 

ましてや越前は1年にしてテニス部レギュラーで、性格は…お世辞にもいいとは言えず、人に合わせたりせず、ずばずば物を言うやつで、顔はまぁ整ってると思う。

 

そんなアイツは青学1年の間で、ものすごく、目立つのだ。

 

相手が悪かったよな、と竜崎を見やる。

越前じゃなかったら、きっとここまで竜崎が目立ってなかった。

越前じゃなかったら、きっとここまで竜崎が攻撃されてなかった。

 

竜崎の好意はあからさまだけど、越前の方だって、竜崎と居るときはなんとなくいつもより棘のない印象なのだ。

そりゃあ、アイツに好意を持ってるやつは気が気じゃないだろう。

ほっといてやれよと思うけど。

 

「へー。女子は大変だな。」

 

…やっぱり俺、人を慰めるの向いてないな。

こんな言葉しか出てこないとは。

 

少し考えて、続ける。

 

「で。もう近づかないの?」

 

竜崎は、言われた通りにするのだろうか。

ここまで泣かされてんだ、やっぱりそうすんのかな。

 

竜崎が、目に当ててたハンカチを外し、俺の顔を見る。

 

「ううん、それは嫌なの。」

 

はっきりと、そう答えた。

強い眼差しに、強い口調。

竜崎がこんな顔することに、驚いた。

誰にもコイツの意志は曲げられないだろう。

 

なんてーか。

 

「応援してる。」

 

…果たしてこの発言は、流れ的に正しかったのだろうか。

 

きょとんとした竜崎は、少しして、柔らかく笑った。

 

まぁ、どうあれ、竜崎が笑ってくれたんなら、いいだろ。

 

説明
リョ←桜前提で、少し桜乃ちゃんと関わる男の子の話
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